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モクレン科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
モクレン科

分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : モクレン類 magnoliids
: モクレン目 Magnoliales
: モクレン科 Magnoliaceae
学名
Magnoliaceae Juss.1789[1]
タイプ属
モクレン属 Magnolia Plum. ex L. (1753)[2]
シノニム
  • Liriodendraceae F.A.Barkley (1975)[3]
英名
magnolias[4], magnolia family[4][2]
下位分類

モクレン科(モクレンか、学名: Magnoliaceae)は、モクレン目に属する被子植物の1つである。2属230–340種ほどが知られ、コブシホオノキオガタマノキタイサンボクユリノキなどを含む。すべて常緑性または落葉性木本であり、精油を含み、単葉互生する。托葉は芽を包み、早く脱落する。は大きく、ふつう3数性の花被片をもち、多数の雄しべ雌しべがらせん状についている(図1)。果実は集合性の袋果または翼果アジア東部とアメリカに隔離分布するが、世界各地で観賞用に植栽されている。

特徴

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常緑性または落葉性高木から低木[5][6][7][8](下図2a–c)。節は多葉隙、多葉跡性[9][10]道管の隔壁はふつう階段穿孔[9]。植物体はふつう精油をもつ[7][9]。ふつうアルカロイドを含む[9]フラボノイドとしてケンペロールクェルセチンをもつ[9]アルブチンエラグ酸を欠く[9]

2c. モクレン(シモクレン)

互生でふつう螺生し(下図2d)、ときに枝先に集まってつく(ホオノキなど; 下図2e)[5][6][1][8][9]。葉は単葉葉柄をもち、葉脈は羽状[5][6][7][1][8][9](下図2d–f)。葉身はふつう全縁だが、ユリノキ属では頂端と左右に切れ込みがあり、特徴的な形態となる[6][1][9](下図2f)。

2e. ホオノキの葉と花芽
2f. ユリノキの葉

は合着した2枚の托葉からなるキャップ状の芽鱗で覆われる[5][6][7][1][10](下図2g, h)。この托葉は早落性であり、しばしば枝を一周する托葉痕を残す[6][7][10](下図2g, i)。

2g. ユリノキの冬芽: 頂芽の芽鱗が開いている
2h. シデコブシの芽: 2枚の芽鱗が開きかかっている
2i. コブシの黄葉と芽: 枝に輪状の托葉痕が見られる

は大きく、放射相称、枝の先端または葉腋に単生する[5][6][1][8][9](下図2j–l)。ふつう両性花、まれに単性花雌雄異株または雄性両性異株[6][1][8][9][11]花被片は離生、6–9(–45)枚、ふつう3枚ずつ2–多輪につき(下図2j–l)、花弁状だがときに最外輪が萼片状(下図2k)[5][6][7][1][9]雄しべ雌しべは多数、しばしば伸長した花托(花軸)にらせん状につく[6][7][1][8][9][10](下図2j, l, m)。雄しべは離生、求心的に成熟し、花糸はふつう太く短く、葯隔はふつう突出する[5][6][7][1][8][9]は細長く、2半葯からなり、沿着し、内向から側向まれに外向(ユリノキ属)、縦裂する[5][6][7][8]。小胞子形成は同時型[9]。タペート組織は分泌型[9]花粉は2細胞性、単溝粒[5][9][10]。雌しべは離生心皮で多数、ときに数個、有柄または無柄、多少とも花柱が伸長し、柱頭は頂生または花柱に沿って線状、子房上位、縁辺胎座で胚珠は1心皮あたり2-20個、腹縫線上に2列につく[5][6][7][8][9][10][12]。胚珠は倒生胚珠、2珠皮性[8][10]胚嚢はタデ型[9]虫媒花であり、甲虫ハエ目ハチ目などによって送粉される[6][9][10]。花はふつう匂いを放ち、その成分について比較的詳しく研究されている[13]

2j. ユリノキの花: 花被片は3枚ずつ3輪につき、最外輪の3枚は萼片
2k. モクレン(シモクレン)の花: 最外輪の花被片が小さく萼片
2m. タイサンボク雄しべ群(下)と雌しべ群(上)

果実はふつう裂開する袋果だが(下図2n–p)ユリノキ属は非裂開性の翼果(下図2r)、1つの花の果実が集まって集合果を形成し、ときに部分的に融合する[6][9](下図2n–r)。1個の果実は1–12個の種子を含む[6]モクレン属では、種子は赤い肉質の種皮で覆われ、果実から出て珠柄でぶら下がる[6](下図2n, p, q)。一方、ユリノキ属では種皮は果皮に融合している[6][7]は小さく、内胚乳脂質またはタンパク質が豊富[5][6][8][9]。胚乳形成は細胞型[9]。基本染色体数は x = 19[9][10]

2n. キンコウボク(Magnolia champaca)の集合果(一部裂開している)
2o. オオヤマレンゲの集合果
2p. タイサンボクの集合果(裂開して種子が出ている)
2q. ホオノキの種子(拡大すると細い珠柄が見える)
2r. ユリノキの集合果

分布・生態

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東アジアから東南アジアおよび南アジアの一部と、北米東部から南米の一部の温帯域から熱帯域に隔離分布する[5][6][10]。東南アジアでは、森林の重要な構成要素となることがある[10]

