コンテンツにスキップ

英文维基 | 中文维基 | 日文维基 | 草榴社区

ピネン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ピネン
識別情報
CAS登録番号 80-56-8 チェック , (混合物)
[7785-70-8] (1R-α)
[7785-26-4] (1S-α)
[2437-95-8] ((±)-α)
[18172-67-3] (β)
特性
化学式 C10H16
モル質量 136.24 g/mol
外観 液体
密度 0,86 g·cm−3 (α, 15 °C)[1][2]
融点

−62–−55 °C (α)[1]

沸点

155–156 °C (α)[1]

への溶解度 Practically insoluble in water
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ピネン(pinene)は、化学式がC10H16で表される有機化合物で、モノテルペンの1種。名称はマツ (pine) に由来し、その名の通り松脂松精油の主成分であるほか、多くの針葉樹に含まれ特有の香りのもととなる[3]香料医薬品の原料となる。

ピネンは六員環と四員環からなる炭化水素で、二重結合の位置が異なるα-ピネンβ-ピネンの2つの構造異性体が存在する。さらにそれぞれが2種の鏡像異性体をもつことから、ピネンには合計4種の異性体が存在する。

性質

[編集]

各異性体ともに分子量 136.24。常温常圧では無色の液体で特有の香りをもつ。に不溶であるが、酢酸エタノールアセトンには任意に混和する。

生合成

[編集]

α体、β体ともにゲラニル二リン酸を出発原料とし、リナロイル二リン酸の環化を経て骨格が完成する。最終段階で脱離するプロトンの位置によってα体とβ体に分かれる。

異性体

[編集]
構造式
透視図
X
X
球棒モデル
X
X
名称
(1R)-(+)-α-ピネン
(1S)-(−)-α-ピネン
(1R)-(+)-β-ピネン
(1S)-(−)-β-ピネン
CAS番号
[7785-70-8]
[7785-26-4]
[19902-08-0]
[18172-67-3]

α-ピネン

[編集]

融点 -57 ℃、沸点155-156 ℃、比重 0.8584-0.8600。α-ピネンの四員環は反応性が高く、特に酸性条件ではワーグナー・メーヤワイン転位が容易に進行する。希硫酸または無水酢酸条件ではテルピネオール誘導体やテルピンが、塩酸条件ではボルネオールまたはリモネンの骨格をもつ塩化物が生成する。ヨウ素三塩化リンでは芳香化が起こりシメンとなる[4]

α-ピネン(1)を原料とする誘導体の例。テルピネオール(2-4)、テルピン(5)、ボルネオール(6b・6c)、リモネン(7)、シメン(10)など多様な骨格へと変換される。

β-ピネン

[編集]

融点 -60 ℃、沸点164 ℃、比重 0.8740。ローズマリーパセリバジルイノンドバラなどに含まれている。

用途

[編集]

ピネンを適当な触媒を用いて酸化することで、様々な医薬品香料などが成分が生産される。最も簡単な酸化生成物はベルベノンであり、空気酸化によっても生成するが、酢酸鉛(IV)を触媒として使うこともある [5]

α-ピネンとボランから得られるイソピノカンフェニルボラン類は、有機合成分野において不斉還元剤として用いられる。

参考文献

[編集]
  • 物性値は、市岡ほか 『山地森林の快適性(第1報)-測定方法の検討を中心に-』 三重県保健環境研究所(環境部門)年報第1号(通巻第20号)、2000年[2][リンク切れ] によった。

脚注

[編集]
  1. ^ a b c Record of alpha-Pinen 労働安全衛生研究所(IFA)英語版発行のGESTIS物質データベース
  2. ^ Record of beta-Pinen 労働安全衛生研究所(IFA)英語版発行のGESTIS物質データベース
  3. ^ 雨宮登三, 八田力二郎, 坂本四郎「α-ピネンの利用に就て」『燃料協会誌』第29巻第5号、日本エネルギー学会、1950年、121-125頁、doi:10.3775/jie.29.121ISSN 0369-3775NAID 130004014943 
  4. ^ Richter, G. H. (1945) Textbook of Organic Chemistry, 2nd ed., John Wiley & Sons., New York, PP 663-666.
  5. ^ Organic Syntheses, Coll. Vol. 9, p.745 (1998); Vol. 72, p.57 (1995). [1][リンク切れ]