鷲尾三郎
[1])は、日本の推理作家。本名は岡本道夫。本格ものや幻想もの、ユーモア探偵小説に加え、ハードボイルドふうの作品も書いた。
(わしお さぶろう、1908年1月25日 - 1989年12月2日経歴
[編集]大阪市生まれ。大阪府立生野中学校(現・大阪府立生野高等学校)卒。同志社大学中退後、永く商業に携わっていた[2]。
1949年、江戸川乱歩の推薦で『探偵実話』4月号に「魚臭」が掲載される[3]。同年、同じく江戸川乱歩の推薦で『宝石』臨時増刊「文芸探偵小説号」に「疑問の指輪」が掲載され、関西探偵作家クラブに所属した。
1951年、上京して専業作家となる[4]。1954年、『宝石』12月号に掲載された「雪崩」が第7回探偵作家クラブ賞の新人奨励賞を受賞[4]。
1956年、講談社の「書下し長編探偵小説全集」の新人募集懸賞に「酒蔵に棲む狐」(1957年、『屍の記録』と改題の上、春陽堂書店より刊行)を応募し、最終選考に残る[3](最終的に選ばれたのは鮎川哲也の「黒いトランク」。その他に最終候補になった中には梶龍雄や作家デビュー前の西村京太郎などもいた)。
こうした本格推理作家としての活躍の一方で鷲尾はハードボイルドふうの作品も書いた。1953年、ミッキー・スピレインの『大いなる殺人』『裁くのは俺だ』が刊行されて一大センセーションを巻き起こすと、翌年には「俺が法律だ」(『探偵倶楽部』1954年4月号。1957年、『俺が相手だ』と改題の上、東方社より刊行)という題名からしてミッキー・スピレインを彷彿とさせる作品を発表[注 1]。以後、「泣虫小僧」(『探偵実話』1955年8月〜1956年3月連載。1957年、『影を持つ男』と改題の上、東方社より刊行)、「地獄の神々」(『内外タイムス』1956年3月〜5月連載。1957年、同題で東方社より刊行)など同傾向の作品を次々と発表。「地獄の神々」は鈴木清順監督により『裸女と拳銃』として映画化もされた[5]。中島河太郎は鷲尾のこうした創作スタイルについて「現代の世相と取り組んで、社会悪を追求しながら、情操の豊かな肉付けを怠らず、柔軟な筆致で特異の地位を占めるようになった」[2]と積極的な評価をしている。2021年には鷲尾のハードボイルドばかりを集めた傑作選も刊行されている(「著書」参照)。
1963年、木々高太郎を中心とし、白石潔、椿八郎、氷川瓏らとともに同人誌『詩と小説と評論』を創刊。江戸川乱歩、島田一男、香山滋、渡辺剣次、楠田匡介、中島河太郎、千代有三、荻原光雄、岡田鯱彦とともに「十人会」という同人会を結成していたこともある[3]。
1965年、師である江戸川乱歩の死去により絶筆を決意、関西に戻る[4]。
1983年、久々の書下し長篇『過去からの狙撃者』を刊行したが、その後、新作の発表はなく、1989年12月2日に他界。享年81歳。
著書
[編集]- 『地獄の神々』東方社 1957 改題『裸女と拳銃』同光社出版 1959 のち春陽文庫
- 『屍の記録』春陽堂書店(長篇探偵小説全集) 1957
- 『俺が相手だ』東方社 1957
- 『影を持つ男』東方社 1957 改題『闇から来た男』同光社出版 1959
- 『文珠の罠』春陽堂書店(春陽文庫) 1957
- 『地獄の罠』光風社 1958
- 『地獄の旅券』光風社 1958
- 『鉄路の恐怖』同光社出版 1958
- 『悪魔の函』第一文芸社 1958
- 『青の恐怖』同光社出版 1959
- 『呪縛の沼』松沢書店 1959
- 『結婚式殺人』同光社出版 1959
- 『恐怖の扉』同光社出版 1959
- 『特別捜査本部』同光社出版 1959
- 『仮面の死神』同光社出版 1959
- 『葬られた女』光風社 1959
- 『三重殺人事件』小説刊行社 1960
- 『黒の烙印』交風社 1960
- 『悪魔が見ていた』小説刊行社 1960
- 『刑事捜査』章書房 1960
- 『屍の記録』章書房 1960 のち春陽堂書店 1962 戎光祥出版(同版では『呪縛の沼』を併録) 2016
- 『その鉄柵の中で』青樹社 1962
- 『虹の視角』青樹社(青樹ミステリー) 1963
- 『黒い恐怖』青樹社(青樹ミステリー) 1963
- 『屍臭の家 長篇推理小説』青樹社(青樹ミステリー) 1963
- 『歪んだ年輪』青樹社 1964
- 『過去からの狙撃者』光文社(カッパ・ノベルス) 1983
- 『鷲尾三郎名作選 文殊の罠』河出文庫(本格ミステリコレクション) 2002
- 『妖魔の横笛 鷲尾三郎少年少女怪奇探偵小説集』我刊我書房(盛林堂ミステリアス文庫) 2014
- 『鷲尾三郎傑作撰壱 Q夫人と猫』我刊我書房 2021
- 『鷲尾三郎傑作撰貳 葬られた女』我刊我書房 2021
- 『鷲尾三郎傑作撰参 影を持つ女』我刊我書房 2021
映画化作品
[編集]脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ 主人公は各務赳夫という私立探偵で、私立探偵を主人公としたハードボイルド小説としては日本最初期の作品となる。