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「般若の面」の版間の差分

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[[Image:Pink oni Noh mask.jpg|right|thumb|般若の面]]
[[File:Hannya (Noh mask), Tokyo National Museum C-1554.jpg|right|thumb|200px|能面「般若」([[重要文化財]]、[[東京国立博物館]]蔵)]]
'''般若の面'''(はんにゃのめん)、'''般若面'''、あるいは単に'''般若'''は、[[嫉妬]][[恨み]]の篭る[[]]の顔」としての[[鬼女]]の[[能]]。
'''般若の面'''(はんにゃのめん'''般若面'''、'''般若'''とも)は、[[能面]]の一種である。女性の[[嫉妬]][[恨み]]を表現した[[怨霊]]の面で、『[[葵上]]』、『[[道成寺 (能)|道成寺]]』、『[[黒塚 (能)|黒塚(安達原)]]』などの[[能]]の演目で用いられる{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}
==概要==
本来、「[[般若]]」([[サンスクリット]]: प्रज्ञा, prajñā)は[[仏教]]用語で、その[[漢訳]]語「智慧」(日常用語の「[[知恵]]」とは意味が少し違う)の同義語である。しかし、語義と面の関係は薄い。


==造形==
一説には、般若坊という僧侶が作ったところから名がついたといわれている。あるいは、『[[源氏物語]]』の[[葵の上]]が[[六条御息所]]の嫉妬心に悩まされ、その生怨霊にとりつかれた時、[[般若経]]を読んで御修法(みずほう)を行い怨霊を退治したから、般若が面の名になったともいわれる。
{{Double image aside|right|Hannya (Noh mask), Tokyo National Museum C-1554.jpg|120|Hannya (Noh mask), Tokyo National Museum C-1554, reverse.jpg|120|般若面・表|裏}}
般若は[[鬼女]]の面であり、額には[[金泥]]を塗った二本の長い[[角]]が生えている{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}{{Sfn|倉林|2013|p=6}}。頭頂部には、小面などの他の[[能面#種類|女体面]]と同じく、左右に分けた[[髪の毛]]が描かれているが、般若の場合は毛が乱れて凄まじさが表現されている{{Sfn|横道|1987|p=209}}。額には作り眉(本来の[[眉]]よりも上の方に眉墨で描いた眉)が描かれている{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}{{Sfn|横道|1987|p=211}}。ひそめた眉の下にある眼は金色で、[[瞳孔]]の部分のみ穴が開いている{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}{{Sfn|横道|1987|pp=205-206}}。口はかっと大きく開かれ、金具をはめた上下の歯と二対の[[牙]]があらわになっている{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}{{Sfn|横道|1987|p=204}}。


般若面の特徴は、上半分が眉根を寄せた悲しげな表情であるのに対し、下半分では大きく開かれた口が激しい怒りを表していることである{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}{{Sfn|横道|1987|p=204}}。このような造形は、怒りと悲しみを抱えた鬼女の心の二面性を表現しているとされる{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}{{Sfn|横道|1987|p=204}}。
能では、[[葵上]]や[[道成寺 (能)|道成寺]]、[[黒塚 (能)|黒塚]]などで般若の面が用いられる。


般若面の肌は[[肉色]]に彩色されている{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}。色味には、白っぽい肉色・肉色・濃い肉色があり、役柄によって使い分けることがある{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}。
能面の世界では、鬼女への進化の途中で般若に成りきれていない顔つきの面を「'''[[生成]]'''」、般若が進化して[[蛇]]のような顔つきになった面を「'''[[真蛇]]'''」と称している。


==歴史==
仏教用語としての般若が一般的でなくなった現代日本では、「般若」を「般若の面」の意味で、さらには、「嫉妬や恨みのこもる女性」という意味で用いたり、転じて「般若の面のような憤怒の形相」という意味で用いることもある。
===成立===
能面の種類は、現在では250以上あると言われているが、能面に関する最古の史料である『[[申楽談儀]]』(1430年)に記されている面の名称はわずか14種ほどにすぎず、その中に「般若」の名は見られない{{Sfn|小林ほか|2012|pp=400,691}}{{Sfn|神戸女子大学古典芸能研究センター|2016|pp=11-12}}。ただし『申楽談儀』には、能『[[葵上]]』の上演について記録されており、般若のような蛇系の鬼女面が使用されていた可能性もある{{Sfn|神戸女子大学古典芸能研究センター|2016|pp=210-211}} 。


