コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

混血少年連続殺人事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

混血少年連続殺人事件(こんけつしょうねんれんぞくさつじんじけん)とは、1966年昭和41年)から1967年(昭和42年)にかけて、当時16歳のハーフの少年Sが、愛知千葉山梨の3県で女性3人を暴行して殺害後、金銭を奪った事件。

警察庁広域重要指定106号事件に指定された。

事件の概要

[編集]
  • 1966年12月13日 愛知県豊橋市の24歳の主婦を自宅内で殺害。現金2万円を奪って逃走。被害者は妊娠9か月だった。
  • 同年12月27日 千葉県我孫子市の28歳の主婦を自宅内で殺害。現金2万4千円を奪って逃走。隣室で眠っていた生後3ヶ月の乳児は無事だった。
  • 1967年1月16日 山梨県甲府市の25歳の未婚女性を自宅内で殺害。現金1万円を奪って逃走。
  • 1967年1月23日 広域重要106号に指定。同日、千葉県柏市内で逮捕。

最初の事件の際、被害者の首を締めるのに使った旅館のタオルから、犯人である少年Sの身元はすぐに判明したものの、愛知県警の捜査の手が届かない千葉に逃げていた。山梨で事件を起こした直後に広域重要106号に指定、その日のうちに少年Sは逮捕された。Sは黒人とのハーフであった。

犯行の動機

[編集]

1950年6月16日、少年Sは日本に駐留していた黒人アメリカ兵と日本女性の間に宮城県塩竈市で誕生。まもなく父親が朝鮮戦争で戦死。母親は別のアメリカ兵と結婚して、息子であるSを母方の祖父母に預けてアメリカに行ってしまう。祖父母の死後、Sは母の兄である伯父に引き取られたが、学校ではハーフゆえの差別を受け、その鬱憤を晴らすかのように家庭内暴力がひどくなっていく中、店にある空気銃を盗もうとして逮捕された。

Sは家庭裁判所教護院である全寮制の中学校に送られ、やがて自動車修理工に就職する。だが無断欠勤の連続で、ある日を境に放浪生活を始める。行く先々の土地で空き巣をして金を盗み、それを旅費にしていたが、家の中を物色している最中に見つかってしまった3件では強姦し殺害していたことが判明した。なお、裁判判決文による認定では一連の被害は窃盗30件、現金333,200円だった。

裁判

[編集]

Sは逮捕後、窃盗・窃盗未遂・住居侵入強盗強姦強盗殺人被告人として起訴された。複数の強盗殺人の累犯だが、少年法51条1項の規定により、犯行時18歳未満である被告人Sに死刑を適用することはできなかったため[注 1]検察官はSに対し、適用可能な最高刑である無期懲役求刑した。1971年9月9日、千葉地方裁判所松戸支部(浅野豊秀裁判長)は求刑通り、被告人Sに無期懲役判決を宣告[6][7]。Sは控訴しなかったため、判決はそのまま確定した。

その後

[編集]

宝島社の取材により、犯人Sの消息が判明する[8]。犯罪や闇金融関連のジャーナリストである安土茂のインタビューより、大阪刑務所服役中に2人が出会い、先に出所した安土が出所した犯人Sの親代わりとなって面倒を見ていることが明らかとなる。また他にも、Sは1989年4月12日に38歳で仮出所してから現在まで、定職について真面目に働いていること、被害者らへの罪滅ぼしの意味を込めて生涯独身を通すと誓っていること、安土を含む刑務所時代の人間らと現在も親交があることなどが、初めて一般に公表された。

