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「根」の版間の差分

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{{Otheruses}}
{{Otheruses}}
'''根'''(ね、[[英語|英]]: root)は、[[葉]]や[[茎]]とともに、[[維管束植物]](広義の[[シダ植物]]と[[種子植物]])の体を構成する[[器官]]の1つである。ふつう地中にあって植物体を基質に固定し、地上部を支えるとともに (図1a)、[[水]]や[[栄養塩|無機養分]]を吸収する役割を担っている(→''[[#根の機能]]'')。
[[File:Exposed mango tree roots.jpg|thumb|300px|根の張った地中断面<br />(中央上が地上部、中央下が地中部、[[マンゴー]]の木)]]
'''根'''(ね)とは、[[植物]]の[[器官]]の1つである。地中・水中に伸び、水分や養分を吸収したり、呼吸したり、植物の体を支える機能を持つ。


{{multiple image
== 概説 ==
| total_width = 800
根は植物の体を基盤に固定し、支持し、またそこから成分を吸収する構造である。より厳密には、維管束植物の地下部分であり、[[茎]]から出て地中に伸びる棒状で[[放射相称]]の構造である。真の根は[[維管束植物]]の持つ独自の構造であり、それ以外の群ではみられない。
| align = center
| caption_align = left
| image1 = Wurzeln am Berghäuser Altrhein, Speyerer Auwald.JPG
| caption1 = '''1a'''. 土壌が流出して根が露出した[[河畔林]]の木{{efn2|name="根上り"|このような状態は、根上がりとよばれる<ref>{{cite book|author=藤重宣昭|year=2020|chapter=|editor=|title=農業用語の基礎知識: 営農・園芸のすべてがわかる必携用語集|publisher=誠文堂新光社|isbn=978-4416520796|page=310}}</ref>。}}
| image2 = Mycorhizae fungus (10333483254).jpg
| caption2 = '''1b'''. 多数の[[根毛]]が生じている根の先端部
| image3 = Lamium amplexicaule root close-up.JPG
| caption3 = '''1c'''. [[ホトケノザ]]([[シソ科]])の根: 多数の側根が生じている。
}}


根は[[先端成長]]を行い(基本的に先端部だけで[[細胞分裂]]を行う)、それを司る[[根端分裂組織]]は[[根冠]]とよばれる保護構造で覆われている(→''[[#根端]]'')。根は外側から[[表皮]]、[[皮層]]、[[中心柱]]からなり(→''[[#内部構造]]'')、先端付近の表皮からは[[根毛]]とよばれる細長い突起が生じ、吸水面積を広げ、根を土壌に密着させる(図1b)。中心柱内には吸収した水や無機栄養分を茎や葉に運ぶ[[木部]]と葉からの光合成産物が通る[[師部]]が放射状に配置しており(放射中心柱)、中心柱は外部との物質連絡を調節する[[内皮 (植物)|内皮]]で囲まれている。多くの維管束植物では、内部で形成された新たな根が外側を突き破って伸びることで内生的に側方分枝するが(図1c)、[[小葉植物]]では外生的に二又分枝する(→''[[#分枝]]'')。[[胚]]の時期([[種子]]の中など)に形成された幼根に由来する根を[[#定根|定根]]、二次的に茎から生じたものなどそれ以外の根を[[#不定根|不定根]]とよぶ(→''[[#定根と不定根]]'')。[[木本植物]](木)では、茎と同様に根も[[維管束形成層]]による[[肥大成長|二次成長]]を行う(→''[[#一次成長と二次成長]]'')。
根の基本的な構造は、少なくとも[[種子植物]]では分類群にかかわらず大差がない。これは主として地中器官であり、その必要とされる機能がほとんどの群で違いが見られないために、進化による変化の速度が遅いのだとされる。


根はふつう地中にあるが、地上部にあって呼吸や支持、付着、光合成など特殊な機能を担っていることがある(→''[[#さまざまな根]]'')。根はふつう[[菌根菌]]と共生して[[菌根]]を形成しており、[[マツタケ]]や[[セイヨウショウロ|トリュフ]]は菌根菌の例である(→''[[#他生物と共生した根]]'')。[[窒素固定]]を行う細菌が根に共生している例もある([[シロツメクサ]]など)。また、[[寄生植物]]は、根を使って他の植物に寄生している。根の中には、食用([[ダイコン]]、[[サツマイモ]]、[[ニンジン]]など)や薬用([[高麗人参]]や[[ハシリドコロ]]など)とされるものがある(→''[[#人間との関わり]]'')。
根は茎の下方向の延長としてある場合と、茎および根の側枝として出る場合がある。


上記のように根は基本的に[[維管束植物]]の[[器官]]を意味するが、[[コケ植物]]や[[藻類]]、固着動物など他の生物群がもつ類似の構造を便宜的に根とよぶこともある<ref name="Iwasa2013根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1053}}</ref>。以下では維管束植物の器官である根について解説する。
根の表面からは根毛(こんもう)と呼ばれる、ごく細かい毛状の突出物が出る。生えている草を引き抜いても見えにくいが、[[ガーゼ]]の上などで栽培するとよく見える。これは、根の表層の細胞から生じる突起で、水や栄養の吸収面積を大きくする役割がある。
{{-}}
== 構造 ==
[[維管束植物]]の[[生活環]]において主要な世代である[[胞子体]]([[染色体]]を2セットもち、[[減数分裂]]によって[[胞子]]を形成する体)は、[[茎]]と[[葉]]([[シュート (植物)|シュート]]としてまとめられることもある)および'''根'''からなる<ref name="Hara1994基本構造">{{cite book|author=原襄|year=1994|chapter=植物の基本構造|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=5–11}}</ref><ref name="キャンベル35" /><ref name="Gifford2002基本構造">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=シュートと根|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=32–33}}</ref>。例外的に、[[マツバラン]]類([[ハナヤスリ亜綱]])<ref name="Kato1997マツバラン">{{cite book|author=[[加藤雅啓]] (編)|year=1997|chapter=2-1 マツバラン綱|title=バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統|publisher=裳華房|pages=198–199|isbn=978-4-7853-5825-9}}</ref> や[[コイチヨウラン]]、[[オニノヤガラ]]([[ラン科]])など[[菌根菌]]に大きく依存している植物、[[サンショウモ]]属([[薄嚢シダ類]])<ref name="Gifford2002サンショウモ">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=サンショウモ目|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=321–325}}</ref> や[[ミジンコウキクサ]]([[サトイモ科]])など一部の[[浮水植物]]、[[エアープランツ]]である[[サルオガセモドキ]]([[パイナップル科]])などは少なくとも成熟した状態では根をもたない<ref name="熊沢1979根" />。


=== 根端 ===
なお、[[菌根菌]]との共生が行われる部分でもある。
[[ファイル:Root-tip-tag.png|thumb|200px|'''2'''. 根端の縦断面: 1 = [[根端分裂組織]]、2, 3 = [[根冠]]、4 = 剥離した根冠細胞(境界細胞)、5 = 前形成層]]
根はふつう細長い軸状の構造であり、[[先端成長]]する<ref name="Ne1998根">{{cite book|author=河野恭廣|year=1998|chapter=根の基本的構造|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=1–2}}</ref><ref name="Hara1994根">{{cite book|author=原襄|year=1994|chapter=根|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=12–16}}</ref>。根の先端部分は'''根端''' (root apex) とよばれる<ref name="Hara1994根" /><ref name="Iwasa2013根端">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=根端|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|pages=502–503}}</ref>。根端の中には'''[[根端分裂組織]]''' (root apical meristem, RAM) とよばれる[[分裂組織]]が存在し、活発な[[細胞分裂]]を行っている<ref name="キャンベル35">{{cite book|author=池内昌彦, [[伊藤元己]], 箸本春樹 & 道上達男 (監訳)|year=2018|chapter=35 維管束植物の構造、生長、発生|editor=|title=キャンベル生物学 原書11版|publisher=丸善出版|isbn=978-4621302767|pages=869–897}}</ref><ref name="Hara1994根端" /><ref name="Iwasa2013RAM">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=根端分裂組織|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=503}}</ref>(図2)。[[茎]]の[[シュート頂分裂組織]]とは異なり、根端分裂組織の先端側は'''[[根冠]]''' (root cap) とよばれる多細胞層の柔組織によって覆われている<ref name="Shimizu2001根" /><ref name="キャンベル35" /><ref name="Hara1994根の構造">{{cite book|author=原襄|year=1994|chapter=根の構造|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=47–55}}</ref>(図2)。根端分裂組織は先端側に根冠を、基部側に新たな根の組織を作り出して成長していく。


根は土壌中を伸びていくため、先端表面にある[[根冠]]の細胞は次第にはがれ落ちていくが(ふつう1個の根冠細胞の寿命は1〜9日ほど)、根端分裂組織によって内側から順次新たな根冠細胞が供給され、根冠には一定量の細胞が維持されている<ref name="Shimizu2001根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Rudall1997根">{{cite book|author=ポーラ・ルダル (著) 鈴木三男 & 田川裕美 (翻訳)|year=1997|chapter=茎の肥大成長|editor=|title=植物解剖学入門 ―植物体の構造とその形成―|publisher=八坂書房|isbn=978-4896946963|pages=55–69}}</ref><ref name="Ne1998根冠" />(図2)。根冠の細胞は[[ムシゲル]](粘質ゲル<ref name="Hara1994根の構造" />、mucigel)を分泌し、根端を保護すると共に根を伸長しやすくする<ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Ne1998根冠">{{cite book|author=飯嶋盛雄|year=1998|chapter=根冠|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=3–5}}</ref>。根はふつう正の重力屈性(屈地性; 下方へ伸びる性質)を示すが、根冠中央基部付近の細胞([[平衡細胞]])内で[[アミロプラスト]]([[光合成]]能を欠き、[[デンプン]]粒を多く含む[[色素体]])が沈降することが重力方向の感知に関わっていると考えられている<ref name="キャンベル重力">{{cite book|author=池内昌彦, 伊藤元己, 箸本春樹 & 道上達男 (監訳)|year=2018|chapter=重力|editor=|title=キャンベル生物学 原書11版|publisher=丸善出版|isbn=978-4621302767|page=983}}</ref>。
== 茎との区別 ==
茎は内部に放射相性に配列した維管束を持ち、先端成長を行う先端を持つ点で、根とよく似ている。さらに以下のような類似点もあげられる。
* 種によっては[[形成層]]による[[肥大成長]](二次成長)がおきる。
* さらに表面に。
* 一次組織の維管束は[[木部]]と[[師部]]が独立しており、交互に並ぶ(これを[[放射中心柱]]という)。
* 根の成長は下に向かう(正の屈地性と負の[[光屈性|屈光性]]がある)。


[[根端分裂組織]]からは基部側へも新たな細胞が付加され、これが拡大伸長し、それに伴い組織分化していくことで根が伸長していく<ref name="キャンベル35" /><ref name="Ne1998RAM">{{cite book|author=森田茂紀|year=1998|chapter=根端分裂組織|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=5–6}}</ref><ref name="Ne1998根の成長">{{cite book|author=谷本英一|year=1998|chapter=根の生長と細胞分裂|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=30–33}}</ref>。根端分裂組織から基部側へつくられた組織は、外側から前表皮 (protoderm)、基本分裂組織 (ground meristem)、前形成層 (procambium) とよばれ、これがそれぞれ表皮、皮層、中心柱へと分化する<ref name="キャンベル35" /><ref name="Hara1994根端">{{cite book|author=原襄|year=1994|chapter=根端|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=129–134}}</ref><ref name="Iwasa2013RAM" />。構成する細胞の状態に応じて、根は先端側から大まかに(重なりながら)分裂帯(細胞分裂帯<ref name="キャンベル35" />、分裂領域 meristematic zone<ref name="テイツ2017発生">{{cite book|author=L. テイツ, E. ザイガー, I.M. モーラー & A. マーフィー (編)|year=2017|chapter=根の成長と分化|editor=|title=植物生理学・発生学 原著第6版|publisher=講談社|isbn=978-4061538962|pages=544–549}}</ref>)、伸長帯(伸長領域 elongation zone<ref name="テイツ2017発生" />)、成熟帯(分化帯<ref name="キャンベル35" />、分化領域 differentiation zone<ref name="テイツ2017発生" />)に分けられる<ref name="根1998双子葉">{{cite book|author=河合義隆|year=1998|chapter=双子葉植物における根の始原体の形成|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=9784254420210|pages=24–26}}</ref>。根端分裂組織を含む部分が分裂帯であり、細胞数が増加していく。ふつう根端から数 mm のところが伸長帯であり、細胞が拡大伸長している<ref name="キャンベル35" />。根の伸長はこの部分で最も活発であり、細胞はときに10倍以上に伸長する。細胞はこの部分で分化し始め、やがて成熟帯において細胞分化が完了する<ref name="キャンベル35" />。
なお、[[ヒカゲノカズラ植物門]]では根とも茎ともつかない担根体という構造があり、根はこの上から生じる。さらに、[[マツバラン]]では地上茎と地下茎がある他は、根を一切持たない。
{{-}}
=== 内部構造 ===
根は、基本的に外側から[[表皮]]、[[皮層]]、[[中心柱]]([[維管束]]柱<ref name="キャンベル35" />)からなる<ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Shimizu2001根内部" />(図3a, b)。ただし活発な二次成長を行った根ではほとんどが二次維管束からなり、表面は[[周皮]]で覆われている([[#一次成長と二次成長|下記]])。

{{Anchors|表皮}}根の表面はふつう1層の細胞からなる'''[[表皮]]'''(epidermis; 根の表皮は特に rhizodermis とも表記される<ref name="Rudall2007" />)によって囲まれている<ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Rudall1997根" /><ref name="Shimizu2001根内部" />(図3a, b)。地上部の[[シュート (植物)|シュート]](茎や葉)とは異なり、地中の根の表皮では[[クチクラ層]]があまり発達しておらず(そのため吸水できる)、また[[気孔]]も存在しない<ref name="Hara1994表皮">{{cite book|author=原襄|year=1994|chapter=表皮|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=75–76}}</ref>。根の表皮は、[[根端分裂組織]]からやや離れたところで'''[[根毛]]''' (root hair) を形成する<ref name="Hara1994根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Ne1998根毛">{{cite book|author=森田茂紀|year=1998|chapter=根毛|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=7–8}}</ref><ref name="Iwasa2013根毛">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=根毛|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=506}}</ref>。[[シロイヌナズナ]]([[アブラナ科]])などでは、不等分裂によって形成された小型の根毛形成細胞(原根毛、trichoblast)が伸長して根毛となる<ref name="Shimizu2001根" /><ref name="Rudall1997根" /><ref name="Rudall2007" /><ref name="Ne1998根毛" />。根毛は直径 10 µm ほどであり、ふつう短命であるが、半年以上残存するものもある(宿存根毛)<ref name="Shimizu2001根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Ne1998根毛" />。根毛の存在は、土壌粒子との密着や吸水する根の表面積の増大に寄与すると考えられている<ref name="Hara1994根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Ne1998根毛" />。

