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Bcl-2

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
BCL2
PDBに登録されている構造
PDBオルソログ検索: RCSB PDBe PDBj
PDBのIDコード一覧

1G5M, 1GJH, 1YSW, 2O21, 2O22, 2O2F, 2W3L, 2XA0, 4AQ3, 4IEH, 4LVT, 4LXD, 4MAN, 5AGW, 5AGX, 5FCG

識別子
記号BCL2, Bcl-2, PPP1R50, B-cell CLL/lymphoma 2, apoptosis regulator, BCL2 apoptosis regulator, Genes, bcl-2
外部IDOMIM: 151430 MGI: 88138 HomoloGene: 527 GeneCards: BCL2
遺伝子の位置 (ヒト)
18番染色体 (ヒト)
染色体18番染色体 (ヒト)[1]
18番染色体 (ヒト)
BCL2遺伝子の位置
BCL2遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点63,123,346 bp[1]
終点63,320,128 bp[1]
遺伝子の位置 (マウス)
1番染色体 (マウス)
染色体1番染色体 (マウス)[2]
1番染色体 (マウス)
BCL2遺伝子の位置
BCL2遺伝子の位置
バンドデータ無し開始点106,465,908 bp[2]
終点106,642,004 bp[2]
RNA発現パターン




さらなる参照発現データ
遺伝子オントロジー
分子機能 protein phosphatase binding
転写因子結合
protein phosphatase 2A binding
channel inhibitor activity
protein homodimerization activity
チャネル活性
protease binding
血漿タンパク結合
sequence-specific DNA binding
BH3 domain binding
identical protein binding
protein heterodimerization activity
ubiquitin protein ligase binding
細胞の構成要素 細胞質
細胞質基質
核膜

