利用者:Br3kyokyo/sandbox/国立大学の学費値上げ問題
国立大学の学費値上げ問題（こくりつだいがくのがくひねあげもんだい）とは、2018年から続く国立大学の授業料値上げに関する一連の社会的議論である。
背景
[編集]国立大学の授業料は2005年以降、一律年間53万5800円で推移してきたが[1]、国際化への対応や教育の充実を理由として、2018年に東京工業大学、2019年に東京藝術大学、2020年に千葉大学、一橋大学、東京医科歯科大が授業料の値上げを行なった[2]。国立大学の授業料は、文部科学省の省令で年間53万5800円が標準額として定められているが、2割を上限に各大学の判断で変えることができるとされている。
国立大学値上げの理由として、光熱費や物価の高騰のほか[3]、運営費交付金の削減が挙げられている[4]。国立大学の財務状況は黒字が多いとされる一方で、企業からの受託研究費など、使途が決まっている外部資金が多く、人件費などの固定費に使用できる運営費交付金が削減されていることが指摘されている[5]。
国立大学の運営費交付金は、2004年度から2024年度の間に全体の13%にあたる年額1600億円が減少している[6]。運営費交付金のうち、基盤的経費については国立大学法人化以降、効率化係数，大学改革促進係数、機能強化促進係数などの算定ルールによって削減がされてきた一方で、競争的資金の額と交付金に占める割合は増加している[7]。国立大学の運営費交付金は2003年の国立大学法人化により、義務的経費から裁量的経費に変更されている。文部科学省は2025年度の予算案で交付金について3%の増額を要求している[8]。
私立大学においては、早稲田大、慶應大、明治大、関西学院大などが、2023年度などに光熱費や物価の高騰を理由に授業料を値上げしている[9]。
議論
[編集]国立大学の学費値上げを巡っては、複数の議論が存在する。
授業料の値上げに対する批判
[編集]社会権規約第13条(c)
[編集]日本国憲法第26条に規定される教育の機会均等と、国際条約である社会権規約第13条(c)で規定される漸進的学費無償化の観点からの批判がある。日本政府は2012年に社会権規約第13条(c)の批准における留保を撤回しており、法的に拘束されていると[10]。東大学費値上げ反対緊急アクションは、東京大学による授業料の値上げは経済的理由による不平等を助長するものであり、学問の府の責任に背くものであると批判している[11]。
経済的DVとD&I
[編集]東大学費値上げ反対緊急アクションは、東京大学によって発表された「授業料改定案及び学生支援の拡充案」に対し、値上げに伴って拡充されるとされている奨学金や学費減免制度について十分な包括性が確保されていないこと、例として世帯所得を減免の基準とすることは経済的DVを受けている学生の存在を考慮できていないことと、4年での卒業を前提とした学費減免措置は心身の不調等により長期にわたって在学する学生の存在を考慮できていないことを指摘し、これらは東大が掲げるD&Iの方針に反するものであると批判している[11]。
国立大学法人運営費交付金に関する議論
[編集]運営費交付金については、2004年の国立大学法人法施行以降、大学に対する運営費交付金は13%減少しており[6]、国立大学法人法成立時の附帯決議において従来以上の国費投入額を確保するよう努めるとする合意事項があるにも関わらず交付金が減額され続けてきたことに対する批判がある[12]。
東大学費値上げ反対緊急アクションは、運営費交付金の減額が国立大学の財政を圧迫している原因であるとして、国に対して運営費交付金の増額を求めている[13]。
元文科大臣の有馬朗人は、運営費交付金は減らさない約束だったとし国立大学法人化を失敗だったとしている[14][15]。
教育の受益者についての議論
[編集]2024年4月に慶應大塾長である伊藤公平により、国立大学の授業料は150万円ほどへ値上げすべきであるという提言が為されている。伊藤は、文部科学省の分科会において、教育の受益者は学生であり、国立大学の現行の学費はダンピングであると考えている旨を発言している[16]。
国立大学協会会長の永田恭介は、国立大学の学費が安いのは事実だとした上で、授業料は受益者である学生と、同じく受益者である社会が共に負担すべきであるとしている[17]。
大学の財務状況をめぐる議論
[編集]大学の民間資金化に対する批判
[編集]アメリカでは、資金の多くを寄付に頼るが、
見解
[編集]高知大学学長の受田浩之は、都会と地方の所得格差を理由に挙げ、「国立大は家庭の経済状況に関係なく進学できないといけない」として、国立大学の授業料無償化を主張している[18]。
田中秀明・明治大学公共政策大学院教授[19]
日本私立大学連盟会長であり早稲田大学総長である田中愛治は、[17]
各国における授業料負担スキーム
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各大学における授業料値上げと反対運動
[編集]複数の大学で授業料値上げの議論と、値上げに反対する運動が発生している。
東京大学での授業料値上げと反対運動