{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Monocot_Root_Acorus_(35399384203).jpg
| caption1 = '''3a'''. [[ショウブ属]]([[ショウブ科]])の根の横断面: 最外部が[[表皮]]で覆われ、中央には[[内皮 (植物)|内皮]]で囲まれた[[中心柱]]がある。皮層には多数の間隙が見られる。
| image2 = Monocot_Root_Endodermis_in_Smilax_(35615771550).jpg
| caption2 = '''3b'''. [[シオデ属]]([[サルトリイバラ科]])の根の横断面: 最外層に[[表皮]]があり、[[中心柱]]は[[細胞壁]]が肥厚した内皮で囲まれている。[[木部]]は多原型、中央には大きな髄がある。
}}

{{Anchors|皮層}}表皮の内側には、'''皮層''' (cortex) が存在する<ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Shimizu2001根内部">{{cite book|author=清水建美|year=2001|chapter=根の内部構造|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=246–249}}</ref><ref name="Ne1998皮層">{{cite book|author=森田茂紀|year=1998|chapter=皮層|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=8–10}}</ref>。皮層は主に柔細胞からなり、[[デンプン]]などの養分貯蔵に重要な役割を果たすことがある。また根の皮層には大きな細胞間隙が存在することが多く(特に水生植物など)、根の呼吸におけるガス交換に有用であると考えられている<ref name="Ne1998根" /><ref name="Hara1994根端" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Ne1998通気組織">{{cite book|author=巽二郎|year=1998|chapter=通気|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=14–16}}</ref>(図3a)。皮層の最外層(表皮のすぐ内側)にある1〜数層は、'''下皮''' (hypodermis) とよばれる<ref name="Ne1998根" />。下皮はときに[[スベリン]]や[[リグニン]]を沈着して細胞壁が厚化し、また[[カスパリー線]]が存在することがあり、このような下皮は'''外皮''' (exodermis) とよばれる<ref name="Ne1998根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Shimizu2001根内部" /><ref name="Ne1998下皮">{{cite book|author=山内章|year=1998|chapter=下皮|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=10–12}}</ref>。外皮は、はがれ落ちた表皮に代わって根の保護構造となる。一方、皮層の最内層には、1層の細胞層からなる'''[[内皮 (植物)|内皮]]''' (endodermis) が存在する<ref name="Ne1998根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Ne1998内皮">{{cite book|author=唐原一郎|year=1998|chapter=内皮とカスパリー線|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=12–14}}</ref>(図3b–d)。内皮には[[カスパリー線]]が存在し(細胞壁を通した物質輸送を遮断し、原形質を通した輸送のみを可能にしている)、中心柱への物質の出入りを調節している。古くなった内皮ではしばしばほとんどの細胞壁が木化し(中心柱からの水の漏出を防ぐ)、肥厚していない一部の内皮細胞(通過細胞 passage cell)を通して通水する<ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Rudall1997根" /><ref name="Rudall2007" />(図3d)。

{{multiple image
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| image1 = Herbaceous_Dicot_Root_Closed_Vascular_Bundle_in_Mature_Ranunculus_(35613584780).jpg
| caption1 = '''3c'''. [[キンポウゲ属]]([[キンポウゲ科]])の根の横断面中心部: 三原型の[[木部]](細胞壁が厚く赤く染色されている)とその腕の間にある師部からなる中心柱が内皮で囲まれている。
| image2 = Tertiary Endodermis Iris florentina.png
| caption2 = '''3d'''. [[ニオイアヤメ]]([[アヤメ科]])の根の横断面中心部: 1 = 通過細胞、2 = [[皮層]]、3 = [[内皮 (植物)|内皮]]、4 = [[内鞘]]、5 = [[師部]]、6 = [[木部]]
}}

{{Anchors|中心柱}}内皮より内側の部分は、'''[[中心柱]]''' (stele, central cylinder, central column) とよばれ、主に[[維管束]]からなる<ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Shimizu2001根内部" /><ref name="Beck2005PrimaryRoot">{{cite book|author=Beck, C. B.|year=2005|chapter=Primary tissues and tissue regions|editor=|title=An Introduction to Plant Structure and Development|publisher=Cambridge University Press|isbn=978-0521837408|pages=281–289}}</ref>。中心柱の周縁部には1〜数層の柔細胞からなる'''内鞘''' (pericycle) があり(図3c, d)、新たな側根はふつうここから(または内皮から)生じる<ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Shimizu2001根内部" /><ref name="Rudall2007" />([[#分枝|下記]])。根の中心柱は'''放射中心柱''' (actinostele) であり、中央に位置する[[木部]]([[木部#一次木部|一次木部]])は横断面で放射状に突出部(腕、ray)をもち、腕の間に[[師部]]([[師部#一次師部|一次師部]])が位置する<ref name="Ne1998根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Rudall2007" />(図3c)。木部の中心が髄になり、木部の腕がそれぞれ独立していることもある<ref name="Hara1994根の構造" />(図3b)。木部はふつう[[木部#一次木部|外原型]](外側から求心的に形成される)であるが<ref name="Ne1998根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Shimizu2001根内部" />、[[小葉植物]]の根では木部は[[木部#一次木部|内原型]](内側から遠心的に形成される)である<ref name="Simpson2006Lyco">{{cite book|author=Simpson, M.|year=2006|chapter=|editor=|title=Plant Systematics|publisher=Academic Press|isbn=978-0126444605|page=78}}</ref>{{efn2|[[小葉植物]]の根の木部も外原型とする記述もある<ref name="長谷部2020">{{cite book|author=長谷部光泰|year=2020|chapter=|editor=|title=陸上植物の形態と進化|publisher=裳華房|isbn=978-4785358716|page=132}}</ref>。}}。

中心柱における[[木部]]の突出部(腕)の数([[木部#一次木部|原生木部]]の数)は同一個体内でも変化することがあるが、ふつう種によってほぼ一定である<ref name="Rudall2007" />。根の木部は、原生木部の数に応じて二原型 (diarch)、三原型 (triarch; 図3c)、四原型 (tetrarch)、五原型 (pentarch) とよばれ、また6個以上の場合は多原型 (polyarch) とよばれる([[単子葉類]]に多い; 図3a, b)<ref name="Ne1998根" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Rudall1997根" /><ref name="Shimizu2001根内部" />。[[ミズニラ属]]([[小葉植物]])の根の中心柱は特異であり、一原型 (monoarch) である([[古生代]]の[[リンボク (化石植物)|リンボク]]類と共通)<ref name="Shimizu2001根内部" /><ref name="Gifford2002ミズニラ">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=168–169}}</ref>。
{{-}}
=== 分枝 ===
[[ファイル:Salix root L.jpg|thumb|300px|'''4a'''. [[ヤナギ]]([[ヤナギ科]])の根の側根伸長部横断面: 側根 (E) は[[中心柱]] (C) から内生的に生じ、皮層 (B) や表皮 (A) を突き破って伸長する。D = 内皮、右下スケールバーは 0.2 mm]]
根は、ふつう根端から比較的離れた場所で、'''側根''' (lateral root; 分枝根 branch root<ref name="Ne1998分枝">{{cite book|author=山内章|year=1998|chapter=根の分枝|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=33–35}}</ref>) を形成して'''側方分枝'''(中軸分枝)する<ref name="Shimizu2001根" /><ref name="Hara1994根端" /><ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Rudall1997根" />。根の内部の[[中心柱]]の最外層にある内鞘(またはその外側の[[内皮 (植物)|内皮]])から新たな側根の原基が生じ、これが皮層や表皮を突き破って伸長する(図4a)。すなわち根の分枝は'''内生的''' (endogenous; 新たな根が内部に形成される) であり、茎の分枝が外生的 (exogenous; 新たな茎が表面から形成される) であるのとは対照的である<ref name="熊沢1979根" /><ref name="Rudall1997根" />。

根はしばしば分枝を繰り返す。主となる根から生じた側根は一次側根 (primary lateral root)、そこから生じた側根は二次側根 (secondary lateral root) のように順によばれることがある<ref name="Shimizu2001根の分類" />。

側根はふつう根の[[中心柱]]に対して特定の位置に由来し、特に[[木部#一次木部|原生木部]]に面する部分(横断面で木部が外側へ突出している部分)から生じることが多いが、他にも[[師部#一次師部|原生師部]]に面する部分や原生木部と原生師部の間から生じる例も知られている<ref name="Hara1994根の構造" /><ref name="Rudall1997根" />。そのため、側根は縦列(または螺生)して生じることが多く<ref name="熊沢1979根" />、その列数から中心柱の構造が推定できる。側根が2列である[[ダイコン]]([[アブラナ科]])は二原型木部、側根が4列である[[ニンジン]]([[セリ科]])は四原型木部、側根が5列である[[サツマイモ]]([[ヒルガオ科]])は五原型木部をもつ<ref name="Hara1994根の構造" />。

[[ファイル:Lycopodium roots.png|thumb|300px|'''4b'''. [[ヒカゲノカズラ]]([[小葉植物]])の根(c, dは連続した不等二又分枝による分枝を含む)]]
上記のように根の分枝はふつう内生的であり側方分枝であるが、例外的に[[小葉植物]]の根はその[[茎]]と同様に、[[根端分裂組織]]が2分することによって'''二又分枝'''する<ref name="Kato1997根">{{cite book|author=[[加藤雅啓]] (編)|year=1997|chapter=7-2-3 根|title=バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統|publisher=裳華房|pages=83–84|isbn=978-4-7853-5825-9}}</ref><ref name="Ne1998原始的">{{cite book|author=[[加藤雅啓]]|year=1998|chapter=原始的維管束植物の体制と根の起源|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=152–154}}</ref><ref name="Gifford2002ヒカゲノカズラ">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=ヒカゲノカズラ属 器官学|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|pages=116–119}}</ref>(図4b)。つまり小葉植物の根の分枝は'''外生的'''(新たな根が表面から形成される)である。また小葉植物は、根の木部が内原型である点でも他の維管束植物とは異なっている([[#中心柱|上記]])。このように小葉植物とそれ以外の維管束植物([[大葉植物]]、真葉植物)の根は大きく異なる特徴を示し、一般的にこれらの根は異なる起源をもつものと考えられている<ref name="Kato1997根" /><ref name="Ne1998原始的" />。ただし小葉植物の根も、[[根冠]]や[[根毛]]をもつ点や、[[茎]]から内生発生する点では大葉植物の根と共通している。

=== 根系 ===
ある植物において地下部または根全体、あるいは1個の根とそこから生じている根を合わせたものは、'''根系'''(こんけい、root system)とよばれる<ref name="Iwasa2013根系">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=根系|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=501}}</ref><ref name="熊沢1979根">{{cite book|author=熊沢正夫|year=1979|chapter=根の通性|editor=|title=植物器官学|publisher=裳華房|isbn=978-4785358068|pages=304−312}}</ref><ref name="Ne1998根系の形態">{{cite book|author=中元朋実|year=1998|chapter=根系の形態|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|page=76}}</ref><ref name="Hara1994基本構造" />。地下部全体とする場合、根系は根と共に[[地下茎]]なども含む<ref name="Shimizu2001根">{{cite book|author=清水建美|year=2001|chapter=根|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=233–236}}</ref>。この場合、維管束植物の植物体は、地上部のシュート系と地下部の根系からなる<ref name="Iwasa2013シュート系">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=シュート系|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|pages=643–644}}</ref>。

=== 太根と細根 ===
太さに応じて根を太根と細根に類別することがある<ref name="Shimizu2001根の分類" />。[[樹木]]では、一部の根が太く肥大し、それに細い根をまじえている。一方、[[イネ科]]の[[草本]]などでは、全ての根が肥大せず同様な太さになっている。このような中で、太く肥大した根を'''太根''' (woody root, thick root)、太根を主とする根系は太根型根系 (woody root system) とよぶことがある。一方、細いままである根を'''細根''' (fine root, rootlet)、細根を主とする根系は細根型根系 (fine root system) とよぶことがある。
{{-}}

== 定根と不定根 ==
{{multiple image
| total_width = 300
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Arbuscular_mycorrhizal_root_tuber.GIF
| caption1 = '''5a'''. 主根型根系(紫色は[[菌根菌]]{{efn2|name="菌根菌"|[[菌根菌]]は主根型根系に特徴的というわけではなく、ひげ根型根系にもふつうに見られる。}})
| image2 = Homorhizal_root_system.GIF
| caption2 = '''5b'''. ひげ根型根系.
}}
[[ファイル:Adventitious roots on Odontonema aka Firespike.jpg|thumb|300px|'''5c'''. 茎の節から生じた不定根(節根)]]
{{Anchors|定根}}維管束植物において、根は[[胚]]の段階([[種子]]の中など)で'''幼根''' (radicle) として形成される<ref name="Hara1994根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" />。これが成長して'''一次根'''<ref name="学術用語集一次根">{{cite book|author=日本植物学会|year=1990|chapter=|editor=|title=文部省 学術用語集 植物学編 (増訂版)|publisher=丸善|isbn=978-4621035344|page=533}}</ref>(初生根<ref name="Shimizu2001根の分類" />、primary root)となり、発達したものは'''主根'''<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013主根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=主根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=633}}</ref>{{efn2|name="主根"|広義には、側根が生じている母軸となる根(定根か不定根かを問わない)を主根とよぶことがある<ref name="Iwasa2013主根" />。}} (main root、直根<ref name="Hara1994根" /> taproot) になる。主根からは側根が生じる。このように幼根に由来する根、およびそこから生じた根を'''定根'''とよぶ<ref name="Shimizu2001根" />。定根からなる根系は、'''一次根系''' (primary root system) とよばれ<ref name="Shimizu2001根" />、また'''主根型根系'''<ref name="Shimizu2001根の分類" />(主根系<ref name="学術用語集主根系">{{cite book|author=日本植物学会|year=1990|chapter=|editor=|title=文部省 学術用語集 植物学編 (増訂版)|publisher=丸善|isbn=978-4621035344|page=587}}</ref>、直根系<ref name="Hara1994基本構造" />、taproot system)ともよばれる(図5a)。

{{Anchors|不定根}}定根に対して、幼根以外に由来する根は'''不定根''' (adventitious root) とよばれる<ref name="Hara1994根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013不定根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=不定根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1207}}</ref>。不定根は、ふつう[[茎]]の維管束周辺から内生的に生じるが、まれに外生的に生じる例も知られている(例:[[ベゴニア]]の葉挿し)<ref name="Rudall1997根" /><ref name="Bowes2008Root" />。不定根は茎の節から生じることが多く、このような根は節根 (nodal root) ともよばれる<ref name="Shimizu2001根の分類" />(図5c)。そのため、[[挿し木]]にはふつう節を残した茎が用いられる<ref name="Rudall2007" />。また定根と同様、不定根も側根を生じて側方分枝する([[小葉植物]]以外; [[#分枝|上記参照]])。[[シダ植物]](広義)や[[単子葉植物]]では、ふつうほとんどの根が不定根からなる。このような根系は'''二次根系''' (secondary root system) または'''不定根系''' (adventitious root system) とよばれる<ref name="Shimizu2001根" />。また多数まとまって生じている一様な不定根は'''ひげ根''' (fibrous root) とよばれ<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013ひげ根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1139}}</ref>、ひげ根からなる根系は'''ひげ根型根系'''<ref name="Shimizu2001根の分類" />(ひげ根系<ref name="Hara1994基本構造" />、fibrous root system)とよばれる(図5b)。

