リトラクタブル・ヘッドライト
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リトラクタブル・ヘッドライト(Retractable headlights)あるいは格納式前照灯(かくのうしきぜんしょうとう)は、車体内部に格納できる方式の前照灯である。主として自動車に用いられる。
通常のヘッドライトは自動車の前部に固定して据え付けられているのに対し、リトラクタブル・ヘッドライトは、消灯時はボンネット内部に埋没しており、点灯時のみ外部に展開される構造となっている。格納時は空気抵抗の減少に繋がるため、一種のエアロパーツと言うこともできる。
リトラクタブル・ヘッドランプとも、また自動車愛好家の間では、リトラクタブル、リトラとも略される。
格納式(可動式)ヘッドライトとしてはほかにポップアップ式ヘッドランプがある。
考案された背景
自動車の車体前部の高さを下げることは空気抵抗の減少につながるが、前頭部に装備するヘッドライトの最低地上高には安全上の理由から規制があり、あまり低い位置には置けない。またヘッドライトの存在はデザインの自由度を制約し、カーデザイナーは古くからヘッドライトの取り扱いに苦慮してきた歴史もある。これらの課題を両立させるため、「必要な時だけ、法規制を満たす高い位置に露出するヘッドライト」として着想されたものである。
特に、過去のアメリカにおいては「規格型」のライトハウジング以外(異形4灯、異形2灯)が使用できなかった。その規格型のライトを使用したままフロントノーズを低くするには「不使用時には格納」するしかなかったという事情もある。(このため、日産・シルビア S13やトヨタ・カローラレビン AE80系・AE90系のように北米仕様車では同系のリトラ車のフロントマスクが流用されたケースもある。)
形態
ヘッドライトユニットの前縁を持ち上げるタイプが多い。また、一部には、オペル・GT、4代目シボレー・コルベットのようにユニット自体を反転させるタイプやリンカーンに代表されるアメリカ車の高級セダンでは、直線に切り立ったカバーからライトが回転して飛び出すというギミックを備えたものが多かった。また、ランボルギーニ・ハラマ、いすゞ・ピアッツァ、ホンダ・バラードスポーツCR-Xなどのヘッドランプの半分または四分の一だけを覆うカバーのみを開閉するタイプや、格納時にも前照が可能なセミ・リトラクタブル・ヘッドライトと呼ばれるタイプもある。また、通常のリトラクタブル式がカバー部とライトが一体で、弧を描いて上下するのに対して、ライト自体がカバー部と別体で、垂直に移動する方式もあり、フェアレディZ(Z31型)、マツダ・サバンナRX-7(FC3系)や初期の三菱・GTO等が採用した。Z31型のヘッドライトは『パラレルライジングヘッドランプ』と呼ばれた。この方式は高速走行中に、ライトを瞬間的に点灯し前方の車に追い抜きの意思表示をするパッシングのため、ヘッドライトを展開した際に空気抵抗が増大するのを避けるため、格納時のままでもライトを点灯できるようにするためである。しかし、当時の日本の保安基準では、この用途では認可が下りなかった。
また、オペルGTには横に回転する、特異なタイプの可動式ライトが装着されている。
さらに、ジャガー・XJ220などヘッドライトを覆うカバーを移動させるタイプもあるが、これらをもリトラクタブル・ヘッドライトと呼ぶのが適切かどうかは疑問符が付く。
エンジンルームの通気性を良くし、過熱を防ぐために、意図的に半閉の収納状態になるように改造することもある。180SXやRX-7などに多く見られた。
開閉の動力は、初期にはエンジンのバキュームを利用したものやワイヤによる手動式もあったが、のちには電動式が一般的となった。
歴史
非常に古い採用例では、アメリカの独立系メーカーであったコードが1935年から1937年の経営破綻まで少量生産した前輪駆動の高級車コード810・812がある。棺桶といわれたこのユニークなモデルのデザインはゴードン・ビューリグによる、空力よりもスタイリングの見地から導入された手法で、独立フェンダー頂部にヘッドライトを収納できた。
当時コードに追随した事例はほとんどなく、クライスラー系中級車のデソート1942年モデルが第2の事例となった。これもやはりスタイリングの新鮮味を狙ったものであったが、アメリカ車の1942年モデルは戦時体制で民生供給が中止されたことからデソートも生産中止、1946年の生産再開時には通常外付けライトにリデザインされてしまっている。
