フルート
フルート(Flute)は木管楽器の一種。リードを使わないエアーリード(無簧)楽器であり、唇から出る空気の束を楽器の吹き込み口の縁にあてて発する気流の渦(エッジトーン)を発音源とする。現在一般にフルートというと、ここで述べる、数々の装置を備えた、オーケストラに用いられる横笛を指すが、古くは広く笛一般を指した。特にバッハなどバロック音楽の時代にあっては、単にフルートというと現在一般にリコーダーと呼ばれる縦笛を差し、現在のフルートの直接の前身楽器である横笛を指すには「横の」(トラヴェルソ)という形容詞を付けて呼ばれていた。なお、現代の日本では、自分の楽器を「笛」、くだけた自称として「笛吹き」と称するのはフルート奏者であることが多いようだ。
フルートの同属楽器には次のようなものがある。
- フルート
- ピッコロ(フルートの半分の大きさ)
- アルトフルート(フルートより33%大きい)
- バスフルート
- F管コントラバスフルート(通称Fバス)
- C管コントラバスフルート
- オクトバスフルート
これらの楽器で、フルート属を構成する。現代ではごく少数の黒檀製などの楽器を除いて通常は洋銀、銀、金、プラチナなどの金属で作られるが、歴史的、構造的に、金管楽器ではなく無簧の木管楽器に分類される。
フルート
フルートはグランド・フルートまたはコンサート・フルートとも呼ばれ、フルート属の最も標準的な楽器である。通常C管である。(まれに吹奏楽で半音高いD♭管が用いられる。)19世紀にドイツ人フルート奏者:テオバルト・ベームによって大幅に改良され、正確な半音階と大きな音量、貴金属のボディーを持つようになった。この改良によって生まれたフルートは、ワーグナーにおいて「その大砲をどけろ!」と言わしめた代物である。
音域は、中央ハ音から上に3オクターブ半。現代のフルートは管径に対して十分に大きい側孔が空いており、音響学的に理想的と言われているが、側孔の大きさのために指で直接押さえることができないので、キー装置を用いる。キーの指が当たる部分に孔がない「カヴァード・キー」の楽器と、孔がある「リング・キー」(正しい英語はPerforated key)の楽器とがあり、リング・キーの楽器の方が軽く明るい音色とされている。通常の最低音は上記の通り中央ハ(C4)であるが、足部管を取り替えることにより半音低いロ(B3)も演奏可能になる。この場合、全体の音色はやや太く強めになる。
フルートの印象的な作品
- ドップラー: ハンガリー田園幻想曲
- クロード・ドビュッシー: 牧神の午後への前奏曲
- ヨハン・セバスチャン・バッハ: フルートとオブリガートチェンバロのためのソナタロ短調
- ヨハン・セバスチャン・バッハ: 音楽の捧げもの
- ヨハン・セバスチャン・バッハ: マタイ受難曲
- ヨハン・セバスチャン・バッハ: ミサ曲 ロ短調
- フランシス・プーランク: フルートとピアノのためのソナタ
- ヨハネス・ブラームス: 交響曲第4番第一楽章
- ゲオルク・フリードリッヒ・テレマン: パリ四重奏曲集
- エドヴァルド・グリーグ: 組曲「ペール・ギュント」より「朝」
- ピョートル・チャイコフスキー: パレエ「くるみ割り人形」より「葦笛の踊り」--木管楽器の中で葦に由来するリードと縁の無いフルートに「葦笛の踊り」が割り振られているのは興味深い
- ドミトリ・ショスタコーヴィチ: 交響曲第5番第一楽章、第四楽章
- ドミトリ・ショスタコーヴィチ: 交響曲第7番第一楽章
- ジャック・イベール: フルート協奏曲
- ジョルジュ・ビゼー: アルルの女第2組曲より「メヌエット」
- ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト: フルート協奏曲 第1番 ト長調、第2番 ニ長調
- ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト: フルートとハープの為の協奏曲
- テオバルト・ベーム: 序奏とグランド・ポロネーズ
- ライネッケ: フルート協奏曲
- カール・シュターミッツ:フルート協奏曲 ト長調 第3楽章
- パウル・ヒンデミット: フルートとピアノのためのソナタ
(他、追加してください)
ピッコロ
ピッコロ参照。
アルトフルート