人間との関わり

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ハクモクレンタムシバなどいくつかの種のつぼみ(花芽)は、乾燥して辛夷(しんい)とよばれる生薬となり、鼻炎や頭痛、熱、咳に対して用いられる[6][14][15][14][16](下図3a)。またホオノキコウボクなどの樹皮も厚朴こうぼくとよばれる生薬となる[6]ユリノキやホオノキなど木材として利用されるもある[8][17][18](下図3b)。多くの種が観賞用に植栽され、さまざまな園芸品種も作出されている(下図3c)[6][19][20]

3a. 辛夷
3b. 木画経箱、法隆寺献納宝物、奈良時代ホオノキ材製)
3c. ホワイトハウスのローズ・ガーデンに植栽されたソコベニハクモクレン(サラサモクレン

系統と分類

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モクレン科のは大型でふつうらせん状に配置した多数の雄しべ雌しべをもち、このような特徴は被子植物における原始的な特徴とされることが多い[12][21]。これは、北アメリカの白亜紀の地層で発見された最初期の被子植物の化石がモクレン類によく似ていたことから、この化石がモクレン類の祖先植物ではないかとも考えられている[22]。ただしこのような特徴は、モクレン科またはモクレン目の一部における派生形質であると考えられることもある[10][23]

モクレン科には、230–340種ほどが知られる[5][1][10][11]。このうち2種がユリノキ属Liriodendron)に分類される。残りの種はモクレン属Magnolia)、オガタマノキ属Michelia)、モクレンモドキ属(Manglietia)、ManglietiastrumKmeriaPachylarnaxDudandiodendronElmerilliaなど複数の属に分けられることが多かったが[6][12]、2022年現在ではふつうモクレン属にまとめられている[5][1][10][11]。この広義のモクレン属は、15節に分類することが提唱されている[11](下表)。

ユリノキ属とそれ以外の属は果実などの特徴で明らかに異なり、亜科のレベルで分けられることもある(ユリノキ亜科、モクレン亜科)[12][11]。ただしユリノキ属以外の属を全てモクレン属にまとめた場合は各亜科はそれぞれ1属のみを含むことになるため、このような亜科は不要ともされる[10]

表1. モクレン科の分類体系の一例[1][12][11][24]

脚注

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出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m Magnoliaceae”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2022年3月13日閲覧。
  2. ^ a b Magnoliaceae Juss.”. Tropicos v3.3.2. Missouri Botanical Garden. 2022年8月6日閲覧。
  3. ^ GBIF Secretariat (2022年). “Liriodendraceae F.A.Barkley”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年3月13日閲覧。
  4. ^ a b GBIF Secretariat (2022年). “Magnoliaceae”. GBIF Backbone Taxonomy. 2022年3月13日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n 大橋広好 (2015). “モクレン科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 71–74. ISBN 978-4582535310 
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x Magnoliaceae”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2022年3月13日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k Magnoliaceae”. Flora of North America. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2022年3月13日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i j k l Simpson, M. G. (2005). “Magnoliaceae”. Plant Systematics. Academic Press. p. 148. ISBN 978-0126444605 
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x Watson, L. & Dallwitz, M. J. (1992 onwards). “Magnoliaceae Juss.”. The families of flowering plants: descriptions, illustrations, identification, and information retrieval.. 2022年3月13日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Stevens, P. F.. “Magnoliaceae”. Angiosperm Phylogeny Website. 2022年3月13日閲覧。
  11. ^ a b c d e f Wang, Y. B., Liu, B. B., Nie, Z. L., Chen, H. F., Chen, F. J., Figlar, R. B. & Wen, J. (2020). “Major clades and a revised classification of Magnolia and Magnoliaceae based on whole plastid genome sequences via genome skimming”. Journal of Systematics and Evolution 58 (5): 673-695. doi:10.1111/jse.12588. 
  12. ^ a b c d e 東浩司 (2003). “モクレン科の分類・系統進化と生物地理: 隔離分布の起源”. 分類 3 (2): 123-140. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649577. 
  13. ^ 東浩司 (2004). “モクレン科の花の匂いと系統進化”. 分類 4 (1): 49-61. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649594. 
  14. ^ a b シモクレン”. 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース. 2022年2月16日閲覧。
  15. ^ 春を告げる香り高い「ハクモクレン」”. 生薬ものしり事典. 養命酒製造株式会社. 2022年2月6日閲覧。
  16. ^ シンイ”. 第十七改正日本薬局方(JP17) 名称データベース. 国立医薬品食品衛生研究所. 2022年3月14日閲覧。
  17. ^ ホオノキ”. 道産木材データベース. 林産試験場. 2022年2月25日閲覧。
  18. ^ 松村ゆかり (2020年12月1日). “自然探訪2020年12月 ユリノキ(Liriodendron tulipifera”. 森林総合研究所. 2022年3月5日閲覧。
  19. ^ モクレン”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2022年2月5日閲覧。
  20. ^ タイサンボク”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2022年2月12日閲覧。
  21. ^ アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳) (2002). “原始的な花とは?”. 維管束植物の形態と進化. 文一総合出版. pp. 540–541. ISBN 978-4829921609 
  22. ^ 宮内泰之 監修、成美堂出版 編『見わけがすぐつく樹木図鑑』成美堂出版、2023年5月20日、56頁。ISBN 978-4-415-33237-6 
  23. ^ Kabeya, Y. & Hasebe, M.. “モクレン類/モクレン目/モクレン科”. 陸上植物の進化. 基礎生物学研究所. 2022年3月19日閲覧。
  24. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “BG Plants 和名−学名インデックス(YList)”. 2022年3月19日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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