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ゴエティア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ゴエティアの悪魔シジル

ゴエティア』(Goetia)は、17世紀から伝わる作者不明のグリモワールレメゲトン』の第一書の表題である。

カナ表記には「ゲーティア[1]」、「ゴーティア[2]」、「ゴエティア[3]」があるが、ここではラテン語読みに準じた表記を用いる。現代英語では「ガイーシャ」のような発音になる[4]

概説

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「ゴエティア」は『レメゲトン』の第1部である。『レメゲトン』は『ソロモンの小さな鍵』とも呼ばれ、ソロモンに由来するとされる5つの魔法書をまとめた5部構成となっている(写本によっては4部まで)。フレッド・ゲティングズは、実際には『レメゲトン』のなかで「ゴエティア」のみが本来の内容であって、他はそれぞれ別々に成立したものが後に合本されたのではないかと述べている[5]

「ゴエティア」の内容は、ソロモン王が使役したという72人の悪魔を呼び出して様々な願望をかなえる手順を記したもので、そのために必要な魔法円印章のデザインと制作法、必要な呪文などを収録している。本書には、この72人の悪魔の性格や姿、特技などが詳述されており、72人の悪魔各々の印章も収録されている。そのため悪魔名鑑としても参照される。同様に悪魔名鑑として利用されるコラン・ド・プランシーの著書『地獄の辞典』には、ヨハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」の記述を参考にして[6]「ゴエティア」と共通する悪魔が多数収録されている。『地獄の辞典』第6版(1863年)に追加されたルイ・ル・ブルトンの挿絵は、創作要素も多分に含まれるものの、悪魔学の資料に基づいて描かれており、現在の多くの人々の悪魔のイメージに影響を与えている。出版された「ゴエティア」にはこの挿絵が引用されているものもある[7]

ゴエティアの悪魔

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「ゴエティア」では、記載されている72の悪魔のそれぞれが地獄における爵位悪魔の階級)を持ち、大規模な軍団を率いていることが個別に記されている[注 1]。構成するそれぞれの悪魔の名称は文献によって異綴などの差異が見られる。諸版の差異も含めて名前をリスト化すると、総数は72より多くなる[11][注 2]。フレッド・ゲティングズは著書『悪魔の事典』(ライダー社、1988年)において、これらの悪霊に「ソロモンの霊」という総称を与えた[12]

「ゴエティア」に語られるこれらの魔神の縁起は次のようなものである[注 3]

「これらは72人の強大な王侯たちであり、ソロモン王はかれらに、ベリアルビレトアスモダイガープが首領であるところの軍勢とともに一つの真鍮器[注 4]に入るよう命じたのである。これはかれらの高慢のゆえであろうと思われる。というのもソロモンはかれらを拘束した理由を明かさなかったからである。かくてソロモンはかれらを縛して容器に密閉し、神聖な力によってバビロンの深い湖か穴に逐いやったのであるが、バビロニアのひとびとがこれを見て訝しみ、大きな財宝が入っているやもしれぬ、と容器をこじ開けようとして湖に入り込んだ。しかし彼らが器を開封した途端、霊の頭目たちは自分たちに服属する軍団とともに挙って奔出したのであった。そしてベリアルの他はみな元の位置に復帰してしまった。一方、ベリアルは或る偶像に入り込み、バビロニア人がしたように生贄を捧げてその偶像を神として祀るひとびとに応答するようになったのである。」

ソロモンと悪霊

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旧約聖書には書かれていないが、第三代イスラエル王であったソロモンがその英知をもって悪霊を支配していたという話はヘレニズム期のユダヤ人の間に流布していた[注 5]。このような偉大な知恵者とされたソロモンにまつわる伝説から、その後千年に亘って、ソロモンに由来すると偽った文献群(ノーマン・コーンは偽ソロモン文書 pseudo-Solomonic books と呼んだ[17])がヘブライ語ギリシア語アラビア語で書かれることになったが、中世盛期後半頃から、魔術師が悪霊を呼び出す術(ニグロマンシー)について記した、それまでとは趣を異にする偽ソロモン文書がヨーロッパで作られるようになった[18]。『レメゲトン』はこうした文献の流れを汲んでいる。

