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万丈窟

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万丈窟
万丈窟 観光洞部の様子
地図
所在地大韓民国の旗大韓民国済州特別自治道
済州市旧左邑金寧里済州島
座標北緯33度31分41.52秒 東経126度46分12.36秒 / 北緯33.5282000度 東経126.7701000度 / 33.5282000; 126.7701000[1]
深度394 m[2]
総延長8,928 m[3][4]
標高125 m[1]
地質表善里玄武岩[1]
(拒文岳溶岩洞窟群)
洞口数3[5]
一般公開観光洞
照明電灯あり
特徴世界最大の溶岩柱
他言語表記만장굴萬丈窟 Man jan Kul* (朝鮮語)

万丈窟: 만장굴、萬丈窟[1]: Manjanggul、マンジャンクル[6])は、大韓民国済州島東北部にある溶岩洞火山洞窟)である[7][4]。韓国では2番目に長い総延長を持つ溶岩洞であり[3]、2022年現在では世界第14位の総延長を誇る溶岩洞となっている[2]世界自然遺産済州の火山島と溶岩洞窟群」の拒文岳溶岩洞窟群に含まれる洞窟の一つで[8]天然記念物に指定されている[4][9]。韓国では数少ない観光洞の一つである[5][4][9]

周辺の地形と地質

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韓国には約1,000個の自然洞窟があるとされる[10]朝鮮半島には石灰洞が分布する一方、済州島には多数の大規模な火山洞窟が分布している[10]。済州島には約60個の火山洞窟が知られ[11][注釈 1]、特に北東部の旧左邑および北西部の翰林邑および涯月邑に集中している[12]。単位面積当たりの火山洞窟の密度では世界最多とされる[11]。火山洞窟の集中する地域は第四紀更新世初期(第2噴出期[注釈 2])の溶岩に由来する表善里玄武岩層が分布し[14]、済州島の火山洞窟の大部分は主に第一活動期に形成されたと考えられている[15]。この岩層は粘着性が弱く、流動性が高い塩基性玄武岩層である[14]

万丈窟の所在地は大韓民国済州特別自治道済州市旧左邑金寧里(旧、済州郡旧左邑東金寧里)である[1]。万丈窟は第四紀初期から中期にかけて噴火によって形成された溶岩台地を構成する表善里玄武岩中に形成された[16][17][12]。万丈窟は拒文岳溶岩洞窟群の洞窟の一つであり[8]、約30万–10万年前に形成された拒文岳(巨文岳、コムンオルム)の噴火に伴い形成されたとされることもあるが[8]、拒文岳の溶岩は万丈窟本体ではなく万丈窟内の二次溶岩の由来であると考えられている[18]。万丈窟は噴火口から 20 kmキロメートル以上も離れている[19]

規模

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総延長は 8,928 mメートル[3][4][20][注釈 3]。天井高 10 m、幅 15 m[4]。単層の最大の天井高は18.1 m に達する[12]。かつては万丈窟が世界最長の溶岩洞とされたが[6]、2022年現在では世界第14位となっている[2][注釈 4]

資料や時期、計測方法によって最も長い溶岩洞は異なるが、1980年にはケニアチュール・ヒル (Chyulu Hills) にある総延長 11,122 m のレビアサン洞窟 (Leviathan Cave) が世界最長の溶岩洞であるとされた[22][3][23]。1981年の日韓合同調査では、万丈窟と同じく済州島にある総延長 11,749 m のピレモッ窟[3][23](ビレモッ窟[1]、ピレモットクル[6]、ピレモット洞窟[24]빌레못동굴)が世界最長とされた[3][23][10]。2022年現在、世界最長の溶岩洞とされるのはハワイカズムラ洞窟である[2][25][26]。1981年にイギリスの探検隊に調査されて総延長 11.7 km とされ、世界最長の溶岩洞窟のひとつとして認識されるようになった[25]。その後アメリカ洞窟学会などにより調査隊が組まれ[25]、現在では総延長 60 km 以上に及ぶことが分かっている[2][26]