面の種類の分化が進んだのは16世紀に入ってからとみられ、1580年代から1610年代頃に能役者として活動した[[下間仲孝]]の著作には「般若」の名が登場する{{Sfn|神戸女子大学古典芸能研究センター|2016|p=12}} {{Sfn|西野ほか|1987|p=387}}。
== フィクションにおける般若の面 ==
* [[のぼらんか]] - [[1986年]]に発売された[[データイースト]]の[[アーケードゲーム]]。ボスのワルサー大王が般若の面を着用している。
* [[ドラゴンクエストIII そして伝説へ…]] - [[スクウェア・エニックス]](旧:[[エニックス]])の[[ロールプレイングゲーム]]。呪いの防具として「般若の面」が登場する。
* [[クロックタワーゴーストヘッド]] - [[1998年]]に発売された[[ヒューマン (ゲーム会社)|ヒューマン]]の[[テレビゲーム]]。最終ステージに登場する白衣の追跡者「才堂 不志人」が般若の面を着用している。


==類似==
===名称由来===
般若面の由来にまつわる代表的な説は「般若坊という[[僧侶]]が創作したため」というものであるが、能楽研究者の[[野上豊一郎]]はこの説を否定している{{Sfn|野上|2009|pp=706,722}} 。野上によれば、般若坊は概ね[[文明 (日本)|文明年間]](1469年-1487年)頃の人物と思われるが、現代に伝わる般若面の中には、般若坊より前の時代の面打ち師(赤鶴、龍右衛門、夜叉、徳若、福来ら)の作と伝えられるものがあり、これらと般若坊の作品との間に大きな技法的差異はみられない{{Sfn|野上|2009|pp=706-707,712,722}}。したがって、こんにち般若と呼ばれている面は、般若坊以前から存在していたと考えられる{{Sfn|野上|2009|pp=722-724}}。
===真蛇===
[[File:Shinjya-1j.jpg|right|thumb|200px|真蛇]]
'''真蛇'''(しんじゃ)とは、[[能面]]の一種。
====概要====
「[[般若の面|般若]](はんにゃ)」と呼ばれる女の[[鬼]]([[鬼女]])の面の中でも、最も罪業深く、ほとんど[[ヘビ|蛇]]になってしまった面を真蛇(しんじゃ)と呼ぶ。


野上は、現在でいうところの般若面は、元々「鬼女の面」や「女の[[生霊]]の面」等の説明的な名称で呼ばれており、後に能面の名称が細分化していく中で「般若」という特称を与えられたのではないかと推測している{{Sfn|野上|2009|p=722}}。その際に「般若」という名が選ばれた理由として、以下の二つの説を挙げている。
[[嫉妬]]のあまり、顔がほとんど蛇と化し、耳は取れ、口は耳まで裂け、舌が覗き、牙も長く、髪もほとんどなくなるとされている。なお、角の生えているものはすべて女性の鬼で、男性には生えない<!-- ただし、能面での話であり、『[[梁塵秘抄]]』の歌の中には、女が男を呪った歌として、「~角三つ生ひたる鬼になれ~」と詠んでいるものがあり、平安時代末期の時点で有角鬼が女のみという考え方はない -->。


1.同種の面の中で般若坊の作品が特に優れていたため、「般若坊の鬼女の面」などと呼ばれるようになり、それが次第に簡略化されて「般若」となった{{Sfn|野上|2009|pp=722-723}}。
==== その他 ====
* 女が角を持った蛇と化す怪異話は、『[[吾妻鏡]]』にも記述されており、[[文応]]元年([[1260年]])10月15日条には、「[[北条政村]]の女が邪気を病んだが、これは[[比企能員]]の女である讃岐局(さぬきのつぼね)の霊が祟りをなしたゆえであった。'''局は[[大蛇]]となり、頂(いただ)きに大きな角がある'''。女は火炎の如く、常に苦を受ける。当時、比企谷(ひきがやつ)の土中にいて、言を発した。これを聞いた人は身の毛もよだつと言った」。11月27日条に至り、「夜に供養の儀があり、説法の最中、件の姫君、悩乱し、舌を出し、唇をなめ、身を動かし、足を伸ばした。ひとえに蛇身が出現した時と似ている。加持が行われた後、言をやめ、眠るが如く、復本したという」。この事からも、真蛇に類した話は、少なくとも[[13世紀]]中頃末には確認できる。
<!-- * 皮膚の角質化異常で人間の額からも角が生える症例が確認されているが、いずれも高齢者である。 -->


2.能『葵上』において、主人公である怨霊が[[般若心経]]を聞き「やらやら恐ろしの般若声や」という台詞を発する場面があることから、この役がかける面を「般若」と呼ぶようになった{{Sfn|野上|2009|pp=723-724}}。
===生成===
[[File:Namanari type noh mask, Edo period, 1700s-1800s AD, wood, polychromy - Tokyo National Museum - Ueno Park, Tokyo, Japan - DSC08971.jpg|right|thumb|200px|生成]]
'''生成'''(なまなり)とは、「[[般若の面|般若]](はんにゃ)」と呼ばれる女の[[鬼]]の面の中でも、まだ魔性が充分に徹底しない状態を表しているものを指す<ref name=演劇百科大事典>戸井田道三「生成」『演劇百科大事典 4』(平凡社、1961年)P280</ref>。


