呉明益
呉明益 Wu, Ming-yi | |
---|---|
誕生 |
1971年6月20日(53歳) 中華民国 台湾省桃園県桃園市 (現:桃園市桃園区) |
職業 | 著述家、研究者 |
国籍 | 台湾 |
最終学歴 |
文学博士 (国立中央大学) 文学士 (輔仁大学) |
代表作 |
《複眼人》2011年(日本語訳同名、2021年) 《單車失竊記》2015年(日本語訳『自転車泥棒』2018年) |
主な受賞歴 |
「紅楼夢賞」最終候補(2016年) マン・ブッカー国際賞候補作(2018年) |
公式サイト | 公式ウェブサイト |
ウィキポータル 文学 |
呉明益(ウ・ミンイ 繁: 吳明益, ローマ字転写:英: Wu, Ming-yi 1971年6月20日生まれ)は、学際的な台湾の作画家、小説家。輔仁大学文学部マーケティング学科 (今はコミュニケーション学部に所属) 出身、国立東華大学の中国語文学の教授、環境活動家でもある。生態学的な寓話『複眼人』(2011年)は2013年に英語版が出版された。チョウのイラストを描き、生態をまとめた著作もある。
経歴
[編集]1971年生まれ、台湾の桃園出身[1](現・桃園県桃園区)。輔仁大学で学士号(マーケティング)を、国立中央大学で中国文学の博士号を取得し1997年に最初の小説を出版した。
国立東華大学で2000年から中国文学と文芸創作を教えてきた[2]。
著作の《複眼人》(邦題『複眼人』)の執筆にかかる2006年、著述と旅行に時間を費やすと決めると東華大学に辞職を願い出た[3]。
主な著作
[編集]呉は環境をテーマにする[4]。エッセー、短編と長編の小説を著わしアンソロジーを編み、作品は英語、フランス語、トルコ語、日本語、韓国語、チェコ語、インドネシア語に翻訳された。同世代の台湾の主要な作家の1人と見なされている[5]。チョウに関するノンフィクションは中国語圏で広く知られ、《迷蝶誌》(麥田出版社・2000年)と《蝶道》(二魚文化・2003年)では挿絵を描き、デザインを担当した[2]。チョウをめぐる呉の「冒険」は日本の児童文学雑誌で紹介されている[6]。
生態学に寄った寓話またはファンタジーとしての『複眼人』[3][注釈 1](邦題同じ)は、太平洋の架空のワヨワヨ島生まれのアトレという若い島民の物語である[注釈 2]。台湾東岸に到達してみると、そこは太平洋ゴミベルトで発生した「ゴミ渦」が衝突する場所であり、ゴミが山のように漂着する。この本の英訳『The Man with the Compound Eyes』には次の書評がある。
「先住民と現代社会との出会いについて述べた終末論的な環境文学の傑作。海洋ゴミ、資源不足、自己利益の追求が啓発されないまま、台湾の海岸環境は破壊され、それらは素材として華やかではないが〈呉明益〉の文章はそれらを芸術的に粉砕してみせる―アントニオ・チェン[4]。」
著作権代理店は「台湾版の『Piの生活』」と表現している[3]。
著書『單車失竊記』(2015年、邦題『自転車泥棒』[注釈 3])は、第二次世界大戦中の台湾の自転車事情を研究したと解説される[12]。英語訳は2017年に発行[10]、2018年3月にマン・ブッカー国際賞候補に入る。
同書の選考について、賞主催者は中国の圧力を受け作家の国籍表記を台湾から「中国台湾」に変更すると、呉の抗議をメディアが拾い外交論争の中心に出される[13]。2018年4月、マンブッカー国際賞は最終的な発表を行い、「呉明益は『中華民国』作家として登録する」と述べた[14]。呉にはコロナ禍の発言もある(2020年[15])。
1980年代に取材した小説《天橋上的魔術師》はテレビドラマ化をきっかけに、小説の舞台となった商業施設の写真を台湾の国立図書館が公募した[16]。
日本における評価
[編集]書評は『歩道橋の魔術師』(日本語版改題『眠りの航路[17]』)に越境する文学を[18][19]、また同作から『自転車泥棒』に至る著作に戦争記憶を読み取った[20][21]。
『歩道橋の魔術師』を漫画化した作品は、外務省主催の「第14回日本国際漫画賞」優秀賞を受賞(2020年[22][23][24])。
作品
[編集]- 凡例: 以下、二重の山カッコ(《と》)で囲んだ書名は中国語。
小説
[編集]- 《本日公休》 九歌出版社、1997年。(We're Closed Today Chiuko)
- 《虎爺》 九歌出版社、2003年。(Grandfather Tiger,Chiuko)
- 《睡眠的航線》二魚文化、2007年。(Routes in the Dream 2-fishes)
- 《複眼人》 夏日出版社、2011年。304頁。(Summer Festival)
- 《天橋上的魔術師》夏日出版社、2011年。
- 《單車失竊記》麥田城邦文化、2015年。416頁。(Cite Publishing Ltd.)[注釈 3]
- 英語版 The Stolen Bicycle Sterk. Darryl(翻訳)、Vintage Books刊行、2014年。ISBN 9780099575627、NCID BC09368876。Pantheonに改版。ISBN 978-0-307-90796-7。