関連文献

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「ゴエティア」に列挙される72人の悪魔のうち、68人はヨーハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」(1577年)に記述されているものと共通する(ただし記載される順番は異なる)。同じ68人の悪魔がレジナルド・スコット英語版の『魔女術の発見』(1584年)第15巻第2章にも記されており、この部分は事実上「悪魔の偽王国」の英訳である。ただし「悪魔の偽王国」で列挙された悪魔は総勢69人であり、そのうちプルフラスだけは『魔女術の発見』には記載されておらず、ゴエティアの72人の悪魔のリストにも入っていない。

「悪魔の偽王国」の悪魔は、フランスのジャーナリストであったジャック・アルバン・シモン・コラン(1794年-1881年)がコラン・ド・プランシーというペンネームで出版した『地獄の辞典』にも多数登場する[19]。『地獄の辞典』において脚色が施された悪魔の描写は、その第6版(1863年)に加えられたルイ・ル・ブルトンの挿絵とともに、現代の通俗的な悪魔のイメージに影響を与えた[20]

解釈

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構成する悪魔の中には、フェニックスバアルアスタロトのように、他の宗教神話の神や霊鳥に淵源を見出すことのできるものも含まれる。西洋の悪魔についての一般論としては、モロク神バアル・ゼブブのように、イスラエル民族周辺の諸国民の神々が嫌悪すべき異教神として悪しきデーモンに貶められた例があり[21]、偶像崇拝を禁じる古代ユダヤ人や後世のキリスト教徒によって、異教の神々が悪魔の地位へ落とされていったとされる[22]

72」という数字は、十二宮の1つの宮をさらに6区画に分割して得られる数字で、象徴的な全方角の支配者を定めるための図から得られたものらしい。そのためウァサゴのように名前以外の正確な姿や性格、特徴の伝えられていない悪魔もいる。アメリカのオカルティスト、ロン・マイロ・デュケット英語版は、ゴエティアの72人の悪霊はシェム・ハ=メフォラシュ(Shem-ha-mephorash)の72の神名と72の天使に対応するとしている[23]

一覧

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表の左端の数字は「ゴエティア」における記載順を示す。「ゴエティア」の中では「第24の霊はナベリウスと呼ばれる」といった形で順序数に言及されている。またこれらの印章は、マクレガーメーザースが均等にトレースしたものであり、本来は手書きの印章が紹介されている。