また、上記の説の他には、[[仏教]]用語で「智慧」を意味する語「[[般若]]」に由来するという説もある{{Sfn|倉林|2013|p=6}}。一説では、赤鶴という面打ち師が神から智慧を授かってこの面を作ったことから「般若」と名付けられたという{{Sfn|成田|1987|p=17}}。
角が肉の下で隆起しているだけで<ref name=演劇百科大事典/>、生えかかった短い角が露出している状態を表す<ref name=岩波講座>『岩波講座 能・狂言Ⅳ』(岩波書店、1987年)P224</ref>。角が本当には生えていないために、「生成」と呼ばれている<ref name=演劇百科大事典/>。


また、[[能楽師]]の[[金剛巌 (二世)|二世金剛巌]]は、「般若の名のきたるところは(中略)諸説があるが、私は般若(知恵)を悪用するとこんな顔になるというのが一番面白いと思う」という見解を示している{{Sfn|金剛|1983|pp=86-87}}。同じく能楽師の[[観世銕之亟 (8世)|八世観世銕之亟]]は、「般若というのは、仏教では[[解脱]]した、[[悟り]]をひらいた状態をいうのですが、実際は執心の角がはえたのを般若というわけで、皮肉といえば皮肉です。でも[[涅槃]]にいたる過程という考え方かもしれないとも言われています」と述べている{{Sfn|観世|1999|pp=82-83}}。
常相の女体面の面影をまだ留めているが、般若と異なって大きく口を開いて舌を見せている<ref name=岩波講座/>。『[[鉄輪 (能)|鉄輪]]』の後ジテなどに用いられている<ref name=演劇百科大事典/>。


== 脚注 ==
==用法==
===般若面を用いる能の演目===
<references/>
般若面を用いる主な能の演目は以下の通りである{{Sfn|小林ほか|2012|p=741}}。これらの中でも『葵上』『道成寺』『黒塚』の三作品は、俗に「三鬼女」と呼ばれることがある{{Sfn|小林ほか|2012|p=300}}。


[[File:Scene uit het Noh theaterstuk Aoinoue Aoinoue (titel op object) Honderd Noh spelen (serietitel) Nogaku hyakuban (serietitel op object), RP-P-2003-279.jpg|right|thumb|200px|[[月岡耕漁]]画「[[葵上]]」]]
== 関連項目 ==
*'''[[葵上]]''' - 『[[源氏物語]]』の「[[葵 (源氏物語)|葵の巻]]」を題材とした作品{{Sfn|西野ほか|1987|p=13}}。[[六条御息所]]の怨霊が、[[光源氏]]の正妻・[[葵上]]への恨みから鬼と化すが、僧の[[祈祷]]を受けて[[成仏]]するという内容{{Sfn|西野ほか|1987|p=13}}{{Sfn|小林ほか|2012|p=2}}。六条御息所は、登場時は「泥眼」という女面をかけているが、途中で後見座(舞台後方)へ行き、面を般若に掛け替える{{Sfn|小林ほか|2012|p=2}}。
* [[鬼女]]

[[File:Dojoji道成寺.jpg|right|thumb|250px|月岡耕漁画「[[道成寺 (能)|道成寺]]」]]
*'''[[道成寺 (能)|道成寺]]''' - [[道成寺|紀伊国道成寺]]を舞台にした物語{{Sfn|西野ほか|1987|pp=107-108}}。この寺では昔、修行僧に恋をした女が大蛇となり、寺の鐘に隠れた僧を鐘ごと焼き殺したことがあった{{Sfn|三浦ほか|2012|p=67}}{{Sfn|西野ほか|1987|pp=107-108}}。この女の怨霊が[[白拍子]]の姿となって再び寺に現れるが、僧の祈祷を受けて逃げ去る{{Sfn|三浦ほか|2012|p=67}}{{Sfn|西野ほか|1987|p=108}}。女は、登場時は「曲見」などの女面をかけているが、途中で舞台上に落下してくる鐘の中に飛び込み、暗い鐘の中で面を般若に替える{{Sfn|三浦ほか|2004|p=155}}{{Sfn|観世ほか|2004|pp=5-6}}。演出によっては、般若の代わりに「蛇」や「真蛇」、「泥蛇」などの面を使う場合もある{{Sfn|小林ほか|2012|p=618}}。

