軍国主義
軍国主義(ぐんこくしゅぎ、英: militarism, 独: Militarismus)または軍事主義(ぐんじしゅぎ)もしくはミリタリズム[1]とは、外交の手段として戦争を重視し、政治、経済、教育、文化などのあらゆる活動は、軍事力強化のために行わなければならないとする国家体制や思想をいう[2]。
軍国主義を採る人物を「軍国主義者」という。
概説
[編集]軍国主義の国家においては、軍が国家の中心となるため、軍人は国民から尊敬を集めるようになる[2]。また、社会全体が軍事的に編成され、社会のすみずみに軍隊的な考え方が浸透し、国家全体がまるで兵営のようになる[3]。よって、軍国主義の国家は「兵営国家」とも呼ばれる[3]。
軍国主義は、遡れば古代から存在し、たとえば古代ギリシアではスパルタ[3]、中世のカロリング朝など様々な例があるが[4]、世界的に流行し、その害悪がひどいものだと自由主義者などから批判されるようになったのは、19世紀半ば以降であると見られる[3][5]。
19世紀半ばに社会主義者や共和主義者がフランスのナポレオン3世の第二帝政を批判する言葉として使ったのが最初の使用例と見られている[6]。「帝国主義」という言葉もこの時期に使用されるようになったと見られる[6]。
国際的次元では「平和を脅かした国家」という他国批判の材料となってきた言葉である[4]。第一次世界大戦中や戦後はドイツ帝国(第二帝国)が軍国主義と批判されてヴェルサイユ体制下で国際社会から戦争の責任を追及され[4]、同様に第二次世界大戦後にはドイツ(第三帝国)と日本が軍国主義と批判されて国際社会から戦争の責任を追及されてきた[3][7]。
2024年現在においては先軍政治を掲げる北朝鮮や、ウクライナ侵攻で軍国主義的な手法を取ったロシアを非難しようとする動きがある。
日本における事例
[編集]日本政府における定義
[編集]1973年、時の内閣官房副長官・大村襄治は、軍国主義思想とは「一国の政治、経済、法律、教育などの組織を戦争のために準備し、戦争をもって国家威力の発現と考え、そのため、政治、経済、外交、文化などの面を軍事に従属させる思想をいう」と定義づけた[8]。
内閣総理大臣および閣僚の「非軍国主義者」規定
[編集]なお、1973年の段階では、日本の首相や国務大臣(閣僚)は「軍国主義者であってはならない」と、(政府内部で)一応は認識されていた[9]。
脚注
[編集]- ^ 精選版 日本国語大辞典「ミリタリズム」の解説 コトバンク、2021/12/27閲覧
- ^ a b 第2版,世界大百科事典内言及, 日本大百科全書(ニッポニカ),ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,百科事典マイペディア,旺文社日本史事典 三訂版,精選版 日本国語大辞典,デジタル大辞泉,世界大百科事典. “軍国主義とは”. コトバンク. 2021年8月28日閲覧。
- ^ a b c d e ブリタニカ国際大百科事典
- ^ a b c ファークツ 1巻 13ページ
- ^ ファークツ 1巻 12-13ページ
- ^ a b ファークツ 1巻 12ページ
- ^ 2015年のロシアの対ドイツ戦勝70年記念式典プーチンの演説でも、「ナチズムや日本の軍国主義と戦った国々の代表に特別な感謝を表明する」と表明された。 [1]。
- ^ 1973年(昭和48年)12月19日(72回国会)の衆議院建設委員会において、政府委員として答弁に立った大村は「軍国主義思想とは、一国の政治、経済、法律、教育などの組織を戦争のために準備し、戦争をもって国家威力の発現と考え、そのため、政治、経済、外交、文化などの面を軍事に従属させる思想をいうものと考えられるのでございまして、この思想に深く染まっている人とは、そのような思想がその人の日常の行動、発言などから明らかにくみとれる程度に軍国主義思想に染まっている人、言いかえれば、単に内心に軍国主義思想を抱くだけではなく、これを鼓吹し普及をはかる等、外的な行為までその思想の発現が見られるような人をさすものと理解しております。」と述べた。
- ^ 日本国憲法66条2項は、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。」と定めている。同条項にいう「文民」の解釈には論争はあるものの、政府見解では、次に掲げる者以外の者を指すと解していた。 1973年(昭和48年)12月19日(第72回国会)の衆議院建設委員会において、大村襄治政府委員(内閣官房副長官)は「政府といたしましては、憲法第六十六条第二項の『文民』につきましては、『旧陸海軍の職業軍人の経歴を有する者であって、軍国主義的思想に深く染まっていると考えられるもの』、それから『自衛官の職に在る者』、この二つを判断の基準にいたしているわけでございます。」と答弁した。
参考文献
[編集]- 浜井 修 監修、小寺 聡 編『倫理用語集 新課程用』山川出版社、2005年。ISBN 9784634052130。
- 眞邉正行 編著『防衛用語辞典』国書刊行会、2000年。ISBN 9784336042521。
- 井上清『日本の軍国主義 第1 (天皇制軍隊と軍部)』東京大学出版会、1953年 。
- 井上清『日本の軍国主義 1 (天皇制軍隊の形成) 新版』現代評論社、1975年 。
- 井上清『日本の軍国主義 第2 (軍国主義と帝国主義)』東京大学出版会、1953年 。
- 井上清『日本の軍国主義 2 (軍国主義と帝国主義) 新版』現代評論社、1975年 。
- 井上清『日本の軍国主義 3 (軍国主義の展開と没落) 新版』現代評論社、1975年 。
- 井上清『日本の軍国主義 4 (再軍備と軍国主義の復活) 新版』現代評論社、1977年 。
- 井上清『日本の軍国主義』岩波書店〈岩波現代文庫 井上清史論集〈3〉〉、2004年。ISBN 4006001134。
- ジョエル・アンドレアス 著、きくちゆみ 監訳、グローバルピースキャンペーン有志 訳『戦争中毒 ―アメリカが軍国主義を脱け出せない本当の理由―』((原題「Addicted to War」))合同出版、2002年。ISBN 4772602992。
- アルフレート・ファークツ 著、望田幸男 訳『軍国主義の歴史 1巻 封建騎士から大衆軍隊へ』福村出版、1973年 。
- アルフレート・ファークツ 著、望田幸男 訳『軍国主義の歴史 2巻 大衆軍隊の発展と軍国主義化』福村出版、1973年 。
- アルフレート・ファークツ 著、望田幸男 訳『軍国主義の歴史 3巻 軍部と政治』福村出版、1974年 。
- アルフレート・ファークツ 著、望田幸男 訳『軍国主義の歴史 4巻 1918年以後の軍国主義化』福村出版、1974年 。
- 伊藤智央(Tomohide Ito) (2019). Militarismus des Zivilen in Japan 1937–1940: Diskurse und ihre Auswirkungen auf politische Entscheidungsprozesse. ERGA, Reihe zur Geschichte Asiens; Bd. 19. München: Iudicium Verlag. ISBN 978-3862052202