ムラピ山
ムラピ山(ムラピさん、インドネシア語: Gunung Merapi)は、インドネシア・ジャワ島中央部の火山である。インドネシアでも最も活動的な火山で、ほぼ1年中噴煙を上げ、1548年以来68回噴火をしている。名称は「火の山」の意味。メラピ山とも書かれる。
活動は40万年前から始まり、1万年前から活発になった。安山岩質の溶岩ドームを崩落させて火砕流を起こすことで知られ、メラピ型火砕流と呼ばれる。同様の例としては、雲仙岳[注釈 1]がある。
ムラピ山はジョグジャカルタに近く(約30km南)、山体には標高1,700mの地点にさえ村があり、中腹には数千人が居住している。また、噴火被害の危険性から、国際火山学地球内部化学会から防災十年火山(Decade Volcanoes)に指定されていた。
歴史
[編集]1006年、死者数千人、1672年、死者3,000人、1872年4月(VEI4)、死者1,400人、1930年(VEI3)、死者1,300人、1966年、死者64人、1994年には60人が犠牲になっている。他にも1548年、1786年、1822年、1846年(VEI3)、 1849年(VEI3)、1961年(VEI3)などにも爆発している。
2006年5月より火山活動が活発になり、同年5月13日に避難勧告が発令され、15日には大規模な火砕流が起こった。2人死亡。
2010年の噴火
[編集]- 10月25日、インドネシア政府は23-24日に起こった500回以上の火山性地震を踏まえ、ムラピ山に4段階のうち警戒レベルを最高度に引き上げ、山頂から10km以内の避難勧告を出した。
- 10月26日、ムラピ山が噴火を起こして火砕流が村を直撃し、29人が死亡した。大きなものは14時4分、14時24分、15時15分の3回[2]。
- 11月4日、5時55分からの33分間の爆発は1872年以来最大で、噴煙が上空10kmまで上がった。
- 11月4日深夜 - 11月5日、爆発が起こり、火砕流が13km以上下り、噴火音は20km先まで聞こえた。18km離れた村などで子供を中心に64人が死亡、今回の一連の爆発の死者は合計122人、避難者は約15万人となった。ジョグジャカルタ国際空港は5日午前閉鎖された[3][4]。約25km西にある世界遺産のボロブドゥール遺跡にも降灰があった。これまでの総噴出量は5,000万立方mに及んだ。
- 11月6日、ジャカルタ郊外にも降灰が及んだ。シンガポール航空、マレーシア航空[注釈 2][5]など16社はジャカルタへの定期便48便を休止した。日本航空725便(B777-300、乗員乗客86人、1日1便)は正午頃成田空港を出たが、22時に引き返した[6]。日本航空によれば上空16kmまで噴煙があるという[7][注釈 3]。雨期に入り大雨が降りラハールが発生している。
- 11月7日、爆発は続き、死者は156人、避難者は20万人になった。シンガポール航空など数社は午後便から運航再開。日本航空は230人搭乗予定の便を欠航[8]。
- 11月8日、日本航空などは運航再開、避難者は29万人に[9]。
- 11月9日、オーストラリア気象庁は二酸化硫黄(亜硫酸ガス)が上空12,000 - 15,000mにまで達したと発表した。
- 11月10日、再噴火した。噴煙の高さは1,500mだが、全方面に灰をまき散らし、場所によっては山頂から50kmまで届いた。死亡者累計191人、重症598人になった。避難者総数は中部ジャワ州23万人、ジョクジャカルタ市11万人の合計約35万人だが、避難勧告地域が半径20kmまで拡大されたため、避難対象人口110万人の3分の1にとどまっている[10]。キャセイ航空とカンタス航空の一部のジャカルタ便が休止し、休止はバリ島のデンパサール空港に及んだ(全面休止は、現在の所ジョクジャカルタ空港のみである)。アメリカのバラク・オバマ大統領のインドネシア訪問日程が短縮された。
- 11月11日
- 11月12日、死者累計206人。避難者総数38万人、噴出物総量1.4億立方m(1872年は1億)[12]。
- 11月14日
- 11月15日、死者は259人以上。ボランティアが1人死亡。噴火が落ち着いたため、帰宅を始める人も出てきている。火山灰により腐食のおそれがあるため、ボロブドール遺跡を掃除。
- 11月19日、危険な南側の避難地域を15kmに縮小。警戒警報は続行。
- 11月20日、死者292人、避難者27万人。ジョクジャカルタ空港再開。
- 11月21日、死者304人、避難者20万人。
- 11月23日、死者322人、避難者13万人。
2018年の噴火
[編集]日本時間5月11日9時40分頃に噴火し海抜1万3千メートルを超える高さまで噴煙があがった模様。[14]
2020年以降の噴火
