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修正資本主義

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

修正資本主義(しゅうせいしほんしゅぎ)、または東亜モデル(とうあもでる、英語: East Asian model)とは、戦後の日本が生み出した経済体制の1つであり、政府が特定の分野に大規模な資金を投入し、民間企業私人企業の成長を意図的に支援する仕組みのことを指す。

特徴

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修正資本主義という言葉の中の「修正」とは、資本主義が抱えるさまざまな問題点を緩和・解消し、福祉国家の実現を目指すことを意味する[1]。この思想が生まれた背景には、1950年代の日本の社会環境が大きく関係していた。当時、労働運動民主化運動が非常に活発化され、資本主義への反発も強まっていた。資本主義の先進国であるアメリカの「ニューディール政策」やイギリスの『ベヴァリッジ報告』の影響を受け、日本も従来の搾取的な側面を持つ資本主義を改革しようと試みていた[2]

「アジア諸国では、市場だけでは資源を十分に配分できない」という課題を踏まえ、日本政府は特定の企業を優遇することで、経済成長を促進していた[3]。具体的な施策として、国民の銀行資産の強制管理、国有企業の支援、民間企業の育成、欧米先進国への輸出依存、高い貯蓄率の維持などが挙げられていた。また、この体制のやり方は、フランスのデリジスムや、アメリカのネオ重商主義ハミルトン経済学と似ている[4][5]

修正資本主義は「国が封建制度から離脱したばかりで、資本主義制度に移行し、農業中心の産業が製造業サービス業へと転換する」段階で、とくに有用だとされている[6]。日本の経済的成功を受けて、韓国香港台湾タイシンガポールマレーシアインドネシアなどのアジア諸国も、日本型資本主義を広く採用していた[7]。さらに、この体制は資本主義国にとどまらず、共産圏にも影響を与えていた。1970年代後半に始まった中国改革開放[8]や、1986年以降のベトナムドイモイ政策[9]では、「日本の経済的成功に学ぶべきだ」という考えが両国の政策に明確に取り入れられていた。

しかし、1980年代以降、修正資本主義の有効性は徐々に薄れ、今でもこの体制を維持している国は日本のみである[10] 。中国と香港は「社会主義的市場経済」へ移行し、一方、韓国は「財閥経済」と「混合経済」の中間的な体制が形成されている。また、台湾や東南アジア諸国は、FDI外国直接投資)への依存が高まる中で「新自由主義」に近い方向へ進んでいる。こうして2010年代以降、アジア各国はそれぞれ、日本とはまったく異なる道を歩み、日本型資本主義を採用しなくなっている[11]

呼称と語源

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日本国内では、「修正資本主義」と呼ばれている:

  • この言葉は1947年に、「経済同友会」の大塚万丈が著した『企業経営の民主化 修正資本主義の構想』という本で初めて用いられていた[1]
  • これは日本特有の呼称であり、海外ではほとんど使われていない。日本語の「修正資本主義」を英語に直訳すると「Modified Capitalism」となるが、英語圏ではこの表現は不自然な英語とはみなされている。
  • 戦後(1945年)には、日本がすでにこの経済体制を採用していたが、それ以前には特定の名称が無く、1947年に初めて「修正資本主義」という名称が定着したとされている。

海外では、「East Asian model(東亜モデル)」と呼ばれている:

  • 1988年日本系アメリカ人吉原邦男(Kunio Yoshihara)は「East Asian model」という用語を提唱した。これは、日本型資本主義の「政府が自国民による投資や、技術集約型の企業を意図的に促進する」という特徴を説明するために、発明したものである[12]。また、吉原邦男は、東南アジア諸国の経済体制は日本と違って、本物の資本主義ではなく「疑似資本主義」であるため、「Ersatz capitalism(代替資本主義)」という別の用語で形容した。
  • 一方、日本国内では、東アジア型と東南アジア型の資本主義を区別せず、どちらも「修正資本主義」という言葉として一括りにされることが一般的である。

本稿では日本の慣例に従い、「修正資本主義」という名称を用いてページのタイトルとしている。

概要

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元々、資本主義に基づく経済は誰かによって計画・管理されるものではないから、所得格差・失業・恐慌など様々な問題を発生させてしまう。

これら資本主義の欠陥が生み出す諸問題に対し、政府は経済への介入や政策の実行によってその解消・緩和を図るべきだとする考え方が修正資本主義である。現在の先進資本主義国は程度の差こそあれ修正資本主義を採用している。

