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{{暴力的}} |
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{{複数の問題 |
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'''自殺'''(じさつ)とは、自分自身を殺すこと。死に至らなかった場合、'''自殺未遂'''(じさつみすい)ということがある。 |
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| 出典の明記 = 2008-4 |
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| 独自研究 = 2009-7 |
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[[ファイル:Edouard Manet 059.jpg|thumb|300px|[[エドゥアール・マネ]]の絵画『自殺』<br/>拳銃を右手に持っていることから銃自殺を描いたものと思われる]] |
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'''自殺'''(じさつ)とは、自分自身を殺すこと。死に至らなかった場合、'''自殺未遂'''(じさつみすい)ということがある。ほぼ[[同義語]]として、自刃・自害・自決がある。 |
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[[類義語]]として以下のものがある。 |
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[[国立精神・神経医療研究センター]]によれば、自殺によって毎年全世界で約100万人が死亡しており、世界疾病負担(the Global burden of diseases)の1.4%を占める。そして、自殺によって損なわれる経済的損失も数十億ドル規模にのぼる。WHOの自殺予防に関する特別専門家会議によると、自殺の原因は個人や社会に内在する多くの複雑な原因によって引き起こされるが、「自殺は予防できる事を知り、自殺手段の入手が自殺の最大の危険因子で、自殺を決定づける。」としている。 |
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なお、毎年9月10日は「国際自殺防止デー」として、[[世界保健機関|WHO]]と国際自殺防止協会( IASP=The International Association for Suicide prevention)その他のNGOによって、WHO加盟各国で自殺防止への呼びかけやシンポジウムが行われ、その後1週間を自殺予防週間と定める自治体も多い。 |
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== 定義 == |
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「自殺(英語ではsuicide)」という言葉自体の歴史は比較的浅い。『[[オックスフォード英語辞典]]』によると[[1651年]]、ウォーター・チャールトンの「自殺によって逃れることの出来ない災難から自己を救うことは罪ではない」という文が初出とされるが、他にも[[1662年]]、[[1635年]]という説もあり、いずれにしても[[17世紀]]からが[[定説]]とされる。それ以前には自己を殺す、死を手にする、自分自身を自由にする、などの表現があったが一言でまとまってはいない。このようなブレの起こっていた説明として米国自殺学会のエドウィン・S・シュナイドマン([[:en:Edwin Shneidman]])は「[[魂]]と[[来世]]という思想を捨て去ることが出来たとき、その時初めて、人間にとって自殺が可能になった」[[観念]]の変化が反映していると指摘する<ref>E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』白井徳満・白井幸子訳、誠信書房、1993年、12~23項</ref>。来世や魂の[[不死]]といったことを信じたとき、死は単なる終わりではなく別の形で「生き続ける」という存在の形態を移したものに過ぎなくなるからである。近現代へ至る[[死生観]]の変化には、科学技術の発展により宗教的思考が説得力を持たなくなったことが背景にある。このように自殺の問題は「'''死'''」をどう捉えるかという事と不可分の関係にあり、文化や時代によって様々な様相を呈する。 |
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=== 日本語における自殺の別称 === |
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# '''自死'''、'''自害'''、'''自決'''、'''自尽'''、'''自裁''' - 手法によらない。'''自死'''については、自殺行為を反社会的行為だと責めないニュアンスが強い |
# '''自死'''、'''自害'''、'''自決'''、'''自尽'''、'''自裁''' - 手法によらない。'''自死'''については、自殺行為を反社会的行為だと責めないニュアンスが強い |
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# '''[[縊死|首吊り]]'''、'''[[飛び降り]]'''、'''飛び込み'''、'''割腹'''、'''焼身'''、'''[[入水]]'''、'''服毒''' - 手法による |
# '''[[縊死|首吊り]]'''、'''[[飛び降り]]'''、'''飛び込み'''、'''割腹'''、'''焼身'''、'''[[入水]]'''、'''服毒''' - 手法による |
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新聞・テレビ等の報道メディアにおいては'''自殺'''が使用される。 |
新聞・テレビ等の報道メディアにおいては'''自殺'''が使用される。 |
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== 概要 == |
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自殺は自らの意思で自らを殺そうとすることとされるが、外面上自殺に見える場合であっても必ずしも自殺と判断できない事もある。この問題が持ち上がるのは、自殺があくまで「自分の意思の結果」であるという前提があり、手法による判別ではないからである。すなわち、自身が行うことのできる行為は、他者が行いうるとも言い換えることができ、死因鑑定や法医学的鑑定上、自他殺を判定する場合においては、実際の自殺死であっても、必ず「自殺で起こり得る」という範囲での判定である。 |
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平成21年現在、日本の自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)は25.8人で総自殺者数は32845人<ref name="keisatsuchou" />。2.8%が自殺により死亡しており<ref name="kourouJinkou" />、癌や心疾患に次いで6番目に多い死因である<ref name="kourouJinkou" />。同年の交通事故者数(4914人)<ref name="koutsuu"/>の6.7倍に上り、その深刻さが伺える。 |
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自殺未遂者は、自殺者の10倍以上いると推計されており<ref name="shuugiin" />、自殺者遺族は日本に300万人ほどいると推定される<ref name="whiteFour" />。 |
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諸外国に比べても極めて自殺率が高く、世界で4位、アメリカ合衆国の自殺率の2倍である(2002年)<ref name="whiteThree" />。以下特に断りがなければ日本の自殺状況についてである。 |
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1998年以降2010年現在にいたるまで、自殺率は戦後3度目にして最大のピークの最中であり<ref name="naikaku16" />、ピーク以前と比べ、自殺者が20%~50%増加している<ref name="keisatsuchou02" />。 |
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各種統計や自殺者の遺書などから、今回のピークの原因は不況によるものと推測されており、不況の影響を受けやすい中高年男性でピーク後の自殺率が特に急増している<ref name="naikaku16" />。(一方女性の自殺率はピーク前とあまり変わらない<ref name="naikaku16" />。) |
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動機に関しては、平成21年の場合、遺書などにより動機が特定できるものは自殺者の74.4%で<ref name="keisatsuchou" />、自殺の原因は「健康問題」(15867人)、「経済・生活問題」(8377人)が多い(一人3つまで計上)<ref name="keisatsuchou" />。 |
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自殺率は男女差が激しく、自殺者の70%以上が男性である。男性の方が自殺しやすい主要因として、失業を含む勤務問題が挙げられ、働く性としての男性に過度の負担がかかっている事が分かる。他にも失業時や離婚時に男性の方が孤立しやすい事、男性の方が女性より自身の問題を他人に相談しにくい事なども指摘されている。 |
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また職業や地域によっても自殺率は変わり、男性の場合、農林漁業作業者、サービス職業従事者<ref name="kouseiShokugyou" />が自殺率が高く、産業別では、男女ともに「第1次産業」の自殺率が高い<ref name="kouseiShokugyou" />。また生活保護受給者の自殺率も全体の自殺率より高い<ref name="kourouUtsu" />。 |
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地域別に見た場合、特に男性では地域ごとに1.6~1.7 倍の差がある<ref name="naikaku16" />。いわゆる工場地帯で自殺率が高く下請けの不安定な労働環境の影響が指摘される<ref name="whiteTwo" />。また[[東北地方]]や[[裏日本|日本海側]]が自殺率が高く、その原因として、他にも地域産業が衰えたことによる「経済面」や高齢化による「健康面」が指摘されている<ref name="zukaiKen" />。なお、よく指摘される[[季節性情動障害|冬期性うつ病]]については、影響がほどんどない<ref name="whiteNisshou" />。 |
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自殺手段・自殺場所としては、男女とも縊死(=首吊り)・自宅が多く、平成15年の場合、男女それぞれ66.4%、58.9%の自殺者縊死を選び<ref name="kourouShudan"/>、男女合計17511人、54.3%の自殺者が自宅を選んでいる<ref name="taisakuBasho" />。 |
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対策面では、[[2006年]]に[[自殺対策基本法]]が施行されたが、ほとんどはNPOによる自主活動またはボランティア任せあり、多くの自殺相談室が人材・予算不足で苦境に立たされている<ref name="sanin" />。 |
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しかし一方、自殺者72%が自殺前に精神科などなんらかの相談機関に相談に行っており、「いのちの電話」が設置されている地域では自殺率が有意に下がっている<ref name="naikaku16" />為、相談所の拡充が待たれる。 |
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また自殺者の46.2%が事前に何らかのサインを出していた(と遺族は考えている)が、自殺以前にサインに気づいたのは20%にとどまった<ref name="whiteFour" />。自殺者遺族の4人に1人が自分も死にたいと考えており<ref name="whiteFour" />、自殺者のみならずその遺族への対策も待たれる。 |
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自殺者中の数は少ないものの、線路への飛込みや、集団自殺など、周囲に影響を与える自殺方法を取るものもおり、社会問題化している。 |
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日本では自殺報道はセンセーショナルになりがちだが、こうした報道は新しい自殺方法を広めてしまったり、後追い自殺を呼び起こしたりするなどの問題を含み、WHOは適切な報道方法を勧告している。 |
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== 自殺に関する統計 == |
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=== 日本における統計=== |
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==== 自殺者数・自殺率 ==== |
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平成21年現在、日本の'''自殺率'''(人口10万人あたりの自殺者数)は25.8人で総自殺者数は32845人<ref name="keisatsuchou">[http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/220513_H21jisatsunogaiyou.pdf 警察庁:平成21年中における自殺の概要資料]</ref>である。これは同年の交通事故者数(4914人)<ref name="koutsuu">[http://www.npa.go.jp/toukei/kouki/0102_H21dead.pdf 警察庁交通局交通企画課「平成21年中の交通事故死者数について」]</ref>の6.7倍に上り、その深刻さが伺える。 |
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これは諸外国に比べて極めて大きい値で、日本の自殺率はアメリカ合衆国のそれ2倍に相当する(2002年)<ref name="whiteThree" />。 |
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自殺率は主要国[[G8]]諸国、[[経済協力開発機構|OECD]]加盟国、双方とも[[日本]]が自殺率1位となっている。なお、国別の自殺率でみると日本は4位で、日本以外の上位7カ国は[[ガイアナ]]を除けばすべて旧[[社会主義国]](旧ソ連)が占めている<ref>Unless otherwise stated all statistics are from WHO: {{cite web |url=http://www.who.int/mental_health/prevention/suicide/country_reports/en/index.html |title=Country reports and charts available |accessdate=2010-06-01 |work=WHO website - Mental health |publisher=World Health Organization |date=2009}}</ref>。、特に男性中高年層では、自殺率の水準は世界でもトップレベルである<ref>[http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou020/hou18a-1.pdf 内閣府経済社会総合研究所「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」報告書本文1]、p15</ref> |
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。 |
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日本において自殺は主要な死因の一つであり、平成18年度の場合、悪性新生物(癌の事。30.4%)、心疾患(16.0%)、脳血管疾患(11.8%)、肺炎(9.9%)、不慮の事故(3.5%)に次ぐ6位で、2.8%が自殺により死亡している<ref name="kourouJinkou">[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei06/hyo6.html 厚生労働省:平成18年 人口動態統計(確定数)の概況</]</ref>。 |
