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借地借家法
日本国政府国章(準)
日本の法令
法令番号 平成3年10月4日法律第90号
種類 民法
効力 現行法
所管 法務省
主な内容 不動産賃貸借に関する特則
関連法令 民法民事調停法不動産登記法など
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借地借家法(しゃくちしゃっかほう、しゃくちしゃくやほう。平成3年10月4日法律第90号)は、建物の所有を目的とする地上権土地賃貸借(借地契約)と、建物の賃貸借(借家契約)について定めた日本の法律であり、土地や建物の賃貸借契約における賃借人(借地人、借家人、店子)の賃借権を保護することを趣旨とする。

本法は、建物保護ニ関スル法律(明治42年5月1日法律第40号、建物保護法)・借地法(大正10年4月8日法律第49号。5月15日施行)・借家法(大正10年4月8日法律第50号。5月15日施行)の3法を統合したものであり、本法施行に伴いこれらの法律は廃止された。

民法は賃貸人と賃借人が対等な当事者であるという前提で賃貸借に関する規律を設けているが、社会の実情としては、貸し手は借り手に対して優位な関係にあり、弱い立場にある賃借人の保護を図る必要がある。

そのため、本法は、民法の規律を大幅に修正し、契約の存続期間や第三者対抗力といった面で賃借人保護を図る民法の特別法と位置づけられる。

本項で借地借家法について以下では条数のみを挙げる。

沿革

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借地法、借家法成立まで

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日清戦争日露戦争を経て、日本の産業構造は大きく転換し、農村部から都市部への人口流入も急速に進んだ。[1]

都市化に伴う地価の急速な上昇により、地主側は地代の値上げを考えるようになったところ、賃借権に第三者対抗力がないことを奇貨として、地主側が第三者に土地を(仮装)譲渡し、明け渡しないし地代の値上げを迫る、いわゆる地震売買が横行する等の問題が生ずるようになった。このような問題を受けて、明治42年(1909年)、建物登記を以て借地権の第三者対抗力を認める建物保護ニ関スル法律(建物保護法)が成立した。[2]

なお、建物保護法は、衆議院通過段階では、20年の最低存続期間の定め及び、期間満了時に建物が存在する場合の更新請求権を認めていたものの、これらの規定は貴族院において削除された[3]

ただし、これらの規定には少なからぬ必要性があったためか、再度借地法としてこれらの内容を含む法案が提出され、大正10年(1921年)、借地法が成立した。また、住宅の欠乏と借家の明渡し問題も社会問題化していたことから、借家人保護のための借家法も同時に成立した。[4]

借地借家法成立まで

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借地法・借家法の改正(正当事由要件の導入等)

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借地法、借家法施行後、最初の重要な改正は第二次世界大戦中の住宅難を背景に、1941年に行われた、契約期間満了時の更新拒絶や賃貸人側からの解約申入れに「正当な理由」を要求することとした改正である(借地法・借家法共通の改正)。[5]

借地法の改正事由としては建物買取請求権の存在によっても尚、契約期間満了時の更新拒絶により建物を取り壊さざるを得なくなる事態が多発していること、借家法の改正事由としては、何等の債務不履行も存在しないにも関わらず、更新拒絶や解約申入れにより、(相当の権利金を支払って獲得した)営業の基盤等が無意味化するのは相当でないことが挙げられていた。[5]

戦後、1957年には法制審議会の一部からなる、借地借家法改正準備会は借地法と借家法の一本化、借地権という物権の創設など画期的な改正案を取りまとめたものの、地主側からの反対意見が根強く、実現には至らなかった。[5]

その後、1961年に、借地法について代諾許可の制度の導入、借家法について借家人が相続人無くして死亡した場合に、内縁配偶者等が賃借権を継承可能な制度を導入する改正が行われた。[6]

借地借家法成立

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1961年改正後、1980年頃には、借家については賃貸住宅や公営住宅の著しい増加により需給バランスの問題が概ね解決した一方、借地については借地権価格が高額化するとともに、地代の低廉化や、他方では高層建物建築のための地上げ問題等が発生するようになった。[7]

このような問題状況のなかで、法制審議会における議論等を経て、政府は平成3年(1991年)、借地借家法案を国会に提出し、同年同法案は可決された。[7]

借地借家法成立に伴い、建物保護法、借地法、借家法は廃止されて、不動産の賃貸借関係に関する法律は借地借家法に一本化された。[7]

借地借家法成立に伴う主な変更点は以下の通りである。[8][9]

①借地について堅固建物と非堅固建物による存続期間の差異を失くし、最低存続期間及び存続期間の合意がない場合の期間を30年に一本化。また、更新後の存続期間は10年(ただし、初回更新時のみ20年)とされた。

②立ち退き料を正当事由の補完要素とすることを明文化(借地借家共通)

③定期借地制度の導入

④期限付き建物賃貸借(賃貸人の不在期間の建物賃貸借、取り壊し予定の建物賃貸借)の導入

⑤地代等増減請求事件について調停前置主義を採用

原則としては、借地借家法は1992年(平成4年)8月1日の施行前に生じた事項にも適用される(附則4条本文)。

しかし、施行前に設定された借地権については、借地上建物の朽廃による滅失(附則5条)・更新(同6条)・建物再築(同7条)等について旧法が適用される。[10]

そのため、本法の施行後もこれらの法律、特に借地法は、本法施行以前に成立していた借地権(そのような借地権が更新された場合を含む)に関する処理は、実質的に同法によることになるため、依然として重要な意味を持つ。[10]

このような措置がとられた理由は、特にその価値が大きい借地権について新法が適用されれば借地人に大きな影響を与えかねないためであった。[11]

定期借家契約の導入後

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定期借家契約の導入

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1999年平成11年)12月、議員立法により成立した「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」により、定期借家制度が創設された。[12]

即ち、定期借家契約は、旧38条(賃借人不在期間の建物賃貸借)を改正する形で導入され、特段の事由がなくとも、当事者間の合意により更新のない借家契約を締結することを認めたものである。[12]

また、同改正により、建物賃貸借の存続期間の上限を定める民法604条の適用も除外された。[12]

事業用定期借地権の改正

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2007年(平成19年)12月の法改正により、従前10年以上20年未満の存続期間のみが認められていた事業用定期借地権について、10年以上30年未満のもの(法23条1項)と、30年以上50年未満のもの(法23条2項)の2種類が認められることになった。[13]

