シュナの旅
『シュナの旅』(シュナのたび)は、宮崎駿が徳間書店のアニメージュ文庫から出したファンタジー絵物語である。全ページカラー作品、1983年6月初版。2022年に北米で出版された英訳版のタイトルは『Shuna's Journey』[1][2]。2023年にイタリアで出版されたイタリア語翻訳版のタイトルは『Il Viaggio di Shuna』。
概要
[編集]谷の底の小さな王国の王子、「シュナ」という青年の物語である。チベット民話「犬になった王子」(文:君島久子、絵:後藤仁 / 岩波書店)が元となっている[3][4]。麦を求めて王子が旅をするという民話で、『シュナの旅』も基本的に同じ構成ではあるが、登場人物・キャラクター等は宮崎独自のもの。
アーシュラ・K・ル=グウィンの『ゲド戦記』からも影響を受けており[5]、スタジオジブリが『ゲド戦記』をアニメ化するにあたって監督の宮崎吾朗は『シュナの旅』を参考にしたという[6]。
2022年11月1日にはニューヨークでグラフィックノベルを発行するファースト・セカンド・ブックス(First Second Books)より英語版が出版された[2]。タイトルは『Shuna's Journey』で[1][7]、翻訳は『レッドタートル ある島の物語』を監督したマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットの息子でジャーナリストの、アレックス・デュドク・ドゥ・ヴィットが手掛けた[8]。文庫サイズの日本版よりも大きな判型で印刷されている [9][10]。英語版発売の発表を受けて日本国内でも94刷目となる重版が決定し、累計の発行部数は90万部を突破した[2][11]。
2023年、『シュナの旅』はアイズナー賞最優秀アジア作品(Best U.S. Edition of International Material - Asia)を受賞した[12]。同年にはフランス語版も刊行され、翌年上半期までの間だけで18万5000部を売り上げた[13]。
登場人物
[編集]- シュナ
- 主人公。辺境の山深い谷底にある小国の王子。収穫量の少ない貧弱な雑穀しか育たず、貧窮に喘ぐ国を深く憂えていたが、ある日、行き倒れた旅人から麦の存在を聞き、国を救うために神人の国から麦を持ち帰ることを決意し、ヤックルと共に旅に出る。
- 旅の途中で奴隷商人からテアを助け出す。その後、単身神人の国へと乗り込み、苦労の末にようやく麦を手に入れるも、その際の壮烈な経験から人間らしさを一切失ってしまう。だが、テアの手厚く献身的な手助けで徐々に自我と人間らしさとを取り戻し、やがてテアと共に麦を見事に実らせ、麦とテア姉妹とを携えて、ついに生まれ故郷への帰還を果たす。
- テア
- ヒロイン。気丈で芯の強く美しい娘。言葉の不自由な妹がいる。奴隷商人によって妹共々売り飛ばされそうになっていた矢先、旅の途中のシュナに救われ、神人の国の直前までシュナと行動を共にする。シュナが神人の国へ旅立った後は、北の小村で妹と暮らしながら彼の帰りを辛抱強く待ち続け、シュナとの再会後は人間性を失ったシュナに常に付き添い、献身的に手助けする。
ラジオドラマ
[編集]60分のラジオドラマ版が1987年5月2日にNHK-FMのラジオ番組「FMシアター」で全国放送された。映画『風の谷のナウシカ』に感銘を受けた演出家の保科義久が、宮崎駿にラジオドラマのオリジナル脚本を要請したところ、既に新作のアニメーションに取り組んでいた宮崎が、代わりに提示したのが本作[14]。デジタル録音でサラウンドが制作された初のPCMサラウンドドラマと謳われた[15][16]。
2015年9月23日放送のNHK-FMのラジオ番組「今日は一日ラジオドラマ三昧」内で再放送された[17][18]。
- 旅立ち
- 西へ
- 都城にて
- 襲撃
- 神人の土地へ
- テア
スタッフ
[編集]キャスト
[編集]他作品への影響
[編集]この作品に出てくる動物「ヤックル」[注釈 1]は、後に『もののけ姫』に、「ミノノハシ[注釈 2]」は漫画『風の谷のナウシカ』[19]にも登場する他、『天空の城ラピュタ』[20]と『もののけ姫』[21]にも登場している。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b Alex Dudok de Wit [@dudeydok] (2022年2月22日). "「Some personal news」「I'm translating SHUNA'S JOURNEY, a 1983 graphic novel by Hayao Miyazaki, into English.」". X(旧Twitter)より2022年3月1日閲覧。
