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オオセッカ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
大雪加から転送)
オオセッカ
オオセッカ
オオセッカ Locustella pryeri
保全状況評価[1]
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: スズメ目 Passeriformes
: センニュウ科 Locustellidae
: センニュウ属 Locustella
: オオセッカ L. pryeri
学名
Locustella pryeri (Seebohm, 1884)[2][3]
シノニム

Megalurus pryeri Seebohm, 1884[4]

和名
オオセッカ[5][6]
英名
Marsh Grassbird[2]
Japanese Marsh Warbler[7][8]
Pryer's grass warbler[7][8]
Japanese Swamp Warbler

オオセッカ(大雪加[9]Locustella pryeri)は、鳥綱スズメ目センニュウ科センニュウ属に分類される鳥類[10]

分布

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中華人民共和国北東部、日本(中部地方以北)、ロシア(ウスリー地方)[5]

タイプ産地は東京(当時の東京府)とされるが、羽田村か六郷村(東京都・現在の大田区)であったと考えられている[11]。大韓民国やモンゴル東部でも少数の記録がある[1]

旧北区東部に生息する[8]

より詳細には、夏季に青森県岩木川河口仏沼)、茨城県霞ヶ浦)、千葉県利根川下流域)などで繁殖し[12]、関東地方から瀬戸内海沿岸にかけての太平洋側で越冬し、雪の少ないアシ原に広く分布していると考えられている(留鳥)[9][13][14]。宮城県の河口域・湿地等で冬季の生息が確認されている[15][16]

形態

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全長11 - 14センチメートル[13]。尾羽は楔形で長い[13][12]。上面の羽衣は褐色で、黒や黒褐色の縦縞が入る[13][5][17][18]。体下面の羽衣は白い[13][18]。体側面は褐色[13][5]。眼上部にある眉状の斑紋(眉斑)は淡褐色[13][19][17]。頬や耳孔を被う羽毛(耳羽)は淡褐色。翼は黒褐色で、羽毛の外縁(羽縁)は黄褐色。雨覆や三列風切には黒褐色の斑紋が入る[18]

嘴の色彩は黒く、下嘴基部は褐色[18]。後肢の色彩は淡褐色。

分類

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種小名pryeriは本種の模式標本を採集したHarry Pryeriへの献名。

Alstrom et al. (2011)[20]より。

センニュウ科
センニュウ属

 

シマセンニュウ Locustella ochotensis

ウチヤマセンニュウ Locustella pleskei

シベリアセンニュウ Locustella certhiola

オオセッカ

Locustella pryeri sinensis

Locustella pryeri pryeri

エゾセンニュウ Locustella fasciolata

 

オニセッカ属 Megalurus

Seebohm (1884) により、オニセッカ属 Megalurus、とりわけシマオオセッカ Megalurus gramineus と色のパターンが似ていることから、Megalurus pryeri として記載された[8]。なおこの属は、唯一オオセッカが日本に生息する種だったためオオセッカ属と訳されてきたが、ここでは混乱を避けるため、模式種オニセッカ Megalurus palustris よりオニセッカ属とする。

ただし彼は Seebohm (1890) ではオオセッカをセンニュウ属 Locustella に移した。そのほか、チャイロオウギセッカ属 Tribura(現在はセンニュウ属の一部)、オウギセッカ属 Bradypterus とする説も現れた。しかしその後、Delacour (1942) が、小型である以外はオニセッカ属の主な特徴を持つとして、オニセッカ属に戻したのが定説となった[8]

1993年に尾羽や嘴・後肢などの形態から、本種をセンニュウ属に分類する説が提唱された[4][7][8]。これは2004年以降の分子系統でも確認された[20]。 記載されてから1930年代に荒川流域で越冬個体が複数発見されるまでは、11羽の標本しか採集されていなかった[4]。1936年には宮城県蒲生で初めて繁殖が確認されたが、1938年に繁殖地は河川の氾濫により消滅した[4]

2亜種に分かれる[5][8]。分類はIOC World Bird List v 7.1、和名は永田(1997)・永田(2014)に従う[2][4][21]

Bairlein et al. (2006) はこれらは別種に値するとしたが、Alstrom et al. (2011) では否定された[20]

Locustella pryeri pryeri (Seebohm, 1884) オオセッカ
日本固有亜種[21]。青森県(岩木川流域・仏沼)、秋田県(八郎潟)、茨城県・千葉県(利根川流域)で繁殖し、東北地方以南で越冬すると考えられている[21]本州関東平野北部以北で繁殖し、本州中部の太平洋岸で越冬する[8]。2002年に釜石市で捕獲例があり、越冬地への渡りの途中であった可能性がある[22]
仏沼繁殖個体群は利根川繁殖個体群よりも大型だが、羽色に両個体群間で変異はないとされる[6]
Locustella pryeri sinensis (Witherby, 1912) オナガオオセッカ
黒龍江省遼寧省で繁殖し、長江中流域で越冬する[4]中国東北地方満州)と、おそらくはウスリー川流域南部(ハンカ湖)で繁殖し、長江流域で越冬する[8]
基亜種と比較して尾長の平均値が大きく、嘴峰長やふ蹠長は短い[11]