[[種子植物]]において、[[種子]]から生じる根は'''種子根''' (seminal root) とよばれる<ref name="Hara1994根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" />。種子根はふつう幼根であるが、既に幼根から側根(種子側根)が生じている例もある<ref name="山内1993">{{cite journal|author=山内章|year=1993|title=根の種類 (1)|journal=根の研究|volume=2|pages=20-23|doi=10.3117/rootres.2.20}}</ref>。またイネ科などでは、[[胚軸]]から生じた不定根が種子根となることもある(種子不定根 seminal adventitious root)<ref name="山内1993" />。
{{-}}
== 一次成長と二次成長 ==
[[ファイル:Gymnosperm_Root_Pinus_(36128249361).jpg|thumb|300px|'''6a'''. [[マツ属]]([[マツ科]])の根の横断面: 中央2/3ほどは[[木部#二次木部|二次木部]]からなり、その周囲は[[師部#二次師部|二次師部]]と皮層、周縁部はコルク組織で覆われている。]]
[[ファイル:Woody_Dicot_Root_Quercus_(36248756335).jpg|thumb|300px|'''6b'''. [[ナラ]]([[ブナ科]])の根の横断面: 大部分は放射組織を含む[[木部#二次木部|二次木部]]からなり、周縁部はコルク組織で覆われている。]]
[[#根端|上記]]のように、根は'''頂端分裂組織''' (apical meristem) である[[根端分裂組織]]における細胞分裂とそれに続く細胞の拡大伸長によって成長する<ref name="キャンベル35" /><ref name="Ne1998RAM" /><ref name="Ne1998根の成長" />。この成長は'''一次成長''' (primary growth) とよばれ、基本的に長さを増す成長である<ref name="Iwasa2013分裂組織">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=分裂組織|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1256}}</ref>。一方、一次成長がほぼ完了した部位において新たな分裂組織が生じることがあり、これによる成長は'''二次成長''' (secondary growth) とよばれる<ref name="Iwasa2013分裂組織" />。二次成長は基本的に太さを増す成長であり、これを司る分裂組織は'''側部分裂組織''' (lateral meristem) である<ref name="Iwasa2013分裂組織" />。側部分裂組織には、維管束形成層やコルク形成層がある。

[[単子葉植物]]などを除き、多くの種子植物の根は二次成長を行う<ref name="Ne1998根" /><ref name="Rudall1997根" /><ref name="Ne1998根の2次肥大生長">{{cite book|author=田中典幸|year=1998|chapter=根の2次肥大生長|editor=根の事典編集委員会 (編)|title=根の事典|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254420210|pages=36–37}}</ref>。[[木部#一次木部|一次木部]]と[[師部#一次師部|一次師部]]の間に(木部を取り囲むように)'''[[維管束形成層]]''' (vascular cambium) がつくられ、内側に[[木部#二次木部|二次木部]]を、外側に[[師部#二次師部|二次師部]]を形成していく<ref name="Ne1998根" /><ref name="Hara1994形成層">{{cite book|author=原襄|year=1994|chapter=形成層と二次組織|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=134–139}}</ref>。根はふつう放射中心柱をもつため、維管束形成層の横断面は最初は星状だが、二次成長によってやがて円形になる<ref name="Rudall1997根" /><ref name="Ne1998根の2次肥大生長" /><ref name="Hara1994形成層" />。[[木本植物]]の根では、茎と同様に二次木部は主に仮道管や道管要素、木部繊維など木化した細胞からなるが(図6a, b)、[[サツマイモ]]([[ヒルガオ科]])などの根では多量の柔細胞が形成される<ref name="熊沢1979異形根" />。

茎の二次成長と同様、活発な二次成長によって直径が増すと、表皮、さらに皮層は裂けて剥がれることがある。この際には、皮層や内鞘などに1層の細胞からなる側部分裂組織である'''コルク形成層''' (phellogen) が形成される<ref name="Ne1998根" /><ref name="Rudall2007" /><ref name="Hara1994コルク">{{cite book|author=原襄|year=1994|chapter=コルク形成層と周皮|editor=|title=植物形態学|publisher=朝倉書店|isbn=978-4254170863|pages=139–141}}</ref><ref name="Iwasa2013コルク">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=コルク形成層|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=493}}</ref>。コルク形成層は外側に'''コルク組織''' (phellem)、内側に'''コルク皮層''' (phelloderm) を形成し、これらは合わせて'''[[周皮]]''' (periderm) とよばれる。コルク組織の細胞は原形質を欠き、[[細胞壁]]に[[スベリン]]、ときに[[リグニン]]が沈着して根の表面を保護している(図6a, b)。
{{-}}
== 根の機能 ==
[[ファイル:Exposed mango tree roots.jpg|thumb|right|300px|'''7'''. [[マンゴー]]([[ウルシ科]])の木の地下部断面: 発達した根が張り巡らされ、地上部を支えている。]]
根はふつう地中にあって植物体を固定し、地上部を支えるとともに(図7)、[[水]]やそこに含まれる窒素塩([[硝酸塩]]など)や[[カリウム]]、[[カルシウム]]、[[リン酸]]などの[[栄養塩|無機養分]]を吸収し、[[維管束]]の[[木部]]を通して植物体全体に送る([[道管#木部輸送|木部輸送]])。根は分枝することで表面積を広げ、このような水や無機養分を吸収している。[[ライムギ]]([[イネ科]])の場合、根の表面積は地上部のシュート系(茎と葉)の表面積の40倍に達すると試算されている<ref name="Bowes2008Root">{{cite book|author=Bowes, B. & Mauseth, J. D.|year=2008|chapter=The Root|editor=|title=Plant Structure: A Colour Guide 2nd Edition|publisher=Jones & Bartlett Learning|isbn=978-0763763862|pages=185–189}}</ref>。根は効率的な無機栄養吸収のための応答を示し、例えば硝酸塩が多い場所では根はよく分枝し、またその細胞は効率よく硝酸塩を吸収できるような遺伝子発現を行う<ref name="キャンベル36">{{cite book|author=池内昌彦, 伊藤元己, 箸本春樹 & 道上達男 (監訳)|year=2018|chapter=36 維管束植物の栄養吸収と輸送|editor=|title=キャンベル生物学 原書11版|publisher=丸善出版|isbn=978-4621302767|pages=899–920}}</ref>。[[根毛]]や[[菌根菌]]の存在は根の表面積を広げ、根の吸収効率を高めている。

土壌粒子はふつう負に帯電しているため、[[硝酸]]、[[リン酸]]、[[硫酸]]などの陰イオンは土壌粒子には結合しない。そのためこれらの[[栄養塩|無機栄養]]は容易に土壌溶液に溶脱し、根によって吸収される<ref name="キャンベル37">{{cite book|author=池内昌彦, 伊藤元己, 箸本春樹 & 道上達男 (監訳)|year=2018|chapter=37 土壌と植物の栄養|editor=|title=キャンベル生物学 原書11版|publisher=丸善出版|isbn=978-4621302767|pages=921–939}}</ref>。一方、[[カリウム]]、[[カルシウム]]、[[マグネシウム]]など陽イオンは土壌粒子に結合しており、容易には溶脱しない。根は呼吸によって土壌中に二酸化炭素を放出し、土壌溶液を酸性化する。その結果[[水素イオン]](H<sup>+</sup>)が供給される。この水素イオンが土壌粒子を中和、結合していた陽イオンが土壌溶液に溶脱し、根が吸収する。この過程は陽イオン交換 (cation exchange) とよばれる<ref name="キャンベル37" />。

根の表面で吸収された無機養分を含む水溶液は、[[細胞壁]]内や細胞間隙など原形質外の通路([[アポプラスト]]経路)や[[原形質]]を通る通路([[シンプラスト]]経路)を通って[[維管束]]の[[木部]]へ輸送される<ref name="キャンベル36" />。根では、維管束は'''[[内皮 (植物)|内皮]]'''に囲まれているため、吸収された水溶液が木部に輸送される際には必ず内皮を通る。内皮細胞どうしの接着部には疎水性物質である[[スベリン]]が蓄積して[[カスパリー線]]が形成され、さらに細胞膜がカスパリー線に密着している<ref name="Ne1998内皮" /><ref name="Ne1998皮層" /><ref name="キャンベル36" />。そのため、アポプラスト経路で輸送されてきた水溶液も、内皮では細胞壁を通ることはできず、必ず内皮細胞の原形質を通らなければならない。内皮細胞は木部へ送られる物質の選別を行い、必要な物質を通し、不必要な物質は透過しない<ref name="キャンベル36" />。また、内皮細胞は中心柱から外側へ物質が逆流することを防いでいる<ref name="キャンベル36" />。さらに、皮層の最外層にカスパリー線をもつ外皮が形成されることもある([[#皮層|上記]])。

根は[[植物ホルモン]]である[[サイトカイニン]]の主な生成場所であり、他にも[[オーキシン]]や[[ジベレリン]]、[[ストリゴラクトン]]などの植物ホルモンを生成する<ref name="キャンベル39" />。サイトカイニンは[[細胞分裂]]を制御し、オーキシンは[[#分枝|側根]]や[[#不定根|不定根]]の形成を促進する<ref name="キャンベル39" />。またオーキシンは高濃度では細胞伸長を抑制するが、この伸長抑制が根の重力屈性に関わっていると考えられている<ref name="キャンベル39" />。[[エチレン]]によって根や根毛形成が促進され、[[ブラシノステロイド]]は低濃度で根の成長促進、高濃度で根の成長阻害をする<ref name="キャンベル39" />。ストリゴラクトンは[[菌根菌]]を根に誘因するが、ストリゴラクトンを感知して宿主の根に寄生する寄生植物も知られている<ref name="米山2010">{{cite journal|author=米山弘一, 謝肖男 & 米山香織|year=2010|title=根寄生植物の発芽シグナルとしてのストリゴラクトン|journal=植物の生長調節|volume=45|pages=83-94|doi=10.18978/jscrp.45.2_83}}</ref>。


== さまざまな根 ==
== さまざまな根 ==
根はふつう地中にあり、植物体の固定と水・[[無機塩|無機養分]]の吸収という機能をもつ。しかし地中部にあってもこれ以外の機能をもつ根も存在する。また地中ではなく地上に伸びて機能する根もある(気根)。さらに、根はしばしば他生物([[菌根菌]]、[[根粒菌]]、宿主植物など)と密接な共生関係を結んでいる。
{{右|<gallery widths="120px" heights="180px">
File:主根と側根.png|主根と側根の位置関係
File:Roots_of_a_hydroponically-grown_plant.jpg|[[水耕栽培]]した植物の根
</gallery>}}
; 主根・側根
: [[双子葉植物]]で普通の根。主になる太い根を中心とし、細い側根が根の付け根から、または主根から生える。
; ひげ根
: [[単子葉植物]]に見られる根。主根を持たず、何本もの細い根を張る。