名前 印章 地位 軍団数 Peterson版[24] Crowley版
[注 6]
ウェイト
[注 7]
大瀧訳
[26]
レジナルド・スコット
[27]
1 バエル 32以上 Bael 同左 Baal バール 01. バエル Baëll
2 アガレス 公爵 31 Agares 同左 同左 アガレス 02. アガレス Agares
3 ウァサゴ 君主[注 8] 26
4 ガミジン 侯爵 30 Gamigin Samigina Gamygyn ガミュギュン 46. ガミギン Gamigin
5 マルバス 総裁[注 9] 36
6 ウァレフォル 101/公爵 10 Valefar Valefor 同左 ウァレフォル 13. ウァレファル Valefar
7 アモン 102/侯爵 40 Amon 同左 同左 アモン 04. アモン Amon
8 バルバトス 101/公爵[注 10] 30
(300[28])
Barbatos 同左 同左 バルバトス 05. バルバトス Barbatos
9 パイモン
200 Paimon 同左 同左 パイモン 21. パイモン Paimon
10 ブエル 総裁 50 Buer 同左 同左 ブエル 06. ブエル Buer
11 グシオン 101/公爵 40 Gusoin Gusion 同左 グシオン 07. グソイン Gusoin
12 シトリー 君主 60 Sitri 同左 Sytry シュトリ 20. スティリ Stiri[注 11]
13 ベレト
85 Beleth 同左 同左 ベレト 19. ビレト Bileth
14 レラジェ 102/侯爵 30 Leraye Leraje Lerajie レライエ 12. レライエ Leraie
15 エリゴス 101/公爵 60 Eligos 同左 Eligor エリゴル 11. エリゴル Eligor
16 ゼパル 102/公爵 26 Zepar 同左 Separ (Zepar) セパル(ゼパル) 18. ゼパル Zepar
17 ボティス 総裁にして伯爵
[注 12]
60 Botis 同左 同左 ボティス 08. ボティス Botis
18 バティン
101/公爵 30 Bathin 同左 同左 バティン 09. バティン Bathin
19 サレオス 101/公爵[注 13] 30 Saleos Sallos Saleos サレオス 64. サレオス Saleos
20 プルソン 22 Purson 同左 同左 プルソン 10. プルソン Purson
21 モラクス 103/伯爵にして総裁 3
(30[注 6])
[注 14]
Morax Marax Morax モラクス 14. モラクス Morax
22 イポス 103/伯爵にして君主 36 Ipos 同左 同左 イポス 15. イポス Ipos
23 アイム 101/公爵 26 Aim 同左 Aini アイニ 56. アイム Aym
24 ナベリウス 102/侯爵 19 Naberius 同左 同左 ナベリウス 16. ナベリウス Naberius
25 グラシャ=ラボラス 総裁にして伯爵 36 Glasya Labolas Glasya-Labolas Glasyalabolas グラシャラボラス 17. グラシア・ラボラス Glasya Labolas
26 ブネ
101/公爵 30 Bune Buné Bune ブネ 23. ブネ Bune
27 ロノウェ 102/侯爵[注 15] 19 Ronove Ronové Ronobe ロノベ 25. ロノウェ Ronove
28 ベリト 101/公爵 26 Berith 同左 同左 ベリト 26. ベリト Berith
29 アスタロト 101/公爵 40 Astaroth 同左 同左 アスタロト 27. アスタロト Astaroth
30 フォルネウス 102/侯爵 29 Forneus 同左 同左 フォルネウス 24. フォルネウス Forneus
31 フォラス 総裁 29 Foras 同左 同左 フォラス 28. フォラス Foras
32 アスモデウス 72 Asmoday 同左 同左 アスモデウス[注 16] 34. シドナイ Sidnay
33 ガープ 総裁にして君主 66 Gaap 同左 同左 ガープ 35. ガープ Gaap
34 フルフル 103/伯爵 26 Furfur 同左 同左 フルフル 29. フルフル Furfur
35 マルコシアス 102/侯爵 30 Marchosias 同左 同左 マルコシアス 30. マルコシアス Marchosias
36 ストラス 君主 26 Stolas 同左 Solas/Stolas ストラス 68. ストラス Stolas
37 フェニックス 102/侯爵 20 Phœnix Phenex Phœnix フェニックス 67. ポエニクス Phoenix
38 ハルファス 103/伯爵 26 Halphas 同左 Halpas ハルパス 42. ハルパス Halphas
39 マルファス 総裁 40 Malphas 同左 Malpas マルパス 31. マルパス Marphas
40 ラウム 103/伯爵 30 Raum 同左 同左 ラウム 41. ラウム Raum
41 フォカロル 101/公爵 3
(30?)
Focalor 同左 同左 フォカロル 43. フォカロル Focalor
42 ウェパル
101/公爵 29 Vepar 同左 同左 ウェパル 32. ウェパル Vepar
43 サブナック 102/侯爵 50 Sabnach Sabnock Sabnack サブナク[注 17] 33. サブナケ Sabnacke
44 シャックス 102/侯爵 30 Shax 同左 同左 シャクス 36. シャクス Shax
45 ヴィネ 王にして伯爵 36
(35[24])
Vine Viné Vine ウィネ 44. ウィネ Vine
46 ビフロンス 103/伯爵 6
[注 18]
Bifrons 同左 同左 ビフロンス 45. ビフロンス Bifrons
47 ウヴァル
101/公爵 37 Vual Uvall Vual ウアル 65. ウアル Vuall
48 ハーゲンティ 総裁 33 Haagenti 同左 Hagenti ハゲンティ 66. ハーゲンティ Haagenti
49 クロケル 101/公爵 48 Procel Crocell Procel プロケル 37. プロケル Procell
50 フルカス 騎士 20 Furcas 同左 同左 フルカス 38. フルカス Furcas
51 バラム 40 Balam 同左 同左 バラム 62. バラム Balam
52 アロケル 101/公爵 36 Alloces 同左 Allocen アロケン 63. アロケル Allocer
53 カイム 総裁 30 Caim Camio Caim カイム 40. カイム Caim
54 ムルムル 101/公爵にして伯爵 30 Murmur 同左 同左 ムルムル 39. ムルムル Murmur
55 オロバス 君主 22
(26[28])
[注 19]
Orobas 同左 同左 オロバス 57. オロバス Orobas
56 グレモリー 101/公爵 26 Gemory Gremory Gomory ゴモリ 50. ゴモリ Gomory
57 オセ 総裁 3
(30?)
Ose Osé Ose オセ 55. オセ Ose
58 アミー 総裁 36 Amy 同左 同左 アミー 60. アミイ Amy
59 オリアス 102/侯爵 30 Orias Oriax Orias オリアス 48. オリアス Orias
60 ウァプラ 101/公爵
(総裁[28]
36 Vapula 同左 同左 ウァプラ 58. ウァプラ Vapula
61 ザガン 王にして総裁 33
(36[28])
Zagan 同左 同左 ザガン 47. ザガン Zagan
62 ウァラク 総裁 38
(30[注 20])
Valac 同左 同左 ウァラク 49. ウァラク Valac
63 アンドラス 102/侯爵 30 Andras 同左 同左 アンドラス 53. アンドラス Andras
64 フラウロス 101/公爵 36
(3[28])
Flauros Haures Flauros フラウロス 61. フラウロス Flauros
65 アンドレアルフス 102/侯爵 30 Andrealphus 同左 同左 アンドレアルフス 54. アンドレアルプス Andrealphus
66 キマリス 102/侯爵 20 Cimeies Cimejes Cimeries キメリエス 59. キメリエス Cimeries
67 アムドゥスキアス 101/公爵 29 Amduscias Amdusias Amduscias アムドゥスキアス 52. アムドゥスキアス Amduscias
68 ベリアル 80 Belial 同左 同左 ベルアル 22. ベリアル Beliall
69 デカラビア 102/侯爵 30 Decarabia 同左 同左 デカラビア 51. デカラビア Decarabia
70 セーレ
君主 26 Seere 同左 同左 セーレ -
71 ダンタリオン 101/公爵 36 Dantalion 同左 Dantalian ダンタリアン -
72 アンドロマリウス 103/伯爵 36 Andromalius 同左 同左 アンドロマリウス -