生態

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海岸河口湖沼の周辺にある湿性草原アシ原などに生息する[13][5][23][18]

メイガ類・コオロギ類・ササキリなどの昆虫クモなどを食べる[4][21]。仏沼ではイイズナによる雛の捕食が報告されている。[24]

繁殖様式は卵生。婚姻様式は一夫多妻[6]。ヨシやススキなどの根元にお椀状やドーム状の巣を作る[6]。巣の材質や形状は大きく3つに分かれ枯草からなるドーム状(枯草の多い湿った場所)・枯草の根元にお椀状(中間型・もしくは下生えが乏しい環境)・生きた草からなる大型のドーム状(生きた草が多い乾燥した場所)の形状がみられる。6 - 8月に2 - 6個の卵を産む[6]。メスのみが抱卵し、抱卵期間は約12日[6]。雛は孵化してから約12日で巣立つ[6]

人間との関係

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農地・油田開発、灌漑事業などによる生息地の破壊や水位変化などが懸念されている[1]。中華人民共和国では環境汚染や狩猟による影響も懸念されている[1]

L. p. pryeri オオセッカ
本亜種の好むスゲやイネ科植物からなる丈の短い草地で疎らにヨシが生育する環境は、干拓地(八郎潟・仏沼)や放置された農耕地・放牧地(利根川下流域)で見られる[21]。これらの環境は後述する八郎潟の例のように水位の変化や土砂の堆積などで植生が変化することも多く、分布が限定的であることも含め開発などによる生息地の破壊による生息数の減少も懸念されている[21]。生息数は増加傾向にあり、仏沼湿原では生息数の増加、八郎潟では一度生息地が消失したが再確認されるようになっている[21]。利根川流域では分布の拡大傾向がみられる[5][21]
日本では1973年に秋田県大潟村の八郎湖西部承水路近初めて繁殖を確認[要検証][25]。八郎潟[26]宮城県で繁殖が確認されていた[5]。八郎潟での囀りオスの数は1973年に28羽、1977年に122羽まで増加したが、1980年には80羽に減少した[27]。減少の原因として1977年に完成した排水路による干拓地の乾燥化や、それに伴い1976 - 1982年にかけてヨシの群落が半減しススキの群落が2.5倍まで増加したことが原因だと推定されている[27]。麦の作付により分布域は増加したものの麦畑での繁殖は確認されず、これは本種の繁殖期と八郎潟での麦の収穫期(7月)が同じだったためと考えられている[27]。八郎潟でさえずっていた雄の数は1977年の122羽から次第に減少したが、その原因は、干拓地が乾燥し、植生の変化が進んだためとみられている[26]。その後も湿地の乾燥化とともに減少は続き2000年には大潟草原鳥獣保護区での生息数がゼロとされた[25]。しかし、2010年に大潟村の保護区で28年ぶりにオオセッカの繁殖が確認されてからは継続的に繁殖が確認され、大潟草原鳥獣保護区での生息数は増加傾向にある[25]
仏沼では本種の保護のため、土地の買い上げ(ナショナルトラスト運動)などの対策が行われている[5]1993年国内希少野生動植物種に指定されている[4][28]。繁殖地は1977年に八郎潟西部の135ヘクタール(特別保護地区48ヘクタール)が国指定大潟草原鳥獣保護区に[25]、2005年に小川原湖岸の737ヘクタール(特別保護地区222ヘクタール)が国指定仏沼鳥獣保護区に指定されている[21]
2001年における生息数は囀りの聞き取り調査(囀るのはオスのみなので性差が1:1と推定して括弧内の数値を倍にする)から岩木川流域300羽(岩木川河口142羽・屏風山9羽)・仏沼900羽(446 - 448羽)・利根川流域1,200羽(375羽。この数値を基に未調査地域の分を面積から598羽と推定)・その他100羽の計2,500羽と推定されている[29]開発による生息地の破壊などにより生息数は減少しおり、日本国内での生息個体数は2500羽強とされている[29][要検証]。2009年における仏沼でのオスの個体数は546羽が確認され、生息数は1,100羽以上と推定されている[21]
絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト[21]