=== 地中根 ===
地中にある根は地中根 (terrestrial root) と総称される<ref name="Shimizu2001根の分類" />。

{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Dicotyledoneae Asteraceae herb - root system, primary root becomes tap root and lateral roots.JPG
| caption1 = '''8a'''. [[キク科]]草本の普通根(定根)
| image2 = Adventitious_roots_on_a_Rubus_fruticosus_%27hoop%27_terminus._Barrmill_Park,_Scotland.jpg
| caption2 = '''8b'''. [[ブラックベリー]]([[バラ科]])の普通根(不定根)
}}
*{{Anchors|普通根}}'''普通根''' (ordinary root)<ref name="Shimizu2001根の分類">{{cite book|author=清水建美|year=2001|chapter=根の分類|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=236–246}}</ref>
*:形態的にも機能的にもふつうの根のこと。[[#定根|定根]]の場合も[[#不定根|不定根]]の場合もある(図8a, b)。
{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Tapioca - മരച്ചീനി 10.JPG
| caption1 = '''8c'''. [[キャッサバ]] ([[トウダイグサ科]]) の塊根
| image2 = Ipomoea_batatasL_ja01.jpg
| caption2 = '''8d'''. [[サツマイモ]] ([[ヒルガオ科]]) の塊根
}}
{{multiple image
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| image1 = Daikon.Japan.jpg
| caption1 = '''8e'''. [[ダイコン]]([[アブラナ科]])の多肉根(青首の部分は胚軸)
| image2 = Red_beet_(Beta_vulgaris_L.).jpg
| caption2 = '''8f'''. [[ビート (植物)|ビート]]([[ヒユ科]])の多肉根
}}
*{{Anchors|貯蔵根}}'''貯蔵根''' (storage root)<ref name="Hara1994根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="熊沢1979異形根" />
*:肥大して水や養分を貯蔵する特殊化した根のこと。貯蔵された栄養は、一定期間の後に、または母体から離れて分散された後に新たな地上部を生じることに用いられる。以下では塊根と多肉根に類別したが<ref name="Shimizu2001根の分類" />、その区分はかならずしも一定していない<ref name="Iwasa2013塊根" />。また[[球根]]とよばれるものは、塊根などのほかに、[[鱗茎]]や[[塊茎]]など貯蔵器官となった[[地下茎]]も含む。
**{{Anchors|塊根}}'''塊根'''(塊状根、tuberous root, root tuber)<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013塊根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=塊根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=180}}</ref>
**:根が不定形に肥大成長した貯蔵根(図8c, d)。定根である場合もあるが、不定根が肥大したものが多い。[[サギソウ]]([[ラン科]])、[[ジャノヒゲ]]([[キジカクシ科]])、[[トリカブト]]([[キンポウゲ科]])、[[ホドイモ]]([[マメ科]])、[[サツマイモ]]([[ヒルガオ科]])、[[ダリア]]、[[ヤーコン]]([[キク科]])などに見られる。また塊根の一形で、一部の根が紡錘形になったものは紡錘根 (spindle root) ともよばれ、[[アキギリ]]([[シソ科]])などに見られる<ref name="Shimizu2001根の分類" />。
**{{Anchors|多肉根}}'''多肉根''' (succulent root)<ref name="Shimizu2001根の分類" />
**:主根が、ときに上部に連なる[[胚軸]](最初の"茎")とともに肥大した貯蔵根(図8e, f)。[[ムラサキケマン]]([[ケシ科]])や[[ダイコン]]([[アブラナ科]])、[[ニンジン]]([[セリ科]])、[[ゴボウ]]([[キク科]])などに見られる。ニンジンではほとんどが主根に相当するが、ダイコンでは上部の側根が生じていない部分(2列のくぼみがない部分)は根ではなく、胚軸である。また[[カブ]](アブラナ科)では肥大した部分は全て胚軸であり、下に細長く伸びている部分が主根に由来する<ref name="Hara1994根" />。
{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = Hyacinth_roots_-_contractile_and_standard_types_in_air.jpg
| caption1 = '''8g'''. [[ヒアシンス]]([[キジカクシ科]])の収縮根(環状のしわが見える)
| image2 = Leucospermum cordifolium proteoid roots 290805.jpg
| caption2 = '''8h'''. [[レウコスペルムム属]]([[ヤマモガシ科]])のクラスター根
}}
*{{Anchors|収縮根}}'''収縮根''' (contractile root; 牽引根 traction root)<ref name="Hara1994根" /><ref name="Rudall1997根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013収縮根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=収縮根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=623}}</ref>
*:[[地下茎]]が成長に伴って地上部に出るのを防ぐために、これを地中に引き込む機能をもつ根のこと。伸長後に収縮するため、表面に環状のしわが生じる(図8g)。地下茎から生じる不定根である。[[ユリ]]([[ユリ科]])や[[グラジオラス]]([[アヤメ科]])、[[リンドウ]]([[リンドウ科]])、[[シシウド属]]([[セリ科]])、[[アザミ]]([[キク科]])などに見られる。
*{{Anchors|クラスター根}}'''クラスター根''' (cluster root, proteoid root)<ref name="クラスター根">{{Cite book|author=de Kroon, H. & Visser, E.J.W. (著) 森田茂紀 & 田島亮介 (監修)|year=2008|chapter=|editor=|title=根の生態学|publisher=シュプリンガー・ジャパン|isbn=978-4431727354|page=22}}</ref>
*: 短い側根が密生して試験管ブラシ状に変形した根(図8h)であり、また有機酸分泌能力が一般的な根よりも高く、土壌中の難利用性の[[リン]]を溶解し吸収しやすくすることでリン欠乏土壌に適応している。[[ヤマモガシ科]](学名: Proteaceae)の植物から発見されたため、かつては proteoid root とよばれていた。しかし後に[[マメ科]]、[[クワ科]]、[[ヤマモモ科]]などからも見つかったため、形態的特徴に基づいてクラスター根(房のような根の意味)とよばれるようになった。また側根ではなく[[根毛]]が房状に形成されたダウシフォーム根(dauciform root)が[[カヤツリグサ科]]や[[イグサ科]]の一部に、同様のキャピラロイド根が[[サンアソウ科]]に見られ、これらもクラスター根と同様にリン吸収に適応したものであると考えられている<ref name="丸山2017">{{Cite journal|author=丸山隼人・和崎淳|year=2017|title=低リン条件で房状の根を形成する植物の機能と分布 -低リンストレスに対する植物の適応機構-|journal=化学と生物|volume=55|issue=3|pages=189-195|doi=10.1271/kagakutoseibutsu.55.189}}</ref>。
{{-}}
{{-}}
== 特殊な根 ==
=== ===
地上部にある根は'''気根''' (aerial root) と総称される<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013気根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=気根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|pages=283–284}}</ref>。[[地下茎]]から生じるものや、地上茎、水中茎から生じるものなどがある。
; 不定根
{{multiple image
: [[茎]]や葉柄などから出る根。地を這う茎から生えた根、[[挿し木]]や[[取り木]]で生えた根などがこれにあたる。不定根は、種子などの定位置でないところから出た根という意味で「不定」であって、どこから出るかわからない根ということではない。
| total_width = 400
[[File:Aerial root.jpg|thumb|気根]]
| align = right
[[Image:Roots by cesarpb.jpg|right|thumb|柔らかい[[土壌]]にあって木を支えるマングローブ植物(''[[w:Rhizophora|Rhizophora]]'' sp.)の[[支柱根]]。[[ブラジル]]、[[パラー州]]サリナスの[[アマゾン熱帯雨林]]にて。]]
| caption_align = left
; 気根(きこん)
| image1 = Bruguiera gymnorhiza roots.jpg
: 地上茎から出た根のこと。主に呼吸や吸廃湿(空気中からの水分収集・あるいは余分な水分の排出)を担う。空中に突き出た吸水根とはほぼ同じ特質上、厳密な分類はされてはいない([[イチョウ]]や[[着生植物]]など)。
| caption1 = '''9a'''. [[オヒルギ]]([[ヒルギ科]])の呼吸根(屈曲膝根)(奥に支柱根も見られる)
:* [[呼吸根]](こきゅうこん)
| image2 = Léggyökérzet.JPG
:: 気根の一種。地下部の空気が乏しい環境で根腐れを防ぐために地下から地表へと突き出した根。[[水草]]や湿地に育つ植物([[ラクウショウ|ヌマスギ]]、[[イチョウ]]、あるいは[[オヒルギ]]などのマングローブ植物)などに見られる。
| caption2 = '''9b'''. [[ヌマスギ]]([[ヒノキ科]])の呼吸根(直立膝根)
::*膝根
}}
::: 呼吸根の一種で[[オヒルギ]]などに見られる。逆V字型が膝のように見えることからこの名前が付いた。
*{{Anchors|呼吸根}}'''呼吸根'''(通気根<ref name="熊沢1979異形根" />、respiratory root, pneumatophore)<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013呼吸根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=呼吸根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=471}}</ref>(→''詳細は「[[呼吸根]]」を参照'')
; [[支柱根]]
*:地上に露出し、地下部の呼吸のための酸素を取り入れる根のことであり、内部に通気のための組織をもつ。沼沢地など地中の酸素に乏しい環境に多い。上へ垂直に伸びる直立根 (erect root)(例:[[ハマザクロ]])、上下に屈曲しながら伸びる屈曲膝根 (curved knee-root)(例:[[オヒルギ]]; 図9a)、根の背面が所々で上部に向かって肥大する直立膝根 (erect knee-root)(例:[[ヌマスギ]]; 図9b)に類別される。
: 気根が地面まで降りてきて茎を支えるもの([[トウモロコシ]]、[[タコノキ]]、[[ヒルギ科]]の植物など)。
{{multiple image
; 板根(ばんこん)
| total_width = 400
: 幹の下部から出る根の上側が幹にそって板状に突出するもの。土が流出し下方に根が伸ばせなくなった樹木植物が支持材として発生させる。赤土と礫・石・岩以外の土壌が保てなくなった熱帯地域に多い。
| align = right
; 付着根
| caption_align = left
: [[着生植物]]や[[つる植物]]が茎を壁や他植物などに張り付かせるための根([[キヅタ]]など)。
| image1 = Semi-hydro33.jpg
; 寄生根
| caption1 = '''9c'''. [[カトレア]]([[ラン科]])の吸水根
: [[寄生]]植物で、他の植物に侵入して栄養を吸収する根([[ヤドリギ]]など)。
| image2 = Taeniophyllum glandulosum kumoran12.jpg
[[Image:Ipomoea_batatasL_ja01.jpg|thumb|[[サツマイモ]]の塊根]]
| caption2 = '''9d'''. [[クモラン]]([[ラン科]])の同化根
; 塊根(かいこん)
}}
: 水や栄養素を貯め込んで大きくなった根。[[栄養繁殖|栄養生殖器官]]としても作用する。[[芋|イモ]]や[[球根]]のうちの一種。
*{{Anchors|吸水根}}'''吸水根''' (absorptive root)<ref name="Shimizu2001根の分類" />
; 吸水根(きゅうすいこん、absorptive root)
*:空気中の水分を吸収するための根のこと。表皮が多層化して死細胞となり(ときに木化する)、空気中の水分を吸収・貯蔵することができる。このような表皮は根被 (velamen) とよばれる<ref name="Shimizu2001根内部" /><ref name="Rudall2007">{{cite book|author=Rudall, P. J.|year=2007|chapter=Root|editor=|title=Anatomy of Flowering Plants: An Introduction to Structure and Development|publisher=Cambridge University Press|isbn=978-0521692458|pages=43–56}}</ref>。[[サトイモ科]]や[[ラン科]]の[[着生植物]]に例がある(図9c)。また「吸水根」という用語は全く別の意味で用いられることがあり、1つの植物において、土壌深くまで伸びて主に水を吸収する根を吸水根、浅く広がって主に無機養分を吸収する根を吸肥根とよぶことがある<ref name="札幌">{{cite journal|author=札幌市公園緑化協会 豊平公園緑のセンター|year=2012|title=|journal=札幌市 緑のセンターだより|volume=156|pages=|doi=}}</ref>。
: 着生ランなどにみられる空気中の水蒸気を吸収するために発達した根。表皮が発達して根被(velamen)を形成している。
*{{Anchors|同化根}}'''同化根''' (assimilation root, assimilatory root)<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013同化根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=同化根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=977}}</ref>
: またある植物の根の役割として呼ぶ場合もある。水分を主に吸収するために、地中深くに伸びた太い根のことを吸水根と呼ぶ。この場合肥料を主に吸収するために、地中の浅いところに広がっている細い毛細根のことを、吸水根に対して吸肥根と呼ぶ。
*:多数の[[葉緑体]]を含み、扁平化して[[光合成]]を行う根(図9d)。[[カワゴケソウ科]]や[[クモラン]]([[ラン科]])では[[葉]]が退化しており、同化根が光合成器官となる。
; 牽引根(けんいんこん、traction root)または収縮根(しゅうしゅくこん、contractile root)
{{multiple image
: [[ユリ科]]植物など[[球根]]を持つ植物によく見られる。成長に伴って新しい[[鱗茎]](球根)が古いものの上にできるため、鱗茎が地上に出るのを防ぐために地中へ鱗茎を引っ張る働きをする不定根。これにより前の球根の位置に新しい球根が戻される。この根には収縮によって出来た横に走るしわが見られる。
| total_width = 400
; [[根粒]](こんりゅう)
| align = right
: 根に生じる粒状のもの。[[根粒菌]]と呼ばれる共生微生物が入っている。[[マメ科]]が有名。
| caption_align = left
| image1 = Ceiba_pentandra_MS4104.JPG
| caption1 = '''9e'''. [[カポック]]([[アオイ科]])の板根
| image2 = Cap méchant.jpg
| caption2 = '''9f'''. [[タコノキ属]]([[タコノキ科]])の支柱根
}}
*{{Anchors|板根}}'''板根''' (buttress root)<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013板根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=板根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=1119}}</ref>
*:横走する根の背面が極度に偏って肥大し、屏風のようになったもの(図9e)。根を深く張れない植物の地上部の支持に寄与する<ref name="キャンベル35" />。呼吸根としての役割をもつ場合もある<ref name="Shimizu2001根の分類" />。[[サキシマスオウノキ]]([[アオイ科]])や[[ラワン (植物)|ラワン]]([[フタバガキ科]])など[[熱帯]]の木本に多く見られる。
*{{Anchors|支柱根}}'''支柱根'''(支持根、prop root、支柱気根、支持気根、prop aerial root)<ref name="Hara1994根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013気根" />(→''詳細は「[[支柱根]]」を参照'')
*:地上茎から放射状に生じて土壌へ伸び、植物体を支持する根のこと(図9f)。呼吸根としての役割をもつ場合もある。[[タコノキ]]([[タコノキ科]])や[[トウモロコシ]]([[イネ科]])、[[オヒルギ]]([[ヒルギ科]])などに見られる。
{{multiple image
| total_width = 400
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Curtain Fig Tree, Queensland, Australia.JPG
| caption1 = '''9g'''. 多数の気根を垂らした {{Snamei||Ficus virens}}([[クワ科]])
| image2 = Ficus Barbata - ചേല 01.JPG
| caption2 = '''9h'''. 気根によって他の木を覆う {{Snamei||Ficus barbata}}(クワ科)
}}
*{{Anchors|絞め殺し植物}}'''絞め殺し植物''' (strangler)<ref name="多田2002">{{cite book|author=多田多恵子|year=2002|chapter=|editor=|title=したたかな植物たち―あの手この手のマル秘大作戦|publisher=エスシーシー|isbn=978-4886479228|pages=126–133}}</ref>(→''詳細は「[[絞め殺しの木]]」を参照'')
*:他の植物(宿主)の[[樹冠]]で発芽し、成長する。[[寄生植物]]ではないため宿主となった植物から栄養を奪うことはないが、地面に向けて多数の気根を伸ばし(図9g)、やがてこの気根が宿主の幹を覆うとともに(図9h)、茎は葉を付けて宿主の樹冠を覆う。宿主植物が枯死した場合には("絞め殺し")その部分が空洞になり、かご状になった絞め殺し植物の気根が残る。[[ガジュマル]]など[[イチジク属]]([[クワ科]])に例が多いが、他にも[[ヤドリフカノキ]]([[ウコギ科]])や[[ヤマグルマ]]([[ヤマグルマ科]])が絞め殺し植物となることがある。
{{multiple image
| total_width = 400
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Iwagarami Root 20080513.jpg
| caption1 = '''9i'''. [[イワガラミ]]([[アジサイ科]])の付着根
| image2 = Vanilla (Vanilla planifolia) 1.jpg
| caption2 = '''9j'''. [[バニラ]]([[ラン科]])の節からは、巻ひげになる気根が生じている。
}}
*{{Anchors|付着根}}'''付着根'''(着生根<ref name="熊沢1979異形根" /><ref name="学術用語集着生根">{{cite book|author=日本植物学会|year=1990|chapter=|editor=|title=文部省 学術用語集 植物学編 (増訂版)|publisher=丸善|isbn=978-4621035344|page=320}}</ref>、adhesive root, adhering root、よじのぼり根<ref name="学術用語集よじのぼり">{{cite book|author=日本植物学会|year=1990|chapter=|editor=|title=文部省 学術用語集 植物学編 (増訂版)|publisher=丸善|isbn=978-4621035344|page=366}}</ref>、climbing root)<ref name="Hara1994根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="Iwasa2013気根" />
*:地上茎から生じ、基物に付着して植物体を支える根のこと(図9i)。[[イワガラミ]]([[アジサイ科]])や[[テイカカズラ]]([[キョウチクトウ科]])、[[キヅタ]]([[ウコギ科]])などに見られる。
*{{Anchors|根性巻ひげ}}'''根性巻ひげ''' (root tendril)<ref name="熊沢1979異形根">{{cite book|author=熊沢正夫|year=1979|chapter=異形根|editor=|title=植物器官学|publisher=裳華房|isbn=978-4785358068|pages=313−325}}</ref>
*:茎から生じて基物に巻き付く根(図9j)。一部の[[つる植物]]に例があり、[[フィロデンドロン]]([[サトイモ科]]) や[[バニラ]]([[ラン科]])などに見られる。
{{multiple image
| total_width = 400
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Cyathea glauca aerial roots.jpg
| caption1 = '''9k'''. [[ヘゴ属]]([[薄嚢シダ類]])の茎を覆う保護根
| image2 = Cryosophila guagara 0zz.jpg
| caption2 = '''9l'''. クリオソフィラ属([[ヤシ科]])の根針
}}
*{{Anchors|保護根}}'''保護根''' (protecive root)<ref name="Shimizu2001根の分類" />
*:茎から生じ、多数が密に絡み合って茎を厚く覆う根であり(図9k)、茎を保護し機械的支持を与える。いわゆる[[木生シダ]]とよばれる植物に見られ、[[ヘゴ]]([[薄嚢シダ類]])では茎の直径 13 cm に対して保護根の厚さ 56 cm に達した例がある。
*{{Anchors|根針}}'''根針'''(根刺、root spine, root thorn)<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="熊沢1979異形根" /><ref name="Iwasa2013根針">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=同化根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|page=502}}</ref>
*:茎から生じ、硬い棘になった根(図9l)。[[ヤシ科]]に例が多く、その他に {{Snamei||Moraea}}([[アヤメ科]])、ヤマノイモ属([[ヤマノイモ科]])などで見られることがある。
{{-}}
=== 水中根 ===
[[ファイル:Lemna minor Subaquatic view Lamiot 11.JPG|thumb|250px|right|'''10'''. [[コウキクサ]]([[サトイモ科]])はそれぞれ1本の水中根をもつ.]]
通常の状態として水中に伸びている根を'''水中根''' (aquatic root) という<ref name="Shimizu2001根の分類" />(図10)。このような根は、根冠や根毛を欠いていることがある<ref name="熊沢1979根" /><ref name="Ne1998根毛" />。[[ミズキンバイ]]([[アカバナ科]])は、水底を横走する[[根茎]]の背面から列状に生じて水中に浮かんでいる根をもち、特に浮根 (floating root) とよばれる<ref name="Shimizu2001根の分類" />。
{{-}}
=== 他生物と共生した根 ===
根はふつうは地中にあり、他生物と密接な共生関係を築いている例が多い。根は特に根冠や根毛を通じて有機物(光合成産物の20%にも達することもある)を土壌中に分泌・放出しており、根の周囲に特異な環境を形成している<ref name="キャンベル37" />。このような環境は[[根圏]] (rhizosphere) とよばれ、さまざまな微生物が植物と共生関係を結んで生育している。また下記のように、ほとんどの維管束植物は根において菌類と直接的に共生して菌根を形成しており、さらに窒素固定を行う生物と共生して特異な構造を形成している例もある。
{{multiple image
| total_width = 400
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Mycorrhizal_root_tips_(amanita).jpg
| caption1 = '''11a'''. 菌鞘に覆われている[[外生菌根]]
| image2 = Gigaspora_margarita.JPG
| caption2 = '''11b'''. [[アーバスキュラー菌根]]は外見的な特殊化は見られない。写真では根から伸びる菌糸と胞子(褐色の球)が見られる。
}}
{{File clip | Abb. 6 Interaktions-Typen.tif | width = 400 | 0 | 0 | 17 | 0 | w = 3216 | h = 2028 | '''11c'''. '''a'''. ラン型菌根菌のペロトン. '''b'''. [[アーバスキュラー菌根]]菌の樹枝状体. '''c'''. 根の細胞(大型で液胞で占められた細胞)の間隙を占める[[外生菌根]]菌のハルティッヒネット断面. }}
*{{Anchors|菌根}}'''菌根''' (mycorrhiza, [[複数形|''pl.'']] mycorrhizae)<ref name="Shimizu2001根の分類" />(→''詳細は「[[菌根]]」を参照'')
*:維管束植物のほとんどは根において菌類([[菌根菌]]、mycorrhizal fungus) と共生し、菌根を形成している<ref name="Wang2006">{{cite journal|author=Wang, B. & Qiu, Y. L.|year=2006|title=Phylogenetic distribution and evolution of mycorrhizas in land plants|journal=Mycorrhiza|volume=16|pages=299-363|doi=10.1007/s00572-005-0033-6}}</ref>。ただし水生植物や[[ウラボシ科]]、[[アブラナ科]]、[[ヒユ科]]、[[ナデシコ科]]、[[タデ科]]などでは菌根をもたない種が比較的多く知られている。菌根の形態や菌根菌のグループにはさまざまなタイプが知られており、それに応じて[[外生菌根]](外菌根; 図11a, 11c-c)、[[アーバスキュラー菌根]](図11b, 11c-b)、ツツジ型菌根(エリコイド菌根)、イチヤクソウ型菌根(アルブトイド菌根)、シャクジョウソウ型菌根(モノトロポイド菌根)、ラン型菌根(図11c-a)などに類別されている<ref name="Iwasa2013菌根">{{cite book|author=巌佐庸, 倉谷滋, 斎藤成也 & 塚谷裕一 (編)|year=2013|chapter=菌根|editor=|title=岩波 生物学辞典 第5版|publisher=岩波書店|isbn=978-4000803144|pages=333–335}}</ref>。この中ではアーバスキュラー菌根が最も普遍的であり、進化的にも最も祖先的な菌根であると考えられている<ref name="Wang2006" />。根が合成する[[植物ホルモン]]である[[ストリゴラクトン]]は、アーバスキュラー菌根菌を根に誘引する<ref name="キャンベル39">{{cite book|author=池内昌彦, 伊藤元己, 箸本春樹 & 道上達男 (監訳)|year=2018|chapter=39 内外のシグナルに対する植物の応答|editor=|title=キャンベル生物学 原書11版|publisher=丸善出版|isbn=978-4621302767|pages=963–994}}</ref>。菌根菌が根の表層や細胞間隙に菌糸を張り巡らせるものや、植物細胞内(正確には[[細胞壁]]と[[細胞膜]]の間)に侵入して栄養交換用の構造を形成するものがいる<ref name="キャンベル37" /><ref name="キャンベル31" />(図11c)。菌根菌の菌糸は根毛よりも細く、遥かに長く土壌中に張巡らされており、より効率的に[[栄養塩|無機養分]]や水を吸収し、これを植物に供給している<ref name="市石">{{cite journal|author=市石博|year=2007|title=学校便り(3)生態系をみる新たな視点 土の中に広がるネットワーク『菌根菌』研究の現場を見聞きして|journal=日本生態学会誌|volume=57|pages=277–280|doi=10.18960/seitai.57.2_277}}</ref>。また菌根菌は、植物に病害や乾燥ストレスに対する耐性を付与することも知られている<ref name="松崎2009">{{cite journal|author=松崎克彦|year=2009|title=アーバスキュラー菌根菌とその利用|journal=農業および園芸|volume=841|pages=170-175|doi=}}</ref>。一方、植物は菌根菌に[[有機物]]を与えており、菌根菌との間に相利共生関係が築かれている。ただし植物の中には、自らは[[光合成]]せずに有機物も菌根菌から得ている例がある([[腐生植物]] = 菌従属栄養植物、菌寄生植物)<ref name="辻田2014">{{cite journal|author=辻田有紀 & 遊川知久 (編)|year=2014|title=光合成をやめた植物ー菌従属栄養植物のたどった進化の道のり|journal=植物科学最前線|volume=5|pages=84–139|url=https://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C.pdf}}</ref>。また菌根菌は、異種間を含むさまざまな植物の根をつなぎ(菌根菌ネットワーク)、その間で糖などの物質転送が起こっていることが知られている<ref name="キャンベル31">{{cite book|author=池内昌彦, 伊藤元己, 箸本春樹 & 道上達男 (監訳)|year=2018|chapter=31 菌類|editor=|title=キャンベル生物学 原書11版|publisher=丸善出版|isbn=978-4621302767|pages=753–773}}</ref><ref name="宝月2010">{{cite journal|author=宝月岱造|year=2010|title=外生菌根菌ネットワークの構造と機能|journal=土と微生物|volume=64|pages=57–63|doi=10.18946/jssm.64.2_57}}</ref>。
{{multiple image
| total_width = 400
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Vicia sepium10 ies.jpg
| caption1 = '''11d'''. エンドウ属([[マメ科]])の[[根粒]]
| image2 = Root-nodule01.jpg
| caption2 = '''11e'''. [[ダイズ]]([[マメ科]])根粒内の[[根粒菌]](濃色部)([[透過型電子顕微鏡]]像)}}
*{{Anchors|根粒}}'''根粒'''(根瘤、root nodule)<ref name="Shimizu2001根の分類" />(→''詳細は「[[根粒]]」を参照'')
*:マメ科の植物では、根に[[根粒菌]]と総称される[[窒素固定]]能をもつ細菌が共生し、根粒とよばれる粒状の構造を形成する(図11d, e)。根粒菌は窒素化合物を供給し、植物は有機物を供給する相利共生関係が築かれている。マメ科植物と共生する根粒菌は[[プロテオバクテリア門]]に属するが、マメ目に比較的近縁な[[バラ目]]([[グミ (植物)|グミ]])、[[ブナ目]]([[ヤマモモ]]、[[ハンノキ]]、[[モクマオウ科|モクマオウ]])、[[ウリ目]]([[ドクウツギ]]、ナギナタソウ) の中には、窒素固定能をもつ[[放線菌]]の[[フランキア属]]と共生して根粒を形成するものが知られている<ref name="山中2008">{{cite journal|author=山中高史 & 岡部宏秋|year=2008|title=わが国に生育する放線菌根性植物とフランキア菌|journal=森林総合研究所研究報告|volume=7|pages=67–80|naid=40016000067}}</ref>。このような植物はアクチノリザル植物 (actinorhizal plant)、形成される根粒は放線菌根 (actinorhiza) やハンノキ型根粒ともよばれる<ref name="九町2013">{{cite journal|author=九町健一|year=2013|title=共生窒素固定放線菌フランキア|journal=生物工学会誌|volume=91|pages=24-27|naid=110009580287}}</ref><ref name="植村1977">{{cite journal|author=植村誠次|year=1977|title=根粒菌と根粒植物|journal=URBAN KUBOTA|volume=14|pages=22–25|doi=}}</ref>(図11f)。マメ目、バラ目、ブナ目、ウリ目は単系統群を形成しており、この系統群は窒素固定クレードとよばれる<ref name="林2015">{{cite journal|author=林誠|year=2015|title=植物の窒素固定:植物と窒素固定細菌との共生の進化|journal=領域融合レビュー|volume=4|pages=e010|doi=10.7875/leading.author.4.e010}}</ref>。根粒形成の機構は、[[アーバスキュラー菌根]]形成の機構をもとにしたものであることが示されている<ref name="林2015" />。
{{multiple image
| total_width = 400
| align = right
| caption_align = left
| image1 = Frankia_alni.jpg
| caption1 = '''11f'''. ヨーロッパハンノキ([[カバノキ科]])のハンノキ型根粒
| image2 = Cycas_Circinalis_-_Coralloid_Roots500.jpg
| caption2 = '''11g'''. ナンヨウソテツ([[ソテツ科]])のサンゴ状根
}}
*{{Anchors|サンゴ状根}}'''サンゴ状根''' (coralloid root)<ref name="Gifford2002サンゴ状根">{{cite book|author=アーネスト・ギフォード & エイドリアンス・フォスター (著) 長谷部光泰, 鈴木武 & 植田邦彦 (監訳)|year=2002|chapter=背地性根|editor=|title=維管束植物の形態と進化|publisher=文一総合出版|isbn=978-4829921609|page=370}}</ref><ref name="Kato1997ソテツ">{{cite book|author=[[加藤雅啓]] (編)|year=1997|chapter=3-3 ソテツ綱|title=バイオディバーシティ・シリーズ (2) 植物の多様性と系統|publisher=裳華房|pages=218–219|isbn=978-4-7853-5825-9}}</ref>(図11g)
*:[[ソテツ類]]([[裸子植物]])は、根の一部が負の重力屈性(背地性; 上方に生長する性質)を示し、サンゴ状根とよばれる特殊な根を形成する。この根には[[ネンジュモ属]]({{Snamei||Nostoc}})の[[シアノバクテリア]]([[藍藻]])が共生している。ネンジュモ属は[[窒素固定]]能をもち、窒素化合物をソテツ類に供給する。ソテツ類はさまざまな[[毒素]]をもつことが知られているが、そのうち BMAA (β-methylamino-L-alanine) はソテツ類自身が生成したものではなく、共生藍藻が生成したものであると考えられている<ref name="Cox2003">{{cite journal|author=Cox, P.A., Banack, S.A. & Murch, S.J.|year=2003|title=Biomagnification of cyanobacterial neurotoxins and neurodegenerative disease among the Chamorro people of Guam|journal=Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.|volume=100|pages=13380-13383|doi=10.1073/pnas.2235808100}}</ref>。
{{-}}
=== 寄生根 ===
[[ファイル:Haustorium Mistel Sachs.jpg|thumb|250px|right|'''12a'''. [[ヤドリギ]](h = [[茎]]): 宿主の[[師部]] (c) 内を横走する不定根(寄生根、f)が宿主の[[木部]] (b) へ側根 (e) を伸ばし、また不定芽 (g) をつける。]]
[[ファイル:Haustorium Cuscuta epilinum.jpg|thumb|250px|right|'''12b'''. 上が[[ネナシカズラ]](e = [[表皮]]、r = 皮層、g = [[維管束]])、 下が宿主である[[アマ]](E = 表皮、R = 皮層と[[師部]]、H = [[木部]])。寄生根の[[木部]]が宿主の木部とつながっている(木部架橋)。]]
共生の1形態として、寄生がある。他の植物に寄生し養分を奪う植物は[[寄生植物]]とよばれ、自ら光合成を行いながら宿主からも栄養分を奪う半寄生植物([[ヤドリギ]]など)と、光合成能を欠き、有機物も含めた栄養分を宿主から奪う全寄生植物([[ネナシカズラ]]など)がある<ref name="Shimizu2001寄生">{{cite book|author=清水建美|year=2001|chapter=有機栄養に関する区分|editor=|title=図説 植物用語事典|publisher=八坂書房|isbn=978-4896944792|pages=13–15}}</ref>。寄生植物は栄養分を吸収するために宿主に吸器 (haustorium, ''[[複数形|pl.]]'' haustoria) を付着させているが、寄生植物における吸器は特殊化した根であり、この根は寄生根 (parasitic root) ともよばれる<ref name="Hara1994根" /><ref name="Rudall1997根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" />。寄生根では、しばしば寄生植物と宿主の[[維管束]]([[木部]])がつながっている(木部架橋、xylem bridge)<ref name="Rudall2007" />(図12b)。寄生根は、以下のようにいくつかのタイプに類別されることがある<ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="熊沢1979異形根" />。


