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ヤマアカガエル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ヤマアカガエル
ヤマアカガエル Rana ornativentris
ヤマアカガエル(熊本県)
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 両生綱 Amphibia
: 無尾目 Anura
亜目 : カエル亜目 Neobatrachia
: アカガエル科 Ranidae
亜科 : アカガエル亜科 Raninae
: アカガエル属 Rana
亜属 : アカガエル亜属 Rana
: ヤマアカガエル
R. ornativentris
学名
Rana ornativentris
Werner, 1903
和名
ヤマアカガエル
英名
Montane brown frog

ヤマアカガエル(山赤蛙[2]学名Rana ornativentris Werner, 1903[3])は、アカガエル科アカガエル属に分類されるカエルの1[4]。学名は「腹に模様をもったアカガエル」の意味[5]

分布

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日本固有種で、本州四国九州佐渡島に分布する[1]

形態

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成体体長は4.2 - 7.8 cm[6]オスは体長4.2 - 6.0 cm、メスは3.6 - 7.8 cm[5]。背面の体色は褐色・赤褐色・暗褐色で[5]、変化に富む[7]。腹面は淡黄色[5]

ニホンアカガエルによく似ているが、背側線が鼓膜の後ろで外側に大きく曲がり込む点[注 1][7]、下顎周縁部に大きな黒色斑がある点で区別できる[10]。また山地に生息するタゴガエルにも似ているが、タゴガエルは下顎周縁部が黒色の小班点で覆われている点で区別することができる[6]。 種小名ornativentrisは「飾り立てた腹」の意で、腹面の斑紋に由来すると思われる。後肢は長く静止した状態でも指が鼓膜に届き、水掻きは発達している。

は黒い球形。幼生オタマジャクシ)は成長すると体長4.6 - 6.0 cm程度で、ニホンアカガエルのオタマジャクシに似るが、胴部背面に点状斑紋はない[注 2][5]

生態

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丘陵地と山間森林内および、その外縁部にある小川湿地水田に生息する[12]。平地より山地に多く[注 3][6]、ニホンアカガエルより森林内に生息する傾向が強い[7]

食性は動物食で、晩春 - 秋にかけ、主に森林林床[13]昆虫ミミズナメクジなどを食べる[13][6][5]。繁殖期、オスは鳴嚢を使い、「キャララッ、キャラララッ」という鳴き声を発してメスを探す[5]

生活環

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繁殖形態は卵生で、産卵期は1月 - 4月(ピークは2月 - 3月)[5]。日当たりの良い水たまりなどの止水域[注 4]で、1,000 - 1,900個程度の卵を産む[6]。産卵された卵は寒天質が吸水し、直径約15 - 20 cmの卵塊になる[13]。低標高地(丘陵地・平地)では、本種とニホンアカガエルと同じ場所で産卵することも多いが、本種の卵塊はニホンアカガエルのそれに比べ、ゼリー状の物質が柔らかく、卵塊の形状が崩れやすい[13]

卵は2 - 3週間で孵化する[6]。幼生(オタマジャクシ)は主に水草や、石の表面に付着している藻類を食べる[5]が、動物の死体・卵[注 5]なども食べる[13]。6月 - 8月ごろ[13]、オタマジャクシは生後3か月ほどで四肢が生えて上陸し[15]、子ガエル(体長15 - 20 mm程度)となるが、そこから性成熟して繁殖を開始するまでには約2年を要する[13]。天敵が多く、成体の寿命は4 - 5年程度と考えられている[13]

成体は10月の終わり - 12月にかけ、林床や泥の中、落葉の溜まったの底で冬眠する[6]。土にもぐって冬眠するカエルも多いが、本種やニホンアカガエルは水底で冬眠する[16]。冬眠中(2月ごろ)にいったん覚醒して産卵するが、産卵を終えると再び春になるまで冬眠する[9]

天敵

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天敵としてはヘビ類・鳥類サギなど)・哺乳類タヌキイタチなど)がいる[13]

幼生(オタマジャクシ)はトンボの幼虫(ヤゴ)・マツモムシなどの水生昆虫イモリヘビアオダイショウなど)に捕食される[13]。また、シャープゲンゴロウモドキの幼虫[注 6]は本種やニホンアカガエルの幼生(オタマジャクシ)を主要な餌としているが[17]、特にシャープゲンゴロウモドキの生息地では同種幼虫にとって、本種が重要な餌になっていると考えられている[注 7][18]

種の保全状況評価

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国際自然保護連合(IUCN)により、2004年からレッドリスト軽度懸念(LC)の指定を受けている[1]