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特に20台から30台にかけては死因のトップで、平成15年の場合、死亡者のうち15.8%(20台前半)、20.9%(20台後半)、22.8%(30台前半)、25.0(30台後半)が自殺している<ref>[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai03/toukei6.html 厚生労働省 平成15年 人口動態統計月報年計(概数)の概況 死因順位(1~5位)別死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)別]</ref>。 |
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==== 過去の自殺者数の推移 ==== |
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戦後は戦前に比べ、自殺率の変動が激しく、男性の場合、高度経済成長期(15人(10万人当たり、以下同様))やバブル期(20人)は下がった一方、1953~1959年のピーク(31.5人)、昭和1983~1986年のピーク(28.9人)、1998年以降2010年現在まで続くピーク(2004年は38.0人)の3回のピークを迎えている<ref name="naikaku16" />。 |
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女性の場合は男性と類似した曲線をたどるものの、1953~1959年のピークを除けばさほど大きな変化は見られず<ref name="naikaku16" />、この事から男性の自殺率の増減が日本人全体の自殺率の増減の主な影響である事が分かる。 |
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1953~1959年のピークは、青年層の復員兵の自殺が多かったとされる<ref name="naikaku16" />が、それに対し残り2つのピークは、中高年の男性の自殺の増加が自殺率を押し上げている<ref name="naikaku16" />。 |
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==== 1998年~2010年現在の自殺者数の増加原因と傾向 ==== |
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1998年以降2010年現在まで続くピークは戦後最大のもので、それまで約2~2.5万人程度であった年間の自殺者数が3万人以上に急増した<ref name="keisatsuchou02">[http://www.t-pec.co.jp/mental/2002-08-4.htm 参考資料:警察庁発表 自殺者数の統計]</ref>。 |
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遺書から調べた自殺原因では、1998年以降、ピーク前と比べて「経済・生活問題」が急増しており<ref name="naikaku16" />、景気の悪化が自殺に影響した事が分かる。 |
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統計的にも、失業要因が、「安定して有意に男性自殺率を増加させる方向に作用しかつ寄与度も大き」く<ref name="naikakuHoukoku">[http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou020/hou018.html 内閣府経済社会総合研究所 「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」]</ref>、したがって、「98年以降の30歳代後半から60歳代前半の男性自殺率の急増に最も影響力があった要因は、(中略)雇用・経済環境の悪化である可能性が高い」<ref name="naikakuHoukoku"/>事が年齢階層別データ分析、都道府県別年齢階層別データ分析の双方において確認できる<ref name="naikakuHoukoku"/>。 |
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女性の自殺率はピーク前とあまり変わらず、男性の自殺率の影響が顕著である<ref name="naikaku16" />。 |
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男性は高年齢層で自殺しやすく、高齢化は男性の自殺率増加の原因を2割程度説明する<ref name="naikaku16" />。 |
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年齢別で見ると、40~60台の増加が顕著で、特に60台ではピーク前の3割増になっている<ref name="naikaku16" />。<!--1998年以降の自殺者数の増加については、過去のものとは動向が違い、経済・社会的な要因が影響している可能性があることが指摘されている<ref>詳細は「平成10年(1998年)以降の自殺死亡急増の概要」([[国立保健医療科学院]])を参照。</ref>。[[2003年]]には、年間自殺者数が3万4千人に達し、統計のある[[1897年]]以降で最大となった。自殺率も27.0と過去最大となった。 |
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日本では1997年から1998年にかけて自殺数が急増しており、約35%も上昇している<ref name="whiteThree" />。 |
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うち25%は45歳以上の層のもので、中高年の自殺増が急増への寄与が大きい<ref name="whiteThree" />。 |
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1998年以降に自殺の急増した原因として、経済状況の悪化を指摘するものも多い |
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<ref name="naikakuHoukoku /">。 |
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====近年の動向==== |
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[[2010年]][[8月6日]]、全国の自殺者数は、昨年より55人多い2838人(2%増)で、昨年8月以降11ヶ月ぶりに前年同月の自殺者数を上回ったことが警察庁のまとめで分かった。自殺者の内訳は男性1968人、女性が870人。<ref>[http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/H22_tsukibetsujisatsusya.pdf 平成22年の月別の自殺者数について]</ref> |
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{| class="wikitable" style="text-align:right; font-size:95%; margin:10px 0px;" |
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|+ 自殺者数および自殺率の動向<ref name="keisatsuchou"/> |
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|-style="line-height:1.25em; white-space:nowrap;" |
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! !!colspan="3"|自殺者数 !!colspan="3"|自殺率 |
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! !!総数 !! 男性 !! 女性 !! 総数 !! 男性 !! 女性 |
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|平成15年||34,427|| 24,963|| 9,464|| 27.0|| 40.1|| 14.5 |
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|- |
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|平成16年||32,325|| 23,272|| 9,053|| 25.3|| 37.4|| 13.8 |
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|- |
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|平成17年||32,552|| 23,540|| 9,012|| 25.5|| 37.8|| 13.8 |
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|- |
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|平成18年||32,155|| 22,813|| 9,342|| 25.2|| 36.6|| 14.3 |
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|- |
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|平成19年||33,093|| 23,478|| 9,615|| 25.9|| 37.7|| 14.7 |
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|- |
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|平成20年||32,249|| 22,831|| 9,418|| 25.3|| 36.7|| 14.4 |
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|- |
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|平成21年||32,845|| 23,472|| 9,373|| 25.8|| 37.8|| 14.3 |
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|} |
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==== 性別による差 ==== |
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自殺率は性別に関する差が激しく、自殺者の70%以上が男性(例えば平成21年は71.5%<ref name="keisatsuchou" />)である。つまり、男性は女性より2.5倍自殺しやすい。こうした状況であるにも関わらず、男女共同参画予算には「生涯を通じた女性の健康支援」があるのみで、男性の自殺問題の予算はなく<ref>[http://www.shisokan.jp/hansei-joseigaku/jisatsu-kakusa/]</ref>、事実上無視されている。 |
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男性の方が自殺しやすい原因として、失業を含む勤務問題が挙げられる。 |
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実際、遺書などから自殺原因を調べた場合、20台~60台では「勤務問題」、「経済・生活問題」を挙げる者の数が男女で実に10倍近くの開きがあり<ref name="keisatsuchou" />、働く性としての男性に過度の負担がかかっている事が分かる。(他の要因では男女の違いは2倍以内である<ref name="keisatsuchou" />。) |
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また前述のように、98年以降の不況で男性自殺率が急増しており、(しかも女性自殺率はさほど増えておらず)、男性自殺率が急増した主要因が雇用・経済環境の悪化であると目される事も以上の推測を裏付ける。 |
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失業時や離婚時に男性の方に負荷が集中しやすい事を指摘するものもおり、失業や離婚をした場合、女性であれば家族や社会の状況に組み込まれて保護されるのに対し、男性は社会的に孤立を余儀なくされる事が挙げるものもいる<ref>「脳と性と能力」カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ(集英社新書)</ref>。 |
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統計的に見ても配偶者と離別したもの同士の自殺率の男女比や失業者同士の自殺率の男女比の場合はそれぞれ6.04倍(平成12年)<ref name="kourouHaiguu"/>、11.4倍(平成21年)<ref name="keisatsuchou" />に跳ね上がる為、離別や失業が自殺に男女差がある大きな原因である事が伺え、上述の見解を裏付ける。 |
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これは未婚したもの同士・既婚したもの同士・死別したもの同士のいずれの自殺率の男女比も大きな差はなく、それぞれ2.85倍、2.772倍、3.32倍(平成12年)<ref name="kourouHaiguu">[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/suicide04/5.html#2 厚生労働省 自殺死亡統計の概況 6.配偶関係別にみた自殺]</ref>であるのと対照的である。 |
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ただし、未婚・離婚・死別の全てを含めても、男性自殺者の55.5%に過ぎず<ref name="whiteDoukyo">[http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2009/html/honpen/part1/s1_1_13.html 平成21年版 自殺対策白書 13 同居人・配偶関係別の自殺の状況](内閣府政策統括官共生社会政策担当)</ref>、(女性の場合は60.1%<ref name="whiteDoukyo" />)、離婚問題は失業問題と違い、男女2.5倍の自殺率の差を説明しきれない。 |
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一方ジェンダー論の立場からは男性がその性役割に束縛されて感情を表に出せない事が女性よりも自殺率が高い原因だとするものもある。実際、自殺対策に関する意識調査では、悩みやストレスを抱えたとき助けを求める事を「恥ずかしい」もしくは「どちらかというと恥ずかしい」と答えた人の割合は女性(11.5%)よりも男性(19.7%)のほうが高い<ref name="ishiki">内閣府政策統括官共生社会政策担当[http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/survey/report/2-2.html 自殺対策に関する意識調査]</ref>。 |
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ただし前述のように性役割がより厳格だった1950年の方が2009年現在よりも10%近く自殺者中の男性の数が少なかった事から、少なくとも支配的要因ではない事が分かる。 |
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他のほとんどの国でも男性の方が自殺しやすい<ref name="zukai">[http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2772.html 図録▽世界各国の男女別自殺率]</ref>。男女比が特に極端な旧共産圏諸国<ref name="zukai"/>を除けば、日本における自殺の男女比は平均的なものである<ref name="zukai"/>。<!-- |
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引用元が通俗書なので、コメントアウト。 |
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また、男性は女性に比べて感情を表に出しづらく、我慢してストレスを溜め込みやすい。メンタルクリニックを受診する患者は女性のほうが多いが、これは女性がメンタルで悩みやすいためとも言えるし、その逆に男性がカウンセリングなどを受けずに我慢してしまうためとも言える<ref>「マンガで分かる診療内科 1」[[ゆうきゆう]]、[[ソウ]]</ref>。 |
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==== 自殺の傾向 ==== |
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自殺手段でみた場合、男性は縊死(66.4%)、ガス(13.3%)、飛び降り(7.1%)、薬物(3.3%)、溺死(2.3%)、飛び込み(2.1%)、その他(5.8%)の順で多く、女性は |
