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マーズ・オービター・ミッション

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Mars Orbiter Mission (Mangalyaan)
火星周回軌道上の衛星(想像図)
所属 ISRO
公式ページ Mars Orbiter Mission
国際標識番号 2013-060A
カタログ番号 39370
状態 運用終了
目的 火星探査
観測対象 火星
計画の期間 300日
打上げ場所 サティシュ・ダワン宇宙センター
打上げ機 PSLV-XL
打上げ日時 2013年11月5日 9時8分(UTC)
軌道投入日 2014年9月24日 2時(UTC)
通信途絶日 2022年4月
物理的特長
質量 1337 kg
発生電力 840 W(火星周回軌道上)
主な推進器 440 Nスラスタ
姿勢制御方式 3軸姿勢制御
軌道要素
周回対象 火星
軌道傾斜角 (i) 150度
軌道周期 (P) 76.7時間
観測機器
MCC 火星用カラーカメラ
TIS 熱赤外線イメージング分光計
MSM 火星大気メタンセンサー
LAP ライマンα線フォトメータ
MENCA 火星高層大気粒子質量分析計
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マーズ・オービター・ミッションMars Orbiter Mission、MOM)とは、インド宇宙研究機関(ISRO)による火星探査計画である。火星を長楕円軌道で周回しつつ、5つの搭載機器で観測を行う計画であり、その周回探査機は非公式の愛称としてMangalyaan(マンガルヤーン「火星の乗り物」)と呼ばれている。探査機の火星周回軌道の投入や火星探査にも成功し、当初の目的は達せられた。

概要

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計画

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マーズ・オービター・ミッションは2012年8月4日にインド政府によって承認され、マンモハン・シン首相は同月15日の独立記念日演説において、国民に向けインド初の惑星探査機で、火星を目指すと発表した[1]

これがインドで初めての地球の引力圏を脱出させる試みであり、全てインドの技術だけで探査機の開発を行った、言わば、インドの惑星探査技術の実証ミッションであった[2]。探査機にはインドの気象衛星Kalpana-1や測位衛星IRNSS-1と同じプラットフォームである「I-1K」を用い、インド宇宙研究機関の衛星センター(ISAC)において組立が行われた。メインエンジンとしてモノメチルヒドラジン四酸化二窒素を使用する2液式ロケット(推力440 N)を搭載し、その他に、姿勢制御用として小型スラスタ8基(推力22 N)を備える。

ミッション実行

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マーズ・オービター・ミッションの打ち上げ

2013年11月5日にサティシュ・ダワン宇宙センターよりPSLV-XLロケットを使用して打ち上げられ、近地点252 km、遠地点28,825 kmの楕円軌道に投入された後、やり直し1回を含む計6回のスラスタ噴射を順次行って、11月16日には遠地点高度を192,874 kmへ引き上げた。その後12月1日に22分間のスラスタ噴射を行ってさらに加速し、地球周回軌道を離脱して火星へ向かう遷移軌道に入った[3]。火星到達は2014年9月24日の予定とされた。その後、火星付近で減速して、近火星点365 km、遠火星点80,000 kmの長楕円軌道に投入し、可視光カメラによる地表観測、地表の鉱物分布、火星大気の逸出状況、生命活動に由来するメタンの存在有無に関する調査を300日間にわたって行う計画であった。

探査機との通信はカルナータカ州Byalaluに所在する、インド深宇宙ネットワーク英語版の32 mのパラボラアンテナを用いて行われ、バンガロールのテレメトリー追跡コマンドネットワーク(ISTRAC)が探査機の管制を行う。この探査ミッションは、7200万ドルの低コストであると共に[4]、政府によって計画が承認されてから打ち上げまで僅か1年5ヵ月という異例の短期間で成し遂げられた。

2014年6月16日インド宇宙研究機関は、同年9月24日に火星の周回軌道上に達する見通しだと発表した[5][6]。9月24日7時30分過ぎに、予定通り火星周回軌道への投入に成功し、インドはアジアで初めて[注 1]探査機を火星に到達させた国となった[7][8]。同日8時にはアンテナが地球の方向を向いていることが確認され、地球との交信を確保し、周回軌道投入の成功が明らかとなった。探査機からは火星の上空7.3 kmから地表を撮影した写真が届き、ISROはTwitterの公式アカウントを通じて、これを公開した[9][10]。観測機器も動作し、探査機による観測データは世界中の研究者に公開された[11]

2022年9月27日にインド宇宙機関が開いた記者会見で、探査機が長期にわたる日食後同年4月に通信が途絶し、推進剤が枯渇した可能性があることが指摘された[12][13][14]。関係者によれば火星でのミッションは当初想定の6か月を大幅に上回る8年に及んだ[12][13]

マーズ・オービター・ミッションの軌道アニメーション
      マーズ・オービター・ミッションの軌道 ·       火星 ·       地球 ·       太陽