- 同、Text Publishing、2017年8月28日[27]。
- 『自転車泥棒』天野健太郎(訳)、文藝春秋、2018年。別題『The Stolen Bicycle』[28]。
- 英語版 The Stolen Bicycle Sterk. Darryl(翻訳)、Vintage Books刊行、2014年。ISBN 9780099575627、NCID BC09368876。Pantheonに改版。ISBN 978-0-307-90796-7。
- 《苦雨之地》新經典文化、2019年。(The Land of Little Rain, Thinkingdom Media Group Ltd. )[29]
- 『雨の島』及川茜(訳)、河出書房新社、2021年。
エッセー
[編集]- 《迷蝶誌》 麥田出版社、2000年。(The Book of Lost Butterflies Wheat Field Press)、改題、夏日出版社、2017年。
- 《蝶道》 二魚文化、2003年(修訂版2010年)。(The Dao of Butterflies 2-fishes)。
- 《家離水邊那麼近》 二魚文化、2007年。(So Much Water So Close to Home 2-fishes)
- 《浮光》新經典文化、2014年。(Above Flame ThinKingDom)
- 呉 明益、天野 健太郎(訳)(著)、飛ぶ教室編集部(編)「台湾 十元アゲハ」『飛ぶ教室 : 児童文学の冒険』第52号:冬(特集 「飛ぶ教室」的 世界一周旅行!)、光村図書出版、2018年。
文学論
[編集]- 《以書寫解放自然:台灣現代自然書寫的探索》大安出版社、2011。(Liberating Nature through Writing Da'an Press)。
- 改版改題《臺灣現代自然書寫的探索 1980-2002:以書寫解放自然 BOOK 1》 夏日出版社、2011年。('The Search for Modern Taiwanese Nature Writing 1980-2002:Liberating Nature through Writing' Summer Festival)
- 共編《溼地.石化.島嶼想像》 有鹿文化、2011年。(Co-edited With Wu Sheng Wetlands - Petrochemicals - Island Imagination (Unique Route)
- 《臺灣自然書寫的作家論 1980-2002:以書寫解放自然 BOOK 2》夏日出版社、2011年。(Essays by Taiwanese Nature Writers 1980-2002: Liberating Nature through Writing, vol. 2 Summer Festival)
- 《自然之心─從自然書寫到生態批評:以書寫解放自然 BOOK 3》夏日出版社、2011年。(The Heart of Nature—From Nature Writing to Ecological Criticism: Liberating Nature through Writing, vol. 3 Summer Festival)
編集
[編集]- 《臺灣自然寫作選》二魚文化、2003年。(Selected Taiwanese Nature Writing 2-fishes)
スピンオフ作品
[編集]- 漫画版『天橋上的魔術師』ISBN 9780020192008。阮光民巻[22]+小荘巻+別冊[31]。 。呉明益(原著)、阮光民(絵)、小荘(絵)《天橋上的魔術師 図像版]》、新経典文化、2020年1月、
- テレビドラマ『天橋上的魔術師』 。公共電視(放映)、原子映象(製作)。
- 同、テレビドラマ制作過程の写真集天橋上的魔術師 影集創作全記録》木馬文化事業股份有限公司(出版)、遠足文化事業股份有限公司(発行)、2021年3月OCLC 1263152965、ISBN 978-986-359-877-0, 9789863598688, 9863598682。 。公共電視、原子映象《
受賞と栄典
[編集]国際賞
[編集]以下、丸カッコ内は原題もしくは翻訳版の題名。
《睡眠的航線》
- 2007年: Asia Weekly「Chinese Language Best 10 Books」[32](Routes in the Dream )
《複眼人》
- 2014年:Salon du livre insulaire 、Prix du livre insulaire[32]。
- 2015年:『Time Out Beijing』、「The best Chinese fiction books of the last century」(同[32])。
《天橋上的魔術師》
- 『歩道橋の魔術師』として。
《單車失竊記》