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縊死(58.9%)、飛び降り(12.8%)、薬物(6.7%)、溺死(6.7%)、ガス(4.8%)、飛び込み(3.6%)、その他(6.5%)の順である(いずれも平成15年のデータ<ref name="kourouShudan">[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/suicide04/10.html#2 厚生労働省 自殺死亡統計の概況 10.平成6年~平成15年の状況 (2)手段別にみた自殺]</ref>)。 |
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自殺の場所は「自宅」(17511人、54.3%)、「乗物」(3334人、10.3%)、「高層ビル」(1656人、5.1%)、「海(湖)・河川」(1649人、5.1%)、「山」(1387人、4.3%)、の順である<ref name="taisakuBasho">[自殺対策白書 11 場所別の自殺の状況](内閣府政策統括官共生社会政策担当)</ref>。 |
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男女別では男女とも「自宅」がトップであるが、2位以降は差があり、男性では「乗物」が2位だが女性では乗り物の順位は高くなく<ref name="taisakuBasho" />、車を使う男性とそうでない女性の間で自殺方法に差がある事が伺える。逆に女性では「高層ビル」が2位だが男性では高層ビルの順位は高くない<ref name="taisakuBasho" />。 |
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自殺者305名の遺族に調査した調査によれば、自殺者の30%に自殺未遂歴があり、60%にはなく、10%は不明である<ref name="whiteOne" />。特に女性の場合は自殺者の45%に未遂歴がある<ref name="whiteOne" />。 |
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同調査によれば72%が自殺前になんらかの相談機関に相談に行っており<ref>305人中、相談の有無が不明だった23人を除いたうちの72%</ref>、相談機関の58%が精神科、25%がその他医療機関であった<ref name="whiteOne" />。そして相談に行っていた202人中62%が自殺直前の一ヶ月いないまで相談に行っていた<ref name="whiteOne" />。 |
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離婚や失業は自殺と大きな相関があり、特に男性の場合、35歳から54歳の年齢階層では、配偶者と離別した無職男性の自殺率は有配偶・有職男性の自殺率の20倍にものぼる<ref name="kourouUtsu">厚生労働省 自殺・うつ病対策プロジェクトチーム「誰もが安心して生きられる、温かい社会作りを目指して」</ref>。離婚に関わらず職業別で見た場合も、無職男性の自殺率は非常に高く、「35歳から54歳の年齢階層では有職者の約5倍になっている」<ref name="kourouUtsu" />。 |
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就業者の中では、男性の場合「農林漁業作業者」(10万人中54.2人)、「サービス職業従事者」(10万人中51.1人)で男性全体の自殺率(10万人中42.3人)を上回っている(平成12年の場合)<ref name="kouseiShokugyou">[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/suicide04/9.html 厚生労働省 自殺死亡統計の概況 (9.職業・産業別にみた自殺(平成12年度人口動態職業・産業別統計))]</ref>、産業別では、男女ともに「第1次産業」の自殺率が高い<ref name="kouseiShokugyou" />。また生活保護受給者の自殺率も全体の自殺率より高い<ref name="kourouUtsu" />。 |
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自殺率でなく自殺者数で見た場合、職業別では平成21年の場合、「無職者」(18722人、57.0%)、「被雇用者・勤め人」(9159人、27.9% )、「自営業・家族従事者」(3202人、9.7% )、「学生・生徒等」( 945人、2.9% ) の順である<ref name="keisatsuchou" />。ただし無職者は主婦や年金生活者を含んだ数字で、内訳は「年金・雇用保険等生活者」(6028人)、「失業者」(2341人)、「主婦」(2294人)、「浮浪者」(64人)、「利子・配当・家賃等生活者」(58人)、「その他の無職者」(7937人)である<ref name="keisatsuchou"/>。 |
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年齢別では中高年の自殺者数が多く、平成21年の場合、「50歳代」(6491人、19.8%)、「60歳代」 (5958人、18.1% )、「40歳代」(5261人、16.0% )、「30歳代」(4794人、14.6% )の順である。<ref name="keisatsuchou" />、<!--年齢別に見ると、40代から60代前半にかけてが自殺率は最も高い<ref name="nenreibetsu">[http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2760.html 図録▽年齢別自殺率(男子)の長期推移と日米比較]</ref>([[2003年]]度)。--> |
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月別では3月が最も多く、3〜6月が年間の自殺者数を引き上げている<ref name="kourouUtsu" />。近年では特に1998年と2003年にこの傾向が顕著であるが、前者は大手銀行や証券会社が破綻した時期であり、後者は失業率のピークであり、同時にヤミ金取立てによる自殺が増加した時期である<ref name="naikaku16" />。<!-- |
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データが古い為コメントアウト:月別では5月が一番多い<ref>月別については、「平成10年(1998年)以降の自殺死亡急増の概要」(国立保健医療科学院)を参照した。</ref>。--> |
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曜日別で見た場合、男性は月曜が最も多く(10万人当たり80.7人)<ref name="kourou">[http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/suicide04/4.html 厚生労働省 自殺死亡統計の概況 死亡曜日・時間別にみた自殺]</ref>、曜日が進む毎に減っていき、土日が最も少なくなる(それぞれ10万人当たり53.5人、55.3人)<ref name="kourou" />これは[[サザエさん症候群]](ブルーマンデー症候群)の影響があると見られる。一方女性の場合、このような明確な差は無い<ref name="kourou" />。 |
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また「いのちの電話」が設置されている地域では、そうでない地域と比べ、男女とも自殺率が有意に下がっている<ref name="naikaku16" />。 |
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==== 自殺に至る原因と経過 ==== |
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平成21年の場合、自殺者の74.4%が遺書などにより動機が特定できるものの、 残りの25.6%に対しては動機が不明である<ref name="keisatsuchou" />。 |
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動機が特定できたものの中では、平成21年の場合、自殺の原因は「健康問題」(15867人)、「経済・生活問題」(8377人)、「家庭問題」(4117人)、「勤務問題」(2528人)の順である。(遺書等から明らかに推定できる原因を各人3つまで計上)<ref name="keisatsuchou" />。「健康問題」はほぼ全ての年代でトップの理由である<ref name="keisatsuchou" />が、唯一50歳台のみ「経済・生活問題」が一位で「健康問題」よりも若干多く<ref name="keisatsuchou" />、リストラ等の影響がうかがえる。 |
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前述のように1998年以降は「経済・生活問題」が急増しており、不況が自殺率に影響している事がわかる。 |
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一方[[文部科学省]]によれば若年層の学生については、2004年度の場合、「厭世」、「父母等の叱責」「精神障害」、「進路問題」、「学業問題」、「恋愛」の順となっており<ref>[[文部科学省]]の「生徒指導上の諸問題の現状について」 |
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</ref>、未成年でも「健康問題」がトップである前述の資料とは大きく異なる。 |
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自殺に至る経過は有職者・失業者で異なり、有職者は配置転換や転職がきっかけになるのが多いのに対し<ref name="kourouUtsu" />、失業者は「失業→生活苦→多重債務→うつ→自殺」という経路を辿る事が多い<ref name="kourouUtsu" />。 |
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なお、雇用保険受給中の失業者の場合、離職日からの日にちには特に傾向はない<ref name="kourouUtsu" />。 |
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[[うつ病]]は自殺と強い関係に有り、自殺者305名の遺族に調査した結果、119名がうつ→自殺という経過を辿っていた<ref name="whiteOne">[http://www.lifelink.or.jp/hp/Library/whitepaper2_1.pdf 自殺対策支援センター ライフリンク 「自殺実態白書2008」第一章]</ref>。ただしうつ病は自殺の根本要因ではなく、同調査は他の根本要因がうつを引き起こしている事を明らかにしている。同調査を元にした危険複合度の分析によれば、主な根本要因として「事業不振」、「職場環境の変化」、「過労」があり、それが「身体疾患」、「職場の人間関係」、「失業」、「負債」といった問題を引き起こし、そこから「家族の付和」、「生活苦」、「うつ病」を引き起こして自殺にいたる<ref name="whiteOne" />。<!-- |
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うつに関しては上述の文献の方が詳細に考察されているので、コメントアウト: |
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こうした国の[[経済]]、[[社会]]、[[文化]]、[[宗教]]などでの違いは見られているものの、自殺の大きな要因として近年あげられるのは、[[うつ病]]などの[[精神疾患]]との因果関係である。現に、警視庁による発表ではうつ病による自殺が27.6%と最も多い。自殺既遂者の95%は何らかの[[精神疾患]]を患っていて、その大半が治療可能だったという研究結果もある<ref>トーマス・E・エリス, コリー・F・ニューマン(著), 高橋祥友(訳), 自殺予防の認知療法―もう一度生きる力を取り戻してみよう, 日本評論社, 2005, p. 16.</ref>。 |
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このような精神的危機の背景には、激しい[[競争社会]]や、低い自己評価に起因するさまざまな否定的感情、家庭、職場での生活が困難など複数の要因がある。膨大な数の統計学的・疫学的研究は、文化(宗教・教育)と生活様式(都会暮らしか田舎暮らしか)と家族の状態(独身か既婚か)、社会的状況(失業者や囚人など)が自殺行為に重要な意味を持つことを明らかにしている<ref>「脳と性と能力」カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ(集英社新書)</ref>。 |
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--> |
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実際失業問題は自殺との関係が深く、有効求人倍率と自殺率には強い負相関が存在し<ref name="whiteThree">[http://www.lifelink.or.jp/hp/Library/whitepaper2_1.pdf 自殺対策支援センター ライフリンク 「自殺実態白書2008」第三章]</ref>、従業員5人未満の零細企業の倒産件数は自殺率と強い正の相関がある<ref name="whiteThree" />。 |
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男性については所得の変動、負債、失業といった要因が自殺率に関係する<ref name="naikaku16" />。一方女性の場合は失業と自殺の関係がみられない<ref name="naikaku16" />。 |
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しかし、各国毎の[[ジニ係数]]と自殺率には相関がみられず<ref name="naikaku16" />、これは所得格差が自殺率と相関が少ない事を意味する。 |
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ただしジニ係数は自殺未遂率とは有意な相関がある<ref name="naikaku16" />。 |
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{| class="sortable wikitable" style="text-align:right; font-size:95%; margin:10px 0px;" |
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|+ 年齢別自殺者数と性別および原因(平成21年<!--←「年度」ではないので注意-->)<ref name="keisatsuchou"/> |
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|-style="line-height:1.25em; white-space:nowrap;" |
|||
!年齢<br />!!~19歳<br />!!20~29歳<br />!!30~39歳<br />!!40~49歳<br />!!50~59歳<br />!!60~69歳<br />!!70~79歳<br />!!80歳~<br />!!不詳<br />!!合計<br /> |
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|- style="background-color:#dcdcdc;" |
|||
! style="background-color:#dcdcdc;" |{{Display none|01/}}合計 |
|||
|563 ||3,534|| 5,189|| 5,755|| 7,027|| 6,093|| 3,581|| 2,238|| 7 ||33,987 |
|||
|- style="background-color:#e6e6e6;" |
|||
! style="background-color:#e6e6e6;" |{{Display none|02/}}男性合計 |
|||
|323|| 2,376|| 3,706|| 4,374|| 5,605|| 4,421|| 2,178|| 1,176|| 6|| 24,165 |
|||
|- style="background-color:#e6e6e6;" |
|||
! style="background-color:#e6e6e6;" |{{Display none|03/}}女性合計 |
|||
|240|| 1,158|| 1,483|| 1,381|| 1,422|| 1,672|| 1,403|| 1,062|| 1|| 9,822 |
|||
|- |
|||
!{{Display none|04/}}家庭問題 |
|||
|84|| 335|| 627|| 736|| 723|| 728|| 511|| 373|| ||4,117 |
|||
|- |
|||
!{{Display none|05/}}健康問題 |
|||
|173|| 1,413|| 2,175|| 2,195|| 2,652|| 3,157|| 2,487|| 1,614|| 1|| 15,867 |