*'''[[黒塚 (能)|黒塚(安達原)]]''' - [[陸奥国|陸奥]]の[[安達ヶ原]]を旅する[[山伏]]一行は、一人の女の家に宿を借りるが、女が外出した隙に、寝屋に山積みされた死体を見てしまう{{Sfn|小林ほか|2012|p=300}}。女は鬼女と化して一行を追いかけるが、山伏の祈りによって消え去るという物語である{{Sfn|小林ほか|2012|p=300}}。演出によっては、般若の代わりに「真蛇」や「顰」などの面を使う場合もある{{Sfn|小林ほか|2012|p=300}}。

*'''現在七面''' - [[日蓮|日蓮上人]]のもとに現れた里女が、正体である大蛇の姿を現すが、上人の読経によって[[天女]]に変身するという物語{{Sfn|戸井田ほか|2008|p=93}}。大蛇が天女へと変身する場面では、シテは女面(増または小面)の上に般若を重ねてかけて登場し、途中で般若の面を外す{{Sfn|小林ほか|2012|p=307}}。

*'''紅葉狩''' - [[平維茂]]が、美女に化けた[[鬼神]]を退治する物語である{{Sfn|小林ほか|2012|p=882}}。演出によって、鬼神を男と解釈する場合は「顰」の面を用いるが、女とする場合は般若が用いられる{{Sfn|三浦ほか|2004|p=211}}。

*'''鉄輪''' - 夫に離縁された女が鬼となり、夫と後妻を呪うが、[[安倍晴明]]の祈祷を受けて退散する物語である{{Sfn|小林ほか|2012|p=200}}。「橋姫」や「生成」の面を用いるが、流儀によっては般若を使うこともある{{Sfn|小林ほか|2012|pp=200,741}}。

===舞台上での効果===
[[File:Matsuke Heikichi - Nogaku zue - Walters 95252.jpg|right|thumb|250px|月岡耕漁『能楽図絵』より「[[黒塚 (能)|安達原]]」。鬼女と僧の対決の場面。]]
般若面を用いる『葵上』『道成寺』『黒塚』等の演目には、祈祷をする僧と鬼女が対決する「イノリ」という場面がある{{Sfn|横道|1987|p=204}}。この場面では、祈祷に負けそうになった鬼女が、いったんは身を縮めて顔を伏せるものの、やがて振り切るように顔を上げ、僧をにらみつけるという所作が繰り返される{{Sfn|横道|1987|p=204}}{{Sfn|小林ほか|2012|p=49}}。般若面は上半分と下半分で表情が異なるため([[般若の面#造形]]参照)、イノリでは顔を伏せると悲しげな目元があらわれ、顔を起こすと猛々しい口元があらわれるといったように、役者の動きに応じて表情が変化して見える効果がある{{Sfn|横道|1987|p=204}}。

===装束と面の選択===
般若面をかける際の[[装束]]は、鬼女を象徴する[[鱗]]文様の擦箔と、丸紋尽くしの縫箔であることが多い{{Sfn|三浦ほか|2012|p=66}}{{Sfn|観世ほか|2004|p=9}}。

般若面は、色彩と造形によって白般若・赤般若・黒般若と呼び分けられる{{Sfn|三浦ほか|2012|p=67}}。これらは役柄によって使い分けられることがあり、例えば、『葵上』に登場する六条御息所は貴族という設定であるため、品格のある白般若が選ばれる{{Sfn|三浦ほか|2004|p=105}}{{Sfn|中村|1962|p=20}}。他方、山奥に住む『黒塚』の鬼女には動物的な表情の黒般若が、『道成寺』の鬼女には白と黒の中間の品格をもつ赤般若がふさわしいとされる{{Sfn|三浦ほか|2004|pp=107,155}}。

==類面等との比較==
能では女性の嫉妬や恨みや怒りの感情の烈度により能面を使い分ける。

女性の感情が高ぶり始め、人の存在を超越した存在になり始め、般若や蛇になる最初の過程の怨霊や生霊の女性を表したのが'''泥眼'''(でいがん)である。白眼と歯先が金色に塗られているのは既に人間という存在を超越し始めていることを表している。能『鉄輪』『葵上』で用いられる<ref>{{Cite web|和書|url=https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/C-1538?locale=ja|archive-url=https://web.archive.org/web/20230208174354/https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/C-1538?locale=ja|title=能面 泥眼 天下一河内|publisher=ColBase|archive-date=2023-02-08|access-date=2023-02-08}}</ref><ref>{{Cite web|和書|url=https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/C-43?|archive-url=https://web.archive.org/web/20230208174352/https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/C-43?locale=ja|title=能面 泥眼 越智作/満昆(花押)|publisher=ColBase|archive-date=2023-02-08|access-date=2023-02-08}}</ref>。また単に人を超越した女性を表すのにも使われ、能『海士』(あま)と『当麻』(たえま)では、龍女と菩薩になった女性を表している<ref name="fukuoka">{{Cite web|和書|url=http://museum.city.fukuoka.jp/archives/leaflet/186/index02.html|archive-url=https://web.archive.org/web/20220707161010/http://museum.city.fukuoka.jp/archives/leaflet/186/index02.html|title=能面の世界 女面|publisher=[[福岡市博物館]]|archive-date=2022-07-07|access-date=2023-02-08}}</ref>。

