JR東日本HB-E300系気動車
JR東日本HB-E300系気動車 | |
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第2編成(長野地区向け「リゾートビューふるさと」) (2010年12月31日、信濃大町駅) | |
基本情報 | |
製造所 |
東急車輛製造[* 1] 新潟トランシス[* 2] 総合車両製作所横浜事業所[* 3] JR東日本秋田総合車両センター[* 4] |
主要諸元 | |
軌間 | 1,067mm |
最高速度 | 100km/h |
起動加速度 | 2.3km/h/s[1] または1.5km/h/s[1] |
減速度(常用) | 3.5km/h/s[1] |
減速度(非常) | 3.5km/h/s[1] |
車両定員 |
編成定員:78名(2両編成)/ 154名(4両編成) HB-E301形:34名(座席) HB-E302形:44名(座席) HB-E300形0番台:44名(座席) HB-E300形100番台:36名(座席) |
最大寸法 (長・幅・高) |
20,600×2,920×3,620(mm) 連結面中心間21,100mm |
車体 | ステンレス |
台車 |
軸梁式ボルスタレス台車 DT75A(動力)/TR260A(付随) |
機関出力 |
DMF15HZB-G形直噴式直列6気筒ディーゼルエンジン 331kW (450PS) |
主電動機 |
かご形三相誘導電動機 MT78 (95kW)×2 |
歯車比 | 14:99 (7.07) |
制御装置 |
C120形主変換装置 コンバータ+VVVFインバータ制御 |
制動装置 | 回生・発電ブレーキ併用電気指令式ブレーキ |
保安装置 |
ATS-P(長野地区用のみ)・ATS-Ps EB・TE装置 防護無線 |
備考 |
脚注 |
HB-E300系気動車(HB-E300けいきどうしゃ)は東日本旅客鉄道(JR東日本)の観光用気動車。
概要
JR東日本が開発した次世代型ハイブリッド気動車で、JR東日本では本系列以降、ハイブリッド気動車についてはキハE200形のような従来の「キ」から始まる形式称号に替えて、「HB-」の記号を用いることとしている。
2010年に長野地区で運用が開始され、秋田地区・青森地区にも続いて導入された。
車両
外観
車体は台枠を除きステンレス材で構成した軽量ステンレス車体だが、先頭車の前頭部は普通鋼製となっている。車体構造はキハE200形を踏襲しており、側面からの衝撃に対する安全向上策が図られている[2]。車体幅は2920mmとし、腰部から下を絞った形状としている。先頭車の前面は非貫通で、大きな一枚窓と、下部の左右にHID・ハロゲンシールドビーム各1灯ずつ計4灯の前照灯が配置されている。尾灯は赤色LEDで、窓上に角形のものが2灯配置されている。先頭車は両形式とも片運転台である。側面は先頭車前位乗務員室扉の後方・展望スペース部分に1,800mm幅・HB-E300形100番台の半個室部分に1,200mm幅・それ以外の客室部分に950mm幅の窓が配置されている。いずれも固定窓で角にRが付けられている。
客用扉は3形式とも後位側に片側につき開口幅1,010mmの片開き扉が1か所あるが、HB-E301形とHB-E300形0番台には後位妻面に便所・洗面所が設置されているため後位台車上にあるのに対し、その設備がないHB-E302形とHB-E300形100番台は妻面に接した位置にある点が異なる。床面高さは、レール面から1130mmとしており、キハE200形とキハE130系と同じで、キハ110系と比べて45mm低くなっている。
塗色
秋田地区の「リゾートしらかみ 青池編成」では在来のキハ48形「リゾートしらかみ 青池編成」のカラーイメージを踏襲し、日本海の水平線と青池をあらわす青色の濃淡と本系列の車両をイメージした銀色で彩色される。「リゾートしらかみ 橅編成」では奥山清行がデザインを手掛け[3]、白神山地のブナの木立が緑色のグラデーションによって表現されている。
長野地区の「リゾートビューふるさと」は展望スペース部分に黄緑色、客室部分は下から上に向かって緑色と白色のグラデーションに彩色され、客室部分の裾に金色の帯を配している。これは長野県の県木であるシラカバの森の中を走り抜けるイメージである。
青森地区の「リゾートあすなろ」はねぶたの情熱を表す赤・下北半島の菜の花をあらわす黄色・森林を表す緑色で彩色される。