|||
|- |
|||
! style="white-space:nowrap;" |{{Display none|06/}}経済・生活問題 |
|||
|19|| 528|| 1,165|| 1,848|| 2,725|| 1,702|| 337|| 50|| 3 ||8,377 |
|||
|- |
|||
!{{Display none|07/}}勤務問題 |
|||
|23 ||471|| 622|| 615|| 575|| 199|| 20|| 3|| ||2,528 |
|||
|- |
|||
!{{Display none|08/}}男女問題 |
|||
|54 ||387|| 356|| 168|| 97|| 37|| 16|| 6|| ||1,121 |
|||
|- |
|||
!{{Display none|09/}}学校問題 |
|||
|155 ||202|| 5|| 1|| || ||1|| || || 364 |
|||
|- |
|||
!{{Display none|10/}}その他 |
|||
|55 ||198|| 239|| 192|| 255|| 270|| 209|| 192|| 3|| 1,613 |
|||
|} |
|||
==== 地域差 ==== |
|||
特に男性では自殺率が地域ごとに「1.6~1.7 倍の差があり、決して無視し得る差でない」<ref name="naikaku16" />。 |
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警察の全管轄1387個(当時)に対して自殺率を調べた調査<ref name="whiteTwo" />によると、上位50の管轄の相当数が工場地域ないしそれに隣接する地域であった。 |
|||
この事から下請け・孫請け・派遣会社における過酷かつ不安定な労働環境が自殺に地域差がある原因と考えられる<ref name="whiteTwo" />。 |
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県別に見た場合、[[東北地方]]の[[秋田県]]、[[青森県]]、[[岩手県]]、[[山形県]]、[[福島県]]や[[裏日本|日本海側]]の[[新潟県]]、[[富山県]]、[[島根県]]、[[山口県]]などが自殺率が高い。 |
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なお、自殺率でなく自殺人数を見た場合は、人口が多い東京が自殺数最多である<ref name="whiteTwo">[http://www.lifelink.or.jp/hp/Library/whitepaper2_1.pdf 自殺対策支援センター ライフリンク 「自殺実態白書2008」第二章]</ref>。 |
|||
地域による自殺率は男女で差があり、男性では北東北、南九州、山陰で比較的高い傾向がある<ref name="naikaku16" />のに対し、女性では秋田県を除くと男性ほど明確な地域差はない<ref name="naikaku16" />。この事から男性への負担が地域差の原因であると考えられる。なお、北東北、南九州、山陰で男性の自殺率が高い傾向は1960年代以降ほぼ固定化している<ref name="naikaku16" />。 |
|||
なお「98年以降の増減は、自殺率の高い地域でより増加する特徴がみられる」<ref name="naikaku16" />。従って自殺率の地域差は98年以降の自殺の急増と何らかの関係がある事を示唆し<ref name="naikaku16" />、不況が自殺の地域差を生んでいる事が分かる。 |
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地域差がある他の原因として、地域産業が衰えたことによる「経済面」と、高齢化による「健康面」の2つが大きな理由に挙げられている<ref name="zukaiKen">[http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/7340.html 図録▽都道府県の自殺率]</ref>。 |
|||
また地域の保守性のため、規範からはずれた生き方を恥とする人が多いことも要因として考えうる。たとえば富山県は生活保護率が日本で最も低く<ref>[http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/7347.html 図録▽都道府県別生活保護率]</ref>、新潟県は離婚率が日本で最も低い<ref>[http://www.pref.niigata.lg.jp/fukushihoken/1220551346311.html 新潟県ホームページ内『平成19年人口動態統計(概数)の概況を公表します!』]</ref>。 |
|||
またこれらの地方では[[冬]]に[[曇り|曇天]]と[[雪|降雪]]が続く為、[[季節性情動障害|季節性感情障害または冬期性うつ病]]との関係が取り沙汰される<ref>秋田県作成「自殺予防マニュアル」より</ref>が、統計的には日照時間と自殺率には相関が見られず<ref name="whiteNisshou">[http://www.lifelink.or.jp/hp/Library/whitepaper2_3.pdf 自殺実態白書 第三章 p10]</ref> |
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例えば平成21年の秋田県、富山県における自殺が最多の月はそれぞれ4月、8月である<ref name="keisatsuchou" />。<!--本論との関係が低い事、出典が通俗書である事によりコメントアウト:こうした[[気候]]は生真面目で忍耐強いという<ref>八幡和郎著『図解雑学 性格がわかる!県民性』ナツメ社、2003年 ISBN 4-8163-3639-7 </ref>[[東北地方]]や日本海側の[[県民性]]を形成する要因となったと考えられる--> |
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また統計分析は、「近所づきあいの頻度が高い地域で自殺率が低い傾向にあったことを不完全ながらも示して」<ref name="naikakuHoukoku" />おり、「人的ネットワークを土台とするセーフティーネットの構築が自殺予防に有効である可能性が高い」<ref name="naikakuHoukoku" />。 |
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平成21年現在、ワースト・ワンは山梨県(10万人当たり41.9人)<ref name="keisatsuchou" />で、全国平均の25.8人<ref name="keisatsuchou" />を大きく上回っている。ただしこれは発見地別の統計の場合<ref name="taisakuKen">[自殺対策白書 9 都道府県別の自殺の状況](内閣府政策統括官共生社会政策担当)</ref>で、住居地別の統計では自殺率は平均程度である<ref name="taisakuKen" />為、自殺者が県外から[[青木ヶ原|青木ヶ原樹海]]といった[[自殺の名所]]に訪れる事がワーストワンである原因である事が伺える。なお、発見地別統計と住居地別統計に極端な差があるのは山梨のみで、他県ではさほど差は無い<ref name="taisakuKen" />。 |
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1990年代半ばには[[秋田県]]がワースト・ワン(10万人当たり35.4人、内閣府の調べ{{要出典}}<!--資料名・年度を明記の事-->)、[[2007年]]まで13年連続の全国一の自殺率で世間の注目を集めたが、21世紀に入って秋田県では自殺予防のための様々な取組みが行われ、2003年の自殺者数は3年前に比べて27%減少した{{要出典}}。 |
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==== 遺族 ==== |
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日本には自殺者の遺族に関する統計が無いものの、300万人前後と見積もられる<ref name="whiteFour">[http://www.lifelink.or.jp/hp/Library/whitepaper2_1.pdf 自殺対策支援センター ライフリンク 「自殺実態白書2008」第四章]</ref>。 |
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遺族305人を対象にした調査では、遺族達の4人に1人が自分も死にたいと考えており<ref name="whiteFour" />、一家の大黒柱を失った事による経済的困窮に悩まされる<ref name="whiteFour" />など、その辛い実態が伺える。 |
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48%が自分のせいだと考えており<ref name="whiteFour" />、10年ちかく経過しても抑うつ感が消えない遺族も多い<ref name="whiteFour" />。 |
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また自殺者が事前に何らかのサインを出していたかという問いには46.2%があったと答えているが、自殺以前にそれに気づいたのは20%にとどまった<ref name="whiteFour" />。 |
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56.4%が周囲からの偏見にさらされた経験が有り<ref name="whiteFour" />、「あなたのせいで死んだ」などの心ない非難を受けている<ref name="whiteFour" />。 |
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==== 自殺未遂 ==== |
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日本では、自殺者の10倍以上の自殺未遂者がいると推計されている<ref name="shuugiin">[http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/measures/ketsugi.html 自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議](2005年7月19日 参議院厚生労働委員会)</ref>。 |
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平成19年の場合、自損行為で救急自動車の出場した件数は71866件であり、搬送人数は5万2,871人であった<ref name="taisakuMisui">[自殺対策白書 9 都道府県別の自殺の状況](内閣府政策統括官共生社会政策担当)</ref>。 |
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自殺者のうち、以前に自殺未遂経験があるものが男性では13.5%、女性では28.6%である<ref name="taisakuMisui" />。特にこの割合は20台、30台の女性で多い(それぞれ46.4%、44.5%)<ref name="taisakuMisui" />。 |
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====自殺に関する意識==== |
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内閣府の行った意識調査では、自殺したいと思った事がある人は19.1%で無い人は10.2%であった<ref name="ishiki" />。自殺したいと思った事があるのは男性(16.3%)よりも女性(21.9%)の方が多く<ref name="ishiki" />、実際の自殺者では男性の方が2.5倍も多いのと対照的である。年齢別では30台(27.8%)、20台(24.6%)が「ある」と答えた割合が高く、後は年を追う毎に少なくなっている<ref name="ishiki" />。 |
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自殺を考えた際、60.4%は誰にも相談せず、残りは友人(17.6%)や家族(13.9%)などに相談している<ref name="ishiki" />。 |
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自殺の是非については「生死の判断は最終的に本人にまかせるべき」という問いに「そう思う」もしくは「ややそう思う」と答えた人は35.3%で、「そう思わない」もしくは「ややそう思わない」は41.7%であった(残りは分からない(11.9%)もしくは無回答(11.1%))<ref name="ishiki" />。 |
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また「自殺せずに生きていれば良いことがある」という問いに「そう思う」もしくは「ややそう思う」と答えた人は79.4%で、「そう思わない」もしくは「ややそう思わない」は6.1%であった<ref name="ishiki" />。 |
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===世界の統計=== |
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WHOによると、世界では30秒に1回程度の自殺が起こっており、一日3000人ほどが自殺で死んでいる<ref name="whiteThree" />。 |
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[[国立精神・神経医療研究センター]]によれば、自殺によって毎年全世界で約100万人が死亡しており、世界疾病負担(the Global burden of diseases)の1.4%を占める。そして、自殺によって損なわれる経済的損失も数十億ドル規模にのぼる。 |
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自殺の統計は、国によって分類や調査などに差があるため、単純な比較はできない。 |
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例えば、WHOの基準では変死の半分を自殺としてを精査しているが、日本の自殺の基準では変死は自殺者数には含まれていない<ref>詳細は「変死の原因の約半分は自殺」(自殺予防に関する調査結果報告書 104ページ目)を参照。</ref>。 |
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[[ファイル:Suicide rates map-en.svg|thumb|400px|世界の自殺率の分布]] |
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{{main|国の自殺率順リスト}} |
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==== 各国の自殺 ==== |
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===== アメリカにおける自殺 ===== |
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[[銃]]の所持が広く認められている国では、年齢を問わず銃による自殺が多い。[[アメリカ合衆国]]における調査結果<ref>[http://www.imic.or.jp/mmwr/backnum/5322.html 財団法人国際医学情報センター 10~19歳の人々における自殺の方法]</ref>では、10代の小火器([[拳銃]]など)による自殺が全体の49%と、ほぼ半数を占めている。 |
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銃による自殺が多い理由にはその致死率の高さと手軽さが挙げられる。詳しくは[[#銃による自殺]]を参照。 |
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===== 中国における自殺 ===== |
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中国([[中華人民共和国]]、総人口13億人)における自殺者数は、2003年は年間約25万人強<ref>[http://www.china.ne.jp/2004/09/11/jp20040911_43289.html 中国の自殺者、毎年25万人 死因の第5位に]</ref>、2005年は約29万人(うち女性は約15万人)となっている<ref name="20061128searchina">『自殺する女性15万人、家庭内暴力が原因』2006年11月28日 中国情報局サーチナ</ref>。特に、15 - 34歳の若年層を中心とした年代では、自殺は死因のトップとなっている<ref name="20080910recochina">「2分に1人が自殺、原因トップは「夫の不倫」」『Record China』2008年9月10日付配信</ref>。 |