日本の以下の都道府県でレッドリストの指定を受けている[19]。以前は食用とされることもあった。かつては湿田[注 8]がニホンアカガエルにとって適した産卵環境になっていたが、圃場整備の進行により湿田はほとんどが乾田化された[8]。本種やニホンアカガエルは冬季に水田で繁殖するため、圃場整備による乾田化の影響を受けやすく、地域によっては個体群の急激な衰退が起きている[注 9][21]アクア・トトぎふ2010年に、本種で日本動物園水族館協会による繁殖賞を受賞した。

飼育

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他の両生類に先駆けて産卵を行ううえ、産卵場所が水田などと比較的目に付きやすい場所であることから、卵を採集して飼育されることも多い。

幼生の飼育はさほど難しいものではないが、1房の卵塊には1,000個(集団産卵することもあるので、場合によってはそれ以上)もの卵が存在するため、野生個体の保全や飼育の手間を考えると、採集する際には飼育できる数のみ分けて持ち帰ることが望ましい。孵化した幼生は、植物食傾向の強い飼育初期には水草や茹でたホウレンソウ、動物食傾向の強い後期には甲殻類や水棲昆虫(乾燥や冷凍された飼料として販売されている商品もあり)を、水を汚さない程度だけ与える。あまり共食いはしないが、無性卵や死亡した個体は他の個体に捕食される。

後肢が生えてきたら、水位を低くして木片や流木、水草などで上陸場所を用意する。

幼体や成体の飼育には生きた小型昆虫の確保が必要になることから、飼育難易度が大幅に上がる。しかし、カエルツボカビ症の問題もあるため、一度飼育した個体を野生へ戻してはいけない。

脚注

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注釈

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  1. ^ ニホンアカガエルの背側線は真っ直ぐで、鼓膜の後方でもほとんど曲がらない[8]。また、ニホンアカガエルは本種より鼻先の尖りが強い[9]
  2. ^ ニホンアカガエルのオタマジャクシは背中に左右一対の黒点を有する[11]
  3. ^ ニホンアカガエルは平地・丘陵地に生息する[10]
  4. ^ 水田・池[7]・山際の溝[14]・湿地・道路や河川敷の浅い止水域にも産卵する[5]
  5. ^ 春先に更かした本種のオタマジャクシがヒキガエルの卵塊を集団で捕食していた事例もある[13]
  6. ^ 同種の幼虫は1齢幼虫・2齢幼虫の段階では主にミズムシ等脚目)を捕食し、成長に伴ってフタバカゲロウの幼虫・アカガエルの幼生なども捕食するようになる千葉県生物多様性センター「千葉県シャープゲンゴロウモドキ回復計画(公表版)」(PDF)、千葉県環境生活部自然保護課、2010年3月31日、 オリジナルの2019年3月5日時点におけるアーカイブ、2019年3月5日閲覧 
  7. ^ シャープゲンゴロウモドキの幼虫出現時期(3月・4月)には本種(ヤマアカガエル)のオタマジャクシが最優占種となり、かつ本種のオタマジャクシはシャープゲンゴロウモドキ幼虫の生育に最適な栄養素を有しているため[18]
  8. ^ 「湿田」とは「乾田」の対義語で、湧水などにより、雨の少ない冬でも水が溜まったままの水田[20]
  9. ^ 冬季の水田には通常は水がないため、本種やニホンアカガエルはトラクターの轍跡などに溜まった一時的な水溜りに産卵する例が多いが、その場合は降雨が少ないと、卵塊・幼生(オタマジャクシ)は乾燥死してしまう[14]。また山間部の放棄水田は乾田化し、産卵場所としては役立たなくなっている[14]
  10. ^ 東京都西多摩は準絶滅危惧。
  11. ^ 千葉県の要保護生物(C)は、環境省の絶滅危惧II類相当。
  12. ^ 滋賀県の希少種は、環境省の準絶滅危惧相当。
  13. ^ 兵庫県のCランクは、環境省の準絶滅危惧相当。

