航空母艦
航空母艦(こうくうぼかん、英: aircraft carrier)は、飛行甲板を持ち、航空機運用能力を持つ艦船のことを言う。 航空母艦の多くは航空機を離艦・着艦させると同時に、航空機に対する整備能力と航空燃料や武器類の補給能力を有し、海上において単独で航空戦を継続する能力を有する軍艦(艦艇)である。略称は空母(くうぼ)であり、一般的にはこちらで呼ばれることが多い。
洋上基地(司令部)としての機能を持ち、海の上のどこからでも航空機を発進させることができる空母は、現代海軍の主要艦艇である。
空母を攻撃力の中心として持つ部隊・艦隊のことを、機動部隊や機動艦隊、航空艦隊、空母打撃群などと呼ぶ。
航空母艦の任務
航空母艦は極めて特殊な性格を有する艦種である。すなわち軍艦としての攻撃能力はほとんど搭載機に依存しているため、航空母艦の戦力は搭載した航空機の能力や機数とそれらを指揮運用する能力で決まる。現代において最大の運用規模を持つアメリカ海軍の空母航空団を例にして航空母艦の任務を列記する。
- 地上・対艦攻撃
- 防御システムを有する敵地や敵艦隊へ接近・侵攻し攻撃する能力。F/A-18C/D ホーネットまたはF/A-18E/F スーパーホーネット戦闘攻撃機(艦上戦闘機) 48機が担当
- 電子戦
- 上記攻撃を効果的に行うために敵のレーダーや通信を無力化する能力。EA-6B プラウラー電子戦機4機が担当
- 対空戦
- 自部隊に接近する敵航空機を捕捉し撃墜する能力。上記F/A-18C/DまたはF/A-18E/Fが担当。
- 上空警戒・航空管制
- 高性能レーダーを有する航空機を艦隊上空や攻撃部隊の後方に飛ばして、空域の警戒と航空管制を行う。E-2C ホークアイ早期警戒機4機~5機の任務
- 対潜攻撃
- 自艦の周囲に存在する潜水艦を探索して確実に攻撃する能力。この目的には護衛の水上艦艇とSH-60F シーホーク哨戒ヘリコプターが担当、従来艦上哨戒機として活躍してきたS-3 ヴァイキングは退役した。
- 救難・輸送
- 救難活動や人員輸送に当たる。HH-60H レスキューホーク が担当
上記以外に人員や荷物の輸送を担当するC-2A グレイハウンド輸送機も搭載している。
上記任務全てに対応するために、アメリカ海軍の大型航空母艦は航空機やヘリコプターを70機以上搭載し、整備し、指揮・運用する能力を有する。アメリカはこの強力な航空母艦を軍事以外にも外交的に積極的に利用し、親善国へのアピールや、紛争が予想される地域への抑止力として派遣している。他の国の(アメリカより小型の)航空母艦は、上記任務の一部を割愛するか、アメリカ海軍機よりも小型の(性能の低い)機体を採用するか、機数を減らして運用している。
航空母艦の任務として冷戦時は核兵器による攻撃が重視されたが、後述のように現在のアメリカ海軍空母は核兵器を搭載していない。今後、アメリカ海軍はF/A-18C/Dの代替のF-35C ライトニングIIの導入を計画している。また、SH-60FとHH-60Hは計12機程度のMH-60R/Sに置き換えられつつある。早期警戒機E-2Cも新型のE-2Dへ、電子戦機EA-6BはF/A-18E/Fの電子戦機型EA-18G グラウラーに代替される予定である。
航空母艦の分類
一般の分類
主に以下に分類される。
- 正規空母 (aircraft carrier, multi-purpose aircraft carrier , CV)
- 2015年現在の定義では、垂直離着陸しないCTOL固定翼機の運用を想定して建造された空母。
- 空母黎明期から1970年代にかけては、この用語には複数の解釈があり曖昧に使用されている。
- 1980年~2000年にかけても、ブラジルとアルゼンチンでそれまで軽空母とみなされてきたコロッサス級(ブラジル海軍の公式類別でも軽空母)がCTOL固定翼機の運用を続けていると同時に、イギリスではSTOVL機ハリアーのみを搭載固定翼機とするインヴィンシブル級が就役し、後者は明らかに軽空母であるとしても前者を軽空母に分類するか正規空母に分類するかあいまいであった。
- 一般的な分類は別として、各国海軍の公式分類において正規空母と軽空母を区別している(してきた)国はアメリカ・ブラジル・カナダの3国のみであり、それ以外の国ではどちらも単に「空母」として分類されてきた。
- 原子力空母 (nuclear-powered aircraft carrier, multi-purpose aircraft carrier (Nuclear-Propulsion) , CVN)
- 原子力船の空母。大きさ、機能としては正規空母に内包される存在。
- 軽空母 (light aircraft carrier , CVL)
- 時代や国により基準は異なるが、正規空母より相対的に小型と見なされる空母であるが艦隊作戦行動が可能な速力を有するもの。
- 2000年以降、2013年現在では、垂直・短距離離着陸機(STOVL機)の運用を主体とし、CTOL機の運用能力を持たない艦を指す。特にハリアーを搭載機とするものは俗に「ハリアー空母」と呼ばれる。
- 護衛空母 (escort aircraft carrier , CVE)
- 第二次世界大戦中に運用された、輸送船団を敵潜水艦から護衛するための小型空母。低速で、商船構造であるなどの特徴がある。遠方の基地への航空機輸送任務にも用いられた。
- 護衛空母は艦隊行動がとれないため、正規空母もしくは軽空母とは明確に区別されてきた。
- ヘリ空母 (helicopter carrier , CVH)
- 主にヘリコプターを搭載しているものを呼ぶ。ただし、多くの全通甲板を持つ艦はハリアー等の垂直離着陸機を搭載することが可能な軽空母か、揚陸を主目的とする強襲揚陸艦であり、厳密なヘリ空母はほとんど存在しない。一般にヘリ空母は小型であり、大きさのみを基準とすると上記の軽空母となる。
- 海上自衛隊のひゅうが型も、公式にはヘリコプター搭載護衛艦ではあるものの、全通甲板を採用しているため一般にヘリ空母と見なされている。また2013年現在イギリスで建造中のクイーン・エリザベス級の1番艦「クイーン・エリザベス」もヘリ空母となる予定である。
- 強襲揚陸艦 (amphibious assault ship , Landing Helicopter Assault, LHA)
- 揚陸を主目的とする揚陸艦の一種で、揚陸及びその支援手段としてヘリコプター・垂直離着陸機の運用能力を有する。大きな積載能力と航空機運用を両立させるため一般に大型であり、垂直離着陸機を運用するワスプ級強襲揚陸艦はフランスの原子力空母「シャルル・ド・ゴール」に匹敵し、ヘリコプターのみを運用する艦船ですら、一部の軽空母よりも大きいといったケースもある。強襲揚陸艦の原型である1950年代終わりのヘリコプター揚陸艦(Landing Platform, Helicopter , LPH)においては、アメリカはエセックス級から3隻、イギリスはセントー級から3隻を類別変更でヘリコプター揚陸艦として運用した。