資本主義の欠陥がどこにあるのか、それらが生み出す諸問題にはどう対処すべきかなどにはさまざまな意見があるものの、基礎としては次のような考えに基づいている。

  1. J・バーナムを始祖とする経営者革命論 大企業では株式所有者が広く分散しているため、資本家によってではなく専門の経営者によって運営されることになる(所有と経営の分離)。この経営者は資本家に対しても労働者に対しても中立な立場を保つことができるので、両者の協調を促進するような企業経営が可能になる。これに伴い資本の所有と非所有に起因する階級対立は次第次第に解消していく。
  2. ケインズ経済学 国家の経済活動や規制導入によって資本主義が生み出す諸々の問題を回避するとともに、社会政策や租税の賦課でもって所得格差を緩やかにすることができる。

マルクス経済学はこのような体制に否定的で、国家が経済活動に介入したところで階級対立などを無くすことは出来ず、結局のところは大資本家への資本集積を補完・促進しているのみだと説く。

この立場からは、修正資本主義的体制のことを国家独占資本主義と呼ぶ。[1][2]

2021年発足の岸田内閣は主要政策に修正資本主義の理念を反映した「新しい資本主義」(公益資本主義)を掲げた。

出典

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  1. ^ a b c 佐々木秀太. “修正資本主義(『日本大百科全書』)”. ジャパンナレッジ(NetAdvance). 2019年2月7日閲覧。
  2. ^ a b 揺籃から墓場まで(『ブリタニカ国際大百科事典小項目電子辞書版』). ブリタニカ・ジャパン. (2016) 
  3. ^ Danju, Ipek; Maasoglu, Yasar; Maasoglu, Nahide (8 January 2014). “The East Asian Model of Economic Development and Developing Countries”. Procedia - Social and Behavioral Sciences 109: 1168–1173. doi:10.1016/j.sbspro.2013.12.606. 
  4. ^ Berger, Peter L. "The Asian Experience & Caribbean Development." Worldview 27, no. 10 (1984): 4-7.
  5. ^ Schmidt, Johannes Dragsbaek. "Models of Dirigisme in East Asia: Perspectives for Eastern Europe." In The Aftermath of ‘Real Existing Socialism’in Eastern Europe, pp. 196-216. Palgrave Macmillan, London, 1996.
  6. ^ Sawada, Yasuyuki (2023), Estudillo, Jonna P.; Kijima, Yoko; Sonobe, Tetsushi, eds., “Structural Transformation and Development Experience from Asian Countries” (英語), Agricultural Development in Asia and Africa: Essays in Honor of Keijiro Otsuka, Emerging-Economy State and International Policy Studies (Singapore: Springer Nature): pp. 257–269, doi:10.1007/978-981-19-5542-6_19, ISBN 978-981-19-5542-6, https://doi.org/10.1007/978-981-19-5542-6_19 2023年12月12日閲覧。 
  7. ^ Kuznets, Paul W. (April 1988). “An East Asian Model of Economic Development: Japan, Taiwan, and South Korea”. Economic Development and Cultural Change 36 (S3): S11–S43. doi:10.1086/edcc.36.s3.1566537. 
  8. ^ Baek, Seung-Wook (January 2005). “Does China follow 'the East Asian development model'?”. Journal of Contemporary Asia 35 (4): 485–498. doi:10.1080/00472330580000281. 
  9. ^ Leonardo Baccini, Giammario Impullitti, Edmund Malesky, "Globalisation and state capitalism: Assessing the effects of Vietnam’s WTO entry" Vox EU 17 May 2019Archived 24 March 2015 at the Wayback Machine.
  10. ^ Danju, Ipek; Maasoglu, Yasar; Maasoglu, Nahide (8 January 2014). “The East Asian Model of Economic Development and Developing Countries”. Procedia - Social and Behavioral Sciences 109: 1168–1173. doi:10.1016/j.sbspro.2013.12.606. 
  11. ^ Singh, Ajit (2002). “Asian capitalism and the financial crisis”. In Eatwell, John; Taylor, Lance. International Capital Markets: Systems in Transition. Oxford University Press. pp. 339–368. ISBN 978-0-19-514765-0. https://mpra.ub.uni-muenchen.de/54932/ 
  12. ^ Kunio Yoshihara, The Rise of Ersatz Capitalism in South-East Asia, ISBN 978-0-19-588888-1, ISBN 978-0-19-588885-0

関連項目

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