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ペルフルオロオクタンスルホン酸

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
PFOSから転送)
ペルフルオロオクタンスルホン酸
PFOS molecule{{{画像alt1}}}
識別情報
CAS登録番号 1763-23-1 チェック
PubChem 74483
ChemSpider 67068 チェック
EC番号 217-179-8
KEGG C18142 チェック
ChEBI
特性
化学式 C8HF17O3S
モル質量 500.13 g/mol
外観 白色固体
沸点

133 °C, 406 K, 271 °F (6 トルにおける値)

酸解離定数 pKa <<0[2][3]
危険性
GHSピクトグラム 急性毒性(高毒性)経口・吸飲による有害性水生環境への有害性
GHSシグナルワード 危険(DANGER)
NFPA 704
0
3
0
関連する物質
関連するcompounds ペルフルオロオクタン酸 (PFOA), ペルフルオロブタンスルホン酸 (PFBS), ペルフルオロオクタンスルホン酸アミド (PFOSA), ペルフルオロノナン酸 (PFNA)
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ペルフルオロオクタンスルホン酸(ペルフルオロオクタンスルホンさん、perfluorooctanesulfonic acid)は、完全フッ素化された直鎖アルキル基を有するスルホン酸共役塩基アニオン界面活性剤として用いられ、PFOS(ピーフォス、perfluorooctanesulfonate)と呼ばれる。

性質、合成

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水溶性は低い (570 mg/L) がジメチルスルホキシド (DMSO) には溶けやすい。蒸気圧は小さい(3.31×10−4 Pa (20℃))。界面活性能が高く、水の表面張力を 15 mN/m まで低下させる。PFOSはオクタンスルホン酸フルオリド電解フッ素化により合成される。自然界では殆ど分解されないため、『永遠の化学物質』と呼ばれることもある[4]

用途

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PFOS(アニオン)

PFOS は低分子化合物であり、高い親水性・親油性により界面活性能が高い。また、光学的には低屈折率であり、高い起泡性を持つ[5]。このことから、以下の用途で広く用いられていた。

また、PFOS が撥水撥油剤として用いられているとの誤った記載もしばしば見受けられるが[6]、撥水撥油剤は有機フッ素化合物のモノマーを物体表面で重合させてポリマーとするもので、PFOS そのものには撥水・撥油の機能はない[5] (そもそも PFOS は親水性・親油性が高いので、むしろ水や油に馴染んで濡れてしまう)。

環境汚染

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2000年に大手製造メーカーであった3M社は、世界各地の野生生物中にPFOSが高濃度に検出されたことを明らかにし、2002年に製造を中止した。

2002年には経済協力開発機構 (OECD) 環境局が調査に乗り出し、『PFOS is persistent, bioaccumulative and toxic to mammalian species.』という調査報告書をまとめている[7]

2008年には、血清中濃度わずか 91.5 ppb で雄のマウス免疫系に影響を及ぼすことが見いだされ、ヒト野生動物が PFOS による免疫異常の危険に晒されている恐れが強いことが明らかになった[8]。1000 ppb の PFOS に曝露した鶏卵から生まれた鶏では PFOS の血清中濃度は 150 ppb を超えており、の発育が非対称となっていたほか、抗体価も低下していた[9]職業的に PFOS に曝露する人では血清中の PFOS 濃度が 1000 ppb を超え、一般人でも多い人では 91.5 ppb を超えている恐れがある[8]。一部の野生動物でも、2006年1月の調査で、卵や肝臓腎臓、血清または血漿から高濃度の PFOS が検出された[10]

生物種 調査地 調査年 調査部位 PFOS (ppb)
ハクトウワシ アメリカ合衆国中西部 1990 - 1993 血漿 2,200[11]
アオノドヒメウ カリフォルニア州 (アメリカ) 1997 肝臓 970[12]
イベリアウミガラス バルト海 1997 614[13]
ハシボソガラス 東京湾 (日本) 2000 肝臓 464[14]
アビ ノースカロライナ州 (アメリカ) 1998 肝臓 861[11]
ホッキョクグマ サニキルーアク英語版 (カナダ ヌナブト準州) 2002 肝臓 3,100[15]
ゼニガタアザラシ ワッデン海 (デンマーク) 2002 筋肉 2,725[16]
ハンドウイルカ チャールストン (アメリカ サウスカロライナ州) 2003 血漿 1,315[17]
マイルカ 地中海 (イタリア) 1998 肝臓 940[17]
ミンク ミシガン州 (アメリカ) 2000 - 2001 肝臓 59,500[18]

