キリスト降架
英語: The Descent from the Cross | |
キリスト降架(中央パネル部分) | |
作者 | ピーテル・パウル・ルーベンス |
---|---|
製作年 | 1611年 - 1614年 |
種類 | 油彩、板 |
所蔵 | 聖母大聖堂、アントウェルペン |
『キリスト降架』[1][2][3](キリストこうか、英: The Descent from the Cross)は、イエス・キリストの降架を題材として、フランドルの画家ピーテル・パウル・ルーベンスにより1611年から1614年にかけて描かれた絵画である。『十字架降架』[4]とも。アントウェルペンにある聖母大聖堂に収蔵されている[5]。
中央パネル、左翼パネル、右翼パネルの3つの部分から構成される三連祭壇画であり、三面鏡のように開閉できるようになっている[1][6]。中央パネルの寸法は、縦421 cm、横311 cmである。左翼パネルと右翼パネルの寸法は、ともに縦421 cm、横153 cmである[1]。中央パネルは「キリストの十字架降架」が主題となっており、左翼パネルは「聖母マリアのエリザベト訪問」、右翼パネルは「神殿への奉献」がそれぞれ主題となっている[7][8]。
ルーベンスは、『キリスト昇架』を1611年に完成させてから、ほとんど時間が経たないうちに、『キリスト降架』の製作に取りかかっている[9]。本作は、ルーベンスのパトロンでもあるアントウェルペンの市長、ニコラス・ロコックスの依頼により、聖母大聖堂の火縄銃手組合の礼拝堂に掲げる祭壇画として製作された[10][11][12]。
絵の詳細
[編集]- 中央パネル
- 磔刑によって命を落としたイエス・キリストの遺骸が8人の男女によって十字架から降ろされている場面が描かれている。キリストの手や足、脇腹からは、血が滴り落ちている。最上部に描かれた2人は、無名の人物である。彼らのうち、白い布を左手で握っている人物の下、キリストの左側に描かれた男性は、アリマタヤのヨセフであり、彼は長いひげを生やしている。白い布を口でくわえている人物の下、キリストの右側に描かれた男性は、ユダヤ人の学者であるニコデモである[9][11]。
- アリマタヤのヨセフのすぐ下で、悲痛な表情でキリストのほうに腕を伸ばしている女性は、聖母マリアであり、彼女は青い衣装を身にまとっている。キリストのすぐ下で彼を受け止めている男性は、キリストの弟子のヨハネであり、彼は赤い衣服を身にまとっている[13][9]。キリストの左足を支えているのは、マグダラのマリアであり、彼女の背後にいるのは、クロパの妻マリアである[9]。
- 左翼パネル
- 左翼パネルには、キリストを身ごもっているためにお腹を大きく膨らませている、赤い衣装の聖母マリアが、親類で洗礼者ヨハネを身ごもっているエリザベトを訪問している場面が描かれている[14][8][15]。マリアの夫であるヨセフと、エリザベトの夫であるザカリアが彼女らの後方に描かれている[14]。
- 左翼パネルの裏側には、屈強な身体つきをした男性が、木の棒を手にして進んでいる姿が描かれている。彼は、キリスト教の伝説的な聖人であるクリストフォロスであり、彼に背負われているのはキリストである[14]。クリストフォロスは、アントウェルペンの火縄銃手組合の守護聖人であった[16]。
- 右翼パネル
- 右翼パネルには、赤い服を身につけた抱神者シメオンが、まだ幼いキリストを聖母マリアから受け取って抱いている場面が描かれている。画面手前では、ヨセフがひざまずいてシメオンを見上げながら、2羽のハトを抱いている[14][15]。
- 右翼パネルの裏側には、細い月が昇っている夜空の下に広がる暗闇の中で、1人の隠者がランプを使って道を照らしている様子が描かれている[14]。
関連する作品
[編集]本作におけるキリストのポーズについては、古代彫刻『ラオコーン』の影響を色濃く受けているとされる[17]。
イギリスの小説家ウィーダによる児童文学『フランダースの犬』では、主人公の少年ネロが『キリスト昇架』と『キリスト降架』をずっと鑑賞したいと思い続け、ついに目にするが、その後間もなく愛犬のパトラッシュとともに息を引きとる[4][18][19]。
脚注
[編集]- ^ a b c 『芸術新潮』 2018, p. 29.
- ^ 『知識ゼロからの肖像画入門』 2015, p. 71.
- ^ “「画家の王」ルーベンスとイタリア。その芸術形成のプロセスを読み解く”. 美術手帖 (2018年12月1日). 2019年2月8日閲覧。
- ^ a b 橋村直樹. “アニメ「フランダースの犬」のラストシーンにみる受難と救済の含意”. 岡山県立美術館. 2019年2月8日閲覧。
- ^ 『巨匠たちの迷宮』 2009, p. 51.
- ^ “『誰がネロとパトラッシュを殺すのか』”. 岩波書店. 2019年2月8日閲覧。
- ^ 高橋裕子. “ルーベンス工房の版画制作”. 学習院大学. 2019年2月8日閲覧。
- ^ a b 青野尚子. “アントワープ・聖母大聖堂の祭壇画をみる”. TBSテレビ. 2019年2月8日閲覧。
- ^ a b c d “Painting ‘The descent from the cross’ the central panel”. 聖母大聖堂. 2019年2月8日閲覧。
- ^ 『芸術新潮』 2018, p. 64.
- ^ a b 高橋裕子 (2007年2月20日). “フランドル(1)ルーベンス ― 《戦争の惨禍の寓意》を中心に”. 社団法人如水会. 2019年2月8日閲覧。
- ^ 栗田路子. “美術の宝庫、アントワープで名画・名作めぐり”. 株式会社オールアバウト. 2019年2月8日閲覧。
- ^ 『「怖い絵」で人間を読む』 2010, p. 225.
- ^ a b c d e “Painting ‘The descent from the cross’ the side panels”. 聖母大聖堂. 2019年2月8日閲覧。
- ^ a b 芳我秀一. “キリストの降架”. 神戸聖ミカエル教会. 2019年2月8日閲覧。
- ^ 青野尚子 (2018年10月15日). “バロックの時代を彩った巨人ルーベンス、その足跡をアントワープでたどる。【前編】”. 講談社. 2019年2月8日閲覧。
- ^ 『芸術新潮』 2018, p. 44.
- ^ 松村良祐. “第6回 ネロ少年が見たかった絵”. 藤女子大学. 2019年2月8日閲覧。
- ^ “ネロが憧れた画家ルーベンスは、嫌味なくらい「できる男」だった”. 講談社. 2019年2月8日閲覧。
参考文献
[編集]- 『芸術新潮』第69巻第11号、新潮社、2018年11月。
- 中野京子『「怖い絵」で人間を読む』日本放送出版協会〈生活人新書〉、2010年。ISBN 978-4-14-088325-9。
- 木村泰司『巨匠たちの迷宮 名画の言い分』集英社、2009年。ISBN 978-4-08-781421-7。
- 木村泰司『知識ゼロからの肖像画入門』幻冬舎、2015年。ISBN 978-4-344-90298-5。