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フルスルチアミン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
フルスルチアミン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
法的規制
識別
CAS番号
804-30-8
ATCコード None
PubChem CID: 3002119
ChemSpider 2273321
化学的データ
化学式C17H26N4O3S2
分子量398.54 g/mol
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フルスルチアミン: Fursultiamineアリナミン-F)は、テトラヒドロフルフリルジスルフィドチアミンとしても知られており、ジスルフィドチアミンやアリチアミンの誘導体である[1]。フルスルチアミンは、脚気等のビタミンB1欠乏症の治療のためにチアミンの親油性を高める目的で1960年代に日本で開発され[1][2]、日本のみならずスペインオーストリアドイツ米国でも製薬化された[3]。フルスルチアミンは、米国でビタミン剤としてOTC(over-the-counter)薬としても販売されている[4]

解説

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フルスルチアミンは、ビタミン欠乏症の適用に加えて、アルツハイマー症自閉症に対して臨床検査が行われ効果はあったものの微々たるものであった[5][6]。フルスルチアミンは、運動中の代謝改善や肉体疲労の軽減についても研究が行われた[7][8][4][9]

筑波大学と武田コンシューマーヘルスケア(現:アリナミン製薬)の共同研究によれば、前頭前皮質におけるドーパミン放出が増加し自発的な身体活動性を高める作用が、動物実験によって確認されている[10]

フルスルチアミンの発見と武田薬品工業の製剤化

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1951年(昭和26年)、米国で生のコイを餌にしていたキツネが脚気様症状を起こしたことに着目し研究を行っていた京都大学医学部衛生学教室の藤原元典が、ニンニク成分のアリシンにビタミンB1の吸収を助ける作用があることを解明し、ビタミンB1の結合物であるアリチアミン(ニンニクの学名「アリウム・サティブム」とビタミンB1の化学名「チアミン」を掛けて名付けた[11])を発見した[12][13]

武田薬品工業研究部と提携した藤原は、1952年(昭和27年)3月12日に、ニンニクの成分アリシンとビタミンB1が反応すると「アリチアミン」ができると報告した[14]。アリチアミンは、体内でB1にもどり、さらに腸管からの吸収がきわめてよく、血中B1濃度の上昇が顕著で長時間つづく、という従来のビタミンB1製剤にはない特性があることを報告した[15]

武田薬品工業はアリチアミンの製剤化に力を入れ、1954年(昭和29年)3月、アリチアミンの誘導体であるプロスルチアミンの内服薬「アリナミン糖衣錠」が発売され、脚気による死亡者を激減させる一助となった[13][16]。日本の脚気死亡者は、大正末期に年間25,000人を超えていたものの、1950年(昭和25年)3,968人、1955年(昭和30年)1,126人、1960年(昭和35年)350人、1965年(昭和40年)92人と減少した[17]

1960年代には神経痛に有効であるとしてアリナミン大量療法が実施され、ビタミンB1誘導体がブームとなった。アリナミンは服用すると呼気にニンニク臭が出る[18]ので改良がはかられた。コーヒーの芳香成分の1つであるフルフリルメルカプタンを利用するとニンニク臭が低減されることに着目した武田薬品工業は、フルスルチアミンを開発した。フルスルチアミンには、ビタミンB1と比較して吸収に優れ、組織によく移行し、体内で働く形の活性型ビタミンB1を多く産生する特徴があるとされる[13]

1961年、フルスルチアミンが配合された黄色の糖衣錠として「アリナミンF」が発売された[16]

