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'''ベニテングタケ'''(ベニテングダケ、紅天狗茸、学名: {{Lang|en|''Amanita muscaria''}})は、[[ハラタケ目]][[テングタケ科]][[テングタケ属]]の[[キノコ]]。また[[ムッシモール]]キノコある。北半球の[[温帯]]や{{仮リンク|北方生態系|en|Boreal ecosystem|label=北方}}地域に自生していたベニテングタケはいつしか南半球の多くの国々にマツやカバの植林地と[[共生]]する形で[[帰化植物|持ち込まれ]]、現在では完全に[[汎存種]]っている。特に寒冷地にて育成を行う。また様々な[[落葉性|落葉樹]][[針葉樹]]に[[菌根|関係持つ]]
'''ベニテングタケ'''(ベニテングダケ、紅天狗茸、学名: ''Amanita muscaria'')は、[[ハラタケ目]][[テングタケ科]][[テングタケ属]]の[[キノコ]]。その鮮やかな色とは裏腹に猛毒ではない担子菌類である。特に寒冷地にて育成する。[[ヨーロッパ]]、[[ロシア]][[アジア]]、[[北アメリカ]]などの各地で広くみられる。[[英語]]ではフライ・アガリック(ハエキノコ)と呼ばれる<ref name="人間"/><ref name="デコーン紅"/>。[[岩手]]におけるアシタカベニタケ<ref name="名優"/>。寒冷のヨーロッパでは身近なキノコであり、幸福呼ぶキノコとして人気である{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}

[[ヨーロッパ]]、[[ロシア]]、[[アジア]]、[[北アメリカ]]などの各地で広くみられる。[[英語]]ではフライ・アガリック(ハエキノコ)と呼ばれる<ref name="人間"/><ref name="デコーン紅"/>。[[岩手]]におけるアシタカベニタケ<ref name="名優"/>。寒冷のヨーロッパでは身近なキノコであり、幸福を呼ぶキノコとして人気である{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}。一方、その鮮やかな色とは裏腹に、猛毒ではない担子菌類である。

最も象徴的な[[キノコ#毒キノコ|毒キノコ]]として考えられているこのキノコは、大きく白い[[キノコの部位#ひだ|ひだ]]、白い斑点を持ち、通常は赤いキノコであり、大衆文化において最もよく知られ広く目にするものの一つである。

ベニテングタケは容易に区別できる特徴を持つものの、既知の複数の変種や亜種が知られている菌類である。これらの亜種は僅かに異なっており、中には黄色や白色の傘を持つものもあるが、通常はすべてテングタケと呼ばれ、ほとんどの場合は目立つ白い斑点で判別が可能である。しかし、最近のDNA菌類の研究では、これらの変種のいくつかはこのキノコではないことが示されている。一例として、モモのような色をしたベニテングタケのようなものには、フライ・アガリックという一般名がつけられている。

[[キノコ中毒|有毒]]だと分類されているが、 ベニテングタケの摂取による人の死亡例は極めて稀である。ヨーロッパ、アジア、北アメリカの一部では、水切りをして2度ゆでた後、毒性を弱め、精神作用成分を分解することで食べられている。ベニテングタケの全ての品種、特に「{{Lang|en|''Amanita muscaria var. muscaria''}}」は[[幻覚]]作用があることで知られており、主な精神作用成分は神経毒である[[イボテン酸]]と[[ムッシモール]]となっている。{{仮リンク|シベリアの先住民族|en|Indigenous peoples of Siberia}}や[[サーミ人]]の間では、キノコは酒類や{{仮リンク|宗教における幻覚剤|en|Entheogen|label=宗教での幻覚剤}}として使用され、これらの文化において宗教的な意味合いを持つ。中東、ユーラシア、北アメリカ、スカンディナヴィアなどの他の地域では、伝統的にこのキノコが中毒物質として使われているのではないかと推測されている。

== 分類と名称 ==
ヨーロッパの多くの言語でこの[[キノコ]]の名称は、牛乳に振りかけると[[殺虫剤]]として使用できることに由来すると考えられている。この習慣は、[[ゲルマン語派]]と[[スラヴ語派]]を話すヨーロッパの一部、[[ヴォージュ山脈|ヴォージュ]]地方やフランスの他の地域、ルーマニアで記されている<ref name=Wasson1968>{{cite book |title={{Lang|en|Soma: Divine Mushroom of Immortality}} |last={{Lang|en|Wasson}} |first={{Lang|en|R. Gordon}} |year=1968|publisher={{Lang|en|Harcourt Brace Jovanovick}} |location= |isbn=978-0-88316-517-1 |language=en}}</ref>{{rp|198}}。[[アルベルトゥス・マグヌス]]は1256年以前に彼の著作『{{Lang|la|''De vegetabilibus''}}』でこのことを最初に記し<ref>{{cite book |title={{Lang|la|De vegetabilibus}} |author={{Lang|la|Magnus A.}} |authorlink=アルベルトゥス・マグヌス |year=1256 |chapter={{Lang|la|Book&nbsp;II, Chapter 6; p 87 and Book&nbsp;VI, Chapter 7; p 345}} |publisher= |location= |language=la}}</ref>、『{{Lang|la|''vocatur fungus muscarum, eo quod in lacte pulverizatus interficit muscas''}}』では、「ハエを退治するために牛乳の中に粉を入れることから、ハエキノコと呼ばれているのです」とコメントしている<ref name = "Ramsbottom44">{{Lang|en|Ramsbottom, p 44}} (英語).</ref>。
[[File:Fly Agaric mushroom 05.jpg|thumb|upright|傘の下の一部の膜が垂れ下がり、菌柄の周りに円を形成する]]
16世紀のフランドルの植物学者[[カロルス・クルシウス]]は、牛乳に振りかける習慣をドイツの[[フランクフルト・アム・マイン|フランクフルト]]にまで遡った<ref>{{cite book |title={{Lang|la|Rariorum plantarum historia}} |author={{Lang|la|Clusius C.}} |authorlink=カロルス・クルシウス |year=1601 |chapter={{Lang|la|Genus&nbsp;XII of the pernicious mushrooms}} |publisher= |location= |language=la}}</ref>。一方、「分類学の父」と呼ばれる[[カール・フォン・リンネ|カロルス・リンナエウス]]は、子供の頃に住んでいたスウェーデン南部の[[スモーランド地方|スモーランド]]から報告した<ref>{{cite book | author = {{Lang|la|Linnaeus C.}} | authorlink= カール・フォン・リンネ | title = {{Lang|la|Flora svecica [suecica] exhibens plantas per regnum Sueciae crescentes systematice cum differentiis specierum, synonymis autorum, nominibus incolarum, solo locorum, usu pharmacopæorum}} | publisher = {{Lang|la|Laurentii Salvii}} |location = {{Lang|en|Stockholm}} | year = 1745 | pages = | language = la}}</ref>。彼は1753年に著作『{{仮リンク|植物の種|en|Species Plantarum}}』の第2巻に<ref>{{cite book | author={{Lang|la|Linnaeus C}} | title={{Lang|la|Species Plantarum}}| volume={{Lang|la|vol. 2}}| publisher={{Lang|la|Laurentii Salvii}} |location={{Lang|en|Stockholm}} | year=1753 |chapter= {{Lang|la|Tomus&nbsp;II}} | chapter-url=https://www.biodiversitylibrary.org/page/359193| page=1172 | language=la}}</ref>、「{{Lang|la|''Agaricus muscarius''}}」という名称は、[[ラテン語]]で「飛ぶ」を意味する「{{Lang|la|musca}}」に由来する特有の形容語句であることを記述した<ref>{{cite book | author = {{Lang|en|Simpson DP}} | title = {{Lang|en|Cassell's Latin dictionary}} | publisher = {{Lang|en|Cassell Ltd.}} | year = 1979 | edition = 5th | location = {{Lang|en|London}} | page = 883 | isbn = 978-0-304-52257-6 | language = en }}</ref>。1783年に[[ジャン=バティスト・ラマルク]]によって[[テングタケ属]]に分類され、現在の学名となった。この学名は、1821年に「菌類学の父」であるスウェーデンの菌類学者[[エリーアス・フリース]]によって認可されたものである。全ての菌界の開始日は、フリースの仕事日である1821年1月1日として一般合意で設定されていたため、名称は当時「{{Lang|en|''Amanita muscaria'' (L.:Fr.) [[ウィリアム・ジャクソン・フッカー|Hook]]}}」とされていた。1987年版の[[国際藻類・菌類・植物命名規約]]では、菌類の学名の開始日と主要著作物に関する規則が変更され、学名はリンネの著作物の出版日である1753年5月1日までの名称が有効であるとみなすことができるようになった<ref>{{cite book | author = {{Lang|en|Esser K}} |author2 = {{Lang|en|Lemke PA}} | title = {{Lang|en|The Mycota: a comprehensive treatise on fungi as experimental systems for basic and applied research}} | publisher = {{Lang|en|Springer}} | year = 1994 | page = 181 | isbn = 978-3-540-66493-2 | language = en}}</ref>。そのため、リンナエウスとラマルクがベニテングタケ ({{Lang|en|L. Lam..}}) の命名者とされている。

イギリスの菌類学者[[ジョン・ラムズボトム (菌類学者)|ジョン・ラムズボトム]]の研究によれば、イギリスとスウェーデンにおいてベニテングタケは昆虫の駆除に使われており、「バグ・アガリック」という名称は、古い代替種の別称であったとしている<ref name = "Ramsbottom44"/>。フランスの菌類学者[[ピエール・ビュイヤール]]は、彼の著書『{{Lang|fr|''Histoire des plantes vénéneuses et suspectes de la France''}}』(1784年)の中で、ハエを退治する性質を再現しようと試みたが成功しなかったことを記しており、このことから「{{Lang|en|''Agaricus pseudo-aurantiacus''}}」という新たな二名法を提唱した<ref name=Wasson1968/>{{rp|200}}。菌類から単離された化合物の1つに、1,3-ジオレイン(1,3-ジ(シス-9-オクタデセノイル)グリセロール)があり、これは昆虫を誘引するものである<ref name="Bnejamin95">{{Lang|en|Benjamin, ''Mushrooms: poisons and panaceas'', pp 306–07}} (英語).</ref><ref name="Bowden K">{{cite journal |author={{Lang|en|Bowden, K.}} |author2= {{Lang|en|Drysdale, A. C.}}|author3= {{Lang|en|Mogey, G. A.}} |title={{Lang|en|Constituents of ''Amanita muscaria''}} |journal={{Lang|en|Nature}} |volume=206 |issue=991 |pages=1359–60 |date=June 1965 |pmid=5891274 |doi=10.1038/2061359a0|bibcode= 1965Natur.206.1359B|language=en}}</ref>。さらにハエは、その中毒性のあるハエのアガリクスを意図的に探し出しているのではないかという仮説が立てられている<ref>{{Cite book|title={{Lang|en|Animals and psychedelics: the natural world and the instinct to alter consciousness}}|first={{Lang|en|Giorgio}}|last={{Lang|en|Samorini}}|year=2002|isbn=978-0-89281-986-7|at={{Lang|en|823/1251 (67%) in Kindle edition}}|language=en}}</ref>。別の派生法として、「フライ」(ハエ)という用語は昆虫そのものを指すのではなく、菌類の摂取によって生じる[[せん妄]]を指すものであるとされている。これは、ハエが人の頭の中に入り込み、精神疾患を引き起こす可能性があるという中世の考えに基づいたものである<ref name = "Michelot03">{{cite journal |author={{Lang|en|Michelot D}} |author2={{Lang|en|Melendez-Howell LM.}} |s2cid=41451034 |title={{Lang|en|''Amanita muscaria'': chemistry, biology, toxicology, and ethnomycology}} |journal={{Lang|en|Mycological Research}} |volume=107 |issue=Pt 2 |pages=131–46 |year=2003 |pmid=12747324 |doi=10.1017/S0953756203007305 |language=en}}</ref>。このような意味合いを持つ地域の名称との関連性があるように見えるが、これはベニテングタケが、食用キノコとして高い評価を得ている[[セイヨウタマゴタケ]]の「狂った」や「愚か者」といった劣化した変種のように捉えられていることを意味する。そのため、[[カタルーニャ語]]では「{{Lang|ca|''oriol foll''}}」(狂ったオリオール)、[[トゥールーズ]]では「{{Lang|fr|''mujolo folo''}}」、南フランスの[[アヴェロン県|アヴェロン]]地方では「{{Lang|fr|''concourlo fouolo''}}」、イタリアの[[トレント自治県|トレンティーノ]]地方では「{{Lang|it|''ovolo matto''}}」となっている。またスイスの[[フリブール]]の方言での名称は、ツァピ・デ・ディアブール ({{Lang|fr|''tsapi de diablhou''}}) で、「悪魔の帽子」という意味である<ref name=Wasson1968/>{{rp|194}}。

