乾草沼
乾草沼(ひぐさぬま)は、千葉県山武郡横芝光町宮川にある沼である。
概要
[編集]現在の九十九里平野は玉の浦と呼ばれた海の入り江が海岸線の後退により平野となったものであり、多くの海跡湖が残されていた。これらの海跡湖は昔から新田開発の対象であり、椿海の干拓に代表されるような開発が行われた。そして、明治以降ますますさかんになった開発により、九十九里平野にあった多くの海跡湖は姿を消し、乾草沼は残された数少ない海跡湖のひとつである[1]。
生態系
[編集]湿地は人間にとっては生産性が低い土地であるが、植物や昆虫などの小動物にとっては生命の宝庫である。人間が生産性を求め、開発によって多くの湿地が姿を消し、そのようななかで絶滅が危惧される湿地植物や昆虫などの生育地域として乾草沼は貴重な存在となった[2]。
- 植物
かつては豊かな水辺と湿地が広がっていた乾草沼周辺であるが、新田開発が行われ、それとともに農業用水としての整備が進められ、さらに住宅地としての開発もあって、沼の水面は狭まりモウセンゴケなどの食虫植物群は消滅した。しかし、現在も全国的に絶滅が危惧される植物も生息している[1]。
- 昆虫
乾草沼には昆虫類、特にトンボ類が多く関東周辺では珍しくなった8科31種が生息している[3]。環境省レッドリストに掲載されているオオモノサシトンボ、ベニイトトンボ、ネアカヨシヤンマ、アオヤンマの4種、その他、千葉県レッドリストに掲載されているトラフトンボ、アオヤンマ、カトリヤンマ、ハラビロトンボ、リスアカネ、アオイトトンボ、ウチワヤンマ、サラサヤンマ、クロスジギンヤンマ、コノシメトンボ、チョウトンボ、マイコアカネ、クロイトトンボが確認された。このような多種類のトンボの生息は全国的にも珍しい。特にオオセスジイトトンボ[4][5]は、乾草沼では近年確認されておらず、絶滅した恐れがある[3]。また東日本では絶滅したとみられていたミサキツノトビケラ[6]がみつかるという発見もあった[7]。
現在
[編集]現在の乾草沼は、沼自体は横芝光町の公有地だが、沼の周囲の地権者によって、木が切り倒され、太陽光パネルが敷き詰められ、壊れたパネルはそのまま捨てられたり、周囲の土地が、かつては詐欺的、あるいは原野商法的なニュータウン誘致が行われた名残で、廃屋や不法投棄物が点在しており、外来種の移入や、釣り人が釣具などをゴミとして捨てていくなど、自然環境は危機的な状態にある。2018年頃は一時、自然環境を保全するための活動も行われたが[8][9]、現在はそれも行われなくなり、荒れるままとなっている。
脚注
[編集]- ^ a b “「さらに詳しく 貴重な植物群生地」 農林水産省関東農政局 両総農業水利事業所”. www.maff.go.jp. 2023年3月24日閲覧。
- ^ “乾草沼 原生生物情報サーバ”. 法政大学. 2024年4月14日閲覧。
- ^ a b 乾燥沼環境保全会『千葉県横芝光町に残存する海跡湖 「乾草沼」の昆虫相と鳥相』乾燥沼環境保全会、2021年、26頁。
- ^ 尾園暁『ネイチャーガイド 日本のトンボ』文一総合出版、2012年、125頁。
- ^ “オオセスジイトトンボの産卵期「横芝光町 乾草沼」東書フォトコンテスト 第9回奨励賞”. ten.tokyo-shoseki.co.jp. 2023年3月26日閲覧。
- ^ “「ミサキツノトビケラ」日本のレッドデータ検索システム”. NPO法人 野生生物調査協会・Envision環境保全事務所. 2024年4月14日閲覧。
- ^ “乾草沼-自然-”. 横芝光町公式ホームページ. 2024年4月14日閲覧。
- ^ “守れ「トンボの楽園」 乾草沼で保全団体発足 水質浄化へごみ拾い 写真展や観察会で周知 横芝光 【地方発ワイド】”. www.chibanippo.co.jp. 2023年1月16日閲覧。
- ^ “外来魚や粗大ごみ回収 乾草沼保全会「トンボの楽園」清掃 ゼゼラ、モツゴ希少種も確認 横芝光”. www.chibanippo.co.jp. 2023年1月16日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- “「乾草沼(ひぐさぬま)Higusa Swamp」ザ・レイクチャンプ シークレットポイント”. lake-champ.com. 2023年3月24日閲覧。
- “「乾草沼(南東から)」 九十九里浜平野の浜堤列間の湿地 中央博デジタルミュージアム”. www.chiba-muse.or.jp. 2023年3月24日閲覧。