- 2015年:『パブリッシャーズ・ウィークリー』International Hot Book Properties推薦、アメリカ。(英題The Stolen Bicycle [38])
- 2016年:紅楼夢賞、最終候補[39]。(日本語訳『自転車泥棒』)
- 2018年:マン・ブッカー国際賞、候補作[14]。(英題The Stolen Bicycle )
国内賞
[編集]以下、丸カッコ内は英語訳の題名。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ 作家、呉明益 中華民国文化部 2023年3月21日閲覧。
- ^ a b c “Capel & Land -- Wu Ming-Yi”. capelland.com (2010年). April 29, 2013閲覧。
- ^ a b c “Wu Ming-Yi”. 台湾:The Grayhawk Agency(版権代理店). 2 September 2018閲覧。
- ^ a b “Antonio Chen on Taiwanese novelists in 2011”. asymptotejournal.com (2013年). April 29, 2013閲覧。
- ^ “Wu Ming-Yi” (英語). thescriptroad.org. The Script Road. 2018年3月30日閲覧。
- ^ 呉、天野 2018, pp. 16–23.
- ^ “What I Learned Translating Wu Ming-Yi's 'The Man with the Compound Eyes'”. Compilation and Translation Review《編譯論叢》 (2): 253. (2013) .。doi:10.29912/CTR.201309_6(2).0009、EBSCOhost、TWL。(記事の原題は「學而時譯之:《複眼人》英譯者的學習札記.」)
- ^ ダン・ブルーム (2013年4月29日付). “Shooting for the stars” (英語). タイペイ・タイムズ
- ^ “Ecological Redistribution and Historical Sustainability in Wu Ming-Yi's Two Novels.”. Tamkang Review《淡江評論》 (1): 25. (2019) .。doi:10.6184/TKR.201912_50(1).0002、EBSCOhost、TWL(記事の原題は「生態再分配與歷史永續性:論吳明益長篇小說《複眼人》與《單車失竊記》」。)
- ^ a b Wu, Ming-Yi.; Sterk, Darryl (翻訳). “The Stolen Bicycle”. Text Publishing. 2018年3月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年11月22日閲覧。
- ^ “Fiction Book Review: The Man with the Compound Eyes by Wu Ming-Yi, trans. from the Chinese by Darryl Sterk. Pantheon, $25.99 (304p) ISBN 978-0-307-90796-7” (英語). PublishersWeekly.com. 2021年11月27日閲覧。
- ^ Yahsin Huang Bicycles and War: A Review of Wu Ming-yi's 'The Stolen Bicycle' Thinking Taiwan Foundation, December 1, 2015
- ^ Writer protests Man Booker listing nationality as 'Taiwan, China' ABS-CBN.30 March 2018
- ^ a b “Statement on behalf of the マン・ブッカー国際賞”. themanbookerprize.com. April 5, 2018閲覧。
- ^ 呉 明益、及川 茜(訳)(著)、河出書房新社(編)(編)「「封じ込め可能」という嘘の背後に : 様々な目論見が引き起こしたパンデミック(シリーズ:緊急特集 アジアの作家は新型コロナ禍にどう向き合うのか)」『文芸』第59巻第2号・夏、河出書房新社、2020年、335-339頁。
- ^ “台湾国家図書館、かつて台北市内に存在した大型商業施設「中華商場」の写真を募集:小説『歩道橋の魔術師』の舞台 | カレントアウェアネス・ポータル”. current.ndl.go.jp. 国立国会図書館. 2021年11月26日閲覧。
- ^ “作家、呉明益が台湾少年工の記憶をたどる「眠りの航路」”. 日本経済新聞 (2021年10月11日). 2021年11月27日閲覧。
- ^ 鴻巣、温 2015, pp. 143–152.
- ^ 山内、片山、小野 2015, pp. 406–413.
