パンザマスト
パンザマストは、
- 鉄塔の一種で、鋼板組立柱を指す(鉄塔#支持形式による分類も参照)。日鉄建材の登録商標「パンザーマスト」の転訛。
- 上記より転じ、防災行政無線の設備(スピーカーなど)やその取り付け柱、システムを指す。
- さらに上記より転じ、千葉県柏市などでは、夕刻に児童・生徒に帰宅を促す防災行政無線放送を指す。
鋼板組立柱
[編集]日鉄建材は「パンザーマスト」(Panzer Mast[1])を商標登録している。高張力鋼板を材料とした[2]長さ2mほどの筒を継ぎ足す[3]組み立て式の鋼管柱である[2]。スイスからの技術導入を受けた日本製鐵が日本で初めて製造・販売を行ったもので[4](日鉄建材はそのグループ会社[4])、商標名は、形状が鎧に似ているとして「鎧」と「柱」を意味するドイツ語を英語読みしたものである[3]。
同じ寸法・強度のコンクリート柱に比べて軽量であること[2][5]や、組み立て式であることから設営のための搬入に利便性があること[2][5]、撤去・運搬も便利であること[2][5]などから、送配電通信用電柱[2][5][3]、照明柱[2][5]、アンテナ柱[2][5][3]のほか、防災行政無線用機械[2][5]の設置にも用いられている。
こうした鋼板組立柱について「パンザマスト」と記す事例がある[6]:18。 アマチュア無線の世界では、アンテナを設置する鋼板組立柱を「パンザマスト」あるいは「パンザ」と呼ぶことがある[7]。コンクリート製電柱の延伸(継柱)にも用いられることがあり、「継柱用パンザマスト」などの呼称が用いられる[8]。
鋼板組立柱は、ほかにヨシモトポールが防災無線柱として製造する「エースマスト」などの製品がある[9]。
防災行政無線設備およびその放送
[編集]防災行政無線設備
[編集]2020年10月5日付『朝日新聞』記事によれば、防災行政無線の設備(屋外拡声子局)やその機器の取り付け柱について「パンザマスト」と呼称することは、全国的にいくつかの自治体で見られる[3]。
たとえば大阪府松原市では、市の広報で「市内51カ所に設置している防災行政無線(パンザマスト)を用いた緊急情報の伝達訓練」と記したり[10]、市の小学校での避難訓練について触れた文で「パンザマストから訓練訓練と連呼」と描写する事例が見られる[11]。大阪府高槻市では2018年(平成30年)のタウンミーティングで市長が「防災行政無線パンザマスト」「このパンザマスト、防災行政無線は、まちごとに設置しなければならないと法律で決まっており[注釈 1]、聞こえにくかろうが聞こえやすかろうが、お金をかけて設置せざるを得ない設備であります」「今のパンザマストは、平成28年に約4億円をかけて新しく更新した」といった発言をしており[12]、東京都三鷹市の資料では「防災行政無線同報系拡声子局柱の更新」と題した節で「防災行政無線同報系拡声子局のパンザマスト(柱部分)」とする文言が[13]、東京都板橋区の資料では「区の施設等に設置されているパンザマスト(スピーカー)」「パンザマスト設置数:区内165 か所」といった文言が見られる[14]。
防災行政無線放送
[編集]千葉県柏市[3]や我孫子市の一部[3]などでは、「夕焼け小焼け」のメロディーと共に児童生徒に帰宅を促す防災行政無線放送を「パンザマスト」と呼称している[3]。あるいは、夕刻の定時放送で流れる「夕焼け小焼け」のメロディーが「パンザマスト」と認識されているともいう。
柏市での防災行政無線導入は1977年度であるが[3][注釈 2]、「パンザーマスト」に機器を設置したことから、防災行政無線に関わる職員らが防災行政無線を「パンザマスト」あるいは「パンザ」と呼んでいたという[3](柏市のウェブサイトでは防災行政無線塔の通称がパンザマストであるとする記載がある[16][注釈 3])。柏市では1981年6月に小学校校庭で小学生が殺害される事件が発生し、地域社会に大きな衝撃を与えた[3]。これを受けて柏市では1981年8月より防災行政無線で日没時刻に合わせて「夕焼け小焼け」を流すとともに、児童生徒に帰宅を促す声掛けをする運動が始まった[3]。運動を周知する過程で市の広報紙に「広報無線屋外受信局(パンザマスト)」という名称が載り[3]、やがて放送そのものが「パンザマスト」と呼ばれるようになったという[3]。
