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ペル方程式

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ペル方程式(ペルほうていしき、: Pell's equation)とは、n平方数ではない自然数として、未知整数 x, y について

x2ny2 = 1

の形のディオファントス方程式である。

ペル方程式の一般的な解法は、1150年にインドのバースカラ2世が見つけている。彼はブラーマグプタチャクラバーラ法英語版を改良した解法を使い、同じ技法を応用して不定二次方程式や二次ディオファントス方程式の一般解も見つけた。西洋におけるペル方程式の一般的な解法は、ウィリアム・ブランカーが発見した。しかし、オイラーはこの方程式を研究したのはジョン・ペルであると誤解し「ペル方程式」と命名したため、その名前が広く使われるようになった。

解法

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平方数でない正の整数 n に対してペル方程式は必ず自明な解 (x = 1, y = 0) 以外の整数解を持つことが知られている。また1つの解 (x, y) を得たとすれば、

は全てペル方程式の解になる。また逆にペル方程式の全ての解は最小解の冪乗になることが知られている。

最小解を得る法としては、連分数展開からの近似分数を利用する方法が良く用いられる。

具体的には、n連分数展開を、n = A = [a0; a1, a2, …, am] と置き、近似分数 P/Q を、P/Q = B = [a0; a1, a2, …, am−1]とすると、(x, y) = (P, Q) が解になる。ただし、周期 m が奇数の場合は、右辺 = −1 の解が得られるので、1 の解を得るには上記の式で二乗する必要がある。ここで、Aa0整数部分a1, a2, …, am を循環節とする無限連分数で、B は循環節を一周期だけ採り、最後の項 am を除いた、有限連分数である。ちなみに、a1, a2, …, am−1 は左右対称となっており、am = 2a0 が常に成立する。

例えば n7 ならば、7 = [2; 1, 1, 1, 4] (周期は 4 で偶数) なので、[2; 1, 1, 1] から近似分数 8/3 が得られ、(x, y) = (8, 3) が最小解となる。n61 の場合は、61 = [7; 1, 4, 3, 1, 2, 2, 1, 3, 4, 1, 14](周期は 11 で奇数)なので近似分数 29718/3805 が得られ、右辺 = −1 の最小解は となる。右辺 = 1 の最小解は、 から (x, y) = (1766319049, 226153980) となる。

解の公式から

とおくと、

が得られる。つまり、ペル方程式の解に対して、yk/y, 2xkリュカ数列を構成する。

拡張1

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冒頭の不定方程式の右辺を 1 のかわりに −1 としたもの

もペル方程式と呼ばれることがあるが、これは n の値によっては解を持たないこともある。

解を持つ n と、解の例をいくつか挙げる:n = 2 のとき (x, y) = (1, 1), n = 5 のとき (x, y) = (2, 1), n = 13 のとき (x, y) = (18, 5)

どのような n が -1 の解を持つのかは、未解決問題だが、n を連分数展開したときの循環節の長さ(周期)が奇数のとき、かつその場合に限り解を持つことが、知られている。−1 の解を持つ n の必要条件としては、

  1. 4の倍数でない
  2. 4k + 3 型の素因数を持たない
  3. k2 + 2k/a (0 < a < 2k, a | 2k) の形でない[注 1]

が挙げられる。1, 2は、

N = x2 + 1 = ny2

と置いたとき、N が2平方和に分解されており、gcd(x, 1) = 1 であることから、2平方和定理からの自明な帰結として得られる。3は、この形の数の平方根が と、周期2の連分数に展開されることから、導かれる。例えば、a = k = 12 なら 122+2 = 146 = [12; 12, 24, 12, 24, …] である[注 2]。上記が、必要条件であり、必要十分条件でないことは、34 (= 2 × 17), 205 (= 5 × 41), 221 (= 13 × 17) などの多数の反例で示される。

十分条件の報告例は少ないが、n が 4k + 1 型の素数の場合や 8k + 5 型の素数の2倍の場合も、必ず解を持つことが報告されている[1]。また、n = k2 + 1 の形であれば、(x, y) = (k, 1) が解になることは、明らかであろう[注 3]

拡張2

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右辺を1の代わりに4としたもの

x2ny2 = ±4

もペル方程式とよばれることがあるが、これは二次体単数と深く関連している。K を二次体とし、D をその判別式とすると、

x2Dy2 = ±4

の整数解に対して

(x + yD)/2

全体は K の単数全体と一致する。特に最小解を (x1, y1) とおくと、

K の基本単数となり、この方程式の解について、通常のペル方程式の場合と類似した公式

が得られる。

最小解の一覧表

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x2ny2 = 1 の、115 以下の n についての最小解の一覧表を、以下に示す。