=== 分類 ===
ベニテングタケはテングタケ属の{{仮リンク|タイプ種|en|Type species|redirect=1}}である。さらに、この[[亜属]]のテングタケ節と同様に、テングタケ亜属テングタケのタイプ種でもある。テングタケ亜属テングタケは、{{仮リンク|アミロイド (菌類学)|en|Amyloid (mycology)|label=非アミロイド}}胞子を有する全てのテングタケが含まれる。テングタケ[[節 (分類学)|節]]テングタケには、{{仮リンク|菌包|en|Volva (mycology)}}が同心円状の輪になるように縮められたものや、[[キノコの部位#傘|傘]]の斑状の{{仮リンク|ユニバーサル・ベール|en|Universal veil}}の残骸をもつ種などが含まれる。また、このグループのほとんどの種は球根状の基部を持つ<ref name=singer>{{cite book|author={{Lang|en|Singer R.}}|title= {{Lang|en|The Agaricales in modern taxonomy}}|year=1986|edition={{Lang|en|4th}}|isbn=978-3-87429-254-2|publisher={{Lang|en|Koeltz Scientific Books}}|location={{Lang|en|Koenigstein, West Germany}}|language=en}}</ref><ref name=jenkins>{{cite book|author={{Lang|en|Jenkins DT}}|title= {{Lang|en|Amanita of North America}}|publisher={{Lang|en|Mad River Press}}|year=1986|isbn=978-0-916422-55-4|language=en}}</ref>。テングタケ節テングタケはベニテングタケとその近縁種である[[テングタケ]]、[[ウスキテングタケ]]、{{仮リンク|ヒメコナカブリツルタケ|en|Amanita farinosa}}、{{仮リンク|Amanita xanthocephala|en|Amanita xanthocephala|label={{Lang|en|''Amanita xanthocephala''}}}}(和名なし)からなる<ref>{{cite web|url=http://www.amanitaceae.org/?section%20Amanita|title= {{Lang|en|''Amanita'' sect. ''Amanita''}}|author={{Lang|en|Tulloss RE}}|author2={{Lang|en|Yang Z-L}}|year=2012|series={{Lang|en|Studies in the Genus ''Amanita'' Pers. (Agaricales, Fungi)}} |accessdate=2013-02-21 |language=en}}</ref>。現代の菌類分類学者は、ベニテングタケとその仲間の種を肉眼的な[[形態学 (生物学)|形態]]と胞子のアミロイド形成に基づいてこのように分類している。そして、最近の2つの[[分子系統学]]的研究により、この分類が自然なものであることが確認されている<ref>{{PDFlink|{{cite journal |author={{Lang|en|Moncalvo JM}} |author2={{Lang|en|Drehmel D}} |author3={{Lang|en|Vilgalys R.}} |title={{Lang|en|Variation in modes and rates of evolution in nuclear and mitochondrial ribosomal DNA in the mushroom genus ''Amanita'' (Agaricales, Basidiomycota): phylogenetic implications}} |journal={{Lang|en|Molecular Phylogenetics and Evolution}} |volume=16 |issue=1 |pages=48–63 |date=July 2000 |pmid=10877939 |doi=10.1006/mpev.2000.0782 |url=http://www.biology.duke.edu/fungi/mycolab/publications/moncalvo2000mpe.pdf |accessdate=2009-02-16 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20090306082520/http://www.biology.duke.edu/fungi/mycolab/publications/moncalvo2000mpe.pdf |archivedate=6 March 2009 |url-status=dead |language=en }}}}</ref><ref>{{cite journal|author={{Lang|en|Drehmel D}}|author2={{Lang|en|Moncalvo JM}}|author3={{Lang|en|Vilgalys R.}}|title={{Lang|en|Molecular phylogeny of ''Amanita'' based on large subunit ribosomal DNA sequences: implications for taxonomy and character evolution}}|journal={{Lang|en|Mycologia}}|volume=91|issue=4|pages=610–18|year=1999|doi=10.2307/3761246|url=http://www.biology.duke.edu/fungi/mycolab/publications/amanitaMYCOLOGIA.html|type=abstract|accessdate=2009-02-16|jstor=3761246|url-status=dead|archiveurl=https://web.archive.org/web/20081228191743/http://www.biology.duke.edu/fungi/mycolab/publications/amanitaMYCOLOGIA.html|archivedate=2008-12-28|language=en}}</ref>。

==== 論争 ====
[[File:Amanita muscaria var. formosa sensu Thiers.jpg|thumb|right|upright|ベニテングタケの変種のフォルモサは現在 ベニテングタケの変種「ゲソウィ」の同義語<ref name=tulloss2 />。<!-- defined by Template:Amanita variety -->]]
ベニテングタケの形態はかなり多様であり、多くの専門家が種の内のいくつかの亜種や変種を認めている。ドイツの菌類学者[[ロルフ・シンガー]]は著作『{{Lang|en|''The Agaricales in Modern Taxonomy''}}』の中で記述はないものの、「{{Lang|en|''A. muscaria ssp. muscaria''}}」、「{{Lang|en|''A. muscaria ssp. americana''}}」、「{{Lang|en|''A. muscaria ssp. flavivolvata''}}」の3つの亜種を挙げている<ref name=singer/>。

しかし、菌類学者のヨージェフ・ゲムルと共同研究者らによる2006年のベニテングタケの異なる地域別個体群の分子系統学の研究により、この種の中にはおおよそユーラシア、ユーラシアの「亜高山」、そして北アメリカの個体群を代表する3つの異なる[[系統群]]が見つかった。3つの系統群全てに属する標本はアラスカで発見されていることから、これがこの種の多様化の中心であるという仮説に繋がった。また、この研究では両地域に自生する「{{Lang|en|var. ''alba''}}」、「{{Lang|en|var. ''flavivolvata''}}」、「{{Lang|en|var. ''formosa''}}」(「{{Lang|en|var. ''guessowii''}}」を含む)、「{{Lang|en|var. ''regalis''}}」の4つの名称が付いた品種を調査した。4つの品種は全てユーラシアと北アメリカの系統群の両方から発見され、これらの形態は異なる亜種や品種ではなく、むしろ[[多型]]であったころを示している<ref name="Geml06">{{PDFlink|{{cite journal|author={{Lang|en|Geml J}} |author2={{Lang|en|Laursen GA}} |author3={{Lang|en|O'Neill K}} |author4={{Lang|en|Nusbaum HC}} |author5={{Lang|en|Taylor DL}} |title={{Lang|en|Beringian origins and cryptic speciation events in the fly agaric (''Amanita muscaria'')}} |journal={{Lang|en|Molecular Ecology}} |volume=15 |issue=1 |pages=225–39 |date=January 2006 |pmid=16367842 |doi=10.1111/j.1365-294X.2005.02799.x |url=http://www.lter.uaf.edu/pdf/1190_Geml_Laursen_2006.pdf |url-status=dead |archiveurl=https://web.archive.org/web/20110716142858/http://www.lter.uaf.edu/pdf/1190_Geml_Laursen_2006.pdf |archivedate=2011-07-16 |citeseerx=10.1.1.420.2327 |language=en }}}}</ref>。2008年に発表されたゲムルらによる更なる分子研究によれば、これら3つの遺伝子グループに加えて、アメリカ南東部のオーク・ヒッコリー・パイン森に存在する4つのグループと、カリフォルニア州の[[サンタクルス島]]に存在する2つのグループが、遺伝的には互いに別種と考えられるほど明確に区分されることが明らかとなった。このように、現在のベニテングタケが{{仮リンク|複合種|en|Species complex}}ということは明白である<ref>{{PDFlink|{{cite journal|author1={{Lang|en|Geml, J.}} |author2={{Lang|en|Tulloss, R. E.}} |author3={{Lang|en|Laursen, G. A.}} |year=2008 |title={{Lang|en|Evidence for strong inter- and intracontinental phylogeographic structure in ''Amanita muscaria'', a wind-dispersed ectomycorrhizal basidiomycete}} |journal={{Lang|en|Molecular Phylogenetics and Evolution}} |volume=48 |issue=2 |pages=694–701 |url=http://mercury.bio.uaf.edu/~lee_taylor/pdfs/Geml_Mol-Phylo-Evol_2008.pdf |accessdate=2009-10-28 |doi=10.1016/j.ympev.2008.04.029 |pmid=18547823 |url-status=dead |archiveurl=https://web.archive.org/web/20090326023607/http://mercury.bio.uaf.edu/~lee_taylor/pdfs/Geml_Mol-Phylo-Evol_2008.pdf |archivedate=2009-03-26 |language=en }}}}</ref>。またこの複合種には、少なくとも他にも現在種と見なされている3つの近縁種も含まれている<ref name="tulloss1"/><!-- defined by Template:Amanita variety -->。{{仮リンク|Amanita breckonii|en|Amanita breckonii|label={{Lang|en|''Amanita breckonii''}}}}(和名なし)は太平洋北西部の針葉樹に見られる黄褐色の傘を持つキノコで<ref name=tulloss6>{{cite web|url=http://www.amanitaceae.org/?Amanita%20breckonii|title= {{Lang|en|''Amanita breckonii'' Ammirati & Thiers}}|author={{Lang|en|Tulloss, R. E.}}|year=2012|series={{Lang|en|Studies in the Genus ''Amanita'' Pers. (Agaricales, Fungi)&nbsp;– ''Tulloss RE, Yang Z-L.''}} |accessdate=2013-02-21|language=en}}</ref>、それぞれ{{仮リンク|Amanita gioiosa|en|Amanita gioiosa|label={{Lang|en|''Amanita gioiosa''}}}}(和名なし)は[[地中海盆地]]に、{{仮リンク|Amanita heterochroma|en|Amanita heterochroma|label={{Lang|en|''Amanita heterochroma''}}}}(和名なし)は[[サルデーニャ|サルデーニャ島]]に見られる褐色の傘を持つキノコである。最後の2種はどちらも[[ユーカリ]]と[[ゴジアオイ属|シスタス]]の木と一緒に見られるもので、それらが原産なのかオーストラリアから持ち込まれたのかは不明である<ref name=tulloss7>{{cite web|url=http://www.amanitaceae.org/?Amanita%20gioiosa|title= {{Lang|en|''Amanita gioiosa'' S. Curreli ex S. Curreli}}
|author={{Lang|en|Tulloss, R. E.}}|year=2012|series={{Lang|en|Studies in the Genus ''Amanita'' Pers. (Agaricales, Fungi)&nbsp;– ''Tulloss RE, Yang Z-L.''}} |accessdate=2013-02-21 |language=en}}</ref><ref name=tulloss8>{{cite web|url=http://www.amanitaceae.org/?Amanita%20heterochroma|title= {{Lang|en|''Amanita heterochroma'' S. Curreli}}|author={{Lang|en|Tulloss, R. E.}}|year=2012|series={{Lang|en|Studies in the Genus ''Amanita'' Pers. (Agaricales, Fungi)&nbsp;– ''Tulloss RE, Yang Z-L.''}} |accessdate=2013-02-21 |language=en}}</ref>。

{{Lang|en|''Amanitaceae.org''}} は2019年5月の時点で4つの種を挙げているが、“近い将来”独自の分類に分離されるとしている。挙げたものは以下の通り<ref name="Infraspecific Taxa">{{cite web |title={{Lang|en|Infraspecific taxa of muscaria}} |url=http://www.amanitaceae.org/?species%20muscaria |website={{Lang|en|amanitaceae.org}}|accessdate=2020-06-20 |language=en}}</ref>。

{| class="wikitable" style="font-size:90%;"
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! 画像
! 参照名<ref group="注釈" name="eigohyouki">英語表記の場合は、全て和名情報なし。</ref>
! 一般名
! 同義種<ref group="注釈" name="eigohyouki"/>
! 特徴<ref group="注釈" name="eigohyouki"/>
|-
|
! {{仮リンク|Amanita muscaria var. muscaria|en|Amanita muscaria var. muscaria|label={{Lang|en|''Amanita muscaria'' var. ''muscaria''}}}}<ref name=tulloss1>{{cite web|url=http://www.amanitaceae.org/?Amanita+muscaria |title= {{Lang|en|''Amanita muscaria'' Singer}}|author={{Lang|en|Tulloss RE}}|author2={{Lang|en|Yang Z-L}}|year=2012|series={{Lang|en|Studies in the Genus ''Amanita'' Pers. (Agaricales, Fungi)}} |accessdate=2019-05-06 |language=en}}</ref>
| ヨーロッパ-アジア・ベニテングタケ
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| 北欧・アジア原産の明るい赤色のベニテングタケ。紫色の色素が徐々に発生するため、傘が橙色や黄色になることがある。幅広の傘に白や黄色の斑点があり、雨が降ると取れる。
有毒であることが知られているが、北部の文化圏ではシャーマンが使用している。主にカバや多様な針葉樹の森林に見られる。
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| [[File:Amanita muscaria 26643.JPG|100px]]
! {{Lang|en|''Amanita muscaria'' var. ''flavivolvata''}}<ref name=tulloss2>{{cite web|url=http://www.amanitaceae.org/?Amanita%20muscaria%20subsp.%20flavivolvata |title= {{Lang|en|''Amanita muscaria'' subsp. ''flavivolvata'' Singer}}|author={{Lang|en|Tulloss RE}}|author2={{Lang|en|Yang Z-L}}|year=2012|series={{Lang|en|Studies in the Genus ''Amanita'' Pers. (Agaricales, Fungi)}} |accessdate=2013-02-21 |language=en}}</ref>
| アメリカン・ベニテングタケ
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| 赤色で、黄色から黄白色の斑点がある。アラスカ南部から[[ロッキー山脈]]、[[中央アメリカ]]、アンデス[[コロンビア]]まで全ての場所に見られる。ローダム・タロスはこの名称を用いて、新たな世界の先住民族の「典型的な」ベニテングタケ全てを解説している。
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| [[File:Flickr - Nicholas T - Forrest H. Dutlinger Natural Area (Revisited) (19).jpg|100px]]
! {{仮リンク|Amanita muscaria var. guessowii|en|Amanita muscaria var. guessowii|label={{Lang|en|''Amanita muscaria'' var. ''guessowii''}}}}<ref name=tulloss3>{{cite web|url=http://www.amanitaceae.org/?Amanita+muscaria+var.+guessowii |title= {{Lang|en|''Amanita muscaria'' var. ''guessowii'' Veselý}}|author={{Lang|en|Tulloss RE}}|author2={{Lang|en|Yang Z-L}}|year=2012|series={{Lang|en|Studies in the Genus ''Amanita'' Pers. (Agaricales, Fungi)}} |accessdate=2013-02-21|language=en}}</ref>
| アメリカン・ベニテングタケ(黄色変種)
| {{仮リンク|Amanita muscaria var. formosa|en|Amanita muscaria var. formosa|label={{Lang|en|''Amanita muscaria'' var. ''formosa''}}}}
| 傘の色は黄色から橙色で、中央の部分は更に橙色や赤橙色をしている。北アメリカ北東部で最も一般的に見られ、[[ニューファンドランド・ラブラドール州|ニューファンドランド州]]や[[ケベック州|ケベック州]]から南に[[テネシー州]]に至るまで存在する。一部の専門家(ジェンキンスなど)はこれらのグループを {{Lang|en|''Amanita muscaria'' var. ''formosa''}} として扱っているが、この他の専門家(タロスなど)はそれらを別個の種として捉えている。
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! {{Lang|en|''Amanita muscaria'' var. ''inzengae''}}<ref>{{cite web|title={{Lang|en|Amanita muscaria var. inzengae - Amanitaceae.org - Taxonomy and Morphology of Amanita and Limacella}}|url=http://www.amanitaceae.org/?Amanita%20muscaria%20var.%20inzengae|website={{Lang|en|www.amanitaceae.org}}|accessdate=2020-6-14|language=en}}</ref>
| インゼンガのベニテングタケ
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| 黄色から黄橙色の傘に黄色い斑点があり、茎が日焼けしている場合もある。
|}


