コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

万丈窟

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
万丈窟
万丈窟
地図
所在地大韓民国済州市旧左邑金寧里 済州島
深度394 m[1]
総延長8,928 m[2][3]
地質溶岩洞
(拒文岳溶岩洞窟群)
洞口数3[4]
一般公開観光洞
照明電灯あり
特徴世界最大の溶岩柱
他言語表記만장굴 (朝鮮語)

万丈窟: 만장굴: Manjanggul、マンジャンクル[5])は、大韓民国済州島東北部にある溶岩洞火山洞窟)である[6][3]。韓国では2番目に長い総延長を持つ溶岩洞であり[2]、2022年現在では世界第14位の総延長を誇る溶岩洞となっている[1]世界自然遺産済州の火山島と溶岩洞窟群」の拒文岳溶岩洞窟群に含まれる洞窟の一つであり[7]天然記念物に指定されている[3]。韓国では数少ない観光洞の一つである[4][3]

周辺の地形

[編集]

韓国には約1000個の自然洞窟があるとされる[8]朝鮮半島には石灰洞が分布する一方、済州島には多数の大規模な火山洞窟が分布している[8]。済州島には少なくとも45個の火山洞窟が知られ[2][注釈 1]漢拏山の噴火により北側に溶岩がゆっくりと流れたため、特に北側には溶岩洞が多数分布している[5]。万丈窟は拒文岳溶岩洞窟群の洞窟の一つであり、約30万–10万年前に拒文岳(コムンオルム)の噴火に伴い形成されたものである[7]。万丈窟は噴火口から 20 kmキロメートル以上も離れている[9]

規模

[編集]

総延長は 8.928 mメートル[2][3][注釈 2]。天井高 10 m、幅 15 m[3]。かつては万丈窟が世界最長の溶岩洞とされたが[5]、2022年現在では世界第14位となっている[1][注釈 3]

資料や時期、計測方法によって最も長い溶岩洞は異なるが、かつてはケニアチュール・ヒル (Chyulu Hills) にある総延長 11,122 m のレビアサン洞窟 (Leviathan Cave) が世界最長の溶岩洞であるとされた[10][2][11]。1981年の日韓合同調査では、万丈窟と同じく済州島にある総延長 11.749 m のピレモット洞窟[12](ピレモットクル[5]、ピレモッ窟[2][11]빌레못동굴)が世界最長とされた[2][11][8]。2022年現在、世界最長の溶岩洞とされるのはハワイカズムラ洞窟である[1][13][14]。1981年にイギリスの探検隊に調査されて総延長 11.7 km とされ、世界最長の溶岩洞窟のひとつとして認識されるようになった[13]。その後アメリカ洞窟学会などにより調査隊が組まれ[13]、現在では総延長 60 km 以上に及ぶことが分かっている[1][14]

火山洞窟系(ケイブシステム)としては万丈窟洞窟系(万丈窟系)がピレモット洞窟より長く[3][2][11][注釈 4]、4洞窟合わせた総延長は 13,268. 4 m である[2][11]

洞内地形

[編集]
世界最大の溶岩柱

洞口数は3個[4]。万丈窟の洞内はほとんど傾斜がない[9]

高さ 7.8 m の巨大な溶岩柱が知られる[3]。この溶岩柱は天井にある上層洞穴から流下した二次溶岩流が、鐘状に固まり、洞穴の上流ないし下流に向かって流れ拡がって形成されたものである[9][15][注釈 5]

3層からなる溶岩橋を含む15個の溶岩橋[注釈 6]、21個の溶岩球などの洞窟生成物が知られている[3]。また万丈窟には、天井部から落下した溶岩球が軟らかい洞床にめりこみ、床面溶岩の流動沈下の痕跡を示す「亀岩」と呼ばれる生成物が存在し、これは韓国のみから知られている[16]

万丈窟の2か所ではワラビ状溶岩鍾乳tubular and bracken-like lava stalactite)と呼ばれる特殊な生成物(溶岩鍾乳管)が形成されている[17]。表面が素早く固まり、細い鍾乳管内が滴となって抜け落ちて形成されたものである[17]

洞壁にはガス気流の痕跡や噴気球がみられる[3]。また、側壁部で滴る溶岩滴が垂直ではなく斜めに垂れているものが観察されている[18]。これは日本の本栖風穴第1でも知られる[18]

また、万丈窟には急速に床面沈下流出して形成されたと考えられる溶岩棚(D type 溶岩棚)や、二次溶岩流が滞留したあとに急速な流動沈下が起こって形成された溶岩棚(B type 溶岩棚)が見られる[16]