上記のように、野生動物からは「健康に影響を与えるレベルである」と判断するに足る量の PFOS が検出されている[19][20]。人間においても、職業的に PFOS に曝露する人の血液から 12,830 ppb の PFOS が検出され、一般人では 656[21] - 1,656 ppb[22]程度になり得ると考えられている。

動物実験により、PFOS はがん子宮内胎児発育遅延英語版および発育阻害、内分泌攪乱、さらには周産期死亡の原因となることが明らかになった。特に周産期死亡は動物実験においてもっとも重大な結果であった[23]。また、血中の PFOS 濃度が人間や野生動物にみられるのと同レベルの雌のマウスをA型インフルエンザウイルスに感染させると、死亡率は顕著に高まった[24]。また、PFOS により動物の出生時体重が小さくなることも確認された[25]が、人間においては PFOS 濃度と胎児の発育には明確な相関は見られていない[26]

アメリカではほぼすべての人の血清から PFOS が検出されたが、その濃度は時間が経過するにつれて減少していた。一方、これと対照的に中国では血中 PFOS 濃度は年を追って増えつつある[27]。また、妊婦の血中 PFOS 濃度と子癇前症に関連が見られた[28]。この他、成人において血中 PFOS 濃度の増加と甲状腺ホルモンの分泌量の変動とに相関があり[29]、血中コレステロール上昇のリスクを高めることがわかった[30][31]。アメリカの12-15歳の児童において、血中 PFOS 濃度と注意欠陥多動性障害 (ADHD)のリスク増加は四分位範囲で60 %のレベルで相関が見られた[32]。2009年の研究で、血中の PFOS および PFOA の濃度が高い女性では、濃度が低い女性に比べて妊娠するまでの期間が長くなることが分かり、PFOS および PFOA が不妊などの生殖能力にも悪影響を及ぼす可能性が示唆されている[33]

2023年、市民団体による東京・多摩地域の一部住民を対象にした血液検査では、参加者全体の PFOS の血中濃度の平均値が10.8 ppb であった[34]

規制

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2005年6月16日、スウェーデンは PFOS を残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 (POPs条約) 議定書の対象物質に追加することを提案した[35][36]

2008年にはカナダの環境保護団体 Environmental Defence がカナダ環境保護法に基づいて PFOS を全廃することを提案した[37]

また、日本では2008年11月21日のPRTR法施行令改正でPRTR法第一種指定化学物質になり、2009年度以降の排出移動量の届出が義務付けられた[38]

2009年5月4日から8日までジュネーブで開催されたPOPs条約の第4回締約国会議(COP4)において、PFOSを含む9種類の物質を同条約の附属書Bに追加することが決定された[39]

ヨーロッパでは、OECD の PFOS に関する研究[7]や欧州衛生及び環境リスクに関する科学委員会によるリスクアセスメント[40]に基づき、2006年に PFOS の最終製品および半製品への含有を質量比 0.005% 以下に規制することで実質的に全廃した[41]が、半導体フォトリソグラフィや硬質クロムめっき液の飛散防止剤、航空用油圧作動油などの産業用途については適用除外とした。 2009年には PFOS の規制がREACH規則に盛り込まれ[42]、2010年夏には残留性有機汚染物質規制が強化されて含有量が重量比 0.001% 以下に制限された[43]

日本では、2010年4月1日の化審法改正で PFOS が第一種特定化学物質に指定され、製造および輸入が許可制となり、事実上全廃された。

一方、アメリカでは2018年5月に情報自由法に基づいて、2018年1月にアメリカ合衆国環境保護庁 (EPA) とホワイトハウスおよびアメリカ合衆国保健福祉省の間で交わされた PFOS に関する議論に関する電子メールが公開された。この電子メールの中で、環境有害物質・特定疾病対策庁が実施した PFOS に関する研究結果の公表を差し控えることが取り決められていた。この研究結果では、以前 EPA が安全であるとした水準よりも低いレベルで健康被害が起こりうることが示されていた[44]