== 特徴 ==
== 特徴 ==
[[File:Amanita muscaria section 1 WF orig.jpg|thumb|right|子実体の横断面(皮の下の色とひだ)|alt=真っ赤な皮を半分に切った白身のキノコ]]
[[Image:Amanita muscaria americana.jpg|thumb|right|黄色の傘をもつベニテングタケの亜種(アメリカ、マサチューセッツ州)]]
[[Image:Amanita muscaria americana.jpg|thumb|right|黄色の傘をもつベニテングタケの亜種(アメリカ、マサチューセッツ州)]]
深紅色の[[キノコの部位#傘|傘]]には、[[キノコの部位#つぼ|つぼ]]が崩れてできた白色のイボがある。完全に成長したベニテングタケの傘は、たいてい直径8-20cmであるが、さらに巨大なものも発見されている。<!--出典ここから-->激しい雨でイボがとれると、[[タマゴタケ]]に見えるので注意<ref name="名人"/>。[[キノコの部位#柄|柄]]は白色で高さ5 - 20センチ・メートル、ささくれがあり、[[キノコの部位#つば|つば]]が付いている。根元は球根状にふくらんでいる。
大きく目立つ[[キノコ]]の一種であるベニテングタケは、一般的に特定の場所に多数存在しており、発生の全段階で{{仮リンク|果実体|en|Basidiocarp}}を持つグループに多く見られる。ベニテングタケの果実体は、白い卵のような形で土の中から現れる。地面から出てきた後の傘には、白から黄色の小さなピラミッド型の斑点が無数についている。これは、キノコの成長段階の時に、キノコ全体を包む膜だった{{仮リンク|ユニバーサル・ベール|en|Universal veil}}の残骸である。この段階でキノコを切ると、ベールの下に特徴的な黄色がかった皮の層が見られ、判別に役立つ。菌が増殖するにつれて、破れたベールから赤い色が現れ、斑点は目立たなっていく。大きさには変化はないものの、拡大する皮の領域に対して相対的に小さくなる。傘は球状から半球状へと変化し、完全に熟したものでは板状になり、平らになる<ref>{{cite book|author={{Lang|en|Zeitlmayr L.}}|year=1976|title={{Lang|en|Wild mushrooms: an illustrated handbook}}|publisher={{Lang|en|Hertfordshire, UK: Garden City Press}}|isbn=978-0-584-10324-3|language=en}}</ref>。完全に成長したベニテングタケの傘は、たいてい直径8 - 20[[センチメートル|cm]]であるが、さらに巨大なものも発見されている。雨が降った後や古いキノコでは、赤色が薄くなっていることがある。

遊離した[[キノコの部位#ひだ|ひだ]]は白色で、[[胞子紋]]も同様である。楕円形の胞子は 6.5 - 9 × 9 - 13 [[マイクロメートル|{{Lang|en|μm}}]]程である。そのため{{仮リンク|メルツァー試薬|en|Melzer's reagent|label=ヨウ素}}を塗布しても青くはならない<ref name="arora86">{{cite book |author={{Lang|en|Arora, D.}} |year=1986 |title={{Lang|en|Mushrooms demystified: a comprehensive guide to the fleshy fungi}} |edition={{Lang|en|2nd}} |location={{Lang|en|Berkeley}} |publisher={{Lang|en|Ten Speed Press}} |isbn=978-0-89815-169-5 |pages=[https://archive.org/details/mushroomsdemysti00aror_0/page/282 282–83] |url-access=registration |url=https://archive.org/details/mushroomsdemysti00aror_0/page/282 |langauge=en }}</ref>。[[キノコの部位#柄|柄]]は白色、高さは5 - 20cm、幅は1 - 2cmで、多くの大型キノコに見られる、ややもろい繊維質の組織を有する。根元には{{仮リンク|球根 (菌類学)|en|Volva (mycology)|label=球根}}があり、2つから4つの異なる輪やひだの形をしたユニバーサル・ベールの残骸がある。基底部のユニバーサル・ベールの残骸とひだの間には、白い{{仮リンク|環状 (菌類学)|en|Annulus (mycology)|label=輪}}の形をした{{仮リンク|部分膜|en|Partial veil}}(発生の際にひだを覆う)の残骸が残っている。時が経つにつれてかなり幅が広くなり、弛緩することがある。一般的に、柔らかい土のような匂い以外には関係のある匂いはない<ref name = "Ultimatemush">{{cite book| author = {{Lang|en|Jordan P}} | author2 = {{Lang|en|Wheeler S.}} | year = 2001 | title = {{Lang|en|The ultimate mushroom book}} | publisher = {{Lang|en|Hermes House}} | isbn = 978-0-8317-3080-2 | language = en }}</ref><ref name=Phillips06>{{cite book | author = {{Lang|en|Phillips R.}}| year = 2006 | title = {{Lang|en|Mushrooms}} | publisher = {{Lang|en|Pan MacMillan}} | isbn = 978-0-330-44237-4 | page = 140 | langauge = en }}</ref>。

非常に独特的な外見ではあるが、ベニテングタケはアメリカではこれ以外の黄色から赤色のキノコの種と間違えられており、[[ナラタケ属]]({{Lang|en|''Armillaria mellea''}}(和名なし)など)や食用の{{Lang|en|''Amanita basii''}}(和名なし)は、ヨーロッパのセイヨウタマゴタケに似たメキシコ産の種である。アメリカとカナダの毒物管理センターは、アマリル(スペイン語で「黄色」を意味する)がメキシコのセイヨウタマゴタケに似た種の[[一般名]]であることを認識するようになった<ref name=tulloss3/><!-- defined by Template:Amanita variety -->。セイヨウタマゴタケは傘全体が完全に橙色から赤色で、ベニテングタケにみられる多数の白いイボ状の斑点がないことによって区別されている。更にセイヨウタマゴタケの茎、ひだ、輪は白ではなく明るい黄色である<ref>{{cite book | author = {{Lang|en|Haas H.}} | year = 1969 | title = {{Lang|en|The young specialist Looks at fungi}} | publisher = {{Lang|en|Burke}} | isbn=978-0-222-79414-7 | page = 94 | language = en }}</ref>。菌包ははっきりした白い袋で、うろこ状にはなっていない<ref>{{cite book | author = {{Lang|en|Krieger LCC}} | year = 1967 | title = {{Lang|en|The mushroom handbook}} | publisher = {{Lang|en|Dover}} | isbn = 978-0-486-21861-8 | language = en }}</ref>。オーストラリアでは、持ち込まれたベニテングタケは、[[ユーカリ]]に伴って生える在来種の朱色のグリゼット({{仮リンク|Amanita xanthocephala|en|Amanita xanthocephala|label={{Lang|en|''Amanita xanthocephala''}}}}(和名なし))と混同されることがある。後者の種は、一般的にベニテングタケの白イボを欠き、輪を持たない<ref name="fungimapbk">{{cite book |title={{Lang|en|Fungi Down Under: the Fungimap guide to Australian fungi}}|author={{Lang|en|Grey P.}}|year=2005|page=21|publisher={{Lang|en|Royal Botanic Gardens}} |location={{Lang|en|Melbourne}} |isbn=978-0-646-44674-5 |language=en}}</ref>。

<!--出典ここから-->激しい雨でイボがとれると、[[タマゴタケ]]に見えるので注意である<ref name="名人"/>。[[キノコの部位#柄|柄]]は白色で高さ5 - 20cm程ささくれがあり、[[キノコの部位#つば|つば]]が付いている。深紅色の[[キノコの部位#傘|傘]]には、[[キノコの部位#つぼ|つぼ]]が崩れてできた白色の斑点がある。根元は球根状にふくらんでいる。


ベニテングタケは主に、高原の[[シラカバ]]や[[マツ]]林に生育し、[[針葉樹]]と[[広葉樹]]の双方に[[外菌根]]を形成する[[菌根菌]]である。おもに北半球の温暖地域から寒冷地域でみられる。比較的暖かい気候の[[ヒンドゥークシュ山脈]]や、[[地中海]]、[[中央アメリカ]]にも生息する。
ベニテングタケは主に、高原の[[シラカバ]]や[[マツ]]林に生育し、[[針葉樹]]と[[広葉樹]]の双方に[[外菌根]]を形成する[[菌根菌]]である。おもに北半球の温暖地域から寒冷地域でみられる。比較的暖かい気候の[[ヒンドゥークシュ山脈]]や、[[地中海]]、[[中央アメリカ]]にも生息する。


近年の研究では、[[シベリア]]、[[ベーリング]]地域を起源とし、そこからアジア、ヨーロッパ、北アメリカへ広がったと考えられている<ref>{{PDFlink|{{cite journal |author={{Lang|en|Geml J, Laursen GA, O'neill K, Nusbaum HC, Taylor DL}} |title={{Lang|en|Beringian origins and cryptic speciation events in the fly agaric (Amanita muscaria)}} |journal={{Lang|en|Mol. Ecol.}} |volume=15 |issue=1 |pages=225–39 |year=2006 |month=January |pmid=16367842 |doi=10.1111/j.1365-294X.2005.02799.x |url=https://s3.amazonaws.com/academia.edu.documents/38874488/Geml_Amanita_ME2006.pdf?AWSAccessKeyId=AKIAIWOWYYGZ2Y53UL3A&Expires=1513652538&Signature=1VkZjrMoOcvKos62CThzG%2BYrXpY%3D&response-content-disposition=inline%3B%20filename%3DBeringian_origins_and_cryptic_speciation.pdf |language=en}}}}</ref>。オーストラリアや南アフリカなどの南半球へも広く繁殖し、世界各地でみることのできるキノコとなった。
近年の研究では、[[シベリア]]、[[ベーリング]]地域を起源とし、そこからアジア、ヨーロッパ、北アメリカへ広がったと考えられている<ref>{{cite journal |author=Geml J, Laursen GA, O'neill K, Nusbaum HC, Taylor DL |title=Beringian origins and cryptic speciation events in the fly agaric (Amanita muscaria) |journal=Mol. Ecol. |volume=15 |issue=1 |pages=225–39 |year=2006 |month=January |pmid=16367842 |doi=10.1111/j.1365-294X.2005.02799.x |url=https://s3.amazonaws.com/academia.edu.documents/38874488/Geml_Amanita_ME2006.pdf?AWSAccessKeyId=AKIAIWOWYYGZ2Y53UL3A&Expires=1513652538&Signature=1VkZjrMoOcvKos62CThzG%2BYrXpY%3D&response-content-disposition=inline%3B%20filename%3DBeringian_origins_and_cryptic_speciation.pdf}}</ref>。オーストラリアや南アフリカなどの南半球へも広く繁殖し、世界各地でみることのできるキノコとなった。


[[日本]]では夏から秋にかけて、白樺、ダケカンバ、コメツガ、トウヒなどに発生し、分布の中心は北国や標高の高い地域であり、南日本ではほとんど見かけない<ref name="名人">{{Cite book|和書|author=井口 潔|title=いきなりきのこ採り名人|publisher=小学館|date=2008|isbn=978-4-09-104278-1|page=30}}</ref>。
[[日本]]では夏から秋にかけて、白樺、ダケカンバ、コメツガ、トウヒなどに発生し、分布の中心は北国や標高の高い地域であり、南日本ではほとんど見かけない<ref name="名人">{{Cite book|和書|author=井口 潔|title=いきなりきのこ採り名人|publisher=小学館|date=2008|isbn=978-4-09-104278-1|page=30}}</ref>。