構成

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  • 第一章 総則
  • 第二章 借地
    • 第一節 借地権の存続期間等
    • 第二節 借地権の効力
    • 第三節 借地条件の変更等
    • 第四節 定期借地権
  • 第三章 借家
    • 第一節 建物賃貸借契約の更新等
    • 第二節 建物賃貸借の効力
    • 第三節 定期建物賃貸借等
  • 第四章 借地条件の変更等の裁判手続

借地権

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普通借地権

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適用範囲

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借地借家法は、建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権を、借地権と定義している(法2条1号)。

そのため、建物所有以外を目的とする土地賃貸借(例えば駐車場や資材置き場として利用することを目的とする土地賃借契約)は借地契約ではないし、使用貸借契約にも本法の適用はない。[14]

なお、借地権の付着している土地の所有権を底地と呼ぶこともあるが、これは本法ないし民法上の正式な用語ではない。

建物所有目的
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「建物所有目的」については、事業用・居住用の区別は問われないが、建物所有を主たる目的とする必要があり、建物所有が従たる目的に過ぎない場合は建物所有目的とは認められない[15]が、借地権設定当時において建物が存在している必要はない。[16]

また、建物は必ずしも表示登記が可能な程度のものである必要はないが、土地、柱、屋根、周壁等が存在し、社会的経済的効用を土地の定着物である必要がある。[16]

以上のため、キャンピングカー、テント、掘立小屋等は建物とは認められないし、バッティングセンター、中古車販売場等のために土地を賃借する場合には建物所有を主たる目的としているとはいえないとされる。[17]

しかし、建物所有目的か否かは、敷地面積と建物面積との比によってのみ決まるものではない。[14]

具体的に判例で問題となった事例としては、以下のような物がある。[18]

  • 自動車教習所を経営する目的でなされた土地の賃貸借について、建物の敷地面積の土地全体に対する割合が4.5%にすぎない場合であっても、「自動車学校の運営上、運転技術の実地練習のための教習コースとして相当規模の土地が必要であると同時に、交通法規等を教習するための校舎、事務室等の建物が不可欠であり、その両者が一体となつてはじめて自動車学校経営の目的を達しうるのであるから」、建物所有を目的としていると認めた(最判昭58.9.9・判例時報1092号59頁)
  • 自動車教習所経営目的でなされた1200坪の土地の賃貸借について、事務所・車庫・物置の3棟の建物(建坪合計20坪)が存在するのみで、建物はいずれも土台も存在しない掘っ立て小屋程度であったという事案で、当該建物は自動車教習の便益のために付随的に設置されたものにすぎないとして建物所有目的を否定した(最判昭35・6・9・裁判集民事42号187頁)。
一時使用目的の場合の適用除外
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一時使用目的の借地権には、存続期間、契約更新、建物買取請求権、借地非訟事件に関する本法の規定は適用されない(25条)。

例えばサーカスの興行のために土地を借りるような場合が一時使用目的に当たるとされる。[19]

そして、一時使用目的であるか否かの判断にあたっては、単に存続期間の長短のみならず、「その目的とされた土地の利用目的、地上建物の種類、設備、構造、賃貸期間等、諸般の事情を考慮し、賃貸借当事者間に短期間にかぎり賃貸借を存続させる合意が成立したと認められる客観的合理的な理由が存する場合にかぎり、右賃貸借が借地法9条にいう一時使用の賃貸借に該当する」とされる(最判昭・43・3・28・民集22巻3号692頁。)[20]

そのため、存続期間2年の借地契約を、賃借人が輸入自動車販売業の本拠とする意図で賃借していたこと、賃貸人側に土地を自己使用する必要性が乏しいこと等を理由に「一時使用目的」ではないとした事例(東京地判昭58・2・16判タ498号121頁)がある一方、存続期間を10年とした約定を一時使用と認めた判例もある(最判昭36・7・6・民集第15巻7号1777頁)。[21][注釈 1]

ただし、一時使用というためには、「一時」という文言からしてもその存続期間が法の定める存続期間より相当短いものであることを要するとされ、(借地権の最低存続時間と同じ)存続期間を20年とする借地契約は一時使用目的とは言えないとされ(最判昭45・7・21・民集24巻7号1091頁)、存続期間10年程度が一時使用目的を肯定しうる限界であるとされる。[23]

期間

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借地契約の存続期間は、

  • 契約期間を特に定めなかった場合は30年となり、借家とは異なり「期間の定めのない契約」は認められない。(3条本文)。
  • 30年より長い期間を定めた場合は、その定めた期間となる(3条但書)、期間の上限はない。
  • 30年より短い期間を定めた場合は、その約定は無効であるから(9条)、期間を定めなかった契約となり、30年となる。

当初の借地権存続期間中に建物が滅失した場合で、当初残存期間を超えて存続する建物を再築した場合、再築に際して貸主が承諾を与えた場合は、借地権は再築の日または承諾の日のいずれか早い日から20年間存続する(再築建物の存続期間がそれ以上であれば、再築建物の存続期間分借地契約も存続する。)(7条)。[24]

借地人が承諾を求めたのに貸主が2か月以内に異議を述べなかった場合は承諾があったものとみなされるが、異議を述べるのに正当事由は不要であり、異議を述べた場合の法的効果を知っている必要もない。[24]

更新

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借地契約の存続期間が満了した際、当事者間の合意により更新することは当然可能である。[25]

合意により借地契約を更新し期間を定める場合、その更新後の期間は、最初の更新では20年以上、2度目以降の更新では10年以上でなければならない(4条)。

また、民法における原則では、契約期間が定められている場合ならば、その期間が過ぎれば契約は終了し、さらに契約を更新するかどうかは当事者次第である。[26]

しかし、土地利用継続への期待は法的保護に値し、賃借期間が満了した場合に必ず借地契約を終了させることは建物そのものの経済的価値等からしても損失が大きい。[27]

そのため、法は、借地期間満了時に建物が存在するときは、借地人は、契約の更新を請求することができるものとし、これに対し、地主(賃貸人)が正当事由を備えた異議を遅滞なく述べなければ、契約は従前の契約と同一条件で更新される(法定更新。法5条1項。)。[28]

また、借地権の存続期間が満了した後、借地人(または転借人)が土地の使用を継続している場合も、建物が存在するときは、地主が遅滞なく異議を述べなければ、契約は法定更新される(5条2項、3項)。この異議にも正当事由が必要である(6条)。