[編集]2024年5月に東京大学が授業料の改訂を検討していると報じられたことを発端として、東京大学の学生を中心として反対運動が発生した。
推移
[編集]2024年5月15日に複数メディアへのリークにより東京大学が授業料の値上げを検討しているという報道が為された[20][21][22][23]。
5月16日、自由民主党の教育・人材力強化調査会により、質の高い高等教育の実現のために適正な授業料の措置が必要だとする提言が出される[24]。
5月18、19日、東京大学の五月祭において学生有志による反対デモが実施される[25][26]。
6月6日、本郷キャンパスで「東大学費値上げ反対緊急アクション」と東京大学文学部学生連絡会を主催として、「学費値上げに反対する全学緊急集会」が実施された。
6月7日、国立大学協会が国立大学の財政状況について「もう限界です」とする声明を発表し、光熱費や物価の高騰により大学の財務状況が危機であるとして、運営費交付金の増額と地域や産業界からの経済的支援を求めた[27][3]。
6月10日、東京大学により、授業料の改訂を検討している旨と改訂と合わせて奨学金と授業料免除を拡充する方針を示し、「総長対話」での検討案の共有ののち、決定した方針は速やかに報告する方針が発表された[28]。同日、東京大学教養学部学生自治会により学費値上げに反対する駒場決議が採択された。
6月14日、衆議院において院内集会「東京大学をはじめとする大学の学費値上げに苦しむ学生の声を聴く」が開催され、緊急アクション側から国に対して、①運営費交付金の増額、②授業料免除の拡充、③物価高などに伴う負担増に対する予算措置、の要望がなされた。院内集会には、立憲民主党代表泉健太、国民民主党代表玉木雄一郎、社会民主党党首福島みずほほか、超党派の議員が参加している[29][30]。
6月21日、「総長対話」が行われた[31]。
7月3日に東大は入試要項と同時の値上げ発表を見送る声明が発表される。
9月10日、「授業料改定案及び学生支援の拡充案」が東京大学より発表され[32]、24日には授業料を従来の53万5800円から約11万円引き上げ、国が定める上限の64万2960円とする方針が決定された[33]。これに対しは東大学費値上げ反対緊急アクション反対声明を表明している。
批判
[編集]決定のプロセスに対する批判
[編集]東京大学教養学部学生自治会会長のガリグ優悟やジャーナリストの犬飼淳らによって、値上げ決定における意思決定プロセスにおいて学生と教職員が排除されたことや[34]、学生との対話に消極的な大学の姿勢が、東大憲章や、後述の東大確認書での合意事項に反するという批判がされている[35]。一部の学生団体からは、対面での直接的な対話を要求する声明が出されている。
東大学費値上げ反対緊急アクションは、「決定プロセスの不透明性を何よりも問題視してきた」としている[11]。
東大確認書の不履行に対する批判
[編集]東京大学の対応は1969年の東大紛争時に結ばれた東大確認書に違反しているのではないかという批判がある[36]。東大確認書は「全構成員自治」を認めることと、警察力を学内紛争の解決手段として用いないことなどを定めている。
6月21日の深夜、22時半ごろに安田講堂への学生を含む複数人の侵入があったとして大学関係者から110番があり、警察官が安田講堂前に臨場する事態となった。東大は複数人が安田講堂に押し入ろうとした際に警備員が負傷したとしている[37]。本富士署は「怪我と言えるのか微妙で少なくとも流血しているとか傷痕があるという状況ではない」とした[38][39]。これに対し、東京大学文学部学生自治会は「軽々な警察力の導入」を非難する声明を発出した[40]。東京大学は、警察への通報は警備員が怪我をしたことによるもので、抗議活動の排除を意図したものではないとしている[37]。東京大学教養学部学生自治会は、複数人による侵入があったことは確からしいとした上で、複数名の侵入に対し数十名の警察官が入構したことについて過剰な対応であり、学生の自由な意思表明を抑制しかねないものであるとした[41]。
過激派組織との関係が指摘される学生の処分
[編集]「愛知大学学生自治会」ののぼり旗を掲げて東大における授業料値上げ反対のデモに参加したとして、愛知大学の学生二名が懲戒処分を受けている[42]。愛知大学学生自治会は革マル派との関係が指摘されている[43]。愛知大学学生自治会を巡っては、過去に会長ら3名が「愛知大学学生自治会」ののぼり旗を掲げてウクライナ反戦デモに参加したことなどを理由として退学処分を言い渡されており、学生側は地位確認と損害賠償を求め大学側を提訴している[44]。
東大学費値上げ反対緊急アクションは、グラウンドルールにおいて非暴力とワンイシューを定めており、関係のない主張をすることや、他の組織への勧誘を行うことを禁止している[45]。東京大学教養学部学生自治会は自治会の活動と特定の党派を結びつける言説に対し、教養学部学生自治会は2012年に民青系全学連から脱退して以降、学外党派の介入を拒絶しており、学生による民主的で直接的な意見集約に努めているとしている[41]。
全国への波及