[編集]2020年2月13日、噴火。火口からは溶岩が流出し、噴煙は上空2000メートルに達した[15]。その後も噴火は断続的に継続[16]し、2021年1月7日にでも溶岩を噴出する噴火が発生した[17]。同年1月27日には、高温の火山灰が1日で30回以上噴出、山頂から3キロ離れた地点でも降灰が確認された[18]。2022年3月10日、複数回の噴火により、253人が避難。火口から半径7キロ以内に立ち入り規制が出された[19]2023年5月23日、噴火。溶岩が火口から2km以上流れ出した[20]。
生態系
[編集]山周辺の熱帯林はジャワ島とバリ島の山地林の生態系に属し、東洋区のスンダランド地域の生物多様性の保全にとって重要な場所である。付近にカニクイザル、ヒョウ、ソデグロムクドリなどが生息し、2020年に付近のメルバブ山、セルモ貯水池およびカルスト地形のあるムノレ丘陵一帯と共にユネスコの生物圏保護区に指定された[21]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 1991年6月3日に大規模な火砕流を起こした
- ^ ジャカルタ国際空港(スカルノ・ハッタ空港)(ムラピ山から西へ750km)への運航休止(7日午前現在)はシンガポール航空など
- ^ ムラピ付近では東風が吹き、西のボロブドール遺跡やジャカルタ方面、及びインド洋、場合によっては数百km沖合上空に噴煙が流れる。2日にインドネシア当局は航空路の切り替えを要請している
- ^ マレーシア航空はジョクジャカルタ便を15日まで、バンドン便を11日まで休止する。ジャワ島内では他にソロ(Solo、スラカルタ市)空港が利用できる
- ^ 報道の死者数は242だが、救助隊が少なくとも10人以上の行方不明者の捜索に当たっている
出典
[編集]- ^ “Mount Merapi”. 2011年11月10日閲覧。
- ^ ジャワ島の火山噴火、死者29人に、読売新聞、2010年10月27日閲覧
- ^ 共同通信:ジャワ島噴火の死者120人超に ムラピ山で火砕流
- ^ AFP:ムラピ山で最大の噴火、49人死亡 18キロ離れた村も被害
- ^ Merapi forces flight cancellations
- ^ 時事通信:ジャカルタ便を一時運休=ムラピ山噴火が影響―シンガポール航空 11月6日(土)18時4分配信
- ^ 読売新聞:平成22年11月7日(日):朝刊 社会面
- ^ NHK:国際線欠航 噴火の影響広がる 11月7日 6時9分
- ^ MSN産経:「火砕流が街襲う」 ジャワ島噴火、避難29万人に2010.11.8 18:30
- ^ Xinhua:Indonesia's volcano toll rises to 191, eruption continues English.news.cn 2010-11-10 17:00:57
- ^ Xinua:Indonesia anticipates secondary impact of Mount Merapi eruption English.news.cn 2010-11-11 18:31:57
- ^ CNN:Death toll from Indonesia volcano surpasses 200 November 12, 2010 -- Updated 1334 GMT(2134 HKT)
- ^ NASA Image of the Day:Eruption at Mount Merapi, IndonesiaPosted November 11, 2010 acquired November 4 - 8
- ^ インドネシア メラピ山が噴火 噴煙1万メートル超、Weathernews
- ^ “インドネシア・ムラピ山が噴火、溶岩流出”. AFP (2023年2月13日). 2023年8月13日閲覧。
- ^ “The Volcano 世界の火山 写真特集”. 時事通信 (2020年). 2023年8月13日閲覧。
- ^ “ムラピ山が岩石噴出 インドネシアで最も活発な火山”. AFP (2022年1月12日). 2023年8月13日閲覧。
- ^ “ムラピ山が噴火、3キロ先にも高温の灰 インドネシア”. AFP (2021年1月28日). 2023年8月13日閲覧。
- ^ “インドネシア・ジャワ島で火山噴火 253人避難”. AFP (2022年3月10日). 2023年8月13日閲覧。
- ^ “ムラピ山が噴火 インドネシア”. 時事通信社 (2023年5月23日). 2023年8月13日閲覧。
- ^ “Merapi Merbabu Menoreh Biosphere Reserve, Indonesia” (英語). UNESCO (2021年4月15日). 2023年2月8日閲覧。
参考文献
[編集]- 国立天文台編『理科年表 平成20年』丸善、2007年。ISBN 978-4-621-07902-7 。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- Merapi - Smithsonian Institution: Global Volcanism Program
- Taman Nasional Gunung Merapi