「Qi (ワイヤレス給電)」の版間の差分
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2021年5月20日 (木) 12:25時点における版
Qi(チー)とは、ワイヤレスパワーコンソーシアム(Wireless Power Consortium; WPC)が策定したワイヤレス給電の国際標準規格である[1]。現在、携帯電話やスマートフォンを対象とした15W以下の低電力向け規格のみ策定されている[1]。名称の由来は中国語の「気」(繁体字: 氣、簡体字: 气、拼音: )。
NTTドコモでは、Qi規格に準拠したワイヤレス充電機能をおくだけ充電と称しており、登録商標(第5477771号ほか)を保有している。
概要
初期のQi(v 1.0)は、古くから実用化されていた「電磁誘導方式」を元にしている。これは、2つの隣接するコイルの片方に電流を流すと発生する磁束を媒介して、隣接したもう片方に起電力が発生する電磁誘導の原理を用いたものである。この方式によるワイヤレス給電システムは過去に幾つか実用化されていたが、独自開発のものが多く、異企業間での機器の相互利用が出来ない状態が続いていた[1]。
そのような欠点を解消するため、2008年にWPCが立ち上げられ、企業間での相互利用を可能とする国際標準規格を策定する事となり、2010年7月に『最大5Wの低電力向け』Qi規格(Volume I Low Power)の策定を完了した[1][2]。使用する周波数帯は110kHzから205kHzまでの間と定められている。これはAirFuel AllianceのPMA規格(100kHzから200kHz)とほぼ一緒であり、受電側から送電側へのデータ通信はハードウエアレベルで互換性があるために両方を統合することも可能である[3]。
WPCではQi規格(v 1.1)からQ値の低い磁界共振を一部取り入れて受電側だけを共振させるという広義の電磁誘導であり、同時に広義の磁界共振ともいえる構成となっている[4]。その後、v 1.21では受電側の共振は断念され、送電側のみが共振する構成となっている。
さらにWPCでは中電力向けQi規格(Volume II Middle Power[1])の検討が進められている[5]。この中電力向けQi規格v 1.2ではまず15Wでの充電に対応し、将来的に120Wまで供給する事が可能となる[6]。そして2015年6月23日に15W規格書が策定された[7]。
当初(2011年頃)、NTTドコモを中心とした日本企業が本規格を推進していたが、前述の充電の遅さに加え、当時はワイヤレス給電規格が複数存在しており、スマートフォン業界がどの方式を採用するかの方向性が定まっていなかったこと、更にQiを推進していた一部のスマートフォンメーカー(パナソニック モバイルコミュニケーションズやNECカシオモバイルコミュニケーションズなど)がスマートフォンの製造・販売を終了し、後継のスマートフォンが出てこなかったこともあり、一時期劣勢を強いられていたこともあった[8]。
その後、2010年代後半に大容量電力送信の規格書が策定され、急速充電の問題が解消されたことやスマートフォン市場で高いシェアを占めているサムスン電子(Samsung Galaxyシリーズ)とApple(iPhoneシリーズ)が本規格を採用したこともあり、対応機器が一気に増加した[8][9]。
通信
充電台(送電側)と携帯機器(受電側)との間では受電側から送電側への単方向通信が行われる。パッシブRFIDタグと同様の後方散乱変調を利用しており、受電側での負荷を変動させることによる2値ASKとなっている。通信速度は2kbpsで、1オクテットにつきスタートビット(1)、パリティビット(ODD)、ストップビット(0)それぞれ1ビットを伴う。
受電側は電力を受け取っている限り定期的にパケットを送り返すことになっており、これにより送電側は充電面上にあるものがQi対応機器なのかそれ以外の異物なのかを判断できる。通信の内容は受電量の必要量に対する差分、送電停止要求、受電中の電力、携帯機器の充電率が主であるが、充電開始時には受電側の識別情報が送られ、機器固有の情報が送られる場合もある。
策定団体
ワイヤレスパワーコンソーシアムは2008年12月17日設立で、事務局はアメリカ合衆国ニュージャージー州のIEEE-ISTOに置かれている。2017年9月14日時点で244社が会員となっている[10]。
- 正会員(Regular membership)
- 仕様策定をはじめとするコンソーシアム運営全般に責任を負う企業。業界ごとに定数があり、順次拡大しているが現在のところ最大25企業が正会員となる。
- 準会員(Associate membership)
- 商標使用、ドラフト仕様へのアクセスとコメント、相互運用性試験への参加が可能になる。
業界(定数) | 企業 |
---|---|
ワイヤレス給電(5) | ConvenientPower, Fulton Innovation, PowerbyProxi, クアルコム, ロバート・ボッシュ |
半導体(8) | IDT, Media Tek, NXP, ローム, STマイクロエレクトロニクス, ソニー, テキサス・インスツルメンツ, 東芝 |
電機(3) | ハイアール・グループ, フィリップス, LGエレクトロニクス |
携帯電話(4) | Apple, HTC, ノキア, ベライゾン・ワイヤレス |
電池(1) | パナソニック |
携帯情報端末(1) | サムスン電機 |
自動車(1) | Delphi Automotive |
その他(2) | Leggett & Platt, AirCharge |
沿革
- 2008年12月17日 - 充電式電池を開発している企業等によりWPC設立。設立時のメンバーは、ConvenientPower、Fulton Innovation、Logitech、National Semiconductor、Royal Philips Electronics、三洋電機、Shenzhen Sang Fei Consumer Communications、Texas Instrumentsの8社[11]。
- 2009年8月17日 - 低電力用バージョン0.95規格書の策定と名称(Qi)およびロゴの公表。
- 2010年7月23日 - Qiバージョン1.0規格書の策定、公開[1][2]。
- 2012年4月21日 - 低電力用Qiバージョン1.1規格書の公開。受電側だけを共振させる一部磁界共振を採用することにより送電ユニットの設計自由度が大幅に上がり、異物検出能が改善された。