'''橋姫'''は目の下が赤く塗られ、泥眼より髪が乱れて目の金色が目立つように彩色されている。これは女性の凄惨な復讐心を表している。能『鉄輪』『橋姫』で用いられる<ref>{{Cite web|和書|url=http://www.city.yatsushiro.kumamoto.jp/museum/event/per_ex2/pdf/noh_m.pdf|archive-url=https://web.archive.org/web/20150209040009/http://www.city.yatsushiro.kumamoto.jp/museum/event/per_ex2/pdf/noh_m.pdf|title=やさしい能面入門講座|language=ja|publisher=[[八代市立博物館・未来の森ミュージアム]]|archive-date=2015-02-09|access-date=2023-02-08}}</ref><ref name="nishino12">{{cite book|page=26, 42|title=能面の世界|author=西野春雄|publisher=[[平凡社]]|year=2012|isbn=978-4582634716}}</ref>。

般若の類面とされる'''生成'''(なまなり)は、女が鬼となる途中の姿を模した面で、額の両側に短い角が生えかけている。般若より夫に対する未練の情が残っている心理状態を表している{{Sfn|倉林|2013|p=6}}{{Sfn|野上|1940|p=115}}{{Sfn|小林ほか|2012|p=651}}。生成は、能『鉄輪』の専用面として用いられる{{Sfn|小林ほか|2012|p=651}}。

また、般若と同じ女の怨霊の面で、より激しい怒りの様子を表したのが'''蛇'''(じゃ)や'''真蛇'''(しんじゃ)である{{Sfn|倉林|2013|p=6}}{{Sfn|野上|1940|p=115}}。口から舌が覗いており、また面によっては耳がないなど、人間よりも蛇に近い顔つきをしている{{Sfn|倉林|2013|pp=6-7,39}}{{Sfn|小林ほか|2012|pp=439,478}}。[[仏教]]においては、昔から[[悟り]]の妨げとなる人身を[[毒蛇]]に喩えることがあった{{Sfn|野上|2009|p=713}}。特に女性は、男性と違って[[五障|悟りに到達できない存在]]とみなされる中で、しばしば鬼女や毒蛇・悪蛇に擬せられ、愛欲が満たされないときには復讐のため人を殺めるとされた{{Sfn|野上|2009|pp=713-714}}。蛇の能面は、その激情を表現したものと考えられる{{Sfn|野上|2009|p=714}}。蛇や真蛇は、「道成寺」において般若の代替の面として用いられる{{Sfn|小林ほか|2012|pp=439,478}}。

生成に対して、鬼女となった般若を「中成(ちゅうなり、なかなり)」と呼び、さらに怒りの進んだ蛇や真蛇を「本成(ほんなり)」と呼ぶことがある{{Sfn|倉林|2013|p=6}}{{Sfn|野上|1940|p=115}}。

{{Gallery
|width=150
|height=140
|lines=2
|File:Deigan-.jpg|泥眼、江戸時代の17世紀、東京国立博物館蔵、重要文化財
|File:Hashihime type noh mask, Edo period, 1600s AD, wood, polychromy - Tokyo National Museum - Ueno Park, Tokyo, Japan - DSC08979.jpg|橋姫、江戸時代の17世紀、東京国立博物館蔵
|File:Namanari type noh mask, Edo period, 1700s-1800s AD, wood, polychromy - Tokyo National Museum - Ueno Park, Tokyo, Japan - DSC08971.jpg|生成、江戸時代の18世紀か19世紀、東京国立博物館蔵
|File:Han'nya type noh mask, with inscription Omi utsu, Edo period, 1600s-1700s AD, wood, polychromy - Tokyo National Museum - Ueno Park, Tokyo, Japan - DSC08983.jpg|般若(中成)、江戸時代の17世紀か18世紀、東京国立博物館蔵
|File:Shinjya-1j.jpg|真蛇(本成)
}}

