ケータハムカーズ
ケータハムカーズ(英語: Caterham Cars)は、イギリスの小規模自動車製造メーカーのひとつ。1973年、サリー州ケイタラムに設立され、ロータス・カーズからロータス・セブンの生産権を引き継ぎ、1960年代から基本構造が変わらないライトウェイトスポーツカー「セブン」シリーズ(通称:スーパーセブン)の生産と販売を行っている。日本のVTホールディングスの100%子会社。
日本での名称「ケータハム」は社名の由来となった地名 Caterham /ˈkeɪtərəm/ (ケイタラム) を誤読したことによって広まった表記・呼び名で、本国イギリスはもちろん英語圏で社名・チーム名の h は発音しない。 しかし、販売当初より輸入代理店では Caterham に「ケータハム」のカナを当てており、こちらが正式な名称として扱われている。
概要
[編集]後にケータハムカーズの創設者となるグラハム・ニアーン(Graham Nearn)は1959年、ロンドン郊外のケイタラムに、ロータスディーラーを開業し、ロータスの車を販売していた[1]。
1973年、ロータス・カーズが「ロータス・セブン」の生産中止を決定した際、ロータス・セブンを非常に気に入っていたグラハムは、同車の製造権をロータス・カーズから取得。治具や工具なども同時に購入し、セブンの生産を始めることにした。
当初は、ロータス・セブンの最終モデルであった「シリーズ4」を生産していたが、バギーカー風のスタイルが不評であったこと、旧モデルでクラブマンレーサーの雰囲気を持つ「シリーズ3」を望むマーケットの声が大きかったことを受け、「シリーズ4」は60台程度で販売を中止。以後は「シリーズ3」の生産に切り替えた。これは単なる復刻ではなく、各部の補強と電動ファンやヒーターの追加、使い勝手の向上などが盛り込まれており、ユーザーの支持を得た。シリーズ4の大きなFRPボディ、最新のスペース・フレーム作成はロータス以外では難しく、多くのパーツを社外に注文するケータハムの製造方法ではコストが多額に掛かることもあり、より製造が容易なアルミボディーのシリーズ3の生産は、もともと一介の代理店であったケータハムにとっては、適切な選択であったと云える。
以後、現在に至るまで、エンジンや前後サスペンション等に独自の小変更を加えながら、「ケータハム・セブン」の名で同社の主力製品として生産、販売を続けている。
2005年初頭、グラハムの息子・サイモン(Simon)に引き継がれていた[2]ケータハム・カーズは、元ロータスのゼネラルマネージャーであるアンサー・アリ(Ansar Ali)らを中心としたグループにより買収された。その後、新たな経営陣によって従来通り「セブン」の製作が続けられている。
2011年4月27日、マレーシアの実業家であり、格安航空会社エアアジアのCEOであるトニー・フェルナンデス率いるF1チーム、チーム・ロータスにより買収され、オーナーは同一人物ではあるがスポンサーという形でF1に参入した。2012年よりチーム・ロータスは「ケータハムF1チーム」と改名して参戦したが、2014年にフェルナンデスが同チームを投資家グループに売却し、F1から撤退した。
2013年10月15日、ケータハム・グループとして、ロードレース世界選手権のMoto2クラスに2014年シーズンより参戦することを発表した。最初の2年間はスッターの車両を使用し、3年目からは自社製の車両でレースに臨むとしている[3]。
2021年4月1日付で、日本総輸入元であるエスシーアイを子会社に持つVTホールディングスが全株式を取得し、ケータハムは同社の完全子会社となった[4]。
ビジネス
[編集]本社のあるケイタラムにショールームとオフィス、ミッドランド(レスター郊外)にショールームとワークショップ、ダートフォードに工場などの生産拠点を構える。
自動車メーカーの工場としては非常に小規模であり、メインファクトリーには通常25名の従業員がいる。流れ作業式の生産ラインはなく、少量多品種生産に適したブース方式が採用されている。ひとつのブースあたり通常2名の作業者が1台のクルマを手作業で組み立てていく。ケータハム・モータースの全従業員数は100人以下である。