*シオガマギク型 (''Pedicularis'' type)
== 根の働き ==
*:根が発達するが、その一部が寄生根として宿主の地中根に侵入するものであり、半寄生植物である[[コゴメグサ属]]、[[シオガマギク属]]([[ハマウツボ科]])、[[カナビキソウ]]、[[ツクバネ]]([[ビャクダン科]])などに見られる。
植物における根は、[[肥料|肥料成分]]や水を吸収するための構造であると共に、植物体を支える役割を果たす。樹木では深く広く[[土壌]]に侵入するが、草の根はそれほど深くない。その形は植物の種類によってもある程度決まっているが、地形や土質によって変化する。根の細胞のための栄養分は地上部から[[師部|師管]]を通じて送られる。[[ガス交換]]は一般には根の表面で行われる。したがって、湿地や水中では根は深く侵入できないことが多い。[[湿地]]に森林が成立しにくいのはそのためである。一部の植物では呼吸根を出したり、根の内部に空気の通る管を形成してこれに対応している。
*ハマウツボ型 (''Orobanche'' type)
*:[[種子]]が発芽すると幼根が宿主の根に侵入し、分枝する。成長につれて最初の寄生根は退化し、代わりに[[根茎]]が発達して宿主の根を取り込むものもある。[[ツチトリモチ科]]や[[ヤッコソウ科]]、[[ハマウツボ科]]の全寄生植物種に見られる。
*ヤドリギ型 (''Viscum'' type)(図12a)
*:[[種子]]が発芽すると[[胚軸]]下部が吸盤状になり宿主の茎に固着し、そこから不定根を出して樹皮内に侵入、分枝する。分枝した根が宿主[[木部]]に侵入して吸器になる。幼根は伸張しない。半寄生植物である[[ヤドリギ]]など([[ビャクダン科]])に見られる。
*ネナシカズラ型 (''Cuscuta'' type)(図12b)
*:種子発芽後、主根はまもなく退化し、宿主に巻き付いた枝の随所から不定根である寄生根を出して宿主に侵入する。つる性の全寄生植物である[[スナヅル]]([[クスノキ科]])や[[ネナシカズラ]]([[ヒルガオ科]])に見られる。
{{-}}