- ^ a b c Linda Codega、翻訳:岩田リョウコ (2022年3月1日). “宮崎駿のオリジナル絵物語が40年の時を経て英訳される”. ギズモード・ジャパン. 株式会社メディアジーン. 2022年3月1日閲覧。
- ^ “犬になった王子 チベットの民話”. 岩波書店 (2013年11月15日). 2020年10月29日閲覧。
- ^ 後藤 仁 [@JINGOTO] (2022年10月24日). "拙作絵本『犬になった王子 チベットの民話』(岩波書店)の民話を元に描かれた宮崎駿さんの『シュナの旅』英語版『Shuna's Journey』がいよいよ出版されるそう❣…". X(旧Twitter)より2022年11月26日閲覧。
- ^ “第四十九回 竜と少年とシュナ”. 映画『ゲド戦記』監督日誌 (2006年3月8日). 2024年2月13日閲覧。
- ^ “インタビュー 映画「ゲド戦記」監督 宮崎吾朗さん”. e-hon. 2024年2月13日閲覧。
- ^ NEW YORK (AP) (2022年2月22日). “Graphic novel by Miyazaki to be issued in the US”. AP通信 2022年3月1日閲覧。
- ^ スタジオジブリ STUDIO GHIBLI [@JP_GHIBLI] (2022年2月23日). "「宮﨑さんの『シュナの旅』の英語版が、11/1に北米で発売されることになりました」". 2022年5月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。X(旧Twitter)より2022年3月1日閲覧。
- ^ スタジオジブリ STUDIO GHIBLI [@JP_GHIBLI] (2022年10月24日). "これまで文庫サイズだった、宮﨑さんの「シュナの旅」の英語版が、大きな判型とこだわりの印刷で出版されました。". X(旧Twitter)より2022年11月13日閲覧。 [リンク切れ]
- ^ Alex Dudok de Wit [@dudeydok] (2022年9月14日). "The artwork, rescanned from Miyazaki's originals, looks 💥 on the matte paper and the book is bigger than the Japanese original". X(旧Twitter)より2022年11月13日閲覧。
- ^ 『宮崎 駿監督のオリジナル絵物語『シュナの旅』、英語版の発売発表を受けて重版決定、ついに90万部突破!』(プレスリリース)株式会社徳間書店、2022年2月25日 。2022年3月7日閲覧。
- ^ “Hayao Miyazaki's Shuna's Journey Wins Eisner Award” (英語). Anime News Network (2023年7月22日). 2024年2月13日閲覧。
- ^ <世界2位のマンガ消費国・フランス>ONE PIECE、NARUTO…日本の作品やキャラクターが日常生活に浸透しているワケWedge Online, 2024年9月18日
- ^ 解説:濱田高志 (2015年9月). “NHK番組発掘プロジェクト通信 2015年9月の特集 FM「今日は一日ラジオドラマ三昧」番組ガイド”. NHKアーカイブス. 日本放送協会. 2022年11月14日閲覧。
- ^ 「Q and A ANIME」『アニメージュ』1988年4月号。
- ^ 鈴木清人 沢口真生 若林政人「FMサラウンドドラマ「シュナの旅」制作記」『放送技術』1987年9月号、兼六館出版。
- ^ “9月23日のNHK FMで、ラジオドラマ「シュナの旅」が放送されます”. STUDIO GHIBLI(最新情報) (2015年9月18日). 2022年3月2日閲覧。
- ^ “宮崎駿原作のラジオドラマ「シュナの旅」、NHK FMで9月23日に放送決定”. ねとらぼ エンタ. ITmedia (2015年9月18日). 2022年3月2日閲覧。
- ^ 『風の谷のナウシカ』第7巻p.134
- ^ 天空の城ラピュタ スタジオジブリ絵コンテ全集2(徳間書店)515頁 但し「ミノのハシ」と表記される。
- ^ 『もののけ姫 スタジオジブリ絵コンテ全集11』(徳間書店)417頁 ヒネネズミ ナメムジナらと共に、シシ神の森に住んでいるという設定
関連項目
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