車体の種類
[編集]- シリーズ3(S3)
- アルミボディのロータスセブンS3の設計を受け継いだ通常のセブン(5.7cmロングコックピット仕様を含む)。
- シリーズ4(S4)
- FRPボディを持つバギーカー風のモデル。前述のとおり、早い段階で生産中止となった。
- シリーズ5(SV)
- 大柄なユーザーのために幅広で大型のフレームを使ったモデル。
- シリーズ6(CSR)
- SVのフレームを再設計し、サスペンション形式や空力を進化させたモデル。
パワートレイン
[編集]エンジンはフォードなど色々な自動車メーカーから供給を受け、独自のチューンを行って搭載している。セブンのエンジンルームはシンプルな台形の鋼管パイプによるスペースフレームであり、キットカーとしてユーザーがある程度自由にエンジンを選択できる設計のため、エンジンバリエーションは非常に多彩である。最もユーザー数が多いシリーズ3を見ても、街乗りで使える比較的おとなしいストリートモデルから、スーパーカーを追い回すほど過激なモデルまであるが、フレームなど車体自体はパワーの大小に関わらず基本的に同じ物を使用している。
将来的に内燃機関の使用が困難になる見込みでもあるため、電気自動車(EV)版の開発も進めており、2023年頃の発表を目指している。既にプロトタイプは存在しており、(2021年現在の)最高峰モデルである620Rと同程度の加速性能を確保しているという。一方で「可能な限り内燃機関を存続させる」意向も示している[5]。
車種
[編集]- 初期のケントモデル
- 1,300cc(72PS)や、1,600cc(86PS)のフォード製OHVクロスフローの通称ケントエンジン〈英語版〉[注 1]搭載モデル。
- ロータスツインカムモデル
- ロータス製8バルブDOHC1600cc(121PS)ロータスツインカム〈英語版〉搭載モデル。このエンジンはチャップマンの没後にロータス・カーズのCEOとなったマイク・キンバリーが手がけたエンジンで、シリンダーブロックはケントエンジンを使用している。
- 1700 SS(スーパースプリント)
- 135psまでパワーアップされた1,700ccのOHVケントエンジンを積むモデル。
- 1600 BDR・1700 BDR-S
- 1983年発表。コスワース製16バルブDOHCエンジン搭載モデル。このエンジンはコスワースBDAを基にしており、シリンダーブロックはケントエンジンを使用している。1,600cc(120ps)と、BDR-Sと呼ばれる1,700cc(150ps・170ps)の2機種がある。
- ボクスホールモデル
- 16バルブ・ボクスホール2,000ccエンジン(160ps・200ps)搭載モデル。シリンダーヘッドはコスワースの設計。よりスポーツ走行に適したボクスホールレーシングと言うモデルも生まれた。1992年にはパワーを250psまで高めたJPE(ジョナサン・パーマーエヴォリューション)が最速モデルとして限定販売され、1992年に0 - 100マイル毎時の市販車最速記録を樹立[6]。
- Kエンジンモデル
- 1991年発表。ローバーKシリーズエンジンを積むモデル。重量の軽減と共に、電子制御インジェクション化され、ヒーター配管の合理化が図られた。排気量は1.4L、1.6L、1.8Lと拡大され、スタンダードなKクラシックやロードスポーツの他、軽量化したスーパーライトシリーズが生まれた。サーキット走行に適したKレーシング(225ps)、そして1999年にKシリーズ最強モデルであるスーパーライトR500(230hp、のちに250hp)がデビューし、ニュルブルクリンク北コースで市販車最速ラップを更新した[6]。ちなみに、R500の名前は、1トンあたり500hpのパワーウェイトレシオを持つことに由来する。
- ケータハム・ブラックバード
- 2000年発表。ホンダ・CBR1100XXスーパーブラックバードのエンジンを搭載したモデル。170hpで重量422kgのスペックを持つ。ごく少数のみ製作された。
- SVシリーズ
- 2000年発表。大柄なユーザーのためのモデル。幅が広く全長も長い「シリーズ5」シャシーを持ち、通常モデルより広いコックピットを持つ。