[編集]2024年7月22日に、全国の82校の国立大学のうち、東大のほか、和歌山大、鹿屋体育大が授業料の値上げを検討しているほか、12校が検討の可能性があるという報道がなされた[46]。
広島大学では「広島大学学費値上げ阻止緊急アクション」が立ち上げられ、学費値上げに反対する1万7千筆の署名が提出されている[47]。
脚注
[編集]- ^ “【解説】東工大、日本初の「授業料値上げ」が意味すること”. NewsPicks (2018年9月15日). 2024年10月22日閲覧。
- ^ “東工大や千葉大などが表明…国立大「授業料値上げ」それぞれの事情 ニュースイッチ by 日刊工業新聞社”. ニュースイッチ by 日刊工業新聞社. 2024年10月14日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会 (2024年6月8日). “国立大協会 緊急の声明を公表 財務状況の悪化で「もう限界」 | NHK”. NHKニュース. 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東京大、授業料値上げの背景にある国立大の窮状 他大学への影響は”. 毎日新聞. 2024年10月22日閲覧。
- ^ “相次ぐ国立大の学費値上げ 収入増で黒字なのに“限界” どうしてお金がないのか”. AERA dot. (アエラドット) (2024年10月14日). 2024年10月22日閲覧。
- ^ a b 日本放送協会 (2024年8月27日). “国立大学への運営費交付金 今年度比3％余の増額要求へ 文科省 | NHK”. NHKニュース. 2024年10月5日閲覧。
- ^ 長山泰秀 (2019年). “運営費交付金配分を用いた 政策誘導がまねく国立大学の危機”. 2024年10月9日閲覧。
- ^ “国立大の運営費交付金、3%増を要求 文科省”. 日本経済新聞 (2024年8月29日). 2024年10月24日閲覧。
- ^ “早慶など私大で学費値上げ続々、14万円アップも 物価高騰など理由：朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2023年10月29日). 2024年10月22日閲覧。
- ^ “日本が社会権規約の教育の権利に関する留保を撤回 | ヒューライツ大阪”. www.hurights.or.jp. 2024年10月22日閲覧。
- ^ a b c “「『授業料改定及び学生支援の拡充』決定に対する抗議声明」を発表しました｜学費値上げ反対緊急アクション”. note（ノート） (2024年9月25日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “国立大学協会情報誌 乏しい日本の高等教育支”. 2024年10月5日閲覧。
- ^ “6.14院内集会「東京大学をはじめとする大学学費値上げに苦しむ学生の声を聴く会」｜学費値上げ反対緊急アクション”. note（ノート） (2024年6月24日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “【アーカイブ】人生の贈りもの｜わたしの半生 物理学者・有馬朗人”. 朝日新聞 (2015年12月9日). 2024年10月9日閲覧。
- ^ 日経ビジネス電子版 (2020年5月21日). “「国立大学法人化は失敗だった」 有馬朗人元東大総長・文相の悔恨”. 日経ビジネス電子版. 2024年10月9日閲覧。
- ^ “高等教育の在り方に関する特別部会（第4回） 議事録：文部科学省”. 文部科学省ホームページ. 2024年10月13日閲覧。
- ^ a b “東大が授業料値上げ 大学の学費はだれが負担すべきなのか？ 筑波大学長と早稲田大総長が提言【中編】”. 朝日新聞Thinkキャンパス (2024年10月17日). 2024年10月22日閲覧。
- ^ “高知大学長「授業料上げない」都会に地方見えてない「国立大授業料 無償化を」―主権者は問う「2024衆院選高知」 | 高知新聞”. www.kochinews.co.jp. 2024年10月22日閲覧。
- ^ “自民党総裁選と立憲民主党代表選 候補者の政策と「教育無償化」 | | 田中秀明”. 毎日新聞「政治プレミア」. 2024年10月22日閲覧。
- ^ “【独自】東京大学が授業料の引き上げを検討 最大で約10万円増額の年間64万2960円に”. TBS NEWS DIG (2024年5月15日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東京大学、授業料の値上げ検討…上限まで引き上げなら１０万円増”. 読売新聞オンライン (2024年5月15日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東京大学が授業料値上げ検討、他大学に波及も 国際競争力低下に危機感”. 日本経済新聞 (2024年5月16日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東大、授業料の引き上げ検討 最大で64万2960円に”. 毎日新聞. 2024年10月5日閲覧。