現代のアメリカ海軍における分類
現代において最大の運用規模を持つアメリカ海軍では、1952年10月の艦種種別変更で、「攻撃目的任務の艦:CVA(攻撃型空母, attack aircraft carrier)」、「対潜目的任務の艦:CVS(対潜空母, anti-submarine warfare support aircraft carrier)」という名称分類とし、1961年の「エンタープライズ(CVN-65)」就役に伴い「CVAN(攻撃型原子力空母, nuclear-powered attack aircraft carrier)」が追加されたが、その後、1975年6月に、「多目的空母(前述の正規空母):CV」、「多目的原子力空母(前述の原子力空母):CVN」の2種類に統合している。
また、他に、次のように類別している。
- 大型空母 (large aircraft carrier, CVB)
- 練習空母 (training aircraft carrier, CVT)
- 着艦練習艦 (AVT)
- 航空機運搬艦 (AKV)
- ヘリコプター護衛空母 (escort helicopter aircraft carrier, CVHE)
- 強襲ヘリコプター母艦 (assult helicopter carrier, CVHA)
- セティス・ベイが1955年に分類されたが、1959年にヘリコプター揚陸艦(LPH)に分類変更される。
- 雑役空母 (utility aircraft carrier, CVU)
他の航空機を運用する艦船
- 気球母艦
- 歴史上初めて航空機を運用した艦船。19世紀後半から20世紀初頭にかけて運用された、気球を運用するための艦船。歴史上初めての気球母艦はオーストリア海軍のヴルカノで、1849年7月12日に有人の熱気球を発艦させ、ヴェネツィア爆撃を試みた。アメリカ南北戦争では北軍の気球母艦「ジョージ・ワシントン・パーク・カスティス」など数隻が運用された。第一次世界大戦期にも各国で運用されたが、航空母艦や水上機母艦の登場により廃れた。
- 水上機母艦
- 水上機を発進、洋上に着水させたものを回収(Seaplane carrier)。もしくは水上機の根拠地での修理、整備、補給の海上の補助施設となる(Seaplane tender)。日本語では共に水上機母艦。
- 航空戦艦
- 太平洋戦争中、ミッドウェー海戦で正規空母4隻を喪失した日本海軍が、航空戦力の補充のため「伊勢」、「日向」を短期間で空母としての能力も持った戦艦に改装した。艦尾の主砲2基を撤去して、その跡に格納庫とカタパルト2機を装備したが飛行甲板は持たず、攻撃機の発艦のみを行い着艦は行なわない(他の空母か陸上基地への着艦・着陸)前提であった。しかし搭載予定機を作戦投入以前に陸上基地で消耗してしまい、実戦で航空機を運用する機会はなかった。
- 潜水空母
- 伊四百型潜水艦。全長122m、水中排水量6,500トン、特殊攻撃機「晴嵐」3機を装備した、日本海軍の大型潜水艦。18隻の建造が計画され、3隻が就役した。うち2隻は合計6機の晴嵐を載せて米海軍泊地の攻撃に出撃したが、攻撃地点への到達前に終戦となったために実戦で晴嵐を射出したことはなかった。
- 航空巡洋艦
- 戦後ソビエト連邦(現ロシア)が計画、建造、就役させたキエフ級および「アドミラル・クズネツォフ」の公式分類。1936年締結されたボスポラス海峡とダーダネルス海峡の航空母艦通過禁止を定めたモントルー条約に対する政治的処置である。または、後半分を水上機母艦に部分改装された日本海軍の重巡洋艦「最上」も、しばしばこう呼ばれる。
- ヘリコプター巡洋艦・駆逐艦
- 巡洋艦・駆逐艦としての兵装を有し、ヘリコプター運用に特化した甲板・格納庫を装備したもの。イタリア、フランス、ソ連、カナダ、日本が建造した。分類上、巡洋艦・駆逐艦とヘリ空母の中間であるが、他の艦船でもヘリコプターを運用していることが多くなってきたため、分類は難しくなっている。
- その他
- 軍用航空機を運用する艦船として、イギリス海軍は、商船にカタパルトを搭載したCAMシップ(Catapult Aircraft Merchantman Ship カタパルト装備商船)、飛行甲板を備え離着艦が可能なMACシップ(Merchant aircraft carrier 商船空母)、軍用船にカタパルトを搭載した戦闘機カタパルト艦(Fighter Catapult Ship)などを運用したことがある。ドイツ海軍もCAMシップに類似したカタパルト装備商船を運用したことがある。また日本陸軍は航空機を発艦可能な陸軍特殊船「神州丸」(現代の強襲揚陸艦の始祖)及び丙型/M丙型特殊船や、特TL型と呼ばれる全通式の飛行甲板を備えたタンカーを運用した。これらはいずれも戦時に建造されたが短期間で姿を消した。
他の航空機を運用する航空機
- 航空基地としての飛行船
- 軍用機の移動基地として建造された飛行船(艦船でないことを除けば運用上は空母に準ずる)。専用の軍用機をトラピーズと呼ばれる空中ブランコで発着させる。第一次世界大戦後、アメリカ海軍が全長240mほどの巨大飛行船「アクロン」と「メイコン」の2隻を建造して運用したが、ともに悪天候下の事故で失われ、以後は飛行船を航空基地として運用することはなくなった。
類別略号についての諸説
アメリカ海軍とカナダ海軍では、航空母艦を表す類別略号として2文字の「CV」を用いている。この「CV」が何の略であるか大きく2つ、細かく分けると4つの説がある。
- C=Cruiserの略
- 福井静夫ほか、旧来の書籍にはC=Cruiser説が根強い。2文字目のVについては次の3説があるがどれも根拠に乏しい。
- aViationのVという説。
- 艦上機の主翼を前から見た姿がVの字だからという説。
- 特に意味はなくCruiserのCで始める略号は既に多くの文字が使われており、あいていたのがたまたまVであったという説。
- CV=Carrier Vesselの略
- 『英和・和英 米軍用語辞典 第3次改訂版』(森沢亀鶴、学陽書房、ISBN 4-313-95007-9)
なお、空母の略号にCVを使っているのはアメリカとカナダの2国であるが、イギリス人あるいは他の言語域の国民と会話する場合でも英語を用いて会話を行う文脈においてはCVで空母の意味が通用する。
ドイツにおいては正規空母はRB、軽空母はRLに類別されている。
またポルトガル語圏のブラジルにおいては正規空母はNAe、軽空母はNAeLに類別されている。
航空母艦の構造
航空母艦は航空機の効果的な運用を第一義に建造されている。航空機運用機能を追求したスタイルは伝統的な軍艦のイメージとはかなり異なる。