- CSRシリーズ
- 2005年発表。「シリーズ6」シャシーを持つモデル。構造を再設計し大型化、剛性アップと新構造のサスペンション(インボード式)や、新デザインのメーターパネル、空力性能の向上などが行われている。2,000cc(200hp)、または2,300cc(260hp)フォード・コスワースDuratecエンジンを搭載。
- RST-V8 Levante(レバンテ)
- 2008年発表。スズキ・GSX1300Rハヤブサのエンジンを2基合体させV8化したエンジンを搭載した、RSパフォーマンス社との共同開発で生まれた規格外のモデル。スーパーチャージャーで過給し、2,400ccの排気量から550hpのパワーを発揮する。8台限りの限定販売で、パワーウエイトレシオは1,074hp/tにも達する[7]。
- シグマ・デュラテック モデル
- フォード製16バルブDOHCエンジンのシグマ(1,600cc)・デュラテック(2,000cc)搭載モデル。右側に排気管が出ているのが特徴。基本モデルである「ロードスポーツ200(1.600cc・120hp)」及び「ロードスポーツ300(2,000cc・175hp)」、 スポーツ走行に適したスーパーライト「R200(1,600cc・120hp)」「R300(2,000cc・175hp)」「R500(2,000cc・263hp)」がある。
- SEVEN 160 / 165 / 170
- 軽自動車規格のセブン。2013年発表、2014年販売開始。チューニングしたスズキ・ジムニーの660ccエンジン、K6A(3気筒ターボ)と5速MTを採用。スズキ・エブリイのリアアクスルを使って幅を狭め、タイヤとフェンダーを細身にして全幅を軽自動車サイズに納めており、日本では軽自動車登録が可能[8][9][10][11][12]。イギリス向け・日本向けは160、欧州向けは165を名乗る[13]。
- 2013年11月の初回発表時には日本仕様のみ名称が「130」で、馬力も軽自動車の自主規制に合わせた64馬力に落とした上で生産されていたが、2014年3月に日本でも「160」を発表、4月より販売。他国向けと同じ80馬力に改められた[14][15][16]。
- 2017年11月には限定モデルとして「スーパースプリント」が発表され、同一エンジンながらチューンアップにより最大出力が96psにまで引き上げられている[17]。2021年6月にSeven 160の製造が終了。
- 2021年9月23日、日本国内でスズキ・R06Aエンジンを搭載したSEVEN 170S/170Rを販売した[18]。
- SEVEN 270・480・620R
- フォード製16バルブDOHCエンジン搭載モデルは、仕様の違いによりSEVEN 270・480・620Rと呼ばれるようになった。スペックは270がシグマ(1,600cc・135hp)、480がデュラテック(2,000cc・240hp)、最強モデルの620Rがデュラテック+スーパーチャージャー(2,000cc・310ps)で車重545kgである[19]。また、スーパーライトシリーズの20周年記念車であるスーパーライト20が20台限定で発売された。シグマ(1,600cc)エンジンを搭載し、重量は498kgである[20]。
セブン以外の車種
[編集]- Caterham 21
- セブンによく似たフレームに流麗なボディを被せたライトウェイトスポーツカー。少量のみ生産された。ローバーKあるいはボクスホールエンジンを使用する。パワーは115 - 230hp。
- エアロセブン
- CSRのシャシーの上にカーボンファイバー製ボディを被せたコンセプトカー。2013年発表。パワーは240hp、重量は600kgとされている。
- Caterham SP 300.R
- ローラ・カーズ設計の車体に、ケータハムチューンのデュラテック(2,000cc・305hp)を搭載するレース専用車両[21]。
その他