火山洞窟系(ケイブシステム)としては万丈窟洞窟系(万丈窟系、万丈窟システム)がピレモット洞窟より長く[4][3][23][注釈 5]、4洞窟合わせた総延長は 13,268.4 m である[3][23]。万丈窟から流動した溶岩流はさらに下流の金寧窟方面に曲流しながら達し、異方向の支洞群を形成している[27]

洞内地形

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世界最大の溶岩柱

洞口数は3個[5]。万丈窟の洞内はほとんど傾斜がない[19]。上層洞窟と下層洞窟の上下2層からなる[28]

また、多彩な種類の地形と構造物が見られる[12]。万丈窟洞窟系を通して、小さな背斜構造や傾斜構造を持つ溶岩、縄状溶岩などが観察される[27]。万丈窟の縄状溶岩は平面状の底面に溶岩流が周期的に滞留し、形成されたものである[29]

高さ 7.8 m の巨大な溶岩柱が知られる[4][注釈 6]。この溶岩柱は天井にある上層洞穴から流下した二次溶岩流が、鐘状に固まり、洞穴の上流ないし下流に向かって流れ拡がって形成されたものである[19][31][注釈 7]。これは2本が並び立つ双子溶岩柱Lava twin column)で、世界最大級であるとされる[12]K-Ar年代測定により、一方は約42万年前、もう一方は3万2千万年前に形成されたと推定されている[33]

万丈窟には21個[注釈 8]溶岩橋[注釈 9]がみられる[27]。特に3層からなる三段溶岩橋が著名で[4][12]、アジア最大級である[21][注釈 10]。三段溶岩橋はK-Ar年代測定により約19万年前に形成されたと推定されている[33]。ミニチューブも4個みられる[12]

また、21個の溶岩球などの洞窟生成物が知られている[4][12]。また万丈窟には、天井部から落下した溶岩球が軟らかい洞床にめりこみ、床面溶岩の流動沈下の痕跡を示す「亀岩」と呼ばれる生成物が存在し、これは韓国のみから知られている[32]。洞壁の剥離および転倒し、それが重なってできた溶岩筏や、その流動跡も観察される[35]

万丈窟の2か所ではワラビ状溶岩鍾乳tubular and bracken-like lava stalactite)と呼ばれる特殊な生成物(溶岩鍾乳管)が形成されている[34]。表面が素早く固まり、細い鍾乳管内が滴となって抜け落ちて形成されたものである[34]。ベーコン状の溶岩つららも見られる[36]

洞壁にはガス気流の痕跡や噴気球がみられる[4]。また、側壁部で滴る溶岩滴が垂直ではなく斜めに垂れているものが観察されている[37]。これは日本の本栖風穴第1でも知られる[37]

また、万丈窟には様々な形態の溶岩棚が見られる[12]。急速に床面沈下流出して形成されたと考えられる D type 溶岩棚や、二次溶岩流が滞留したあとに急速な流動沈下が起こって形成された B type 溶岩棚など5形が見られる[32][12]

万丈窟の洞内地形
亀岩と呼ばれる生成物
洞壁
溶岩棚

形成と成因

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一般的に、溶岩洞窟の形成は、地球内部からマグマが上昇・噴出し、それが流動、冷却、陥没する火山活動に引き続いて起こる地表での溶岩の移動によりなされ、同時にそれに対応した地形の形成(除去変形と付加変形)を伴う[16]。万丈窟は溶岩流の方向とともにNE方向を向いているが、洞の北部(低標高側)では90°左折しているため、新期溶岩により形成された可能性があると指摘されている[20]。そのため、単一洞でなく陥没や連結により形成された洞窟系(cave system)に当たるとされる[18]

拒文岳の噴火は万丈窟の形成に比べ、極めて新しい時代に起こった[18]。拒文岳の噴火が約32万年前には、万丈窟内部に二次溶岩の流入をもたらしたと考えられている[18]