船体・飛行甲板
- 飛行甲板
- 空母の最大の特徴は、舷側に寄せられたアイランド以外にさえぎるものの無い平らな甲板である。飛行甲板の面積は、着艦・離艦・エレベーターへの移動などを考えるとできるだけ広いことが重要である。
- 空母黎明期は、イギリス式の多数の飛行甲板を持つ空母(「フューリアス」とグローリアス級が二段、竣工時の「赤城」および「加賀」が三段甲板)もあったが、アメリカやフランスは当初から広い一枚甲板を採用しており、後にイギリスや日本も航空機の大型化に伴い一段甲板に統一された。
- ハリアーを運用する空母やカタパルトを持たないロシア空母は、甲板の先端を上に反らせてスキージャンプ甲板としている。
- 艦の進行方向に対して着艦方向を傾けた飛行甲板のこと。 着艦方向を傾けることで、飛行甲板前部の発艦スペースとの干渉を避けることができ、これにより着艦に失敗した場合にもやり直すことが可能となる。発艦と着艦を同時に行う事が可能な事も運用の利点として挙げられるが、これは正確とは言えず一般的ではない[注 1]
- 第二次世界大戦後にイギリスが考案し、自国の空母を改造。アメリカも採用し、第二次世界大戦中に就役したエセックス級やミッドウェイ級をアングルド・デッキに改造。その後建造された米・仏・露の正規空母は全てアングルド・デッキを備える。
- 垂直離着陸機を使用する軽空母では特に必要とされないため基本的には採用されない。
- アイランド
- 英語で島を意味するアイランドは、艦橋・マスト・煙突類が一体となった構造物。航空機の運用だけを考えれば無いほうが良いので、極力小型化して甲板の右舷側に寄せて設置される。現在まで左舷側にアイランドを設けたのは日本の「赤城」と「飛龍」のみ。太平洋戦争までの小型空母にはアイランドを設けない艦もあった(「アーガス」、「龍驤」など)。
- 格納庫
- 航空機を安全に保管し整備する場所。過去格納庫は1層式(アメリカとフランス)、2層式(日本とイギリス)、3層式(「赤城」と「加賀」)があったが、高さのあるジェット機を運用する現在は1層式が一般的。格納庫内では機体の整備ができる設備が整っている。
- 航空燃料タンク
- 空母は、揮発しやすく燃えやすい航空燃料を大量に搭載している。太平洋戦争では、「レキシントン」と「大鳳」の2隻が、航空燃料の引火爆発が原因で沈没した艦として有名。現在のジェット燃料はガソリンよりも引火しにくいが、一旦火がつけば大事故になる。そこで空母の航空燃料タンクとその配管は厳重な防火・防漏・消火対策が施されている。
- 弾薬庫
- 航空燃料タンクと同様、万全の防火・消火対策が施されている。航空燃料タンクと弾薬庫は、両方とも艦中央部の艦底付近(敵の攻撃による火災から最も遠い場所)に設置されている。
- 艦船用燃料タンク
- 原子力空母では自艦用の燃料タンクが不要になった事で、航空燃料や弾薬を多く積む事で継戦能力が高まった上に、随伴する水上戦闘艦艇へ補給する為の燃料を積載する事も可能となっている。
装置・装備
- 着艦誘導装置
- 電波誘導・光学式誘導・着艦誘導員のパドルによる合図等さまざまな装備が設置されている。アメリカでは1950年代ごろまでLSO(着艦信号士官)が両手にパドルを持ちそれによって誘導を行っていたほか、日本やフランスは後述する光学着艦装置の原型ともいえる着艦指導灯を使用していた。
- アメリカやイギリスでも艦載機のジェット化に伴う着艦速度の高速化により、より遠くから正確に誘導する必要が出てきたため遠くからでも視認しやすいミラー・ランディング・システムが開発され、後にそれを発展させたFLOLS(フレネルレンズ光学着艦装置)が開発された。
- また各種の電子兵装が充実した正規空母であれば電波誘導により自動的に着艦させることも可能である。
- 油圧式着艦制動装置
- 甲板上に浮かせた状態で数本張られたアレスティング・ワイヤーを、着艦する機体のアレスティング・フックで引っ掛けて、強力なブレーキ力を発生させる。開発当時は縦索式と横索式の二通りがあり、縦索式はイギリスと日本が、横索式はフランスとアメリカが採用し研究していた。
- 縦索式は首尾線方向に百本ものワイヤーを張り、着艦機が主脚間に装備する櫛形フックに引っ掛けて摩擦力を利用する形式で開発が容易だったが制動力に著しく劣り事故が絶えなかった。そのため、イギリスでは1926年から1931年までは着艦制動装置禁止令を出してしまった。
- 一方、横索式は飛行甲板の左右方向に張られた数本のワイヤーを着艦機の後部に装備したフックに引っ掛けて停止する方式である。1911年1月18日に装甲巡洋艦「ペンシルベニア」に設置された仮設飛行甲板への世界初の着艦において既にこの仕組みは考案済みであったが、実用化には16年と長い年月が必要でフランスが実用化したのが1927年の「ベアルン」であった。後に日本、イギリスもフランスより技術導入して1931年までに横索式に切り替えることとなった。今日の空母が採用しているのも横索式である。
- 他に非常時に使う、機体全体を受け止めるバリケード(滑走制止装置)もある。
- 蒸気カタパルト
- 1950年代にイギリスが開発した、空母の主機関の蒸気をピストンに送り込んで、航空機を加速する方式。アングルドデッキと並んで現代空母に不可欠の技術。
- しかし開発には高度な技術が必要であり、現在でもアメリカ等、一部の国しかもっていない。
- ロシアの「アドミラル・クズネツォフ」はカタパルトを装備していないが、これは風説にいわれる「ソ連が蒸気カタパルトを開発できなかったため」では無く、スキージャンプという低コストの発艦方式を実用化したため本艦への搭載は見送られた、というだけの話である。クズネツォフ2隻に続いて1988年に起工された原子力空母「ウリヤノフスク」は、当初からカタパルトを搭載する予定になっていたが、同艦はソ連崩壊により建造中止となり、ロシア海軍初のカタパルト装備原子力空母は、幻と消えた(ちなみに、ソ連の蒸気カタパルトの試作品は、既に1985年頃には完成していた)。
- 第二次世界大戦中~蒸気カタパルト実用化までの間のイギリス空母・アメリカ空母は油圧式カタパルトを装備していた。
- ブライドル・レトリーバー(英語ではbridle catcherと呼ぶこともある)
- カタパルト延長線上の飛行甲板前縁斜め下方に角のように突き出した構造。初期のカタパルトはシャトルと艦載機の接続に、射出と同時に分離して前方へ投棄されるブライドル・ワイヤーと呼ばれる鋼索を使用していた。当初は発艦ごとの使い捨てだったこのワイヤーを回収するための装備である。現在では艦上機の脚部にカタパルトのシャトルと直接接続できる機構が備わっているものがほとんどとなったのでブライドル・ワイヤーが不要となり、新型・近代化改修を受けた最近の空母には見られないことが多い(またブライドル・ワイヤーが使い捨てだった時代の空母にも見られない)。