なお、人工的な栽培はできないとされる<ref name="デコーン紅">{{Cite book|和書|author=ジム・デコーン|translator=竹田純子、高城恭子|title=ドラッグ・シャーマニズム|publisher=|date=1996|isbn=4-7872-3127-8|page=241-248}}{{Lang|en|''Psychedelic Shamanism'', 1994.}}</ref>。
なお、人工的な栽培はできないとされる<ref name="デコーン紅">{{Cite book|和書|author=ジム・デコーン|translator=竹田純子、高城恭子|title=ドラッグ・シャーマニズム|publisher=|date=1996|isbn=4-7872-3127-8|page=241-248}}''Psychedelic Shamanism'', 1994.</ref>。


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;毒について
;毒について
:本種を乾燥させると、[[イボテン酸]]がより安定した成分である[[ムッシモール]]に変化する。また、微量ながら[[ドクツルタケ]]のような猛毒テングタケ類の主な毒成分である[[α-アマニチン|アマトキシン]]類も含むため、長期間食べ続けると肝臓などが冒されるという。
:本種を乾燥させると、[[イボテン酸]]がより安定した成分である[[ムッシモール]]に変化する。また、微量ながら[[ドクツルタケ]]のような猛毒テングタケ類の主な毒成分である[[α-アマニチン|アマトキシン]]類も含むため、長期間食べ続けると肝臓などが冒されるという。
:毒成分は水溶性であるため、薄く刻んで、何度か水にさらしたり<ref name="RubArora">{{PDFlink|{{cite journal|doi=10.1007/s12231-008-9040-9|author={{Lang|en|Rubel, W.}}|author2={{Lang|en|Arora, D.}}|year=2008|title={{Lang|en|A Study of Cultural Bias in Field Guide Determinations of Mushroom Edibility Using the Iconic Mushroom, ''Amanita Muscaria,''as an Example}}|journal={{Lang|en|Economic Botany}}|volume=62|issue=3|pages=223–43 | url = http://www.davidarora.com/uploads/muscaria_revised.pdf | format=PDF | language=en }}}}</ref>、何度か茹でたりすると無毒化される<ref>[https://jp.rbth.com/arts/cuisine/2017/08/29/830226 ロシアで食されるやばいキノコ6種](2017年8月29日 著:アレクサンドラ・クラフチェンコ、ロシアビヨンド)</ref>。
:毒成分は水溶性であるため、薄く刻んで、何度か水にさらしたり<ref name="RubArora">{{cite journal|doi=10.1007/s12231-008-9040-9|author=Rubel, W.|author2=Arora, D.|year=2008|title=A Study of Cultural Bias in Field Guide Determinations of Mushroom Edibility Using the Iconic Mushroom, ''Amanita Muscaria,''as an Example|journal=Economic Botany|volume=62|issue=3|pages=223–43 | url = http://www.davidarora.com/uploads/muscaria_revised.pdf | format=PDF}}</ref>、何度か茹でたりすると無毒化される<ref>[https://jp.rbth.com/arts/cuisine/2017/08/29/830226 ロシアで食されるやばいキノコ6種](2017年8月29日 著:アレクサンドラ・クラフチェンコ、ロシアビヨンド)</ref>。
;食用例
;食用例
:本種の毒成分であるイボテン酸は強い[[旨味]]成分でもあり{{Efn|[[うま味調味料]]などに使用される[[グルタミン酸ナトリウム]]の約16倍。}}、少量摂取では重篤な中毒症状に至らないことから、長野県の一部地域では塩漬けにして摂食されている場合がある<ref>『科学大事典―MEGA』 講談社{{要ページ番号|date=2020-03-31}}。</ref>。長野・小諸地方では、乾燥して蓄え、煮物やうどんのだしとしても利用した{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}。煮こぼして塩漬けで2、3か月保存すれば毒が緩和されるので、食べ物の少ない冬に備えた{{sfn|小山昇平|1999|p=32}}。傘よりも柄の方が毒が少なく、よく煮こぼして水に晒して大根おろしを添えれば、味も歯切れもよい{{sfn|小山昇平|1999|p=32}}。
:本種の毒成分であるイボテン酸は強い[[旨味]]成分でもあり{{Efn|[[うま味調味料]]などに使用される[[グルタミン酸ナトリウム]]の約16倍。}}、少量摂取では重篤な中毒症状に至らないことから、長野県の一部地域では塩漬けにして摂食されている場合がある<ref>『科学大事典―MEGA』 講談社{{要ページ番号|date=2020-03-31}}。</ref>。長野・小諸地方では、乾燥して蓄え、煮物やうどんのだしとしても利用した{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}。煮こぼして塩漬けで2、3か月保存すれば毒が緩和されるので、食べ物の少ない冬に備えた{{sfn|小山昇平|1999|p=32}}。傘よりも柄の方が毒が少なく、よく煮こぼして水に晒して大根おろしを添えれば、味も歯切れもよい{{sfn|小山昇平|1999|p=32}}。
:あまり広まらなかったが<ref>{{Lang|en|Viess, Debbie.}} [http://www.mushroomthejournal.com/amanita-muscaria-edibility-1/ {{Lang|en|"Further Reflections on Amanita muscaria as an Edible Species"}}] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20151006035411/http://www.mushroomthejournal.com/amanita-muscaria-edibility-1/ |date=2015-10-06 }}, {{Lang|en|''Mushroom: The Journal of Wild Mushrooming'', Idaho, Fall 2011 - Winter 2012. Retrieved on 26 April 2015}} (英語).</ref>、早くとも19世紀以降のヨーロッパ地域、特にシベリアでは入植したロシア人が何度も茹でて無毒化し、食していた。1823年には、ロシアの博物学者[[ゲオルク・ハインリッヒ・フォン・ラングスドルフ]]が無毒化の方法を記している。19世紀後期の北米では、アフリカ系アメリカ人のキノコ販売者が、湯がいて酢につけてステーキソースとしていた。
:あまり広まらなかったが<ref>Viess, Debbie. [http://www.mushroomthejournal.com/amanita-muscaria-edibility-1/ "Further Reflections on Amanita muscaria as an Edible Species"] {{webarchive|url=https://web.archive.org/web/20151006035411/http://www.mushroomthejournal.com/amanita-muscaria-edibility-1/ |date=2015-10-06 }}, ''Mushroom: The Journal of Wild Mushrooming'', Idaho, Fall 2011 - Winter 2012. Retrieved on 26 April 2015.</ref>、早くとも19世紀以降のヨーロッパ地域、特にシベリアでは入植したロシア人が何度も茹でて無毒化し、食していた。1823年には、ロシアの博物学者[[ゲオルク・ハインリッヒ・フォン・ラングスドルフ]]が無毒化の方法を記している。19世紀後期の北米では、アフリカ系アメリカ人のキノコ販売者が、湯がいて酢につけてステーキソースとしていた。


== 分布と生息地 ==
== 毒および薬理 ==
毒性はさほど強くない(しかし[[テングタケ属|近縁種]]には猛毒キノコがある)<ref>{{Cite book|和書|author=根田仁|title=きのこミュージアム―森と菌との関係から文化史・食毒まで|publisher=八坂書房|date=2014|isbn=978-4-89694-179-1|page=279}}</ref>。ベニテングタケの主な[[毒]]成分は[[イボテン酸]]、[[ムッシモール]]、[[ムスカリン]]など。食べてから20-30分で[[瞳孔]]は開いて眩しくなり、弱い酒酔い状態となるが、それ以上の向精神作用、例えば虹を見るような幻覚を起こしたといった例はない。食べすぎると腹痛、[[嘔吐]]、[[下痢]]を起こす{{sfn|小山昇平|1999|p=30}}。どちらかというと、うま味成分でもあるイボテン酸の味に魅せられ、他のキノコは要らないといったキノコ採りも増えている{{sfn|小山昇平|1999|p=50}}。少しかじる程度であれば、のぼせて腹痛がするくらいの症状であるが、焼いただけの400グラム程度であれば、瞳孔が拡大して自転車も運転できないようになり、嘔吐や下痢の症状が発生する{{sfn|小山昇平|1999|pp=57-58}}。より重い中毒であれば、混乱、[[幻覚]]といった[[せん妄]]症状や[[昏睡]]がおきる。症状は2日以上続く場合もあるが、たいていは12 - 24時間程度でおさまる。
[[File:Amanita muscaria Marriott Falls 1.jpg|left|thumb|[[タスマニア州]]{{仮リンク|マウント・フィールド国立公園|en|Mount Field National Park}}近くの[[ラジアータパイン]]植林地に生えるベニテングタケ]]
ベニテングタケは全世界に分布する[[汎存種]]のキノコで、北半球の[[温帯]]および{{仮リンク|北方生態系|en|Boreal ecosystem|label=北方}}地域の針葉樹および落葉樹林を原産とし<ref name = "Geml06"/>、[[ヒンドゥークシュ山脈]]、地中海、中央アメリカなどの温暖な高緯度の地域にも含まれる。近年の分子的研究では、[[第三紀]]の[[シベリア]] - [[ベーリング地峡|ベーリング]]紀に起源を持ち、その後アジア、ヨーロッパ、北アメリカへと広がっていったと考えられている<ref name = "Geml06"/>。結実の時期は気候によって異なり、北アメリカのほとんどの地域では夏から秋にかけて結実するが、{{仮リンク|太平洋沿岸|en|Pacific coast|label=太平洋沿岸部}}では秋の後半から初冬にかけて行われる。この種は[[ヤマドリタケ]]とよく似た場所に度々見られ、[[菌輪]]にも現れる<ref name="benjamin305">{{Lang|en|Benjamin, ''Mushrooms: poisons and panaceas'', p 305}} (英語).</ref>。その後、松の苗と共に運ばれ、オーストラリア<ref>{{cite journal|author={{Lang|en|Reid DA}}|year=1980|title={{Lang|en|A monograph of the Australian species of ''Amanita'' Persoon ex Hooker (Fungi)}}|series={{Lang|en|Supplementary}}|journal={{Lang|en|Australian Journal of Botany}}|volume={{Lang|en|Series 8}}|pages=1–96|doi=10.1071/BT8008001|url=https://www.publish.csiro.au/BS/BT8008001|doi-broken-date=2020-05-12|langauge=en}}</ref>、ニュージーランド<ref>{{cite journal|doi=10.1080/0028825X.2001.9512739 |vauthors={{Lang|en|Segedin BP, Pennycook SR}} |title={{Lang|en|A nomenclatural checklist of agarics, boletes, and related secotioid and gasteromycetous fungi recorded from New Zealand}} |journal={{Lang|en|New Zealand Journal of Botany}} |volume=39 |issue=2 |pages=285–348 |year=2001 |language=en}}</ref>、南アフリカ<ref>{{cite journal |author={{Lang|en|Reid DA}}|author2= {{Lang|en|Eicker A.}}|title={{Lang|en|South African fungi: the genus ''Amanita''}}|journal={{Lang|en|Mycological Research}} |volume=95 |issue= 1|pages=80–95 |year=1991 |doi=10.1016/S0953-7562(09)81364-6 |language=en}}</ref>、南アメリカなど南半球にも広く持ち込まれ、ブラジル南部の[[パラナ州]]<ref name = "Geml06"/>と[[リオグランデ・ド・スル州]]<ref name="Wartchow 2013">{{cite journal |vauthors={{Lang|en|Wartchow F, Maia LC, de Queirox Cavalcanti MA}} |title={{Lang|en|Taxonomic studies of ''Amanita muscaria'' (L.) Lam (Amanitaceae, Agaricomycetes) and its infraspecific taxa in Brazil}} |journal={{Lang|en|Acta Botanica Brasilica}} |year=2013 |volume=27 |issue=1 |pages=31–39 |doi=10.1590/S0102-33062013000100005 |language=en}} {{open access}}</ref>にも見られる。


