インド中華
インド中華[1][2][3][4][5](インドちゅうか、英語: Indian Chinese cuisine、インディアン中華[6]、インド式中国料理[7])とは、インド料理のなかの中華料理を指す。具体的には、インド風にアレンジされたチャーハンやチャウメン、チャプスイ、エビチリ、あるいは「マンチュリアン(満洲風)」「シェズワン(四川風)」などと中国の地名が名前につく料理を指す[8]。
概要
[編集]インド現地では大衆料理店や屋台、現地外ではインド料理店で主に食べられる。
料理の傾向として、ニンニク・ショウガ・醤油・唐辛子・チリソースなどインドで中華料理の特徴とみなされる調味料を使うこと[7]、中華鍋を使うこと[5]、ベジタリアン料理と親和性が高く[9]、まれに肉を使う場合は鶏肉を主に使うこと[7][6]、などが挙げられる。色は赤や茶、味は辛くて脂っこいものが多い[7]。インド料理特有のマサラなどの香辛料は、使うとも[7][6]、使わないとも言われる[10][4][5]。
主なメニューに以下がある。
- チャーハン[7] - 「フライドライス」とも呼ばれる[4]。米はバスマティライスを使う場合が多い[2]。
- チャウメン[7] - 「焼きそば」とも和訳される[1][4]。
- チャプスイ[7]
- 客家ヌードル(ハッカヌードル)[11]
- 春巻き(スプリングロール)[5]
- エビチリ[12](チリ・プラウン)
- チリ・チキン
- チリ・パニール[11]
- レモンチキン[13]
- マンチョウスープ[2]
マンチュリアン
[編集]「チキン・マンチュリアン[14]」(満洲風チキン)、「ゴビ・マンチュリアン」(満洲風カリフラワー)[15][13]などの料理。青トウガラシ・ニンニク・ショウガ、醤油などをベースにしたグリーンチリソースを用いる[16]。実際の満洲料理とは別物[16]。
1970年代[9][17]、コルカタ在住の華人3世の料理人ネルソン・ワンが、ムンバイ(ボンベイ)で中華料理店を開いた際に創作料理に名付けたのが発祥とされる[16]。インドでは、素材名の前後にインド国外の有名な地名を付けて本場感を出し、それらしいメニュー名でアピールすることはよくある[16]。
シェズワン
[編集]「シェズワン・ドーサ」など[13]、赤トウガラシ・山椒・ニンニク・酢をベースにしたインド中華独自のチリソース「シェズワン・ソース」をかけた各種料理[7][16]。「シェズワン」(Schezwan) は「四川」の英語読みの転訛だが、四川料理とは別物。
1970年代、ムンバイのタージマハル・ホテルの中華料理店「ゴールデンドラゴン」が四川から招聘した料理人の料理が由来とされる[16]。
歴史
[編集]インド中華が生まれた背景には、中印関係やインドの華人だけでなく、現地の飲食業界や、アメリカ風中華料理の存在もある[7]。その歴史は未解明な部分が多いが[7]、おおよそ以下のようなものと推定される。
18世紀末、イギリス東インド会社により国際都市となったコルカタに、インド初の華人コミュニティが形成された[7]。1912年に中華民国が成立すると、華人が増加し[7]、1920年コルカタを皮切りに[3]、英領インド各地に華人経営の中華料理店ができた[7][3]。コルカタにある「欧州飯店」(Eau Chew Restaurant)は、インド現存最古の華人経営の中華料理店である[10]。第二次大戦中、連合国軍がインドに駐留すると、アメリカ風中華料理のチャプスイも伝わった[7]。
1950年代後半から、チベット問題や中印国境紛争により中印関係が悪化すると、華人人口が下降し、華人経営の中華料理店も減少し始め[7]、本場の中華料理が消えていった[13]。その中でガラパゴス化が進み、独特の「インド中華」が形成された[13]。以降1970年代までに、上記の「マンチュリアン」「シェズワン」が生まれた。
20世紀末から21世紀には、中印関係は相変わらず悪いものの、1988年のラジーヴ・ガンディー訪中をはじめ関係回復の兆候がある[7]。そのような背景のもと、2017年の調査によれば、インド諸都市の料理店のうち約37%が中華料理を提供をしている[7][3]。IT企業が多いバンガロールで特に人気とも言われる[2]。また関係改善により本場の中華料理が再び知られるようになり、「本格中華」(オーセンティック・チャイニーズ)を謳う店も増えている[13]。
