コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

田中早苗 (翻訳家)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

田中 早苗(たなか さなえ、1884年明治17年) - 1945年昭和20年)5月25日)は日本翻訳家。男性。本名は田中 豊松(たなか とよまつ)[1]で、この名義での著訳書もある。

英語フランス語を解し、博文館の雑誌『新青年』などで、モーリス・ルヴェルフランス語版英語版ウィルキー・コリンズエミール・ガボリオガストン・ルルーなどの作品の翻訳紹介につとめた。

経歴

[編集]

1884年(明治17年)、秋田県秋田市に生まれる[2]

1907年(明治40年)、早稲田大学高等師範部英語科卒業[2]

雑誌『海外之日本』(海外之日本社)記者、雑誌『太陽』(博文館)嘱託記者を歴任した[2]

1937年(昭和12年)4月より東京市赤坂区史編纂事務嘱託として『赤坂区史』の編纂に従事する[3][2]

1945年(昭和20年)5月25日、疎開先の奈良県で病死[4]

業績

[編集]

新青年』には早い時期から翻訳者として参加し、「文学味の強い異常小説」[5]を好んで翻訳、江戸川乱歩などに影響を与えた。特に、フランスの作家モーリス・ルヴェルフランス語版英語版の翻訳紹介で知られる[6]。1928年(昭和3年)に春陽堂より出版されたルヴェル『夜鳥』について、乱歩は「田中さんの数多い飜訳書中の白眉ではないかと思う」[7]と評している。田中の翻訳を介してルヴェルの影響を受けた作家に、小酒井不木夢野久作などがいる[8]。ルヴェルを紹介した人間は田中以前にもいたが、最も精力的に翻訳を行ったのは田中であった[9]

イギリスの作家では、ステイシー・オーモニア英語版アーサー・マッケンなどの異色作家を偏愛した。ただし、マッケンの翻訳は行っていない。乱歩によれば「その作品が非常に特殊なもので、大衆性があるかどうか疑問だった」[5]ためだという。一方で、本格探偵小説にはほとんど関心を示さなかった[10]

人物

[編集]

『新青年』編集長・森下雨村邸に集まってブリッジにいそしんでいたグループの一員であり、また森下とは敵同士でもあった。森下の帰郷後は乱歩とも交流を深めた。乱歩は「世事にうとく、流行に反逆し、古風を守って譲らず、金銭的には損ばかりしている人であった」と評している[5]

著作

[編集]

編著(田中豊松名義)

[編集]
  • 『ペスタロッチ言行録』内外出版協会〈偉人研究 第23編〉、1908年3月。NDLJP:782447 
  • 『シーザー言行録』内外出版協会〈偉人研究 第46編〉、1908年10月。NDLJP:782258 
  • 『エヂソン言行録』内外出版協会〈偉人研究 第52編〉、1908年11月。NDLJP:782254 

翻訳

[編集]
  • ロバート・ルイス・ステヴンソン『漂泊の青年』白水社〈近代世界快著叢書 第8編〉、1919年1月。 
  • ウイリアム・ウイルキイ・コリンス白衣の女』 闇闘の巻、白水社、1921年7月。NDLJP:968362 
  • ウイリアム・ウイルキイ・コリンス『白衣の女』 下巻 運命の巻、白水社、1921年11月。NDLJP:968363 
  • 『現代探偵傑作集』グランド社、1925年5月。 
  • モォリス・ルヴェル『夜鳥』春陽堂、1928年6月。 
    • モーリス・ルヴェル『夜鳥』東京創元社〈創元推理文庫〉、2003年2月。ISBN 4-488-25102-1 
  • ガボリオー『ルコツク探偵・河畔の悲劇』改造社〈世界大衆文学全集 第26巻〉、1929年1月。 
  • ガボリオ『ガボリオ集 附・バルザツク集』博文館〈世界探偵小説全集 第3巻〉、1929年9月。NDLJP:1121844 
  • ボアゴベ『マタパンの宝石・鐘塔の天女』春陽堂、1929年10月。 
  • ルルーオペラ座の怪平凡社〈世界探偵小説全集 第11巻〉、1930年9月。 
  • スウヴェストル、アラン『幻賊』白水社、1931年7月。 
  • エミール・ガブリオ『ルルージュ事件春秋社、1935年11月。 
    • ガボリオ『ルルージュ事件』苦楽社〈苦楽探偵叢書〉、1947年11月。 
    • エミール・ガボリオ『ルルージュ事件』岩谷書店〈岩谷選書 1006〉、1950年4月。 
  • ガボリオー『名探偵』博文館〈名作探偵〉、1939年6月。 
  • アーネスト・ウイリヤム・ホーナング『義賊ラツフルズ』博文館〈博文館文庫 60〉、1939年6月。 
  • モーリス・ルブラン『八点鐘』博文館〈名作探偵〉、1939年8月。 
  • クヰイン・エヴアンズ『笑ふ髑髏』博文館〈博文館文庫 118〉、1940年。 
  • ラインハルト・フランク『虐げられし印度』高山書院、1943年4月。  - 田中豊松名義。

編纂事務嘱託

[編集]
  • 『赤坂区史』東京市赤坂区役所、1942年3月。NDLJP:1042120 

共編

[編集]
  • 田内長太郎・田中早苗・新青年編輯部 編『古典探偵小説集』博文館〈世界探偵小説全集 第1巻〉、1930年4月。 

共訳

[編集]

脚注

[編集]
  1. ^ コリンス白衣の女(闇闘の巻)』(白水社、1921年)の訳者の名義は、内表紙では「田中早苗」、奥付では「田中豊松」となっている。
  2. ^ a b c d フランク 1943, 著者略歴.
  3. ^ 東京市赤坂区役所 1942, 例言.
  4. ^ 江戸川 2006, p. 149.
  5. ^ a b c 江戸川 2006, p. 188.
  6. ^ 江戸川 2006, pp. 186–189.
  7. ^ 江戸川 2006, p. 187.
  8. ^ 江戸川 2006, pp. 186–187.
  9. ^ 伊藤 2000, p. 190.
  10. ^ 江戸川 2006, pp. 187–188.

参考文献

[編集]

外部リンク

[編集]