ベニテングタケの中毒症状による死亡例は非常にまれで、北米では2件報告されているのみである<ref>Cagliari GE. (1897). Mushroom Poisoning. ''Medical Record'' '''52''': 298.</ref>。ヨーロッパでのベニテングの致死量は、生の状態で5キログラムと推定されているが、この量は食べられる量ではない<ref name="デコーン紅"/>。とはいえ、8月に収穫したものは効力が強く、9月に収穫したものは吐き気のような体への影響が強いなどとも記され、環境や個体差の影響も大きい<ref name="デコーン紅"/>。
[[菌根|菌根性]]のベニテングタケは、[[マツ]]、[[トウヒ属|トウヒ]]、[[モミ属|モミ]]、[[カバノキ属|カバノキ]]、および[[ヒマラヤスギ属|ヒマラヤスギ]]を含む多くの樹木と共生関係を形成している。一般的に輸入された樹木の下によく見られるベニテングタケは<ref name=Fuhrer05/>、[[ニュージーランド]]、[[タスマニア州|タスマニア]]、[[ビクトリア州|ビクトリア]]では[[雑草]]に相当する菌類であり、更に南部のブナ({{仮リンク|ナンキョクブナ属|en|Nothofagus|label=ナンキョクブナ|redirect=1}})との新たな関係を形成している<ref>{{cite book | author = {{Lang|en|Hall IR}} | author2 = {{Lang|en|Stephenson SE}} | author3 = {{Lang|en|Buchanan PK}}| author4 = {{Lang|en|Yn W}} | author5 = {{Lang|en|Cole AL}}| title = {{Lang|en|Edible and poisonous mushrooms of the world}} | year = 2003 | publisher = {{Lang|en|New Zealand Institute for Crop & Food Research Limited}} | pages = 130–1 | isbn = 978-0-478-10835-4 | language = en }}</ref>。この種はオーストラリアの熱帯雨林にも侵入しており、そこでは在来種と置き換わっている可能性がある<ref name=Fuhrer05>{{cite book|author={{Lang|en|Fuhrer BA}}|title={{Lang|en|A field guide to Australian fungi}}|publisher={{Lang|en|Bloomings Books}}|location={{Lang|en|Melbourne}}|year=2005|page=24|isbn=978-1-876473-51-8|language=en}}</ref>。北に向かって広がっているようで、最近の報告では[[ニューサウスウェールズ州]]北岸の{{仮リンク|ポート・マッコーリー|en|Port Macquarie}}付近にも生息していることが分かった<ref name="fungimapnl">{{cite journal|author={{Lang|en|May T.}}|year=2006|title={{Lang|en|News from the Fungimap president}}|journal={{Lang|en|Fungimap Newsletter}}|volume=29|page=1|url=http://www.rbg.vic.gov.au/?f=16290|language=en}}</ref>。このことは、2010年に[[西オーストラリア州]]{{仮リンク|マンジマップ|en|Manjimup, Western Australia}}でシルバーバーチ({{仮リンク|ヨーロッパシラカンバ|en|Betula pendula}})の下で記録された<ref>{{PDFlink|{{cite journal|author={{Lang|en|Robinson R}} |title={{Lang|en|First Record of ''Amanita muscaria'' in Western Australia}} |journal={{Lang|en|Australasian Mycologist}} |volume=29 |issue=1 |pages=4–6 |year=2010 |url=https://docs.wixstatic.com/ugd/86d4e0_ee6ac9c39b96434197e37aa3afe78454.pdf |language=en}}}}</ref>。オーストラリアにおいては明らかに[[ユーカリ]]に対しては広がっていないものの、ポルトガルではユーカリと共生していることが実際に記録されている<ref>{{cite book|author={{Lang|en|Keane PJ}}|author2={{Lang|en|Kile GA}}|author3={{Lang|en|Podger FD}}|title={{Lang|en|Diseases and pathogens of eucalypts}}|publisher={{Lang|en|CSIRO Publishing}}|location={{Lang|en|Canberra}}|year=2000|page=85|isbn=978-0-643-06523-9|language=en}}</ref>。

== 毒性 ==
[[File:Amanita muscaria After Rain.jpg|thumb|upright|成熟したもの。白い斑点は大雨で流されることがある|alt=傘に複数の白い斑点がある背の高い赤いキノコ]]
毒性はさほど強くない<ref>{{Cite book|和書|author=根田仁|title=きのこミュージアム―森と菌との関係から文化史・食毒まで|publisher=八坂書房|date=2014|isbn=978-4-89694-179-1|page=279}}</ref><ref group="注釈">しかし、[[テングタケ属|近縁種]]には猛毒キノコがある。</ref>。ベニテングタケの主な[[毒]]成分は[[イボテン酸]]、[[ムッシモール]]、[[ムスカリン]]など。食べてから20-30分で[[瞳孔]]は開いて眩しくなり、弱い酒酔い状態となるが、それ以上の向精神作用、例えば虹を見るような幻覚を起こしたといった例はない。食べすぎると腹痛、[[嘔吐]]、[[下痢]]を起こす{{sfn|小山昇平|1999|p=30}}。どちらかというと、うま味成分でもあるイボテン酸の味に魅せられ、他のキノコは要らないといったキノコ採りも増えている{{sfn|小山昇平|1999|p=50}}。少しかじる程度であれば、のぼせて腹痛がするくらいの症状であるが、焼いただけの400グラム程度であれば、瞳孔が拡大して自転車も運転できないようになり、嘔吐や下痢の症状が発生する{{sfn|小山昇平|1999|pp=57-58}}。より重い中毒であれば、混乱、[[幻覚]]といった[[せん妄]]症状や[[昏睡]]がおきる。症状は2日以上続く場合もあるが、たいていは12 - 24時間程度でおさまる。

ベニテングタケによって起こる中毒は、幼児や幻覚を経験するためにキノコを摂取した人に発生する<ref name = "Michelot03"/><ref name="Benjamin92"/><ref name="Hoegberg">{{cite journal |author1={{Lang|en|Hoegberg LC}} |author2={{Lang|en|Larsen L}} |author3={{Lang|en|Sonne L}} |author4={{Lang|en|Bang J}} |author5={{Lang|en|Skanning PG}} |title={{Lang|en|Three cases of ''Amanita muscaria'' ingestion in children: two severe courses [abstract]}}|journal={{Lang|en|Clinical Toxicology}}|volume=46 |issue=5 |pages=407–8 |year=2008 |doi=10.1080/15563650802071703 |pmid=18568796 |language=en}}</ref>。時折、未成熟な頭の形が[[ホコリタケ]]に似ているため、誤って摂取されることもある<ref name="benjamin30304">{{Lang|en|Benjamin, ''Mushrooms: poisons and panaceas'', pp 303–04}} (英語).</ref>。白い斑点は大雨が降る間に流されることがあり、食用の[[セイヨウタマゴタケ]]のように見える場合もある<ref name="Brvar06"/>。ベニテングタケは生物活性物質を含み、そのうちの少なくとも1つである[[ムッシモール]]は[[向精神薬]]であることが知られている。神経毒である[[イボテン酸]]はムッシモールの[[プロドラッグ]]として働き、摂取後約10 - 20%がムッシモールに変化する。成人の活性用量は、およそ6[[ミリグラム|mg]]のムッシモールまたは30 - 60mgのイボテン酸で<ref>{{cite journal |author={{Lang|de|Theobald W}}|author2={{Lang|de|Büch O}}|author3= {{Lang|de|Kunz HA}}|author4= {{Lang|de|Krupp P}}|author5= {{Lang|de|Stenger EG}}|author6= {{Lang|de|Heimann H.}}|title={{Lang|de|[Pharmacological and experimental psychological studies with 2 components of fly agaric (''Amanita muscaria'')]}} |language=de |journal={{Lang|de|Arzneimittelforschung}} |volume=18 |issue=3 |pages=311–5 |date=March 1968 |pmid=5696006 |doi= |url=}}</ref><ref name=chilton>{{cite journal |author={{Lang|en|Chilton WS}}|title={{Lang|en|The course of an intentional poisoning}}|journal={{Lang|en|MacIlvanea}} |volume=2 |issue= |page=17 |year=1975 |pmid= |language=en}}</ref>、これは一般的にベニテングタケの傘1個分に含まれる量である<ref name="Satora05"/>。キノコ1個当たりの化合物の量や割合は、地域や季節によって大きく異なるため、更なる混乱を招く恐れがある。また春と夏のキノコには、秋の果物より最大10倍のイボテン酸とムッシモールが含まれることが報告されている<ref name="Benjamin92"/>。

致死量は傘15個分と推定されている<ref name="benjamin309">{{Lang|en|Benjamin, ''Mushrooms: poisons and panaceas'', p 309}} (英語).</ref>。この菌類ベニテングタケによる死亡は、歴史的な雑誌記事や新聞記事で報道されている<ref>{{cite journal |author={{Lang|en|Cagliari GE}}|title={{Lang|en|Mushroom poisoning}}|journal={{Lang|en|Medical Record}} |volume=52 |issue= |page=298 |year=1897 |language=en}}</ref><ref name="Buck63"/><ref>{{PDFlink|{{cite web | title = {{Lang|en|Vecchi's death said to be due to a deliberate experiment with poisonous mushrooms}}| work = [[ニューヨーク・タイムズ|{{Lang|en|The New York Times}}]]| date = 19 December 1897 | url = https://timesmachine.nytimes.com/timesmachine/1897/12/19/117908892.pdf| accessdate = 2009-02-02 | langauge = en }}}}</ref>。しかし、現代の医療では、このキノコを摂取して致命的な中毒を引き起こすことは極めて稀である<ref name="Tupalska-Wilczyńska"/>。多くの書籍では、ベニテングタケが致命的であると書かれているが<ref>{{cite book |last={{Lang|en|Phillips}} |first={{Lang|en|Roger}} |title={{Lang|en|Mushrooms and Other Fungi of North America}} |date=2010 |publisher={{Lang|en|Firefly Books}} |location={{Lang|en|Buffalo, NY}} |isbn=978-1-55407-651-2 |page=16 |language=en}}</ref>、{{仮リンク|デイヴィッド・アローラ|en|David Arora}}によると、これはこのキノコが実際よりも毒性が強いことを示唆する誤りだとしている<ref name="arora894">{{Lang|en|Arora, ''Mushrooms demystified'', p 894}} (英語).</ref>。{{仮リンク|北アメリカ菌類学会|en|North American Mycological Association}}は、「過去100年間に、これらのキノコの毒によって死亡したという確実な記録はない」と述べている<ref>{{cite web|url={{Lang|en|http://www.namyco.org/toxicology/poison_syndromes.html}}|title={{Lang|en|Mushroom poisoning syndromes}}|work = {{Lang|en|North American Mycological Association (NAMA) website}}|publisher={{Lang|en|NAMA}}|accessdate = 2009-03-22| archiveurl = https://web.archive.org/web/20090404122352/http://www.namyco.org/toxicology/poison_syndromes.html| archivedate = 4 April 2009 | url-status= live | language = en}}</ref>。

ベニテングタケの中毒症状による死亡例は非常にまれで、北米では2件報告されているのみである<ref>{{Lang|en|Cagliari GE (1897). Mushroom Poisoning. ''Medical Record'' '''52''': 298}} (英語).</ref>。ヨーロッパでのベニテングの致死量は、生の状態で5キログラムと推定されているが、この量は食べられる量ではない<ref name="デコーン紅"/>。とはいえ、8月に収穫したものは効力が強く、9月に収穫したものは吐き気のような体への影響が強いなどとも記され、環境や個体差の影響も大きい<ref name="デコーン紅"/>。


本種は、[[マジックマッシュルーム]]とは異なり、遊びや気晴らしに摂取されることは少ない。現在のところ、[[国際連合]]の条約で未規制のため、ほとんどの国でその所持や使用は規制されていない。
本種は、[[マジックマッシュルーム]]とは異なり、遊びや気晴らしに摂取されることは少ない。現在のところ、[[国際連合]]の条約で未規制のため、ほとんどの国でその所持や使用は規制されていない。


規制されていないことから興味を持つ者も多く、その体験談は様々に寄せられている<ref name="デコーン紅"/>。30分か1時間すると独特の吐き気や怒りと眠気を感じ、もう少し経った後に酩酊感がくるとされる<ref name="デコーン紅"/>。後述するキノコの研究者のワッソンは、1965年と1966年にベニテングタケを日本で試したが、その毒性の効果に失望したと記している。吐き気を感じ、そのうち何人かは吐き、眠くなって眠り、そして一度だけうまくいったときには、[[今関六也]]が高揚し、アルコールによる多弁ともまた異なった感じで喋り続けた、とある<ref name="神々">{{Cite book|和書|author=テレンス・マッケナ|translator=小山田義文、中村功|title=神々の糧(ドラッグ)―太古の知恵の木を求めて|publisher=第三書館;|date=2003|isbn=4-8074-0324-9|page=134-140}} {{Lang|en|''Food of Gods'', 1992.}}</ref>。[[テレンス・マッケナ]]によれば、コロラド州で採取した生のベニテングダケでは、よだれが垂れ、腹痛になっただけであり、カルフォルニア州北部で、採取した乾燥ベニテングタケ5グラムを摂取したが、吐き気を感じ、よだれが垂れ、目がかすみ、目を閉じると見えるものがあったが、たいして面白いものでもなかったとある<ref name="神々"/>。
規制されていないことから興味を持つ者も多く、その体験談は様々に寄せられている<ref name="デコーン紅"/>。30分か1時間すると独特の吐き気やムカつきと眠気を感じ、もう少し経った後に酩酊感がくるとされる<ref name="デコーン紅"/>。後述するキノコの研究者のワッソンは、1965年と1966年にベニテングタケを日本で試したが、その毒性の効果に失望したと記している。吐き気を感じ、そのうち何人かは吐き、眠くなって眠り、そして一度だけうまくいったときには、[[今関六也]]が高揚し、アルコールによる多弁ともまた異なった感じで喋り続けた、とある<ref name="神々">{{Cite book|和書|author=テレンス・マッケナ|translator=小山田義文、中村功|title=神々の糧(ドラッグ)―太古の知恵の木を求めて|publisher=第三書館;|date=2003|isbn=4-8074-0324-9|page=134-140}} ''Food of Gods'', 1992</ref>。[[テレンス・マッケナ]]によれば、コロラド州で採取した生のベニテングダケでは、よだれが垂れ、腹痛になっただけであり、カルフォルニア州北部で、採取した乾燥ベニテングタケ5グラムを摂取したが、吐き気を感じ、よだれが垂れ、目がかすみ、目を閉じると見えるものがあったが、たいして面白いものでもなかったとある<ref name="神々"/>。


