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ティロサウルス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ティロサウルス
コロラド州ウッドランドパークのロッキー山脈恐竜リソースセンターに所蔵された T. proriger の骨格 KUVP 5033。愛称Bunker
地質時代
後期白亜紀チューロニアン - マーストリヒチアン,86.5–75 Ma
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
: 有鱗目 Squamata
亜目 : トカゲ亜目 Lacertilia
: モササウルス科 Mosasauridae
亜科 : ティロサウルス亜科 Tylosaurinae
: ティロサウルス属 Tylosaurus
学名
Tylosaurus
Marsh, 1872
シノニム
  • Elliptonodon Emmons, 1858
  • Rhamphosaurus Cope, 1872
  • Rhinosaurus Marsh, 1872
  • ?HainosaurusDollo, 1885[1]
  • T. proriger Cope, 1869 (タイプ種)
  • T. nepaeolicus Cope, 1874
  • T. pembinensis Russell, 1988
  • T. saskatchewanensis Jimenez-Huidobro et al., 2018[2]
  • ?T. bernardi (Dollo, 1885)
  • ?T. ivoensis(Persson 1963)

ティロサウルス学名: Tylosaurus、ギリシャ語 τύλος (tylos) 「突起、握り球(ノブ)」 + ギリシャ語 σαῦρος (sauros)「トカゲ」に由来し、握り球(ノブ)のトカゲの意)は、現在のオオトカゲ科やヘビに近縁な、大型の肉食海生爬虫類モササウルス科の属。後期白亜紀に生息した。

記載

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T. proriger の復元

ティロサウルスの目立つ特徴は円柱状の長い前上顎骨(吻)であり、属名はここに由来している。他のモササウルス科爬虫類と異なり、ティロサウルスは前上顎骨の前方に歯を全く持たず、すなわち骨の突出部には歯が存在しなかった[3]。ティロサウルスは24 - 26本の歯が上顎に、20 - 22本の歯が口蓋に、26本の歯が下顎に生えていた。29 - 30本の椎骨が頭骨から臀部の間に、6 - 7本の椎骨が臀部に、33 - 34本の椎骨が骨盤とともに尾に並び、さらに56 - 58本の尾椎が尾の先端を形成していた[1]

ティロサウルスの初期の復元では誤同定された気管軟骨に基づいて背ビレが復元されており、そのような突起を持ったモササウルス科を描くのが当時の主流であった[4][5]

大きさ

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T. pembinensis の大きさ比較

サメなど魚類、首長竜、および他のモササウルス科爬虫類と分布域を共有したティロサウルスは、後期白亜紀における西部内陸海路の支配的な捕食動物だった。本属はモササウルス・ホフマニイと並んでモササウルス科で最大の属の1つであり、同属の可能性がある[1]ハイノサウルス・ベルナルディは全長12.2メートル、T. pembinensis もそれに匹敵する大きさに達した[6]T. proriger はティロサウルス属における最大の種であり、全長は14メートルに達した[7]

発見と命名

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ヘンリー・フェアフィールド・オズボーンの1899年の記載より、完全な T. proriger の骨格

他の多くのモササウルス科爬虫類と同様にティロサウルスの歴史は複雑であり、初期のアメリカ合衆国の古生物学者エドワード・ドリンカー・コープオスニエル・チャールズ・マーシュによる化石戦争に巻き込まれている。1868年にカンザス州西部から産出した断片的な頭骨と13個の椎骨に基づきコープはマクロサウルス・プロリゲル ("Macrosaurus" proriger) という学名を提唱した[8]。この標本はハーバード大学比較動物学博物館に置かれた。1年後にコープは同じ標本をさらに詳細に再記載し、イギリスから産出したモササウルス科の分類群であるリオドンに再分類した。1872年にはマーシュがさらに完全な標本を新属リノサウルス(Rhinosaurus、「鼻トカゲ」の意)に分類したが、すぐにこの学名は別の動物に既に使われていることが判明した。コープはリノサウルスを別の新たな名前ランポサウルス (Rhamposaurus) に置き換えることを提案したが、これもまた既に使用されていることが明らかになった。マーシュは最終的に新属ティロサウルスを確立し、最初のハーバード大学の標本と、同様にカンザス州から産出したさらに完全な追加の標本を本属に分類した[9]T. proriger の巨大な標本が1911年にカンザス州ウォレス郡でC・D・バンカーにより発見され、これはそれまでに発見されたティロサウルスの骨格では最大のものであった。この標本はカンザス大学自然史博物館に展示されている。

