カルカース
カルカース(古希: Κάλχας, Kalchās)は、ギリシア神話の占い師、予言者である。長母音を省略してカルカスとも表記される。予言者テストールの子で[1][2][3]、レウキッペー、テオノエーと兄弟[3]。
カルカースはミュケーナイ[4]、あるいはメガラの人で、トロイア戦争のさいにアガメムノーンに乞われてギリシア軍に従軍し[5]、予言の術でギリシア軍を助けた。
神話
[編集]トロイア戦争前
[編集]ギリシア軍に加わったカルカースはアキレウスをギリシア軍に参加させることを提案したので、オデュッセウスは策略によってアキレウスを仲間に加えた[6]。
またアウリスにギリシア軍が集結し、泉のそばに祭壇を築いて神々を祭祀したとき、祭壇の下から大蛇が現れて泉のそばのプラタナスの木に登った。そこには雀の巣があり、大蛇は8羽の雛を呑み込み、さらに巣の周りを飛びまわる母鳥を喰らった後、石と化して地に落ちた。カルカースは神意を悟り、大蛇はゼウスが遣わしたもので、大蛇が雛と母鳥を9羽喰らったように我々もトロイアで9年間戦い、10年目に勝利することができるだろうと予言した[7][8][注釈 1]。
しかしギリシア軍はトロイアの場所を知らなかったため、誤ってミューシアに上陸し、テーレポスと戦った。その後、ギリシア軍は再びアルゴスに集まったが、テーレポスがアキレウスに受けた傷を癒してもらいにやって来たときにトロイアの場所を教えてもらい、カルカースは予言の術でその情報が正しいことを保証した[9]。
イーピゲネイア
[編集]そこでギリシア軍は再びアウリスに赴いたが、いつまでたっても順風が吹かなかった。そこでカルカースは予言の術によって、かつてアガメムノーンの父アトレウスが自分の持つ最も美しいものをアルテミスに捧げると誓いながら金羊毛の仔羊を捧げなかったことがあり、それについてアルテミスが怒っていることを明らかにし、アガメムノーンが娘の中で最も美しいイーピゲネイアを犠牲に捧げないかぎり風が吹かないだろうと予言した。アガメムノーンは仕方なくイーピゲネイアをアキレウスの妃にすると偽って呼び寄せ、アルテミスに捧げようとした。カルカースはそのときアルテミスの祭祀を取り仕切ったが、アルテミスは祭壇からイーピゲネイアをさらい、かわりに牝鹿を置いた。こうして風が吹き、ギリシア軍はトロイアに向けて出航することができた[10][11]。
トロイア戦争
[編集]トロイア戦争においてはアポローンがギリシア軍に疫病を送ったさい、アガメムノーンがアポローンの怒りに触れたと述べ、クリューセースに彼の娘クリューセーイスを返還し、アポローンに供物を送らないかぎり疫病は止まないと予言した[12]。
アキレウスの死後もカルカースは予言の術によってネオプトレモスの参戦や[13]、ピロクテーテースの復帰を提案し[14][15]、トロイアを保護する予言について知っているヘレノスを捕らえるよう勧めた[16]。オデュッセウスが木馬作戦を提案したときには、彼の作戦が勝利を導くことを保証した。ネオプトレモスとピロクテーテースは反対したが、ゼウスが激しい地震と雷を起したため、カルカースに従った[17]。さらにカルカースは木馬作戦にも参加した[18]。
カルカースの死
[編集]戦後、カルカースはアムピロコス、レオンテウス、ポダレイリオス、ポリュポイテースとともにコロポーンに赴き、予言者モプソスの館に招かれた。カルカースは自分より優れた予言者に出会ったときに死ぬだろうと予言されていたが、モプソスと予言の技を競って敗れたときに落胆して死に、ノティオンに埋葬された[19]。またカルカースらに従った兵たちは小アジアのパンピュリア人の祖となった[20][21][22]。
系図
[編集]
脚注
[編集]注釈
[編集]脚注
[編集]- ^ 『イーリアス』1巻68行。
- ^ ヒュギーヌス、128話。
- ^ a b ヒュギーヌス、190話。
- ^ ヒュギーヌス、97話。
- ^ パウサニアス、1巻43・1。
- ^ アポロドーロス、3巻13・8。
- ^ 『イーリアス』2巻300行-332行。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)3・15。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)3・17-3・20。
- ^ エウリピデース『アウリスのイーピゲネイア』。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)3・21-3・22。
- ^ 『イーリアス』1巻68行-100行。
- ^ スミュルナのコイントス、6巻。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)5・8。
- ^ スミュルナのコイントス、9巻。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)5・9。
- ^ スミュルナのコイントス、12巻。
- ^ トリピオドーロス『トロイア落城』。
- ^ アポロドーロス、摘要(E)6・2-6・4。
- ^ ヘロドトス、7巻91。
- ^ パウサニアス、7巻3・7。
- ^ スミュルナのコイントス、14巻。