ミトコンドリア
細胞核
ミトコンドリア膜
ミエリン鞘
ミトコンドリア外膜
小胞体
pore complex
integral component of membrane
細胞内
endoplasmic reticulum membrane
核質
高分子複合体
生物学的プロセス negative regulation of neuron apoptotic process
intrinsic apoptotic signaling pathway in response to oxidative stress
ureteric bud development
renal system process
organ growth
T cell differentiation in thymus
lymphocyte homeostasis
ステロイドホルモンへの反応
positive regulation of catalytic activity
ear development
糸球体発生
post-embryonic development
cellular response to DNA damage stimulus
T cell homeostasis
negative regulation of ossification
negative regulation of G1/S transition of mitotic cell cycle
positive regulation of smooth muscle cell migration
regulation of protein localization
T cell differentiation
B cell lineage commitment
response to ischemia
regulation of mitochondrial membrane permeability
humoral immune response
defense response to virus
mesenchymal cell development
positive regulation of multicellular organism growth
animal organ morphogenesis
発生中の色素沈着
hair follicle morphogenesis
B cell differentiation
細胞増殖
metanephros development
melanocyte differentiation
negative regulation of autophagy
positive regulation of neuron maturation
negative regulation of myeloid cell apoptotic process
cellular response to hypoxia
pigment granule organization
negative regulation of cell population proliferation
B cell receptor signaling pathway
有機物への細胞応答
regulation of apoptotic process
response to cytokine
cellular response to glucose starvation
タンパク質安定性の制御
骨形成
positive regulation of melanocyte differentiation
axon regeneration
腎臓発生
actin filament organization
胸腺発生
negative regulation of intrinsic apoptotic signaling pathway
negative regulation of apoptotic signaling pathway
response to nicotine
脾臓発生
endoplasmic reticulum calcium ion homeostasis
positive regulation of skeletal muscle fiber development
酸化ストレスへの反応
lymphoid progenitor cell differentiation
positive regulation of peptidyl-serine phosphorylation
CD8-positive, alpha-beta T cell lineage commitment
reactive oxygen species metabolic process
negative regulation of retinal cell programmed cell death
branching involved in ureteric bud morphogenesis
gland morphogenesis
positive regulation of cell growth
positive regulation of B cell proliferation
negative regulation of cell growth
response to gamma radiation
positive regulation of intrinsic apoptotic signaling pathway
毒性物質への反応
digestive tract morphogenesis
neuron apoptotic process
男性生殖腺発生
regulation of protein heterodimerization activity
regulation of glycoprotein biosynthetic process
regulation of viral genome replication
female pregnancy
negative regulation of mitochondrial depolarization
protein dephosphorylation
protein polyubiquitination
cellular calcium ion homeostasis
B cell homeostasis
behavioral fear response
oocyte development
regulation of cell-matrix adhesion
response to iron ion
negative regulation of cell migration
regulation of autophagy
positive regulation of developmental pigmentation
developmental growth
regulation of transmembrane transporter activity
卵胞発生
遺伝子発現調節
negative regulation of calcium ion transport into cytosol
negative regulation of osteoblast proliferation
homeostasis of number of cells within a tissue
色素沈着
response to radiation
regulation of catalytic activity
peptidyl-threonine phosphorylation
regulation of protein homodimerization activity
negative regulation of anoikis
過酸化水素への反応
T cell lineage commitment
cochlear nucleus development
leukocyte homeostasis
regulation of programmed cell death
regulation of calcium ion transport
axonogenesis
negative regulation of cellular pH reduction
糖質コルチコイドへの反応
regulation of cell cycle
regulation of mitochondrial membrane potential
melanin metabolic process
focal adhesion assembly
positive regulation of protein insertion into mitochondrial membrane involved in apoptotic signaling pathway
B cell proliferation
intrinsic apoptotic signaling pathway in response to endoplasmic reticulum stress
免疫系発生
apoptotic mitochondrial changes
peptidyl-serine phosphorylation
窒素利用の制御
cell morphogenesis
positive regulation of cell population proliferation
negative regulation of reactive oxygen species metabolic process
response to UV-B
regulation of developmental pigmentation
negative regulation of extrinsic apoptotic signaling pathway in absence of ligand
extrinsic apoptotic signaling pathway via death domain receptors
release of cytochrome c from mitochondria
negative regulation of mitotic cell cycle
extrinsic apoptotic signaling pathway in absence of ligand
アポトーシス
膜貫通輸送
intrinsic apoptotic signaling pathway in response to DNA damage
成長
cell-cell adhesion
サイトカイン媒介シグナル伝達経路
negative regulation of apoptotic process
造血
regulation of growth
negative regulation of intrinsic apoptotic signaling pathway in response to DNA damage by p53 class mediator
出典:Amigo / QuickGO
オルソログ
ヒトマウス
Entrez
Ensembl
UniProt
RefSeq
(mRNA)

NM_000633
NM_000657

NM_009741
NM_177410

RefSeq
(タンパク質)

NP_000624
NP_000648

NP_033871
NP_803129

場所
(UCSC)
Chr 18: 63.12 – 63.32 MbChr 18: 106.47 – 106.64 Mb
PubMed検索[3][4]
ウィキデータ
閲覧/編集 ヒト閲覧/編集 マウス

Bcl-2(B-cell/CLL lymphoma 2)はヒトではBCL2遺伝子にコードされるタンパク質で、細胞死(アポトーシス)の阻害または誘導のいずれかを行うBcl-2ファミリーの最初に発見されたメンバーである[5][6]

Bcl-2の名称はB-cell/CLL lymphoma 2に由来し、濾胞性リンパ腫における14番染色体と18番染色体間の染色体転座に関与するタンパク質として2番目に記載されたメンバーであることを意味している。BCL2オルソログ[7](マウスのBcl2など)は、全ゲノムデータが利用可能な哺乳類の多数で同定されている。

BCL3英語版、BCL5、BCL6BCL7A英語版BCL9BCL10と同様、リンパ腫において臨床的に重要である。

アイソフォーム

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Bcl-2には2つのアイソフォーム(アイソフォーム1、2)が存在し、両者のフォールディングは同じである。しかし、これら2つのアイソフォームはBADBAKタンパク質に対する結合能や、構造的トポロジー、結合が行われる溝の静電ポテンシャルが異なり、両者の抗アポトーシス活性には差異が存在することが示唆される[8]