万丈窟の洞内地形
亀岩と呼ばれる生成物
洞壁
溶岩棚

観光洞として

[編集]
照明で照らされた観光洞内
洞内から洞外を望む
洞外から洞口を望む

観光洞であるが、観光部は約 1 km のみであり、大部分は非公開となっている[4]。万丈窟の3つある洞口のうち、入洞可能なのは第2洞口のみである[4]

2024年11月現在、内部環境改善のため施設整備中であり、2025年8月まで休業予定である[4]

韓国の火山洞窟のうち観光洞となっているのは2か所のみで[3]、もう1つは狭才窟-双龍窟である[19]

周辺の溶岩洞

[編集]

済州島には、万丈窟以外にも多くの火山洞窟が分布し、万丈窟と同じ拒文岳溶岩洞窟群の金寧蛇窟翰林公園区域内にある狭才窟双竜窟黄金窟・ピレモット洞窟、ハンドル窟昭天窟水山窟松堂窟美千窟などが知られる[16][2][20][12]。翰林公園の火山洞窟は火山洞窟ながら、貝殻層が溶出して二次的に天井から炭酸カルシウムを含む水が流入し、石灰質のつらら石鍾乳石)や石筍が形成されている[20]

脚注

[編集]
  1. ^ 文献により72個とも[5]
  2. ^ 1972年には、6,987 m とされていた[5]
  3. ^ 1998年には世界第7位であった[3]
  4. ^ 当時は世界一とされた[2][11]
  5. ^ 一次溶岩が青黒色で滑面であるのに対し、二次溶岩は赤褐色で粗面となっている[16]
  6. ^ 二次溶岩が流入した後、表面は固まったものの内部の溶岩が流出し形成されたもの[17]。Tube in tube と呼ばれる構造の大規模なものである[17]

出典

[編集]
  1. ^ a b c d e Bob Gulden (2022年8月1日). “WORLDS LONGEST LAVA TUBES”. NSS Geo2 Long & Deep Caves Web Site. 2022年8月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月14日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k 小川 1981, p. 21.
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 洪 1998, p. 55.
  4. ^ a b c d e f Manjanggul Lava Tube (UNESCO World Natural Heritage)”. VISIT JEJU. 2024年11月14日閲覧。
  5. ^ a b c d e f 日本大学新聞 1972, p. 6.
  6. ^ 小川 1980, p. 3, 「まえがき」.
  7. ^ a b Jeju Volcanic Island and Lava Tubes”. UNESCO World Heritage Convention. UNESCO. 2024年11月14日閲覧。
  8. ^ a b c 洪 1998, p. 54.
  9. ^ a b c 小川 1980, p. 18, 「5 空洞部の形成」.
  10. ^ 小川 1980, p. 10, 「3 世界の溶岩洞穴」.
  11. ^ a b c d e f 洪 & 小川 1981, p. 30.
  12. ^ a b 洪 1998, p. 58.
  13. ^ a b c Allred, Kevin; Allred, Carlene. “Development and Morphology of Kazumura Cave, Hawaii”. Journal of Cave and Karst Studies 59 (2): 67–80. 
  14. ^ a b モーティー (2012年11月21日). “「ハワイ便り」第3回 ハワイ島のカズムラ洞窟”. 日立の樹オンライン. 株式会社日立製作所. 2024年11月14日閲覧。
  15. ^ 小川 1980, p. 33, 「8 洞内の諸現象」.
  16. ^ a b c d 小川 1980, p. 25, 「7 2次溶岩流とその痕跡」.
  17. ^ a b c d 小川 1980, p. 35, 「9 洞内でみられる特殊物」.
  18. ^ a b 小川 1980, p. 22, 「6 空洞の連結とガス体の移動」.
  19. ^ 狭才窟・双龍窟(Hyeopjae/Ssangyong Cave)の観光情報”. JTB (2014年8月29日). 2024年11月14日閲覧。
  20. ^ a b 洪 1998, p. 56.

参考文献

[編集]
  • 小川孝徳 (1980). “富士山溶岩洞穴と溶岩樹形の地質学的観察”. 洞人 2 (3): 3–83. 
  • 小川孝徳 (1981). “世界最長の溶岩洞窟にもぐる 韓国済州島ピレモッ窟”. 科学朝日 41 (11): 20–22. 
  • 「溶岩洞窟にアタック 日本大学探検部洞窟探検班」『日本大学新聞』第792巻、1972年4月20日、6面。
  • 洪始煥; 小川孝徳 (1981). “韓日合同済州島洞窟調査団”. 科学朝日 41 (11): 30–32. 
  • 洪始煥 (1998). “韓国の洞窟”. Koreana(コリアナ) 11 (2): 54–58. 

外部リンク

[編集]
  • ウィキメディア・コモンズには、万丈窟に関するカテゴリがあります。