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- ^ a b “日本国際漫画賞受賞作品”. manga-award.mofa.go.jp. 外務省. 2021年11月23日閲覧。 “A graphic novel adaptation by Ruan Guang-Min of selected stories from THE ILLUSIONIST ON THE SKYWALK AND OTHER STORIES by Wu Ming-Yi 『歩道橋の魔術師』 漫画版(阮光民巻)©Thinkingdom Media Group Ltd. 作者:阮光民(ゲン コウミン)(Guang-Min Ruan)(台湾). 原作者:呉明益(ゴ メイエキ)(Ming-Yi Wu)(台湾)”
- ^ “The 14Th Japan International Manga Award Winner Announcement.”. States News Service. (2020年12月16日)。EBSCOhost、TWL。
- ^ gov-base (2020年12月16日). “Decision of the 14th Japan International Manga Award winning work” (英語). Gov base. 2021年11月23日閲覧。 “(2) Excellence Award: A: Title of work: The Illusionist on the Skywalk [Magical version of the pedestrian bridge (Mitsumaki)] author: Mitsumin (Taiwan) Original author: Wu Ming Yi (Taiwan)”
- ^ 呉明益、鴻巣 友季子、温 又柔「多言語の交錯するほうへ : 『歩道橋の魔術師』を通じて[呉明益著](特集 ぼくたちはなぜ動かずにいられないのか? : 世界文学ケモノ道 ; 「国」をこえた小説を探る3つの対話)」『早稲田文学. [第10次]』13.冬、早稲田文学会、2015年、143-152頁。
- ^ 山内 昌之、片山 杜秀、小野 正嗣「文藝春秋BOOK倶楽部 鼎談書評(21)[呉明益/天野健太郎訳『歩道橋の魔術師』,武井弘一『江戸日本の転換点 : 水田の激増は何をもたらしたか』,稲村光郎『ごみと日本人 : 衛生・勤倹・リサイクルからみる近代史』」『文芸春秋』第93巻第9号、2015年8月、406-413頁。
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- ^ Chang, Ti-han (July 2020). “The Land of Little Rain (苦雨之地), Written by Ming-Yi Wu (吳明益), (2019).”. International Journal of Taiwan Studies 3 (2): 380–382 .。EBSCOhost、doi:10.1163/24688800-00302015。TWL。
- ^ 呉、天野 2018.
- ^ “天橋上的魔術師 図像版(阮光民巻+小荘巻+別冊)(『歩道橋の魔術師』漫画版)”. 株式会社 内山書店 中国・アジアの本. 2021年11月23日閲覧。
- ^ a b c “[https://www.moc.gov.tw/jp/information_153_96305.html ホーム > 文化あふれる台湾 > 現代アーティスト 作家、呉明益]”. 中華民国 (台湾) 文化部. 2021年11月26日閲覧。
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- ^ “2016本屋大賞受賞作品は「羊と鋼の森」に決定!! | イベント&フェア”. 宮脇書店. 2021年11月26日閲覧。
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参考文献
[編集]本文の典拠、主な執筆者名の順。
- 明田川 聡士「台湾文学における戦争記憶の継承 : 呉明益『眠りの航路』から『自転車泥棒』へ」『マテシス・ウニウェルサリス = Mathesis universalis : bulletin of the Department of Interdisciplinary Studies』第22巻第2号、獨協大学国際教養学部、草加、2021年3月、2021年11月26日閲覧。
- 呉 明益、天野 健太郎(訳)『飛ぶ教室 : 児童文学の冒険 / 飛ぶ教室編集部 編』52号、光村図書出版〈特集 「飛ぶ教室」的 世界一周旅行!〉、2018年冬、16-23頁 。2021年11月26日閲覧。
- 呉 明益、鴻巣 友季子、温 又柔「多言語の交錯するほうへ : 『歩道橋の魔術師』を通じて〔呉明益著〕」『早稲田文学. [第10次]』第13号:2015.冬、早稲田文学会、143-152頁、2021年11月26日閲覧。
- 川本 三郎「東京つれづれ日誌(110)高座の台湾少年工と呉明益。」『東京人』第34巻第9号、都市出版、2019年8月、414頁、2021年11月26日閲覧。
- 山内 昌之、片山 杜秀、小野 正嗣「文藝春秋BOOK倶楽部 鼎談書評(21)〔呉明益/天野健太郎訳『歩道橋の魔術師』,武井弘一『江戸日本の転換点 : 水田の激増は何をもたらしたか』,稲村光郎『ごみと日本人 : 衛生・勤倹・リサイクルからみる近代史』〕」『文芸春秋』第93巻第9号、文芸春秋、2015年8月、406-413頁、2021年11月26日閲覧。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- 公式ウェブサイト
- "Wu, Ming-Yi 1971–". 365、2015年、EBSCOhost。TWL。