== 大衆文化に登場する般若の面==
=== 映画 ===
*'''[[鬼婆 (映画)|鬼婆]]''' - [[新藤兼人]]による[[1964年]]の映画。[[南北朝時代 (日本)|南北朝時代]]を舞台とした作品で、般若面をかけて夜道で人を脅す女が登場する{{Sfn|小野|2011|pp=258,336-337}}。
*'''{{仮リンク|アートマン (1975年の映画)|label=アートマン|en|Ātman (1975 film)}}'''- [[松本俊夫]]による[[1975年]]の[[実験映画]]。般若面をかけた人物を[[コマ撮り]]で撮影している<ref>{{Cite web|和書|url=https://img-lib.musabi.ac.jp/search/document/detail-work/2926 |archivedate=2022-9-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220919110628/https://img-lib.musabi.ac.jp/search/document/detail-work/2926 |title=作品情報:アートマン |website=武蔵野美術大学 美術館・図書館 イメージライブラリー所蔵 映像作品データベース|publisher=[[武蔵野美術大学]] |accessdate=2022-9-19}}</ref>。

=== ドラマ ===
*'''[[桃太郎侍]]''' - [[日本テレビ]]制作で[[1976年]]から[[1981年]]に放送されたテレビ時代劇。[[高橋英樹 (俳優)|高橋英樹]]演じる主人公・桃太郎がクライマックスで悪党の成敗に乗り込む際に着用する{{要出典|date=2022年12月}}。

=== 漫画 ===
* '''[[能面女子の花子さん]]''' - [[漫画]]作品。主人公の母親が般若の面を着用している<ref>{{Cite web|和書|author=粟生こずえ |date=2017-2-6 |url=https://konomanga.jp/interview/92487-2/2 |archivedate=2022-9-10 |archiveurl=https://archive.ph/ctQto |title=【インタビュー】織田涼『能面女子の花子さん』 能面をつけた女子高生ののほほん学園コメディが大ヒット! 実際に能面をかぶってみると…… |website=[[このマンガがすごい!|このマンガがすごい!Web]] |accessdate=2022-9-10}}</ref>。

=== ゲーム ===
*'''[[のぼらんか]]''' - [[1986年]]発売の[[アーケードゲーム]]。ボスのワルサー大王が般若の面を着用している{{要出典|date=2022年10月}}。
*'''[[ドラゴンクエストIII そして伝説へ…]]''' - [[1988年]]発売の[[ロールプレイングゲーム]]。防具「般若の面」というアイテムが登場する<ref>{{Cite book |和書 | year=1988 |title=ドラゴンクエスト そして伝説へ…公式ガイドブック |publisher=[[エニックス]] |isbn=4900527033|page=90}}</ref>。
*'''[[クロックタワーゴーストヘッド]]''' - [[1998年]]発売の[[テレビゲーム]]。般若面をかけた殺人鬼・才堂不志人というキャラクターが登場する{{Sfn|ファミコン通信編集部|1998|p=77}}。
*'''[[龍が如く]]''' - [[アクションゲーム]]シリーズ。登場人物の一人・[[真島吾朗]]が般若の[[刺青]]を入れている<ref>{{Cite web|和書|date=2022-5-14 |url=https://dengekionline.com/articles/132087/ |archivedate=2022-5-14 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20220514001042/https://dengekionline.com/articles/132087/ |title=本日は真島吾朗の誕生日。嶋野の狂犬グッズオンリーのオンラインくじ…笑いどころやないかい! |website=[[電撃オンライン]] |accessdate=2022-9-19}}</ref>。
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==出典==
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==参考文献==
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*{{Cite book |和書 |author=野上豊一郎 | year=2009 |title=能とは何か 野上豊一郎批評集成 下 |publisher=[[書肆心水]] |isbn=9784902854657|{{SfnRef|野上|2009}} }}
*{{Cite book |和書 |author=ファミコン通信編集部 |year=1998 |title=クロックタワーゴーストヘッドオフィシャルガイドブック Clock tower ghost head official guide book |publisher=[[アスキー (企業)|アスキー]] |isbn=4757201176 |{{SfnRef|ファミコン通信編集部|1998}} }}
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*{{Cite journal |和書|author=岡部隆志、三浦裕子 |title=怖いけど、親しみのある鬼のはなし 日本の鬼、行事、般若、桃太郎 |date=2012-3-1 |publisher=[[清流出版]] |journal=清流 |volume=19|issue=3 |pages=61-69 |ref={{SfnRef|三浦ほか|2012}} }}
*{{Cite book |和書 |author=[[横道萬里雄]] |year=1987 |title=岩波講座 能・狂言Ⅳ 能の構造と技法 |publisher=岩波書店 |isbn=400010294X|{{SfnRef|横道|1987}} }}


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [https://nohmask.exblog.jp/i17 能面 長澤重春能面集:般若]


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2024年9月14日 (土) 06:52時点における最新版

能面「般若」(重要文化財東京国立博物館蔵)