法定更新が成立するのは借地契約が存続期間満了により終了した場合に限られるため、借地契約が債務不履行により解除された場合等には法定更新は認められない。[29]

正当事由の判断にあたっては、「(賃貸人及び賃借人が)土地の使用を必要とする事情のほか、借地に関する従前の経過及び土地の利用状況並びに借地権設定者が土地の明渡しの条件として又は土地の明渡しと引換えに借地権者に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出(立ち退き料)」を考慮することとされている(6条)。

賃貸人及び賃借人の土地利用の必要性が正当事由を判断するにあたっての中核的な考慮要素であり、その他の事由は正当事由を補完する要素に過ぎない。[30]

更新後の借地権
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なお、契約更新後に建物滅失があった場合は、借地権者は借地契約の解約の申入れまたは地上権の放棄をすることができる(8条)。

建物滅失後、借地権者が貸主の承諾を得ないで残存期間を超えて存続する建物を再築した場合は、貸主は借地契約の解約の申入れまたは地上権の消滅請求をすることができる。

この場合において、再築にやむをえない事情があるにもかかわらず貸主が承諾しない場合は、借地非訟事件として借地権者は原則として裁判所に対し承諾に代わる許可を求める申立てをすることができる。

なお、申立てを受けた裁判所は、特に必要がないと認める場合を除き、裁判をする前に鑑定委員会の意見を聴かなければならない(18条)。

更新料
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借地契約の更新に際し、更新料の授受が行われることがある。

借地借家契約における更新料の意義については、「一般に、賃料の補充ないし前払、賃貸借契約を継続するための対価等の趣旨を含む複合的な性質を有する」ものとされる(借家の事案であるが、最判平23・7・15民集65巻5号2269頁)。[31]

このような更新料を巡っては、

  • ①更新料支払いに関する合意(特約)がない場合に更新料支払義務が生じるか
  • ②更新料支払い特約は法9条に反し無効ではないか(更新料支払い特約は法定更新の場合にも効果が及ぶか)
  • ③更新料を支払わなかった場合に解除が認められるか

という形で問題となる。[32]

このうち、①の点については、要するに契約更新に際して更新料を支払う事実たる慣習ないし商慣習があるかという問題であるが、判例(最判昭51・10・1判時835号63頁)はこれを否定する。

即ち、「宅地賃貸借契約における賃貸期間の満了にあたり、賃貸人の請求があれば当然に賃貸人に対する賃借人の更新料支払義務が生ずる旨の商慣習ないし事実たる慣習が存在するものと認めるに足りない」と判示している。[31]

次に②の点については、本来契約更新は法定更新により強行法規的に無償で(そのまま)更新されることが原則であり、更新料支払い特約は更新の要件等を加重するものとして、法9条に反し無効ではないか、とりわけ法定更新がされた場合については更新料支払い合意の効力を認めえないのではないかという問題である。[33]

この点については、更新料支払合意を片面的強行規定に反して無効とする見解も存在するものの、判例は基本的に法定更新の場合に適用する場合も含めてその有効性を肯定しているものと解されている。[34]

③の点については、更新料支払合意が合意更新の前提であった場合に、合意更新が無効となって法定更新の成否が問題となることは格別、賃貸借契約そのものを解除するためには単に債務不履行が存在するというに留まらず、信頼関係が破壊されたことを要するため、更新料の不払いのみで解除に至る例は少ない。[35][36]

ただし、やや特殊な事例(賃貸人が賃借人の無断転貸・用法遵守義務違反・賃料支払義務の遅滞等を不問に付し、解決金としての趣旨を含む100万円の更新料を支払う調停が成立していた)であるが、更新料不払いによる賃貸借契約解除を認めた事例も存在する(最判昭59・4・20民集38巻6号610頁)。[36]

対抗力

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借地借家法では、借地人が、借地権を第三者に対抗するための対抗要件について、民法の特則を置いている(10条)。

民法上は、賃借権は貸主と借主との契約により生じる債権にすぎないため、物権のような絶対性がなく、賃借権の登記をしない限り第三者に対抗することはできないのが民法の原則である。[37]

したがって、賃貸人が第三者に目的物を譲渡した場合、賃借人は第三者に対して、目的物ついての賃借権を主張できず、新所有者は所有権に基づき、Aに対して明渡しを求めることができることになるのが民法上の原則である(「売買は賃貸借を破る」という原則)。

しかし、賃貸借契約においては、特約がない限り、賃借人は賃貸人に賃借権の登記を求めることはできないというのが判例・通説であり(大審院大正10年7月11日判決民録27巻1378号)、実際上も、賃貸人は、賃借権を登記することによって得られる強力な効果を嫌い、任意に登記に協力することはまずない。[16]

そのため、賃借権設定登記という方法によって賃借人が新所有者に自己の権利を主張するという方法は有名無実化していた。

しかし、これでは、賃貸人が、賃料の値上げに応じない賃借人について賃貸物件を第三者に売却して立ち退かせるなどして、値上げを迫ることもできることになり、賃借人の立場は非常に弱いものになる(いわゆる地震売買)。[38]

そこで、借地人・借家人の地位を保護するために、借地人は、その土地上に自己名義の登記済建物を所有していれば、第三者に対して借地権を対抗することができるものとされている(10条1項)。

建物の保存登記をすることについては賃貸人の協力を要しないので、実際上ほとんどの借地権は建物登記により対抗力を有する。[39]

この登記は表示登記及び保存登記で足りるが、借地人本人名義の登記である必要があり、家族名義の登記では対抗力が認められない(妻名義につき最判昭47・6・22・民集26巻5号1051頁、長男名義につき最大判昭41・4・27・民集20巻4号870頁がそれぞれ対抗力を否定。)[39]

対抗力が認められる範囲は、原則として建物の敷地として登記されている範囲に限られる(最判昭44・12・13・民集23巻12号2557頁)。[40]

また、建物の表示登記に記載された所在・地番・床面積等が実際のそれとは異なる場合であっても、更正登記の認められる程度の軽微な相違が存在するに過ぎず、建物の他の記載と合わせて建物の同一性を認識できる程度の軽微な相違であれば、借地権は対抗力を有する(最大判昭40・3・17民集19巻2号453頁)。[39]

また、登記済建物の滅失後2年以内ならば、その土地上の見やすい場所に、建物を特定するために必要な事項、滅失があった日、および建物を新たに築造する旨を掲示することで、第三者に対して借地権を対抗できる(10条2項)。