アルトフルートは、フルートの大型同属楽器であり、フルートと同じ指使いでちょうど完全4度低い音が出る。その理由により、完全4度下の音が出るG管の移調楽器として扱われる。フルート奏者が演奏することができる。通常、最低音は中央ハの下のト(G3)だが、半音下の嬰ヘ(F#3)まで出せる楽器(フルートのH管楽器に相当)もまれに見られる。フルートと同様に直管の楽器と、楽器の保持を容易にする目的でバスフルートと同様に頭部管がU字型に曲げられている楽器とがある。バスフルートと呼ばれることもあるが、より大型の楽器(フルートの1オクターブ下)が製造されており、それをバスフルートと呼ぶので、紛らわしさを避けるためにはアルトフルートと呼んだほうがいい。
低音のくぐもった音色が独特の魅力のある楽器である。近代以降の管弦楽曲では度々使われる。フルート奏者が持ち替えで演奏することが多い。また、ジャズではクラシック音楽に比べ使われる機会が比較的多く、フルートオーケストラでは、しばしば対旋律を受け持ち、管弦楽でのヴィオラのような役目を果たす。
アルトフルート使用曲
- モーリス・ラヴェル:バレエ音楽 ボレロ ダフニスとクロエ
- イーゴリ・ストラヴィンスキー:バレエ音楽 春の祭典
- グスタフ・ホルスト:組曲「惑星」より海王星 (スコアにはバスフルートと書いてあるが、ホルストの勘違い)
- 武満徹:室内楽曲「海へ」1-3
- ドミトリ・ショスタコーヴィチ:交響曲第7番
など
バスフルート
バスフルートは、フルートよりも二回り大きく、フルートより1オクターブ低い音が出る。頭部管がU字状に曲がっているのが外見上の特徴である。また、重量が大きいため胴部管の中央部に楽器を支えるための支持棒が取り付けられることが多い。近代以前のクラシック音楽にはほとんど使用例が無いが、戦後の現代音楽では比較的よく使われる。これはオーケストラの中よりもむしろ独奏曲や室内楽曲の方が多い。
バスフルート使用曲
独奏曲
- ルイジ・ノーノ:澄んだ息 - 断片
- ミカエル・レヴィナス:アルシスとテシス
- 松平頼暁:ガゼローニのための韻
- 湯浅譲二:タームズ・オブ・テンポラル・ディテーリング
- 平義久:マヤ
など
コントラバスフルート以下の楽器
- F管コントラバスフルート(フルートより1オクターブ半下のF音が基音)
- C管コントラバスフルート(フルートの2オクターブ下)
- オクトバスフルート(フルートの3オクターブ下)
これらは主に室内楽やフルートオーケストラの中で合奏として使われる。個人で所有している奏者は少ない。楽器製法も確定しておらず、製造者によってその構造も材質も外見もまったく異なる。ただし作曲者が指定すればそれに見合う楽器を用意することは可能である。
その他
フルートとアルトフルートの中間の音程を持つフルートダモーレ(B管またはA管)という楽器も少量生産されている。めずらしいものではあるが、フルートとピッコロの中間の音程を持つソプラノフルート(F管)、ティエルスフルート(Es管)なども存在する。 またスライドフルートと呼ばれる楽器もある。これはトロンボーンのように管の長さをスライドさせることが出来る。誰でも演奏することが出来るほど簡単な構造で、オーケストラの中では通常打楽器奏者が演奏を担当する。別名で海の妖精の淫靡な声を意味するシレーヌアクメとも呼ばれている。
また、音の低い物ではバスフルート以下にコントラバスフルート、ダブルコントラバスフルートなどがあり、ダブルコントラバスフルートは日本とドイツに一台ずつの計2台しかない。コントラバスフルートは数字の4のような形をしており、キーはたての部分に、リッププレートは横の部分についていて、大きさは人の身長ほど。ダブルコントラバスフルートは、コントラバスフルートのたての部分が、横から見るとN字型になっている(勿論角は曲線である)。
フルートの長さは約70cmあるため、小学校低学年以下の子供が演奏することは困難であるが、教育用楽器として幼児用フルートが製造されており、頭部管をU字型に曲げる、足部管を除く、指が届き易いよう補助キーを設ける、などの方法で体の小さな5歳程度の子供でも演奏できるよう配慮されている。幼児用フルートはヴァイオリンの分数楽器と同様に早期音楽教育のために導入される場合があるが、呼吸器が未発達な段階でフルートは時期尚早として疑問視する声もある。