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フェラーリ・FF

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フェラーリ・フォーから転送)
フェラーリ・FF
フェラーリ・フォー
概要
製造国 イタリアの旗 イタリア
販売期間 2011年 - 2016年
デザイン ピニンファリーナ
ボディ
乗車定員 4名
ボディタイプ 2ドア シューティングブレーク
エンジン位置 フロントミッドシップ
駆動方式 四輪駆動
パワートレイン
エンジン F140EB 6,262 cc V型12気筒DOHC
最高出力 660 PS/8,000 rpm
最大トルク 69.6 kgf·m/6,000 rpm
変速機 7速セミAT
サスペンション
ダブルウィッシュボーン
ダブルウィッシュボーン
車両寸法
ホイールベース 2,949 mm[1]
全長 4,907 mm[2]
全幅 1,953 mm[2]
全高 1,379 mm[2]
車両重量 1,790 kg[3]
系譜
先代 612スカリエッティ(事実上)
後継 GTC4ルッソ
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フェラーリ・FFFerrari FF /Ferrari Four /フェラーリ・フォー[4])とは、イタリア高級自動車メーカー[5][6]であるフェラーリ2011年から2016年にかけて製造したワゴン(シューティングブレーク)型のグランドツーリングカーである[7][8]

概要

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2011年1月21日、フェラーリ初の四輪駆動かつシューティングブレークモデルとして発表された[9]。2月23日にマラネッロでの特別イベントでワールドプレミア[10]、3月にはジュネーブモーターショーでの出展を経てデビューした。

フェラーリの市販車として過去最高の出力を持つ新開発のガソリン直噴エンジンに、3ドアに4座のシート[11][12]と約450リットルの荷室を備えるなど、これまでのフェラーリになかった斬新なコンセプトを持つ。車名の「フォー」は四輪駆動と4名乗車に由来[13]。エンジンの部品は、FFの1年後に導入されたクーペであるF12ベルリネッタと共有している。

デザインおよびスタイリングはピニンファリーナが担当。ローウィ・フェルメールシュとフラビオ・マンツォーニの指揮下でデザインされ、クーペスタイルのボディに2+2のシートを持つ612スカリエッティとほぼ共通するボディサイズを持つものの、全く違うコンセプトの新型車であることから、612スカリエッティの後継車ではないと発表された。なお、ドバイの警察においてパトカーとして導入された車両が存在する。

歴史

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フェラーリは、2007年に612スカリエッティの後継車の開発を開始した[14]。次期シューティングブレークの企画は、ピニンファリーナの元デザインディレクターを務めたフラビオ・マンゾーニとローウィ・フェルメールシュの指揮の下で始まった。フェラーリは当初、コンセプトカーであるピニンファリーナ・シンテージから開発された車を望んでいたが、プロジェクトは一旦イタルデザインに引き継がれ、イタルデザインは角ばった案を提示した。最終的には、さらなる開発のためにピニンファリーナに戻った[14]。その他の開発は、フェラーリのスタイリングセンターで行われた[15]

こうしてFFは、2011年3月のジュネーブ国際モーターショーでデビューした[16][17][18]。同月[19]、マラネッロの工場で正式な製造が開始された[20][21]。発売当初、フェラーリは年間800台のFFを生産すると発表したが、初年度の全生産台数がすでに完売していると述べた[21][22]。 発売と同時にFFは世界最速の4シーターカーとなり、フェラーリにとっては599GTOに次いで2番目に速いグランドツアラーとなった[1][23]。マラネッロの工場にて5年間で2,291台が生産された後、2016年に生産終了となった[24]。その後、GTC4ルッソが後継車となった[25][26]

メカニズム

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ボディ・空力性能

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FFは、458イタリアの特徴であるプルバックヘッドライトと、458イタリアと599GTBフィオラノの両方に見られるツインサーキュラーテールライトを取り入れた、現代のフェラーリモデルのデザイン言語を反映している[27][28]。ボディは、主にスペースフレーム構造を組み込んでおり、現代のすべてのフェラーリと同様に、アルミニウムで作られている。この設計は、前モデルと比較して重量を5%削減し、ねじり剛性を6%向上させている[2][29]

