プベルル酸
プベルル酸 | |
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別称 プベルル酸 プベルリン酸 | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 99-23-0 |
PubChem | 592860 |
ChemSpider | 515376 |
UNII | 456JC9FRVK |
J-GLOBAL ID | 200907071324837390 |
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特性 | |
化学式 | C8H6O6 |
モル質量 | 198.13 g mol−1 |
外観 | 微黄色 |
密度 | 2.1 g/cm3, 固体 |
融点 |
316 °C(分解) |
水への溶解度 | 難溶 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
プベルル酸(プベルルさん、英: Puberulic acid)またはプベルリン酸(プベルリンさん) は、分子式C
8H
6O
6で表される七員環有機化合物(トロポロン類、トロポノイド)である[3]。アオカビ属により産生され、グラム陽性菌に対する殺菌作用を示す[4]。
発見
[編集]1932年にBirkinshawとRaistrickがPenicillium puberulum Bainier[注釈 2]から産生されるC
8H
6O
6の化学式を持つ化合物が存在することを報告し、これをプベルル酸と命名した[7]。P. aurantio-virens Biourge、P. johannioli Zaleski等の複数種のアオカビの培地からプベルロン酸(英: Puberulonic acid)と同時に得られることが知られている[8][9]。プベルロン酸は水存在下で100 °Cに加熱すると脱炭酸によりプベルル酸となる[10]。
性質
[編集]七員環構造を持つ。プベルル酸のエタノール溶液に塩化鉄(III)を加えると赤褐色を呈する[7][9]。316 °Cに加熱すると脱炭酸が起こり分解する。高度減圧下では220 °Cで昇華する[9]。塩基性下で過酸化水素を加えると容易に酸化されて、アコニット酸とマロン酸に分解する[11]。
比較的弱い抗生物質との報告がある[10]。グラム陽性菌にある程度の作用を示すが[12][13]、グラム陰性菌には作用が微弱である[13]。抗マラリア作用が報告されており[14]、クロロキン抵抗性マラリア原虫K-1株に対するin vitroでのIC50値は0.05 μMである[14][15]。また、ヒト細胞株MRC-5に対するIC50値は288.7 μMであった[14]IC50値は288.7 μMであった[14][注釈 3]。近縁化合物であるプベルロン酸は、HeLa細胞に対して細胞障害性があることも報告されている[16]。
全合成
[編集]プベルル酸の全合成はこれまでR.B.Johnsらの研究グループ(1954年)[17]、続いてM.G.Banwellらの研究グループ(1993年)[18]によって報告されている。どちらの合成経路でもシクロプロパン化したベンゼン誘導体からの環拡大によってトロポロン骨格が構築された[19]。
2014年には北里大学による研究で、D-(+)-ガラクトースを出発物質とする8段階、収率54%のプベルル酸の全合成が報告された[19]。
生合成
[編集]生合成においては、プベルロン酸がプベルル酸の前駆体となる[20]。アセチルCoA1単位とマロニルCoA3単位が縮合して、ポリケトメチレン鎖(プレベンゼノイド)ができ、これにC1付加反応が1箇所または2箇所で起こり七員環をもつプベルロン酸が形成されると推定されている[20]。これらの反応により生じたプベルロン酸は、酵素により脱炭酸されてプベルル酸となる[20]。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ “Puberulic Acid (Compound)”. PubChem. 2024年3月29日閲覧。
- ^ “Puberulic Acid”. chemspider. 2024年3月29日閲覧。
- ^ “プベルル酸 | 化学物質情報 | J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター”. jglobal.jst.go.jp. 2024年3月29日閲覧。
- ^ A. E. Oxford, H. Raistrick, G. Smith (1942). “Anti-Bacterial Substances from Moulds. Part VI. Puberulic Acid, C8H6O6 and Puberulonic Acid, C8H4O6 Metabolic Products of a Number of Species of Penicillium.”. Chemistry and Industry 61: 485-487 .
