シリアの連邦化
シリアの連邦化(シリアのれんぽうか、英語: federalization of Syria)は、シリア内戦終結を目指して提出されていた解決案の一つである[1][2][3][4][5]。広義には、中央集権的な単一国家である従来のシリア・アラブ共和国を、自治権を持った行政組織の集合体である連邦共和国へと改革するというものである。シリア国家を連邦へと分割するという考え方は、ロシア、国際連合代表団、アメリカ[3]、イスラエル[6]を含む、シリア内戦に関与している様々な陣営から提案されてきた。一方でシリア大統領バッシャール・アル=アサドは、そのような提案は多数派を占めるアラブ人が反対しているとして公式に拒否していた[7][8][9][10][11]。またシリア近隣諸国も多くが連邦化構想に否定的であった(アラブ連盟、トルコを含む)[12][13]。
連邦化する場合、その区分けは多かれ少なかれ民族的あるいは宗教的な領域を元にせざるを得ないため、反対派からは「国家の分割」「バルカン化」であると批判されていた[2][4]。アサド政権と戦っている反体制派の大部分(シリア国民評議会、シリア国民連合を含む)も、一貫して連邦化構想に反対していた。一方で、クルド人陣営(ロジャヴァ)は積極的に賛意を示していた[3]。エジプトに拠点を置く反体制派シリアの明日運動は、中立的な立場をとっていた[14][15]。
シリア内戦中の展開
[編集]2016年3月17日、北部及び東部シリア自治行政区(ロジャヴァ)はスイスのカントン制をモデルとした連邦制の導入を宣言し、支配地域をエフリン州、ジズィレ州、コバニ州、シェフバ州といった自治州へ区分した。最終的にはこうした連邦体制をシリア全土に広げるモデルとする、という構想もあった[16]。しかしシリア政府はこれを拒否し、トルコやアメリカにも認められなかった[17]。
2016年9月、アラブ連盟事務総長のアフマド・アブルゲイトは、インタビューでこの地域の政治家として初めて「シリアの連邦化」構想についての公式な意見を表明した。彼は、シリアに連邦制を樹立すれば「国家の機関と一体性の維持を保証でき」、それゆえに連邦制こそ「この国を崩壊から守る最も適切な解決法」であると述べた[18]。
2016年10月、北シリアでロシアが連邦化にむけた呼びかけを展開していると報じられた。これはロジャヴァが設立した自治組織をシリア政府が承認することが核になっていたが、シリア政府に拒否された[19]。
2017年1月にアスタナで開催された多国間和平会議の席で、ロシアが将来的なシリア新憲法の草案を提示した。その中核となるのが、「シリア・アラブ共和国」を「シリア共和国」に改め、分権的な政府組織と「連合地域」などのような連邦的な考えを取り入れ、大統領の権限を弱めて議会を強化し、イスラーム法学を法源から排除して世俗化を実現する、といたことであった[20][21][22][23]。同月、イギリス外相ボリス・ジョンソンが、「シリアでデイトン型の協定を結び、連邦のような形も少々取り入れた解決法をもたらすことは(中略)たしかに結局のところ、これを前進させる正しい道、あるいは唯一の道なのかもしれない。」と発言した[24]。
フランス委任統治領時代の前例
[編集]フランス委任統治領時代、シリアは様々な自治構成体に分割され、その多くが「国」 (フランス語: État アラビア語: Dawlat)の名を冠していた。
- アラウィー派国
- ジャズィーラ州
- ジャバル・ドゥルーズ国 (初期はスワイダー国と呼称)
- アレッポ国
- ダマスカス国
- 大レバノン国
- ハタイ国 (初期はアレキサンドレッタ地区と呼称)
- シリア国
これらの自治行政区は、委任統治領が置かれる前に存在していたオスマン帝国領シリアの行政区画とは一致していなかった。1939年にフランスはハタイをトルコに割譲した。またレバノンは1945年に他のシリア地域から分離され独立した。
脚注
[編集]- ^ Michael O'Hanlon (3 September 2015). “How will Syria's war end? Other civil wars suggest an answer.”. Washington Post
- ^ a b “Is partitioning Syria a viable option?”. Global Risk Insights. 2024年12月17日閲覧。 引用エラー: 無効な
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タグ; name "AJ-16-03"が異なる内容で複数回定義されています - ^ a b “US, Israel Consider 'Balkanization' of Syria: Coalition Source”. Syrian Observer (13 July 2015). 2024年12月17日閲覧。 引用エラー: 無効な
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タグ; name "SO-29485"が異なる内容で複数回定義されています - ^ Zeina Karam (29 September 2015). “Partitioning Syria may be the only answer to a devastating civil war with no end in sight”. National Post. 2024年12月17日閲覧。
- ^ “The Question of Federalism in Syria”. SETA (2016年). 25 April 2023時点のオリジナルよりアーカイブ。 Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。
- ^ Sheikho, Kamal (1 April 2016). “Who opposes Syrian Kurdish self-rule?”. Al-Monitor. 15 May 2021時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年12月17日閲覧。
- ^ Said, Nebehay, Rodi, Stephanie (16 March 2016). “Kurdish moves on federalism cloud Syria peace drive”. Reuters. 19 March 2016時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年12月17日閲覧。