いずれも側外板にカラーフィルムを張り"RESORT HYBRID TRAIN" のロゴ(TRAIN は HYBRID の D の部分に小さい文字で描かれている)が抜き文字で表示されている。
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秋田地区向け「リゾートしらかみ(青池編成)」用車両
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秋田地区向け「リゾートしらかみ(橅編成)」用車両
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青森地区向け「リゾートあすなろ」用車両
内装
バリアフリー対策で通路部分の床面高さを下げている一方、展望に配慮して客席部分の床面は130mm高く取られている。
HB-E300形100番台以外の車両に設置される一般客席は、2人掛けのリクライニング付き回転式クロスシートが1,200mmのシートピッチで配置されている。なお、HB-E301形の扉寄りに車椅子スペースが設けられている。室内天井には前面展望映像の他に観光映像やイベント用のカメラ映像を放映することができる17インチ液晶モニタが設置されている。
HB-E300形100番台の客席は9室の半個室となっており、客用扉の戸袋部分に車販準備室が設けられている。
先頭車前位の展望スペースは枕木方向に設けられた展望用座席の他、長野地区用HB-E301形を除いてソファが配置されている。また、HB-E300形0番台の前位にはAV機器を備えたイベントスペースが設けられる。秋田地区用以外のHB-E301形と秋田地区のHB-E300形0番台にはイベント映像撮影用カメラが設置されている。
トイレ・洗面所は車椅子対応の洋式トイレと男子小用トイレ、洗面台がいずれもHB-E301形とHB-E300形0番台に設置されている。なお、トイレの汚物処理は真空吸引式である。
機器・制御システム
HB-E300系が採用しているハイブリッドシステムは、エンジンの動力を直接駆動力には使用せず、発電機を回転させる電力用として使用され、発電機からの電力と搭載された蓄電池の電力と組合わせてモーターを駆動する「シリーズハイブリッド」方式と呼ばれるシステムであり、電車の技術が最大限に使用できるのが特徴である。システムを構成する機器類は、エンジンとそれに直結した発電機を持つエンジン発電機、主回路用蓄電池、主変換装置、輪軸駆動用のモーターで構成されており、力行時には、主回路用蓄電池からの電力または主回路用蓄電池とエンジン発電機からの両方の電力を使用して、主変換装置に内蔵されたVVVFインバータ装置により、VVVFインバータ制御でモーター(誘導電動機)を駆動させる。制動時には、回生ブレーキによりモーターから発生した電力を、VVVFインバータ装置を介して主回路用蓄電池に充電する[4]。また、エンジン発電機の起動または停止は、主回路用蓄電池の充電状態により、自動的に行われている。また、キハE200形と同様の「エネルギー管理制御システム」を搭載しており、各装置からの情報を集約して、最適な動作の指示を各装置に行うことで、エンジン発電機と最適な蓄電池の充放電の制御を行なっている。
エンジン発電機には、エンジンに、DMF15HZB-G形直噴式直列6気筒横形ディーゼルエンジン、定格出力331kw(450PS)定格回転数2100rpm×1、発電機に、DM113形交流発電機、出力270KW×1を組合わせている。エンジンには、気筒内への燃料噴射方式を電子制御としたコモンレール式を採用して、排気ガスの有害物質を低減させている。主回路用蓄電池には、出力密度が高く、軽量高出力のMB1形リチウムイオン電池が使用されており、1両あたりの容量は15.2KWhである。また、蓄電池に不具合が発生した場合を考慮して、2群構成として冗長性を持たせている。主制御装置には、C120形主変換装置を搭載しており、補機類とサービス用の電源装置である静止形インバータ(SIV)と一体構成となっている。2両単位での給電を行うため、補助電源装置の容量をキハE200の50KVAから70KVAに容量を上げている。
主電動機はキハE200形と同一のMT78形誘導電動機(定格出力95kw)を1両につき2個、動力台車に装備している。
