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民法典 (ドイツ)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
BGBから転送)

本項では、ドイツ民法典(みんぽうてん、: Bürgerliches GesetzbuchBGB)について解説する。

概要

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民法典は、ドイツ民法の最も重要な法源である。現在の編別は以下のとおりである。

  1. 第1編 総則[注 1]
  2. 第2編 債務関係法[注 2]
  3. 第3編 物権法[注 3]
  4. 第4編 親族法[注 4]
  5. 第5編 相続法[注 5]

ドイツ民法を継受した日本民法と異なり、債権法ではなく「債務関係法」と呼んでおり(普通は「債務法[注 6]」という)、しかも、その債務法が物権法よりも前にある。「物権法」と訳しているもの[注 7]も、逐語的には「物の法」であり、ローマ法の伝統が感じられる概念である。親族法と訳しているものもまた、逐語的には「家族法」であり、日本の講学上の「家族法」概念が親族法と相続法の双方を包含するのとは用法が異なる。このような構成は、ローマ法大全に由来するパンデクテン方式と呼ばれ、同じ大陸法系でもフランスが採用する法学堤要方式と対比され、高度な抽象性と演繹的な体系性が特徴とされている。

BGBは、様々な社会の変動にもかかわらず、100年に及ぶ長い期間大きな改正はなされていなかったが、判例や特別法による修正は限界がきているとされており、EUの「消費者物の売買と保証に関する指令」で2002年1月までに瑕疵担保責任の整備が求められていたことから、民法の大学教授の反対を押し切り、2002年に債務法の改正がなされた。およそ300条に及ぶ大改正であったが、これほどの大改正をする必要があったかについては、学界及び実務界で現在もなお大きな争いがあり、その評価が定まったものとはいえない。

判例上認められてきた契約締結上の過失、行為の基礎の喪失(事情変更の原則)についての明文の規定を置いた。

伝統的に、履行遅滞、履行不能、積極的債権侵害に分けられていた給付障害を積極的債権侵害に統一し、義務違反[注 8]という概念にまとめたが、損害賠償請求については、過失責任の原則[注 9]を維持した。過失の証明責任については、義務違反につき過失が存在しないこと常に債務者が立証しなければならないとして統一した明文の規定を置いた。損害については、従来からの差額仮定[注 10]の概念を前提としつつ、債権者が給付保持の信頼の下に適正に行なった支出[注 11]の賠償を請求できるとして例外を設けた。

瑕疵担保責任については一般の給付障害に含まれるものと規定され、買主はまず追完請求をなすべきものとされ(無過失責任)、売主が追完に過分な費用がかかるとしてこれを拒絶した場合には、代金減額請求権を行使できる。また、損害賠償については過失を要するものとした上で、給付義務違反が重大な場合に限り解除ができるものとした。「瑕疵」[注 12]の概念も明確化を図り、例えば取扱説明書の内容が不十分なため買主が組み立てに失敗して毀損した家具についても、瑕疵が認められることになった。このような家具を売っているイケアになぞらえてイケア条項[注 13]と呼ばれている。瑕疵担保責任の時効期間は原則として2年に延長された。

時効については、時効期間を従来の請求権の30年から3年に大幅に短縮する一方、他方で時効の起算点を請求権の客観的な発生時点から、請求権を基礎づける事情について知り、または重大な過失により知ることができた時点から起算するとして主観的要件を課すものに変更した。中断、停止についても大きな変更がなされている。

解除効果法[注 14]については、約定解除と法定解除を統一的に規定し、従来解除権者に帰責事由のある返還物の滅失毀損につき解除権の喪失を定めたいたのを価格賠償義務を負うものとした。

特別法との関係では、消費者保護に関する法律及び命令[注 15]、普通取引約款法、通信販売法、訪問販売法、一時的住居権契約法[注 16]BGBの中に編入され、電子取引に関する規定が追加された。

ほかに請負契約も変更がなされている。

日本民法との関係

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日本民法(財産法)は、立法及び解釈の上でドイツ民法から大きな影響を受けている[1][2][3][4][5][6][7][8][9]。しかし、物権変動につき無因主義[注 17]を採るなどの点で、部分的には日本民法と大きく異なるところもある。

明治民法家族法の大きな特徴である戸主制・家督相続はドイツ民法典には存在しない[10]。家父長制は残っていたが、先行のナポレオン民法典に比べると大幅に弱体化しており、妻の地位もドイツの方が高かった[11]。相続法でも明治民法起草につき独民法草案が頻繁に参照されたが、その割にはさほど反映されていない[12]