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男女別では、女性の方が若干多く([[国の自殺率順リスト]]を参照)、日本を含む他のほとんどの国では男性の自殺者の方が格段に多いのと対照的である。自殺の要因については、[[ドメスティックバイオレンス]](女性)<ref name="20061128searchina"/>、夫の[[不倫]](女性)<ref name="20080910recochina"/>、「生活や就職」<ref name="20080910recochina"/>などが挙げられる。 |
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===== 韓国における自殺 ===== |
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[[大韓民国|韓国]]でも他のほとんどの国と同様、男性のほうが女性よりも2倍程度自殺しやすいものの男女比は日本よりも若干低く<ref name="zukai"/>、20代では男性より女性の方が自殺者数が多いとの報告がある<ref>[http://www.hani.co.kr/arti/specialsection/newspickup_section/372285.html 急増する20代女性の自殺、同世代男性を上回る…なぜ?] - [[ハンギョレ新聞]](韓国語) 2009年8月21日</ref> |
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===== ニュージーランドにおける自殺 ===== |
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[[ニュージーランド]]では、保健省の発表によれば、1983年 - 2003年の間に自殺者数が減少する一方で、自殺未遂者が増加しているという(自殺では男性の割合が多いのに対して、自殺未遂での入院では女性の割合が多い)<ref>[http://nzdaisuki.com/news/news.php?id=2503 NZニュース 自殺者数が減少する一方で自殺未遂件数は増加]</ref>。 |
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== 自殺と社会 == |
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=== 対策 === |
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WHOの自殺予防に関する特別専門家会議によると、自殺の原因は個人や社会に内在する多くの複雑な原因によって引き起こされるが、「自殺は予防できる事を知り、自殺手段の入手が自殺の最大の危険因子で、自殺を決定づける。」としている。 |
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[[2005年]]7月、[[参議院]]厚生労働委員会で「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」がなされ、同年9月には第1回「自殺対策関係省庁連絡会議」が開催された。[[2006年]]10月28日には[[自殺対策基本法]]が施行されたが、行政における自殺防止対策は貧弱であり、窮地に立たされた人々に自殺を強いる文化・社会状態への対策が必要となる。 |
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自殺防止対策として、相談室の設置、カウンセラーの増強などの対策が取られているところがある。例えば[[静岡県]]では[[富士市]]をモデルにうつ病の観点から自殺防止に取り組み、大きな成果を挙げた。<ref>[http://www.chunichi.co.jp/article/living/health/CK2009101602000058.html]中日新聞2009年10月16日の記事</ref>。 |
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しかし、ほとんどはNPOによる自主活動またはボランティア任せあり、政府・行政側が全面的にバックアップをとっておらず、多くの相談室が人材・予算不足で苦境に立たされている<ref name="sanin">[http://www.sanin-chuo.co.jp/news/modules/news/article.php?storyid=345059006 山陰中央新報]</ref>。 |
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また、政治家の認識も薄いとの指摘もある<ref>自殺者が年間3万人を超えた際、時の首相・[[小泉純一郎]]は「悲観することはない。頑張って欲しい」とコメントしたのみであった([[2004年]][[7月23日]])。 |
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また、ある政治家は自殺問題よりも[[高速道路]]料金引下げの方が有権者に喜ばれる政策だとも発言した。更に内閣府と厚生労働省のある幹部は男性の自殺対策より男性の育児休暇の取得に全力で取り組むべきだと発言した(中日新聞2010年5月16日記事)</ref>。 |
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例えば[[内閣府]][[男女共同参画]]局は女性の健康維持には熱心だが男性の自殺問題は事実上無視している<ref>[http://www.shisokan.jp/hansei-joseigaku/jisatsu-kakusa/]</ref>。 |
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なお、毎年9月10日は「国際自殺防止デー」として、[[世界保健機関|WHO]]と国際自殺防止協会( IASP=The International Association for Suicide prevention)その他のNGOによって、WHO加盟各国で自殺防止への呼びかけやシンポジウムが行われ、その後1週間を自殺予防週間と定める自治体も多い。 |
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=== 自殺に関する法律 === |
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現在の日本において、自殺は犯罪とはされていない。しかし、飛び込み自殺などにより第三者に被害が発生した場合などには、被疑者死亡で送検され、遺族に[[損害賠償]]が発生する可能性がある。また、他人の自殺に関与することは犯罪([[自殺関与・同意殺人罪|自殺関与罪]]、[[自殺幇助罪]])とされる。また、本人から依頼されて人を殺害すること([[同意殺]])は犯罪と扱われる。 |
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尚、単独の自殺未遂は現在の日本の刑法では刑罰に科せられることもないが、複数で行った場合は相互に処罰される([[自殺関与・同意殺人罪]])。ガス自殺など他者に危険を及ぼした場合は被害がなくても未遂も処罰され得る。 |
|||
[[アメリカ合衆国]]で自殺を罪と定めている州は[[アラバマ州]]と[[オクラホマ州]]だけであるが、実際に犯した人を処罰するのは現実的には不可能なことなので罰則はない。いくつかの州では自殺未遂も[[軽犯罪法]]に触れるが実際に罰を受けることは滅多にない。30の州においては自殺ないし自殺未遂はいかなる罪にも問われていない。しかし、全ての州で一致している点があり、自殺を唆したり勧める行為は例外なく重い罪に問われる<ref>E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』59項、1993年</ref>。 |
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なお、自殺を「加害者と被害者が同一人物である殺人」と理解される場合、自殺は「犯罪」であるという法的根拠と成る。 |
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[[オランダ]]においては、[[2000年]]に安楽死が合法化された。ただし、死期が近く、堪え難い肉体的苦痛があり、治療の方法がない等の厳格な要件が付与されている。 |
|||
=== 自殺に係わる経済的負担と保険 === |
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自殺の手法によっては、自殺者の[[財産]](消極財産としての[[債務]]が含まれる)につき[[相続権]]を有する遺族に対し[[損害賠償請求]]がなされる可能性がある。その総額は推定によってまちまちだが、例えば鉄道の人身事故の場合、100万円程度とするものから数億に上るとするものまである(詳細は後述の「鉄道への飛び込み自殺」節参照)。 |
|||
日本の[[健康保険]]では、原則として自殺未遂後の治療に生じる[[医療費]]は保険適用されず全額自己負担となる<ref>[[健康保険法]]、第4章第6節第116条による。</ref>。たとえば、飛び降り自殺の未遂の場合に多発性骨折などで入院治療を受けると、最初の2か月だけでも月500万円程度の医療費を負担しなければならない<ref name="amamiya2002" />。 |
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このために、自殺未遂した男が入院中に数百万単位の医療費負担を家族に背負わせ、その母親が心ならずも男を殺害した事件が発生したこともある<ref>[http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100423ddm041040118000c.html 自殺未遂の長男殺害、67歳母に猶予判決 東京地裁「同情余地多い」]毎日新聞、2010年4月23日</ref>。 |
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ただし、精神の障害によって自殺行為の結果に対する認識能力のない精神病患者による未遂の場合は、例外的に保険給付される。 |
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=== 自殺に関する社会問題 === |
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[[日本]]では、[[インターネット]]内で知り合った男女同士の自殺(いわゆる心中)などに代表されるように、一酸化炭素中毒型自殺などが社会問題となっている<ref>現在では、そこから発展する形での殺人請負や闇の職業安定所事件など、複雑かつ巧妙な犯罪寸前のサイトなどがあり問題を複雑にしている。</ref>。また、[[自殺の名所]]にも記載があるように、自殺者の大部分は三大都市圏に集中しているため、列車飛び込みなどが多い。 |
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==== 報道の功罪 ==== |
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自殺報道をきっかけにさらなる自殺を誘発される事があり、例えば古くは1903年、一高生[[藤村操]]が「巌頭之感」を書いて投身自殺した時は[[哲学]]的煩悶での自殺として新聞・雑誌などのメディアに大きく取り上げられ、文学者の間では議論も戦わされると、後追い自殺が相次いた。その後も1986年や1998年など、有名人の自殺及びその後の報道をきっかけとした後追い自殺が発生したケースは多い([[ウェルテル効果]])。たとえば[[X Japan]]のHideが自殺した月はその周辺の月に比べ、二倍程度自殺率が高い<ref name="naikaku16">[http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou020/hou18a-1.pdf 内閣府経済社会総合研究所「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」報告書本文1]、p19</ref>。 |
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また2000年頃の練炭騒動や[[2007年]]前後の硫化水素騒動のように報道番組が新たな自殺方法をセンセーショナルに取り上げる事で、その自殺方法が喧伝されてしまう場合もある。 |
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自殺報道にはこうした負の影響がある為、WHOは2000年「[[自殺を予防する自殺事例報道のあり方]]」において「写真や遺書を公表しない事」、「自殺の詳しい内容や方法を報道しない事」、「自殺に代わる手段(alternative)を強調する事」、「ヘルプラインや各地域の支援機関を紹介する事」などを勧告しているが、日本では守られているとは言いがたい。 |
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一方海外では、報道方法を変える事により、自殺数を減らす事に成功している。 |
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[[1984年]]から[[1987年]]にかけて、[[オーストリア]]の[[ウィーン]]では、[[ジャーナリスト]]が報道方法を変えたことで、地下鉄での自殺や類似の自殺が80%以上減少した。また、自殺率を減らす効果があった<ref>[http://www.afsp.org/index.cfm?fuseaction=home.viewPage&page_id=7852EBBC-9FB2-6691-54125A1AD4221E49 AFSP: For the Media: Recommendations] [[AFSP]](American Foundation for Suicide Prevention)</ref>。 |
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[[フィンランド]]では、自殺の報道方法変更を含む諸対策により、自殺率の減少を達成している<ref>『[日経サイエンス]』(2003年5月号)「[http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0305/sp3.html 特集 自殺は防げる]」</ref><ref>『学術の動向』(2008年3月号)特集1◆わが国の自殺の現状と対策「海外における自殺対策の取り組みとエビデンス[http://www.h4.dion.ne.jp/~jssf/text/doukousp/pdf/200803/0803_2025.pdf PDF]」山田光彦</ref>。 |
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==== 鉄道への飛び込み自殺 ==== |
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鉄道への飛び込み(報道などでは自殺でない可能性を考慮し「人身事故」と呼ぶ)は多くの利用客に影響を与える為、社会問題化している。例えばJR大阪環状線で人身事故があった際には「計48本が運休し、67本が最大88分遅れ、約6万人に影響が出た」<ref>[http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201007220020.html 朝日新聞「JR環状線で人身事故、6万人に影響」]2010年8月6日閲覧</ref>。 |
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鉄道会社が要求する損害賠償額は公表されてない場合もある(JR東日本、東武鉄道)<ref name="jcast">[http://www.j-cast.com/2008/08/14025166.html?p=1 J-CASTニュース「人身事故という名の「電車飛び込み自殺」 「遺族に1億円請求」は都市伝説か」] 2010年8月6日閲覧。</ref>為一概には分からないが、例えば京浜急行電鉄の場合、車両は「そんなに大きく壊れる訳では」ない為、損害額は1件あたり200万円程度 で、「基本的に損害賠償は求めていく」方針であるにもかかわらず「実際の請求額は、高くても100万円」いかない程度である(京浜急行電鉄、広報宣伝担当)<ref name="jcast" />。 |
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ただし被害総額は資料によりまちまちで、普通電車の場合でも、ラッシュ時の場合は額が大きくなり、800万円を請求されたケースがあるとするものもある<ref name="amamiya2002">[[雨宮処凛]](2002)『自殺のコスト』太田出版</ref>。被害総額が億の単位にのぼるとする推定もあり、周辺10駅から駅員を動員し、乗客1万人に影響があった場合、車両や線路の修繕費(1億400万円)、振替輸送の費用(4000人が平均500円)、1駅あたりの人件費(一人5万円)で計1億650万円の費用がかかるとする推定がある<ref>「鉄道噂の真相―現役鉄道員が明かす鉄道のタブー」(彩図社)、以下より重引:[http://www.j-cast.com/2008/08/14025166.html?p=1 J-CASTニュース「人身事故という名の「電車飛び込み自殺」 「遺族に1億円請求」は都市伝説か」] 2010年8月6日閲覧。</ref>。なお前述の京浜急行では小額とされていた車両や線路の修繕費、この資料の額から引くと金額がほぼ一致する事から、この種の修繕費の如何によって金額が大きく左右される事が分かる。 |