車両の床下には、主変換装置、エンジン発電機、エンジンラジエーター、制御用蓄電池箱、ブレーキ制御装置を満載しており、エンジン冷却性能向上のためエンジンラジエーターの大形化や静止形インバータの容量増加による主変換装置の大形化が図られている。そのため、車両の屋上には、集中式冷房装置を挟んで、前位に主回路用蓄電池を2個、後位に元空気だめの一部が搭載されている(HB-E302形では前後逆)。また、運用線区に海岸部が多く含まれることから、塩害対策としてラジエーター・主回路用蓄電池の冷却風を海側から取り込まないように、床下・屋上機器の配置は、形式によらずほぼ同一としており、編成内の機器の向きをそろえている。また、各車には、補助電源で作動するMH3125-C600N形電動空気圧縮機(CP)を搭載している。
加速度は従来車との併結に備えて、キハ40系相当の1.5km/h/sとキハ110系とキハE200形相当の2.3km/h/sを切替えることが可能である[1]。 なお、同じハイブリッドシステムを持つキハE200形とは併結運転が出来る機能を有しており、実際に長野地区向け編成の試運転時に併結試験を行っている[5]
ハイブリッドシステムとコモンレール式のエンジンの採用により、五能線を走る従来型のキハ40系からの改造の「リゾートしらかみ」と比べて、燃料消費率10%削減、排気中の窒素酸化物(NOx)の約60%削減、駅停車中および発車中の騒音を20dB-30dB削減できるようになった。
車両が停車→発車→加速→惰行→制動→停車するまでの車両の状態は以下の通りになる。
- 停車中・惰行中
- エンジン発電機は停車時エンジン停止を行い、車両の補機類とサービス用の電源は主回路用蓄電池からの電力が補助電源装置に送られて、そこからの電力が送られる。
- 発車時
- 最初は主回路用蓄電池からの電力のみでモーターを駆動させ、約25km/h程度からエンジン発電機を起動させて、主回路用蓄電池とエンジンからの電力を併用しながらモーターを駆動させる。
- 加速時
- 主回路用蓄電池とエンジンからの電力を併用しながらモーターを駆動させる。惰行中からの場合は、エンジン発電機を起動させる。また、走行負荷の状態に応じて主回路用蓄電池の充放電を行う。
- 制動時
- エンジン発電機を停止させ、回生ブレーキによりモーターから発生した電力を主回路用蓄電池に充電する。
台車
台車は、軸梁式軸箱支持装置を備えたボルスタレス台車であり、キハE200形で使用されているものの改良型である。1両あたり電動台車と付随台車を1台ずつ装備しており、HB-E301形・HB-E300形では前位に動力台車のDT75A形・後位に付随台車のTR260A形を装備している(HB-E302形では前後逆)。
形式・編成
以下の3形式4区分からなる。
- HB-E301形 - 奇数向きの先頭車
- HB-E302形 - 偶数向きの先頭車
- HB-E300形 - 中間車。0番台・100番台の2区分。
HB-E301形とHB-E302形の2両編成(長野・青森地区)、または先頭車両形式にHB-E300形0番台・100番台を1両ずつ挟んだ4両編成(秋田地区)となっている。
- 長野・青森地区用
← 松本・青森 長野・南小谷・野辺地・三厩 → | ||
形式 | HB-E301 | HB-E302 |
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自重 | 41.5 t | 40.5 t |
搭載機器 | SIV,CP | SIV,CP |
- 秋田地区用
← 秋田・青森 東能代・弘前 →
| ||||
形式 | HB-E301 |
HB-E300 -100 |
HB-E300 -0 |
HB-E302 |
---|---|---|---|---|
自重 | 41.3 t | 41.5 t | 40.0 t | 40.3 t |
搭載機器 | SIV,CP | SIV,CP | SIV,CP | SIV,CP |
配置
- 長野地区(2両編成1本)
- 秋田地区(4両編成2本)
- 青森地区(2両編成2本)
運用
編成愛称は、長野地区のものは「リゾートビューふるさと」、秋田地区のものは「リゾートしらかみ」(青池編成,橅編成)、青森地区のものは「リゾートあすなろ」となる。