- ^ Arafat, Hisham (31 March 2016). “President Assad: 'Most Syrian Kurds reject federalism'”. Kurdistan 24. オリジナルの25 April 2023時点におけるアーカイブ。
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- ^ Ziadeh (13 March 2017). “Why Federalism Is a Bad Idea for Syria”. Arab Center Washington DC. 7 February 2023時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年12月17日閲覧。
- ^ “Agreement for the future of Syria”. ANF (11 September 2016). 11 September 2016閲覧。
- ^ “Unlikely partners join forces to lead by example in Syriaa”. Al-Monitor (30 September 2016). 3 October 2016閲覧。
- ^ “ANALYSIS: 'This is a new Syria, not a new Kurdistan'”. Middle East Eye (21 March 2016). 11 August 2016閲覧。
- ^ “Syria conflict: Kurds declare federal system”. BBC News (17 March 2016). 2024年12月17日閲覧。
- ^ “أمين جامعة الدول العربية: النظام الفدرالي هو الحل الأنسب لسوريا”. ARA News (28 September 2016). October 1, 2016時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年12月17日閲覧。
- ^ “Syria rejects Russian proposal for Kurdish federation”. Al-Monitor (24 October 2016). 2024年12月17日閲覧。
- ^ “Syria Opposition Rejects Russian Draft of New Constitution”. Bloomberg. (25 January 2017) 26 January 2017閲覧。
- ^ “Syrian draft constitution recognizes Kurdish language, no mentions of federalism”. Rudaw. (26 January 2017) 26 January 2017閲覧。
- ^ “رووداو تنشر مسودة الدستور السوري التي أعدها خبراء روس”. Rudaw 26 January 2017閲覧。
- ^ “Moscow invites Kurds and Syrian opposition to explain Astana”. ARA News. (26 January 2017). オリジナルのJanuary 26, 2017時点におけるアーカイブ。 26 January 2017閲覧。
- ^ “UK Foreign Secretary says federalism best solution for Syria”. ARA News. (27 January 2017). オリジナルのJanuary 27, 2017時点におけるアーカイブ。 27 January 2017閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- Kheder Khaddour (28 March 2017). “Local Wars and the Chance for Decentralized Peace in Syria”. Carnegie Middle East Center. 2024年12月14日閲覧。
- Semih Idiz (1 February 2017). “Turkey squeezed between Russia, US in Syria”. Al-Monitor. 2024年12月14日閲覧。
- “No Going Back: Why decentralisation is the future for Syria”. European Council on Foreign Relations (September 2016). 2024年12月14日閲覧。
- “Syria: Opinions and Attitudes on Federalism, Decentralization, and the experience of the Democratic Self-Administration”. The Day After (TDA) (April 2016). 2018年6月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月19日閲覧。
- Fabrice Balanche (3 December 2015). “Ethnic Cleansing Threatens Syria's Unity”. The Washington Institute. 2024年12月14日閲覧。
- “Partition: It's time to recognise reality in Syria”. London School of Economics and Political Science, USAPP (3 October 2015). 2024年12月14日閲覧。
- “Deconstructing Syria: Towards a regionalized strategy for a confederal country”. Brookings (23 June 2015). 2024年12月14日閲覧。
- Khaddour, K.; Mazur, K. (2013). “The Struggle for Syria's Regions”. Middle East Report 43: 269–.