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語意考

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
『語意考』
(ごいこう)
著者 賀茂真淵
発行日 宝暦7年(1757年
ジャンル 語学書
日本の旗 日本
言語 日本語
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語意考』(ごいこう)は、江戸時代国学者賀茂真淵の語学書。古語研究に関する考え方や原理について述べたものである[1]

概要

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真淵は「日本語は他国の言語よりも優秀である」と認識しており、本書中にはそうした言語観が色濃く反映されている[1]

真淵の数ある著作のうち、古歌について論じた『歌意考』、古書について論じた『書意考』、古文について論じた『文意考』、古道について論じた『国意考』があり、本書はそれらと共に「五意」と総称される著作の1つである[2]。真淵没後の1789年寛政元年)に刊行された[3][注 1]

真淵は荷田春満精神を継承して古語理解を重要な研究手段としているが、『語意考』にも春満の説を根底としながら解釈の指針を示そうとしている[5]。真淵の語学は古代精神の把握の手段であり、その結果として古典言語に対する直観・体験・体現といった傾向が重んじられたのである[6]

内容

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真淵は五十音図の枠組みに基づいて動詞活用を説いている[7]。5つの段について、ア段を「初」、イ段を「体」、ウ段を「用」、エ段を「令」、オ段を「助」と名付け、それぞれについて説明した後に、五十音図の各行に活用する動詞の具体例を挙げて、その活用の在り方を図表の形に整理している[8]。挙げられている語形の中には、現実には存在しないものも幾つか含まれているが、それは図表の目的とするところが動詞の活用そのものを実証的な立場から整理することではなく、その活用を通じて五十音図を音義説的な立場から解釈することにあったことを窺わせる[8]

なお五十音図によって動詞の活用を整理しようとする試みは、ほぼ同時期に谷川士清が『日本書紀通証』に示した「倭語通音」においてもなされており、その先後関係が問題とされているが、いずれにせよ五十音図によって動詞の活用の体系的に整理した先駆けとして評価される[9][10]。「活用図の源流」というよりは「五十音図の音義的解釈」と見るべきものであるが、活用についての一応まとまった考察が初めて出現した点において史的価値があるのである[7]

語形変化も五十音図に当てはめて説明している。真淵は「語形の変化は、縮める(約)か、延ばすか、略するか、音通(母音または子音の交替)かによって生じる」という考えから、語の本義を求めて転化を説明するための方法として、「約言」「延言」「略言」「転回通」の4原則を示した[8]。たとえば「あわうみ(淡海)→あみ」(約言)、「見→見らく」(延言)、「たかし(高脚)→高し」(略言)、「うらぶれ→わび」[注 2](転回通)と説明している[11]。これは「延約通略」の説と呼ばれ[注 3]、以後の語源学に応用された[12]

受容

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真淵の五十音思想は、平田篤胤の『古史本辞経』などに引用されている[13]。とりわけ「延約通略」の方法論は、その後の日本語研究に応用されるほどの影響力があったが、恣意的な側面も少なくなかった[14]。この弊害を正そうと、村田春海『五十音弁誤』、大国隆正が『通略延約弁』、鹿持雅澄『雅言成法』などの研究書が出ている[15]

注解刊行本

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脚注

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注釈

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  1. ^ 真淵は1769年11月27日明和6年10月30日)に死去している[4]
  2. ^ 「うら」の約言が「わ」、「ぶれ」の約言が「べ」であり、「べ」の五音相通による転訛が「び」としている[11][12]
  3. ^ 「通略延約」または「延略通約」とも呼ばれる[12]

出典

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  1. ^ a b 内田宗一 (2016), p. 40.
  2. ^ 三枝康高 (1987), p. 276.
  3. ^ 今野真二 (2023), pp. 138–139.
  4. ^ 三枝康高 (1987), p. 302.
  5. ^ 井上豊 (1938), p. 42.
  6. ^ 井上豊 (1938), p. 50.
  7. ^ a b 森野宗明 (1961), p. 311.
  8. ^ a b c 内田宗一 (2016), p. 41.
  9. ^ 内田宗一 (2016), p. 42.
  10. ^ 平井吾門 (2016), pp. 45–46.
  11. ^ a b 犬飼守薫 (2001), p. 76.
  12. ^ a b c 土居文人 (2006), p. 295.
  13. ^ 野口武彦 (1991), pp. 88–89.
  14. ^ 竹内美智子 (1961), pp. 179–180.
  15. ^ 土居文人 (2006), p. 296.

参考文献

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著書
  • 三枝康高『賀茂真淵』(新装版)吉川弘文館人物叢書〉、1987年7月。ISBN 4-642-05086-8 
  • 今野真二『日本とは何か:日本語の始源の姿を追った国学者たち』みすず書房、2023年5月。ISBN 978-4-622-09597-2 
論文
  • 井上豊「語意考について」『国語と国文学』第15巻第5号、1938年5月、42-52頁。 
  • 加藤忠正「つ考」『鈴屋学会報』第7号、鈴屋学会、1990年9月、95-100頁。 
  • 犬飼守薫「まことしやかな語源」『言語』第30巻第4号、大修館書店、2001年3月、72-78頁。 
  • 古田東朔「『語意』の三写本について:版本『語意考』への過程」『国語研究室』第5号、1966年12月。 
  • 笹月淸美「語意考の成立過程を示す二三の傳本について」『文學研究』第26号、九州大学、1939年12月、57-84頁。 
  • 松田好夫「版本「語意考」の復原」『国語国文学研究:論考と資料』第2号、名古屋國語國文學會、1940年12月。 
  • 松田好夫「版本「語意考」の復原補訂」『国語国文学研究:論考と資料』第3号、名古屋國語國文學會、1941年3月。 
  • 森野宗明 著「活用研究の歴史」、佐伯梅友中田祝夫林大 編『国語学』三省堂〈国語国文学研究史大成15〉、1961年2月、309-330頁。 
  • 扇畑忠雄「賀茂真淵の方法と雅言意識」『文科紀要』第6号、東北大学教養部、1960年12月、74-85頁。 
  • 竹内美智子 著「語源・語彙・意味研究の歴史」、佐伯梅友・中田祝夫・林大 編『国語学』三省堂]〈国語国文学研究史大成15〉、1961年2月、175-225頁。 
  • 戸田吉郎「語源研究史」『国語学』第10号、国語学会、1952年9月、40-49頁。 
  • 土居文人 著「近世までの語源学と主要参考文献」、吉田金彦 編『日本語の語源を学ぶ人のために』世界思想社、2006年12月、285-300頁。ISBN 4-7907-1224-9 
  • 土屋博映「『語意考』研究」『跡見学園短期大学紀要』第24号、1988年3月、17-24頁。 
  • 内田宗一「賀茂真淵」『日本語学』第35巻第4号、明治書院、2016年4月、40-43頁。 
  • 野口武彦「五十音図と言霊(上):音義説と言語ナショナリズムの形成をめぐって」『日本語学』第10巻第9号、明治書院、1991年9月、88-96頁。 
  • 平井吾門「谷川士清」『日本語学』第35巻第4号、明治書院、2016年4月、44-47頁。