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鉄道会社側も、自殺防止・転落防止の為に[[ホームドア]]の設置等の対策を取る場合もあるが、ホームドアが逆に安全確認業務をさまたげになったり、柵と列車の間に挟まれる事故が予想される事などもあり、既存路線への追加設置は進んでいない。<!--中には全面ガラス張りのホームドアで柵の飛び越え対策をしている駅([[東京地下鉄南北線|東京メトロ南北線]]や新交通システム)が設置される事もある。--> |
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この為、心理学者の意見を入れて大きな鏡を設置する、発車ベルを音楽に変える。また、緊急停止ボタンを設置するなど努力も為されるが、効果は不明である。東京のJR中央線でホームからの飛び込み自殺が相次いだ時は、ホームにガードマンを臨時配置したところ、一時的に自殺者がなくなったという報道がある{{要出典}}。 |
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==== いじめと自殺 ==== |
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1986年、1994年 - 1996年、2006年の時期は、子供の自殺についての報道が多かった。原因としては「学校における[[いじめ]]」が取りざたされた。また、これに関連して文部科学省が学校における「いじめの把握」が不十分であることが指摘された。 |
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<!--自殺者数はまだ確定ではない(2006/12/28時点)ため、書き換えさせてもらいました--> |
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いじめ自殺が相次いだ1995年12月には、[[横浜市]]のいじめ110番に自殺をほのめかす電話が殺到し、当時の横浜市長[[高秀秀信]]が緊急会見を開くなど現場は一時騒然となった。そしてそのわずか2ヵ月後には日本各地の新聞社や放送局にいじめ自殺の予告やテストや運動会を取りやめないと死ぬといった自殺予告の手紙が多数送られ、実際に試験日を延期する学校が相次いだ。そして10年後の2006年11月には中高生が文部科学省に自殺予告を送り、マスコミでも大きく取り上げられた。 |
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==== 硫化水素 ==== |
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[[2007年]]前後から、硫化水素による自殺方法を、インターネットで情報を得て、実際に試みる人が多発しており、無関係な人間が巻き添えになる例も出ている。2008年4月に入ってからは一日1人、多い時は2人もこの自殺方法で命を落としておりマスコミでも大きく取り上げられた。 |
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==== 自衛官の自殺 ==== |
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2008年頃から、自衛官の自殺が政治問題化している。<ref>「自衛官の自殺 後絶たず 他省庁公務員の二倍 防衛省、ケアに苦慮」日経新聞2008年4月16日付夕刊</ref> |
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自衛官の自殺のうち特別の事情として「いじめ」の問題がある。 |
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遺族が初めて国家賠償請求を起こした、1999年(平成11年)11月に当時21歳の三等海曹の自殺(護衛艦「さわぎり」事件)についての原因も、上司の二等海曹による「ゲジ(スペードの2、役立たずの意味)」と呼ぶ、「海の上ではだれかいなくなってもわからない」その他の暴言の連続があったと遺族は裁判内で主張している(裁判では、事実は認定されたが、一審ではその意義について自衛官教育での範囲内とされた)。この事件を契機に自衛隊内でのメンタル・ヘルスが研究されるようになったとされるが、自殺者は自衛隊全体で事件後も減っていないうえ、2004年10月に護衛艦「たちかぜ」の当時21歳の一等海士が、いじめを告発する遺書を残して飛び込み自殺をし、事件をきっかけに、恐喝と暴行など「たちかぜ」艦内での刑事犯に発展した隊員への「いじめ」が発覚するなど「いじめ」と自殺の因果関係がクローズアップされる。[http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a168343.htm]。いじめに関しては、(防衛省として現在統計資料の有る)2003(平成15)年度から2006(平成18)年度までに『私的制裁』として92人、『傷害又は暴行脅迫』として291人の者に対して懲戒処分を行っている。 |
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その他、問題となる自殺に、陸上自衛隊の駐屯地内での武器の使用による自殺がある。これは、小銃(ライフル)を連射モードに切り替え、数発(1‐9発程度)を命中させて自殺する者が、実包を装填した銃器を携行して歩哨警備を行う火薬庫の警備時に多発している。2004年(平成16年)度以降、2008年8月まで5件の弾薬庫警備任務中の隊員による小銃を使用した自殺、自殺未遂事件が起きている。 |
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なお、2004年から2006年度は3年連続で、25万人の陸海空自衛官の内自殺と断定された自衛官の数は、毎年100人程度に達している(防衛省調)。2006年度に死亡した隊員は陸海空あわせて224人(陸自156人、海自35人、空自33人)。このうち自殺と認定された者は、97人(陸66人、海20人、空11人)で死亡理由の4割を超える。 |
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==== 自殺ショーの取り締まり(中国) ==== |
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[[中華人民共和国|中国]][[広東省]]広東市は、2008年6月に多発する自殺ショーと呼ばれるパフォーマンスの取り締まり強化を行った。自殺ショーとは、自殺すると見せかけ高層ビルの屋上などで「自殺する」と騒ぎ立て、未払い賃金支払いなどを訴え、見返りとして未払い金の支払いを要求をするというもの。自殺ショーが行われる度に、警察車両や救急車両が出動し、交通渋滞などの原因にもなっていた。そこで[[広東省]]広東市は自殺ショーを迷惑行為と位置づけ、ショーを数回に渡り実施した者に対する罰則を規定した。<ref>[http://www.recordchina.co.jp/group/g20850.html 中国ニュース通信社]</ref> |
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== 特徴的な自殺 == |
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前述のように自殺方法としては縊死や飛び降り等が多いが、件数は少ないながらも、その方法により、世間を賑わすものもある。 |
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'''群発自殺'''は、複数人の自殺が、近接した時間・場所において実行される現象の事で、メディアによる報道がきっかけとなって起こることが多い。 |
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群発自殺には以下の二種類の類型がある。 |
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* '''集団自殺'''は、複数の自殺志願者が、お互いに合意の上で同時に自殺することをいう。インターネット上の[[自殺サイト]]を媒介として実行されることが多い。 |
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: {{main|集団自殺}} |
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* '''連鎖自殺'''は、有名人の自殺や、一般人の凄惨な自殺を報じるニュースが、模倣者を発生させる現象のことをいう('''[[ウェルテル効果]]'''とも)。前述のように、報道の仕方を変える事で群発自殺を減らす事ができる。 |
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: {{main|ウェルテル効果}} |
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その他の類型として以下のものがある。 |
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*拡大自殺(Suicide by cop) |
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:自身で直接自殺するのではなく、犯罪を犯して死刑になる事で司法の手を借りて自殺する事。 |
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:{{main|拡大自殺}} |
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*宗教的な自殺 |
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:一部の宗教において、ある種の死によって魂が救われる、と教祖的立場の人間が説く場合に発生することがある。[[自爆テロ]]や[[即身仏]]、[[生贄]]などの事例があり、こうした死が[[殉教]]と見なされる場合もある<ref> |
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例えば次を参照。 |
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{{cite web |
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|url = http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4500/news/20060429id22.htm |
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|title = ザワヒリ容疑者「殉教作戦800件」ビデオ声明で成果 - YOMIURI ONLINE |
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|accessdate = 14 March 2009 |
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}} |
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</ref>。 |
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また過激な宣伝・抗議手段の1つとして自殺が行われる場合もあり、見る者へ与えるインパクトの強さを狙った焼身自殺が選ばれる事も多い。 |
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例えば、[[大韓民国|韓国]]の[[反日デモ]]において焼身自殺を図った男性や<ref>「反日デモ抗議 大阪の中国総領事館前で焼身自殺図る?」([[エキサイト]]ニュース)</ref>、[[ベトナム戦争]]当時の南ベトナム政権による[[仏教]]徒弾圧に対する抗議のためにビデオカメラの前で焼身自殺した[[ティック・クアン・ドック]](釋廣德)師、彼を範にしてベトナム戦争抗議の焼身自殺を遂げた[[由比忠之進]]、[[アリス・ハーズ]]などが知られている。[[左翼思想]]を持つ[[ロックバンド]]、[[レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン]]の初アルバムには炎に包まれるティック・クアン・ドックの写真が載せられている。<ref>レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの[http://www.ratm.com/new2/sound/minis/ragealbum1.gif アルバム画像]</ref> |
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[[ドラッグ]]や[[麻薬]]の広まっている地域では酩酊している状態で正常な判断能力を失っているうちに、ビルの上から飛び降りたり、自動車や列車に飛び込んで自殺をしてしまうこともある(この場合、自殺ではなく、[[事件]]や[[事故]]と取る場合もある)。例えば「[[夜回り先生]]」こと[[水谷修]]が麻薬・薬物を撲滅しようとするきっかけとなったのは、[[横浜市]]で定時制高校の教員を勤めていた頃、当時の生徒が[[シンナー]]で酩酊状態にあった時に[[ダンプカー]]に飛び込み、死亡したことであったという<ref>水谷修「夜回り先生」</ref>。 |
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== 関連概念との比較 == |
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=== 殺人 === |
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警察の捜査で自殺と断定された事件が事故または殺人事件ではないかと疑われる例は以前から存在しており、[[徳島自衛官変死事件]]のように遺族とのトラブルや訴訟となった例もある。また、逆に自殺であるにもかかわらず、警察や遺族によって事故とされている場合も存在するのではないかと言われる。突発的な自殺願望によって、遺書も書かずに電車や車に飛び込み自殺したと疑われる場合である。 |
警察の捜査で自殺と断定された事件が事故または殺人事件ではないかと疑われる例は以前から存在しており、[[徳島自衛官変死事件]]のように遺族とのトラブルや訴訟となった例もある。また、逆に自殺であるにもかかわらず、警察や遺族によって事故とされている場合も存在するのではないかと言われる。突発的な自殺願望によって、遺書も書かずに電車や車に飛び込み自殺したと疑われる場合である。 |
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なお、日本国内の自殺を取り扱った統計である「自殺の概要」(警察庁)では、解剖による鑑定後、自殺と判定された案件において、実際に遺書が残されている件は、半数以下である。 |
なお、日本国内の自殺を取り扱った統計である「自殺の概要」(警察庁)では、解剖による鑑定後、自殺と判定された案件において、実際に遺書が残されている件は、半数以下である。 |
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=== 安楽死・尊厳死 === |
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また、自傷行為はしばしば自殺未遂とされることが多いが、実際には自殺目的ではなく切ること自体の感覚を目的とする場合が少なからずある。これは、自傷が中毒症状の様になっている人に多いが、こういった場合自殺未遂とみなした場合、更に回復が困難となる。しかし、自傷者の多くには実際に自殺願望があるうえ、自傷による事故死と自殺は非常に見分けづらいので、現在は自傷による事故死も自殺に含めてしまうことが多いとみられている。他にも、自分の健康を無視したような行動を行う人もいるが、やはり意図していないのでそれ自体は別のものである。 |
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{{main|1=安楽死|2=尊厳死}} |
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末期のがんや病気などで多大な苦痛を伴い死が目前と差し迫っている患者は、[[アメリカ]]、[[オランダ]]、[[スイス]]などの国々では薬物投与などにより苦痛を伴なわずに死を選択する事が出来る安楽死が法律で認められている。 |
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尊厳死は無用な延命治療を拒み、患者の尊厳が損なわれるのを避けるという理念であり、[[1994年]]には[[日本学術会議]]は、[[尊厳死]]容認のために、 |
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# 医学的にみて、患者が回復不能の状態に陥っていること。 |
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# 意思能力のある状態で、患者が尊厳死の希望を明らかにしているか、患者の意思を確認できない場合、近親者など信頼しうる人の証言に基づくこと。 |
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# 延命医療中止は、担当医が行うこと。 |
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以上の3つを条件としてあげている。 |
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==== 病院内の自殺 ==== |