観光洞として

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照明で照らされた観光洞内
洞内から洞外を望む
洞外から洞口を望む

観光洞であるが、観光部は約 1 km のみであり、大部分は非公開となっている[5]。万丈窟の3つある洞口のうち、入洞可能なのは第2洞口のみである[5]

2024年11月現在、内部環境改善のため施設整備中であり、2025年8月まで休業予定である[5]

韓国の火山洞窟のうち観光洞となっているのは2か所のみで[4]、もう1つは挟才窟-双龍窟である[38][注釈 11]

周辺の溶岩洞

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済州島には、万丈窟以外にも多くの火山洞窟が分布し、万丈窟と同じ拒文岳溶岩洞窟群の金寧蛇窟(金寧窟)、翰林公園区域内にある挟才窟双竜窟黄金窟昭天窟、ピレモッ窟、ハンドル窟水山窟松堂窟美千窟などが知られる[32][3][40][24][1]。翰林公園の火山洞窟は火山洞窟ながら、貝殻層が溶出して二次的に天井から炭酸カルシウムを含む水が流入し、石灰質のつらら石鍾乳石)や石筍が形成されている[40]

脚注

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  1. ^ 文献により72個とも[6]、45個ともされる[3]
  2. ^ 済州島は第1噴出期から第5噴出期までの火山活動で形成されている[13]
  3. ^ 1972年には、6,987 m とされていた[6]。また、8,924 m とする文献もある[1][21]
  4. ^ 1998年には世界第7位であった[4]
  5. ^ 当時は世界一とされた[3][23]
  6. ^ 7.6 m とも[12]、8.9 m ともされる[30]
  7. ^ 一次溶岩が青黒色で滑面であるのに対し、二次溶岩は赤褐色で粗面となっている[32]
  8. ^ 15個とする文献もある[4]
  9. ^ 溶岩石橋とも呼ばれる[21]。二次溶岩が流入した後、表面は固まったものの内部の溶岩が流出し形成されたもの[34]。Tube in tube と呼ばれる構造の大規模なものである[34]
  10. ^ 世界最大級とする文献もある[4][12]
  11. ^ 挟才窟には狭才窟という表記も見られるが[38][12]、挟才里(挾才里)に位置するため[39]、本項ではこちらの表記を用いる。