腹部に首長竜の標本が確認されている、T. proriger の標本
フィラデルフィア自然科学アカデミーに展示された、T. proriger の13メートルの完全な化石標本

1918年にチャールズ・ヘイゼリアス・スタンバーグが、首長竜を腹部に収めたティロサウルスの化石を発見した[10]。この標本はスミソニアン博物館で組み立てられ、腹部の首長竜もコレクションに加えられた。これらの標本は1922年にスタンバーグが僅かに報告したものの、2001年までこの標本の情報は失われていた。この標本はエヴァーハートが再発見・再記載し(2004a)、2007年にナショナルジオグラフィック協会が制作したIMAXの映画『シーモンスター』のストーリーラインの根幹となっている(Everhart, 2007)。

ジョージ・フライヤー・スタンバーグは1926年ごろに自らが収集したティロサウルスの頭骨の写真を撮影している。この標本はカンザス州ローガン郡スモーキーヒルチョークで発見された。彼はこの標本をスミソニアンに打診し、写真を同封した手紙をチャールズ・ギルモアへ送った。オリジナルの写真のコピーはスタンバーグ自然史博物館にアーカイブされている。標本は FHSM VP-3 という標本番号を付けられ、同博物館に展示されている。

2009年にはアラン・コムロスキーにより全長10メートルのティロサウルスがカンザス州から産出しており、これはカンザス州ウィチタの Museum of World Treasures で展示されている[11]

ティロサウルスはサスカチュワン州サウスダコタ州の層からも記載されている[12]

分類

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組み立てられた全長13.1メートルの T. pembinensis の標本。愛称は Bruce
T. pembinensis の復元
T. nepaeolicus の幼体の骨格復元。ロッキー山脈恐竜リソースセンター
T. micromus とされる標本

長い年月をかけてティロサウルスの多くの種が命名されたものの、科学者が分類学的に有効であると判断したものは多くない。有効であるとされた種には、北アメリカ(カンザス州・アラバマ州ネブラスカ州ほか)のサントニアンと下部 - 中部カンパニアンから産出した Tylosaurus proriger (Cope, 1869[8])、カンザス州のサントニアンから産出した Tylosaurus nepaeolicus (Cope, 1874 [13]) がいる。エヴァンハートが2005年に命名した Tylosaurus kansasensis[14]はカンザス州の後期コニアシアンから産出したもので、T. nepaeolicus の幼体に基づくものであることが示されている[15]T. prorigerT. nepaeolicus のネオテニーとして進化しており、幼体の特徴が成体やさらに大型な個体にも共通している[15]

近縁属ハイノサウルスは北アメリカとヨーロッパの白亜系から産出した属であり、ティロサウルスとハイノサウルスのいずれもがティロサウルス亜科に属する[16]。しかし、2016年に発表された研究では、ハイノサウルスがティロサウルスと同属である可能性が高いとされた[1]。ベル[17]はティロサウルス亜科をプリオプラテカルプス亜科プラテカルプスプリオプラテカルプスなど)とともに非公式の単系統群 "Russellosaurinae" に分類した。

以下のクラドグラムは古生物学者小西卓哉と Michael W. Caldwell による2011年の系統解析に従う[18]

Clidastes prophyton

Kourisodon puntledgensis

Russellosaurina

Yaguarasaurus columbianus

Russellosaurus coheni

Tethysaurus nopcsai

Tylosaurus nepaeolicus

Tylosaurus proriger

プリオプラテカルプス亜科

Ectenosaurus clidastoides

Angolasaurus bocagei

Selmasaurus johnsoni

Selmasaurus russelli

Plesioplatecarpus planifrons

Platecarpus tympaniticus

Latoplatecarpus willistoni

Latoplatecarpus nichollsae

"Platecarpus somenensis"