本格的に盛んとなったのは1960年代以降で、1963年のロータス・エランなどが初期の例である。
日本では1967年のトヨタ・2000GTで最初に採用された。1970年代後期以降スーパーカーブームをきっかけとして一般に広く認知され、マツダ・サバンナRX-7をはじめとするスポーツカーに採用されたため、当時はスポーツカーを象徴する代表的なパーツと見られるようになり、自動車愛好家の羨望の的となった時期もあった。このため、「デコチャリ」と呼ばれた少年用スポーツサイクルにも手動リトラクタブルライトを採用したものがあった。1980年代に入るとホンダ・アコードやホンダ・クイントインテグラ、トヨタ・カローラII(および兄弟車のコルサ、ターセル)、マツダ・ファミリアアスティナなどをはじめとするセダン形やハッチバック形乗用車にまで採用され、一時的なブームともいえる状態となった。スーパーカーブーム時代の少年たちが成人したのちに「憧れ」を実現しようとしたことが影響しているとも指摘されている。また、1300cc未満の小型乗用車や軽自動車での採用例はない。
今日では次のような理由から採用する車種が全世界的に著しく減少している。
- リトラクタブルの持つ問題点
- 展開時、空気抵抗が増大する。
- 開閉機構を装備することによる重量増。
- 安全面・信頼性の問題
- 開閉機構が複雑で部品点数が増加し、コスト面と信頼性で不利。
- 突出したライトは、対人事故の際、対象に重度の傷害を与える恐れがある。
- 事故時や、寒冷地での凍結時ではライトが展開しなくなる恐れがある。
- 実用上の意義の希薄化(リトラクタブルである必要性の低下)
- 北米におけるライト最低地上高規制の緩和。
- プロジェクターライトやマルチリフレクター式のライトの実用化。配光をレンズカットにより行う必要がなくなったことなどから、それまで垂直にならざるを得なかった前面レンズが単なるライトカバーとなったため、スラントさせたり任意の曲面とすることが可能となり、空力やライトデザインの制約が大きく減った。
- 一部の国や地域ではヘッドライトの走行時終日点灯を義務付けている。そのような場合は走行中にライトを格納していることがないため、装備する意味がほとんどない。(上述のように高価で重い上に空気抵抗が増えるので、動力性能・環境性能・コスト面共にマイナスにしかならない。)
このような自動車の性能向上という観点からは致命的な欠点があり、特にフロントオーバーハング部の重量増は車両の回頭性が悪化するためスポーツ走行には向かない。マイナーチェンジ(三菱・GTO、ホンダ・NSX、ランボルギーニ・ディアブロなど)やフルチェンジ(ホンダ・プレリュード、トヨタ・スプリンタートレノ、トヨタ・MR2→MR-S、日産・240SXなど)でリトラクタブルを廃止する例や軽量化・点灯時の空気抵抗低減を目論んだサードパーティー製固定式ランプの登場例(マツダ・RX-7、日産・180SXなど)もある。 2002年8月、マツダ・RX-7の生産終了を最後に日本製乗用車での採用例は消え、2005年2月11日、シボレー・コルベットのフルモデルチェンジを最後に、リトラクタブル・ヘッドライトは新車市場から消滅した。
現在でもスタイリング面の魅力などから、リトラクタブル・ヘッドライトの車は人気が高い。しかし現在では安全基準の問題から、新規開発・販売は困難とされる。しかし、S13、S14、S15シルビアやGTO、NSX後期型等、リトラクタブルヘッドライトではない車両にリトラクタブルヘッドライト車のフロント部品一式を購入し取り付けるユーザーも少なからず存在する。車種によっては全く互換性がないため非常に大掛かりな板金作業が必要になる。
採用車種
日本車
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欧州車
北米車 |
自動車以外での使用例
オートバイ
- スズキ
- 3代目GSX750S - 俗に言う「3型カタナ」。
- ホンダ
鉄道車両
- 近畿日本鉄道近鉄20000系電車(「楽」) - 運転台屋根上展望窓両側に設置。公式サイト[1]では「鉄道車両初」としている。
- 京成電鉄AE100形(全廃) - 消灯時に自動的に上から蓋され、点灯時は蓋が開く構造。なお、現在京成電鉄では本線走行する列車は全て前照灯を点灯させているので、蓋がされるのは停車中か最後尾車輌のみであった。京成AE100形「スカイライナー」~ リトラクタブル伝説 ~(ノリモノズカン)
自転車
- ブリヂストンサイクル
- モンテカルロシリーズの一部車種
スノーモービル
- カワサキ
- インベーダー