殺[[ハエ]]作用を持つことから、洋の東西を問わずハエ取りに用いられてきた<ref name="ヤマケイ15">小宮山勝司『ヤマケイポケットガイド15 きのこ』</ref>フランスではハエ殺し ({{Lang|fr|une amanite tue-mouche}}) と呼ばれ、キノコ片を用いたし、日本でも東北や長野<ref name="名優">{{Cite book|和書|author=ロラン・サバティエ|translator=[[本郷次雄]]監修、永井真貴子|title=きのこの名優たち|publisher=山と溪谷社|date=1998|isbn=4-635-58804-1|page=24}} {{Lang|fr|''La Gratin Des CHAMPIGNONS'', 1986.}}</ref>でアカハエトリとも呼ばれ信州では米とこねて板に張り付けてハエを捕獲した<ref name="人間">{{Cite book|和書|author=ニコラス・P.マネー|translator=小川真|title=キノコと人間 医薬・幻覚・毒キノコ|publisher=築地書館|date=2016|isbn=978-4-8067-1522-1|page=172-173}} ''Mushroom'', 2011.</ref>。
殺[[ハエ]]作用を持つことから、洋の東西を問わずハエ取りに用いられてきた<ref name="ヤマケイ15">小宮山勝司『ヤマケイポケットガイド15 きのこ』</ref>フランスではハエ殺し (une amanite tue-mouche) と呼ばれ、キノコ片を用いたし、日本でも東北や長野<ref name="名優">{{Cite book|和書|author=ロラン・サバティエ|translator=[[本郷次雄]]監修、永井真貴子|title=きのこの名優たち|publisher=山と溪谷社|date=1998|isbn=4-635-58804-1|page=24}} ''La Gratin Des CHAMPIGNONS'', 1986.</ref>でアカハエトリとも呼ばれ信州では米とこねて板に張り付けてハエを捕獲した<ref name="人間">{{Cite book|和書|author=ニコラス・P.マネー|translator=小川真|title=キノコと人間 医薬・幻覚・毒キノコ|publisher=築地書館|date=2016|isbn=978-4-8067-1522-1|page=172-173}} ''Mushroom'', 2011.</ref>。


[[江戸時代]]の[[1830年]]から1844年にかけて96巻が刊行された『本草図譜』の58巻には、「こうたけ」と記されたベニテングダタケの絵が描かれ、食べると嘔吐すると書かれている<ref>{{Cite book|和書|author=岩崎常正|chapter=こうたけ|title=本草図譜 第8冊 巻58菜部芝〔ジ〕類4|url=http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287170/11
[[江戸時代]]の[[1830年]]から1844年にかけて96巻が刊行された『本草図譜』の58巻には、「こうたけ」と記されたベニテングダタケの絵が描かれ、食べると嘔吐すると書かれている<ref>{{Cite book|和書|author=岩崎常正|chapter=こうたけ|title=本草図譜 第8冊 巻58菜部芝〔ジ〕類4|url=http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287170/11
|publisher=|date=200|}}</ref><ref name="マジ">{{Cite book|和書|author=飯沢耕太郎 |title=マジカル・ミステリアス・マッシュルーム・ツアー |publisher=東京キララ社・河出書房新社|date=2010|isbn=978-4-309-90879-3 |page=48-49、94-95頁}}</ref>。
|publisher=|date=200|}}</ref><ref name="マジ">{{Cite book|和書|author=飯沢耕太郎 |title=マジカル・ミステリアス・マッシュルーム・ツアー |publisher=東京キララ社・河出書房新社|date=2010|isbn=978-4-309-90879-3 |page=48-49、94-95頁}}</ref>。

この種の有効成分は水溶性であり、沸騰させた後に調理水を廃棄すれば、少なくとも部分的ではあるものの毒性を弱めることが可能である<ref name="INTOX"/>。乾燥は、イボテン酸からより強力なムッシモールへの変化を促進するもののため、その効力を高める可能性がある<ref name="benjamin310">{{Lang|en|Benjamin, ''Mushrooms: poisons and panaceas'', p 310}} (英語).</ref>。一部の情報によれば、一度解毒されると食用にすることが可能とされている<ref name="RubArora"/><ref>{{cite web |last={{Lang|en|Shaw}} |first={{Lang|en|Hank}} |url=http://honest-food.net/2011/12/24/eating-santas-shroom/ |title={{Lang|en|How to Safely Eat Amanita Muscaia}} |date=2011-12-24 |accessdate=2020-6-20 |work={{Lang|en|honest-food.net}} |url-status=live |archiveurl=https://web.archive.org/web/20160304191941/http://honest-food.net/2011/12/24/eating-santas-shroom/ |archivedate=2016-03-04 |language=en}}</ref>。

=== 薬理学 ===
[[File:Muscimol chemical structure.svg|right|thumb|[[ムッシモール]]<br/>ベニテングタケの主要な精神作用成分]]
[[File:ibotenic acid2.png|right|thumb|[[イボテン酸]]<br/>ベニテングタケで発見されたムッシモールの[[プロドラッグ]]]]
1869年に発見された[[ムスカリン]]は<ref>{{cite book|author={{Lang|de|Schmiedeberg O.}}|author2={{Lang|de|Koppe R.}}|title={{Lang|de|Das Muscarin, das giftige Alkaloid des Fliegenpilzes}}|publisher={{Lang|de|F.C.W. Vogel}}|location={{Lang|de|Leipzig}}|year=1869|oclc=6699630|language=de}}</ref>、長い間ベニテングタケにおける活性幻覚剤であると考えられていた。ムスカリンは{{仮リンク|ムスカリン性アセチルコリン受容体|en|Muscarinic acetylcholine receptor}}に結合し、この受容体を有するニューロンを刺激させる。ベニテングタケ中のムスカリンのレベル<ref>{{cite journal |author={{Lang|de|Eugster, C. H.}} |title={{Lang|de|[Active substances from the toadstool]}} |language=de |journal={{Lang|de|Naturwissenschaften}} |volume=55 |issue=7 |pages=305–13 |date=July 1968 |pmid=4878064 |doi=10.1007/BF00600445}}</ref>は{{仮リンク|Inocybe erubescens|en|Inocybe erubescens|label={{Lang|en|''Inocybe erubescens''}}}}や、白く小さな{{仮リンク|カヤタケ属|en|Clitocybe|label=カヤタケ}}種の{{仮リンク|Clitocybe dealbata|en|Clitocybe dealbata|label={{Lang|en|''Clitocybe dealbata''}}}}(和名なし)と{{仮リンク|Clitocybe rivulosa|en|Clitocybe rivulosa|label={{Lang|en|''Clitocybe rivulosa''}}}}(和名なし)のような他の有毒菌類と比較した場合、ごく微量である。ベニテングタケのムスカリンのレベルは低すぎるため、中毒症状に関与することはできない<ref name="benjamin306">{{Lang|en|Benjamin, ''Mushrooms: poisons and panaceas'', p 306}} (英語).</ref>。

ベニテングタケ中毒に関与する主要毒素は[[ムッシモール]]({{仮リンク|不飽和化合物|en|Unsaturated compound|label=不飽和環状}}[[ヒドロキサム酸]]の3-ヒドロキシ-5-アミノメチル-1-イソオキサゾール)と関連アミノ酸[[イボテン酸]]である。ムッシモールはイボテン酸の(通常乾燥させることによる)[[脱炭酸]]産物である。ムッシモールとイボテン酸は20世紀半ばに発見された<ref name="Bowden K"/><ref name="Eugster"/>。イギリス<ref>{{cite journal |author={{Lang|en|Bowden, K.}} |author2= {{Lang|en|Drysdale, A. C.}} |title={{Lang|en|A novel constituent of ''Amanita muscaria''}}|journal={{Lang|en|Tetrahedron Lett.}} |volume=6 |issue= 12|pages=727–8 |date=March 1965 |pmid=14291871 |doi= 10.1016/S0040-4039(01)83973-3 |url= |language=en}}</ref>、日本<ref>{{cite journal |author={{Lang|en|Takemoto, T.}} |author2= {{Lang|en|Nakajima, T.}}|author3= {{Lang|en|Yokobe, T.}} |title={{Lang|en|[Structure of ibotenic acid]}} |language=ja |journal={{Lang|en|Yakugaku Zasshi}} |volume=84 |issue= |pages=1232–33 |date=December 1964 |pmid=14266560}}</ref>、スイス<ref name="Eugster">{{cite journal |author={{Lang|de|Eugster, C. H.}} |author2= {{Lang|de|Müller, G. F.}}|author3= {{Lang|de|Good, R.}} |title={{Lang|en|[The active ingredients from Amanita muscaria: ibotenic acid and muscazone]}} |language=de |journal={{Lang|de|Tetrahedron Lett.}} |volume=6 |issue= 23|pages=1813–5 |date=June 1965 |pmid=5891631 |doi=10.1016/S0040-4039(00)90133-3}}</ref>の研究者らは、この作用は主としてイボテン酸とムッシモールによるものであり、ムスカリンによるものではないことを明らかにした<ref name="Bnejamin95">{{Lang|en|Benjamin, ''Mushrooms: poisons and panaceas'', pp 306–07}} (英語).</ref><ref name="Bowden K">{{cite journal |author={{Lang|en|Bowden, K.}} |author2= {{Lang|en|Drysdale, A. C.}}|author3= {{Lang|en|Mogey, G. A.}} |title={{Lang|en|Constituents of ''Amanita muscaria''}} |journal={{Lang|en|Nature}} |volume=206 |issue=991 |pages=1359–60 |date=June 1965 |pmid=5891274 |doi=10.1038/2061359a0 |bibcode=1965Natur.206.1359B |language=en}}</ref>。これらの毒素はキノコに均一には分散しているわけではない。大部分は傘の中に、基部には中程度の量が、茎には少量の量が検出される<ref>{{Lang|en|Lampe, K.F., 1978. "Pharmacology and therapy of mushroom intoxications". In: Rumack, B.H., Salzman, E. (Eds.), ''Mushroom Poisoning: Diagnosis and Treatment''. CRC Press, Boca Raton, FL, pp. 125–169}} (英語).</ref><ref>{{PDFlink|{{cite journal| author = {{Lang|en|Tsunoda, K.}}| author2 = {{Lang|en|Inoue, N.}}| author3 = {{Lang|en|Aoyagi, Y.}}| author4 = {{Lang|en|Sugahara, T.}} |date = 1993|title={{Lang|en|Changes in concentration of ibotenic acid and muscimol in the fruit body of ''Amanita muscaria'' during the reproduction stage: Food hygienic studies of toxigenic basidiomycotina: II.}}|journal ={{Lang|en|J Food Hyg Soc Jpn}} |volume=34|issue=1|pages=18–24|doi=10.3358/shokueishi.34.18|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/shokueishi1960/34/1/34_1_18/_pdf|format=pdf|language=ja}}}}</ref>。摂取後20 - 90[[分]]で極めて急速に、かなりの割合のイボテン酸が代謝されずに摂取者の尿中に排泄される。純イボテン酸を摂取してもムッシモールはほとんど排泄されないが、イボテン酸とムッシモールの両方を含むベニテングタケを摂取した後には、尿中からムッシモールが検出される<ref name=chilton/>。

イボテン酸とムッシモールは構造的には互いに、中枢神経系の2つの主要な[[神経伝達物質]]である[[グルタミン酸]]と[[γ-アミノ酪酸|GABA]]にそれぞれ関連している。イボテン酸とムッシモールはこれらの神経伝達物質のように作用し、ムッシモールは強力な[[GABAA受容体|GABA<sub>A</sub>受容体]]の[[アゴニスト]]であり、一方イボテン酸は、神経活動の制御に関与する[[NMDA型グルタミン酸受容体]]と、ある種の{{仮リンク|代謝型グルタミン酸受容体|en|Metabotropic glutamate receptor}}<ref>{{cite journal |author={{Lang|en|Jørgensen, C. G.}} |author2= {{Lang|en|Bräuner-Osborne, H.}}|author3={{Lang|en|Nielsen, B.}} |title={{Lang|en|Novel 5-substituted 1-pyrazolol analogues of ibotenic acid: synthesis and pharmacology at glutamate receptors}} |journal={{Lang|en|Bioorganic & Medicinal Chemistry}} |volume=15 |issue=10 |pages=3524–38 |date=May 2007 |pmid=17376693 |doi=10.1016/j.bmc.2007.02.047 |url= |display-authors=etal |language=en}}</ref>のアゴニストである。これらの相互作用が、中毒にみられる精神作用を引き起こすと考えられている<ref name = "Michelot03"/><ref name="Satora05">{{cite journal |author={{Lang|en|Satora, L.}} |author2={{Lang|en|Pach, D.}}|author3= {{Lang|en|Butryn, B.}}|author4= {{Lang|en|Hydzik, P.}}|author5= {{Lang|en|Balicka-Slusarczyk, B.}} |title={{Lang|en|Fly agaric (''Amanita muscaria'') poisoning, case report and review}} |journal={{Lang|en|Toxicon}} |volume=45 |issue=7 |pages=941–3 |date=June 2005 |pmid=15904689 |doi=10.1016/j.toxicon.2005.01.005 |url= |language=en}}</ref>。