FFは大幅に強化されたエアロダイナミック・ダウンフォースによって、高速走行時の路面グリップを向上させる。最も顕著に見られるのは、エアロフォイル形状のセンターエレメントを特徴とするリアのスプリットレベルディフューザーである。これには、Cd=0.329という比較的高い空気抵抗係数が必要となる。サイドとリアに沿ったベントは、ホイールウェルから車体周囲に空気を送り出し、揚力と抗力を最小限に抑えるのに役立っている[2]

荷室容量は通常約450リットルだが、後席を折りたたむことで約800リットルまで拡大することができる[30][31]

エンジンとトランスミッション

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搭載されたF140EBエンジン

フロントミッドシップに搭載されるエンジンは、これまでのフェラーリの市販車として最大の排気量と出力を持つ、新開発のV型12気筒48バルブ 6,262 ccの自然吸気直噴エンジン[32][33][34]、最高出力660 PS (485 kW; 651 hp)を発生する。このエンジンにより、最高速度335 km/h (208 mph)、0-100 km/h加速3.7秒に達する[35][36]。さらにアイドリングストップなどの二酸化炭素排出減少を目的としたシステム「HELE」もオプションで用意され、日本市場などでは標準装備される。

トランスミッション458イタリアカリフォルニアと同様の7速DCT。後部に配置されたことで、フロントで47%、リアで53%の重量配分となっている。電子制御リアディファレンシャルはギアボックスハウジングに組み込まれており、磁気適応ショック、スタビリティコントロール、レイアウト、電子ディファレンシャルを含むすべてのシャーシとパワートレイン制御システムが1つのモジュールに統合されている[37]

4RM

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シャシ構造

FFには、フェラーリが新たに開発し特許を取得した四輪駆動システム「4RM」(ruote motrici、イタリア語で4WDを意味する)が組み込まれている[38]。このシステムは縦置きのエンジン前方にパワートランスファーユニットを置き、そこからエンジンを貫く形でドライブシャフトを延ばし、後輪のトランスミッションとEデフを組み合わせたトランスアクスルユニットに繋げたものである。パワートランスファーユニットは、変速機が1-4速に入っているときのみ軸トルクの最大20%を前輪に伝達する。センターデフを持たない分4WDシステムは41キログラムと、一般的な4WDシステムより50%の軽量化及び低重心、低地上高を実現した[2]。この軽量な四輪駆動システムが貢献したこともあり、前後47:53の重量比とともに高出力化と軽量化を実現し、時速335km/hの最高速と0-100km/h加速3.7秒という高性能を誇る。

さらにこのシステムは、エンジンのフロントからの動力を流すためにセカンダリギアボックスを使用する。フロントのギアボックスは、リアの1速ギアよりも6%長く、リアの4速ギアよりも6%長い(リバースは同じ)。したがって、フロントギアボックスの1速はリアの1速と2速をカバーし、2速はリアの3速と4速をカバーする。動力は、フロントトランスミッションの運転席側にある2つの電子制御油圧式湿式多板クラッチ(各車輪に1つずつ)を介して伝達される。これらのクラッチは後輪の速度に合わせてスリップを調整し、左右のパワー配分のためのトルクベクタリングを可能にする[39]

その他

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サスペンションは前後双方に、磁性流体学的な自動調整式ダンピングシステム「SCM3」をフェラーリで初採用し、ブレンボカーボンセラミックブレーキを装備する[40][41]二酸化炭素排出量は360 g/km、燃料消費量は100キロメートルあたり15.4リットルである[42]

また、他のフェラーリの車種同様に「マネッティーノ」システム(Manettino dial)を搭載し、走行モードは「SPORT」、「COMFORT」、「ESC OFF」のほか、FFには「WET」「ICE-SNOW」が用意されている。他にも、カーナビゲーションシステムやデジタルテレビチューナーが用意されるほか、後席にはオプションでテレビモニターが用意されている。インテリアのほとんどはポルトローナ・フラウ社によるセミアニリンレザーによって覆われており、従来よりも高級な質感を実現している[43]