n x y n x y n x y
2 3 2 42 13 2 79 80 9
3 2 1 43 3482 531 80 9 1
5 9 4 44 199 30 82 163 18
6 5 2 45 161 24 83 82 9
7 8 3 46 24335 3588 84 55 6
8 3 1 47 48 7 85 285769 30996
10 19 6 48 7 1 86 10405 1122
11 10 3 50 99 14 87 28 3
12 7 2 51 50 7 88 197 21
13 649 180 52 649 90 89 500001 53000
14 15 4 53 66249 9100 90 19 2
15 4 1 54 485 66 91 1574 165
17 33 8 55 89 12 92 1151 120
18 17 4 56 15 2 93 12151 1260
19 170 39 57 151 20 94 2143295 221064
20 9 2 58 19603 2574 95 39 4
21 55 12 59 530 69 96 49 5
22 197 42 60 31 4 97 62809633 6377352
23 24 5 61 1766319049 226153980 98 99 10
24 5 1 62 63 8 99 10 1
26 51 10 63 8 1 101 201 20
27 26 5 65 129 16 102 101 10
28 127 24 66 65 8 103 227528 22419
29 9801 1820 67 48842 5967 104 51 5
30 11 2 68 33 4 105 41 4
31 1520 273 69 7775 936 106 32080051 3115890
32 17 3 70 251 30 107 962 93
33 23 4 71 3480 413 108 1351 130
34 35 6 72 17 2 109 158070671986249 15140424455100
35 6 1 73 2281249 267000 110 21 2
37 73 12 74 3699 430 111 295 28
38 37 6 75 26 3 112 127 12
39 25 4 76 57799 6630 113 1204353 113296
40 19 3 77 351 40 114 1025 96
41 2049 320 78 53 6 115 1126 105

x2ny2 = −1 の、653 以下の n についての最小解の一覧表を、以下に示す。

n n n
2 1 1 193 1764132 126985 409 111921796968 5534176685
5 2 1 197 14 1 421 44042445696821418 2146497463530785
10 3 1 202 3141 221 425 268 13
13 18 5 218 251 17 433 7230660684 347483377
17 4 1 226 15 1 442 21 1
26 5 1 229 1710 113 445 4662 221
29 70 13 233 23156 1517 449 189471332 8941705
37 6 1 241 71011068 4574225 457 59089951584 2764111349
41 32 5 250 4443 281 458 107 5
50 7 1 257 16 1 461 24314110 1132421
53 182 25 265 6072 373 481 964140 43961
58 99 13 269 82 5 485 22 1
61 29718 3805 274 1407 85 493 683982 30805
65 8 1 277 8920484118 535979945 509 395727950 17540333
73 1068 125 281 1063532 63445 521 128377240 5624309
74 43 5 290 17 1 530 23 1
82 9 1 293 2482 145 533 6118 265
85 378 41 298 409557 23725 538 69051 2977
89 500 53 313 126862368 7170685 541 1361516316469227450 58536158470221581
97 5604 569 314 443 25 554 174293 7405
101 10 1 317 352618 19805 557 118 5
106 4005 389 325 18 1 565 14752278 620633
109 8890182 851525 337 1015827336 55335641 569 2894863832 121359005
113 776 73 338 239 13 577 24 1
122 11 1 346 93 5 586 4115086707 169992665
125 682 61 349 9210 493 593 600632 24665
130 57 5 353 71264 3793 601 139468303679532 5689030769845
137 1744 149 362 19 1 610 71847 2909
145 12 1 365 3458 181 613 481673579088618 19454612624065
149 113582 9305 370 327 17 617 41009716 1650989
157 4832118 385645 373 5118 265 626 25 1
170 13 1 389 1282 65 629 7850 313
173 1118 85 394 395023035 19900973 634 65999458125 2621173333
181 1111225770 82596761 397 20478302982 1027776565 641 36120833468 1426687145
185 68 5 401 20 1 653 2291286382 89664965

脚注

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  1. ^ a | x は、ax割り切る(即ち、ax の因数である)ことを表す。k2 + 2, k2 + k (= k (k + 1)), k2 + 2k (= (k + 1)2 − 1) は、全てこの形に含まれる。
  2. ^ a = 12, k = 30 なら である。周期が 4, 6 のときの形を示すこともできるが、かなり煩雑であり、周期が偶数(又は奇数)の場合の一般形を示せなければ、情報としての価値が低いので、周期2の形のみを示す。
  3. ^ この形は、必要条件3で a = 2k とした場合に相当し、その平方根は と、周期 1 の連分数に展開される。近似分数は、k/1 である。

出典

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参考文献

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  • 和田秀男『数の世界 - 整数論への道』岩波書店、1981年7月10日。 
  • ジョセフ・H・シルヴァーマン 著、鈴木治郎 訳『はじめての数論 原著第3版 発見と証明の大航海――ピタゴラスの定理から楕円曲線まで』ピアソン・エデュケーション、2007年4月25日。ISBN 978-4-89471-492-2 
    • 第27章 どの数が平方数2つの和となるのでしょう?(193–194頁)
    • 第40章 連分数,平方根,そしてペル方程式(327–341頁)
  • 高木貞治:「初等整数論講義」第2版,共立出版 (1971)。

関連項目

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外部リンク

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