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米国の独立系・非営利組織の医療施設評価認証機構である「ジョイント・コミッション」の医療事故報告制度の中では、病院内での重大な[[医療事故]]の最多のものは、自殺であるという。 |
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[[日本医療機能評価機構]]による調査では、調査の3年間に29%の一般病院(精神科病床なし)で自殺が起こっている。その自殺者の入院理由となる疾患は、35%が[[悪性腫瘍]](ガン)である。 |
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=== 自傷行為 === |
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[[自傷行為]]はしばしば自殺未遂とされることが多いが、実際には自殺目的ではなく切ること自体の感覚を目的とする場合が少なからずある。 |
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しかし、自傷者の多くには実際に自殺願望があるうえ、自傷による事故死と自殺は非常に見分けづらいので、現実には自傷による事故死も自殺に含めてしまうことが多いと思われる。 |
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他にも、自分の健康を無視したような行動を行う人もいるが、やはり意図していないのでそれ自体は別のものである。 |
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自傷段階の人の場合、現世への希望をまだ諦めきっていないため、なんらか事態の改善に繋がる助けを求めている傾向があるとされる。自殺ではコミュニケーションを求める行為はほとんど見られず、またそのような心の余裕も無いことが多い<ref>E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』誠信書房、1993年</ref>。 |
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以下、参考にWalsh (2005) による自傷行為と自殺未遂の判定表を挙げる。ただし双方は死への意図のあるなしではなく強弱の同一線上にある例も多いため、一種の指標として柔軟に用いるのが望ましい |
以下、参考にWalsh (2005) による自傷行為と自殺未遂の判定表を挙げる。ただし双方は死への意図のあるなしではなく強弱の同一線上にある例も多いため、一種の指標として柔軟に用いるのが望ましい。 |
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{| class="wikitable" |
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|+'''自傷行為と自殺企図との区別の例''' |
|+'''自傷行為と自殺企図との区別の例''' |
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いずれの場合でも状況を一見しただけで安易に自殺であると断定するのは拙速であることがあり、特に有名人の自殺に関しては多くこの問題が取り上げられる。 |
いずれの場合でも状況を一見しただけで安易に自殺であると断定するのは拙速であることがあり、特に有名人の自殺に関しては多くこの問題が取り上げられる。 |
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=== 自殺の類型 === |
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==== 群発自殺 ==== |
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複数人の自殺が、近接した時間・場所において実行される現象。'''[[集団自殺]]'''と'''連鎖自殺'''がある。 |
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* '''集団自殺'''は、複数の自殺志願者が、お互いに合意の上で同時に自殺することをいう。インターネット上の[[自殺サイト]]を媒介として実行されることが多い。 |
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: {{main|集団自殺}} |
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* '''連鎖自殺'''は、有名人の自殺や、一般人の凄惨な自殺を報じるニュースが、模倣者を発生させる現象のことをいう。これを'''[[ウェルテル効果]]'''と称することもある。 |
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: {{main|ウェルテル効果}} |
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群発自殺は、メディアによる報道がきっかけとなって起こることが多い。 |
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[[フィンランド]]では、自殺の報道方法変更を含む諸対策により、自殺率の減少を達成している<ref>『[日経サイエンス]』(2003年5月号)「[http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0305/sp3.html 特集 自殺は防げる]」</ref><ref>『学術の動向』(2008年3月号)特集1◆わが国の自殺の現状と対策「海外における自殺対策の取り組みとエビデンス[http://www.h4.dion.ne.jp/~jssf/text/doukousp/pdf/200803/0803_2025.pdf PDF]」山田光彦</ref>。 |
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== 自殺の歴史 == |
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=== 世界の歴史 === |
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{{main|拡大自殺}} |
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自殺の歴史は古く、紀元前の[[壁画]]などにもその絵や記述が残されているほどである。[[中国]]では、[[紀元前1100年]]ごろ[[殷]]王朝最後の[[帝]]である[[帝辛]](紂王)が[[周]]の[[武王 (周)|武王]]に敗れ、焼身自殺したと伝えられている。また、古代ギリシャの詩人[[サッポー]]は[[入水]]により自殺したという説があり、他にも[[エジプト]][[プトレマイオス朝]]最後の女王である[[クレオパトラ7世]]は[[アクティウムの海戦]]に敗北した際に、[[アウグストゥス|オクタウィアヌス]]に屈することを拒み、[[コブラ科|コブラ]]に自分の体を噛ませて自殺したと伝えられている。 |
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直接の自殺ではないが自ら死を招く行動を取る事。 |
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手法や原因は異なるが、社会的な凋落や[[絶望|絶望感]]が自殺の動機となりうることは、過去から現在に至るまで同じである。 |
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一方で、自殺は、社会的な制度として行われる事もある。宗教的な理由から[[生け贄]]として自害するなどである。 |
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==== 宗教的な自殺 ==== |
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重大な犯罪を起こして[[死刑]]を免れない状況に陥った貴人が公衆の前で処刑されるという屈辱を免じてその名誉を重んじさせる意味で自殺を強要されることがあった。[[律令制]]国家における[[皇族]]や高位者が死刑判決を受けた場合に自宅での自殺をもって代替にするのを許したことや、戦国時代から江戸時代初期にかけての日本における武士階級に対する切腹処分などがこれにあたる。[[賜死]]の形態を取ることも多く、洋の東西を問わず見られる現象であり、[[ルキウス・アンナエウス・セネカ]]などが知られる。諸説あるが、[[荀イク|荀彧]]も主君[[曹操]]に死を強要されたとの説がある。 |
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=== 日本における歴史 === |
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日本においては、歴史的に自殺がひとつの文化として捉えられている<ref>“自害”に関して、欧米では「日本の女性の自殺文化」という誤解が生じているようである{{疑問点}}。</ref>。 |
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日本の文明が始まる頃から自殺は行われていたとされており、文字が書かれた頃から文献として多数自殺の記録が存在している。日本で最も古い自殺に関する伝承は、『[[古事記]]』の記述による[[ヤマトタケル]]の妃[[弟橘媛|弟橘比売命]](オトタチバナヒメノミコト)の伝承である。 |
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[[切腹]]・[[心中]]・[[特別攻撃隊|特攻]]・[[自爆]]・[[殉死]]など、自殺に准じる行為がそれぞれの時代、様々な状況で扱われている。特に特定条件下での自殺は美談として扱われた。前近代では[[室町幕府]]を開いた[[足利尊氏]]の祖父[[足利家時]]が[[八幡大菩薩]]に三代後の子孫に天下を取らせよと祈願した願文を残して自害したという伝説や、[[織田信長]]の傳役[[平手政秀]]が死をもって信長の行動を諌めたとされる事例などがある。近代においては[[明治天皇]][[崩御]]のおりに殉死した[[乃木希典]]夫妻が世論の称賛を浴びた。宗教的な要因による自殺としては、[[江戸時代]]の[[即身成仏]]などの例がある。 |
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明治以降は日本の自殺率は1936年まで20人前後と緩やかな上昇傾向にあったが、戦争の影響で減少し戦前戦後を通じ最低レベルとなった。国家総動員法(1938年制定)下で自殺どころでなかったと考えられる。 |
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その後、戦後の価値観の大きな転換や社会保障が整備されていなかったこともあり、高度成長が本格化するまでのあいだ(1950年代)日本の自殺率は1958年には10万人あたり25.7人と世界一となり、2008年現在に至るまで過去最高の数値を記録している。[[高度経済成長]]の時期は減少に転じた。1973年の[[オイルショック]]の頃から再び増加したが、1980年代後半からの[[バブル経済]]期には減少した。[[バブル崩壊]]後の1990年代後半に[[スウェーデン]]、[[ドイツ]]より低かった自殺率は急激に上昇した<ref>[http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2774.html 図録▽主要国の自殺率長期推移(1901~)]</ref>。 |
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==== 武士の自害 ==== |
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日本では戦場において本来相手側に武名をなさせないために、[[平安時代|平安]]より[[鎌倉時代|鎌倉]]、[[戦国時代 (日本)|戦国時代]]に至まで、敵に討ち取られるよりは自害することをよしとする風潮があった。『[[平家物語]]』の登場人物の最後は自殺で終わる者が多い。これは、自らの武名が誰かによって落ちること、つまり討ち取られることを恥としたからである。これらは現在でも国語の教科書に掲載され、日本の武家文化の一つとして継承されている。また死罪を自ら行う[[切腹]]は良く知られている。鎌倉以来[[武士]]は江戸時代初期までは主君に切腹を命じられても、従容として死につくのではなく、ある程度の抵抗を示した後に主君側に討ち取られる以外に選択肢がなくなってから自害することが「意気地」とされた。ところが、江戸時代も中期になると、従容として腹を切ることが「潔い」とされるようになる。これは一つには[[家系|家]]の存続が個人の武名以上に重要なものとされてきたためによるが、[[徳川家|徳川]]の文治政治の中で[[連座]]が緩和されたため、単独で責任をとれば家もしくは、家族などは存続を許されたからでもある。なお、女性の場合は切腹ではなく喉を短刀で突く。 |
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==== 江戸町民の心中 ==== |
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江戸時代、大坂や江戸を中心に心中自殺が庶民の間に流行した。これは[[近松門左衛門]]の『[[曾根崎心中]]』を代表とする「[[心中]]もの」の芝居や[[浄瑠璃]]が評判を呼んだ事による影響と考えられている。この世を憂き世として忌避し、[[あの世]]で結ばれるとして男女が自殺に及んだのである。これに対し、幕府は『心中禁止令』を出すとともに、心中死体や心中未遂者を3日間さらし者にした上で、未遂者は被差別階級に落とすという厳罰を実施している<ref>[[樋口清之]]著 『樋口博士のおもしろ雑学日本「意外」史』 三笠書房1989年 P218~219より</ref>しかしこの対応がかえって確実に死ぬことを覚悟させるだけで、心中防止に効果はなかったとされている。 |
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==== 昭和史の戦中における自決、特攻 ==== |
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{{see also|戦陣訓|集団自決}} |
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[[大正デモクラシー]]退潮後の日本では、軍部の影響力が増大し[[軍事国家|軍国]]化した。[[日本軍]]の間では、[[軍人]]は自決によって責任をとることを是とし、またそれは美徳だと考えられており、「生きて虜囚の辱めを受けず」の一文で有名な[[戦陣訓]]に象徴される、[[捕虜]]になることより潔い自決を名誉とする環境が醸成されていた。 |
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1941年に開戦した[[太平洋戦争]]では、[[終戦]]後を除き、組織的[[降伏]]を行わないという特異性を世界に見せつけた。日本軍人達は捕虜になるぐらいなら自決もしくは[[バンザイ突撃|自殺的な攻撃]]で命を断った。また前線の指揮官が無断撤退の責任を取るために自決を選ぶ、もしくは強いられることもあった。自決であれば、軍人[[軍属]]の場合は[[戦死]]扱いになり、不名誉でないとされた。またそれに呼応する様に、これらの思想は一般市民にも浸透しており、所謂名誉の自決をした軍人は[[新聞]]報道や[[ラジオ]]放送、[[ニュース映画]]や[[大本営発表]]を通し市民の目や耳に入り、立派な最期を遂げた尊敬すべき偉人とされ賞賛された。 |
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また、[[陸軍|陸]][[海軍]]を問わず日本軍の航空部隊は、[[操縦士|操縦者]]や機体が被弾し、どうしても帰還が不可能となった場合は「敵機・敵施設・敵地上軍・敵艦に突入し自爆」「背面宙返りで地上や海上に自爆」が常態であった。前者としては、[[真珠湾攻撃]]時に被弾した[[大日本帝国海軍|海軍]]の[[戦闘機]]操縦者([[飯田房太]]海軍[[大尉]])が[[アメリカ軍|米軍]]格納庫に突入しており、後者としては[[ビルマ航空戦]]の[[ベンガル湾]]上空において、[[爆撃機]]迎撃時に被弾し海上に自爆し、戦死後は生前の功績も含め、[[軍神]]として崇められた[[加藤建夫]]陸軍[[少将]](死後昇進)が有名な事例として挙げられる(両人とも被弾後に不時着ないし[[落下傘]]にて脱出する事は可能だった)。<ref>しかし、あくまでこれらは遠隔地や敵地上空に於いてのやむを得ない場合であり、内地での日本本土防空戦時は勿論、外地でも自軍占領地に近い場所での墜落時は、何とか帰還するようにと推奨されていた。未帰還時には僚機の報告を元に捜索隊が派遣されたり、操縦者が原住民とコンタクトを取り、飛行場まで案内を頼むといった事は決して珍しい事ではなかった。</ref> |
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日本の戦線が後退する[[1943年]]以降は、撤退できないで孤立した部隊が自らの戦いを終わらせるため、しばしば「[[バンザイ突撃]]」([[万歳]]と叫びながら突撃することから米兵が名付けた)のような決死的な[[肉弾攻撃]]を実行した。[[神風特別攻撃隊]]や対戦車肉弾攻撃のように作戦そのものが未帰還や[[自爆]]を前提としていたものもあり、これらを米軍は「自殺攻撃(Suicide Attack)」と名付けた。また、激戦地となった[[沖縄県]]や、満洲などの[[外地]]では、軍人のみならず多くの市民が[[集団自決]]に追い込まれており、その数は現在でも不明である。 |