掲示による対抗が認められるためには、滅失前の建物に少なくとも表示登記がされ、対抗力を有していたことが必要であり、表示登記もされていない建物が滅失した場合は借地権の対抗は認められない。[41]

また、建物滅失後、掲示を行う前に土地が第三者に譲渡された場合や、一旦掲示をした後であってもそれが撤去等で掲示されていない状態となった場合は対抗力は認められない。[41]

なお、対抗力に関する特則は、一時使用の借地であっても適用される(25条は10条の適用を排除していない)。

このように、本来は債権に過ぎない賃借権だが、本法の規定により物権と類似する対外的効力を有するに至っている(「賃借権の物権化」)。

地代等増減額請求

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増減額請求
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賃料額の改定に際しては賃貸人と賃借人の地位の違いとそれによる交渉力の差が大きく現れる局面である。

よって借地借家法は地代や家賃が経済事情の変化によって現状に見合わない額となった場合には、当事者の双方が借賃増減額請求権を取得する(11条)

具体的には、「土地・建物に対する租税その他の負担の増減」または「土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の動向」または「近隣の同種の借地・借家の借賃と比較」によりそれら借賃が不相当となった場合、かつ当事者間に一定期間借賃を「増額しない」旨の特約がない場合(なお、後述の通り「減額しない」旨の特約は借主に不利であるため無効とされる)に、当事者は将来に向けて借賃の増減額の請求ができる(過去に遡って賃料額を変更することはできない)[42]

意思表示の方法に制限はなく、口頭の意思表示でも可能だが、実務上は内容証明郵便によることがほとんどである[43]

賃料像減額請求権は、その意思表示が相手方に到達した日から変更額の効果が生じる形成権であり(最判昭45.6.4集24巻6号482頁。ただし、意思表示後の一定の期日を指定して、同日を以て効力を生ずる旨の意思表示も当然に有効である)、表意者の主張額に同意すれば表意者の主張額に変更される。ただし、形成権であることは、意思表示の相手方が同意しない場合に、賃料額が当然に表意者の「言い値」に変更されることを意味せず、変更されるのはあくまでも賃料額が不相当となった限度である[44]

賃料額が「不相当」であるかについては、法文上「土地に対する租税その他、地価の変動、又は近傍類似の土地の地代等」が考慮されることとなっているところ(11条1項)、具体的な金額は、利回り法・スライド法・公租公課倍率法等、様々な方法をケースバイケースで組み合わせるほか、不動産鑑定士による鑑定がされることもある。なお、法文記載の事情の他に地代決定の基礎になっていた当事者間の人的関係の変化等も考慮される[45]

また、意思表示により直ちに賃料増減額の効力を生ずるとしても、裁判等により賃料額が確定するまでの間、意思表示の相手方は「相当と認める」賃料を支払うことで足り(11条2項)、(賃料増額請求の場合)裁判確定により認められた適正賃料を下回る賃料しか支払わなかった場合であっても、後述の不足額に対する利息の問題はともかく、直ちに賃料不払いの債務不履行を生じさせるものではない[46]

ここにいう「相当な額」は客観的なものではなく主観的なものであり、基本的には従前賃料を全額支払っていれば相当な額を支払ったものと認められるが、従前の地代と同額の地代を支払っていても、それが目的物の公租公課の額を下回るような賃料であり、賃借人においてその事実を認識していた場合には、賃借人において同額が相当の賃料であると考えていたとしても、特段の事情がない限り「相当の額」とは認められない(最判平8・7・12民集50巻7号1876頁)[46]

また、借賃減額請求の場合、請求を受けた賃貸人は裁判確定までの間、自己が相当と認める額(従前賃料を超えない額)を請求することができ、賃借人が賃貸人が相当と考える賃料を支払わない場合は、債務不履行となる[47]

こうした賃料額の決定を巡る訴えを提起する場合には、 あらかじめ調停を申立てなければならない(調停前置主義民事調停法24条の2、24条の3)。

差額賃料の精算
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地代等増額請求がなされ、裁判等により適正賃料が定められた場合、賃借人は適正賃料額と賃料増額請求がなされて以降支払った賃料との差額を、年一割の利息を付して支払う必要がある(11条2項)。

地代等減額請求がなされ、裁判で確定した額が、自己が相当と認める額より低かった場合、賃貸人は超過分を受領時後年一割の利息とともに賃借人に支払わなければならない(11条3項)。

なお、借家の事例であるが、賃料増額請求にしたがって増額賃料を支払ったが、適正賃料は増額賃料を下回っており過払いが生じていた場合、過払い賃料に関する規定である借地借家法32条2項但書は類推適用されないとした事例がある[48]

また、このような利息の収受をしない合意も有効であり、そのような調停や和解がされることも多い[49]

地代自動改定特約
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借地借家契約においては、「地代を固定資産税額の3倍とする」、「「地代を3年毎に10%ずつ増額する」といったように、一定の条件に応じて賃料を自動的に改定する旨の約定(地代等自動改定特約)が結ばれることがある[50]

このような地代等自動改定特約については、借地借家法11条に照らして有効であるのかが問題となるが、判例(最判平15・6・12民集57巻6号595頁)は、「その地代等改定基準が借地借家法11条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合」にはその効力を認めることができるとして原則としてその有効性を認めつつ、「当初の地代等改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われ、同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった」場合には、当初有効であった地代等自動改定特約であっても、同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されないとしている[51]

また、後述の通り地代等減額請求権を排除する特約は無効であるから、そのような事情の存在する場合には、借地人は賃料減額請求権を行使することも可能としている[51]

地代増減額請求排除特約
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賃料増額請求を排除する特約は有効である(11条1項)。

賃料減額を排除する特約については、賃料減額請求権については強行規定であり、これに反する特約は効力を生じないとするのが判例(最高裁平成16年6月29日判時1868号52頁)である[52]