Plioplatecarpus primaevus

Plioplatecarpus houzeaui

Plioplatecarpus marshi

古生物学

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成長

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頭蓋のプロポーションと吻部の歯の配置および口蓋に基づいて、小西卓哉らは頭骨長30センチメートルと推定された幼体の小型標本 FHSM VP-14845 をティロサウルスに割り当てた。しかしこの標本には他のティロサウルスに特徴的な吻部の突起が存在しない。この突起は頭骨長40 - 60センチメートルの T. nepaeolicusT. proriger の幼体には存在するため、ティロサウルスは生活史の初期段階において吻部突起を急速に獲得したことが示唆されており、性選択ゆえに発達しないわけではないことも示唆された。現生のシャチのように獲物を突く機能があったと小西らは提唱している[3]

食性

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T. proriger (KUVP-1075) のウロコ

Tylosaurus proriger の標本の腹部内容物はモササウルス科が多様な食性を持っていたことを示唆しており、魚類、クレトキシリナなどのサメ、小型のモササウルス科、首長竜、ヘスペロルニスなど飛べない鳥が餌食になっていたと考えられている[19][20]

チャールズ・R・ナイトによる T. proriger。1899年

タルキートナ山脈から産出したカモノハシ竜(Talkeetna Mountains Hadrosaur) は、後のアラスカのマタヌスカ累層となる外側陸棚環境あるいは漸深層に死体が堆積したらしい、分類不確定のハドロサウルス科恐竜である。この骨格には直径2.12 - 5.81ミリメートル、深さ1.64 - 3.62ミリメートルの楕円錘形の穴が開いており、コンクリーションに覆われていない部位もあった。これらの穴はおそらく噛み跡である。腹足類のドリルマークほどの対称性が無く、海綿動物が掘った跡の形状にも似ていなかった。マタヌスカ累層の魚類でこの穴の形状・大きさに合う魚類の骨はなく、コントラストのある大きさと隙間は Tylosaurus proriger の歯にごく類似した。歯は肉体に穴を開けて腐敗ガスによる浮力を無効化すると推測されるため、死体が海に流された後に歯型が付いた可能性が高い。噛み跡の分布はハドロサウルス科恐竜の肉の分布と負の相関を持ち、骨を覆う肉の量が最も少ない後肢が最大の損傷を受けていた。死体漁りのモササウルス類の歯が届かない部位で海底と化学反応を始め、そこではコンクリーションが形成された。死体から抜け落ちた骨は泥に埋没し、泥岩中に保存された[21]