日本市場導入

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イタリア本国での正式発表から4か月後の2011年7月5日、ルカ・ディ・モンテゼーモロ会長や駐日イタリア大使同席のもとで、駐日イタリア大使館で行われた発表会とガラパーティーにおいて日本市場への導入を発表した。価格は3,200万円で、日本独自の設定として、HELEシステムや日本語ナビゲーションシステム、クルーズコントロールなどが標準装備となる。また、右ハンドル車も設定される。

フェラーリ正規輸入車のオーナーには、7月2日に行われたフォルッツァフェラーリの前夜祭にて事前に発表された事を、中裕司がTwitterで明かしている[44]。この際に、同年3月11日に発生した東日本大震災で被害を受けた宮城県石巻市の市内2か所の児童放課後クラブの再建費用として、フェラーリから寄贈されたFFの日本第1号車(オプションの革製専用スーツケースセットが付き)がオークションにかけられた。この個体は約4,000万円で落札され、その全額が再建に役立てられた。

SP FFX

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SP FFX

2014年に発表されたワンオフモデル。オーダーしたのは日本人の顧客で、ローンチイベントは富士スピードウェイで行われた。エンジンやコンポーネントはFFのものが使われており、ボディカラーは赤で、一部白で塗装されている[45]。同年に日本で開催されたEsperienza Ferrariにも、同じワンオフモデルのSP1と共に展示された[46]。2023年には、兵庫県のセントラルサーキットで開催されたチャオイタリア2023に登場した[47]。SP FFXの初期の特許図面は、それが次世代のフェラーリ・カリフォルニアのデザインであるという憶測につながった[48][49]

レセプション

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FFは主に肯定的なレビューを受けており、多くの出版物がこの車を「家族全員のためのフェラーリ」と表現している[50][51]。2011年、ジェレミー・クラークソンサンデー・タイムズのレビューで、FFを「とても特別で、とても速いクルマで、実用性が少しあり、あまり追加されないかもしれない四輪駆動システムを備えている」と評した。彼は、フロントデザインやサイドビューは「素晴らしい」と褒めたものの、リアは物足りないと指摘し、「絶望的」で当たり障りのないものと評し、「起亜のほうがもっといい仕事をしている」と述べた[52]。デビッド・アンダーコフラーは2013年のロサンゼルス・タイムズのレビューで、FFは「フェラーリ製グランドツーリングカーの長いラインの次の進化を表しており、レーシングカーのハンドリングを最優先に設計されたミッドシップエンジンの458のようなハイテンションなスポーツカーとは対照的である」と述べている[53]ニューヨーク・タイムズのエズラ・ダイアーはFFを「大胆な車」と評し、「それが象徴する自信」を賞賛している[54]

フォーブスのハンナ・エリオットは、FFを「彼女が運転したことを覚えている中で最も完璧にバランスの取れた車」と表現した[55]ウォールストリートジャーナル紙のライター、ダン・ニールは、FFを「かわいらしさを軽蔑し、洗練された派手なブルジョアの概念を嘲笑する車」と評し[56]、別の批評ではFFを「史上最もクールなフェラーリ」と評し、美観を気にすることなく印象的なパフォーマンスを称賛した[1]。モータートレンドのパトリック・ホーイは、FFを「おとなしい」「ユーザーフレンドリー」と評し、ステアリングの軽さも評価したが、「スタートボタンが作動する前に回さなければならないイグニッションキー」とその高額な価格を批判した[57]

この他にもFFは数々の称賛を受けている。上海モーターショーで、中国版のカー・アンド・ドライバーは、FFに2011年の最も美しいスーパーカーを授与した[58]。その年、雑誌「トップ・ギア」はFFにエステートカーオブザイヤーを贈った[59]。インド版のトップ・ギアは、FFに2012年のラグジュアリーカーオブザイヤーを授与した[60]