建物買取請求権

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趣旨・効果
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賃貸借契約終了時は、目的物を契約時の原状に復した上で返却する必要がある(民法622条、599条1項)ため、借地の場合であれば、建物を収去して土地を更地にして地主に返還するのが原則であるが、借地人は建物買取請求権を行使することで、建物収去義務を免れ、賃貸人に対する建物の時価相当額の支払請求権を取得することができ、その意味で建物買取請求権の規定は民法の原状回復義務に関する特則である[53]。 建物買取請求権は形成権であり、行使された場合、賃貸人の意思に関わらず建物の時価で建物の売買契約が成立し、土地明渡義務と代金支払義務は同時履行の関係に立つ(大判昭9・6・15民集13巻13号1000頁)[54]。 また、建物買取請求権を定める13条は強行法規であり、(定期借地ではない借地権について)これを排除する特約は無効である(16条)。[55]

このような建物買取請求権が認められる趣旨については、借地人は資本を投下して建物を建築等をしているところ、それが借地契約終了時に価値を有している場合に投下資本を回収する機会を与える必要があり、また借地契約が終了した際には必ず建物を取り壊すとすることは、国民経済的損失でもあるためとされる。[56]もっとも、建物買取請求権の合理性については、戦後の住宅難の時代のように建物保護の社会的要請が強かった場合はともかく、今日では疑問が残るとする見解も多い。[57]

なお、法13条にいう建物の時価の意義については、それが建物を取り壊した場合の廃材としての価格でないことは当然として、借地権価格が「時価」に含まれるかが問題となるが、判例はこれを否定する(最判昭35・12・20民集14巻14号3130頁)。

同時に、同判例は借地権価格が建物の時価に含まれることは否定するものの、「建物がへんぴな所にあるとまた繁華な所にあるとを問わず、その場所の如何によつて価格を異にしない」旨判示した原審の判示内容を不適切として、「特定の建物が特定の場所に存在するということは、建物の存在自体から該建物の所有者が享受する事実上の利益」である「場所的利益」は「建物の時価」に含まれるとする。ただし、場所的利益の具体的な算出方法は実務上確立しているとは言い難い状況にある。[58]

賃貸借契約が賃借人の債務不履行によって解除された場合に建物買取請求権を行使し得るかについては、判例はこれを否定する(最判昭35・2・9民集14巻1号108頁)。

また、建物買取請求権は、これを行使しうる時から10年の消滅時効にかかる(最判昭42.7.20民集21巻6号1601頁)。[54]

なお、賃貸人の同意を得ずに借地権の存続期間を超える建物が再築された場合であっても、建物買取請求権が行使されれば、13条2項に基づき一定の期限の猶予が与えられる可能性はあるものの、あくまでも再築後建物の時価で買取る必要がある[53]

第三者の建物買取請求権
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賃借権の譲渡を地主が承認しない場合に、その借地上の建物などを取得して借地権を譲り受けようとする者はその地主に対して建物等の買取を請求できる(第三者の建物買取請求権、14条。)

制度趣旨は、借地権の無断譲渡がなされた場合に、借地権設定者が、無断譲渡を理由に借地の賃貸借契約を解除し、建物の取得者に対しては建物収去土地明渡しを求めうるものとすると、特に建物価格が高額であるような場合、建物取得者の被る損失は借地権設定者の得る利益に比してあまりにも大きいためであるとされる。[56]

なお、借地権の譲渡を承認しない間に賃貸人と賃借人との間で賃貸借契約が合意解除されても、特段の事情がない限り建物買取請求権を失わない(最判昭48・9・7 民集27巻8号907頁)。

転貸借・借地権譲渡

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代諾許可
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借地権であっても、地上権については物権であるため地上権設定者(地主)の承諾を得ずに自由に譲渡できるが、土地の賃貸借契約である場合は、賃借権の譲渡・転貸には賃貸人の承諾が必要であり、承諾がないままの無断譲渡・転貸は契約解除事由ともなる(なお、借地上建物を他人に賃貸するだけでは借地の譲渡・転貸には当たらない。)。(民法第612条1項、2項)。[59][60]

そして、土地利用権限なしに建物は存続し得ないから、土地の賃借人が借地上の自己所有建物を譲渡する場合、基本的に借地権譲渡も伴うことになる。そのため、土地賃借人は地上建物を自由に売却等することができないというのが原則である。[61]しかし、このような帰結は、地上建物の売却により借地関係から離脱し、投下資本を回収する機会を土地賃借人に与えないことになり、土地賃借人にとっては酷な側面がある。一方で、建物の所有を目的とする土地の賃貸借契約にあっては賃借人による目的物利用方法の差異は小さい。[61]

そのため、借地借家法はこのような賃貸人と賃借の間の利害関係を調整するため、承諾に代わる裁判所の許可(いわゆる代諾許可)の制度を設けている(19条)。[61]

申立人となりうるのは既存の賃借人ないし承諾を受けた転借人(19条7項)のみであり、建物の譲受人等は競売により建物を競落した場合(20条)を除いては申立人となり得ず、賃借人の代諾許可の請求権を代位行使することでもきない。[62]

代諾許可の申立は特定人に対する賃借権の譲渡ないし転貸の許可であるため、譲渡等をしようとする相手方は特定している必要があるが、譲渡候補者複数人について順位をつけて譲渡するといった申立や、複数人の中から選択的に譲渡するといった申立も適法である。[63]

申立の時期については、学説上は異論もあるものの、「建物を第三者に譲渡しようとする場合」という条文の文言に照らして、申立は譲渡前にされる必要があるとするのが通説・実務運用である。[62]

なお、普通借地の場合はもちろん、定期借地の場合でも代諾許可の制度は適用される。[64]

代諾許可のための実体的要件は、「第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがない」ことであり、具体的には「賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情」を考慮することになる(法19条3項)。

そのうえで、代諾許可の許否は基本的にはまず賃借権譲渡の場合における譲受人の資力と、地主と賃借権譲受人又は転借地人との人的信頼関係という観点から判断されることになる。[64][注釈 2]

もっとも、借地権は建物所有を目的として土地を利用する契約であるため、借地人の個性により借地権設定者が不利になる場面は限られ、具体的には賃借権の譲受人等が暴力団であるとか、借地上建物を暴力団事務所として使用しようとしている等の場合が想定される。[66]

また、裁判所は代諾許可をなすにあたって、付随的裁判として、借地条件の変更(地代増額・存続期間延長)を命じたり、許可を財産上の給付に係らしめることが可能である(19条1項)。[62]

財産上の給付としては、借地権価格の一定割合(10%程度)の支払い(いわゆる承諾料)を条件に許可がなされることが一般的であるが、借地権設定者に対して敷金を差し入れるよう求めうるとした判例がある(最判平13・11・21民集第55巻6号1014頁。なお、20条の事案である。)[67]