出典

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  1. ^ a b c d Paulina Jimenez-huidobro and Michael W. Caldwell (2016). “Reassessment and reassignment of the early Maastrichtian mosasaur Hainosaurus bernardi Dollo, 1885, to Tylosaurus Marsh, 1872”. Journal of Vertebrate Paleontology Online edition (3): e1096275. doi:10.1080/02724634.2016.1096275. 
  2. ^ Paulina Jiménez-Huidobro; Michael W. Caldwell; Ilaria Paparella; Timon S. Bullard (2018). "A new species of tylosaurine mosasaur from the upper Campanian Bearpaw Formation of Saskatchewan, Canada". Journal of Systematic Palaeontology. Online edition. doi:10.1080/14772019.2018.1471744.
  3. ^ a b Konishi, Takuya; Jiménez-Huidobro, Paulina; Caldwell, Michael W. (2018). “The Smallest-Known Neonate Individual of Tylosaurus (Mosasauridae, Tylosaurinae) Sheds New Light on the Tylosaurine Rostrum and Heterochrony”. Journal of Vertebrate Paleontology: 1–11. doi:10.1080/02724634.2018.1510835. 
  4. ^ H.F. Osborn 1899”. Oceans of Kansas (April 18, 2008). January 28, 2013閲覧。
  5. ^ Mosasaur Fringe”. Oceans of Kansas (January 13, 2013). January 28, 2013閲覧。
  6. ^ Lindgren, J. (2005). “The first record of Hainosaurus (Reptilia, Mosasauridae) from Sweden”. Journal of Paleontology 79 (6): 1157–1165. doi:10.1666/0022-3360(2005)079[1157:TFROHR]2.0.CO;2. http://jpaleontol.geoscienceworld.org/content/79/6/1157.full. 
  7. ^ Fact File: Tylosaurus Proriger from National Geographic”. May 12, 2010閲覧。
  8. ^ a b Cope ED. 1869. [Remarks on Macrosaurus proriger.] Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia 11(81): 123.
  9. ^ Marsh OC. 1872. Note on Rhinosaurus. American Journal of Science 4 (20): 147.
  10. ^ Tylosaur food”. Oceansofkansas.com. January 28, 2013閲覧。
  11. ^ Museum Of World Treasures”. Worldtreasures.org. September 21, 2013時点のオリジナルよりアーカイブ。January 28, 2013閲覧。
  12. ^ [dinosaur Tylosaurus saskatchewanensis (new species) + African araripemydid turtle Taquetochelys decorata]”. dml.cmnh.org. 2019年2月4日閲覧。
  13. ^ Cope ED. 1874. Review of the vertebrata of the Cretaceous period found west of the Mississippi River. U. S. Geological Survey of the Territories, Bulletin 1 (2): 3-48.
  14. ^ Everhart, M.J. (2005). Tylosaurus kansasensis, a new species of tylosaurine (Squamata, Mosasauridae) from the Niobrara Chalk of western Kansas, USA”. Netherlands Journal of Geosciences 84 (3): 231–240. doi:10.1017/S0016774600021016. https://www.researchgate.net/publication/27711025. 
  15. ^ a b Paulina Jiménez-Huidobro, Tiago R. Simões & Michael W. Caldwell. (2016). Re-characterization of Tylosaurus nepaeolicus (Cope, 1874) and Tylosaurus kansasensis Everhart, 2005: Ontogeny or sympatry? Cretaceous Research, doi:10.1016/j.cretres.2016.04.008
  16. ^ Williston SW. 1898. Mosasaurs. The University Geological Survey of Kansas, Part V. 4: 81-347 (pls. 10-72).
  17. ^ Bell GL. Jr. 1997. A phylogenetic revision of North American and Adriatic Mosasauroidea. pp. 293-332 In: Callaway J. M. and E. L Nicholls, (eds.), Ancient Marine Reptiles, Academic Press, 501 pages.
  18. ^ Konishi, Takuya; Michael W. Caldwell (2011). “Two new plioplatecarpine (Squamata, Mosasauridae) genera from the Upper Cretaceous of North America, and a global phylogenetic analysis of plioplatecarpines”. Journal of Vertebrate Paleontology 31 (4): 754–783. doi:10.1080/02724634.2011.579023. 
  19. ^ Mosasaurs ate plesiosaurs: New data on the gut contents of a Tylosaurus proriger (Squamata; Mosasauridae) from the Smoky Hill Chalk of western Kansas”. Oceans Of Kansas. 2019年10月20日閲覧。
  20. ^ Sea Monsters Creatures of the Deep. Mike Everhart. https://books.google.com/books?id=MUSrcjtotQ4C&pg=PA93&lpg=PA93&dq=tylosaurus+ate+hesperornis&source=bl&ots=0zrvWvDqCV&sig=ACfU3U3OphxrvVAkVM3CT_20RcYa-lFktw&hl=en&sa=X&ved=2ahUKEwj-h4KDqpzjAhXQ3J4KHZdqDGM4FBDoATAGegQICRAB#v=onepage&q=tylosaurus%20ate%20hesperornis&f=false 
  21. ^ Pasch, A. D.; May, K. C. (2001). “Taphonomy and paleoenvironment of a hadrosaur (Dinosauria) from the Matanuska Formation (Turonian) in South-Central Alaska”. Mesozoic Vertebrate Life. Indiana University Press. pp. 219–236