正常な生理学的機能

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Bcl-2はミトコンドリアの外膜に局在しており、そこで細胞の生存の促進とアポトーシス促進タンパク質の作用の阻害に重要な役割を果たす。通常、BaxやBakを含むBcl-2ファミリーのアポトーシス促進タンパク質は、ミトコンドリア膜に作用し、膜の透過性を高め、アポトーシスカスケードの重要シグナルとなるシトクロムc活性酸素種の放出を促進する。これらのアポトーシス促進タンパク質はBH3-onlyタンパク質によって活性化され、Bcl-2と関連タンパク質Bcl-xLの機能によって阻害される[9]

さらに、Bcl-2の非典型的役割についても研究が行われている。Bcl-2はミトコンドリアのダイナミクスを調節することが知られており、ミトコンドリアの融合と分裂の調節に関与している。さらに膵臓β細胞では、Bcl-2とBcl-xLは代謝活性とインスリン分泌の制御に関与していることが知られており、Bcl-2/xLの阻害によって代謝活性が増加するが、活性酸素種の産生もさらに増加する。このことからは、Bcl-2/xLは代謝要求が高い条件下で代謝を保護する効果があることが示唆される[10]

疾患における役割

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Bcl-2の遺伝子の損傷は、悪性黒色腫乳がん前立腺がん慢性リンパ性白血病肺がんを含む多数のがんの原因として同定されており、統合失調症自己免疫疾患の原因となっている可能性もある。がん治療に対する抵抗性の原因でもある[11]

がん

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がんは、細胞成長と細胞死の間の恒常性の障害としてとらえることができる。抗アポトーシス遺伝子の過剰発現やアポトーシス促進遺伝子の発現低下によって、がんの特徴である細胞死の欠如がもたらされる。リンパ腫を例に挙げると、抗アポトーシスタンパク質Bcl-2のリンパ球での過剰発現だけではがんは引き起こされない。しかし、Bcl-2のとがん原遺伝子であるmycの過剰発現が同時に起こると、リンパ腫を含むアグレッシブB細胞悪性腫瘍が生じる可能性がある[12]。濾胞性リンパ腫では14番染色体と18番染色体間の染色体転座(t(14;18))が一般的に生じており、それによって18番染色体のBcl-2の遺伝子は14番染色体の免疫グロブリン重鎖の遺伝子座に隣接して置かれることとなる。この融合遺伝子は調節を受けず、Bcl-2が過剰に高いレベルで転写される[13]。これによって細胞のアポトーシス傾向が低下する。Bcl-2の発現は小細胞肺がん英語版でも頻繁に生じており、ある研究では症例の76%にのぼる[14]

自己免疫疾患

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アポトーシスは免疫系の調節に活発な役割を果たしている。アポトーシスが正常に機能しているときには、中枢性末梢性免疫寛容によって自己抗原に対しては免疫無応答となる。アポトーシスに欠陥がある場合、自己免疫疾患の病態に寄与する可能性がある[15]。自己免疫疾患である1型糖尿病では、T細胞活性化誘導細胞死英語版(AICD)の異常と末梢性免疫寛容の欠陥が引き起こされる。免疫系で最も重要な抗原提示細胞樹状細胞であるため、その活性はアポトーシスなどの機構によって厳密に調節されなければならない。樹状細胞の寿命は抗アポトーシスタンパク質であるBcl-2に依存したタイマーによって部分的に制御されていることが示されている[16]

その他

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アポトーシスはさまざまな疾患の調節に重要な役割を果たす。例えば統合失調症は、アポトーシス促進タンパク質と抑制タンパク質の比率の異常が病因に関係している可能性がある[17]。一部のエビデンスは、それがBcl-2の異常発現とカスパーゼ3の発現上昇によるものである可能性を示唆している[17]