転貸
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転貸がなされると、賃貸人は、賃借人に対して請求することができる範囲内で、転借人に対して転借料を直接に賃貸人に支払うよう請求できる。転借人は、賃借人に既に転借料を支払っているバアであっても、それが賃料の前払いである場合には賃貸人に対抗できない(民法第613条)。賃借人と転借人の共謀により、賃貸人を害することを防止する趣旨とされる。[68]

転貸がされている場合において、建物の賃貸借契約が

  • 期間満了または解約申入れによって終了するときは、賃貸人は転借人に対しそのことを通知しないと契約の終了を転借人に対抗できない。賃貸人が終了の通知をしたときは、転貸借はその通知後6か月を経過すると終了する(34条)。
  • 合意解除によって終了したときは、特段の事情がない限り賃貸人は転借人に対してこの合意解除の効果を対抗できない(大判昭9.3.7)。
  • 賃借人の債務不履行が理由で解除されたときは、転貸借も同時に終了する。転借人への催告は不要である(最判昭37.3.29)。

賃借人が賃貸人に無断で転貸借・借地権借家権の譲渡をして第三者が使用・収益をしたときは、賃貸人は契約を解除することができる(民法第612条2項)。その際、催告や正当事由は不要である。ただし、その使用収益させる行為が賃貸人に対する背信的行為と認められないときは、契約の解除はできない(最判昭28.9.25)。

片面的強行規定

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本法の規律は基本的に片面的強行規定であり、賃貸人に不利な特約は許されるが、賃借人に不利な特約は無効となる(法9条、16条、21条)。

特定の条項が片面的強行規定に反する解中について、条項の文言それ自体から判断する見解と、そのような条項が挿入されるに至った経緯等を総合考慮したうえで判断する見解とがあるが、判例は後者の見解に立つ。

定期借地契約

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定期借地権は、契約期間の更新をすることができない(法定更新が生じない)借地権である。[注釈 3]

旧借地法にはこのような規定は無く、本法制定時に新しく導入されたものである。

普通借地権の場合、例え当初契約の期間が満了したとしても、更新拒絶には正当事由の存在が要求されるうえに、建物買取請求権が行使された場合建物を買い取る必要もある。

そのため、地主側は、土地を貸したら帰ってこないという認識を持つことが多く、借地の供給が不足するようになったため、契約期間満了と共に確実に借地関係を終了させる定期借地制度が導入された。

これにより様々な経済的要請に応えることができる、柔軟な借地契約が可能となった。

なお、定期借家契約の場合と異なり、賃料増減額請求を排除することはできない。

定期借地権には3種類ある。

一般定期借地権(22条
契約の更新や建物買取請求権がない借地権である。
借地権の存続期間は50年以上でなければならないが、存続期間終了時には借地を更地に戻して返還しなければならない。存続期間満了後、更新もなく速やかに土地が返還されるため、比較的安価で借地権を設定できるのがメリットである。
この一般定期借地権契約は、書面でしなければならない。
宅地建物取引業者が22条による宅地の賃貸借の媒介・代理を行う場合、その旨を重要事項説明として宅地建物取引士に説明させなければならない(宅地建物取引業法第35条、宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3)。
事業用定期借地権等(23条
専ら事業の用に供する建物の所有を目的とする借地権で、一般定期借地権に比べ存続期間を短く設定できる。
借地権の存続期間は10年以上50年未満であることが必要である。
30年以上50年未満の存続期間の場合は、9条及び16条の規定にかかわらず、契約の更新および建物の築造による存続期間の延長がなく、ならびに13条の規定による買取りの請求をしないこととする旨を定めることができるものとである(1項)。
10年以上30年未満の場合は3条から8条13条及び18条の規定は適用されない(2項)。つまり店舗を建設するといった目的に限定されるのであり、居住目的の建物は建設できない。
この事業用借地契約は公正証書によってなされなければならない(23条3項)。
なお、2007年12月31日までの借地権存続期間は10年以上20年以下であり、旧法の適用がある。50年以上の存続期間を望む場合は一般定期借地権を利用することが可能である。
建物譲渡特約付借地権(24条
期間満了時に、借地上にある建物を相当の対価でもって地主に売却するとの特約を付した借地権である。
存続期間は30年以上である。土地開発業者(ディベロッパー)などが土地を借り、そこにビルやマンションを建てて賃料収入を得て、その後地主に売却するという事業に用いられる。

建物買取請求権

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学説上は、建物買取請求権を排除しない定期借地家客も有効であるとする見解が一般的であるが、登記実務は建物買取請求権を排除しない定期借地権を認めない。

既存借地権

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本法施行以前から存在する借地権であり、多くの点で本法の規律ではなく旧借地法の規定が適用される。

借家契約

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普通借家契約

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適用範囲

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借地借家法は、上記借地のほか、建物の賃貸借契約を適用対象としている(1条。以下本稿で建物の賃貸借契約を「借家契約」といい、その賃借人を「借家人」という)。

ここにいう「建物」は、一軒家を借りている場合はもちろん、建物の一部の間借りであっても、他の部分と区画されており、構造や規模から独立的排他的支配が可能であればこれに該当する(最判昭和42年6月2日民集21巻6号1433頁)。

一時使用目的の借家契約には、本法の規定は適用されない(40条)。イベント開催中に出店を出すためだけに店舗を借りるという場合などがこの一時使用に当たる。

サブリース契約
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バブル経済の最中、デベロッパー等が個人ないし小規模な会社に賃貸マンション等を建築させたうえで賃料保証を約した上で一括借上げを行い、同マンション等を転借する、いわゆるサブリース契約が積極的に締結された。[69]

しかし、バブル経済の崩壊と共に賃借人側において予定していた収益を上げることができなくなり、借地借家法32条に基づく賃料の減額を求めるというトラブルが相次いだ。[69]

その際に、サブリース契約はそもそも(借地借家法の適用のある)賃貸借契約であるかが問題となったが、最高裁(最判平15・10・21)はこれを肯定した。[70]

期間

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借家契約の存続期間は、当事者の合意によって定まる。民法第604条(賃貸借契約の期間を20年以下と規定している)の適用が排除されているため、期間の上限はない(29条2項)。1年未満の契約期間を約定した場合、期間の定めがない建物賃貸借とみなされる(29条1項)。