[編集]- 創業者であるグラハム・ニアーンは、2009年10月24日、76歳で死去した[22]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ ターンフロー時代には105E系アングリア(英語版)、1967年のクロスフロー化以降はエスコート Mk-Iを始めとする英フォード製の多くの車種に搭載され、バリエーションと生産数が非常に多い。
出典
[編集]- ^ https://autoweek.com/article/car-news/caterham-creator-graham-nearn-dies
- ^ http://www.autoweek.com/article/20091029/CARNEWS/910299987
- ^ ケータハムがMoto2クラスへの参入を発表
- ^ Caterham Cars Group Limited の株式取得(連結子会社化)に関するお知らせ VTホールディングス 2021年4月1日
- ^ 【セブンの伝統を守る】ケータハム初のEV 2023年登場か モーガンと提携も - AUTOCAR JAPAN・2021年5月21日
- ^ a b ケータハム JAPAN 公式サイト History
- ^ “Caterham Levante”. evo | Supercar and performance car reviews and news. 2021年9月24日閲覧。
- ^ 英ケータハムのスポーツカー、セブンに入門モデル…スズキ製660ccターボ搭載へ
- ^ 【フランクフルトモーターショー13】英ケータハム、入門セブンの車名は「165」…スズキ製660ccターボは80ps
- ^ ケータハム、スズキ製軽自動車用エンジンを搭載した「セブン」の仕様と新たな画像を公開!
- ^ ケータハム プレスリリース 2013.8
- ^ SEVEN 160 販売開始! | ケータハム JAPAN 公式サイト
- ^ 日下部博一 (2014年3月2日). “スズキの軽自動車用エンジンを積む「セブン」について、ケータハム・ジャパンの方に訊く!”. AOLオンライン・ジャパン. 2014年10月22日閲覧。
- ^ 笠原一輝 (2014年3月10日). “ケータハムカーズ、スズキ製エンジン搭載の軽規格スポーツカー「セブン 160」4月1日発売”. Car Watch. 2014年10月22日閲覧。
- ^ 日下部保雄 (2014年5月16日). “ケータハムカーズ「セブン 130」”. Car Watch. 2014年10月22日閲覧。
- ^ 日下部博一 (2014年3月10日). “ケータハムカーズ・ジャパン、日本の軽自動車規格に合わせた「セブン 160」を公開!”. AOLオンライン・ジャパン. 2014年10月22日閲覧。
- ^ 【ニュース】軽自動車なのに96ps! ケータハム・セブンのスーパースプリントを日本でも発売開始 - ホリデーオート・2017年11月22日
- ^ CATERHAM SEVEN 170 9月23日19時より販売開始! - ケータハムカーズ・ジャパン
- ^ “ケータハム JAPAN”. ケータハム JAPAN 公式サイト. 2018年10月3日閲覧。
- ^ http://www.idea-webtools.com/2015/09/Caterham-Superlight-20-Twenty.html
- ^ “ケータハム、新型レーシングカーを発売 【ニュース】”. webCG. 2019年9月10日閲覧。
- ^ http://response.jp/article/2009/11/08/132186.html
関連項目
[編集]- キットカー
- ケータハムF1チーム
- VTホールディングス - 2021年以降における親会社。2009年より、当社のグループ会社が日本総輸入元となっている(2009年~2014年:ピーシーアイ 2014年~:エスシーアイ)。
- ソニック・ザ・ヘッジホッグCD (ロータス・セブン)[1]
- ソニック ドリフト2 (『MTP-02ホイールウインドS7』)[2]
外部リンク
[編集]- ケータハム社の公式サイト(英語)
- ケータハム社・部品(英語)
- エスシーアイ株式会社(日本語) - 2014年からの日本における正規輸入元