関連項目

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脚注

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出典

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  1. ^ Perfluorooctanesulfonic acid | C8HF17O3S | ChemSpider”. 2013年1月2日閲覧。
  2. ^ Cheng J, Psillakis E, Hoffmann MR, Colussi AJ (July 2009). “Acid dissociation versus molecular association of perfluoroalkyl oxoacids: Environmental implications”. J. Phys. Chem. A 113 (29): 8152–8156. doi:10.1021/jp9051352. PMID 19569653. https://authors.library.caltech.edu/15048/2/jp9051352_si_001.pdf. 
  3. ^ Rayne S, Forest K, Friesen KJ (2009). “Extending the semi-empirical PM6 method for carbon oxyacid pKa prediction to sulfonic acids: Application towards congener-specific estimates for the environmentally and toxicologically relevant C1 through C8 perfluoroalkyl derivatives”. Nature Precedings. doi:10.1038/npre.2009.3011. hdl:10101/npre.2009.2922.1. 
  4. ^ 自然界で分解されない“永遠の化学物質” 米軍・普天間基地が下水道への排水検討 農作物へ環流の恐れも”. FNNプライムオンライン. 2021年8月27日閲覧。
  5. ^ a b 撥水撥油処理剤・フッ素系コーティング剤におけるPFOS・PFOA対策 第2版” (pdf). フロロテクノロジー. 2019年11月16日閲覧。
  6. ^ 業分析センターニュース ~こんなところにもPFOS~ (pdf) 産業分析センター、2020年5月1日閲覧。
  7. ^ a b OECD (2002). “Hazard Assessment of Perfluorooctane Sulfonate (PFOS) and its Salt”. ENV/JM/RD(2002)17/FINAL (page 5). 
  8. ^ a b Betts, Kellyn S. (July 2008). “Not immune to PFOS effects?”. Environ. Health Perspect. 116 (7): A290. doi:10.1289/ehp.116-a290a. PMC 2453185. PMID 18629339. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2453185/. 
  9. ^ M. Peden-Adams ,J. Stuckey ,K. Gaworecki ,J. Berger-Ritchie ,K. Bryant ,P. Jodice ,T. Scott ,J. Ferrario ,B. Guan ,C. Vigo ,J. S. Boone ,W. D. McGuinn ,J. C. Dewitt ,D. E. Keil (2009). “Developmental toxicity in white leghorn chickens following in ovo exposure to perfluorooctane sulfonate (PFOS)”. Reproductive Toxicology (Elmsford, N.Y.) 27 (3-4): 307-318. doi:10.1016/j.reprotox.2008.10.009. PMID 19071210. 
  10. ^ Houde et al. 2006.
  11. ^ a b Houde et al. 2006, p. 21.
  12. ^ Houde et al. 2006, p. 19.
  13. ^ Houde et al. 2006, p. 18.
  14. ^ Houde et al. 2006, p. 22.
  15. ^ Houde et al. 2006, p. 24.
  16. ^ Houde et al. 2006, p. 28.
  17. ^ a b Houde et al. 2006, p. 32.
  18. ^ Houde et al. 2006, p. 34.
  19. ^ M. M. Peden-Adams ,D. E. Keil ,T. Romano ,M. A. M. Mollenhauer ,D. J. Fort ,P. D. Guiney ,M. Houde ,K. Kannan ,D. C. Muir ,C. D. Rice ,J. Stuckey ,A. L. Segars ,T. Scott ,L. Talent ,G. D. Bossart ,P. A. Fair ,J. M. Keller (2009). “Health effects of perfluorinated compounds—What are the wildlife telling us?”. Reproductive Toxicology 27 (3-4): 414-415. doi:10.1016/j.reprotox.2008.11.016. 
  20. ^ Peden-Adams et al. (June 2008). In PFAA Days II Archived 2011-07-26 at the Wayback Machine. (PDF). p. 28.
  21. ^ Fromme H, Tittlemier SA, Völkel W, Wilhelm M, Twardella D (May 2009). “Perfluorinated compounds—exposure assessment for the general population in Western countries”. Int. J. Hyg. Environ. Health 212 (3): 239-270. doi:10.1016/j.ijheh.2008.04.007. PMID 18565792. 
  22. ^ Olsen GW, Church TR, Miller JP, etal (December 2003). “Perfluorooctanesulfonate and other fluorochemicals in the serum of American Red Cross adult blood donors”. Environ. Health Perspect. 111 (16): 1892-1901. doi:10.1289/ehp.6316. PMC 1241763. PMID 14644663. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1241763/. 