- エレベーター
- 下層にある格納庫甲板から最上甲板である飛行甲板に艦上機を上げるための装置である。通常は四角形だが、イギリスでは飛行機の形に合わせた十字型のものもあった。アメリカのエセックス級にもアングルド・デッキを備えるSCB-125近代化の際に第一エレベーターが長方形に前方をすぼませた六角形となったものがあった。第二次大戦期の多くの空母ではエレベーターは艦の中心線上にあったが、強度と航空機運用に問題があったため現在の大型空母は飛行甲板の両外側に舷側エレベーターを設置している。
- 小型の軽空母では舷側にエレベーターを設けると悪天候時に海水が格納庫に浸入する恐れがあるため、艦の中心線上にエレベーターを設けている。
- 中心線上へのエレベーター設置は格納庫面積を圧迫してしまう事になり、格納可能な機数が減少するデメリットでもある。なおイギリスでは「リフト」と呼ぶ。
航空母艦の歴史
洋上航空兵器を運用する艦船は、気球母艦が始まりである。19世紀中頃にはオーストリア海軍の気球母艦から発進した熱気球より爆弾の投下を試みた。南北戦争ではガス気球が使用され、ガス発生装置を備えた艦が建造された。第一次世界大戦でも同様の艦が使用された。
水上機母艦の最初のものは、1911年にフランス海軍が機雷敷設艦の「ラ・フードル」を水上機の運用が可能なように改修したのが始まりだといわれている。しかしすぐには実戦に投入されなかった。
洋上を発進した航空機の実戦活動は、日本海軍の「若宮」搭載機が第一次世界大戦で青島のドイツ軍基地を攻撃したのが世界最初である。日本海軍をはじめとする水上機はそれなりに活躍したが、大きなフロートを装備しているため、飛行性能では(通常の)陸上機に劣った。
当初から航空母艦として設計された正規空母として世界最初のものは、第一次世界大戦後の1922年に、同じく日本海軍が同盟国のイギリスの技術援助のもと竣工した「鳳翔」が最初である。
第二次世界大戦の空母は、陸上機と同等の性能を有する全金属製の戦闘機や爆撃機を(艦船の性能によるが)50機以上運用し、その汎用性・攻撃力の高さから戦艦をしのぐ海軍の主力艦となった。
現在の空母は、排水量10万トン以上のアメリカの原子力空母から、排水量1万トン強で垂直離着陸機を運用するタイの「チャクリ・ナルエベト」まで多岐に及んでいる。
第一次世界大戦以前
航空機が実用化された直後から、各国の海軍は航行中の艦船から航空機を発着させる努力を続けてきた。
アメリカは1910年11月14日に軽巡洋艦「バーミンガム」に仮設した滑走台から陸上機の離艦に成功した。翌1911年1月18日には装甲巡洋艦「ペンシルベニア」の後部に着艦用甲板を仮設し、離着艦に成功した。
1912年にはイギリスでも仮設甲板からの離艦に成功した。ただし、これらの成功はいずれも仮設甲板を使用しただけでなく港内に停泊中の艦からのものであり、実用性は乏しかった。
第一次世界大戦
第一次世界大戦では、航空機による索敵・爆撃・雷撃・空中戦が行われた。1914年に日本海軍の水上機母艦「若宮」(5,180トン)をドイツ軍基地のあった中国の青島沖に派遣し、搭載機(ファルマン水上機)が攻撃を行った。水上機母艦であるため、搭載機の発着は海面を用い、機体はクレーンで揚収する。英国は比較的高速な2,000〜10,000トンの商船を水上機母艦に改造し、1914年12月に数機編隊でドイツ本土を攻撃した。
この程度の攻撃力では不十分であると感じたイギリスは、巨砲を有する超大型巡洋艦として建造中の「フューリアス」(19,000トン)の砲を降ろし、前甲板を完全に飛行甲板に改造した。「フューリアス」は1917年6月に竣工している。しかし前甲板のみでは航空機運用に不便であったため、直ちに再改装に入り1918年に後部甲板も飛行甲板となった。世界最初の本格的な航空母艦であったが、艦の真中には巡洋艦と同じく背の高い艦橋と煙突がそびえていた。
更に完成度の高い空母として、イギリスは建造中の高速商船を改設計し、航空母艦「アーガス」(14,450トン)を建造した。この艦は世界初の艦首から艦尾までの飛行甲板上に全く邪魔物のない全通甲板で、その後の空母の模範となった。
一方、アメリカは給炭艦「ジュピター」を改造した空母「ラングレー」を建造した。
第一次世界大戦後
第一次世界大戦での実績から、英・日の海軍は海上航空能力の必要性を痛感し、既存艦船の改装によらない本格的航空母艦の建造に着手した。
初めから航空母艦として設計された艦で、最初に起工された艦はイギリスの「ハーミーズ」であったが完成が遅れ、最も早く竣工(完成、1922年)したのは日本の「鳳翔」だった(「ハーミーズ」の完成はその翌々年の1924年であった)。また、イギリスは「ハーミーズ」とほぼ同時に空母「イーグル(初代)」を完成させたが、これはアルゼンチンの注文で(英国で)建造していた戦艦を接収し、空母に再設計したものだった。
海軍軍縮条約時代
1922年のワシントン海軍軍縮条約の結果、戦艦と巡洋戦艦の建造は一部を除き中止され、日米は建造中の巡洋戦艦各2隻を航空母艦に改造する事になった。英国は先の「フューリアス」とその準姉妹艦2隻を完全な全通甲板を持つ航空母艦に改造した。またフランスは建造を中止した戦艦1隻を改造し空母として完成させた。「鳳翔」や「ハーミーズ」が1万トン台であったのに比較し、「赤城」は基準排水量約26,900トン、「レキシントン」も33,000トンと空母の大きさは急拡大することとなった。
ワシントン海軍軍縮条約を受けた各国の空母建造状況は、以下の通り。
- 日本 - 「赤城」、「加賀」 - 最初予定した赤城の同型艦である天城が関東大震災で破損したため未成戦艦加賀を空母に改装。
- アメリカ - 「レキシントン」、「サラトガ」
- イギリス - 「フューリアス」、「カレイジャス」、「グローリアス」
- フランス - 「ベアルン」
その後、日米は上記改装空母の運用実績を生かした新しい空母の建造を(ワシントン条約の枠内で)続けた。
この時代の各国の空母の特徴として、格納庫の構造があげられる。アメリカは 主船体の上に1層の広い格納庫を載せ、その上に飛行甲板を設けていた。日本とイギリスは、格納庫を主船体内に取り入れた結果、面積が大きく取れなかった代わりに、2層以上の格納庫を設けていた。
第二次世界大戦まで
ワシントン条約に続くロンドン海軍軍縮条約では、航空母艦の保有量にも制限が加えられた。しかし1936年の日本の脱退により、条約による艦船建造の規制時代は終わりを告げた。
日本とイギリスは条約明け直後から、充分な航空機搭載力を有する大型の空母の建造を開始した。少し遅れてアメリカも大建造に着手した。戦力増強を急いだアメリカは、既存のヨークタウン級1隻を建造しつつ、新たな設計の空母(後のエセックス級)の開発に入った。
- 日本 - 翔鶴型2隻、「大鳳」、「信濃」(大和型戦艦の3番艦として建造していたが、ミッドウェー海戦後に計画変更して空母化)
