プル・アップ・サム・ダスト・アンド・シット・ダウン
『プル・アップ・サム・ダスト・アンド・シット・ダウン』 | ||||
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ライ・クーダー の スタジオ・アルバム | ||||
リリース | ||||
録音 | カリフォルニア州チャッツワース ワイアーランド・スタジオ、カリフォルニア州バーバンク オーシャン・スタジオ、カリフォルニア州ノースハリウッド ドライヴ・バイ・スタジオ[1][3] | |||
ジャンル | ロック、フォーク、アメリカーナ | |||
時間 | ||||
レーベル | ノンサッチ・レコード | |||
プロデュース | ライ・クーダー | |||
専門評論家によるレビュー | ||||
チャート最高順位 | ||||
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ライ・クーダー アルバム 年表 | ||||
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『プル・アップ・サム・ダスト・アンド・シット・ダウン』(Pull Up Some Dust and Sit Down)は、アメリカ合衆国のギタリスト、ライ・クーダーが2011年に発表したスタジオ・アルバム。
背景
[編集]2000年代後半の「カリフォルニア三部作」(『チャヴェス・ラヴィーン』、『マイ・ネーム・イズ・バディ』、『アイ・フラットヘッド』)が歴史的な題材を取り上げていたのに対し、本作はリアルタイムの政治批判が押し出された作風で、その路線は次作『エレクション・スペシャル』(2012年)にも引き継がれた[20]。
収録曲「ノー・バンカー・レフト・ビハインド」のタイトルは、ニュースサイト「Truthdig」の記事に由来しており[21]、ロバート・シアーが2010年2月24日に配信した元記事は、財務省および連邦準備制度理事会が、ウォール街の金融機関を支援するため公的資金で住宅ローンを買い取るプログラムを「盗みのライセンス」「恩恵を受けたのはほとんど大手の銀行家たちだけ」と批判した内容である[22]。なお、この曲を含む本作収録曲の一部がTruthdig Radioでオン・エアされた際、前述のロバート・シアーはアルバムの全体像を「ジョン・レノンの"Working Class Hero"にも匹敵する」と語っている[23]。
「クイック・サンド」はアリゾナ州不法移民取締法(SB1070)に反対した曲で、本作に先がけてiTunesで配信されたヴァージョンの売り上げはメキシコ系アメリカ人法的擁護・教育基金に寄付され、本作には別ヴァージョンが収録された[24]。「クリスマス・タイム・ディス・イヤー」と「ベイビー・ジョインド・ジ・アーミー」は、外国の戦場へ駆り出された米軍兵士を題材としている[24]。
「ジョン・リー・フッカーを大統領に」はクーダーのギター弾き語りのみの録音で[3]、もしブルース・ミュージシャンのジョン・リー・フッカー(2001年死去)が大統領選挙に出馬したら、どんな演説をするかを想像して作られ、フッカーの曲のフレーズや演奏スタイルも取り入れられている[21]。「イフ・ゼアズ・ア・ゴッド」は共和党を批判した曲で、歌詞に登場する「Republiklan」という言葉は「共和党(Republican)」と「クー・クラックス・クラン(Ku Klux Klan)」合わせた造語であり[21]、クーダーは「Republiklan」がジム・クロウ法を再制定しようとしていると歌っている[1]。
反響
[編集]アメリカでは総合アルバム・チャートのBillboard 200で123位に達し、『ビルボード』のロック・アルバム・チャートでは28位に達した[19]。ノルウェーのアルバム・チャートでは6週トップ40入りして最高9位を記録し、同国において自身6作目のトップ10アルバムとなった[7]。
評価
[編集]第54回グラミー賞では最優秀アメリカーナ・アルバム賞にノミネートされた[25]。イギリスの音楽雑誌『アンカット』が選出した「2011年のベスト・アルバム50」では20位にランク・インし、1年後の改訂では21位となった[26]。
Thom Jurekはオールミュージックにおいて5点満点中4点を付け「ライ・クーダーのアルバムの中では、最も公然と政治的題材を取り上げた作品である一方、特に愉快で、音楽的説得力のあるアルバムの一つでもある」「時事問題を扱った音楽が退屈だなんて誰が言った?」と評している[1]。Robin Denselowは2011年9月1日付の『ガーディアン』紙のレビューで満点の5点を付け「彼がキャリア初期の1970年代に発表したアルバムと同様、爽快で大胆で独創的」と評している[4]。ニール・スペンサーは2011年9月4日付の『The Observer』紙で満点の5点を付け「音楽的には、彼が1970年代に探求してきたブルース、フォーク、テックス・メックスに立脚しているが、歌そのものは現代的である」「彼は当代のウディ・ガスリーとなった」と評している[5]。また、Philip MajorinsはPopMattersにおいて10点満点中8点を付け「一貫した物語ではないかもしれないが、明らかな主題がある」と評している[6]。
収録曲
[編集]特記なき楽曲はライ・クーダー作。
- ノー・バンカー・レフト・ビハインド - No Banker Left Behind - 3:36
- エル・コリド・ドゥ・ジェシー・ジェイムス - El Corrido de Jesse James - 4:17
- クイック・サンド - Quick Sand - 3:17
- ダーティ・シャトー - Dirty Chateau - 5:29
- ハンプティ・ダンプティ・ワールド - Humpty Dumpty World - 4:18
- クリスマス・タイム・ディス・イヤー - Christmas Time This Year - 2:49
- ベイビー・ジョインド・ジ・アーミー - Baby Joined the Army - 6:35
- ロード・テル・ミー・ホワイ - Lord Tell Me Why (Ry Cooder, Jim Keltner) - 3:01
- アイ・ウォント・マイ・クラウン - I Want My Crown - 2:37
- ジョン・リー・フッカーを大統領に - John Lee Hooker for President - 6:08
- ドリーマー - Dreamer - 5:06
- シンプル・ツールズ - Simple Tools - 5:07
- イフ・ゼアズ・ア・ゴッド - If There's a God - 3:06
- ノー・ハード・フィーリングス - No Hard Feelings - 5:52
参加ミュージシャン
[編集]- ライ・クーダー - ボーカル、ギター、ベース、バホ・セクスト、マンドリン、マンドラ、バンジョー、キーボード、マリンバ
