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ベニヒ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
紅檜から転送)
ベニヒ
1. 香林神木(阿里山国家森林遊楽区)
保全状況評価[1]
ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 裸子植物 gymnosperms
: マツ綱 Pinopsida
: ヒノキ目 Cupressales[注 1]
: ヒノキ科 Cupressaceae
亜科 : ヒノキ亜科 Cupressoideae
: ヒノキ属 Chamaecyparis
: ベニヒ C. formosensis
学名
Chamaecyparis formosensis Matsum. (1901)[5]
シノニム
和名
ベニヒ[6][7][8]、タイワンサワラ[6]、タイワンベニヒノキ[9][10]
英名
formosan cypress[1][11], formosan false cypress[11], Taiwan cypress[1][11]

ベニヒ(紅檜、学名: Chamaecyparis formosensis)は、裸子植物マツ綱ヒノキ科ヒノキ属に分類される常緑針葉樹の1種である。サワラに近縁であり、タイワンサワラ[注 2]、タイワンベニヒノキともよばれる。高木であり、大きなものは樹高65メートル、幹の直径6.5メートルになる。小枝は平面状に分枝し、十字対生する鱗片状のによって扁平に覆われる。球果は楕円形。台湾の山地に分布する。は建築などに利用されたが、1990年以降は台湾の国有天然林での伐採は禁止されている。

特徴

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常緑高木になる針葉樹であり、大きなものは高さ65メートル (m)、幹直径 6.5 m になる[11][13](図1, 2)。樹皮は赤褐色[11][13](下図2a)。小枝は水平に分枝し、鱗片状のによって扁平に覆われる[11](下図3)。

2a. 幹
2b. 大型の個体
2c. 大型の個体

は鱗片状、三角形、先端がやや鋭頭、長さ1–3ミリメートル (mm)、十字対生して枝を覆う[11][13](下図3)。側葉先端は内側に湾曲する[13]。表(向軸面)は緑色、裏(背軸面)は白色を帯び、気孔帯はX字形またはW字形[11][14]。向軸側の葉に腺点がある[13]。葉を揉むと腐敗した海藻の匂いがする[11]

3. 雄球花をつけた枝葉

球果は楕円形、長さ 7-12 mm、直径 6-9 mm、4–7対の果鱗からなる[11][13]。果鱗先端は褐色でシワがあり、扁平またはわずかに隆起する[11]。各果鱗には2個の種子が付随し、種子は赤褐色、扁平で卵形、直径 1.5–2.5 mm[11]染色体数は 2n = 22[13]

精油成分としては、α-オイデスモール、β-グアイエン、β-カジネン、γ-costal、α-ムウロレン、4α-hydroxy-4β-methyldihydrocostolが報告されている[15]の精油成分としては、α-ピネンが多く、ほかにδ-2-カレン、β-ミルセン、γ-ムウロレン、β-ピネンなどを含む[16]

分布・生態

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台湾北部から中部の山地帯(冷温帯)、標高 1,700–2,900 m に分布し、純林を形成、またはタイワンヒノキショウナンボクランダイスギタイワンスギヒノキ科)などと混生する[1][11][13](下図4)。ふつう火成岩頁岩に由来するやや酸性の土壌に生育する[1]。気候は湿潤で年間を通じて降水量が多く、冷涼で雪が降ることもある[1]。成長は遅い[1]。タイワンヒノキに比べて耐陰性が高い[14]

4b. 嘉義県阿里山郷(上空から)

特筆される個体

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5a. 香林神木(阿里山
5b. 鹿林神木

ベニヒは極めて大きくなることがあり、大きな個体として下表のものがある。また長命であり、高齢のものは樹齢3,000年を越えるともされるが、確実な報告はない[1][11]

表1. 大きなベニヒの個体[11]
個体名 高さ (m) 胸高直径 (m) 場所
香林神木(図5a) 55 6.56 嘉義県阿里山郷
鹿林神木(図5b) 30 6.53 南投県信義郷
Yu huo Feng huang 42 6.11 桃園市復興区
Mian yue
(sleeping moon)
48 5.67 嘉義県・南投県境
Guan Wu number 2
(Fog observer)
34 5.32 新竹市建市郷

人間との関わり

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材は建築建具浴槽などに用いられた[17](下図6a, b)。心材は赤褐色から紅黄色、辺材は狭く黄灰色[17]ヒノキよりも軽軟で気乾比重は0.37、木目は通直で肌目は緻密、材質は安定し狂いは少なく、加工性が良い[17]。精油が多いため耐水性に優れ、独特の芳香をもつ[17]。沖縄の首里城再建では、木彫刻材の一部にベニヒを用いることが検討されている[18]。ただし、台湾では1990年以降、国有天然林の伐採は禁止されている[19]

6a. 淡水街長多田栄吉故居(ベニヒを使用)[20]
6b. 北門駅 (嘉義市)(ベニヒを使用)[21]