般若の面(はんにゃのめん。般若面般若とも)は、能面の一種である。女性の嫉妬恨みを表現した怨霊の面で、『葵上』、『道成寺』、『黒塚(安達原)』などのの演目で用いられる[1]

造形

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般若面・表 裏
般若面・表

般若は鬼女の面であり、額には金泥を塗った二本の長いが生えている[1][2]。頭頂部には、小面などの他の女体面と同じく、左右に分けた髪の毛が描かれているが、般若の場合は毛が乱れて凄まじさが表現されている[3]。額には作り眉(本来のよりも上の方に眉墨で描いた眉)が描かれている[1][4]。ひそめた眉の下にある眼は金色で、瞳孔の部分のみ穴が開いている[1][5]。口はかっと大きく開かれ、金具をはめた上下の歯と二対のがあらわになっている[1][6]

般若面の特徴は、上半分が眉根を寄せた悲しげな表情であるのに対し、下半分では大きく開かれた口が激しい怒りを表していることである[1][6]。このような造形は、怒りと悲しみを抱えた鬼女の心の二面性を表現しているとされる[1][6]

般若面の肌は肉色に彩色されている[1]。色味には、白っぽい肉色・肉色・濃い肉色があり、役柄によって使い分けることがある[1]

歴史

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成立

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能面の種類は、現在では250以上あると言われているが、能面に関する最古の史料である『申楽談儀』(1430年)に記されている面の名称はわずか14種ほどにすぎず、その中に「般若」の名は見られない[7][8]。ただし『申楽談儀』には、能『葵上』の上演について記録されており、般若のような蛇系の鬼女面が使用されていた可能性もある[9]

面の種類の分化が進んだのは16世紀に入ってからとみられ、1580年代から1610年代頃に能役者として活動した下間仲孝の著作には「般若」の名が登場する[10] [11]

名称の由来

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般若面の由来にまつわる代表的な説は「般若坊という僧侶が創作したため」というものであるが、能楽研究者の野上豊一郎はこの説を否定している[12] 。野上によれば、般若坊は概ね文明年間(1469年-1487年)頃の人物と思われるが、現代に伝わる般若面の中には、般若坊より前の時代の面打ち師(赤鶴、龍右衛門、夜叉、徳若、福来ら)の作と伝えられるものがあり、これらと般若坊の作品との間に大きな技法的差異はみられない[13]。したがって、こんにち般若と呼ばれている面は、般若坊以前から存在していたと考えられる[14]

野上は、現在でいうところの般若面は、元々「鬼女の面」や「女の生霊の面」等の説明的な名称で呼ばれており、後に能面の名称が細分化していく中で「般若」という特称を与えられたのではないかと推測している[15]。その際に「般若」という名が選ばれた理由として、以下の二つの説を挙げている。

1.同種の面の中で般若坊の作品が特に優れていたため、「般若坊の鬼女の面」などと呼ばれるようになり、それが次第に簡略化されて「般若」となった[16]

2.能『葵上』において、主人公である怨霊が般若心経を聞き「やらやら恐ろしの般若声や」という台詞を発する場面があることから、この役がかける面を「般若」と呼ぶようになった[17]

また、上記の説の他には、仏教用語で「智慧」を意味する語「般若」に由来するという説もある[2]。一説では、赤鶴という面打ち師が神から智慧を授かってこの面を作ったことから「般若」と名付けられたという[18]

また、能楽師二世金剛巌は、「般若の名のきたるところは(中略)諸説があるが、私は般若(知恵)を悪用するとこんな顔になるというのが一番面白いと思う」という見解を示している[19]。同じく能楽師の八世観世銕之亟は、「般若というのは、仏教では解脱した、悟りをひらいた状態をいうのですが、実際は執心の角がはえたのを般若というわけで、皮肉といえば皮肉です。でも涅槃にいたる過程という考え方かもしれないとも言われています」と述べている[20]

用法

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般若面を用いる能の演目

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般若面を用いる主な能の演目は以下の通りである[1]。これらの中でも『葵上』『道成寺』『黒塚』の三作品は、俗に「三鬼女」と呼ばれることがある[21]

