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モル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フェムトモルから転送)
モル
mole
記号 mol
国際単位系 (SI)
種類 基本単位
物質量
定義 6.02214076×1023アボガドロ定数) の要素粒子又は要素粒子の集合体(組成が明確にされたものに限る)で構成された系の物質量[1][2]
由来 その物質の分子量の数字にグラムをつけた質量に含まれる物質量
語源 ドイツ語 Molekül(分子
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モル英語: mole /məʊl/, フランス語: mole, 記号: mol)は国際単位系 (SI) における物質量単位である。1971年の第14回国際度量衡総会(CGPM)の決議によって、国際単位系の基本単位として導入された[3]

名称、記号

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名称は仏語・英語ともに、mole であり、日本語名称は「モル」である。これはドイツ語のMolekül(仏語ではmolécule、英語では molecule。ともに 「分子」 の意)に由来する。

モルを表す単位記号は、mol である[4]。これはもともとはドイツ人化学者ヴィルヘルム・オストヴァルトによるもので[5]、1971年の第14回国際度量衡総会(CGPM)の決議によって決定された[6]

定義

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「モル」の定義は以下である(第26回国際度量衡総会の決定および国際単位系国際文書第9版(2019)[7])。

モル(記号は mol)は、物質量の SI 単位であり、1 モルには、厳密に 6.02214076×1023 の要素粒子が含まれる。この数は、アボガドロ定数 NA を単位 mol−1 で表したときの数値であり、アボガドロ数と呼ばれる。

系の物質量(記号は n)は、特定された要素粒子の数の尺度である。要素粒子は、原子、分子、イオン、電子、その他の粒子、あるいは、粒子の集合体のいずれであってもよい[8][注 1]

計量法(計量単位令)ではSIでの定義とは異なり、下記のように簡潔な定義となっている。

6.02214076×1023の要素粒子又は要素粒子の集合体(組成が明確にされたものに限る。)で構成された系の物質量[2][1]

アボガドロ定数

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モルを定義することで、物質量と要素粒子の数を結ぶ普遍定数が定義され、その値を決定することができる。この普遍定数がアボガドロ定数である。 1 モルに含まれる構成要素の数をアボガドロ定数という。アボガドロ定数を表す記号は N A または L が用いられる[9]。 ある試料に含まれる要素粒子 X の物質量 n (X ) は、要素粒子の個数 N (X ) と以下の関係で結ばれる。

物質量 n (X ) の単位は mol であり、個数 N (X )無次元量であるため、アボガドロ定数は mol−1 となる。

歴史

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モルは本来は、全ての物質は分子よりできているとの考えの元に、その物質の分子量の数字にグラムをつけた質量に含まれる物質量を 1 モルと定義した。例えば酸素分子の分子量は 32.0 なので、1 mol の酸素分子は 32.0 g となる。物質量という概念は19世紀の近代化学発祥のころから使われているものであり、この単位は当初はグラム原子グラム分子などと呼ばれていた。

しかし、イオン結合金属結合には分子と呼べるものがないことがわかり、共有結合の場合でも単純な分子が存在しないものがあることもわかってきた。そこで、物質を表す化学式で示される元素の原子量の和を化学式量と呼び、それにグラムをつけた質量に含まれる物質量を 1 mol と定義することとした。これにより、1 mol の塩化ナトリウムは 58.5 g、は 55.85 g と表せるようになった。

1 モルに含まれる要素粒子の数は、要素粒子の種類にかかわらず一定であって、6.02214076×1023 個である[10]。この数を「アボガドロ数」という。アボガドロ数は、前記のように24桁の整数であり、また無次元量である点で「アボガドロ定数」とは異なる。

また 1 モルの理想気体は、標準状態 (STP: standard temperature and pressure) では同じ体積(約22.41396954 L(リットル))を占める[11]。このように、モルは化学の分野では基本となる重要な単位である。

1913年頃から、原子の中には質量数の異なる数種の原子(同位体)があることがわかってきた。長年、モルの定義には酸素分子を使用し、酸素分子 32 g を 1 mol としてきたが、酸素原子には天然のものでも質量数 16 のほか 17, 18 のものがあることがわかった。すなわち、それまでは質量数 16, 17, 18 の酸素原子が混ざった状態のものでモルを定義していたことになる。それがわかってから、物理学の分野では質量数 16 の酸素だけを分離して(完全に分離するのは困難なので、分離できたと仮想して)、質量数 16 の酸素による酸素分子 32 g の物質量を 1 mol と再定義した。しかし、化学者たちはそれまで通りのモルの定義を使い続けた。

物理学と化学とで異なるモルを使い続けるのは不都合があるため、1960年国際純粋・応用物理学連合 (IUPAP) と国際純正・応用化学連合 (IUPAC) が協議して、共通的に炭素12に原子量 12 の値を与えることとした。ここから、1 mol は 12 g の炭素12の物質量という旧定義が導き出せる。炭素12が選ばれたのは、これが天然の炭素の大部分を占めているためである。 炭素原子によるモルの定義を「炭素スケール」とよび、それまでの酸素基準と分けて呼ぶこともある。

モルをSI基本単位とすることおよびその定義は、1971年国際度量衡総会 (CGPM) で採択された[12]

1980年国際度量衡委員会(CIPM)により以下の補則が加えられていた。これはモルの定義の一部であった[9]

:補則:この定義の中で、炭素12は結合しておらず、静止しており、基底状態にあるものを基準とすることが想定されている。

2019年5月20日からアボガドロ定数を定義値とする現行の定義になった。

この定義により、モルはキログラムの定義に依存しないものになった。 なお、新定義では、アボガドロ定数を正確に6.02214076×1023 /molとすることによりモルを定義したので、1モルの炭素12の質量は、12 gではなくなり、11.9999999958(36) gという実験値となった[13]