ベニヒは日本統治時代から多く利用されるようになり、嘉義県阿里山にはベニヒやタイワンヒノキの巨木が多く存在していたため、これを運搬するために阿里山森林鉄路が敷設された[22][23](上図6c)。ただし、枝が多く処理が容易でない、樹幹に小孔が多く心材が不朽して空洞化しやすい、材の耐久性がタイワンヒノキに劣るなどの理由からタイワンヒノキに比べて伐採を免れ、上記のように大木が比較的残っている[23][14]阿里山国家風景区などに残っているベニヒの大木は、観光対象となっている[1](上図1, 5)。

脚注

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注釈

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  1. ^ ヒノキ科はふつうイチイ科コウヤマキ科とともにヒノキ目に分類されるが[2][3]マツ科など他の針葉樹(およびグネツム類)を加えた広義のマツ目に分類することもある[4]
  2. ^ 魚のサワラサバ科)の近縁種としても、「タイワンサワラ」の名をもつがいる[12]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i Zhang, D & Christian, T. (2013年). “Thuja plicata”. The IUCN Red List of Threatened Species 2013. IUCN. 2024年2月29日閲覧。
  2. ^ 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編), ed (2015). “種子植物の系統関係図と全5巻の構成”. 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. p. 18. ISBN 978-4582535310 
  3. ^ 米倉浩司・邑田仁 (2013). 維管束植物分類表. 北隆館. p. 44. ISBN 978-4832609754 
  4. ^ 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 18. ISBN 978-4900358614 
  5. ^ a b c Chamaecyparis formosensis”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2024年2月29日閲覧。
  6. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Chamaecyparis formosensis Matsum.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年2月29日閲覧。
  7. ^ 大澤毅守 (1997). “ヒノキ”. 週刊朝日百科 植物の世界 11. pp. 181–184. ISBN 9784023800106 }
  8. ^ 堀田満 (1989). “ベニヒ”. In 堀田満ほか. 世界有用植物事典. 平凡社. p. 245. ISBN 9784582115055 
  9. ^ 竹本太郎 (2021). “日本帝国における植民地森林官の思想と行動 齋藤音作の前半期の足跡から”. 林業経済研究 67 (1): 16-30. 
  10. ^ 鶴見祐輔・一海知義 (2005). 正伝後藤新平 3 台湾時代 1898~1906年. 藤原書店. p. 388. ISBN 9784894344358 
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n o Chamaecyparis formosensis”. The Gymnosperm Database. 2024年2月29日閲覧。
  12. ^ Nakamura, I. & Nakamura, R. (1982). “New Records of Two Species of Scomberomorus from Japan”. Japanese Journal of Ichthyology 28 (4): 445-449. doi:10.11369/jji1950.28.445. 
  13. ^ a b c d e f g h Flora of China Editorial Committee (2010年). “Chamaecyparis formosensis”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2024年2月29日閲覧。
  14. ^ a b c 谷田貝光克 (2018年7月). “草木の香りを訪ねて──世界香り飛び歩記② タイワンヒノキと耐久性成分ヒノキチオール”. コア東京Web. 一般社団法人東京都建築士事務所協会. 2024年3月5日閲覧。
  15. ^ Wang, S. Y., Wu, C. L., Chu, F. H., Chien, S. C., Kuo, Y. H., Shyur, L. F. & Chang, S. T. (2005). “Chemical composition and antifungal activity of essential oil isolated from Chamaecyparis formosensis Matsum. wood”. Holzforschung 59 (3): 295-299. doi:10.1515/HF.2005.049. 
  16. ^ Su, Y. C., Ho, C. L. & Wang, E. I. C. (2006). “Analysis of leaf essential oils from the indigenous ve conifers of Taiwan”. Flavour and Fragrance Journal 21 (3): 447-452. doi:10.1002/ffj.1685. 
  17. ^ a b c d ベニヒ”. 木材図鑑. 府中家具工業協同組合. 2024年2月29日閲覧。
  18. ^ 木材・瓦類関係”. 沖縄総合事務局. 2024年2月29日閲覧。
  19. ^ 成田廣枝, 安藤直人 & 空閑重則 (2013). “タイワンヒノキ古材の簡易識別方法”. 木材学会誌 59 (4): 203-210. doi:10.2488/jwrs.59.203. 
  20. ^ 紅檜木造和式建築「淡水街長多田榮吉故居」進行修復”. ETtoday新聞雲 (2015年9月21日). 2024年3月9日閲覧。
  21. ^ 阿里山鐵路北門驛”. 文化部文化資產局. 2024年3月9日閲覧。
  22. ^ 中村和也 (2006). “時代と共に走り続ける「阿里山森林鐵道」”. 建設コンサルタンツ協会誌 230: 19–21. http://www.jcca.or.jp/kaishi/230/230_nakamura.pdf. 
  23. ^ a b Chang Chin-ju (2001年3月). “Ancient Giants of the Forest--Taiwan's False Cypresses”. Taiwan Panorama. 2024年3月5日閲覧。

関連項目

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外部リンク

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