- イギリス - 「アーク・ロイヤル」、イラストリアス級6隻
- アメリカ - 「ホーネット」、エセックス級24隻(1943年から就役、ただし7隻は戦後の完成)、ミッドウェイ級3隻
これらの空母は充分な攻撃力と相応の防御力を有しており、正規空母や艦隊型空母と呼ばれた。
この中でイギリスの空母は敢えて搭載機数を犠牲にして飛行甲板と格納庫を強固な装甲で防御しており、実戦でもその有効性が証明されたが、搭載機数の少なさは否めなかった。飛行甲板に装甲を施すことによる搭載機数の少なさの解決は、後に就役したアメリカのミッドウェイ級が登場するまで待たねばならなかった。
またまったくの未完成に終わったが、下記の空母も新規建造が行なわれた。
- ドイツ - 「グラーフ・ツェッペリン」と同型艦「ペーター・シュトラッサー」
第二次世界大戦
第二次世界大戦で航空母艦は海軍の主役となり、それまで海軍の主力であった戦艦は緒戦で航空機の攻撃に太刀打ちできないことが実証され、以後は航空母艦搭載機による制空権の確保が、戦略上の重要課題となった。
日本海軍においても大艦巨砲主義の終焉に伴い、艦政本部を中心に設計・建造方針においては空母を主軸とした機動艦隊(第一航空艦隊やその後続の第三艦隊)が戦力の中核をなした。しかし軍令・戦術方針においては、艦隊決戦至上主義や大艦巨砲至上主義が依然根強く、あくまでも戦艦中心の第一艦隊あっての機動艦隊という編成であった。戦艦中心編成の第一艦隊を廃し、空母等の機動力を主とした第一機動艦隊を創設したのは昭和19年3月だった。
戦争開始後の大建艦
戦時急造の空母として、日本では中型の艦隊型空母、イギリスでは小型で若干速度の劣る軽空母が建造された。
また、第二次世界大戦では正規空母以外にも大量の空母が改装によって建造された。
- 巡洋艦や水上機母艦の船体をベースにしたもの
- 商船や客船をベースにしたもの
空母の戦い
第二次世界大戦の海の戦いの主役は、従来の戦艦からより汎用性の高い空母に変わった。太平洋では日米海軍の空母が主戦力として活躍し、大西洋や地中海では空母を持つイギリス海軍がドイツやイタリアの艦船を攻撃した。主戦場以外の局面においても、アメリカが大量建造した護衛空母は、「空の隙間」をうめて対潜哨戒機の補助としてドイツのUボートに打撃をあたえ、連合国側のシーレーンを確保した。
特に太平洋戦争では日米ともに有力な空母部隊を擁しており、それら空母を中核とする機動部隊が戦局を大きく左右することになる。空母を中核とした機動部隊の活躍は日本の空母6隻から発進した航空機がオアフ島真珠湾に停泊していたアメリカ太平洋艦隊の戦艦群を壊滅させた真珠湾攻撃から始まり、その後、日米の正規空母が正面から激突する海戦も度々生起した。
史上初の機動部隊同士の海戦は、1942年5月8日に発生した珊瑚海海戦である[注 2]。この海戦は米海軍を主力とする連合軍が正規空母1隻及び駆逐艦1隻を撃沈されたのに対し、日本海軍の損害は軽空母一隻を撃沈されたに留まり日本側の勝利で終わっているが、引き換えに日本側は作戦目標を放棄せざるを得ず、戦略的には連合軍側の成功であったと評価されている。
続くミッドウェー[注 3]では4隻の主力空母を失い、大きく戦力を減じた日本海軍だが、後の南太平洋海戦では勝利し、一時はアメリカ軍を稼動空母皆無の状況まで追い込む。しかし強大な国力、工業力を背景に空母戦力の大増強を続けるアメリカ側に対し日本側の戦力回復は遅々として進まず、その後のパワーバランスはアメリカ側に大きく傾く。
マリアナ沖海戦[注 4]時には最早日本側の衰勢が明らかになっており、レイテ沖海戦[注 5]時の日本空母部隊は、アメリカ軍の目を『レイテ湾に突入する栗田艦隊』から逸らせるための囮の役目しか果たせなくなっていた。
なお、終戦直前にはイギリスの空母も沖縄近海での作戦行動を行っている。[注 6]
太平洋戦争における日米の空母同士による海戦一覧
- 珊瑚海海戦(1942年5月)・・・日本の勝利
- ミッドウェー海戦(1942年6月)・・・アメリカの勝利
- 第二次ソロモン海戦(1942年8月)・・・アメリカの勝利
- 南太平洋海戦(1942年10月)・・・日本の勝利
- マリアナ沖海戦(1944年6月)・・・アメリカの勝利
- レイテ沖海戦(1944年10月)・・・アメリカの勝利
なお、歴史上、現在に至るまで空母同士の海戦は日本対アメリカ以外では発生していない。
アメリカの第二次大戦後
第二次世界大戦後、空母は艦載機のジェット化と核戦略による転換期を迎える。ジェット機はレシプロ機に比べ高速、大型であり従来の空母艦載機の使用条件とは一致せず、各国の海軍の頭を悩ませることとなる。
アメリカ海軍では冷戦が始まった1945年以後はソビエト本土への核攻撃能力が重要視され、比較的小型の航空機しか運用出来ない航空母艦の価値が低下したと考えられていた。海軍は海軍長官出身のジェームズ・フォレスタル国防長官の助けにより、核搭載可能な大型艦載機A-3Dの運用を前提とした排水量65,000トンの大型空母「ユナイテッド・ステーツ」の建造を計画するが、この大きさでもジェット機の運用は困難とされ、空軍のB-36戦略爆撃機との比較の結果B-36に軍配があがり、「ユナイテッド・ステーツ」は起工から5日目に建造中止されてしまう。
即時展開可能な航空基地としての存在意義
空母への風当たりが強くなる中、1950年6月25日に北朝鮮が突如韓国へ侵攻し、朝鮮戦争が勃発する。不意を衝かれた韓国は総崩れとなり北朝鮮はさらに南へ侵攻、急遽アメリカは西太平洋に展開していたエセックス級「ヴァリー・フォージ」を朝鮮半島近海に進出させることを決定する。途中「ヴァリー・フォージ」はイギリス海軍コロッサス級「トライアンフ」と合流し北朝鮮近海に進出、開戦8日後の7月3日から作戦に入った。
その後は空軍機の展開により対空戦闘の中心は空軍機に譲るが、停戦までの間に11隻のエセックス級空母が参戦し主に対地攻撃を担当した。このうち1951年以後に参加したエセックスを含む4隻はジェット機対応の改装を済ませており、ジェット機による攻撃を行った(他の7艦はプロペラ機を搭載)。
朝鮮戦争の戦訓から、空母の任務として対地攻撃が重視されるようになった。
戦略核攻撃可能な大型空母の建造
朝鮮戦争での実績から、空母は即時展開可能な航空基地として有効であると認識されるようになり、空母不要論は一応の終結を見ることとなった。しかし、依然としてジェット機運用には問題が多く、着艦速度が速くても正確に着艦させることができる誘導システムと、重い機体を十分に加速させることができるパワーのあるカタパルトが必要であった。従来の空母は甲板上から艦載機をすべて取り除かない限り、着艦のやり直しがきかなかったため、これも改善する必要があった。