出典

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  1. ^ a b c IUCN Red List of Threatened Species. 2013.1 (Rana ornativentris)” (英語). IUCN. 2013年7月26日閲覧。
  2. ^ 山赤蛙https://kotobank.jp/word/%E5%B1%B1%E8%B5%A4%E8%9B%99コトバンクより2020年10月16日閲覧 
  3. ^ a b ヤマアカガエル 種の解説”. 福岡県レッドデータブック. 福岡県 (2014年8月). 2020年10月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月16日閲覧。
  4. ^ 海上の森の確認種リスト(両生類) 分類順”. 愛知県 公式ウェブサイト. 愛知県 (2020年3月). 2020年10月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月16日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j 河川・水辺の生物図鑑 両生類 ヤマアカガエル”. 筑後川河川事務所. 国土交通省 九州地方整備局. 2013年2月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月16日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h ヤマアカガエル”. 太田川河川事務所. 国土交通省 中国地方整備局. 2020年10月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月16日閲覧。
  7. ^ a b c d e 千葉県 2011, p. 143.
  8. ^ a b 千葉県 2011, p. 140.
  9. ^ a b カエルと淡水魚 (カエルのなかま) ヤマアカガエル”. 平塚市博物館 公式ウェブサイト. 平塚市博物館. 2020年10月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月16日閲覧。
  10. ^ a b ニホンアカガエル”. 太田川河川事務所. 国土交通省 中国地方整備局. 2020年10月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月16日閲覧。
  11. ^ 河川・水辺の生物図鑑 両生類 ニホンアカガエル”. 筑後川河川事務所. 国土交通省 九州地方整備局. 2013年2月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月16日閲覧。
  12. ^ 鹿児島の自然を記録する会 編『川の生きもの図鑑—鹿児島の水辺から』南方新社、2002年6月30日、258頁。ISBN 9784931376694 
  13. ^ a b c d e f g h i j k 草野保(理学博士・理工学研究科生命科学専攻助教授) (2011年8月4日). “ヤマアカガエル (Rana ornativentris )”. 東京都立大学 ウェブサイト. 東京都立大学. 2020年10月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月17日閲覧。
  14. ^ a b c 両生類 ハビタットとその変化”. 福岡県レッドデータブック. 福岡県 (2014年8月). 2020年10月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年10月16日閲覧。
  15. ^ 西川潮、伊藤浩二『観察する目が変わる 水辺の生物学入門』(電子書籍)ベレ出版、2016年8月4日。ISBN 978-4860644802https://www.beret.co.jp/books/detail/620 
  16. ^ 月刊アクアライフ 編『水辺の生きもの 川と池—写真で見る飼い方ガイド』エムピージェー マリン企画、2004年6月10日、87頁。ISBN 9784895125307 
  17. ^ 川上洋一『絶滅危惧の昆虫事典【新版】』(初版発行(初版印刷:2010年6月30日))東京堂出版、2010年7月15日、84-85頁。ISBN 978-4490107852 
  18. ^ a b 猪田利夫(Toshio Inoda); 長谷川雅美(Masami Hasegawa, 東邦大学理学部生物学科教授); 上村慎治(Shinji Kamimura, 中央大学理工学部教授); 堀道雄(Michio Hori, 京都大学理学研究科名誉教授) (2009年9月). Dietary Program for Rearing the Larvae of a Diving Beetle, Dytiscus sharpi (Wehncke), in the Laboratory (Coleoptera: Dytiscidae) (英語). The Coleopterists Bulletin (ResearchGate) (63): 343, 347-348. doi:10.1649/1152.1. オリジナルの2020年2月1日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200203031042/https://www.researchgate.net/publication/232678564_Dietary_Program_for_Rearing_the_Larvae_of_a_Diving_Beetle_Dytiscus_sharpi_Wehncke_in_the_Laboratory_Coleoptera_Dytiscidae 2020年2月1日閲覧。. 
  19. ^ 日本のレッドデータ検索システム「ヤマアカガエル」”. (エンビジョン環境保全事務局). 2013年7月26日閲覧。 - 「都道府県指定状況を一覧表で表示」をクリックすると、出典の各都道府県のレッドデータブックのカテゴリー名が一覧表示される。
  20. ^ 市原市自然環境マップ作成委員会(監修) 著、財団法人千葉県環境財団(編著者) 編『市原市自然環境マップ』(初版第1刷)市原市環境部環境管理課、2012年2月、3頁https://www.city.ichihara.chiba.jp/kurashi/kankyoryokuka/kankyo/hozen/shizen_kankyo_map/kankyou_map.files/ikkatu.pdf#page=32020年10月16日閲覧 
  21. ^ 中村有、若林恭史、長谷川雅美「里山におけるニホンアカガエルとヤマアカガエル個体群の絶滅リスク評価」『日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会』、日本生態学会、2004年7月30日、doi:10.14848/esj.ESJ51.0.352.0 
  22. ^ 佐賀県レッドリスト2003” (PDF). 佐賀県. pp. 44 (2003年4月). 2013年7月26日閲覧。
  23. ^ レッドデータブックながさき2001” (PDF). 長崎県. pp. 365 (2001年). 2013年7月26日閲覧。
  24. ^ 埼玉県レッドデータブック2011動物編” (PDF). 埼玉県. pp. 115 (2011年). 2013年7月26日閲覧。
  25. ^ 改訂・熊本県の保護上重要な野生動植物-レッドデータブックくまもと2009-” (PDF). 熊本県. pp. 296 (2009年). 2013年7月26日閲覧。
  26. ^ レッドデータブックあいち2009” (PDF). 愛知県. pp. 199 (2009年). 2013年7月26日閲覧。
  27. ^ 京都府レッドデータブック・ヤマアカガエル”. 京都府 (2002年). 2012年11月15日閲覧。

参考文献

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関連項目

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外部リンク

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