更新

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期間の定めのある借家契約
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期間の定めのある借家契約については、何もしなければ自動的に契約が更新されるという制度が採られている。すなわち、当事者が契約期間満了で契約を終了させようとする場合は、契約期間が満了する1年前から6か月前までに、相手方に対して契約を更新しないこと(更新拒絶)を通知しなければならず、この通知がない場合には、これまでと同様の条件(ただし、新たな借家契約は期間の定めのないものとされる)で契約が法定更新される(26条1項)。賃貸人がこの更新拒絶の通知を行うためには、正当事由が必要となる(28条)。

また、正当事由がある更新拒絶の通知を行った場合であっても、借家人(または転借人)が期間満了後もその建物に住み続けているときは、賃貸人が遅滞なく異議を述べなければ、契約は法定更新される(26条2項、3項)。この異議には、正当事由は要求されていない。

正当事由の判断は、「建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。)が建物の使用を必要とする事情」が中心的な考慮要素であり、付随的に、「建物の賃貸借に関する従前の経過」、「建物の利用状況および建物の現況」および「建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」(いわゆる立退料)が考慮要素として挙げられているが、これらの考慮要素が総合的に判断される。

期間の定めのない借家契約
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期間の定めのない借家契約の場合には、民法の原則により、いつでもどちらからでも解約を申し入れることができる(民法617条1項)。また、期間の定めがあっても、契約期間が1年未満である場合には期間の定めがない建物の賃貸借とみなされる結果(29条1項)、同様に解約を申し入れることができる。

ただし、建物賃貸人からの解約申入れについては、第1に、解約申入れから契約終了までの猶予期間(解約申入れ期間)が、民法617条1項2号所定の3か月から、2倍の6か月に延長されている。第2に、正当事由が必要とされる。さらに、借家人が6か月たっても立ち退かなかった場合、賃貸人が遅滞なく異議を述べないと、6か月前に行った解約申入れは効力を失う(27条)。

なお、借家人からの解約申入れについては民法617条により、正当事由を必要とせずにいつでも解約の申入れをすることができ、解約の効果は申入れから3か月が経過したときに生じる。したがって、申入れ後直ちに立ち退いたとしても3か月分の賃料支払い義務は残る。仮に民法617条を任意規定と解すると、特約で借家人からの解約申入れ期間を4か月等に延長することが可能になる。もっとも、仮に任意規定だとしても、消費者契約法により、3か月よりも長い解約申入れ期間は無効となる可能性がある。

借地権の目的である土地の上の建物について賃貸借がされている場合、借地権の存続期間の満了によって建物の賃借人が土地を明け渡すべきときは、建物の賃借人が借地権の存続期間が満了することを、その1年前に知らなかった場合に限り、裁判所は、建物の賃借人の請求により、建物の賃借人がこれを知った日から1年を超えない範囲内において、土地の明渡しについて相当の期限を付与することができる。この場合、建物の賃貸借は、その期限が到来することによって終了する(35条)。

対抗力

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  • 借家人は、建物の引渡しがあったとき、すなわち借家人がその借家に居住等で占有していれば、第三者に建物賃借権を対抗することができる(31条1項)。借地と異なり、一時使用の借家では適用されない(40条は31条の適用を排除している)。

賃料等増減額請求

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造作買取請求権

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借家契約においてもその契約終了時に賃貸人に対して「造作(ぞうさく)」を買い取れと請求できる。これを造作買取請求権という(33条)。建物買取請求権と同様、行使された途端に借家人と賃貸人との間に売買契約が成立するという形成権の一種である。

買取の対象となる「造作」とは、建物に付加された物件で賃借人の所有に属し、かつ建物の使用に客観的便益を与えるものをいい、賃借人がその建物を特殊な目的に使用するために特に付加した設備は含まれない(最判昭29.3.11)。条文上明示されているや建具(障子、戸など仕切りとなるもの)のほか、ガス水道などの設備、空調設備(エアコン、クーラー)などが挙げられる。この規定は借地借家法においては強行規定ではなく任意規定となったため(37条を参照)、当事者間で自由に特約を定めることができる。

造作は取り外しが可能であるから本来ならば契約終了時に借家人が収去しなければならない。しかし社会全体の生活水準が向上するにつれて空調設備すらもその借家の一部分と見ることもでき、必要費や有益費の規定(民法第608条、詳しくは賃貸借の項目も参照)に従って処理すべきとの考えもある。

賃貸借契約が賃借人の債務不履行ないし背信行為によって解除された場合には、賃借人は造作買取請求権を行使できないとするのが判例の立場である(最判昭31.4.6)。造作買取請求権が行使された場合の建物明渡義務と代金支払義務は同時履行の関係に立たない(建物明渡が先履行、最判昭29.7.22)。

定期借家契約

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同様に、定期借家契約(定期建物賃貸借)についての規定もある(38条)。ここでは、存続期間(1年未満でも20年を超える契約でもよいが、期間を定めないという方法は認められない)が終了すればそこで賃借権は完全に消滅し、契約を更新することはできない。

この契約は書面によって行う必要があり(38条は「公正証書による等」と規定しているが、必ずしも公正証書であることを要求したものではないと解されている)、その際に貸主は、期間満了時に契約を更新することができないことを記載した書面を渡して説明しなければならない。説明を怠った場合は、契約の更新がない旨の定めは無効となる。特約によって造作買取請求権を付加・排除することも可能であるし、期間中に賃料が不相応になれば特約がない限り賃料増減額請求権を行使することもできる。

宅地建物取引業者が38条による建物の賃貸借の媒介・代理を行う場合、その旨を重要事項説明として宅地建物取引士に説明させなければならない(宅地建物取引業法第35条、宅地建物取引業法施行規則第16条の4の3)。

存続期間が1年以上である定期借家契約においては、賃貸人は期間満了の1年前から6か月前の間(通知期間)に賃借人に対して賃貸借が終了する旨の通知をしなければ、その終了を賃借人に対抗できない。通知期間を経過した後に終了の旨の通知をした場合、その通知の日から6か月間はその終了を賃借人に対抗できない。

転勤、療養、親族の介護その他やむをえない事情により、居住の用に供する建物の賃貸借(床面積200平方メートル未満に限る)において建物の賃借人が建物を自己の生活の本拠として使用することが困難となったときは、建物の賃借人は、建物の賃貸借の解約の申入れをすることができる。この場合においては、建物の賃貸借は、解約の申入れの日から1か月を経過することによって終了する。