- ロバート・フランシス - ベース(on #6, #9, #14)
- レネ・カマチョ - ベース(on #11, #12)
- ヨアキム・クーダー - ドラムス(on #1, #2, #3, #4, #5, #6, #9, #11, #12, #13, #14)、ベース(on #5)
- ジム・ケルトナー - ドラムス(#8)
- エドガー・カストロ - パーカッション(on #2)、ティンバレス、スネアドラム、バスドラム(on #9)
- フラコ・ヒメネス - アコーディオン(on #2, #6, #11)
- アルトゥーロ・ガヤルド - クラリネット(on #2, #9)、サクソフォーン(on #9, #11)
- カルロス・ゴンザレス - トランペット(on #2, #9)
- エラスト・ノブルス - トロンボーン(on #2, #9)
- パブロ・モリーナ - スーザフォン(on #2, #9)、アルトホルン(on #2)
- イスマエル・ヘルナンデス、ヘスス・グスマン、ジミー・クエヤル、ラウル・クエヤル - ヴァイオリン(on #4)
- ジュリエット・コマジェーレ - バックグラウンド・ボーカル(on #4, #12)
- アーノルド・マッカラー、テリー・エヴァンス、ウィリー・グリーン - バックグラウンド・ボーカル(on #5, #8, #9, #14)
脚注
[編集]- ^ a b c d e Jurek, Thom. “Ry Cooder - Pull Up Some Dust and Sit Down Album Reviews, Songs & More”. AllMusic. 2024年1月11日閲覧。
- ^ a b “プル・アップ・サム・ダスト・アンド・シット・ダウン - ライ・クーダー”. オリコン. 2020年7月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月11日閲覧。
- ^ a b CD英文ブックレット内クレジット
- ^ a b Denselow, Robin (2011年9月1日). “Ry Cooder: Pull Up Some Dust and Sit Down - review”. The Guardian. Guardian News & Media. 2024年1月11日閲覧。
- ^ a b Spencer, Neil (2011年9月4日). “Ry Cooder: Pull Up Some Dust and Sit Down - review”. The Observer. Guardian News & Media. 2024年1月11日閲覧。
- ^ a b Majorins, Philip (2011年10月10日). “Ry Cooder: Pull Up Some Dust and Sit Down”. PopMatters. 2024年1月11日閲覧。
- ^ a b norwegiancharts.com - Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down
- ^ swedishcharts.com - Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down
- ^ Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down - ultratop.be
- ^ Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down - dutchcharts.nl
- ^ RY COODER songs and albums | full Official Chart history
- ^ charts.org.nz - Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down
- ^ finnishcharts.com - Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down
- ^ italiancharts.com - Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down
- ^ Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down - hitparade.ch
- ^ Offizielle Deutsche Charts
- ^ Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down - austriancharts.at
- ^ spanishcharts.com - Ry Cooder - Pull Up Some Dust And Sit Down
- ^ a b “Ry Cooder - Awards”. AllMusic. 2016年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年1月11日閲覧。
- ^ 大場正明 (2018年5月6日). “ライ・クーダー(Ry Cooder)、ゴスペルに取り組んだ新作『The Prodigal Son』で現代アメリカと対峙する”. Mikiki. Tower Records Japan. 2024年1月11日閲覧。
- ^ a b c 日本盤CD (WPCR-14218)ライナーノーツ(五十嵐正、2011年7月)
- ^ Scheer, Robert (2010年2月24日). “No Banker Left Behind”. Truthdig. 2024年1月11日閲覧。
- ^ “Ry Cooder Listening Party With Robert Scheer”. Truthdig (2011年10月3日). 2024年1月11日閲覧。
- ^ a b Kidney, David (2011年9月8日). “Telling Us What He Thinks: Ry Cooder, Pull Up Some Dust and Sit Down (Nonesuch Records, 2011)”. Critics At Large. 2024年1月11日閲覧。
- ^ “Ry Cooder - Artist”. GRAMMT.com. Recording Academy. 2024年1月11日閲覧。
- ^ Mulvey, John (2013年1月10日). “Uncut’s Top 50 of 2011; One Year On…”. Uncut. NME Networks. 2024年1月11日閲覧。
外部リンク
[編集]- プル・アップ・サム・ダスト・アンド・シット・ダウン - Discogs (発売一覧)