2020年10月5日付『朝日新聞』記事によれば、放送についての呼称として市民に「パンザマスト」が広く用いられているのは柏市と我孫子市の一部に限られるのではないかとしており[3]、「新方言」という概念を提唱する言語学者井上史雄のコメントを載せている[3]。
夕方の無線放送を「パンザマスト」と呼称することは、読売テレビの『秘密のケンミンSHOW』(2010年5月27日放送)[17]をはじめ、バラエティ番組や情報番組などで柏特有の事物(いわゆる「ご当地ネタ」)としてしばしば取り上げられる[18]。柏市が制作した広報動画でも、柏市民に親しまれている事物として扱われている[15]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 電波法。法改正によりアナログ方式の機器の廃止とデジタル化、情報配信経路の多様化が進められることになる。
- ^ 柏市広報のyoutube動画によれば、1980年の市広報誌に防災行政無線柱の完成が間近であるとの記事があるという[15]。
- ^ 柏市広報のyoutube動画(2015年10月17日公開)によれば、市の広報誌でも一時期は防災行政無線を説明抜きにパンザマストと呼称していた時期があるが、「パンザーマスト」が商品名であることを鑑み(柏市の防災行政無線塔には「パンザーマスト」以外の製品も用いられているという)、公的には用いなくなったという。動画内では日鐵住金建材(現在の日鉄建材)から、柏市の防災無線とそこから流れる「夕焼け小焼け」を「パンザマスト」と呼ぶことを許可される、とのくだりがある[15]。
出典
[編集]- ^ “PANZER MAST™”. 日鉄建材株式会社. 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i “パンザーマスト”. 北斗通信. 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p “「夕焼け小焼け」、柏市ではパンザマストと呼ぶ理由”. 朝日新聞. (2020年11月5日) 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b “事業紹介:ポール部門”. 東海鋼材工業株式会社. 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b c d e f g “パンザーマスト”. 日鉄建材株式会社. 2022年11月12日閲覧。
- ^ “無線システム普及支援事業費等補助金(辺地共聴施設整備事業)実施マニュアル”. 総務省情報流通行政局デジタル放送受信推進室 (2013年4月). 2022年11月12日閲覧。
- ^ “No.9 パンザマスト”. 週刊BEACON. アイコム株式会社. 2022年11月12日閲覧。
- ^ 牧野浩・山田和之. “継柱用パンザマストの取り外し工法の開発”. 北陸電力. 2022年11月12日閲覧。
- ^ “防災無線柱(エースマスト)”. ヨシモトポール. 2022年11月12日閲覧。
- ^ 「防災行政無線を用いた全国一斉の情報伝達訓練を行います」『広報まつばら』第684号、2014年11月、16頁、2022年11月12日閲覧。
- ^ “9月5日 880万人地震避難訓練”. 松原市立松原北小学校 (2019年9月5日). 2022年11月12日閲覧。
- ^ “平成30年度市長と語るタウンミーティング 「高槻市コミュニティ市民会議」を開催しました”. 高槻市. 2022年11月12日閲覧。
- ^ “令和2年度 主な防災対策”. 三鷹市. 2022年11月12日閲覧。
- ^ “災害避難情報の伝達方法について”. 板橋区. 2022年11月12日閲覧。
- ^ a b c “第32話「柏市民に告ぐ!パンザマストと言ってはいけない!?」~これってナンダイ!?市立柏研Q所”. 柏市動画チャンネル. 柏市 (2022年3月31日). 2022年11月12日閲覧。
- ^ “防災行政無線放送が聞えにくい場合の確認方法について”. 柏市. 2022年11月12日閲覧。
- ^ “パンザマスト”. 柏レイソル公式ブログ 日立台広報日記 (2010年5月28日). 2022年11月12日閲覧。
- ^ “「パンザマスト」に関連する情報”. 価格.com. 2022年11月12日閲覧。
外部リンク
[編集]- パンザーマスト - 日鉄建材
- 柏市の「パンザマスト」について知りたい。 - レファレンス協同データベース(柏市立図書館回答)