診断における利用

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Bcl-2に対する抗体は、免疫染色による抗原を含む細胞の同定に利用される。健康な組織では、これらの抗体はmantle zone(マントル層、帽状域)のB細胞や一部のT細胞と反応する。しかし、濾胞性リンパ腫や他のがんでは陽性細胞が大きく増加する。生検時のBcl-2染色の有無は、患者の予後や再発可能性の判断に重要となる場合もある[18]

標的治療

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Bcl-2を標的とした選択的阻害剤が開発されており、現在臨床利用が行われている。

オブリメルセン

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オブリメルセン英語版(G3139)は、Genta社によって開発されたBcl-2を標的としたアンチセンス医薬品(アンチセンスオリゴヌクレオチド)である。DNAまたはRNAのアンチセンス鎖は、コーディング鎖(RNAやタンパク質の産生の鋳型となる鎖)に対して相補的な鎖である。アンチセンス医薬品はmRNAハイブリダイゼーションを行う短いRNA配列で、mRNAを不活性化してタンパク質の産生を防ぐ。

ヒトのリンパ腫細胞のt(14;18)転座による増殖は、Bcl-2のmRNAの開始コドン領域を標的としたアンチセンスRNAによって阻害される。In vitroでの研究によって、Bcl-2のmRNAの最初の6つのコドンに対して相補的なオブリメルセンが同定された[19]。リンパ腫に対する第I/II相試験で良好な結果を残し、大規模第III相試験が2004年に開始された。2016年の段階で薬剤は承認されておらず、開発元は廃業している[20]

ABT-737とナビトクラックス(ABT-263)

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2000年代半ばに、アボット・ラボラトリーズABT-737英語版と呼ばれるBcl-2、Bcl-xL、Bcl-wに対する新規阻害薬を開発した。この化合物はBH3を模倣した低分子阻害薬で、これらのBcl-2ファミリータンパク質を標的とするが、A1やMcl-1は標的とはならない。ABT-737はBcl-2、Bcl-xL、Bcl-wに対してより高い親和性で結合する点でこれまでのBcl-2阻害剤よりも優れていた。In vitroでの研究によって、B細胞悪性腫瘍の患者由来の初代細胞はABT-737に対する感受性を示した[21]

動物モデルでは、ABT-737は生存率を改善し、腫瘍の退縮を引き起こし、高い割合でマウスを治癒した[22]。患者由来の異種移植片を用いた臨床前研究では、ABT-737はリンパ腫や他の血液のがんの治療に効力を示した[23]。ABT-737の薬理学的性質は臨床試験に適していなかったが、経口バイオアベイラビリティの高い誘導体ナビトクラックス英語版(ABT-263)は小細胞肺がん細胞株に対して同様の活性を示し、臨床試験が開始された[24]。ナビトクラックスに対する臨床反応は有望なものであったが、血小板でのBcl-xLの阻害のため、血小板減少症英語版による用量制限毒性が治療中の患者で見られた[25][26][27]

ベネトクラクス(ABT-199)

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ナビトクラックスのBcl-xLの阻害による血小板減少症のため、アッヴィは選択性がきわめて高い阻害薬ベネトクラクス(ABT-199)の開発を行った。ベネトクラクスはBcl-2を阻害するが、Bcl-xLやBcl-wは阻害しない[28]。慢性リンパ性白血病(CLL)の患者に対して、Bcl-2タンパク質の機能を遮断するようデザインされたBH3模倣薬であるベネトクラクスの効果を研究する臨床試験が行われた[29][30]。良好な反応が報告され、血小板減少症はみられなかった[30][31]。第III相試験は2015年12月に開始された[32]。2016年4月、染色体の17pの欠失と関係したCLLに対する第二選択薬としてアメリカ食品医薬品局(FDA)によって承認された[33]。これは、Bcl-2阻害薬としてFDAに承認された最初の薬剤である[33]。2018年6月FDAは、第二選択薬としてではあるが、17p欠失の有無に関係なく、すべてのCLLと小リンパ球性リンパ腫へと承認を拡大した[34]

相互作用

[編集]
アポトーシスに関与するシグナル伝達経路の概要

Bcl-2は次に挙げる因子と相互作用することが示されている。

出典

[編集]
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関連項目

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外部リンク

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