物理学において、グロス=ピタエフスキー方程式(グロス=ピタエフスキーほうていしき、英: Gross–Pitaevskii equation)とは、ボーズ・アインシュタイン凝縮において、絶対零度の基底状態にある、凝縮体の波動関数と呼ばれる秩序変数を記述する微分方程式。ボーズ粒子系に対する平均場近似とハートリー・フォック近似の下、導出される。方程式の名は、量子渦の研究において、方程式を導いた、イギリスの物理学者ユージン・グロスとロシアの物理学者レフ・ピタエフスキーに因む[1][2]。形式的には、3次元の非線形シュレディンガー方程式の形となる。
ボーズ場の演算子が
と平均場Ψ と揺らぎΦ' に分離できるとする。
このΨは、秩序変数としての意味を持つ古典的な場であり、凝縮体の波動関数と呼ばれる。
さらに相互作用の到達距離が原子間距離よりも十分小さいと仮定すると、Ψは次の時間に依存したグロス=ピタエフスキー方程式を満たす。
ここで、Vextは凝縮体をトラップするための外部ポテンシャルである。また、定数gは
で与えられる相互作用の結合定数であり、a はs波散乱の散乱長である。g >0(a >0)の場合には、原子間に働く相互作用が斥力、g <0(a <0)の場合には、引力であることを示す。
この方程式による記述が有効であるのは、平均原子間距離がs波散乱長よりも十分大きく、凝縮体の原子数が十分多い場合に限られる。また、
定常状態
また、別のアプローチとして、変分法に基づく導出
がある。ここでE は次式で定義されるエネルギー汎関数である。
[3]
q=(q1,.., qn)と p=(p1,.., pn)の組に対し、2n個の変数z=(z1,.., zn, zn+1,.., zn)を
で定義すると正準変数をまとめて、z=(q, p)で表記することができる。
となる。ここでは∇zはラプラシアンである。Ω=(ωi,j)は
で定義される2n × 2n行列である。Ω内の0nはn 次の零行列、Inはn 次の零行列である。
ハミルトン形式の解析力学では、正準変数は正準変換によって新たな正準変数に移ることができる。
Q=Q(q,p,t)、P=P(q,p,t)について、(q, p) →(Q, P) が正準変換とすると、新たなハミルトニアンK=K(q,p,t)が存在し、正準方程式
が満たされる。新たな正準変数(Q, P)についてのポアソン括弧を
とすると新旧の正準変数についてのポアソン括弧は不変であり、
が成り立つ。
電荷量eをとする質量mの荷電粒子の電磁場中における運動を考える。3次元空間での粒子の位置座標x =(x, y, z )を一般化座標にとる。スカラーポテンシャルをφ(x,t)、ベクトルポテンシャルA(x,t)とすると、荷電粒子のラグランジアンは、
で与えられる。ここでx =(x, y, z )に正準共役な運動量p =(px, py, pz )は
となる。これをベクトルで表記すると
となる。ハミルトニアンは
である。
距離r=√x2+y2+z2のみに依存する中心力ポテンシャルV=V(r)の下での質量mの粒子の運動を考える。3次元空間での粒子の位置の極座標表示を(x,y,z)=(rsinθ cosφ, rsinθ sinφ, rsinφ)とし、極座標(r,θ,φ)を一般化座標にとる。このとき、粒子のラグランジアンは
で与えられる。(r,θ,φ)に正準共役な運動量(pr,pθ,pφ)は
である。ハミルトニアンは
である。
- F. Dalfovo, S. Giorgini, L. P. Pitaevskii, and S. Stringari, "Theory of Bose-Einstein condensation in trapped gases," Rev. Mod. Phys. 71, p.463 (1999). doi:10.1103/RevModPhys.71.463
- C. J. Pethick and H. Smith, Bose-Einstein Condensation in Dilute Gases, Cambridge University Press; 2nd edition (2008) ISBN 978-0521846516; ペシィック、スミス(著)、町田一成(翻訳) 『ボーズ・アインシュタイン凝縮 (物理学叢書) 』 吉岡書店 (2005) ISBN 978-4842703275