[[ムスカゾン]]は、近年ヨーロッパのベニテングタケの標本から単離されたもう1つの化合物である。これはイボテン酸が[[紫外線]]によって分解されてできたものである<ref>{{cite journal|author={{Lang|en|Fritz, H.}}|author2= {{Lang|en|Gagneux, A. R.}}|author3= {{Lang|en|Zbinden, R.}}|author4= {{Lang|en|Eugster, C. H.}}|year=1965|title={{Lang|en|The structure of muscazone.}}|journal={{Lang|en|Tetrahedron Letters}}|volume=6|issue=25|pages=2075–76|doi=10.1016/S0040-4039(00)90156-4|language=en}}</ref>。ムスカゾンは他のものと比べて[[生理活性|薬理活性]]が低い<ref name = "Michelot03"/>。ベニテングタケとその近縁種は、[[バナジウム]]の効果的な{{仮リンク|生物蓄積|en|Bioaccumulation}}物質として知られており、ある種ではバナジウムを植物に見られる一般的な濃度の400倍にまで濃縮する<ref name="Garner"/>。バナジウムは{{仮リンク|アマバジン|en|Amavadin}}と呼ばれる{{仮リンク|有機金属化合物|en|Organometallic_chemistry#Organometallic_compounds}}として子実体中に存在する<ref name="Garner">{{cite journal |author1={{Lang|en|Garner, C. D.}} |author2={{Lang|en|Armstrong, E. M.}} |author3={{Lang|en|Berry, R. E.}} |title={{Lang|en|Investigations of Amavadin}} |journal={{Lang|en|Journal of Inorganic Biochemistry}} |volume=80 |issue=1–2 |pages=17–20 |date=May 2000 |pmid=10885458 |doi=10.1016/S0162-0134(00)00034-9 |display-authors=etal |language=en}}</ref>。蓄積過程における生物学的重要性は不明である<ref>{{cite journal |author={{Lang|en|Hubregtse, T.}} |author2={{Lang|en|Neeleman, E.}}|author3= {{Lang|en|Maschmeyer, T.}}|author4= {{Lang|en|Sheldon, R. A.}}|author5= {{Lang|en|Hanefeld, U.}}|author6= {{Lang|en|Arends, I. W.}} |title={{Lang|en|The first enantioselective synthesis of the amavadin ligand and its complexation to vanadium}} |journal={{Lang|en|Journal of Inorganic Biochemistry}} |volume=99 |issue=5 |pages=1264–7 |date=May 2005 |pmid=15833352 |doi=10.1016/j.jinorgbio.2005.02.004 |url= |language=en}}</ref>。


=== 薬理作用 ===
=== 薬理作用 ===
本種には複数の生理活性物質がある。1869年に発見された[[ムスカリン]]が、中毒症状をおこす原因であると長い間信じられていたが、他の毒キノコと比較すると、ベニテングタケに含まれるムスカリンはごくわずかである。主要な中毒物質は、[[ムッシモール]]と[[イボテン酸]]である。20世紀半ば、日本、イギリス、スイスで同時に発見されたこの2種の物質が、中毒症状をおこす成分だと判明した。ムッシモールは抑制系[[神経伝達物質]][[γ-アミノ酪酸|GABA]]の[[アゴニスト]]活性が、イボテン酸は、神経の働きを司る[[NMDA型グルタミン酸受容体]]のアゴニスト活性がある。
本種には複数の生理活性物質がある。1869年に発見された[[ムスカリン]]が、中毒症状をおこす原因であると長い間信じられていたが、他の毒キノコと比較すると、ベニテングタケに含まれるムスカリンはごくわずかである。主要な中毒物質は、[[ムッシモール]]と[[イボテン酸]]である。20世紀半ば、日本、イギリス、スイスで同時に発見されたこの種の物質が、中毒症状をおこす成分だと判明した。ムッシモールは抑制系[[神経伝達物質]][[γ-アミノ酪酸|GABA]]の[[アゴニスト]]活性が、イボテン酸は、神経の働きを司る[[NMDA型グルタミン酸受容体]]のアゴニスト活性がある。


== シャーマニズムとの関連 ==
== シャーマニズムとの関連 ==
本種を摂食した際の中毒症状として、幻覚作用を起こすと言われているが、上述のように実際のその効果は深酒の酩酊程度であり、幻覚というほどの状態には至らない。[[東シベリア]]の[[カムチャッカ]]では酩酊薬として使用されてきた歴史があったり、[[西シベリア]]では[[シャーマニズム|シャーマン]]が[[変性意識状態]]になるための手段として使われてきたように、ベニテングタケはシベリアの文化や宗教において重要な役割を果たしてきた。
本種を摂食した際の中毒症状として、幻覚作用を起こすと言われているが、上述のように実際のその効果は深酒の酩酊程度であり、幻覚というほどの状態には至らない。[[東シベリア]]の[[カムチャッカ]]では酩酊薬として使用されてきた歴史があったり、[[西シベリア]]では[[シャーマニズム|シャーマン]]が[[変性意識状態]]になるための手段として使われてきたように、ベニテングタケはシベリアの文化や宗教において重要な役割を果たしてきた。


また、趣味で菌類の研究をしていたアメリカの銀行家、[[ロバート・ゴードン・ワッソン|ゴードン・ワッソン]]は[[古代インド]]の聖典『[[リグ・ヴェーダ]]』に登場する聖なる飲料「[[ソーマ]]」の正体が、ベニテングタケではないかという説を発表した<ref>G.C.エインズワース、小川眞訳 『キノコ・カビの研究史』p202 京都大学学術出版会、2010年10月20日発行、ISBN 978-4-87698-935-5</ref>。著書『聖なるキノコ―ソーマ』である<ref name="神々"/>。この説には、[[人類学者]]が反論を唱えた{{Efn|1971年にケンブリッジ大学のジョン・ブラフより反論が提出されている<ref>{{Cite journal|author={{Lang|en|John Brough}}|date=1971|title={{Lang|en|Soma and "Amanita muscaria"}}|journal={{Lang|en|Bulletin of the School of Oriental and African Studies, University of London}}|volume=34|issue=2|pages=331-362 |url=https://www.jstor.org/stable/612695}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author1=山本昌木|date=1985|title=古代インドにおける植物病害と菌類について|journal=日本植物病理学会報|volume=51|issue=3|pages=251 |url=https://doi.org/10.3186/jjphytopath.51.249}}</ref>。}}が、1968年にワッソンの著書が出版された当時は広く信じられた。ワッソン自身もベニテングタケの効果に失望していたが、なぜか最後の著書『ペルセポネの探求』(未訳)ではベニテングタケを褒めたたえている<ref name="神々" />。
また、趣味で菌類の研究をしていたアメリカの銀行家、[[ロバート・ゴードン・ワッソン|ゴードン・ワッソン]]は[[古代インド]]の聖典『[[リグ・ヴェーダ]]』に登場する聖なる飲料「[[ソーマ]]」の正体が、ベニテングタケではないかという説を発表した<ref>G.C.エインズワース、小川眞訳 『キノコ・カビの研究史』p202 京都大学学術出版会、2010年10月20日発行、ISBN 978-4-87698-935-5</ref>。著書『聖なるキノコ―ソーマ』である<ref name="神々"/>。この説には、[[人類学者]]が反論を唱えた{{Efn|1971年にケンブリッジ大学のジョン・ブラフより反論が提出されている<ref>{{Cite journal|author=John Brough|date=1971|title=Soma and "Amanita muscaria"|journal=Bulletin of the School of Oriental and African Studies, University of London|volume=34|issue=2|pages=331-362 |url=https://www.jstor.org/stable/612695}}</ref><ref>{{Cite journal|和書|author1=山本昌木|date=1985|title=古代インドにおける植物病害と菌類について|journal=日本植物病理学会報|volume=51|issue=3|pages=251 |url=https://doi.org/10.3186/jjphytopath.51.249}}</ref>。}}が、1968年にワッソンの著書が出版された当時は広く信じられた。ワッソン自身もベニテングタケの効果に失望していたが、なぜか最後の著書『ペルセポネの探求』(未訳)ではベニテングタケを褒めたたえている<ref name="神々" />。


13世紀のキリスト教では、宗教的シンボルとなっており、フランスのプランクロール大修道院の礼拝堂には、知恵の木になっているベニテングタケが描かれている<ref name="人間"/>。
13世紀のキリスト教では、宗教的シンボルとなっており、フランスのプランクロール大修道院の礼拝堂には、知恵の木になっているベニテングタケが描かれている<ref name="人間"/>。


== 大衆文化への登場 ==
== 大衆文化登場するベニテングタケ ==
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ヨーロッパでは、幸福を呼ぶキノコとして人気がある。装飾品や玩具のモチーフによく使われている{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}。白い水玉の赤キノコの配色は、絵本やアニメ映画、ビデオゲームなどにしばしば登場することで、なじみのあるものとなっている。
ヨーロッパでは、幸福を呼ぶキノコとして人気がある。装飾品や玩具のモチーフによく使われている{{sfn|小山昇平|1999|p=52}}。白い水玉の赤キノコの配色は、絵本やアニメ映画、ビデオゲームなどにしばしば登場することで、なじみのあるものとなっている。


特に有名なものに、テレビゲームソフト『[[スーパーマリオブラザーズ]]』におけるパワーアップキノコのデザインや<ref>{{cite journal |author={{Lang|en|Li C, Oberlies NH}} |year=2005 |month=December |title={{Lang|en|The most widely recognized mushroom: chemistry of the genus ''Amanita''}} |journal={{Lang|en|Life Sciences}} |volume=78 |issue=5 |pages=532-38 |pmid=16203016 |language=en }}</ref>、1940年のディズニー映画『[[ファンタジア (映画)|ファンタジア]]』がある<ref>{{cite book | author = {{Lang|en|Ramsbottom J.}} | year = 1953 | title = {{Lang|en|Mushrooms & Toadstools}} | publisher = {{Lang|en|Collins}} | isbn = 1870630092 | language = en }}</ref>。
特に有名なものに、テレビゲームソフト『[[スーパーマリオブラザーズ]]』におけるパワーアップキノコのデザインや<ref>{{cite journal |author=Li C, Oberlies NH |year=2005 |month=December |title=The most widely recognized mushroom: chemistry of the genus ''Amanita'' |journal=Life Sciences |volume=78 |issue=5 |pages=532-38 |pmid=16203016}}</ref>、1940年のディズニー映画『[[ファンタジア (映画)|ファンタジア]]』がある<ref>{{cite book | author = Ramsbottom J | year = 1953 | title = Mushrooms & Toadstools | publisher = Collins | isbn = 1870630092}}</ref>。


[[ルネサンス|ルネッサンス期]]から、絵画の中でもしばしば描かれている。また、幸運のシンボルとして、1900年ごろから[[クリスマスカード]]のイラストにしばしば採用された。[[オリヴァー・ゴールドスミス]]の『世界市民』には、幻覚剤としての使用に言及した箇所がある。ベニテングタケを食べた際、物体の大きさに対する知覚が変化したという記録を残したモルデカイ・キュービット・クックの書物は、1865年の『[[不思議の国のアリス]]』のモデルになったと考えられている<ref>{{cite book |title={{Lang|en|Shroom: A Cultural history of the magic mushroom}} |last={{Lang|en|Letcher}} |first=Andy |year=2006 |publisher={{Lang|en|Faber and Faber}} |location={{Lang|en|London}} |isbn=0-571-22770-8 |language=en }}</ref>。
[[ルネサンス|ルネッサンス期]]から、絵画の中でもしばしば描かれている。また、幸運のシンボルとして、1900年ごろから[[クリスマスカード]]のイラストにしばしば採用された。[[オリヴァー・ゴールドスミス]]の『世界市民』には、幻覚剤としての使用に言及した箇所がある。ベニテングタケを食べた際、物体の大きさに対する知覚が変化したという記録を残したモルデカイ・キュービット・クックの書物は、1865年の『[[不思議の国のアリス]]』のモデルになったと考えられている<ref>{{cite book |title=Shroom: A Cultural history of the magic mushroom |last=Letcher |first=Andy |year=2006 |publisher=Faber and Faber |location=London |isbn=0-571-22770-8}}</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==

2020年6月21日 (日) 03:14時点における版

ベニテングタケ

分類
: 菌界 Fungus
: 担子菌門 Basidiomycota
: 菌じん綱 Hymenomycetes
: ハラタケ目 Agaricales
: テングタケ科 Amanitaceae
: テングタケ属 Amanita
: ベニテングタケ muscaria
学名
Amanita muscaria (L. : Fr.) Hook.
和名
ベニテングタケ
英名
Fly Agaric

ベニテングタケ(ベニテングダケ、紅天狗茸、学名: Amanita muscaria)は、ハラタケ目テングタケ科テングタケ属キノコ。その鮮やかな色とは裏腹に、猛毒ではない担子菌類である。特に寒冷地にて育成する。ヨーロッパロシアアジア北アメリカなどの各地で広くみられる。英語ではフライ・アガリック(ハエキノコ)と呼ばれる[1][2]岩手におけるアシタカベニタケ[3]。寒冷のヨーロッパでは身近なキノコであり、幸福を呼ぶキノコとして人気である[4]

特徴

黄色の傘をもつベニテングタケの亜種(アメリカ、マサチューセッツ州)

深紅色のには、つぼが崩れてできた白色のイボがある。完全に成長したベニテングタケの傘は、たいてい直径8-20cmであるが、さらに巨大なものも発見されている。激しい雨でイボがとれると、タマゴタケに見えるので注意[5]は白色で高さ5 - 20センチ・メートル、ささくれがあり、つばが付いている。根元は球根状にふくらんでいる。