== 人間との関わり ==
動物には、根を餌とするものも多い。菌類は根から侵入して病気を起こすものもあるが、[[菌根菌]]は根と共生して[[菌根]]を形成し、植物から栄養の供給を受け、肥料分を土壌中から植物に運ぶなどの関係を持っている。このように、植物の根の周りでは周囲との間で特別な物質のやりとりが行われ、それ以外の土壌とは異なった環境にあると考えられる。これを[[根圏]](こんけん)あるいは根圏土壌という。
{{multiple image
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| align = right
| caption_align = left
| image1 = Burak selerowaty.jpg
| caption1 = '''13a'''. [[テンサイ]]([[ヒユ科]])の根(多肉根)は[[砂糖]]の原料とされる。
| image2 = Ipomoea batatas 006.JPG
| caption2 = '''13b'''. [[サツマイモ]]([[ヒルガオ科]])の根(塊根)は食用とされる。
}}
[[根菜]]とよばれる野菜の中には、[[サトイモ]]([[サトイモ科]])、[[タマネギ]]([[ヒガンバナ科]])、[[レンコン]](ハス科)、[[ジャガイモ]]([[ナス科]])など実際には根ではなく[[茎]]([[根茎]]、[[塊茎]]など)に由来するものも多い。根(ときにそれに続く[[胚軸]]も含めて)を食用として利用するものとしては、[[ダイコン]]や[[カブ]]、[[ハツカダイコン]]、[[ホースラディッシュ]]、[[ルタバガ]]、[[マカ]]([[アブラナ科]])、[[キャッサバ]]([[トウダイグサ科]])、[[クズ]]、[[ホドイモ]]([[マメ科]])、[[ビート (植物)|ビート]]、[[テンサイ]](図13a)([[ヒユ科]])、[[サツマイモ]](図13b)([[ヒルガオ科]])、[[ニンジン]]、[[パースニップ]]([[セリ科]])、[[ゴボウ]]、[[モリアザミ]]、[[サルシファイ]]、[[ヤーコン]]([[キク科]])などがある<ref name="Hara1994根" /><ref name="Shimizu2001根の分類" /><ref name="牧野1978">{{cite book|author=牧野晩成 |year=1978|chapter=|editor=|title=果物と野菜の観察|publisher=ニュー・サイエンス社|asin=B000J8B2FA|pages=58–70}}</ref><ref name="牧田1994">{{cite journal|author=牧田道夫|year=1994|title=我が国が未利用の資源植物に関する調査|journal=農業生物資源研究所研究資料|volume=6|pages=103-172|url=https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2010841286.pdf}}</ref><ref name="食品標準成分表">[https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365297.htm 日本食品標準成分表2015年版(七訂).] 文部科学省.</ref><ref name="藤本1984">{{cite journal|author=藤本滋生|year=1984|title=「葛粉 (くづこ) 一覧」 および 「澱粉 (くずこ) 一覧」 について|journal=鹿兒島大學農學部學術報告|volume=34|pages=17-28|ncid=AN00040603}}</ref>。


{{multiple image
また、植物の根が土壌へ侵入することは、[[風化]]作用の一つでもある。
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| caption_align = left
| image1 = Radix Gentianae by Danny S. - 001.JPG
| caption1 = '''13c'''. 生薬とされる[[ゲンチアナ]]([[リンドウ科]])の根
| image2 = Ginseng_in_Korea.jpg
| caption2 = '''13d'''. 生薬とされる[[オタネニンジン]]([[ウコギ科]])の根(高麗人参)
}}
一方、薬用とされる根もあり([[地下茎]]と区別せずに共に用いられる例もある)、[[テンダイウヤク]]([[クスノキ科]])、[[ジャノヒゲ]]([[キジカクシ科]])、[[トリカブト]]、[[サキシマボタンヅル]]([[キンポウゲ科]])、[[シャクヤク]]、[[ボタン (植物)|ボタン]]([[ボタン科]])、[[キバナオウギ]]、[[カンゾウ属|カンゾウ]]、[[クララ]]([[マメ科]])、[[イトヒメハギ]]、[[セネガ]]([[ヒメハギ科]])、[[オオカラスウリ]]([[ウリ科]])、[[ヒナタイノコヅチ]]([[ヒユ科]])、[[ツルドクダミ]]([[タデ科]])、[[トコン]]([[アカネ科]])、[[ゲンチアナ]](図13c)、[[リンドウ|トウリンドウ]]([[リンドウ科]])、[[インドジャボク]]([[キョウチクトウ科]])、[[ムラサキ]]([[ムラサキ科]])、[[コガネバナ]]([[シソ科]])、[[ベラドンナ]]、[[ハシリドコロ]]([[ナス科]])、[[オタネニンジン]](高麗人蔘; 図13d)([[ウコギ科]])、[[ミシマサイコ]]、[[ノダケ]]、[[トウキ]]、[[トウスケボウフウ]]、[[ヨロイグサ]]([[セリ科]])、[[キキョウ]]([[キキョウ科]])、[[カノコソウ]]、[[オミナエシ]]([[スイカズラ科]])、[[モッコウ]]([[キク科]])の根が利用される<ref>[http://mpdb.nibiohn.go.jp/mpdb-bin/top.cgi?lang=ja 薬用植物総合情報データベース.] 薬用植物資源研究センター. (2020年5月27日閲覧)</ref>。


また、[[アカネ]]([[アカネ科]])や [[ムラサキ]]([[ムラサキ科]])の根は、古くから[[染料]]として用いられてきた<ref name="下山2017">{{cite journal|author=下山進, 下山裕子 & 大下浩司|year=2017|title=衣裳を彩る色材の分析―日本における染色の歴史と琉球紅型衣装にみられる色材―|journal=文化財情報学研究: 吉備国際大学文化財総合研究センター紀要|volume=14|pages=53-62|naid=40021343738}}</ref>。
== 参考文献 ==

* 根の事典編集委員会 編集 『根の事典』 朝倉書店 1998年11月20日発行 ISBN 4-254-42021-8
{{multiple image
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| caption_align = left
| image1 = 20121023Trifolium repens3.jpg
| caption1 = '''13e'''. シロツメクサ([[マメ科]])
| image2 = Taprohmroots01.JPG
| caption2 = '''13f'''. [[アンコール]]遺跡に生えた {{snamei||Tetrameles nudiflora}}([[テトラメレス科]])
}}
[[#根粒|上記]]のように、[[マメ科]]植物の多くは根において[[窒素固定菌|窒素固定細菌]]と共生して根粒を形成している。そのため、耕作地にマメ科植物([[シロツメクサ]]、[[ミヤコグサ]]など)を栽培し、窒素栄養分などを土地に供給する[[緑肥]]として利用することがある(図13e)。マメ科植物の利用は、18世紀の[[農業革命]]において重要な役割を演じた<ref name="間藤2015">{{cite journal|author=間藤徹|year=2015|title=有機農業 2.0|journal=日本農薬学会誌|volume=40|pages=31-34|doi=10.1584/jpestics.W14-39}}</ref>。

根は地中を伸長し、また肥大成長することで母岩などを破壊し、このような働きは[[土壌]]形成に重要な役割を果たしている。このような働きにより、[[舗装道路]]など人工構造が破壊されることもある。また根の成長によって、[[アンコール遺跡]]などの遺跡が被害を受けることもある(一方でこのような景観が観光スポットにもなっている)<ref name="古部2004">{{cite journal|author=古部浩|year=2004|title=カンボジアのアンコール遺跡とその修復|journal=地学雑誌|volume=113|pages=539-544|doi=10.5026/jgeography.113.4_539}}</ref>(図13f)。
{{-}}
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{Notelist2}}
=== 出典 ===
{{Reflist}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* 構造: [[根端分裂組織]]、[[根冠]]、[[根毛]]
* 根のいろいろ: [[呼吸根]]、[[支柱根]]
* 共生: [[菌根]]、[[菌根菌]]、[[根粒]]、[[根圏]]
* 園芸: [[球根]]、[[直根性]]、[[根詰まり]]、[[接ぎ木]](根側に問題のある植物を、問題のない木の根に接ぐ)<!--「根」に接ぐのでしょうか?-->
* [[土壌]] / {{ill2|腐植物質|en|Humic substance}} / [[土壌改良]] / [[水耕栽培]]
* {{ill2|根圧|en|Root pressure}} ‐ 根が吸収した水を地上部に押し上げる圧力。
* {{ill2|通気組織|en|Aerenchyma}} ‐ 水草などの根や茎にある空気を通す組織。
* {{ill2|付着器|en|Holdfast (biology)}} ‐ 海藻などが基質に付着するための構造。<!--一義的ではない?-->
* {{ill2|根の侵入対策|en|Root barrier}}(防根シート、ボード、根止め)
==外部リンク==
{{Commonscat|Roots}}
{{Commonscat|Roots}}
{{Wiktionary}}
{{Wiktionary}}
* 福原 達人 (2020) [https://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/keitai/3-1.html 3. 根.] ''[https://staff.fukuoka-edu.ac.jp/fukuhara/keitai/ 植物形態学.]'' 福岡教育大学. (2020年5月5日閲覧)
* [[球根]]
* {{Kotobank|根(植物)}}
* [[直根性]]
* [[根詰まり]]
* [[菌根菌]]


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[[Category:維管束植物]]
[[Category:根|*]]

2024年12月20日 (金) 16:08時点における最新版

(ね、: root)は、とともに、維管束植物(広義のシダ植物種子植物)の体を構成する器官の1つである。ふつう地中にあって植物体を基質に固定し、地上部を支えるとともに (図1a)、無機養分を吸収する役割を担っている(→#根の機能)。

1a. 土壌が流出して根が露出した河畔林の木[注 1]
1b. 多数の根毛が生じている根の先端部
1c. ホトケノザシソ科)の根: 多数の側根が生じている。

根は先端成長を行い(基本的に先端部だけで細胞分裂を行う)、それを司る根端分裂組織根冠とよばれる保護構造で覆われている(→#根端)。根は外側から表皮皮層中心柱からなり(→#内部構造)、先端付近の表皮からは根毛とよばれる細長い突起が生じ、吸水面積を広げ、根を土壌に密着させる(図1b)。中心柱内には吸収した水や無機栄養分を茎や葉に運ぶ木部と葉からの光合成産物が通る師部が放射状に配置しており(放射中心柱)、中心柱は外部との物質連絡を調節する内皮で囲まれている。多くの維管束植物では、内部で形成された新たな根が外側を突き破って伸びることで内生的に側方分枝するが(図1c)、小葉植物では外生的に二又分枝する(→#分枝)。の時期(種子の中など)に形成された幼根に由来する根を定根、二次的に茎から生じたものなどそれ以外の根を不定根とよぶ(→#定根と不定根)。木本植物(木)では、茎と同様に根も維管束形成層による二次成長を行う(→#一次成長と二次成長)。

根はふつう地中にあるが、地上部にあって呼吸や支持、付着、光合成など特殊な機能を担っていることがある(→#さまざまな根)。根はふつう菌根菌と共生して菌根を形成しており、マツタケトリュフは菌根菌の例である(→#他生物と共生した根)。窒素固定を行う細菌が根に共生している例もある(シロツメクサなど)。また、寄生植物は、根を使って他の植物に寄生している。根の中には、食用(ダイコンサツマイモニンジンなど)や薬用(高麗人参ハシリドコロなど)とされるものがある(→#人間との関わり)。

上記のように根は基本的に維管束植物器官を意味するが、コケ植物藻類、固着動物など他の生物群がもつ類似の構造を便宜的に根とよぶこともある[2]。以下では維管束植物の器官である根について解説する。

構造

[編集]

維管束植物生活環において主要な世代である胞子体染色体を2セットもち、減数分裂によって胞子を形成する体)は、シュートとしてまとめられることもある)およびからなる[3][4][5]。例外的に、マツバラン類(ハナヤスリ亜綱[6]コイチヨウランオニノヤガララン科)など菌根菌に大きく依存している植物、サンショウモ属(薄嚢シダ類[7]ミジンコウキクササトイモ科)など一部の浮水植物エアープランツであるサルオガセモドキパイナップル科)などは少なくとも成熟した状態では根をもたない[8]

根端

[編集]
2. 根端の縦断面: 1 = 根端分裂組織、2, 3 = 根冠、4 = 剥離した根冠細胞(境界細胞)、5 = 前形成層

根はふつう細長い軸状の構造であり、先端成長する[9][10]。根の先端部分は根端 (root apex) とよばれる[10][11]。根端の中には根端分裂組織 (root apical meristem, RAM) とよばれる分裂組織が存在し、活発な細胞分裂を行っている[4][12][13](図2)。シュート頂分裂組織とは異なり、根端分裂組織の先端側は根冠 (root cap) とよばれる多細胞層の柔組織によって覆われている[14][4][15](図2)。根端分裂組織は先端側に根冠を、基部側に新たな根の組織を作り出して成長していく。

根は土壌中を伸びていくため、先端表面にある根冠の細胞は次第にはがれ落ちていくが(ふつう1個の根冠細胞の寿命は1〜9日ほど)、根端分裂組織によって内側から順次新たな根冠細胞が供給され、根冠には一定量の細胞が維持されている[14][15][16][17](図2)。根冠の細胞はムシゲル(粘質ゲル[15]、mucigel)を分泌し、根端を保護すると共に根を伸長しやすくする[15][17]。根はふつう正の重力屈性(屈地性; 下方へ伸びる性質)を示すが、根冠中央基部付近の細胞(平衡細胞)内でアミロプラスト光合成能を欠き、デンプン粒を多く含む色素体)が沈降することが重力方向の感知に関わっていると考えられている[18]

根端分裂組織からは基部側へも新たな細胞が付加され、これが拡大伸長し、それに伴い組織分化していくことで根が伸長していく[4][19][20]。根端分裂組織から基部側へつくられた組織は、外側から前表皮 (protoderm)、基本分裂組織 (ground meristem)、前形成層 (procambium) とよばれ、これがそれぞれ表皮、皮層、中心柱へと分化する[4][12][13]。構成する細胞の状態に応じて、根は先端側から大まかに(重なりながら)分裂帯(細胞分裂帯[4]、分裂領域 meristematic zone[21])、伸長帯(伸長領域 elongation zone[21])、成熟帯(分化帯[4]、分化領域 differentiation zone[21])に分けられる[22]。根端分裂組織を含む部分が分裂帯であり、細胞数が増加していく。ふつう根端から数 mm のところが伸長帯であり、細胞が拡大伸長している[4]。根の伸長はこの部分で最も活発であり、細胞はときに10倍以上に伸長する。細胞はこの部分で分化し始め、やがて成熟帯において細胞分化が完了する[4]

内部構造

[編集]

根は、基本的に外側から表皮皮層中心柱維管束[4])からなる[15][23](図3a, b)。ただし活発な二次成長を行った根ではほとんどが二次維管束からなり、表面は周皮で覆われている(下記)。