これらの問題は第二次大戦末期から考えられるようになり、イギリスで大戦後から1950年代にかけ、ジェット機でも運用できる強力な蒸気カタパルト、ミラーランディングシステム、アングルド・デッキという現代空母の基礎となるものが開発され、空母の運用能力は大幅に向上した。
これらの技術を集大成して、1955年に戦略核攻撃任務航空機を搭載する超大型空母「フォレスタル」(6万トン)が完成した。その後アメリカ海軍はフォレスタル級の改善・就役を行いながら1968年までに8隻の通常推進型空母を建造した。
原子力空母の建造
艦船の原子力推進搭載第一号は1955年にアメリカで完成した原子力潜水艦「ノーチラス」。通常推進に比べて原子力推進の利点は下記の通り。
- 核燃料は1回補給すると少なくとも20年以上使えるため、航続距離が非常に大きくなる。通常動力型では大容量の燃料タンクが必要であったが、原子力推進艦ではその必要が無い。
- 機関運転に際し大気中の酸素を必要とせず、排気も無い。潜水艦としては潜航し続けたまま長期の航海が可能。
この二点は隠密裏に長期の行動を要求される潜水艦にとって非常に有利であるが、原子力化は航空母艦にとっても大きな利点がある。
- 燃料消費を気にせずに長期間の高速航行が可能。また蒸気発生量に余裕があるので蒸気カタパルトの連続使用にも支障が無い。
- 自艦の燃料タンクが必要なくなるのでその分航空機の燃料などを多く積載でき、補給までの継続戦闘期間が長く出来る。例えば通常動力推進のキティホーク級では自艦用の燃料7,828トンと航空機用燃料5,882トンを積載しているが[1]、原子力推進では自艦用燃料約8,000トンの積載量を航空燃料などの他の用途に回すことが出来る。
- 主機関に空気を送る送風システムと排気を煙突まで送る煙路が必要なくなるので、艦内配置に余裕が出来る。更に通常推進艦では十分解決出来なかった煙突からの高温排気による気流の乱れ(着艦機にとって重要な問題)の問題が解消される。
- マイナス面として、開発と建造・維持の費用が通常推進艦より高価であることが上げられる。
アメリカ海軍は上記利点を考慮し、1961年に就役させた3隻の空母のうち1隻を初の原子力空母(「エンタープライズ」)とした。また 同時に建造した原子力ミサイル巡洋艦「ロング・ビーチ」(15,111トン)、「ベインブリッジ」(7,982トン)と協同して原子力艦隊を作ろうとした。しかし「エンタープライズ」は建造費があまりにも高くなったため、次に建造された空母2隻は一旦通常推進型に戻された。
1964年から始まったベトナム戦争では「エンタープライズ」やほぼ同じ大きさの通常推進型のフォレスタル級やキティホーク級、より旧型で小さいエセックス級やミッドウェイ級など多数の空母が参戦し、その中で原子力空母のメリットが改めて確認された。その結果 1975年から「エンタープライズ」を更に改良したニミッツ級の量産建造が始まり、計10隻が建造された。
ニミッツの建造に合わせてカリフォルニア級(10,150トン、2隻)やバージニア級(11,000トン、4隻)の原子力ミサイル巡洋艦が建造されたが、この種の艦の建造は1980年完成のバージニア級の4番艦で終了し、その後建造されたミサイル巡洋艦は全て通常推進のタイコンデロガ級(9,400トン、27隻)となった(原子力巡洋艦9隻は全て退役済み)。
これらの事実を総合すると、艦船の原子力化のメリットは 潜水艦>航空母艦>巡洋艦という結果であった。
2009年に、アメリカ海軍では最後の通常推進空母であった「キティホーク」が退役し、空母は全て原子力推進艦となった。
空母からの核兵器撤去
アメリカ海軍の戦略核攻撃任務は1960年代後半には弾道ミサイル潜水艦に任され、同任務に就いていた空母上のA-5超音速攻撃機は偵察機に改造されたが、A-4やA-6といった戦術攻撃機は1990年頃まで核攻撃能力を有していた。
1989年のマルタ会談での冷戦終結を受け、1991年に戦術核兵器の撤去が始まり、1992年7月には当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が航空母艦から戦術核兵器の撤去が完了したと発表した。
アメリカ以外の国の第二次世界大戦後
カタパルトやアングルド・デッキなどの採用によってジェット時代の空母の技術が確立されたが、空母のような大型艦船は財政的な問題が無視できなかった。空母の運用にかかる費用は莫大なものとなってゆき、アメリカ以外ではまともに運用することが不可能となった。
海軍国であったイギリスも例外ではなく、第二次世界大戦後に完成した4万トン級の「イーグル」や「アークロイヤル」等の正規空母の後継艦の建造を1960年代に計画するものの予算の面で断念、1970年代にはすべての正規空母は退役してしまった。
一方フランスは1961年以後自国技術により、3万トン級のクレマンソー級2隻を建造した。フランスは政治的にアメリカ追随ではなく独自の歩み方をすることを選択し(対米自立外交)、ド・ゴールが大統領時代の1966年に北大西洋条約機構から脱退した。以後フランスはアメリカに頼らない独自の空母戦力維持に力を注いでおり、現在は4万トンの原子力空母「シャルル・ド・ゴール」1隻を運用中である。
またソビエト連邦も海上航空勢力の整備を目指し、まず垂直離着陸機とヘリコプターを運用する4万トン級のキエフ級航空母艦を1975年から4隻作った後、1991年に6万トンの重航空巡洋艦「アドミラル・クズネツォフ」を建造した。
イギリスで建造されたコロッサス級とマジェスティック級は小型の軽空母であったが、蒸気カタパルトとアングルド・デッキの装備などの改装・改設計により最低限のジェット艦上機運用能力を持っていたため、1960年前後にカナダ・オーストラリア・インドなどのイギリス連邦諸国やオランダ・ブラジル・アルゼンチンに売却または貸与されたので、これらの国でも空母を運用している時期があった。1970年代終わりにこれらの小型空母が老朽化した際に大半の国では後継空母の取得を諦めたが、インドはイギリス軽空母「ハーミーズ」を購入し「ヴィラート」として空母戦力を維持、ブラジルはフランスより「フォッシュ」を購入して「サン・パウロ」として戦力を維持している。
ハリアーと軽空母
一時期、空母保有をあきらめたイギリス海軍は、哨戒ヘリコプター多数を運用する全通甲板型指揮巡洋艦を計画したが、この計画中に空軍で使用されていたホーカー・シドレー ハリアーに目をつけ艦上機型のシーハリアーを開発、これにより満載排水量20,000トン程のインヴィンシブル級軽空母でも固定翼機を運用することが可能となった。これが現代における軽空母の新たな定義づけを生む。