ベニテングタケは主に、高原のシラカバマツ林に生育し、針葉樹広葉樹の双方に外菌根を形成する菌根菌である。おもに北半球の温暖地域から寒冷地域でみられる。比較的暖かい気候のヒンドゥークシュ山脈や、地中海中央アメリカにも生息する。

近年の研究では、シベリアベーリング地域を起源とし、そこからアジア、ヨーロッパ、北アメリカへ広がったと考えられている[6]。オーストラリアや南アフリカなどの南半球へも広く繁殖し、世界各地でみることのできるキノコとなった。

日本では夏から秋にかけて、白樺、ダケカンバ、コメツガ、トウヒなどに発生し、分布の中心は北国や標高の高い地域であり、南日本ではほとんど見かけない[5]

なお、人工的な栽培はできないとされる[2]

食味

毒について
本種を乾燥させると、イボテン酸がより安定した成分であるムッシモールに変化する。また、微量ながらドクツルタケのような猛毒テングタケ類の主な毒成分であるアマトキシン類も含むため、長期間食べ続けると肝臓などが冒されるという。
毒成分は水溶性であるため、薄く刻んで、何度か水にさらしたり[7]、何度か茹でたりすると無毒化される[8]
食用例
本種の毒成分であるイボテン酸は強い旨味成分でもあり[注釈 1]、少量摂取では重篤な中毒症状に至らないことから、長野県の一部地域では塩漬けにして摂食されている場合がある[9]。長野・小諸地方では、乾燥して蓄え、煮物やうどんのだしとしても利用した[4]。煮こぼして塩漬けで2、3か月保存すれば毒が緩和されるので、食べ物の少ない冬に備えた[10]。傘よりも柄の方が毒が少なく、よく煮こぼして水に晒して大根おろしを添えれば、味も歯切れもよい[10]
あまり広まらなかったが[11]、早くとも19世紀以降のヨーロッパ地域、特にシベリアでは入植したロシア人が何度も茹でて無毒化し、食していた。1823年には、ロシアの博物学者ゲオルク・ハインリッヒ・フォン・ラングスドルフが無毒化の方法を記している。19世紀後期の北米では、アフリカ系アメリカ人のキノコ販売者が、湯がいて酢につけてステーキソースとしていた。

毒および薬理

毒性はさほど強くない(しかし近縁種には猛毒キノコがある)[12]。ベニテングタケの主な成分はイボテン酸ムッシモールムスカリンなど。食べてから20-30分で瞳孔は開いて眩しくなり、弱い酒酔い状態となるが、それ以上の向精神作用、例えば虹を見るような幻覚を起こしたといった例はない。食べすぎると腹痛、嘔吐下痢を起こす[13]。どちらかというと、うま味成分でもあるイボテン酸の味に魅せられ、他のキノコは要らないといったキノコ採りも増えている[14]。少しかじる程度であれば、のぼせて腹痛がするくらいの症状であるが、焼いただけの400グラム程度であれば、瞳孔が拡大して自転車も運転できないようになり、嘔吐や下痢の症状が発生する[15]。より重い中毒であれば、混乱、幻覚といったせん妄症状や昏睡がおきる。症状は2日以上続く場合もあるが、たいていは12 - 24時間程度でおさまる。

ベニテングタケの中毒症状による死亡例は非常にまれで、北米では2件報告されているのみである[16]。ヨーロッパでのベニテングの致死量は、生の状態で5キログラムと推定されているが、この量は食べられる量ではない[2]。とはいえ、8月に収穫したものは効力が強く、9月に収穫したものは吐き気のような体への影響が強いなどとも記され、環境や個体差の影響も大きい[2]

本種は、マジックマッシュルームとは異なり、遊びや気晴らしに摂取されることは少ない。現在のところ、国際連合の条約で未規制のため、ほとんどの国でその所持や使用は規制されていない。

規制されていないことから興味を持つ者も多く、その体験談は様々に寄せられている[2]。30分か1時間すると独特の吐き気やムカつきと眠気を感じ、もう少し経った後に酩酊感がくるとされる[2]。後述するキノコの研究者のワッソンは、1965年と1966年にベニテングタケを日本で試したが、その毒性の効果に失望したと記している。吐き気を感じ、そのうち何人かは吐き、眠くなって眠り、そして一度だけうまくいったときには、今関六也が高揚し、アルコールによる多弁ともまた異なった感じで喋り続けた、とある[17]テレンス・マッケナによれば、コロラド州で採取した生のベニテングダケでは、よだれが垂れ、腹痛になっただけであり、カルフォルニア州北部で、採取した乾燥ベニテングタケ5グラムを摂取したが、吐き気を感じ、よだれが垂れ、目がかすみ、目を閉じると見えるものがあったが、たいして面白いものでもなかったとある[17]

ハエ作用を持つことから、洋の東西を問わずハエ取りに用いられてきた[18]フランスではハエ殺し (une amanite tue-mouche) と呼ばれ、キノコ片を用いたし、日本でも東北や長野[3]でアカハエトリとも呼ばれ信州では米とこねて板に張り付けてハエを捕獲した[1]

江戸時代1830年から1844年にかけて96巻が刊行された『本草図譜』の58巻には、「こうたけ」と記されたベニテングダタケの絵が描かれ、食べると嘔吐すると書かれている[19][20]

薬理作用

本種には複数の生理活性物質がある。1869年に発見されたムスカリンが、中毒症状をおこす原因であると長い間信じられていたが、他の毒キノコと比較すると、ベニテングタケに含まれるムスカリンはごくわずかである。主要な中毒物質は、ムッシモールイボテン酸である。20世紀半ば、日本、イギリス、スイスで同時に発見されたこの2種の物質が、中毒症状をおこす成分だと判明した。ムッシモールは抑制系神経伝達物質GABAアゴニスト活性が、イボテン酸は、神経の働きを司るNMDA型グルタミン酸受容体のアゴニスト活性がある。

シャーマニズムとの関連

本種を摂食した際の中毒症状として、幻覚作用を起こすと言われているが、上述のように実際のその効果は深酒の酩酊程度であり、幻覚というほどの状態には至らない。東シベリアカムチャッカでは酩酊薬として使用されてきた歴史があったり、西シベリアではシャーマン変性意識状態になるための手段として使われてきたように、ベニテングタケはシベリアの文化や宗教において重要な役割を果たしてきた。

また、趣味で菌類の研究をしていたアメリカの銀行家、ゴードン・ワッソン古代インドの聖典『リグ・ヴェーダ』に登場する聖なる飲料「ソーマ」の正体が、ベニテングタケではないかという説を発表した[21]。著書『聖なるキノコ―ソーマ』である[17]。この説には、人類学者が反論を唱えた[注釈 2]が、1968年にワッソンの著書が出版された当時は広く信じられた。ワッソン自身もベニテングタケの効果に失望していたが、なぜか最後の著書『ペルセポネの探求』(未訳)ではベニテングタケを褒めたたえている[17]

13世紀のキリスト教では、宗教的シンボルとなっており、フランスのプランクロール大修道院の礼拝堂には、知恵の木になっているベニテングタケが描かれている[1]

大衆文化に登場するベニテングタケ

切手のモチーフにも使われている。上、東ドイツ、下、アゼルバイジャン。ポーランド、ルーマニア、キューバでも切手になったことがある[20]。
切手のモチーフにも使われている。上、東ドイツ、下、アゼルバイジャン。ポーランド、ルーマニア、キューバでも切手になったことがある[20]

ヨーロッパでは、幸福を呼ぶキノコとして人気がある。装飾品や玩具のモチーフによく使われている[4]。白い水玉の赤キノコの配色は、絵本やアニメ映画、ビデオゲームなどにしばしば登場することで、なじみのあるものとなっている。

特に有名なものに、テレビゲームソフト『スーパーマリオブラザーズ』におけるパワーアップキノコのデザインや[24]、1940年のディズニー映画『ファンタジア』がある[25]

ルネッサンス期から、絵画の中でもしばしば描かれている。また、幸運のシンボルとして、1900年ごろからクリスマスカードのイラストにしばしば採用された。オリヴァー・ゴールドスミスの『世界市民』には、幻覚剤としての使用に言及した箇所がある。ベニテングタケを食べた際、物体の大きさに対する知覚が変化したという記録を残したモルデカイ・キュービット・クックの書物は、1865年の『不思議の国のアリス』のモデルになったと考えられている[26]

脚注

注釈

  1. ^ うま味調味料などに使用されるグルタミン酸ナトリウムの約16倍。
  2. ^ 1971年にケンブリッジ大学のジョン・ブラフより反論が提出されている[22][23]

出典

  1. ^ a b c ニコラス・P.マネー 著、小川真 訳『キノコと人間 医薬・幻覚・毒キノコ』築地書館、2016年、172-173頁。ISBN 978-4-8067-1522-1  Mushroom, 2011.
  2. ^ a b c d e f ジム・デコーン 著、竹田純子、高城恭子 訳『ドラッグ・シャーマニズム』1996年、241-248頁。ISBN 4-7872-3127-8 Psychedelic Shamanism, 1994.
  3. ^ a b ロラン・サバティエ 著、本郷次雄監修、永井真貴子 訳『きのこの名優たち』山と溪谷社、1998年、24頁。ISBN 4-635-58804-1  La Gratin Des CHAMPIGNONS, 1986.
  4. ^ a b c 小山昇平 1999, p. 52.
  5. ^ a b 井口 潔『いきなりきのこ採り名人』小学館、2008年、30頁。ISBN 978-4-09-104278-1 
  6. ^ Geml J, Laursen GA, O'neill K, Nusbaum HC, Taylor DL (January 2006). “Beringian origins and cryptic speciation events in the fly agaric (Amanita muscaria)”. Mol. Ecol. 15 (1): 225–39. doi:10.1111/j.1365-294X.2005.02799.x. PMID 16367842. https://s3.amazonaws.com/academia.edu.documents/38874488/Geml_Amanita_ME2006.pdf?AWSAccessKeyId=AKIAIWOWYYGZ2Y53UL3A&Expires=1513652538&Signature=1VkZjrMoOcvKos62CThzG%2BYrXpY%3D&response-content-disposition=inline%3B%20filename%3DBeringian_origins_and_cryptic_speciation.pdf. 
  7. ^ Rubel, W.; Arora, D. (2008). “A Study of Cultural Bias in Field Guide Determinations of Mushroom Edibility Using the Iconic Mushroom, Amanita Muscaria,as an Example” (PDF). Economic Botany 62 (3): 223–43. doi:10.1007/s12231-008-9040-9. http://www.davidarora.com/uploads/muscaria_revised.pdf. 
  8. ^ ロシアで食されるやばいキノコ6種(2017年8月29日 著:アレクサンドラ・クラフチェンコ、ロシアビヨンド)
  9. ^ 『科学大事典―MEGA』 講談社[要ページ番号]
  10. ^ a b 小山昇平 1999, p. 32.
  11. ^ Viess, Debbie. "Further Reflections on Amanita muscaria as an Edible Species" Archived 2015-10-06 at the Wayback Machine., Mushroom: The Journal of Wild Mushrooming, Idaho, Fall 2011 - Winter 2012. Retrieved on 26 April 2015.
  12. ^ 根田仁『きのこミュージアム―森と菌との関係から文化史・食毒まで』八坂書房、2014年、279頁。ISBN 978-4-89694-179-1 
  13. ^ 小山昇平 1999, p. 30.
  14. ^ 小山昇平 1999, p. 50.
  15. ^ 小山昇平 1999, pp. 57–58.
  16. ^ Cagliari GE. (1897). Mushroom Poisoning. Medical Record 52: 298.
  17. ^ a b c d テレンス・マッケナ 著、小山田義文、中村功 訳『神々の糧(ドラッグ)―太古の知恵の木を求めて』第三書館;、2003年、134-140頁。ISBN 4-8074-0324-9  Food of Gods, 1992
  18. ^ 小宮山勝司『ヤマケイポケットガイド15 きのこ』
  19. ^ 岩崎常正「こうたけ」『本草図譜 第8冊 巻58菜部芝〔ジ〕類4』200http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287170/11 
  20. ^ a b 飯沢耕太郎『マジカル・ミステリアス・マッシュルーム・ツアー』東京キララ社・河出書房新社、2010年、48-49、94-95頁頁。ISBN 978-4-309-90879-3 
  21. ^ G.C.エインズワース、小川眞訳 『キノコ・カビの研究史』p202 京都大学学術出版会、2010年10月20日発行、ISBN 978-4-87698-935-5
  22. ^ John Brough (1971). “Soma and "Amanita muscaria"”. Bulletin of the School of Oriental and African Studies, University of London 34 (2): 331-362. https://www.jstor.org/stable/612695. 
  23. ^ 山本昌木「古代インドにおける植物病害と菌類について」『日本植物病理学会報』第51巻第3号、1985年、251頁。 
  24. ^ Li C, Oberlies NH (December 2005). “The most widely recognized mushroom: chemistry of the genus Amanita”. Life Sciences 78 (5): 532-38. PMID 16203016. 
  25. ^ Ramsbottom J (1953). Mushrooms & Toadstools. Collins. ISBN 1870630092 
  26. ^ Letcher, Andy (2006). Shroom: A Cultural history of the magic mushroom. London: Faber and Faber. ISBN 0-571-22770-8 

参考文献

  • 小山昇平『毒きのこ・絶品きのこ狂騒記―山の中の食欲・物欲・独占欲バトル』講談社、1999年。ISBN 4-06-209840-7 

関連項目

外部リンク