脚注

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  1. ^ a b Lonsdale D (September 2004). “Thiamine tetrahydrofurfuryl disulfide: a little known therapeutic agent”. Medical Science Monitor : International Medical Journal of Experimental and Clinical Research 10 (9): RA199–203. PMID 15328496. http://www.medscimonit.com/fulltxt.php?ICID=11763. 
  2. ^ Miura S (July 1965). “[The uptake and the distribution of thiamine propyl disulfide-35S by the rabbit's eye tissue]” (Japanese). Nippon Ganka Gakkai Zasshi 69 (7): 792–807, discussion 807–8. PMID 5006719. 
  3. ^ Swiss Pharmaceutical Society (2000). Index Nominum 2000: International Drug Directory (Book with CD-ROM). Boca Raton: Medpharm Scientific Publishers. pp. 1932. ISBN 3-88763-075-0. https://books.google.co.jp/books?id=5GpcTQD_L2oC&lpg=PA1350&dq=fursultiamine&pg=PA478&redir_esc=y&hl=ja#v=onepage&q=fursultiamine&f=false 
  4. ^ a b Nozaki S, Mizuma H, Tanaka M, et al. (December 2009). “Thiamine tetrahydrofurfuryl disulfide improves energy metabolism and physical performance during physical-fatigue loading in rats”. Nutrition Research (New York, N.Y.) 29 (12): 867–72. doi:10.1016/j.nutres.2009.10.007. PMID 19963160. http://linkinghub.elsevier.com/retrieve/pii/S0271-5317(09)00192-4. 
  5. ^ Mimori Y, Katsuoka H, Nakamura S (March 1996). “Thiamine therapy in Alzheimer's disease”. Metabolic Brain Disease 11 (1): 89–94. PMID 8815393. 
  6. ^ Lonsdale D, Shamberger RJ, Audhya T (August 2002). “Treatment of autism spectrum children with thiamine tetrahydrofurfuryl disulfide: a pilot study”. Neuro Endocrinology Letters 23 (4): 303–8. PMID 12195231. 
  7. ^ Suzuki M, Itokawa Y (March 1996). “Effects of thiamine supplementation on exercise-induced fatigue”. Metabolic Brain Disease 11 (1): 95–106. PMID 8815395. 
  8. ^ Webster MJ, Scheett TP, Doyle MR, Branz M (1997). “The effect of a thiamin derivative on exercise performance”. European Journal of Applied Physiology and Occupational Physiology 75 (6): 520–4. PMID 9202948. 
  9. ^ Masuda H, Matsumae H, Masuda T, Hatta H (2010). “A thiamin derivative inhibits oxidation of exogenous glucose at rest, but not during exercise”. Journal of Nutritional Science and Vitaminology 56 (1): 9–12. PMID 20354340. https://doi.org/10.3177/jnsv.56.9. 
  10. ^ 筑波大学|お知らせ・情報|注目の研究|運動三日坊主に朗報? ~身体活動性を高めるフルスルチアミン(ビタミン B1 誘導体)の中枢刺激効果を確認~”. www.tsukuba.ac.jp. 2018年9月27日閲覧。
  11. ^ “「アリナミン」日本の疲れに60年、応えてきた 由来は「アリチアミン」 〈週刊朝日〉” (日本語). AERA dot. (アエラドット). (20140624T070000+0900). https://dot.asahi.com/articles/-/105718?page=1 2018年9月27日閲覧。 
  12. ^ “世界中の著名なにんにく研究者を紹介! | にんにく大辞典” (日本語). にんにく大辞典. (2017年7月10日). https://www.229dic.com/motto/researcher.html 2018年9月27日閲覧。 
  13. ^ a b c タケダが開発した‼ビタミンB1誘導体フルスルチアミンの歴史 脚気~疲労~健康寿命|からだ健康サイエンス”. アリナミン製薬株式会社. 2021年10月28日閲覧。
  14. ^ FUJIWARA, Motonori; WATANABE, Hiroshi (1952-3-12). “Allithiamine, a Newly Found Compound of Vitamin B1”. Proceedings of the Japan Academy (the Japan Academy) 28 (3): 156-158. doi:10.2183/pjab1945.28.156. ISSN 0021-4280. https://doi.org/10.2183/pjab1945.28.156 2020年1月25日閲覧。. 
  15. ^ 藤原元典「アリチアミンの発見」『ビタミン』第6巻第0号、日本ビタミン学会、1953年、857-862頁、doi:10.20632/vso.6.0_857NAID 10002872164 
  16. ^ a b アリナミン誕生ストーリー”. アリナミン製薬株式会社. 2021年10月28日閲覧。
  17. ^ 山下政三『鴎外森林太郎と脚気紛争』日本評論社、2008年、459-460頁
  18. ^ https://web.archive.org/web/20080427223143/http://www2.incl.ne.jp/~horikosi/No16.html [リンク切れ]

外部リンク

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