刊行

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生涯の大半を大英博物館図書室やパリの図書館での魔術書渉猟に没頭した[31]イギリスのオカルティスト、マグレガー・マサース(1854年-1918年)は、大英博物館で『レメゲトン』の古写本を発見し、これを筆写して1898年頃、決定稿に仕上げた[32]。同じ頃A・E・ウェイトによって私家出版された『黒魔術と契約の書』(1898年)には、『レメゲトン』の第1部「ゴエティア」の抄録が他のさまざまなグリモワールとともに収められていた[25](1910年『儀式魔術の書』として再刊)。一方、黄金の夜明け団の指導者であった前述のマグレガー・マサースの作成した『レメゲトン』の写本は、同団のメンバーに貸し出されていた。その1部が団員のアラン・ベネットを経てアレイスター・クロウリーの所持するところとなり[32]、1904年、クロウリーによって『ソロモン王のゴエティアの書』として出版された(ただし『レメゲトン』のうち第2部以降は収録されていない)。その後アメリカでその海賊版が出版された[32]

1995年にはハイメニーアス・ベータ英語版の編集による、クロウリー版『ゴエティア』のイラスト入り新版[33]がアメリカで出版された。これは元の版と異なり、アレイスター・クロウリーによる悪魔のスケッチとともに『地獄の辞典』のルイ・ル・ブルトンのイラストが使用されている[34]。2001年には、魔法書研究家ジェゼフ・ピーターソンの編集により、「レメゲトン」の第5部までを収録したのみならず「悪魔の偽王国」まで併載した『ソロモンの小さな鍵』が出版された。その他、20世紀後半から21世紀に数種類の編集版が英米で出版されている。