宝島社のインタビュー後、安土はこの事件に関する著書を出版した。

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ 少年法第51条:罪を犯すとき十八歳に満たない者に対しては、死刑をもつて処断すべきときは、無期刑を科する。この規定を適用されて無期懲役刑が確定した事例は、1966年から2007年2月までの間で、最高裁が把握している限りでは、3例ある[1]。S以外に同条文が適用された主な判決には、名古屋アベック殺人事件の犯人の1人(事件当時17歳)に対し名古屋地裁刑事第4部(小島裕史裁判長)が1989年6月28日に宣告した判決[2](同年7月13日付で確定[3])、金沢市夫婦強盗殺人事件の犯人(事件当時17歳)に対し金沢地裁(堀内満裁判長)が2006年12月18日に宣告した判決[4](2007年2月13日付で確定[5])がある[1]

出典

[編集]
  1. ^ a b 『読売新聞』2007年2月15日東京朝刊石川版31頁「金沢の夫婦刺殺 元少年の無期確定 遺族、絶えぬ苦しみ=石川」(読売新聞北陸支社
  2. ^ 中日新聞』1989年6月28日夕刊E版一面1頁「大高緑地アベック殺人 名地裁判決 主犯少年(当時)に死刑 『残虐、冷酷な犯罪』 共犯の5被告 無期―不定期刑に」「(解説)精神的未熟さ認めたが厳刑(永井 昌己記者)」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 1989年(平成元年)6月号1181頁。
  3. ^ 『中日新聞』1996年12月16日夕刊E版二面2頁「アベック殺人死刑判決破棄 少年への極刑に慎重 集団心理などを考慮」(社会部・伊藤博道)「アベック殺人事件控訴審判決の要旨 元少年被告 矯正で罪の償いを」「アベック殺人事件の訴訟経過」(中日新聞社) - 『中日新聞』縮刷版 1996年(平成8年)12月号694頁。
  4. ^ 『読売新聞』2006年12月19日中部朝刊石川版31頁「夫婦殺害 犯行時17歳に無期判決 成年なら死刑に相当/金沢地裁」(読売新聞中部支社)
  5. ^ 『毎日新聞』2007年2月14日大阪朝刊第二社会面28頁「金沢・夫婦強殺:当時17歳に無期確定 控訴取り下げ」(毎日新聞大阪本社)
  6. ^ 毎日新聞』1971年9月10日東京朝刊第14版第三社会面21頁「【松戸】女性三人殺しに無期の判決」(毎日新聞東京本社) - 『毎日新聞』縮刷版 1971年(昭和46年)9月号305頁。同記事中には、被告人の実名が掲載されている。
  7. ^ 朝日新聞』1971年9月10日東京朝刊第14版第二社会面22頁「【松戸】混血青年に無期の判決 3女性絞殺 千葉地裁判決」(朝日新聞東京本社
  8. ^ 別冊宝島333 隣りの殺人者たち-彼や彼女はなぜ、人を殺したのか(1997年発行)

関連書籍

[編集]
  • 第一審判決文を収録した文献 - 『家庭裁判月報』第24巻第2号(昭和47年2月)、174-185頁。
    • 13 強盗強姦、強盗殺人等被告事件(千葉地裁松戸支部 昭四二(わ)二五号、五九号 昭和四六・九・九判決 確定)裁判事項「強盗強姦、強盗殺人等を犯した犯行時一六歳の少年に対し、強盗殺人により死刑を選択し、少年法第五一条前段により無期懲役に処した事例」〔参照条文〕少年法第五一条、刑法第二四〇条前段、第二四一条前段 〔少年〕T・K(昭二五・六・一六生)
    • 主文:被告人を無期懲役に処する。押収してある料理旅館○葉の名入りの白タオル一本(ただし、二つに切れている。)(昭和四二年押第一二号の二)およびナイフ一丁(刃渡り七・一センチメートル、二つ折、柄茶色)(同押の一七)を没収する。
    • 裁判官:浅野豊秀(裁判長)・平山三喜夫・矢崎正彦
    • 収録文献:『TKCローライブラリー』(LEX/DBインターネット)文献番号25461235
  • 安土茂『憎しみは愛よりも深し―実録・16歳連続女性殺人事件』 河出書房新社、1999年3月。ISBN 4309473776

関連項目

[編集]