シクロヘプタトリエン
シクロヘプタトリエン | |
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別称 CHT 1,3,5-シクロヘプタトリエン | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 544-25-2 |
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特性 | |
化学式 | C7H8 |
モル質量 | 92.141 g/mol |
融点 |
-80 ℃ |
沸点 |
116 ℃ |
水への溶解度 | 水に不溶 |
危険性 | |
Rフレーズ | R10 R11 R21 R23/24/25 R36/37/38 |
Sフレーズ | S9 S16 S23 S28A S33 S36/37 S45 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
シクロヘプタトリエン (cycloheptatriene) は、外見は無色の液体で、分子式が C7H8 と表される七員環構造を持つ炭化水素。特徴的な構造により構造化学や反応化学の研究対象とされてきた。有機金属化学ではトロピリウムイオンなどの配位子の前駆体として用いられる。
シクロヘプタトリエンはπ電子の共役系にメチレン基 (-CH2-) が挟まっているため芳香族化合物ではなく、その環は平面状ではない。メチレン基からヒドリドイオン (H-) を除去すると残されたカルボカチオン炭素上に空のp軌道が現れπ電子系との共役系が環を作るため、芳香族性を得る。そのとき発生するシクロヘプタトリエンカチオンは、トロピリウムイオンとも呼ばれ、構造は平面状である。実際的な手法では、シクロヘプタトリエンを五塩化リン (PCl5) で酸化してトロピリウムイオンとする[1]。
1881年にアルベルト・ラーデンブルクがトロピンの分解によりシクロヘプタトリエンを発見した[2][3]。その後、1901年にリヒャルト・ヴィルシュテッターにより同じ化合物がシクロヘプタノンを原料として合成され、七員環を持つ分子構造が証明された[4]。
実験室的にシクロヘプタトリエンはベンゼンとジアゾメタンとの光反応や、シクロヘキセンとジクロロカルベンとの付加体の熱分解によって得られる[5]
ほか、シクロヘプタトリエン誘導体を得る方法に、Buchnerの環拡大反応が知られる。ベンゼンをジアゾ酢酸エチルと反応させ、ノルカラジエン(ビシクロ[4.1.0]ヘプタ-2,4-ジエン)の酢酸エチル誘導体に変える。これを熱で転位させて環が拡大したシクロヘプタジエン酢酸エチルを得る[6][7]。
シクロヘプタトリエンやシクロオクタテトラエンはローダミン6Gの三重項のクエンチャーとして色素レーザーで用いられる[8][9]。
脚注
[編集]- ^ Conrow, K. (1973). “Tropylium Fluoroborate”. Organic Syntheses, Collected Volume 5,: 1138 .
- ^ Ladenburg, A. (1883). “Die Constitution des Atropins”. Justus Liebig's Annalen der Chemie 217 (1): 74–149. doi:10.1002/jlac.18832170107.
- ^ Ladenburg, A. (1881). “Die Zerlegung des Tropines”. Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft 14: 2126–2131. doi:10.1002/cber.188101402127.
- ^ Willstätter, R (1901). “Synthesen in der Tropingruppe. I. Synthese des Tropilidens”. Justus Liebig's Annalen der Chemie 317 (2): 204–265. doi:10.1002/jlac.19013170206.
- ^ Winberg, H. E. (1959). “Synthesis of Cycloheptatriene”. Journal of Organic Chemistry 24 (2): 264–265. doi:10.1021/jo01084a635.
- ^ Buchner, E.; Curtius, Th. (1885). “Ueber die Einwirkung von Diazoessigäther auf aromatische Kohlenwasserstoffe”. Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaft 18 (2): 2377-2379. doi:10.1002/cber.188501802119.
- ^ 類似反応: Smith, L. I.; Tawney, P. O. (1934). “Studies on the Polymethylbenzenes. IX. Addition of Ethyl Diazoacetate to Durene”. Journal of the American Chemical Society 56 (10): 2167-2169. doi:10.1002/cber.188501802119.
- ^ Das, T. N.; Priyadarsini, K. I. (1994). “Triplet of Cyclooctatetraene: Reactivity and Properties”. Journal of Chemical Society, Faraday Transaction 90 (7): 963–968. doi:10.1039/ft9949000963.
- ^ Pappalardo, R.; Samelson, H.; Lempicki, A. (1970). “Long Pulse Laser Emission From Rhodamine 6G Using Cyclooctatetraene”. Applied Physics Letters 16 (7): 267–269. doi:10.1063/1.1653190.