- ^ Genebank, NARO. “農業生物資源ジーンバンク - 日本植物病名データベース - ヒアシンス緑かび病”. www.gene.affrc.go.jp. 2024年7月31日閲覧。
- ^ a b 木村, 真、吉成, 知也、作田, 庄平、須賀, 晴久、福山, 朋季、小西, 良子「紅麹サプリメントから検出されたプベルル酸に関する学術情報」『マイコトキシン』advpub、2024年、doi:10.2520/myco.74-2-3、2024年5月17日閲覧。
- ^ a b Birkinshaw, John Howard; Raistrick, Harold (1932-01-01). “Studies in the biochemistry of micro-organisms” (英語). Biochemical Journal 26 (2): 441–453. doi:10.1042/bj0260441. ISSN 0306-3283 .
- ^ 住木諭介 1970, pp. 1138–1139.
- ^ a b c 共立出版『化学大辞典』プベルリン酸
- ^ a b 奥貫一男 1954, pp. 637–638.
- ^ 井本稔 1960, p. 32.
- ^ “puberulic acid” (英語). TheFreeDictionary.com. 2024年3月29日閲覧。
- ^ a b 梅沢純夫 1951, p. 86.
- ^ a b c d Iwatsuki, Masato; Takada, Shohei; Mori, Mihoko; Ishiyama, Aki; Namatame, Miyuki; Nishihara-Tsukashima, Aki; Nonaka, Kenichi; Masuma, Rokuro et al. (2011-02). “In vitro and in vivo antimalarial activity of puberulic acid and its new analogs, viticolins A–C, produced by Penicillium sp. FKI-4410” (英語). The Journal of Antibiotics 64 (2): 183–188. doi:10.1038/ja.2010.124. ISSN 1881-1469 .
- ^ Ishiyama, Aki; Iwatsuki, Masato; Yamamoto, Tsuyoshi; Miura, Hiromi; Ōmura, Satoshi; Otoguro, Kazuhiko (2014-07). “Antimalarial tropones and their Plasmodium falciparum glyoxalase I (pfGLOI) inhibitory activity” (英語). The Journal of Antibiotics 67 (7): 545–547. doi:10.1038/ja.2014.28. ISSN 1881-1469 .
- ^ 井川, 美好、辰野, 高司、角田, 廣、梅田, 誠「Penicillium resticulosum からのプベルロン酸の分離とその細胞毒性について」『マイコトキシン』第1979巻第9号、1979年、30–31頁、doi:10.2520/myco1975.1979.30。
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- ^ Banwell, Martin G.; Collis, Maree P.; Mackay, Maureen F.; Richards, Sharon L. (1993). “cis-Dihydrocatechols as precursors to highly oxygenated troponoids. Part 2. Regiocontrolled syntheses of stipitatic and puberulic acids” (英語). Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1 (16): 1913. doi:10.1039/p19930001913. ISSN 0300-922X .
- ^ a b Sennari, Goh; Hirose, Tomoyasu; Iwatsuki, Masato; Ōmura, Satoshi; Sunazuka, Toshiaki (2014). “A concise total synthesis of puberulic acid, a potent antimalarial agent” (英語). Chem. Commun. 50 (63): 8715–8718. doi:10.1039/C4CC03134B. ISSN 1359-7345 .
- ^ a b c 柴田承二 & 山崎幹夫 1965, p. 137.
参考文献
[編集]- 住木諭介『抗生物質 補遺』 1(1961〜1965)、東京大学出版会、1970年1月1日 。
- 化学大辞典編集委員会 編『化学大辞典』共立出版、1964年3月16日。
- 奥貫一男『植物生理化学』朝倉書店、1954年1月1日 。
- 柴田承二、山崎幹夫『植物成分の生合成』東京化学同人〈現代化学シリーズ 28巻〉、1965年1月1日 。
- 井本稔 編『大有機化学』 第13 (非ベンゼン系芳香環化合物)、朝倉書店、1960年1月1日 。
- 梅沢純夫『新薬物集覧』日新書院〈応用化学集覧 第1〉、1951年1月1日 。