日本の法令上は、計量法第3条の規定[14]に基づく計量単位令(平成4年政令第357号)が、計量単位令の一部を改正する政令(令和元年5月17日政令第6号)により改正され、2019年5月20日に施行することにより変更された。

批判

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1971年にモルが国際単位系に採用されて以来、モルをメートルと同等の単位として扱うことに対する多くの批判が生じている。

  • 所与の量の物質に含まれる分子の数は固定の無次元量であり、明確な基本単位を必要とせず、単純に数として表現することができる[15][16]
  • モルは、時代遅れの連続体的な物質の概念(完全な原子論的ではない)に基づいている[17]
  • SIにおける熱力学的モルは分析化学とは無関係であり、先進経済に回避可能なコストをもたらす可能性がある[18]
  • モルは真の計量単位というより「パラメトリック」な単位であり、物質量は「パラメトリック」な基本量である[19]
  • SIでは、実体の数を次元「1」の量として定義しており、「実体」と「連続量の単位」の間の存在論的な区別を無視している[20]

符号位置

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記号 Unicode JIS X 0213 文字参照 名称
U+33D6 - ㏖
㏖
モル

Unicodeには、モルを表す上記の文字が収録されている。これはCJK互換用文字であり、既存の文字コードに対する後方互換性のために収録されているものであるので、使用は推奨されない[21][22]

脚注

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注釈

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  1. ^ 国際単位系における正式の言語はフランス語である。ここでの定義は英語及びこれを日本語に翻訳したものである。正式な本文の確認が必要な場合又は文章の解釈に疑義がある場合はフランス語版を確認する必要がある。

出典

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  1. ^ a b 計量単位令 別表第1、項番6、物質量の欄
  2. ^ a b 計量単位令の一部を改正する政令案新旧対照条文 改正案、別表第一(第二条関係)、「六 物質量 モル」の欄
  3. ^ <国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版 pp.56-57、産業技術総合研究所、計量標準総合センター、2020年4月
  4. ^ 計量単位規則 別表第2、物質量の欄
  5. ^ Wilhelm Ostwald (1893). Hand- und Hilfsbuch zur Ausführung Physiko-Chemischer Messungen. Verlag von Wilhelm Engelmann, Leipzig.. p. 119. https://archive.org/details/handundhilfsbuc00ostwgoog 
  6. ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版 pp.139-140、産業技術総合研究所、計量標準総合センター、2020年4月
  7. ^ 国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版 p.98、産業技術総合研究所、計量標準総合センター、2020年4月
  8. ^ 国際単位系(SI)第 9 版(2019) p.102、産業技術総合研究所、計量標準総合センター、2020年3月
  9. ^ a b 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006)、p. 26、2.1.1.6 物質量の単位(モル)。
  10. ^ Avogadro constant CODATA2014
  11. ^ molar volume of ideal gas (273.15 K, 101.325 kPa) The NIST Reference on Constants, Units, and Uncertainty. US National Institute of Standards and Technology. 2019-05-20. 2018 CODATA recommended values
  12. ^ 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006)、p. 20。
  13. ^ molar mass of carbon-12 The NIST Reference on Constants, Units, and Uncertainty. US National Institute of Standards and Technology. 2019-05-20. 2018 CODATA recommended values
  14. ^ 第三条 前条第一項第一号に掲げる物象の状態の量のうち別表第一の上欄に掲げるものの計量単位は、同表の下欄に掲げるとおりとし、その定義は、国際度量衡総会の決議その他の計量単位に関する国際的な決定及び慣行に従い、政令で定める。
  15. ^ de Bièvre, Paul; Peiser, H. Steffen (1992). “'Atomic Weight' — The Name, Its History, Definition, and Units”. Pure and Applied Chemistry 64 (10): 1535–43. doi:10.1351/pac199264101535. http://www.iupac.org/publications/pac/1992/pdf/6410x1535.pdf. 
  16. ^ Giunta, C. J. (2015) "The Mole and Amount of Substance in Chemistry and Education: Beyond Official Definitions" J. Chem. Educ. 92: 1593-1597, doi:10.1021/ed2001957.
  17. ^ Schmidt-Rohr, K. (2020). "Analysis of Two Definitions of the Mole That Are in Simultaneous Use, and Their Surprising Consequences" J. Chem. Educ. 97: 597-602, doi:10.1021/acs.jchemed.9b00467
  18. ^ Price, Gary (2010). “Failures of the global measurement system. Part 1: the case of chemistry”. Accreditation and Quality Assurance 15 (7): 421–427. doi:10.1007/s00769-010-0655-z. [1].
  19. ^ Johansson, Ingvar (2010). “Metrological thinking needs the notions of parametric quantities, units, and dimensions.”. Metrologia 47 (3): 219–230. Bibcode2010Metro..47..219J. doi:10.1088/0026-1394/47/3/012. http://stacks.iop.org/0026-1394/47/i=3/a=012. 
  20. ^ Cooper, G; Humphry, S (2010). “The ontological distinction between units and entities”. Synthese 187 (2): 393–401. doi:10.1007/s11229-010-9832-1. 
  21. ^ CJK Compatibility” (2015年). 2016年2月21日閲覧。
  22. ^ The Unicode Standard, Version 8.0.0”. Mountain View, CA: The Unicode Consortium (2015年). 2016年2月21日閲覧。

参考文献

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  • [2] BIPM 著、産業技術総合研究所 計量標準総合センター 訳『国際単位系(SI)第9版(2019)日本語版』産業技術総合研究所 計量標準総合センター、2020年3月。 
  • [3] 計量単位令. e-GOV. (1992) 

関連項目

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