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ラプラス変換

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
関数変換

関数解析学において、ラプラス変換(ラプラスへんかん、: Laplace transform)とは、積分で定義される関数空間の間の写像(線型作用素)の一種。関数変換。積分変換の一種。

ラプラス変換の名は18世紀数学者ピエール=シモン・ラプラスにちなむ。

ラプラス変換によりある種の微分積分は積などの代数的な演算に置き換わるため、制御工学などにおいて時間領域の(とくに超越的な)関数を別の領域の(おもに代数的な)関数に変換することにより、計算方法の見通しを良くするための数学的な道具として用いられる。従って、数学の中ではかなり応用寄りの分野である。

フーリエ変換を発展させて、より適用範囲を広げた計算手法である。1899年に電気技師であったオリヴァー・ヘヴィサイドが回路方程式を解くための実用的な演算子を経験則として考案して発表し、後に数学者がその演算子に対し厳密に理論的な裏付けを行った経緯がある。理論的な根拠が曖昧なままで発表されたため、この計算手法に対する懐疑的な声も多かった。この「ヘヴィサイドの演算子」の発表の後に、多くの数学者達により数学的な基盤は1780年の数学者ピエール=シモン・ラプラスの著作にある事が指摘された(この著作においてラプラス変換の公式が頻繁に現れていた)。

フーリエ変換がL^1((-∞,∞))上のゲルファント変換であるのに対しラプラス変換はL^1((0,∞))上のゲルファント変換と説明できる。


これと類似の解法として、より数学的な側面から作られた演算子法がある。こちらは演算子の記号を多項式に見立て、代数的に変形し、公式に基づいて特解を求める方法である。

定義

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実数 t ≥ 0 について定義された関数 f (t)ラプラス変換とは

で定義される s の関数 F(s) のことである。ここで s複素数であり、2 つの実数 σ, ω を用いて s = σ + と表すことができる(i虚数単位)。右辺の積分はラプラス積分 (Laplace integral) と呼ばれる。これは時間領域から複素平面への写像である。

また、c > 0 として、関数 F(s) から元の関数 f (t) を計算することを逆ラプラス変換 (inverse Laplace transform) といい、

のように定義されている。ここでcは全ての特異点の実部よりも大きい実数である。右辺の積分はブロムウィッチ積分 (Bromwich integral) と呼ばれる。これは複素平面から時間領域への写像である。

複素平面を用いたブロムウィッチ積分の解説

これは複素積分となっている。定義通りの積分経路では計算が難しくなるが、閉曲線となるように積分経路を変更して留数を計算することにより簡単に逆ラプラス変換を求める事が可能となる。結果を言えば複素平面上の全ての特異点の留数の総和となる。ここで、f (t)原関数 (original function)F(s)像関数 (image function) という。

ラプラス変換の他の記述の仕方として、次のようなものもある。

同様に逆ラプラス変換は、次のようにも記述される。

また、これらの記号を用いた写像

のことも、それぞれラプラス変換逆ラプラス変換と呼ぶ。

普通、ラプラス変換および逆ラプラス変換を行う際には変換表を参照して計算する場合が多いので、前述した定義式にしたがって計算することは少ない。だが場合によっては定義式から計算したほうが簡単なときもある。たとえば逆ラプラス変換をする際に部分分数分解をしなければならない場合、むしろブロムウィッチ積分を計算したほうが早いことも多い。

注:
ラプラス変換は、関数 f (t) にいったん eσtθ(t) を乗じてからフーリエ変換する操作であると考えることができる(ここで θ(t)ステップ関数である)。

両側ラプラス変換

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両側ラプラス変換は積分区間を全実数域へと拡張したもので、以下のように定義される。

母関数との関係

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数列 an の(通常型)母関数

において x = es とすると、

となる。 ここで和を積分に変えれば

となり、関数 at のラプラス変換と一致する。この意味においてラプラス変換は母関数の「連続版」とみなすことができる。 こうした理由により、母関数とラプラス変換は同種の性質を満たすことがある。たとえば母関数の性質