また、法令や契約によって一定期間が経過した後に取り壊される予定となっている建物を賃貸する場合にも、建物取り壊しと同時に賃貸借契約が終了し、更新することができないという契約形態をとることができる(39条)。この契約は取り壊すべき事由を記した書面によってしなければならない。

期間

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更新

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賃料等増減額請求

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問題点

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定期借家契約は、不動産とりわけショッピングセンター業界の強い要望により[71]、2000年に法が改正されて新たに認められたものである。

改正前は海外出張や介護のための一時不在などの理由で、家主が生活の本拠として自ら使用するために、帰国ないし帰宅時に簡単に明け渡してもらえるような契約が認められていたが、これを定期借家契約に改正したものである。定期借家でない一般の借家権であれば、契約の更新拒絶・解約の申入れにおいて正当の事由があることを要求されるが(第28条)、定期借家ではこれが不要である。

定期借家は、書面による説明と契約という要式を満たしていればよく、明渡しの理由の如何を問わず認められる。

一般に継続賃料は新規賃料を下回るとされているところ、これによって家主が次々と新しい借家人に賃貸することができるようになり、今の時点の相場の家賃収入を得られるようになった。

一般の借家契約では、更新料を取ったり家賃を値上げしたりしても、なかなか相場までの収入を得ることは難しかった。

また一度物件を借主に貸すとなかなか返してもらえない(立ち退いてもらえない)可能性が高く、貸主が物件の賃貸に消極的になり、優良物件の流通を阻害していると考えられ、この新たな法により不動産賃貸市場に新たな物件を供給することが期待できると言われた。

結果としては、国土交通省が2007年3月に行った調査によると民間の借家契約の5%がこの制度を利用している[72]


借地借家人の中には、経済的に弱い借家人を保護するための法律であった借地借家法の中に、わざわざ家賃収入の確保という家主を保護するための異質の制度を作ったもので、将来に大きな問題を残したとこの法を批判し、また期間の短い定期借家が貧困ビジネスとして利用されているとの主張もある[73]

脚注

[編集]
  1. ^ 澤野 2020, p. 6.
  2. ^ 澤野 2020, p. 6,7.
  3. ^ 澤野 2020, p. 7.
  4. ^ 澤野 2020, p. 8.
  5. ^ a b c 澤野 2020, p. 12.
  6. ^ 古野谷他 2017, p. 3.
  7. ^ a b c 澤野 2020, p. 15.
  8. ^ 澤野 2020, p. 16-18.
  9. ^ 古野谷他 2017, p. 4.
  10. ^ a b 澤野 2020, p. 24.
  11. ^ 田山・澤野・野澤 2019, p. 22-23.
  12. ^ a b c 澤野 2020, p. 18.
  13. ^ 澤野 2020, p. 19.
  14. ^ a b 澤野 2020, p. 74.
  15. ^ 古谷野他 2017, p. 66.
  16. ^ a b c 澤野 2020, p. 22.
  17. ^ 澤野 2020, p. 22,74.
  18. ^ 古谷野他 2017, p. 67.
  19. ^ 澤野 2020, p. 75.
  20. ^ 伊東 2017, p. 86.
  21. ^ 田山・澤野・野澤 2019, p. 156.
  22. ^ 松田 2019, p. 125.
  23. ^ 田山・澤野・野澤 2019, p. 156,157.
  24. ^ a b 田山・澤野・野澤 2019, p. 45.
  25. ^ 古谷野他 2017, p. 200.
  26. ^ 澤野 2020, p. 341.
  27. ^ 澤野 2020, p. 11.
  28. ^ 貸主に正当事由を要求することは、「公共の福祉の観点から是認されるものであるから、憲法29条に違反しない」とされる(最判昭37.6.6)。
  29. ^ 澤野 2020, p. 344.
  30. ^ 澤野 2020, p. 367.
  31. ^ a b 古野谷他 2017, p. 181.
  32. ^ 古野谷他 2017, p. 180,184.
  33. ^ 澤野 2020, p. 358-360.
  34. ^ 澤野 2020, p. 359.
  35. ^ 中田 2017, p. 469.
  36. ^ a b 古野谷他 2017, p. 184.
  37. ^ 中田 2017, p. 482.
  38. ^ 澤野 2020, p. 23.
  39. ^ a b c 澤野 2020, p. 277.
  40. ^ 澤野 2020, p. 278.
  41. ^ a b 澤野 2020, p. 279.
  42. ^ 澤野 2020, p. 203.
  43. ^ 稻本・澤野 2019, p. 92.
  44. ^ 澤野 2020, p. 206.
  45. ^ 稻本・澤野 2019, p. 88,92.
  46. ^ a b 澤野 2020, p. 207.
  47. ^ 古谷野他 2017, p. 154.
  48. ^ 古谷野他 2017, p. 152-153.
  49. ^ 澤野 2020, p. 208.
  50. ^ 古野谷他 2017, p. 120.
  51. ^ a b 澤野 2020, p. 204.
  52. ^ 古野谷他 2017, p. 161.
  53. ^ a b 田山・澤野・野澤 2019, p. 84.
  54. ^ a b 澤野 2020, p. 30.
  55. ^ 松田 2019, p. 193.
  56. ^ a b 澤野 2020, p. 462.
  57. ^ 松田 2019, p. 191.
  58. ^ 松田 2019, p. 192.
  59. ^ 古谷野他 2017, p. 275.
  60. ^ 中田 2017, p. 437.
  61. ^ a b c 澤野 2020, p. 256.
  62. ^ a b c 田山・澤野・野澤 2020, p. 115.
  63. ^ 澤野 2020, p. 260.
  64. ^ a b 古谷野他 2017, p. 278.
  65. ^ 田山・澤野・野澤 2020, p. 118.
  66. ^ 澤野 2020, p. 261.
  67. ^ 澤野 2020, p. 262.
  68. ^ 中田 2017, p. 436.
  69. ^ a b 澤野 2020, p. 300.
  70. ^ 伊藤 2018, p. 153.
  71. ^ 1万人が怒りの声を上げた『ベルク』立ち退き騒動とは? 日刊サイゾー2008年11月20日
  72. ^ 定期借家制度実態調査の結果について、国土交通省、2007年7月3日付、2009年1月18日閲覧。
  73. ^ 定期借家制度が居住貧困を加速させている、東京多摩借地借家人組合。

関連項目

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外部リンク

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