関連項目
[編集]- パキスタンの中華料理[18]
- インドネシアの中華料理 - チャプチャイ
- モモ - インド・ネパールで人気のチベット料理[13]。
- チキン65 - 「65」は「マンチュリアン」と同一視されることもある[2]。
- 多国籍料理
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b 塩崎省吾. “インド料理と中華が融合!?日本では激レアな「インド中華」焼きそば5選 - メシコレ(mecicolle)”. 食通の厳選グルメマガジン「メシコレ」. 2022年5月5日閲覧。
- ^ a b c d e メレンダ千春. “東京の「インド中華」が熱い チャーハン、そばめし…|グルメクラブ|NIKKEI STYLE”. NIKKEI STYLE. 2022年5月4日閲覧。
- ^ a b c d 広木拓. “キッコーマン、インド風中華料理からインド市場攻略へ | 2022 - 地域・分析レポート - 海外ビジネス情報”. ジェトロ. 2022年7月27日閲覧。
- ^ a b c d “「満洲風」?「四川風」?インド中華の不思議なネーミングのひみつ”. deep-china.tokyo (2023年3月10日). 2023年3月18日閲覧。
- ^ a b c d 中村正人 (2023年7月6日). “都内で一部のマニアから注目を集める「インド中華」の店を訪ねる | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)”. forbesjapan.com. 2023年8月3日閲覧。
- ^ a b c 坪和 2020, p. 123.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 岩間 2021, p. 359-363.
- ^ 中村正人 (2023年7月15日). “アメリカ由来の中華料理「チャプスイ」 日本での現地化の歴史と現在”. フォーブス. 2024年2月10日閲覧。
- ^ a b 湊一樹. “第22回 インド――幻想のなかの「満洲」《続・世界珍食紀行》(湊 一樹)”. アジア経済研究所. 2022年5月4日閲覧。
- ^ a b 地球の歩き方編集室 2022, p. 202f.
- ^ a b “ハマる人続出!“インド中華”って知ってる? | 食べログマガジン” (2018年1月15日). 2022年5月8日閲覧。
- ^ 熊田熊男 (2018年8月18日). “中華を超えた!? 埼玉県で食べられる『インド風エビチリ』が衝撃的ウマさ”. Sirabee. 2022年5月4日閲覧。
- ^ a b c d e f g 笠井 2023a.
- ^ 小林 2020.
- ^ 「ゴビ」はヒンディー語でカリフラワーを意味する。
- ^ a b c d e f 中村正人 (2023年7月6日). “都内で一部のマニアから注目を集める「インド中華」の店を訪ねる”. フォーブス. p. 2. 2024年2月10日閲覧。
- ^ 笠井 2023b, p. 162.
- ^ 笠井 2023.
参考文献
[編集]- 岩間一弘『中国料理の世界史 美食のナショナリズムをこえて』慶應義塾大学出版会、2021年。ISBN 9784766427646。
- 笠井亮平「中華料理を通して見えてくるインド、パキスタン、ネパール」『第三の大国 インドの思考 激突する「一帯一路」と「インド太平洋」』文藝春秋〈文春新書〉、2023a。ISBN 978-4166614011 。
- 笠井亮平『インドの食卓 そこに「カレー」はない』早川書房〈ハヤカワ新書〉、2023b。ISBN 978-4153400160。
- 小林真樹『食べ歩くインド 北・東編』旅行人、2020年。ISBN 978-4947702784。
- 地球の歩き方編集室『世界の中華料理図鑑』地球の歩き方、2022年。ISBN 978-4-05-801808-8。
- 坪和寛久『今日 ヤバイ屋台に 行ってきた インドでメシ食って人生大逆転した男の物語』KADOKAWA、2020年。ISBN 978-4046047328。
- 山下清海「インドの華人社会とチャイナタウン コルカタを中心に」『地理空間』第2巻、第1号、地理空間学会、2009年 。