メーストラー
メーストラー(古希: Μήστρα, Mēstrā[1])あるいはムネーストラー(Mnēstrā[2])は、ギリシア神話の女性である。長音を省略してメストラ、ムネストラとも表記される。テッサリアー地方の王エリュシクトーンの娘[3]。エリュシクトーンはアイトーンの名前でも呼ばれたため[3][4][5]、しばしばアイトーンの娘とされた[6][7]。
メーストラーは魔法に長けた女性で、様々な動物に変身する能力を持っていた[3]。オウィディウスの『変身物語』などによると彼女にその力を授けたのはポセイドーンである[7][8]。またポセイドーンに愛され、コス島の王エウリュピュロスを生んだとも伝えられている[9]。アウトリュコスの妻になったという説もある[8]。
神話
[編集]メーストラーの父エリュシクトーンは傲慢な人物で、デーメーテールの聖森の神聖な樫の巨木を切り倒した[3][8]。そのためエリュシクトーンはデーメーテールに罰せられ、決して癒えることがない激しい飢えを送られた。エリュシクトーンは飢えを癒すために大食し、先祖から受け継がれてきた財産を瞬く間に食いつぶし、娘のメーストラーをも売り飛ばした。彼女は人買いの男に連れて行かれるとき、ポセイドーンに助けを求めた。するとポセイドーンはメーストラーに変身する力を与えたので、メーストラーは別の人間に変身して逃げることができた。これを知ったエリュシクトーンは何度も娘を売り飛ばして食料を買う金を手に入れ、そのたびにメーストラーは様々な動物に変身して逃げ帰り、父親を助けた[8]。ヘーシオドスの『名婦列伝』によると、父娘は息子グラウコスの花嫁にしようと考えたシーシュポスからも莫大な婚資を騙し取った。シーシュポスは用心のためにメーストラーを縛り、そのうえ見張りもつけて、彼女が逃げられないようにした。しかしメーストラーは別の動物に変身すると、容易に縄を抜け出して逃亡した。その後、メーストラーはポセイドーンによってコス島に連れ去られ、エウリュピュロスを生んだのち、父親を助けるために帰国した[9]。しかし、こうしたメーストラーの献身の甲斐もなく、エリュシクトーンの飢えはさらにひどくなり、ついには自分の指や手足を食らって死んだという[8]。
系図
[編集]アイオロス | エナレテー | ゼウス | エウリュメドゥーサ | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ポセイドーン | カナケー | ペイシディケー | ミュルミドーン | ニュクテウス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ホプレウス | ニーレウス | トリオプス | ヒスキュラ | エポーペウス | アンティオペー | ゼウス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
アローエウス | イーピメデイア | ポセイドーン | ポルバース | エリュシクトーン | ゼートス | アムピーオーン | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
パンクラティス | アローアダイ | メーストラー | ポセイドーン | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
エウリュピュロス | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
カルコーン | アンタゴラース | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
脚注
[編集]- ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.279a「メーストラー」の項。
- ^ 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』p.72b「エリュシクトーン」の項。
- ^ a b c d リュコプローン『アレクサンドラ』1393行への古註。
- ^ ヘーシオドス断片69、5行-6行(Papyrus Cairensis Instituti Francogallici、322 fr. B)。
- ^ アイリアーノス、1巻27。
- ^ “リュコプローン『アレクサンドラ』1393行。”. Theoi Greek mythology. 2022年2月11日閲覧。
- ^ a b ピロデモス『敬虔について』B6915-26 Obbink。
- ^ a b c d e オウィディウス『変身物語』8巻。
- ^ a b ヘーシオドス断片69、52行-93行(オクシュリュンコス・パピュルス、2495 fr. 21ほか)。