出典

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  1. ^ a b c d e f g h 沢 & 大橋 2001, p. 49.
  2. ^ a b c d e Bob Gulden (2022年8月1日). “WORLDS LONGEST LAVA TUBES”. NSS Geo2 Long & Deep Caves Web Site. 2022年8月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年11月14日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j k 小川 1981, p. 21.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 洪 1998, p. 55.
  5. ^ a b c d e f Manjanggul Lava Tube (UNESCO World Natural Heritage)”. VISIT JEJU. 2024年11月14日閲覧。
  6. ^ a b c d e 日本大学新聞 1972, p. 6.
  7. ^ 小川 1980, p. 3, 「まえがき」.
  8. ^ a b c Jeju Volcanic Island and Lava Tubes”. UNESCO World Heritage Convention. UNESCO. 2024年11月14日閲覧。
  9. ^ a b 大橋 2001, p. 43.
  10. ^ a b c 洪 1998, p. 54.
  11. ^ a b 沢 & 大橋 2001, p. 48.
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m 沢 & 大橋 2001, p. 53.
  13. ^ 沢 1992, p. 6.
  14. ^ a b 沢 & 大橋 2001, p. 79.
  15. ^ 大橋 2001, p. 39.
  16. ^ a b 大橋 2001, p. 57.
  17. ^ 沢 1992, p. 9.
  18. ^ a b c d 大橋 2001, p. 58.
  19. ^ a b c 小川 1980, p. 18, 「5 空洞部の形成」.
  20. ^ a b 大橋 2001, p. 45.
  21. ^ a b c 沢ほか 2004, p. 160.
  22. ^ 小川 1980, p. 10, 「3 世界の溶岩洞穴」.
  23. ^ a b c d e f 洪 & 小川 1981, p. 30.
  24. ^ a b 洪 1998, p. 58.
  25. ^ a b c Allred, Kevin; Allred, Carlene. “Development and Morphology of Kazumura Cave, Hawaii”. Journal of Cave and Karst Studies 59 (2): 67–80. 
  26. ^ a b モーティー (2012年11月21日). “「ハワイ便り」第3回 ハワイ島のカズムラ洞窟”. 日立の樹オンライン. 株式会社日立製作所. 2024年11月14日閲覧。
  27. ^ a b c 沢 & 大橋 2001, p. 54.
  28. ^ 沢 & 大橋 2001, p. 68.
  29. ^ 沢ほか 2004, p. 171.
  30. ^ 沢 1992, p. 7.
  31. ^ 小川 1980, p. 33, 「8 洞内の諸現象」.
  32. ^ a b c d 小川 1980, p. 25, 「7 2次溶岩流とその痕跡」.
  33. ^ a b 沢 & 大橋 2001, p. 56.
  34. ^ a b c d 小川 1980, p. 35, 「9 洞内でみられる特殊物」.
  35. ^ 沢ほか 2004, p. 174.
  36. ^ 沢ほか 2004, p. 162.
  37. ^ a b 小川 1980, p. 22, 「6 空洞の連結とガス体の移動」.
  38. ^ a b 狭才窟・双龍窟(Hyeopjae/Ssangyong Cave)の観光情報”. JTB (2014年8月29日). 2024年11月14日閲覧。
  39. ^ 沢 & 大橋 2001, p. 50.
  40. ^ a b 洪 1998, p. 56.

参考文献

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  • Cultural Heritage Administration, ed (2006). Jeju Volcanic Island and Lava Tubes. Republic of Korea. 
  • 大橋健 (2001). “溶岩洞窟の形成に関する地形学的研究 —韓国済州道朝天邑橋来里巨文岳の事例—”. 大阪経済法科大学論集 81: 39–65. https://keiho.repo.nii.ac.jp/records/1944. 
  • 小川孝徳 (1980-08-29). “富士山溶岩洞穴と溶岩樹形の地質学的観察”. 洞人 2 (3): 3–83. 
  • 小川孝徳 (1981). “世界最長の溶岩洞窟にもぐる 韓国済州島ピレモッ窟”. 科学朝日 41 (11): 20–22. 
  • 沢勲 (1992). “済州火山島の玄武岩と万丈窟との溶岩分析”. 大阪経済法科大学論集 50: 3–26. https://keiho.repo.nii.ac.jp/records/2092. 
  • 沢勲; 大橋健 (2001). “済州島の火山形成過程と溶岩洞窟の初期形態”. 大阪経済法科大学論集 79: 37–84. https://keiho.repo.nii.ac.jp/records/1992. 
  • 沢勲、鹿島愛彦、庫本正、藤井厚志、金炳宇、金周煥、大橋健、勝間田明男『洞窟学4ヶ国語(英日韓中)用語集』大阪経済法科大学出版部、2004年1月15日。ISBN 4-87204-120-8 
  • 「溶岩洞窟にアタック 日本大学探検部洞窟探検班」『日本大学新聞』第792巻、1972年4月20日、6面。
  • 洪始煥; 小川孝徳 (1981). “韓日合同済州島洞窟調査団”. 科学朝日 41 (11): 30–32. 
  • 洪始煥 (1998). “韓国の洞窟”. Koreana(コリアナ) 11 (2): 54–58. ISSN 1225-4592. https://issuu.com/the_korea_foundation/docs/1998_02_j_b_a. 

外部リンク

[編集]
  • ウィキメディア・コモンズには、万丈窟に関するカテゴリがあります。