長野地区分は2010年10月 - 12月に開催される「信州デスティネーションキャンペーン『未知を歩こう。信州』」に合わせ同年10月2日から信越本線・篠ノ井線・大糸線の長野駅 - 松本駅 - 南小谷駅間で運転される快速列車「リゾートビューふるさと」を皮切りに運行を開始した[8]。飯山線には2010年11月に「十日町そば祭り号」として入線した。デスティネーションキャンペーン期間中の快速「リゾートビューふるさと」はほぼ毎日運行されていたが、終了後の2011年1月からは土曜日・休日を中心の運行とされている。
また、秋田・青森地区では、2010年12月4日の東北新幹線新青森駅延伸開業に伴うダイヤ改正にともなって、「リゾートしらかみ 青池編成」が奥羽本線・五能線にて、「リゾートあすなろ」が津軽線・大湊線・青い森鉄道線にて、それぞれ運行を開始した。2016年には「リゾートしらかみ 橅編成」として4両編成1本が製造され[9]、同年7月-9月に実施される「青森県・函館デスティネーションキャンペーン」に合わせて7月16日より営業運転を開始した[10]。「青森県・函館デスティネーションキャンペーン」では、「リゾートあすなろ」編成も「蕪島応援号」として運行され、八戸線鮫駅まで入線している[11]。
脚注
- ^ a b c d e 日本鉄道車両工業会「車両技術」240号「JR東日本 HB-300系リゾートトレイン用ハイブリッド車両」記事。
- ^ 車体構造の側構体の縦方向の骨組みである柱に、上部にある幕板の補強と屋根構体の横方向の骨組みである垂木の位置を合わせて結合強度を向上させることにより、車両の構体にリング構造を多数設けることで、衝撃荷重を受けた際の構造の変形量抑制を図っている。
- ^ "リゾートしらかみ「橅(ブナ)」の車両新造について" (PDF) (Press release). 東日本旅客鉄道. 14 May 2015. 2015年5月15日閲覧。
- ^ 詳しく解説すると、主変換装置内はコンバータ部とVVVFインバータ部に分かれており、その間に主回路用蓄電池が接続されている。力行時はDM113形交流発電機からの三相交流の電力をコンバータで直流の電力に変換した後に主回路用蓄電池からの直流の電力を加えてVVVFインバータで三相交流に変換して誘導電動機を駆動させ、制動時は、誘導電動機からの三相交流をVVVFインバータで直流の電力に変換した後に主回路用蓄電池に充電される仕組みとなっている。また、補助電源装置の静止形インバータ(SIV)へ送る電力は、停止時や低加速での力行時では主回路用蓄電池から、中高速時での力行時には主回路用蓄電池からの電力の他に発電機からの電力の一部が送られる、制動時は回生ブレーキにより発生した電力が主回路用蓄電池に充電するために送られる際にその一部が送られる。
- ^ HB-E300+キハE200,小海線で試運転railf.jp 鉄道ニュース 2010年7月17日
- ^ a b c JR電車編成表2011冬 P 346
- ^ 中間車1両は総合車両製作所横浜事業所で構体のみを製造し、艤装はJR東日本秋田総合車両センターが担当。
- ^ “ハイブリッドシステム搭載 新型リゾートトレイン リゾートビューふるさと 2010年10月デビュー” (PDF). 東日本旅客鉄道長野支社 (2010年). 2010年11月11日閲覧。
- ^ 先頭車2両を含む3両は総合車両製作所横浜事業所で製造し、また、中間車1両は構体を総合車両製作所横浜事業所で製造し、残りは秋田総合車両センターで艤装。
- ^ Web東奥 (2016年7月16日). “JRリゾートしらかみ新型車両デビュー”. 東奥日報 (東奥日報社) 2016年7月18日閲覧。
- ^ Web東奥 (2016年7月18日). “蕪嶋神社再興へJR東が応援列車”. 東奥日報 (東奥日報社) 2016年7月18日閲覧。
参考文献
- 「新車トピックス JR東日本 HB-E300系"リゾートビューふるさと"」『鉄道ダイヤ情報』第316号、交通新聞社、2010年8月、70-71頁。
- 中神匡人(東日本旅客鉄道 鉄道事業本部 運輸車両部 技術センター)「新車ガイド ハイブリッドシステム搭載リゾートトレイン HB-E300系」『鉄道ファン』第593号、交友社、2010年9月、61-70頁。
- 『鉄道車両と技術』第166号、レールアンドテック出版、2010年6月、2-11頁。
関連項目
- ハイブリッド
- JR東日本キハE200形気動車(ハイブリッド式気動車)
- JR東日本HB-E210系気動車(ハイブリッド式気動車)