- 2015年6月23日 - 中電力用Qiバージョン1.2規格書の策定[7]。
対応機種
- docomo NEXT series
- AQUOS PHONE ZETA SH-09D
- ARROWS X F-10D
- ELUGA X P-02E - 電池単体での充電は不可。
- MEDIAS PP N-01D - 電池単体での充電は不可。
- docomo with series
- ドコモ スマートフォン(2013年夏モデル - )
- docomo STYLE series
- SH-05D - Qiに対応している唯一のフィーチャー・フォン。
- オプション品
- 電源供給側
- 電池側
- ポケットチャージャー 02(三洋電機製)
- ポケットチャージャー 03(三洋電機製)
- Galaxy S8 SCV36
- Galaxy S8+ SCV35
- Galaxy S7 edge SCV33
- Galaxy S6 edge SCV31
- TORQUE G02 (KYV35)
- TORQUE G01 (KYY24)
- URBANO L01 (KYY21) - 利用するにはバッテリーパック、および裏フタ(背面パネル)をそれぞれQi対応のものに交換が必要。
- URBANO L02 (KYY22) - 利用するにはバッテリーパックをQi対応のもの(上記のURBANO L01用と共通)に交換が必要。
- URBANO L03 (KYY23) - 通常(Qi非対応)モデルとQi対応モデルが混在しており、利用可能なのは(本体色が)パープルブラックのQi対応モデルのみとなっている。
- Xperia XZ2 SOV37
- Xperia XZ2 Premium SOV38
- Xperia XZ3 SOV39
- UQ WiMAX
- Huawei モバイルルーター HWD14 Wi-Fi WALKER WiMAX2+
- 日立マクセル
- WP-SL10A iPhone4用ワイヤレス充電対応ケース
- MXQI-CVA20 iPhone5用ワイヤレス充電対応ケース
- WP-EMCVA10 iPhone4 / 4S用ワイヤレス充電対応ケース
- デンソー
- WP-EMCVA10 iPhone4/4S用ワイヤレス充電対応ケース
- サンワサプライ
- WLC-IPH11 iPhone4/4S用ワイヤレス充電対応ケース
- Galaxy S6 edge 404SC
- MEDIAS CH 101N - N-01Dの兄弟機種。電池単体での充電は不可。
- Nexus 4(LGエレクトロニクス製)
- Nexus 5(LGエレクトロニクス製)
- Nexus 6(モトローラ・モビリティ製)
- Nexus 7 (2013)(ASUS製)
- Pixel 3 / Pixel 3 XL
- eneloop N-WL01S-W/-K
- ENERLINKシリーズ
- エアボルテージシリーズ
- チャージパッドシリーズ
- DIGA ブルーレイレコーダー DMR-BZT920/830
- DIGA フォトレコーダー DMR-HRT300
- デジタルビデオカメラ HC-V720M (同梱バッテリーパック)
- デジタルビデオカメラ HC-W850M (同梱バッテリーパック)
- USBモバイルバッテリ QE-PL101/102/103/201/202/203/301/302
- エボルタ充電ケース QE-CV201 (単3/単4NiMH専用)
- PENTAX WG-3 GPS
- TDK Life on Record(イメーション)
- ワイヤレススピーカー Q35
- Symfos LED-TASKLIGHT
- iPhone
- AirPods
- AirPods (第2世代)
- AirPods Pro
- 車載用ワイヤレス充電器
脚注
出典
- ^ a b c d e f EE Times Japan (2011年2月11日). “「Qi」規格に集うワイヤレス給電、5W以下のモバイルから普及へ”. 2011年7月5日閲覧。
- ^ a b IT media (2010年12月2日). “2015年には充電の概念が変わる――ワイヤレス充電規格「Qi」の展望と課題”. 2011年7月5日閲覧。
- ^ IDTのワイヤレス給電レシーバIC デュアルモード(Qi + AirFuel Inductive)ソリューション
- ^ WPCがワイヤレス給電の規格を改定、「磁界共鳴方式」を初採用へ
- ^ “Extention to medium power” (2011年3月23日). 2011年7月5日閲覧。
- ^ “Further increase in design freedom for wireless power products” (2011年3月24日). 2011年7月5日閲覧。
- ^ a b “Wpc Increases Power,Improves User Experience With New Qi Wireless Power Standard Specification” (2015年6月23日). 2015年8月11日閲覧。
- ^ a b 佐野正弘 (2019年1月21日). “知って納得、ケータイ業界の"なぜ"(30) 一度は姿を消したワイヤレス充電が再びメジャーになった理由”. マイナビニュース. 2020年12月19日閲覧。
- ^ “ついにiPhoneが対応した「チーのワイヤレス充電」ってなんだ?”. ITmedia NEWS (2017年10月18日). 2020年12月19日閲覧。
- ^ “Wireless Power Consortium Members”. 2017年9月14日閲覧。
- ^ “WIRELESS POWER CONSORTIUM SELECTS CLOSE-RANGE MAGNETIC INDUCTION TECHNOLOGY FOR STANDARD AND WELCOMES OLYMPUS AS NEW MEMBER” (2009年1月20日). 2013年12月1日閲覧。
- ^ “ワイヤレス携帯電話充電器”. ボルボ (2019年11月13日). 2019年12月27日閲覧。
参考文献
- 洲崎泰利「すぐに動かせる!5Wスマホ用と3000W EV用の回路データを公開中 LTspiceで無料体験!ワイヤレス電源製作シミュレーション」『トランジスタ技術』、CQ出版、2017年11月、135-143頁。