根の表面はふつう1層の細胞からなる表皮(epidermis; 根の表皮は特に rhizodermis とも表記される[24])によって囲まれている[15][16][23](図3a, b)。地上部のシュート(茎や葉)とは異なり、地中の根の表皮ではクチクラ層があまり発達しておらず(そのため吸水できる)、また気孔も存在しない[25]。根の表皮は、根端分裂組織からやや離れたところで根毛 (root hair) を形成する[10][15][26][27]シロイヌナズナアブラナ科)などでは、不等分裂によって形成された小型の根毛形成細胞(原根毛、trichoblast)が伸長して根毛となる[14][16][24][26]。根毛は直径 10 µm ほどであり、ふつう短命であるが、半年以上残存するものもある(宿存根毛)[14][15][26]。根毛の存在は、土壌粒子との密着や吸水する根の表面積の増大に寄与すると考えられている[10][15][26]

3a. ショウブ属ショウブ科)の根の横断面: 最外部が表皮で覆われ、中央には内皮で囲まれた中心柱がある。皮層には多数の間隙が見られる。
3b. シオデ属サルトリイバラ科)の根の横断面: 最外層に表皮があり、中心柱細胞壁が肥厚した内皮で囲まれている。木部は多原型、中央には大きな髄がある。

表皮の内側には、皮層 (cortex) が存在する[15][23][28]。皮層は主に柔細胞からなり、デンプンなどの養分貯蔵に重要な役割を果たすことがある。また根の皮層には大きな細胞間隙が存在することが多く(特に水生植物など)、根の呼吸におけるガス交換に有用であると考えられている[9][12][15][29](図3a)。皮層の最外層(表皮のすぐ内側)にある1〜数層は、下皮 (hypodermis) とよばれる[9]。下皮はときにスベリンリグニンを沈着して細胞壁が厚化し、またカスパリー線が存在することがあり、このような下皮は外皮 (exodermis) とよばれる[9][15][23][30]。外皮は、はがれ落ちた表皮に代わって根の保護構造となる。一方、皮層の最内層には、1層の細胞層からなる内皮 (endodermis) が存在する[9][15][31](図3b–d)。内皮にはカスパリー線が存在し(細胞壁を通した物質輸送を遮断し、原形質を通した輸送のみを可能にしている)、中心柱への物質の出入りを調節している。古くなった内皮ではしばしばほとんどの細胞壁が木化し(中心柱からの水の漏出を防ぐ)、肥厚していない一部の内皮細胞(通過細胞 passage cell)を通して通水する[15][16][24](図3d)。

3c. キンポウゲ属キンポウゲ科)の根の横断面中心部: 三原型の木部(細胞壁が厚く赤く染色されている)とその腕の間にある師部からなる中心柱が内皮で囲まれている。
3d. ニオイアヤメアヤメ科)の根の横断面中心部: 1 = 通過細胞、2 = 皮層、3 = 内皮、4 = 内鞘、5 = 師部、6 = 木部

内皮より内側の部分は、中心柱 (stele, central cylinder, central column) とよばれ、主に維管束からなる[15][23][32]。中心柱の周縁部には1〜数層の柔細胞からなる内鞘 (pericycle) があり(図3c, d)、新たな側根はふつうここから(または内皮から)生じる[15][23][24]下記)。根の中心柱は放射中心柱 (actinostele) であり、中央に位置する木部一次木部)は横断面で放射状に突出部(腕、ray)をもち、腕の間に師部一次師部)が位置する[9][15][24](図3c)。木部の中心が髄になり、木部の腕がそれぞれ独立していることもある[15](図3b)。木部はふつう外原型(外側から求心的に形成される)であるが[9][15][23]小葉植物の根では木部は内原型(内側から遠心的に形成される)である[33][注 2]

中心柱における木部の突出部(腕)の数(原生木部の数)は同一個体内でも変化することがあるが、ふつう種によってほぼ一定である[24]。根の木部は、原生木部の数に応じて二原型 (diarch)、三原型 (triarch; 図3c)、四原型 (tetrarch)、五原型 (pentarch) とよばれ、また6個以上の場合は多原型 (polyarch) とよばれる(単子葉類に多い; 図3a, b)[9][15][16][23]ミズニラ属小葉植物)の根の中心柱は特異であり、一原型 (monoarch) である(古生代リンボク類と共通)[23][35]

分枝

[編集]
4a. ヤナギヤナギ科)の根の側根伸長部横断面: 側根 (E) は中心柱 (C) から内生的に生じ、皮層 (B) や表皮 (A) を突き破って伸長する。D = 内皮、右下スケールバーは 0.2 mm

根は、ふつう根端から比較的離れた場所で、側根 (lateral root; 分枝根 branch root[36]) を形成して側方分枝(中軸分枝)する[14][12][15][16]。根の内部の中心柱の最外層にある内鞘(またはその外側の内皮)から新たな側根の原基が生じ、これが皮層や表皮を突き破って伸長する(図4a)。すなわち根の分枝は内生的 (endogenous; 新たな根が内部に形成される) であり、茎の分枝が外生的 (exogenous; 新たな茎が表面から形成される) であるのとは対照的である[8][16]

根はしばしば分枝を繰り返す。主となる根から生じた側根は一次側根 (primary lateral root)、そこから生じた側根は二次側根 (secondary lateral root) のように順によばれることがある[37]

側根はふつう根の中心柱に対して特定の位置に由来し、特に原生木部に面する部分(横断面で木部が外側へ突出している部分)から生じることが多いが、他にも原生師部に面する部分や原生木部と原生師部の間から生じる例も知られている[15][16]。そのため、側根は縦列(または螺生)して生じることが多く[8]、その列数から中心柱の構造が推定できる。側根が2列であるダイコンアブラナ科)は二原型木部、側根が4列であるニンジンセリ科)は四原型木部、側根が5列であるサツマイモヒルガオ科)は五原型木部をもつ[15]

4b. ヒカゲノカズラ小葉植物)の根(c, dは連続した不等二又分枝による分枝を含む)

上記のように根の分枝はふつう内生的であり側方分枝であるが、例外的に小葉植物の根はそのと同様に、根端分裂組織が2分することによって二又分枝する[38][39][40](図4b)。つまり小葉植物の根の分枝は外生的(新たな根が表面から形成される)である。また小葉植物は、根の木部が内原型である点でも他の維管束植物とは異なっている(上記)。このように小葉植物とそれ以外の維管束植物(大葉植物、真葉植物)の根は大きく異なる特徴を示し、一般的にこれらの根は異なる起源をもつものと考えられている[38][39]。ただし小葉植物の根も、根冠根毛をもつ点や、から内生発生する点では大葉植物の根と共通している。

根系

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ある植物において地下部または根全体、あるいは1個の根とそこから生じている根を合わせたものは、根系(こんけい、root system)とよばれる[41][8][42][3]。地下部全体とする場合、根系は根と共に地下茎なども含む[14]。この場合、維管束植物の植物体は、地上部のシュート系と地下部の根系からなる[43]

太根と細根

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太さに応じて根を太根と細根に類別することがある[37]樹木では、一部の根が太く肥大し、それに細い根をまじえている。一方、イネ科草本などでは、全ての根が肥大せず同様な太さになっている。このような中で、太く肥大した根を太根 (woody root, thick root)、太根を主とする根系は太根型根系 (woody root system) とよぶことがある。一方、細いままである根を細根 (fine root, rootlet)、細根を主とする根系は細根型根系 (fine root system) とよぶことがある。

定根と不定根

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5a. 主根型根系(紫色は菌根菌[注 3]
5b. ひげ根型根系.
5c. 茎の節から生じた不定根(節根)

維管束植物において、根はの段階(種子の中など)で幼根 (radicle) として形成される[10][37]。これが成長して一次根[44](初生根[37]、primary root)となり、発達したものは主根[37][45][注 4] (main root、直根[10] taproot) になる。主根からは側根が生じる。このように幼根に由来する根、およびそこから生じた根を定根とよぶ[14]。定根からなる根系は、一次根系 (primary root system) とよばれ[14]、また主根型根系[37](主根系[46]、直根系[3]、taproot system)ともよばれる(図5a)。

定根に対して、幼根以外に由来する根は不定根 (adventitious root) とよばれる[10][37][47]。不定根は、ふつうの維管束周辺から内生的に生じるが、まれに外生的に生じる例も知られている(例:ベゴニアの葉挿し)[16][48]。不定根は茎の節から生じることが多く、このような根は節根 (nodal root) ともよばれる[37](図5c)。そのため、挿し木にはふつう節を残した茎が用いられる[24]。また定根と同様、不定根も側根を生じて側方分枝する(小葉植物以外; 上記参照)。シダ植物(広義)や単子葉植物では、ふつうほとんどの根が不定根からなる。このような根系は二次根系 (secondary root system) または不定根系 (adventitious root system) とよばれる[14]。また多数まとまって生じている一様な不定根はひげ根 (fibrous root) とよばれ[37][49]、ひげ根からなる根系はひげ根型根系[37](ひげ根系[3]、fibrous root system)とよばれる(図5b)。

種子植物において、種子から生じる根は種子根 (seminal root) とよばれる[10][37]。種子根はふつう幼根であるが、既に幼根から側根(種子側根)が生じている例もある[50]。またイネ科などでは、胚軸から生じた不定根が種子根となることもある(種子不定根 seminal adventitious root)[50]

一次成長と二次成長

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6a. マツ属マツ科)の根の横断面: 中央2/3ほどは二次木部からなり、その周囲は二次師部と皮層、周縁部はコルク組織で覆われている。
6b. ナラブナ科)の根の横断面: 大部分は放射組織を含む二次木部からなり、周縁部はコルク組織で覆われている。

上記のように、根は頂端分裂組織 (apical meristem) である根端分裂組織における細胞分裂とそれに続く細胞の拡大伸長によって成長する[4][19][20]。この成長は一次成長 (primary growth) とよばれ、基本的に長さを増す成長である[51]。一方、一次成長がほぼ完了した部位において新たな分裂組織が生じることがあり、これによる成長は二次成長 (secondary growth) とよばれる[51]。二次成長は基本的に太さを増す成長であり、これを司る分裂組織は側部分裂組織 (lateral meristem) である[51]。側部分裂組織には、維管束形成層やコルク形成層がある。

単子葉植物などを除き、多くの種子植物の根は二次成長を行う[9][16][52]一次木部一次師部の間に(木部を取り囲むように)維管束形成層 (vascular cambium) がつくられ、内側に二次木部を、外側に二次師部を形成していく[9][53]。根はふつう放射中心柱をもつため、維管束形成層の横断面は最初は星状だが、二次成長によってやがて円形になる[16][52][53]木本植物の根では、茎と同様に二次木部は主に仮道管や道管要素、木部繊維など木化した細胞からなるが(図6a, b)、サツマイモヒルガオ科)などの根では多量の柔細胞が形成される[54]

茎の二次成長と同様、活発な二次成長によって直径が増すと、表皮、さらに皮層は裂けて剥がれることがある。この際には、皮層や内鞘などに1層の細胞からなる側部分裂組織であるコルク形成層 (phellogen) が形成される[9][24][55][56]。コルク形成層は外側にコルク組織 (phellem)、内側にコルク皮層 (phelloderm) を形成し、これらは合わせて周皮 (periderm) とよばれる。コルク組織の細胞は原形質を欠き、細胞壁スベリン、ときにリグニンが沈着して根の表面を保護している(図6a, b)。

根の機能

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7. マンゴーウルシ科)の木の地下部断面: 発達した根が張り巡らされ、地上部を支えている。

根はふつう地中にあって植物体を固定し、地上部を支えるとともに(図7)、やそこに含まれる窒素塩(硝酸塩など)やカリウムカルシウムリン酸などの無機養分を吸収し、維管束木部を通して植物体全体に送る(木部輸送)。根は分枝することで表面積を広げ、このような水や無機養分を吸収している。ライムギイネ科)の場合、根の表面積は地上部のシュート系(茎と葉)の表面積の40倍に達すると試算されている[48]。根は効率的な無機栄養吸収のための応答を示し、例えば硝酸塩が多い場所では根はよく分枝し、またその細胞は効率よく硝酸塩を吸収できるような遺伝子発現を行う[57]根毛菌根菌の存在は根の表面積を広げ、根の吸収効率を高めている。

土壌粒子はふつう負に帯電しているため、硝酸リン酸硫酸などの陰イオンは土壌粒子には結合しない。そのためこれらの無機栄養は容易に土壌溶液に溶脱し、根によって吸収される[58]。一方、カリウムカルシウムマグネシウムなど陽イオンは土壌粒子に結合しており、容易には溶脱しない。根は呼吸によって土壌中に二酸化炭素を放出し、土壌溶液を酸性化する。その結果水素イオン(H+)が供給される。この水素イオンが土壌粒子を中和、結合していた陽イオンが土壌溶液に溶脱し、根が吸収する。この過程は陽イオン交換 (cation exchange) とよばれる[58]

根の表面で吸収された無機養分を含む水溶液は、細胞壁内や細胞間隙など原形質外の通路(アポプラスト経路)や原形質を通る通路(シンプラスト経路)を通って維管束木部へ輸送される[57]。根では、維管束は内皮に囲まれているため、吸収された水溶液が木部に輸送される際には必ず内皮を通る。内皮細胞どうしの接着部には疎水性物質であるスベリンが蓄積してカスパリー線が形成され、さらに細胞膜がカスパリー線に密着している[31][28][57]。そのため、アポプラスト経路で輸送されてきた水溶液も、内皮では細胞壁を通ることはできず、必ず内皮細胞の原形質を通らなければならない。内皮細胞は木部へ送られる物質の選別を行い、必要な物質を通し、不必要な物質は透過しない[57]。また、内皮細胞は中心柱から外側へ物質が逆流することを防いでいる[57]。さらに、皮層の最外層にカスパリー線をもつ外皮が形成されることもある(上記)。

根は植物ホルモンであるサイトカイニンの主な生成場所であり、他にもオーキシンジベレリンストリゴラクトンなどの植物ホルモンを生成する[59]。サイトカイニンは細胞分裂を制御し、オーキシンは側根不定根の形成を促進する[59]。またオーキシンは高濃度では細胞伸長を抑制するが、この伸長抑制が根の重力屈性に関わっていると考えられている[59]エチレンによって根や根毛形成が促進され、ブラシノステロイドは低濃度で根の成長促進、高濃度で根の成長阻害をする[59]。ストリゴラクトンは菌根菌を根に誘因するが、ストリゴラクトンを感知して宿主の根に寄生する寄生植物も知られている[60]

さまざまな根

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根はふつう地中にあり、植物体の固定と水・無機養分の吸収という機能をもつ。しかし地中部にあってもこれ以外の機能をもつ根も存在する。また地中ではなく地上に伸びて機能する根もある(気根)。さらに、根はしばしば他生物(菌根菌根粒菌、宿主植物など)と密接な共生関係を結んでいる。

地中根

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地中にある根は地中根 (terrestrial root) と総称される[37]