軽空母とシーハリアーの組み合わせは、1982年にアルゼンチンとイギリスとの間で行われたフォークランド紛争で艦隊防空において「空戦での損失ゼロに対し撃墜23機」という予想以上の成果を上げたため、スペイン・イタリア・インド・タイなど他の多くの国で採用されることになったが、艦載機に早期警戒能力が無かったため、アルゼンチン攻撃機の低空攻撃を許した。後にSH-3 シーキングを改修し、現在までヘリコプターを早期警戒機として運用している。フォークランド紛争以後、ヘリコプターとV/STOL機(シーハリアー)の組み合わせでの運用が確立され、以後建造される軽空母の方向性を決定したと言える。
ただ2000年代以降は4万~6万トン級でCTOL機を運用する中型正規空母が各国で建造され、一方ハリアー自体が旧式化したこともありこのクラスの空母も次第に退役するか、空母自体は運用されていてもハリアーの運用を終了もしくは凍結して実質的にヘリ空母として運用されつつある。事実このクラスの空母の先駆者であるイギリス海軍は、インヴィンシブル級でのハリアーの運用を2010年いっぱいで終了し、代わりに6万5,000トンクラスのクイーン・エリザベス級を建造。またインドも軽空母にかわり4万トン級中型正規空母を建造するなど、軽空母保有国から脱却しつつある。一方軽空母保有国でもイタリアの「カヴール」のような多目的空母としての運用や、スペインの「フアン・カルロス1世」など強襲揚陸艦での固定翼機の運用を行う国も現れてきている。
現在の空母
現代空母の分類は、第二次世界大戦頃の名残で正規空母と軽空母を中心にその他のヘリ空母・強襲揚陸艦(STOVL機を運用可能な艦が少なくない)等の艦種を加える方法ともう一つ、搭載機の発着方式で分類する方法の二通りが主である。前者の分類について、正規空母と軽空母の境界は明確とはいえない。
空母の現況と将来
空母に限らず軍艦を運用する場合、整備や訓練などを行う必要もあるため、常時1隻以上を稼動状態にするには最低3隻程度は必要であり、その意味で空母を常時運用できる国は限定される。また、空母は軽空母サイズでも他の艦船に比べ運用には費用がかかるため、他の艦船の稼働率に影響を与える場合もある。
航空母艦は潜水艦による魚雷攻撃に対し虚弱性を有し、操艦による回避は大型化すればそれだけ困難となり、十分な対潜能力をもつ護衛艦隊を伴わない場合、空母の大型化は格好の標的となりやすい。米国が大型の原子力空母を運用するようになってから、潜水艦による魚雷攻撃を受けた経験はまだ一度もなく抗堪性については現実には未知数である。2006年、沖縄近海で護衛艦隊を伴った米空母「キティホーク」の8キロメートル範囲内に中国の宋級潜水艦が急浮上し米海軍を驚愕させている。このとき米軍は浮上まで同艦の存在にまったく気が付かなかったとされる[2]。
S/VTOL機を搭載する軽空母や強襲揚陸艦は、ハリアーの旧式化による退役で、第5世代機のF-35Bの搭載が主軸になる。
2015年現在、大型ジェット機も離着陸できるメガフロート空母という構想も出ているが、速力と防御力の面で問題がある為に実用化には至っていない。
各国の航空母艦
空母あるいは空母に準ずる艦を保有し、もしくは保有を計画する諸国の近況を、以下に記す(あいうえお順)。
- アメリカ合衆国
- 保有する10隻の大型空母(en:Supercarrier)の全てが原子力空母である。最新鋭艦では排水量10万トンを超える超大型艦であり、1隻で中小国の空軍以上の攻撃力を持つといわれる。原子力機関を搭載するため建造にも維持・運用にも莫大なコストを要求されるが、軍事上・外交上の切り札に位置づけられている。
- その他、強襲揚陸艦はハリアー II V/STOL攻撃機の運用能力を持っており、必要に応じて補助空母的任務を遂行可能である。
- アメリカ空母の運用については2001年に報告された防衛方針QDR-2001に基づいた艦隊即応計画によると「6個空母打撃群が30日以内にあらゆる紛争地域に展開できる態勢を維持している」[3]。このような長距離即応体制には、航続力の長い大型の原子力空母が非常に有利である。将来的には予算の大幅削減に伴い、空母の運用状況にも大きな影響が出ると予想されている。
- 建造中の艦は空母・強襲揚陸艦共に新型である。
- ニミッツ級 - 10隻(内1隻は炉心交換作業のため戦列を離れている)
- ジェラルド・R・フォード級 - 1隻艤装中、1隻建造中、1隻計画中
- ワスプ級 - 8隻
- アメリカ級 - 1隻、1隻建造中、4隻計画中
- イギリス
- 2010年にハリアーの運用を終了し、インヴィンシブル級も2014年に退役した。減少した攻撃戦力を補うため、新たに陸軍で導入したWAH-64 アパッチを搭載する。
- インヴィンシブル級3隻を代替するため、6万トン級空母2隻の建造を推進していたが、F-35B開発遅延の影響により大きく軌道修正を余儀なくされた。
- 新造空母の1番艦は2017年頃就役するがカタパルトもスキー・ジャンプも持たない、純粋なヘリ空母として運用される。2番艦の就役に伴い1番艦は即応予備役に移される構想であったが、最終的には両艦とも航空機運用機能は維持されることとなった。
- オーシャン(ヘリ空母としても運用可)
- クイーン・エリザベス級 - 1隻艤装中、1隻建造中
- イタリア
- かつてのヘリコプター巡洋艦の代替として建造した、V/STOL空母2隻を運用している。「カヴール」は近年のトレンドとして、多任務艦の能力を盛り込まれている。
- イラン
- 2011年、イラン海軍副司令官が戦闘機とヘリコプターを搭載した空母の建造を明らかにしたことが報じられた[4][5]。しかし、後にこの空母は米国のニミッツ級を模して作ったハリボテであることが判明。2015年にイラン海軍が演習で撃沈しており、映像も公開された[6]。
- インド
- フォークランド紛争でも活躍したハーミーズを購入し、V/STOL空母として運用している。
- 空母3隻保有を目指しており、旧ソ連のキエフ級を購入・改装の上MiG-29Kを搭載してSTOBAR空母として就役させる。自国では新空母1隻を建造中であり、アメリカの技術協力を受けた国産空母を構想している[7]。
- ヴィラート
- ヴィクラマーディティヤ
- ヴィクラント - 艤装中
- タイ
- 世界最小のV/STOL空母1隻を保有している。財政難の折、活動は不活発の模様。ハリアーは全機が保管状態にあり、実質的にヘリ空母としての運用下にある。
- 韓国
- 2007年に本格的な空母型揚陸艦を就役させた。同級3隻体制を目指し、2・3番艦の建造を構想していたが、予算上の問題から3番艦は中止された。2番艦の計画も2016年現在具体化していない。
- 独島級 - 1隻
- スクラップとして他国の退役空母を数隻購入していたが、その中で1998年に購入した旧ソ連が建造中止した「ヴァリャーグ」を、練習空母として改装、2011年夏頃より公試を開始し、2012年9月25日に就役させた。