なおドイツ民法典の前身の一つであるプロイセン(普魯西)法典については、梅謙次郎の説明によると、明治民法起草に際して一応参照されたものの、ドイツ民法草案やザクセン民法典などと異なりもっぱら批判的に扱われたとされ、日本民法典への影響は否定されている[13]。仏法系の旧民法もドイツ法系を参照した形跡は無い[14]

ドイツ民法の歴史

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「ドイツ民法」は、実質的な意味においてはドイツにおける私法一般法を指し、形式的な意味においては民法典[注 18]を指す。

もっとも、「ドイツ」という概念は歴史上きわめて不明確であるが、歴史を遡るときは通常ドイツ民族の神聖ローマ帝国[注 19]が念頭に置かれている。

脚注

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注釈

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  1. ^ : Erstes Buch. Allgemeiner Teil
  2. ^ : Zweites Buch. Recht der Schuldverhältnisse
  3. ^ : Drittes Buch. Sachenrecht
  4. ^ : Viertes Buch. Familienrecht
  5. ^ : Fünftes Buch. Erbrecht
  6. ^ : Schuldrecht
  7. ^ : Sachenrecht
  8. ^ : Pflichtverletzung
  9. ^ : Verschuldensprinzip
  10. ^ : Differenzhypothese
  11. ^ : Aufwendung
  12. ^ : Sachmangel
  13. ^ : Ikea-Klausel
  14. ^ : Rücktrittfolgenrecht
  15. ^ : Verordnung
  16. ^ : Teilzeit-Wohnrechtevertrag
  17. ^ : Abstraktionsprinzip
  18. ^ : Bürgerliches GesetzbuchBGB
  19. ^ : Heiliges Römisches Reich Deutscher Nation
  20. ^ : Gesetzes zur Modernisierung des Schuldrechts

出典

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  1. ^ 梅謙次郎「我新民法ト外国ノ民法」『法典質疑録』8号671頁(1896年)、梅謙次郎「法律の解釈」太陽9巻2号56頁上段、60頁下段、62頁(博文館、1903年)、瀬川信久梅・富井の民法解釈方法論と法思想」『北大法学論集』第41巻第5-6号、北海道大学法学部、1991年10月、2439-2473頁、ISSN 03855953NAID 120000958828 、梅謙次郎述『民法総則(自第一章至第三章)』304頁-309頁(法政大学、1907年)
  2. ^ 穂積陳重「獨逸民法論序」『穂積陳重遺文集第二冊』421頁、「獨逸法学の日本に及ぼせる影響」『穂積陳重遺文集第三冊』621頁
  3. ^ 富井政章『民法原論第一巻』序5頁
  4. ^ 仁井田益太郎穂積重遠平野義太郎「仁井田博士に民法典編纂事情を聴く座談会」法律時報10巻7号24頁
  5. ^ 仁保亀松『国民教育法制通論』19頁(金港堂書籍、1904年)、仁保亀松講述『民法総則』5頁京都法政学校、1904年)
  6. ^ 松波仁一郎=仁保亀松=仁井田益太郎合著・穂積陳重=富井政章=梅謙次郎校閲『帝國民法正解』1巻8頁(日本法律学校1896年、復刻版信山社、1997年)
  7. ^ 和仁陽岡松参太郎――法比較と学理との未完の綜合――」『法学教室』183号79頁
  8. ^ 我妻栄『近代法における債權の優越的地位』478頁(有斐閣、1953年)、加藤雅信『新民法大系I民法総則』第2版(有斐閣、2005年)27頁、裁判所職員総合研修所『親族法相続法講義案』6訂再訂版4頁(2007年、司法協会
  9. ^ 大審院民事判決録23輯1965頁
  10. ^ 田島順・近藤英吉『獨逸民法IV 親族法』有斐閣、1942年、2、3頁
  11. ^ 栗生武夫『婚姻立法における二主義の抗争』弘文堂書房、1928年、42頁、前田達明『民法学の展開 民法研究第二巻』、成文堂、2012年、116頁
  12. ^ 近藤英吉『獨逸民法V 相続法』有斐閣、1942年、6頁
  13. ^ 梅謙次郎「我新民法ト外國ノ民法」『法典質疑』8号、法典質疑會、1896年、679頁
  14. ^ 梅謙次郎「法典ニ関スル話」『國家學會雜誌』20巻134号、國家學會事務所、1898年、352頁、杉山直治郎編『富井男爵追悼集』有斐閣、1936年、155頁、岩谷十郎片山直也北居功編著『法典とは何か』慶應大学出版会、2014年、36頁

関連項目

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外部リンク

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