8a. キク科草本の普通根(定根)
8b. ブラックベリーバラ科)の普通根(不定根)
  • 普通根 (ordinary root)[37]
    形態的にも機能的にもふつうの根のこと。定根の場合も不定根の場合もある(図8a, b)。
8e. ダイコンアブラナ科)の多肉根(青首の部分は胚軸)
8f. ビートヒユ科)の多肉根
8g. ヒアシンスキジカクシ科)の収縮根(環状のしわが見える)
8h. レウコスペルムム属ヤマモガシ科)のクラスター根
  • 収縮根 (contractile root; 牽引根 traction root)[10][16][37][62]
    地下茎が成長に伴って地上部に出るのを防ぐために、これを地中に引き込む機能をもつ根のこと。伸長後に収縮するため、表面に環状のしわが生じる(図8g)。地下茎から生じる不定根である。ユリユリ科)やグラジオラスアヤメ科)、リンドウリンドウ科)、シシウド属セリ科)、アザミキク科)などに見られる。
  • クラスター根 (cluster root, proteoid root)[63]
    短い側根が密生して試験管ブラシ状に変形した根(図8h)であり、また有機酸分泌能力が一般的な根よりも高く、土壌中の難利用性のリンを溶解し吸収しやすくすることでリン欠乏土壌に適応している。ヤマモガシ科(学名: Proteaceae)の植物から発見されたため、かつては proteoid root とよばれていた。しかし後にマメ科クワ科ヤマモモ科などからも見つかったため、形態的特徴に基づいてクラスター根(房のような根の意味)とよばれるようになった。また側根ではなく根毛が房状に形成されたダウシフォーム根(dauciform root)がカヤツリグサ科イグサ科の一部に、同様のキャピラロイド根がサンアソウ科に見られ、これらもクラスター根と同様にリン吸収に適応したものであると考えられている[64]

気根

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地上部にある根は気根 (aerial root) と総称される[37][65]地下茎から生じるものや、地上茎、水中茎から生じるものなどがある。

9a. オヒルギヒルギ科)の呼吸根(屈曲膝根)(奥に支柱根も見られる)
9b. ヌマスギヒノキ科)の呼吸根(直立膝根)
  • 呼吸根(通気根[54]、respiratory root, pneumatophore)[37][66](→詳細は「呼吸根」を参照
    地上に露出し、地下部の呼吸のための酸素を取り入れる根のことであり、内部に通気のための組織をもつ。沼沢地など地中の酸素に乏しい環境に多い。上へ垂直に伸びる直立根 (erect root)(例:ハマザクロ)、上下に屈曲しながら伸びる屈曲膝根 (curved knee-root)(例:オヒルギ; 図9a)、根の背面が所々で上部に向かって肥大する直立膝根 (erect knee-root)(例:ヌマスギ; 図9b)に類別される。
9c. カトレアラン科)の吸水根
9d. クモランラン科)の同化根
  • 吸水根 (absorptive root)[37]
    空気中の水分を吸収するための根のこと。表皮が多層化して死細胞となり(ときに木化する)、空気中の水分を吸収・貯蔵することができる。このような表皮は根被 (velamen) とよばれる[23][24]サトイモ科ラン科着生植物に例がある(図9c)。また「吸水根」という用語は全く別の意味で用いられることがあり、1つの植物において、土壌深くまで伸びて主に水を吸収する根を吸水根、浅く広がって主に無機養分を吸収する根を吸肥根とよぶことがある[67]
  • 同化根 (assimilation root, assimilatory root)[37][68]
    多数の葉緑体を含み、扁平化して光合成を行う根(図9d)。カワゴケソウ科クモランラン科)ではが退化しており、同化根が光合成器官となる。
9e. カポックアオイ科)の板根
9f. タコノキ属タコノキ科)の支柱根
9g. 多数の気根を垂らした Ficus virensクワ科
9h. 気根によって他の木を覆う Ficus barbata(クワ科)
  • 絞め殺し植物 (strangler)[70](→詳細は「絞め殺しの木」を参照
    他の植物(宿主)の樹冠で発芽し、成長する。寄生植物ではないため宿主となった植物から栄養を奪うことはないが、地面に向けて多数の気根を伸ばし(図9g)、やがてこの気根が宿主の幹を覆うとともに(図9h)、茎は葉を付けて宿主の樹冠を覆う。宿主植物が枯死した場合には("絞め殺し")その部分が空洞になり、かご状になった絞め殺し植物の気根が残る。ガジュマルなどイチジク属クワ科)に例が多いが、他にもヤドリフカノキウコギ科)やヤマグルマヤマグルマ科)が絞め殺し植物となることがある。
9i. イワガラミアジサイ科)の付着根
9j. バニララン科)の節からは、巻ひげになる気根が生じている。
9k. ヘゴ属薄嚢シダ類)の茎を覆う保護根
9l. クリオソフィラ属(ヤシ科)の根針
  • 保護根 (protecive root)[37]
    茎から生じ、多数が密に絡み合って茎を厚く覆う根であり(図9k)、茎を保護し機械的支持を与える。いわゆる木生シダとよばれる植物に見られ、ヘゴ薄嚢シダ類)では茎の直径 13 cm に対して保護根の厚さ 56 cm に達した例がある。
  • 根針(根刺、root spine, root thorn)[37][54][73]
    茎から生じ、硬い棘になった根(図9l)。ヤシ科に例が多く、その他に Moraeaアヤメ科)、ヤマノイモ属(ヤマノイモ科)などで見られることがある。

水中根

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10. コウキクササトイモ科)はそれぞれ1本の水中根をもつ.

通常の状態として水中に伸びている根を水中根 (aquatic root) という[37](図10)。このような根は、根冠や根毛を欠いていることがある[8][26]ミズキンバイアカバナ科)は、水底を横走する根茎の背面から列状に生じて水中に浮かんでいる根をもち、特に浮根 (floating root) とよばれる[37]

他生物と共生した根

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根はふつうは地中にあり、他生物と密接な共生関係を築いている例が多い。根は特に根冠や根毛を通じて有機物(光合成産物の20%にも達することもある)を土壌中に分泌・放出しており、根の周囲に特異な環境を形成している[58]。このような環境は根圏 (rhizosphere) とよばれ、さまざまな微生物が植物と共生関係を結んで生育している。また下記のように、ほとんどの維管束植物は根において菌類と直接的に共生して菌根を形成しており、さらに窒素固定を行う生物と共生して特異な構造を形成している例もある。

11a. 菌鞘に覆われている外生菌根
11b. アーバスキュラー菌根は外見的な特殊化は見られない。写真では根から伸びる菌糸と胞子(褐色の球)が見られる。
11c. a. ラン型菌根菌のペロトン. b. アーバスキュラー菌根菌の樹枝状体. c. 根の細胞(大型で液胞で占められた細胞)の間隙を占める外生菌根菌のハルティッヒネット断面.
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11c. a. ラン型菌根菌のペロトン. b. アーバスキュラー菌根菌の樹枝状体. c. 根の細胞(大型で液胞で占められた細胞)の間隙を占める外生菌根菌のハルティッヒネット断面.
  • 菌根 (mycorrhiza, pl. mycorrhizae)[37](→詳細は「菌根」を参照
    維管束植物のほとんどは根において菌類(菌根菌、mycorrhizal fungus) と共生し、菌根を形成している[74]。ただし水生植物やウラボシ科アブラナ科ヒユ科ナデシコ科タデ科などでは菌根をもたない種が比較的多く知られている。菌根の形態や菌根菌のグループにはさまざまなタイプが知られており、それに応じて外生菌根(外菌根; 図11a, 11c-c)、アーバスキュラー菌根(図11b, 11c-b)、ツツジ型菌根(エリコイド菌根)、イチヤクソウ型菌根(アルブトイド菌根)、シャクジョウソウ型菌根(モノトロポイド菌根)、ラン型菌根(図11c-a)などに類別されている[75]。この中ではアーバスキュラー菌根が最も普遍的であり、進化的にも最も祖先的な菌根であると考えられている[74]。根が合成する植物ホルモンであるストリゴラクトンは、アーバスキュラー菌根菌を根に誘引する[59]。菌根菌が根の表層や細胞間隙に菌糸を張り巡らせるものや、植物細胞内(正確には細胞壁細胞膜の間)に侵入して栄養交換用の構造を形成するものがいる[58][76](図11c)。菌根菌の菌糸は根毛よりも細く、遥かに長く土壌中に張巡らされており、より効率的に無機養分や水を吸収し、これを植物に供給している[77]。また菌根菌は、植物に病害や乾燥ストレスに対する耐性を付与することも知られている[78]。一方、植物は菌根菌に有機物を与えており、菌根菌との間に相利共生関係が築かれている。ただし植物の中には、自らは光合成せずに有機物も菌根菌から得ている例がある(腐生植物 = 菌従属栄養植物、菌寄生植物)[79]。また菌根菌は、異種間を含むさまざまな植物の根をつなぎ(菌根菌ネットワーク)、その間で糖などの物質転送が起こっていることが知られている[76][80]
11d. エンドウ属(マメ科)の根粒
11e. ダイズマメ科)根粒内の根粒菌(濃色部)(透過型電子顕微鏡像)
  • 根粒(根瘤、root nodule)[37](→詳細は「根粒」を参照
    マメ科の植物では、根に根粒菌と総称される窒素固定能をもつ細菌が共生し、根粒とよばれる粒状の構造を形成する(図11d, e)。根粒菌は窒素化合物を供給し、植物は有機物を供給する相利共生関係が築かれている。マメ科植物と共生する根粒菌はプロテオバクテリア門に属するが、マメ目に比較的近縁なバラ目グミ)、ブナ目ヤマモモハンノキモクマオウ)、ウリ目ドクウツギ、ナギナタソウ) の中には、窒素固定能をもつ放線菌フランキア属と共生して根粒を形成するものが知られている[81]。このような植物はアクチノリザル植物 (actinorhizal plant)、形成される根粒は放線菌根 (actinorhiza) やハンノキ型根粒ともよばれる[82][83](図11f)。マメ目、バラ目、ブナ目、ウリ目は単系統群を形成しており、この系統群は窒素固定クレードとよばれる[84]。根粒形成の機構は、アーバスキュラー菌根形成の機構をもとにしたものであることが示されている[84]
11f. ヨーロッパハンノキ(カバノキ科)のハンノキ型根粒
11g. ナンヨウソテツ(ソテツ科)のサンゴ状根
  • サンゴ状根 (coralloid root)[85][86](図11g)
    ソテツ類裸子植物)は、根の一部が負の重力屈性(背地性; 上方に生長する性質)を示し、サンゴ状根とよばれる特殊な根を形成する。この根にはネンジュモ属Nostoc)のシアノバクテリア藍藻)が共生している。ネンジュモ属は窒素固定能をもち、窒素化合物をソテツ類に供給する。ソテツ類はさまざまな毒素をもつことが知られているが、そのうち BMAA (β-methylamino-L-alanine) はソテツ類自身が生成したものではなく、共生藍藻が生成したものであると考えられている[87]

寄生根

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12a. ヤドリギ(h = ): 宿主の師部 (c) 内を横走する不定根(寄生根、f)が宿主の木部 (b) へ側根 (e) を伸ばし、また不定芽 (g) をつける。
12b. 上がネナシカズラ(e = 表皮、r = 皮層、g = 維管束)、 下が宿主であるアマ(E = 表皮、R = 皮層と師部、H = 木部)。寄生根の木部が宿主の木部とつながっている(木部架橋)。

共生の1形態として、寄生がある。他の植物に寄生し養分を奪う植物は寄生植物とよばれ、自ら光合成を行いながら宿主からも栄養分を奪う半寄生植物(ヤドリギなど)と、光合成能を欠き、有機物も含めた栄養分を宿主から奪う全寄生植物(ネナシカズラなど)がある[88]。寄生植物は栄養分を吸収するために宿主に吸器 (haustorium, pl. haustoria) を付着させているが、寄生植物における吸器は特殊化した根であり、この根は寄生根 (parasitic root) ともよばれる[10][16][37]。寄生根では、しばしば寄生植物と宿主の維管束木部)がつながっている(木部架橋、xylem bridge)[24](図12b)。寄生根は、以下のようにいくつかのタイプに類別されることがある[37][54]

人間との関わり

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13a. テンサイヒユ科)の根(多肉根)は砂糖の原料とされる。
13b. サツマイモヒルガオ科)の根(塊根)は食用とされる。

根菜とよばれる野菜の中には、サトイモサトイモ科)、タマネギヒガンバナ科)、レンコン(ハス科)、ジャガイモナス科)など実際には根ではなく根茎塊茎など)に由来するものも多い。根(ときにそれに続く胚軸も含めて)を食用として利用するものとしては、ダイコンカブハツカダイコンホースラディッシュルタバガマカアブラナ科)、キャッサバトウダイグサ科)、クズホドイモマメ科)、ビートテンサイ(図13a)(ヒユ科)、サツマイモ(図13b)(ヒルガオ科)、ニンジンパースニップセリ科)、ゴボウモリアザミサルシファイヤーコンキク科)などがある[10][37][89][90][91][92]

13c. 生薬とされるゲンチアナリンドウ科)の根
13d. 生薬とされるオタネニンジンウコギ科)の根(高麗人参)

一方、薬用とされる根もあり(地下茎と区別せずに共に用いられる例もある)、テンダイウヤククスノキ科)、ジャノヒゲキジカクシ科)、トリカブトサキシマボタンヅルキンポウゲ科)、シャクヤクボタンボタン科)、キバナオウギカンゾウクララマメ科)、イトヒメハギセネガヒメハギ科)、オオカラスウリウリ科)、ヒナタイノコヅチヒユ科)、ツルドクダミタデ科)、トコンアカネ科)、ゲンチアナ(図13c)、トウリンドウリンドウ科)、インドジャボクキョウチクトウ科)、ムラサキムラサキ科)、コガネバナシソ科)、ベラドンナハシリドコロナス科)、オタネニンジン(高麗人蔘; 図13d)(ウコギ科)、ミシマサイコノダケトウキトウスケボウフウヨロイグサセリ科)、キキョウキキョウ科)、カノコソウオミナエシスイカズラ科)、モッコウキク科)の根が利用される[93]

また、アカネアカネ科)や ムラサキムラサキ科)の根は、古くから染料として用いられてきた[94]

13e. シロツメクサ(マメ科

上記のように、マメ科植物の多くは根において窒素固定細菌と共生して根粒を形成している。そのため、耕作地にマメ科植物(シロツメクサミヤコグサなど)を栽培し、窒素栄養分などを土地に供給する緑肥として利用することがある(図13e)。マメ科植物の利用は、18世紀の農業革命において重要な役割を演じた[95]

根は地中を伸長し、また肥大成長することで母岩などを破壊し、このような働きは土壌形成に重要な役割を果たしている。このような働きにより、舗装道路など人工構造が破壊されることもある。また根の成長によって、アンコール遺跡などの遺跡が被害を受けることもある(一方でこのような景観が観光スポットにもなっている)[96](図13f)。

脚注

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注釈

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  1. ^ このような状態は、根上がりとよばれる[1]
  2. ^ 小葉植物の根の木部も外原型とする記述もある[34]
  3. ^ 菌根菌は主根型根系に特徴的というわけではなく、ひげ根型根系にもふつうに見られる。
  4. ^ 広義には、側根が生じている母軸となる根(定根か不定根かを問わない)を主根とよぶことがある[45]

出典

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関連項目

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外部リンク

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