はラプラス変換の性質

に対応する。ここで *畳み込み積。

性質

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ラプラス変換と逆ラプラス変換は互いに他の逆変換である。

ここで、I恒等変換を表わす。

線型性

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ラプラス変換は線型性を持ち、したがって特に重ね合わせの原理 を用いて計算することが可能である。ラプラス変換が線型性を持つとは、任意の関数 f(t), g(t) に対して

が成り立つということである。ただし、a, bt に関係しない定数。逆ラプラス変換も同様に線形性を持ち、

が成り立つ。したがって、与えられた関数を部分分数分解できるとき、各因子がラプラス変換の表にあるものに合致すれば、その変換が求められる。

相似性

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a > 0 のとき、

が成立する。

微分式

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時間 t に関する導関数のラプラス変換は多項式の差となって現れる。実際に、一階の導関数をラプラス変換すると以下のように f (0)(元の式に 0 を代入した値)が現れる。

また、二階導関数の場合は f (0) に加え、t = 0 における微分係数 f'(0) が現れる。

これを繰り返すと、一般の n 階の導関数のラプラス変換は以下のようになる。


積分式

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畳み込み

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関数の畳み込みはラプラス変換で積(値ごとの積)に写される。

これは、H(s) = F(s)G(s) かつ

ならば

と書くこともできる。

初期値の定理・最終値の定理

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ラプラス変換の原関数の初期値(t = 0 での値)や最終値(t → ∞ における極限値)を表す初期値の定理 (initial value theorem) および最終値の定理 (final value theorem) と呼ばれる公式が以下のような式によって与えられる。

初期値の定理
t の関数 f (t)t = 0 で連続ならば
が成り立つ。特に、f が微分可能なときは部分積分により容易に証明できる。
最終値の定理
t の関数 f (t)t → ∞ で収束するなら
が成り立つ。ただし、Δ0s > 0 を含む角領域である。

性質一覧表

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  • 表中の凡例
 : ヘビサイド関数
 : fg畳み込み
 : f (t)1 階微分
 : f (t)n 階微分
片側ラプラス変換の性質(その 1)
性質 原関数

('t' 領域 / 時間領域)
像関数

('s' 領域 / 周波数領域)
備考
線形性
相似性 ただし、a > 0
移動
移動第 2 則
ただし、λ > 0
1微分 ただし、ƒ1微分可能とする。
2 階微分 ただし、ƒ2 階微分可能とする。
n 階微分 ただし、ƒn 階微分可能とする。
積分
ただし、n ≥ 1
畳み込み
周期関数 f (t) は周期 T の周期関数。
片側ラプラス変換の性質(その 2)
性質 像関数

('s' 領域 / 周波数領域)
原関数

('t' 領域 / 時間領域)
備考
移動
1 階微分 ただし、F1 階微分可能とする。
2 階微分 ただし、F2 階微分可能とする。
n 階微分 ただし、Fn 階微分可能とする。
積分
畳み込み

変換表

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変換表 原関数

't' 領域 / 時間領域
像関数

's' 領域 / 周波数領域
収束域
単位インパルス
単位ステップ関数
ランプ関数
n
n は整数)

q
q は複素数)

n 乗根
指数減衰
n 乗の指数減衰
理想遅延
遅延付き単位ステップ関数
遅延付き n 乗の指数減衰
指数関数的接近
正弦関数
余弦関数
双曲線正弦関数
(ハイパボリックサイン)
双曲線余弦関数
(ハイパボリックコサイン)
正弦波の指数減衰
余弦波の指数減衰
自然対数
第 1 種ベッセル関数
第 1 種変形ベッセル関数
第 2 種ベッセル関数
(次数が 0 の場合)
第 2 種変形ベッセル関数
(次数が 0 の場合)
   
誤差関数
凡例

関連文献

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  • 宇野利雄、洪姙植『ラプラス変換』共立出版〈共立全書 203〉、1974年9月25日。ISBN 978-4-320-00203-6 
  • 辻井重男、鎌田一雄『演習ラプラス変換』共立出版〈共立全書 222〉、1978年8月。ISBN 978-4-320-00222-7 

関連項目

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外部リンク

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