表題の意味

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ゴエティア(ラテン語:Goetia)はギリシア語γοητεία (ゴエーテイア)がラテン語化したもので、呪術・妖術などを意味する語である。

ギリシア語には魔術に類する言葉は何種類か存在するが、ゴエーテイアは古代ギリシアで γόης (ゴエース)と呼ばれた呪術師の業(わざ)を指し、呪術・妖術・奇術・いかさまを意味する[35]。その呼称は古代ギリシアのシャーマン的呪術師が霊を呼ぶために発する喚(おめ)き声に由来するといわれており[36]、「嘆き悲しむ、泣き叫ぶ、呻吟する」を意味する動詞の γοάω (ゴアオー)に関連する。

ルネサンス期の人文主義者ピコ・デラ・ミランドラは、魔術には悪霊の業である神霊魔術と自然哲学の完成形である自然魔術の2種類があると論じ、前者はギリシア人のいう「ゴエーテイア」、後者は「マゲイア」に相当するとした[37]ネッテスハイムのコルネリウス・アグリッパは『学問の空しさと不確かさについて』の中で、ゴエティアを「不浄な霊による業」と定義している。

日本のポピュラーカルチャー

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現代日本の通俗的な書籍では、ゴエティアに登場する悪魔が“ソロモン王によって封印された72柱の魔神”(健部ら 1989[38])、“72体のソロモンの悪魔”(山北 1998[39])といったフレーズで紹介されている。

脚注

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注釈

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  1. ^ 悪魔の偽王国」においても、悪魔たちには神聖ローマ帝国のような階級制度があり、それぞれが爵位を有し、悪霊の軍勢を指揮する悪魔の頭目として描かれている[8]。こうした文献にあらわれる悪魔たちの背景には、中世カトリシズムにおける悪霊の軍勢の観念がある [9]偽ディオニシウス・アレオパギタの『天上位階論』に由来する、天使たちが位階秩序をもった霊的存在であるという考えはカトリックの重要な理論として確立していたが、これに相応して堕天使すなわち悪霊もまた、天使の軍勢と同様に階層秩序をもって組織されていると考えられた [10]
  2. ^ ただし、ゲティングスのリストには、「ゴエティア」においては72人に含まれていないアマイモンが記載されている。
  3. ^ 後述する「悪魔の偽王国」の中にも、ベリアルについての記述の中で同様の話が出てくる[13][14]
  4. ^ Brass Vessel。『レメゲトン』では金魚鉢のような球状の鉢が図示されている場合がある。ノーマン・コーンの『魔女狩りの社会史』の日本語版では真鍮の船と解されている。『千夜一夜物語』の「漁師と鬼神との物語」では、スライマーン(ソロモン)がジンを封じ込めた壺が出てくる。
  5. ^ ソロモンが悪霊の軍団を遣わした、悪霊の手を借りてエルサレムを建設した、などといったソロモンと悪霊に関する話が、さまざまな古代のグノーシス文書偽典に散見される [15]。1世紀から3世紀に成立したと言われるギリシア語の旧約偽典『ソロモンの遺訓』には、エルサレム神殿を建設していた頃のソロモンが、大天使ミカエルより悪霊を支配する指輪(ソロモンの指輪)を授かり、悪霊たちを神殿建設に駆り出したことが記されている。同書にもベルゼブルアスモデウスなどさまざまな悪霊が登場し、36名の悪霊とその撃退法を列挙した箇所もある [16]
  6. ^ a b Mathers & Crowley 1904, pp. 22–46による。Hymenaeus Betaの編集による現行版とはトレマの有無に若干の相違がある。
  7. ^ Waite 2008, pp. 191–220 〔アーサー・エドワード・ウェイト『黒魔術と契約の書』第2部第4章 ゴエティア抄録〕による。ジョゼフ・H・ピーターソンは欠陥が多いと評している [25]
  8. ^ 原語はPrince。公爵、公、大公とも訳しうる。cf. Fürst.
  9. ^ 原語はPresident。長官とも訳しうる。
  10. ^ スコットでは伯爵にして公爵。
  11. ^ 本文ではStiri、側註ではSitri [29]。ピーターソンはSitriを採用 [30]
  12. ^ 原語はEarl。
  13. ^ スコットでは伯爵。
  14. ^ スコットでは36。
  15. ^ スコットでは侯爵にして伯爵。
  16. ^ ゲティングズはAsmodeusで立項。
  17. ^ ゲティングズはSabnakで立項。
  18. ^ スコットでは26。
  19. ^ スコットでは20。
  20. ^ Rudd, Peterson, Scot いずれも30。