観測機器

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火星の地表の観測機器

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  • 火星用カラーカメラ MCC (Mars Colour Camera) - 火星の表面を可視光で撮影する。
  • 熱赤外線イメージング分光計 TIS (Thermal Infrared Imaging Spectrometer) - 太陽に加熱されたために火星の表面から放出される赤外線の状態を調べる。これによって、火星の表面に存在する鉱物を間接的に知る手掛かりが得られる[11]

火星の大気の観測機器

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  • 火星大気メタンセンサー MSM (Methane Sensor for Mars) - 火星の表面にまで達する太陽光の反射光を観測し、火星の大気中に含まれるメタンの吸光を調べ、それによって火星の大気のメタンを検知する[11]
  • ライマンα線フォトメータ LAP (Lyman Alpha Photometer) - 火星の大気に含まれる水素が発するライマンα線を観測する[11]。つまり、火星の高層大気の水素の状態を観測するための機器である。
  • 火星高層大気非電離粒子質量分析計 MENCA (Mars Enospheric Neutral Composition Analyser) - 探査機が火星を周回する軌道にまで漂っている火星大気の成分に対して、質量分析を行う[11]

映画化

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インドは映画制作も盛んな地域の1つであり、本ミッションの実現までがインドで『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』として映画化され、2019年に公開された[15][16]。日本では2021年に公開された。

脚注

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注釈

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  1. ^ アジアの国では日本の「のぞみ」、中国の「蛍火1号」が先行して打ち上げられたものの、いずれも火星周回軌道への投入には失敗した。

出典

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  1. ^ Manmohan formally announces India's Mars mission”. The Hindu (2012年8月2日). 2014年7月4日閲覧。
  2. ^ 小谷太郎 『宇宙の謎に迫れ! 探査機・観測機器61』ベレ出版、2020年3月25日、 p.62、63 ISBN 978-4-86064-611-0
  3. ^ As Mangalyaan leaves Earth orbit, India's maiden Mars Mission enters second phase”. India Today (2013年12月2日). 2014年7月4日閲覧。
  4. ^ “India launches spacecraft to Mars”. BBC. (2013年11月5日). https://www.bbc.co.uk/news/science-environment-24729073 2014年7月4日閲覧。 
  5. ^ “9月24日に火星軌道に到達 インドの探査機”. 産経新聞. (2014年6月17日). https://web.archive.org/web/20140616175746/http://sankei.jp.msn.com/world/news/140617/asi14061700140002-n1.htm 2014年7月4日閲覧。 
  6. ^ インドの火星探査機マーズ・オービター、火星到着の日まで、あと100日”. sorae.jp (2014年6月16日). 2014年7月4日閲覧。
  7. ^ "Mars Orbiter Spacecraft Successfully Inserted into Mars Orbit" (Press release). インド宇宙研究機関. 24 September 2014. 2014年9月28日閲覧
  8. ^ “インド探査機、火星到達に成功 アジア初、周回軌道入り”. 産経新聞. (2014年9月24日). https://web.archive.org/web/20140924095902/http://sankei.jp.msn.com/science/news/140924/scn14092417380003-n1.htm 2014年9月24日閲覧。 
  9. ^ CNJ. “アジアの火星探査機、勝者はインド:「格安」探査機、火星軌道から画像を送信”. WIRED.jp. 2021年1月11日閲覧。
  10. ^ インドの火星探査機「マンガルヤーン」が軌道投入成功 アジア初”. www.astroarts.co.jp. 2021年1月11日閲覧。
  11. ^ a b c d e 小谷 太郎 『宇宙の謎に迫れ! 探査機・観測機器61』 p.63 ベレ出版 2020年3月25日発行 ISBN 978-4-86064-611-0
  12. ^ a b SCIENCE PROGRAMME OFFICE (SPO), ISRO HEADQUARTERS” (英語). インド宇宙機関. 2022年10月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年8月23日閲覧。
  13. ^ a b “With drained battery and no fuel, Mangalyaan bids adieu” (英語). The Hindu. (2022年10月2日). https://www.thehindu.com/sci-tech/science/with-drained-battery-no-fuel-indias-mars-orbiter-craft-quietly-bids-adieu/article65962810.ece 2023年8月23日閲覧。 
  14. ^ Kumar, Chethan (2 October 2022). “Designed to last six months, India's Mars Orbiter bids adieu after 8 long years” (英語). ザ・タイムズ・オブ・インディア. https://timesofindia.indiatimes.com/india/designed-to-last-six-months-indias-mars-orbiter-bids-adieu-after-8-long-years/articleshow/94599977.cms 2023年8月23日閲覧。 
  15. ^ “アジア初の火星探査機打上げの実話映画『ミッション・マンガル』予告解禁”. SCREEN ONLINE. (2020年11月20日). https://screenonline.jp/_ct/17410757 2020年11月21日閲覧。 
  16. ^ ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画 - 映画.com

関連項目

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外部リンク

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