  23. ^ Betts, Kellyn S. (May 2007). “Perfluoroalkyl acids: what is the evidence telling us?”. Environ. Health Perspect. 115 (5): A250-A256. doi:10.1289/ehp.115-a250. PMC 1867999. PMID 17520044. オリジナルの2007-06-27時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20070627224326/http://www.ehponline.org/members/2007/115-5/focus.html. 
  24. ^ Guruge KS, Hikono H, Shimada N, Murakami K, Hasegawa J, Yeung LW, Yamanaka N, Yamashita N (December 2009). “Effect of perfluorooctane sulfonate (PFOS) on influenza A virus-induced mortality in female B6C3F1 mice”. The Journal of Toxicological Sciences (The Japanese Society of Toxicology) 34 (6): 687-691. doi:10.2131/jts.34.687. PMID 19952504. https://doi.org/10.2131/jts.34.687. 
  25. ^ Betts, Kellyn (November 2007). “PFOS and PFOA in humans: new study links prenatal exposure to lower birth weight”. Environ. Health Perspect. 115 (11): A550. doi:10.1289/ehp.115-a550a. PMC 2072861. PMID 18007977. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2072861/. 
  26. ^ Washino N, Saijo Y, Sasaki S, et al. (April 2009). “Correlations between prenatal exposure to perfluorinated chemicals and reduced fetal growth”. Environ. Health Perspect. 117 (4): 660-667. doi:10.1289/ehp.11681. PMC 2679613. PMID 19440508. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2679613/. 
  27. ^ Renner, Rebecca (2008). “PFOS phaseout pays off”. Environ. Sci. Technol. 42 (13): 4618. doi:10.1021/es0871614. PMID 18677976. 
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  29. ^ Dallaire R, Dewailly E, Pereg D, Dery S, Ayotte P (September 2009). “Thyroid function and plasma concentrations of polyhalogenated compounds in Inuit adults”. Environ. Health Perspect. 117 (9): 1380-1386. doi:10.1289/ehp.0900633. PMC 2737013. PMID 19750101. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2737013/. 
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  33. ^ Potera, Carol (2009). “REPRODUCTIVE TOXICOLOGY: Study Associates PFOS and PFOA with Impaired Fertility”. Environmental Health Perspectives, Environmental Health Perspectives 117, 117 (4, 4): A148. PMC 2679623. http://europepmc.org/articles/PMC2679623. 
  34. ^ 国分寺の検査受けた94%が「健康被害の恐れ」の指標超え PFAS汚染の血液検査 立川も74%と高く”. 東京新聞. 2023年8月31日閲覧。
  35. ^ スウェーデンPFOSをPOPs議定書に追加を提案”. つれづれなる概説. 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康要因学講座 環境衛生学分野. 2019年11月16日閲覧。
  36. ^ 国内等の動向について(PFOS) (PDF) 環境省
  37. ^ Environmental Defence: "Stain Repellant Chemical, PFOS, Listed for “Virtual Elimination”"[リンク切れ] News Release. (April 21, 2008). Accessed October 26, 2008.
  38. ^ 平成20年11月21日の政令改正による対象化学物質の変更の詳細”. 対象化学物質について -物質一覧表-. 経済産業省. 2019年11月16日閲覧。
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  40. ^ SCHER (2005). “RPA's report "Perfluorooctane Sulphonates Risk reduction strategy and analysis of advantages and drawbacks"”. Scientific Committee on Health and Environmental Risks, European Commission. 
  41. ^ DIRECTIVE 2006/122/EC OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 12 December 2006
  42. ^ COMMISSION REGULATION (EC) No 552/2009 of 22 June 2009
  43. ^ COMMISSION REGULATION (EU) No 757/2010 of 24 August 2010
  44. ^ White House, EPA headed off chemical pollution study”. Politico. May 16, 2018閲覧。

参考文献

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外部リンク

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