- ^ “国立大学、競争力強化へ適正な授業料を 自民調査会が提言”. 日本経済新聞 (2024年5月16日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “学費値上げ反対緊急アクション @no_raise_ut おはようございます！ いよいよ五月祭最終日です。 私たちは学費の値上げを絶対に阻止するために、スタンディングアクションを行います！ もし、私たちを見つけましたら、ご来場の方もどうか東大生の一声を聞いてください。 #学費を上げるな”. 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東京大「授業料の引き上げ」検討…学生が抗議に立ち上がった 経済的に厳しい人が「学びにくい」でいいのか：東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2024年10月21日閲覧。
- ^ “「もう限界です」”. 学長室だより (2024年6月18日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “授業料の値上げに関する報道について”. 東京大学. 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東大が値上げしたら次は広島大か 「最大の利害関係者は学生のはずなのに秘密裏に…」国会内で学生ら怒りの声：東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2024年10月5日閲覧。
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- ^ “授業料改定案及び学生支援の拡充案について”. 東京大学. 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東大、授業料値上げを正式決定 来年度入学生から学部で11万円増：朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年9月24日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東京大学の学費値上げは本当に必要なのか？ オンラインによる「総長対話」で浮き彫りになった驚くほど閉鎖的な体質 | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕け”. 集英社オンライン (2024年7月27日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ “東大紛争時からの「全構成員自治」根拠 学費値上げの手続きに批判”. 毎日新聞. 2024年10月5日閲覧。
- ^ “改めて注目、55年前の「確認書」 東大授業料値上げをめぐり：朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル (2024年7月4日). 2024年10月5日閲覧。
- ^ a b “本学施設への侵入事案について（第2報）”. 東京大学. 2024年10月5日閲覧。
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- ^ “東大の学費値上げ抗議に「警察力導入」？ 学生「けが人いなかった」”. 毎日新聞. 2024年10月5日閲覧。
- ^ Staff, 投稿者: (2024年6月23日). “大学本部の警察力導入に対する抗議声明”. 東京大学教養学部学生自治会. 2024年10月9日閲覧。
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- ^ 昼間たかし (2023年10月7日). “「反戦デモに参加し退学処分」は見出し詐欺？…当の愛知大学広報部を直撃 | 日刊SPA! | 2ページ目”. 日刊SPA!. 2024年10月12日閲覧。
- ^ “反戦デモに校名入った旗使用 退学処分の学生「不当」 愛知大提訴”. 毎日新聞. 2024年10月12日閲覧。
- ^ “学費値上げ反対緊急アクション @no_raise_ut 来週からスタートする抗議集会にあたって、グラウンドルールを作成しました。 アクションの参加者・スタッフは以下を遵守します。 私たちは学費値上げに反対する全ての人を包摂します。決して特定の人を排除した「対話」は行いません #学費を上げるな #ProtectOurFuture”. 2024年10月5日閲覧。
- ^ “国立大学の授業料上げ｢選択肢｣２割 東京大学に続き和歌山大学など”. 日本経済新聞 (2024年7月21日). 2024年10月22日閲覧。
- ^ “広島大授業料値上げに反対、学生が1万7000筆の署名提出 | 中国新聞デジタル”. 広島大授業料値上げに反対、学生が1万7000筆の署名提出 | 中国新聞デジタル (2024年7月23日). 2024年10月22日閲覧。