出典

[編集]
  1. ^ e.g., コーン & 山本 1983, p. 225.
  2. ^ e.g., キング & 江口 1994, p. 242.
  3. ^ e.g., ゲティングズ & 大瀧 1992, p. 443; キング & 山岸 1987, p. 61.
  4. ^ Kraig, Donald Michael. Using Modern Magick (audio cassette tape). Llewellyn Publications.
  5. ^ ゲティングズ & 大瀧 1992, p. 443.
  6. ^ プランシー & 床鍋 1990, p. 327.
  7. ^ 例えば、Hymenaeus Beta, Mathers & Crowley (1995), The Goetia.
  8. ^ 南條 2010, p. 155.
  9. ^ コーン & 山本 1983, p. 226.
  10. ^ コーン & 山本 1983, pp. 90–91.
  11. ^ ゲティングズ & 大瀧 1992, pp. 222–223.
  12. ^ ゲティングズ & 大瀧 1992, p. 220.
  13. ^ Peterson 2001, pp. 237–238.
  14. ^ Scot 1972, pp. 220–221.
  15. ^ 南條 2010, p. 59.
  16. ^ 南條 2010, p. 60, pp. 190-217.
  17. ^ Cohn 1993, p. 104.
  18. ^ コーン & 山本 1983, p. 224.
  19. ^ プランシー & 床鍋 1997, p. 498.
  20. ^ ゲティングズ & 大瀧 1992, pp. 342–343, p. 360.
  21. ^ ケーラス & 船木 1994, pp. 78–79.
  22. ^ 南條 2010, pp. 118–123.
  23. ^ DuQuette 1997, p. 42.
  24. ^ a b Peterson 2001, Part I による。
  25. ^ a b Peterson 2001, p. xviii.
  26. ^ ゲティングズ & 大瀧 1992.
  27. ^ Scot 1972, pp. 217–225〔『魔女術の発見』第15巻2章〕および南條 2004, pp. 239–260 による。
  28. ^ a b c d e The Goetia of Dr Rudd [Harley MS 6483] (Skinner & Rankine 2007).
  29. ^ Scot 1972, p. 219.
  30. ^ Peterson 2001, p. 235.
  31. ^ キャベンディッシュ & 栂 1997, p. 213.
  32. ^ a b c キング & 江口 1994, 付録B マサース版奥義書。
  33. ^ Hymenaeus Beta, Mathers & Crowley (1995), The Goetia.
  34. ^ Skinner & Rankine 2007, p. 51.
  35. ^ An Itermediate Greek-English Lexicon, Oxford University Press. ISBN 0199102066.
  36. ^ アルフレッド・モーリー 『ヘルメス叢書 魔術と錬金術』 有田忠郎・浜文敏 訳、白水社、1993年。
  37. ^ ジョヴァンニ・ピコ・デッラ・ミランドラ 『人間の尊厳について』 大出哲・阿部包・伊藤博明 訳、国文社、1985年、ISBN 4-7720-0107-7
  38. ^ 健部伸明と怪兵隊 『幻想世界の住人たちII』 新紀元社〈新紀元社文庫〉、2011年(旧版1989年)、334頁。
  39. ^ 山北篤監修 『魔法事典』 1998年、306頁。

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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