月岡耕漁画「葵上
月岡耕漁画「道成寺
  • 道成寺 - 紀伊国道成寺を舞台にした物語[24]。この寺では昔、修行僧に恋をした女が大蛇となり、寺の鐘に隠れた僧を鐘ごと焼き殺したことがあった[25][24]。この女の怨霊が白拍子の姿となって再び寺に現れるが、僧の祈祷を受けて逃げ去る[25][26]。女は、登場時は「曲見」などの女面をかけているが、途中で舞台上に落下してくる鐘の中に飛び込み、暗い鐘の中で面を般若に替える[27][28]。演出によっては、般若の代わりに「蛇」や「真蛇」、「泥蛇」などの面を使う場合もある[29]
  • 黒塚(安達原) - 陸奥安達ヶ原を旅する山伏一行は、一人の女の家に宿を借りるが、女が外出した隙に、寝屋に山積みされた死体を見てしまう[21]。女は鬼女と化して一行を追いかけるが、山伏の祈りによって消え去るという物語である[21]。演出によっては、般若の代わりに「真蛇」や「顰」などの面を使う場合もある[21]
  • 現在七面 - 日蓮上人のもとに現れた里女が、正体である大蛇の姿を現すが、上人の読経によって天女に変身するという物語[30]。大蛇が天女へと変身する場面では、シテは女面(増または小面)の上に般若を重ねてかけて登場し、途中で般若の面を外す[31]
  • 紅葉狩 - 平維茂が、美女に化けた鬼神を退治する物語である[32]。演出によって、鬼神を男と解釈する場合は「顰」の面を用いるが、女とする場合は般若が用いられる[33]
  • 鉄輪 - 夫に離縁された女が鬼となり、夫と後妻を呪うが、安倍晴明の祈祷を受けて退散する物語である[34]。「橋姫」や「生成」の面を用いるが、流儀によっては般若を使うこともある[35]

舞台上での効果

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月岡耕漁『能楽図絵』より「安達原」。鬼女と僧の対決の場面。

般若面を用いる『葵上』『道成寺』『黒塚』等の演目には、祈祷をする僧と鬼女が対決する「イノリ」という場面がある[6]。この場面では、祈祷に負けそうになった鬼女が、いったんは身を縮めて顔を伏せるものの、やがて振り切るように顔を上げ、僧をにらみつけるという所作が繰り返される[6][36]。般若面は上半分と下半分で表情が異なるため(般若の面#造形参照)、イノリでは顔を伏せると悲しげな目元があらわれ、顔を起こすと猛々しい口元があらわれるといったように、役者の動きに応じて表情が変化して見える効果がある[6]

装束と面の選択

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般若面をかける際の装束は、鬼女を象徴する文様の擦箔と、丸紋尽くしの縫箔であることが多い[37][38]

般若面は、色彩と造形によって白般若・赤般若・黒般若と呼び分けられる[25]。これらは役柄によって使い分けられることがあり、例えば、『葵上』に登場する六条御息所は貴族という設定であるため、品格のある白般若が選ばれる[39][40]。他方、山奥に住む『黒塚』の鬼女には動物的な表情の黒般若が、『道成寺』の鬼女には白と黒の中間の品格をもつ赤般若がふさわしいとされる[41]

類面等との比較

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能では女性の嫉妬や恨みや怒りの感情の烈度により能面を使い分ける。

女性の感情が高ぶり始め、人の存在を超越した存在になり始め、般若や蛇になる最初の過程の怨霊や生霊の女性を表したのが泥眼(でいがん)である。白眼と歯先が金色に塗られているのは既に人間という存在を超越し始めていることを表している。能『鉄輪』『葵上』で用いられる[42][43]。また単に人を超越した女性を表すのにも使われ、能『海士』(あま)と『当麻』(たえま)では、龍女と菩薩になった女性を表している[44]

橋姫は目の下が赤く塗られ、泥眼より髪が乱れて目の金色が目立つように彩色されている。これは女性の凄惨な復讐心を表している。能『鉄輪』『橋姫』で用いられる[45][46]

般若の類面とされる生成(なまなり)は、女が鬼となる途中の姿を模した面で、額の両側に短い角が生えかけている。般若より夫に対する未練の情が残っている心理状態を表している[2][47][48]。生成は、能『鉄輪』の専用面として用いられる[48]

また、般若と同じ女の怨霊の面で、より激しい怒りの様子を表したのが(じゃ)や真蛇(しんじゃ)である[2][47]。口から舌が覗いており、また面によっては耳がないなど、人間よりも蛇に近い顔つきをしている[49][50]仏教においては、昔から悟りの妨げとなる人身を毒蛇に喩えることがあった[51]。特に女性は、男性と違って悟りに到達できない存在とみなされる中で、しばしば鬼女や毒蛇・悪蛇に擬せられ、愛欲が満たされないときには復讐のため人を殺めるとされた[52]。蛇の能面は、その激情を表現したものと考えられる[53]。蛇や真蛇は、「道成寺」において般若の代替の面として用いられる[50]

生成に対して、鬼女となった般若を「中成(ちゅうなり、なかなり)」と呼び、さらに怒りの進んだ蛇や真蛇を「本成(ほんなり)」と呼ぶことがある[2][47]

大衆文化に登場する般若の面

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映画

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ドラマ

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漫画

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ゲーム

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出典

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参考文献

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外部リンク

[編集]