ギャラリー

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脚注

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  1. ^ a b c Neil 2011, p. D.10.
  2. ^ a b c d e f Gitlin 2016.
  3. ^ Booth 2013, p. C.2.
  4. ^ Burns 2013.
  5. ^ Kenzie 2011, p. W.18.
  6. ^ English 2016, p. 2.
  7. ^ English 2011, p. 2.
  8. ^ Mills 2011.
  9. ^ 森脇稔 (2011年1月26日). “フェラーリ FF、新写真を公開…デザインに革命”. Response.. 2024年12月2日閲覧。
  10. ^ 森脇稔 (2011年2月24日). “フェラーリ FF、堂々のワールドプレミア”. Response.. 2024年12月2日閲覧。
  11. ^ Davis 2015.
  12. ^ Ziegler 2016.
  13. ^ Connolly 2014, p. 4.
  14. ^ a b Gallina 2014.
  15. ^ Bonhams 2018.
  16. ^ 【ジュネーブモーターショー11】フェラーリ FF を出展…初の4人乗り四輪駆動モデル”. Response. (2011年3月2日). 2024年12月2日閲覧。
  17. ^ Arnott 2011, p. 33.
  18. ^ "Ferrari FF makes debut". Top Gear.
  19. ^ Sloane 2011.
  20. ^ Smith 2011, p. 66.
  21. ^ a b Melton 2012, p. Z74.
  22. ^ Ciferri 2011.
  23. ^ Baker & Knapman 2011, p. 9.
  24. ^ Newton 2024.
  25. ^ Neil 2017, p. D.10.
  26. ^ Dobie 2016.
  27. ^ Schultz 2012.
  28. ^ "Gone in 3.7 seconds". The New Indian Express.
  29. ^ "First drive: 2012 Ferrari FF". Motor Trend.
  30. ^ フェラーリ、新型GT「FF」を出展【ジュネーブショー2011】”. webCG (2011年1月24日). 2024年12月2日閲覧。
  31. ^ Pattni 2011.
  32. ^ "Ferrari FF: the facts". The Daily Telegraph.
  33. ^ "First photographs of the FF Ferrari unveiled". Waterloo Region Record.
  34. ^ Dobie 2015.
  35. ^ Baime 2023.
  36. ^ Moore 2011, p. D.3.
  37. ^ Austin 2011.
  38. ^ Meiners 2011.
  39. ^ Austin 2011a.
  40. ^ Raynal 2011.
  41. ^ du Plessis 2011, p. 3.
  42. ^ Naidu 2016.
  43. ^ 松本明彦 (2011年9月21日). “【フェラーリ FF 日本登場】ポルトローナフラウのレザー”. Response.. 2024年12月2日閲覧。
  44. ^ Yuji Naka / 中 裕司のツイート 2011年7月2日の発言
  45. ^ 自分だけのフェラーリが作れるって知ってましたか?世界に一台のワンオフモデル達!”. Diamond Carz Blog (2019年10月2日). 2024年12月2日閲覧。
  46. ^ フェラーリのワンオフモデルSP-FFXのリアってこんなんなってんのかよ初めて見た”. フェラーリ ランボルギーニ ニュース (2014年2月28日). 2024年12月2日閲覧。
  47. ^ チャオイタリア2023にて約10年ぶりにワンオフカーFerrari SP FFXが公開”. フェラーリ ランボルギーニ ニュース (2023年10月22日). 2024年12月2日閲覧。
  48. ^ Kingston 2014.
  49. ^ Dredge 2023.
  50. ^ Ewing 2011.
  51. ^ Valdes-Dapena 2012.
  52. ^ Clarkson 2011.
  53. ^ Undercoffler 2013, p. B.1.
  54. ^ Dyer 2012, p. AU.1.
  55. ^ Elliott 2012.
  56. ^ Neil 2011a.
  57. ^ Hoey 2015.
  58. ^ Anderson 2023.
  59. ^ Garlitos 2018.
  60. ^ "Top Gear magazine awards 2012". Top Gear.

参考文献

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ニュース

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ウェブサイト

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雑誌

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  • Sam Smith (August 2011). “Esquire's Car of the Year”. Esquire 156 (1): 66. 

関連項目

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外部リンク

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