関連項目

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脚注

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  1. ^ a b c d BirdLife International. 2016. Locustella pryeri. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T22715480A94455097.doi:10.2305/IUCN.UK.2016-3.RLTS.T22715480A94455097.en, Downloaded on 03 February 2017.
  2. ^ a b c Grassbirds, Donacobius, Malagasy warblers, cisticolas & allies, Gill F & D Donsker (Eds). 2017. IOC World Bird List (v 7.1). doi:10.14344/IOC.ML.7.1. (Retrieved 3 February 2017)
  3. ^ 日本鳥学会「オオセッカ」『日本鳥類目録 改訂第7版』日本鳥学会(目録編集委員会)編、日本鳥学会、2012年、296頁
  4. ^ a b c d e f g h 永田尚志、「オオセッカの現状と保全への提言」『山階鳥類研究所研究報告』 1997年 29巻 1号 p.27-42, doi:10.3312/jyio1952.29.27
  5. ^ a b c d e f g h i 松田道生 「オオセッカ」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社2000年、102、204-205頁。
  6. ^ a b c d e f g 高橋雅雄 「生態図鑑 オオセッカ」『Bird Research News』2013年11月号(Vol.10 No.11)、NPO法人 バードリサーチ、2013年、2-3頁。
  7. ^ a b c Hiroyuki Morioka, Yoshimitsu Shigeta, "Generic Allocation of the Japanese Marsh Warbler Megalurus pryeri(Aves: Sylviida)," Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology, Volume 19 Number 1, National Science Museum, 1993, Pages 37-43.
  8. ^ a b c d e f g h i Morioka, Hitoyuki; Shigeta, Yoshimitsu (1993), “Generic Allocation of the Japanese Marsh Warbler Megalurus pryeri (Aves : Sylviidae)”, Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology 19 (1): 37-43, https://cir.nii.ac.jp/crid/1521136280850455040 
  9. ^ a b 安部直哉 『山渓名前図鑑 野鳥の名前』、山と渓谷社、2008年、203頁。
  10. ^ 山形則男・吉野俊幸・五百澤日丸=写真、五百澤日丸・山形則男=解説『新訂 日本の鳥550 山野の鳥』文一総合出版、2014年、217頁。ISBN 978-4829984000 
  11. ^ a b 籾山徳太郎、「オホセッカに就いて」『鳥』 1949年 12巻 58号 p.115-143, doi:10.3838/jjo1915.12.115
  12. ^ a b 『小学館の図鑑NEO 鳥』、小学館2002年、92頁。
  13. ^ a b c d e f g h 五百沢日丸 『日本の鳥550 山野の鳥 増補改訂版』、文一総合出版、2004年、217頁。
  14. ^ 金井裕植田光之、「オオセッカの生息地の分布と現状」、『平成5年度希少野生動植物種生息状況調査報告書』、環境庁、1994年、1-7頁
  15. ^ 山階鳥類研究所、「平成8年度環境庁委託業務報告書 オオセッカ生息状況調査」、山階鳥類研究所、1996年
  16. ^ 日本野鳥の会宮城県支部、「宮城県の鳥類分布」、日本野鳥の会宮城県支部、2002年
  17. ^ a b 高野伸二 『フィールドガイド 日本の野鳥 増補改訂版』、日本野鳥の会、2007年、252-253頁。
  18. ^ a b c d e 真木広造大西敏一 『日本の野鳥590』、平凡社、2000年、493頁
  19. ^ 環境庁日本産鳥類の繁殖分布』、大蔵省印刷局、1981年。
  20. ^ a b c Alstrom, Per; Fregin, Silke; Norman, Janette A.; Ericson, Per G.P.; Christidis, Les; Olsson, Urban (2011), “Multilocus analysis of a taxonomically densely sampled dataset reveal extensive non-monophyly in the avian family Locustellidae”, Mol. Phylogenet. Evol. 58: 513?526, http://www.nrm.se/download/18.42129f1312d951207af800049217/Alstr%C3%B6m+et+al+Locustellidae+MPEV+2011.pdf 
  21. ^ a b c d e f g h i j k 永田尚志 「オオセッカ」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-2 鳥類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい2014年、126-127頁。
  22. ^ 千葉一彦・村田野人・作山宗樹、「岩手県釜石市におけるオオセッカLocustella pryeriの捕獲記録」『日本鳥学会誌』 2005年 54巻 1号 p.56-57, doi:10.3838/jjo.54.56
  23. ^ 中村登流監修 『原色ワイド図鑑4 鳥』、学習研究社1984年、32頁。
  24. ^ 高橋雅雄, 蛯名純一, 宮彰男, 上田恵介 「本州産ニホンイイズナMustela nivalis namiyeiによる絶滅危惧鳥類オオセッカLocustella pryeriのヒナの捕食」『哺乳類科学』 2010年 50巻 2号 p.209-213, doi:10.11238/mammalianscience.50.209
  25. ^ a b c d “絶滅危惧種オオセッカ、増加傾向 大潟村、大繁殖地の可能性”. 秋田魁新報. (2017年1月16日). http://www.sakigake.jp/news/article/20170116AK0007/ 2017年1月17日閲覧。 
  26. ^ a b 西出隆「八郎潟におけるオオセッカの生態-2.干拓内での分布の推移」『Strix』1巻、日本野鳥の会、1982年、7-18頁
  27. ^ a b c 西出隆「八郎潟におけるオオセッカの生態-2.干拓内での分布の推移」『Strix』1巻、日本野鳥の会、1982年、7-18頁
  28. ^ 国内希少野生動植物種一覧環境省・2017年2月3日に利用)
  29. ^ a b 上田恵介「日本にオオセッカは何羽いるのか」『Strix』21巻、日本野鳥の会、2003年、1-3頁

参考文献

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