- 本格的な空母艦隊建設の構想を固めており、将来的には通常動力型空母2隻と、原子力空母2隻(2020年頃)を整備する構想とされる。また、中国はF-35Bのようなステルス性とS/VTOL能力を備えたJ-18レッドイーグルを開発しているとされており、将来的には強襲揚陸艦や軽空母の建造も視野に入れていると言われている。[8][9]
- 国産空母の建造は性質の異なる2隻の平行建造が予定されている。2013年に遼寧大連造船廠にて1隻目の001A型(遼寧(001型)の改良型)が起工、2017年頃に進水の見通である。2隻目は蒸気式カタパルトを装備した完全自主設計となるため難航しており、江南造船所にて2015年3月に起工。
- トルコ
- 将来的にV/STOL機の運用を視野に入れた2万トン級の空母型多目的揚陸艦を建造する計画を明らかにしている。
- 対潜ヘリコプター3機を搭載・運用するはるな型(DDH)の代替として、ひゅうが型を就役させた。
- しらね型(DDH)の代替として、ひゅうが型をさらに拡大発展させた、いずも型を1番艦が就役、そして2番艦が艤装中である。
- フランス
- 現在も空母を核戦略の中心に置いており、空母・艦載機ともに核弾頭の装備・運用能力を維持している。
- 空母2隻体制を目標とするが、クレマンソー級退役の後は1隻のみ保有している。2隻目の空母新造に向けて計画を進めており、イギリスのクイーン・エリザベス級の略同型艦となる予定だったが、計画は中止となった。
- なお、フランス海軍は引続き空母による核戦略を重視しておりシャルル・ド・ゴールには現在も戦術核兵器が搭載されている。
- また、非空母型のフードル級を代替するため、ミストラル級の追加建造を進めている。
- シャルル・ド・ゴール(原子力空母)
- ミストラル級 - 3隻、1隻計画中
- ロシア
- 冷戦終結間際に就役したSTOBAR空母1隻を維持・運用している。2000年代初頭は極めて活動状況が鈍かったが、2007年頃から再び活発に外洋行動を繰り返すようになった。
- 2005年初頭、ロシア海軍総司令官ウラジーミル・クロエドフ上級大将は、2010年までに新空母設計案をまとめて建造開始、北方艦隊配備の1番艦を2016年竣工、続いて太平洋艦隊配備2番艦を建造開始するという内容の新空母建造計画を発表した。続いて、2006年2月に後任のロシア海軍総司令官であるウラジーミル・マソリン大将が将来、5、6隻以上の航空母艦を展開させる計画を発表。さらに2008年、ドミートリー・メドヴェージェフ大統領は2015年までに2隻以上の新規原子力空母建造計画に着手すると表明した。
- 一方、就役済のクズネツォフについては空母機能を強化する近代化改装が予定されており、加えてフランスよりミストラル級強襲揚陸艦2隻以上の調達が決定しているが、2014年ウクライナ騒乱の影響により、西側からの経済制裁により資金調達が難航、そしてミストラル級の受領中止(詳しくは該当項目)が発表されるなど事態は流動的である。
- エジプト
- ロシアへの引渡しが中止となった上記のミストラル級強襲揚陸艦2隻を購入。
脚注
注釈
- ^ 発艦時には次に発艦する機体が、着艦時には既に着艦した機体が待機するスペースが必要であるため、緊急時以外は同時着発艦は一般的には行われない。ただし最初期にアングルド・デッキを導入した英国空母では、試みられた事がある。
- ^ 珊瑚海海戦は初の空母艦載機同士による対決となったが、その際に双方が多くの搭乗員を失った。搭乗員喪失の原因を錬度の低さを理由としたが、このことは搭乗員養成のシステムの差であり、後の日本海軍にとって大きな問題となった。
- ^ ミッドウェー海戦では4隻の空母を失った日本海軍であるが、アメリカ側も1隻の空母を喪失。南太平洋海戦後の状態は、アメリカが稼動空母なしの状態で、日本は翔鶴以下計5隻という絶対優位にあった。しかし、日本側の航空戦力の内実は、度重なった戦闘で熟練した幹部搭乗員を多数失い、空母部隊が艦載機搭乗員の再建のために本土へ戻らなければならないという状態だった。このような出撃のたびに熟練搭乗員が消えていく状態がその後に大きく響いていく。航空機と優秀な搭乗員がいない限り、いかに航空母艦があろうと、有効な戦力とは成り得なかった。
- ^ マリアナ沖海戦で、数の上でも劣勢であった日本海軍はさまざまな要因の上、全面的な敗北を喫し、再建途中の搭乗員はほぼ壊滅することになった。
- ^ レイテ沖海戦での日本空母部隊は、もはや搭乗員を確保することすら困難であったのに対してアメリカ軍は大小空母17隻、護衛空母18隻の大航空戦力を本海戦に投入している。
- ^ この際、イギリス空母も米空母同様に特攻機の攻撃を受けている。これらの海戦で、日米の空母の防御についての欠陥とイギリス空母の防御面での優秀さが明らかになった。すなわち日米の空母は1発の爆弾の命中で飛行甲板が使用不可能になるが、イギリスの空母は特攻機の命中を受けた数時間後には、飛行甲板が使用可能となっており、装甲甲板の有用性が実証された。もっとも、その代償としてイギリス空母はその代表格であるイラストリアス級正規空母でさえ艦載数45機と、日米の同排水量の空母の半分というものであった。その一方、アメリカも珊瑚海海戦での空母ヨークタウンの損傷を数時間で復旧しているという実績があり、特攻機とは質量の違いもあり一概には言えないが、一般的にダメージコントロールを含めた総合的な防御力では日本軍よりも堅牢だったと評価されている。
出典
- ^ 読売新聞社編『大洋艦隊』p.59
- ^ 『読売新聞』2006.11.16
- ^ 森本敏『米軍再編と在日米軍』p.17
- ^ 「伊朗海军宣布建造航母计划引发国际社会关注」中国国際放送 10月2日
- ^ 「中国の空母出現…周辺国の海軍力強化に火がつく」中央日報、2011年10月04日
- ^ 「イランが米空母爆破の衝撃映像公開!? 実は激似の大型模型…対イスラム国で“共闘”しつつ示威行為に出る狙いは」産経WEST(2015年3月9配信、2017年1月12日閲覧)
- ^ “米、インド国産空母に技術協力 国防相会談”. 日本経済新聞. (2015年12月11日) 2015年12月12日閲覧。
- ^ Defence News 4月22日
- ^ 航空ファン (雑誌) 2011年11月号 p.60
参考文献
- 福井静夫『世界空母物語』 1993年3月 光人社
- 江畑謙介・堀元美共著『新・現代の軍艦』 1980年 原書房
- 江畑謙介『最新・アメリカの軍事力』 2002年 講談社現代新書
- 梅林宏道『在日米軍』 2002年 岩波新書
- 柿谷哲也『世界の空母』 2005年 イカロス出版
- 『世界の空母 ハンドブック』 世界の艦船別冊 海人社
- 『世界の艦船』 1991年4月号 「特集 アメリカの空母」 海人社
- 『世界の艦船』 1998年3月号 「特集 アメリカ空母の全容」 海人社
- 森本敏『米軍再編と在日米軍』2006年 文春新書
関連項目
- 各国の空母保有状況等
- その他の関連項目