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敗戦時や大戦最末期には、軍の上層部の人間から、この責任を取るため自決を選んだ人間が多く出た。有名な「一死以テ大罪ヲ謝シ奉ル」との遺書を残し[[介錯]]無しで割腹自決した[[陸軍大臣]][[阿南惟幾]]陸軍[[大将]]や、「沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」と打電し拳銃自決した[[大田実]]海軍[[中将]]らが後世に名を残す一方、本来なら責任(自決)を取るべきところ、自決せずに自分だけ生きながらえた[[花谷正]]や[[牟田口廉也]]、[[福留繁]]などが部下や世間からの批判にさらされた。戦陣訓の制定者である[[東條英機]]は自決に失敗し、世論の嘲笑を浴びた。また、[[安達二十三]]陸軍中将や[[今村均]]陸軍大将の様に、戦後連合軍により[[戦犯]]に指定され[[収容所]]にて服役中に自決、自決未遂した者も多い。その他、太平洋戦争開戦時の[[海軍大臣]]だった[[嶋田繁太郎]]は「[[ポツダム宣言]]を忠実に履行せよとの聖旨に沿う為」自決を見合わせている。 |
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{{Main2|個々の人物とその評価についてはリンク先を}} |
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=== 「自殺」という語の歴史 === |
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「自殺(英語ではsuicide)」という言葉自体の歴史は比較的浅い。『[[オックスフォード英語辞典]]』によると[[1651年]]、ウォーター・チャールトンの「自殺によって逃れることの出来ない災難から自己を救うことは罪ではない」という文が初出とされるが、他にも[[1662年]]、[[1635年]]という説もあり、いずれにしても[[17世紀]]からが[[定説]]とされる。それ以前には自己を殺す、死を手にする、自分自身を自由にする、などの表現があったが一言でまとまってはいない。このようなブレの起こっていた説明として米国自殺学会のエドウィン・S・シュナイドマン([[:en:Edwin Shneidman]])は「[[魂]]と[[来世]]という思想を捨て去ることが出来たとき、その時初めて、人間にとって自殺が可能になった」[[観念]]の変化が反映していると指摘する<ref>E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』白井徳満・白井幸子訳、誠信書房、1993年、12~23項</ref>。来世や魂の[[不死]]といったことを信じたとき、死は単なる終わりではなく別の形で「生き続ける」という存在の形態を移したものに過ぎなくなるからである。近現代へ至る[[死生観]]の変化には、科学技術の発展により宗教的思考が説得力を持たなくなったことが背景にある。このように自殺の問題は「'''死'''」をどう捉えるかという事と不可分の関係にあり、文化や時代によって様々な様相を呈する。 |
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=== 自殺研究の歴史 === |
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自殺に関する文献は古来より数多く認められるが、19世紀中葉より西欧で当時増大をみせていた自殺に対して統計学的手法が適用されるに至り、ようやく自殺の社会的要因をめぐる研究がみられるようになった。なかでも1879年にイタリアのモルセッリが著した『自殺』では、1)ゲルマン型(変種としてドイツ人、スカンディナヴィア人、アングロサクソン人、フラマン人を含む)、2)ケルト-ローマ型(ベルギー人、フランス人、イタリア人、スペイン人)、3)スラヴ型、4)ウラル-アルタイ型(ハンガリー人、フィンランド人、ロシアの若干の地方)といった人種的類型が設定されながらも、性別や年齢、職業、信仰、居住特性、経済状況等の要因が自殺に影響していることが認められている。 |
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とはいえ、[[エミール・デュルケーム]]の研究が現れるまでは、自殺を身体的、精神的病理の現れとする見方が支配的であった。これに対してデュルケームは、1897年の[[エミール・デュルケーム#『自殺論』|『自殺論』]]において、モルセッリやワーグナーの研究成果を参照しながらも、精神病理や人種・遺伝、気候、[[模倣]]によっては自殺の現象が完全には説明できないことを統計的に明らかにし、「それぞれの社会は、ある一定数の自殺をひきおこす傾向をそなえている」として、社会ないし集団の条件と結びついて生じる自殺傾向を社会学の研究対象として位置づけた。つまり、一定範囲内の自殺の発生は「正常な」社会現象だというのである。 |
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こうしてデュルケムは、近代社会における(社会的紐帯の弱化による)「自己本位的自殺」、(欲望の際限なき拡大がもたらす苦痛による)「アノミー的自殺」の2タイプを定式化するとともに、伝統的社会における「集団本位的自殺」、極限状況における「宿命的自殺」を析出し、計4類型を設定した。今日でも、たとえば、ソ連崩壊後の東欧における自殺率上昇の要因として、このデュルケムの発想が引き合いに出されることがある。 |
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デュルケームに続き別の面から重要な考察を行ったのは[[フロイト]]である。彼は長らく人間の[[心理]]を「生の欲動([[リビドー]]または[[エロス]])」で説明しようとしたが、晩年近くになり説明できない破壊衝動を見出し、後にそれを「死の欲動([[デストルドー]]、または[[タナトス]])」と名付けた。彼は生を「生の欲動」と「死の欲動」との闘争、さらには愛憎混じった感情の転移であるなどの思索をしたが、誤りを含んでいるという指摘が強い。しかしながら自殺者の心理剖検に対し一定の貢献があったと[[臨床]]の現場では受け止められていることもある<ref>この臨床例は、熊倉伸宏『死の欲動―臨床人間学ノート』新興医学出版社、2000年 ISBN 4-88002-423-6 などに詳しい。</ref>。 |
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== 自殺と文化 == |
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=== 宗教と自殺 === |
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{{main|宗教と自殺}} |
{{main|宗教と自殺}} |
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一部の宗教において、ある種の死によって魂が救われる、と教祖的立場の人間が説く場合に発生することがある。[[自爆テロ]]や[[即身仏]]、[[生贄]]などの事例があり、こうした死が[[殉教]]と見なされる場合もある |
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<ref> |
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例えば次を参照。 |
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{{cite web |
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|url = http://www.yomiuri.co.jp/feature/fe4500/news/20060429id22.htm |
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|title = ザワヒリ容疑者「殉教作戦800件」ビデオ声明で成果 - YOMIURI ONLINE |
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|accessdate = 14 March 2009 |
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}} |
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</ref> |
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。なお[[キリスト教]]など教義によって自殺が禁じられている宗教においては、自殺は[[殉教]]等とは看做されない。イスラームやキリスト教徒の死者が自殺した者の場合、教会での[[葬儀]]すら行われない場合もある。 |
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==== 概要 ==== |
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イスラームでは、自殺した者は地獄へ行くとされている。その根拠として最も重要なものとされるのはクルアーンの『婦人章』第29・30節である。ここでは「あなたがた自身を、殺し(たり害し)てはならない」と明確な禁止の啓示が下されており、さらに「もし敵意や悪意でこれをする者あれば、やがてわれは、かれらを業火に投げ込むであろう」と続けて、自殺が地獄へと通じる道であることを示している。自爆テロもこの範囲に入るものである。したがって、イスラームの正当な考え方によれば、自分の死(自殺)と共に罪のない一般人を道連れにすることは許されるものではない。イスラームが許す戦争は、あくまでも防衛のためであり、死ぬことや殺すことが目的ではない。守るべきもの(命、財産、信仰)を防衛する段階で、敵によって殺されたら殉教者になる。敵を殺す目的のために、自分を自分の手で殺すことによって殉教者にはなることはできないのである。 |
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[[キリスト教]]など教義によって自殺が禁じられている宗教においては、自殺は[[殉教]]等とは看做されない。イスラームやキリスト教徒の死者が自殺した者の場合、教会での[[葬儀]]すら行われない場合もある。 |
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==== 安楽死・尊厳死 ==== |
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{{main|1=安楽死|2=尊厳死}} |
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末期のがんや病気などで多大な苦痛を伴い死が目前と差し迫っている患者は、[[アメリカ]]、[[オランダ]]、[[スイス]]などの国々では薬物投与などにより苦痛を伴なわずに死を選択する事が出来る安楽死が法律で認められている。 |
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[[ユダヤ教]]、[[キリスト教]]、[[イスラーム]]、すなわち[[アブラハムの宗教]]、ならびに[[儒教]]では、自殺は宗教的に禁止されている。そのため、欧米やイスラーム諸国では自殺は犯罪と考えられ、自殺者には[[葬式]]が行われないなどの社会的な制約が課せられていた。カトリック洗礼を受けていた[[細川ガラシャ]]は武士の妻として自害すべきだったがこれ故出来ず、家臣に胸を槍で突かせた。かつては、教会の墓地に埋葬することも許されなかった。ドイツの哲学者・[[ショーペンハウエル]]は『自殺について』のなかで、キリスト教の聖書の中に自殺を禁止している文言はなく、原理主義的に言えば、自殺を禁じているわけではないため、不当に貶められた自殺者の名誉を回復するべきだと指摘している。 |
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尊厳死は無用な延命治療を拒み、患者の尊厳が損なわれるのを避けるという理念であり、[[1994年]]には[[日本学術会議]]は、[[尊厳死]]容認のために、 |
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# 医学的にみて、患者が回復不能の状態に陥っていること。 |
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# 意思能力のある状態で、患者が尊厳死の希望を明らかにしているか、患者の意思を確認できない場合、近親者など信頼しうる人の証言に基づくこと。 |
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# 延命医療中止は、担当医が行うこと。 |
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以上の3つを条件としてあげている。 |
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文化によっては自殺に類するものが推奨される場合もある。[[ヒンドゥー教]]には、夫が死ねば妻も焼身自殺するという、寡婦[[殉死]]([[サティー (ヒンドゥー教)|サティー]])の風習があった。[[マヤ文明]]では、一般に[[死]]をつかさどる[[神]]「[[ア・プチ]]」のほかに絞首台の[[女神]]「[[イシュタム]]」がいて、自殺者の[[魂]]を死後の楽園へ導くとされた。 |
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===== 病院内の自殺 ===== |
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米国の独立系・非営利組織の医療施設評価認証機構である「ジョイント・コミッション」の医療事故報告制度の中では、病院内での重大な[[医療事故]]の最多のものは、自殺であるという。 |
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==== キリスト教 ==== |
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[[日本医療機能評価機構]]による調査では、調査の3年間に29%の一般病院(精神科病床なし)で自殺が起こっている。その自殺者の入院理由となる疾患は、35%が[[悪性腫瘍]](ガン)である。 |
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キリスト教で自殺に対する否定的道徳評価が始まったのは、聖書に基づくものではなく4世紀の聖[[アウグスティヌス]]の時代とされる。当時は殉教者が多数にのぼり、信者の死を止めるために何らかの手を打たねばならなくなっていた。また10人に1人死ぬ者を定めるという「デシメーション」と呼ばれる習慣のあったことをアウグスティヌスは問題にした。[[693年]]にはトレド会議において自殺者を破門するという宣言がなされ、のちに聖[[トマス・アクィナス]]が自殺を生と死を司る神の権限を侵す罪であると述べるに至って、すでに広まっていた罪の観念はほぼ動かし難いものになった<ref>E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』誠信書房、1993年、44, 45項</ref>。 |
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== 自殺者の背景と自殺の理由 == |
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=== 自殺の理由 === |
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初めて社会的な要因からの自殺の研究を発表したのは、[[エミール・デュルケーム]]の『[[エミール・デュルケーム#自殺論|自殺論]]』である。自殺を罪という側面からしか見ることがなかったキリスト教的価値観とは一線を画すものであった。 |
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==== 仏教 ==== |
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自殺の動機となる要因として、 |
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# 社会要因 |
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# 個人環境要因 |
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# 個人要因 |
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# 医学的要因 |
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# 生物学的要因 |
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が挙げられている。基礎にこれらの要因が存在するところに、何らかの誘因が加わって、自殺が実行される。 |
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[[仏教]]では自殺を「じせつ」と読む。死は永遠ではなく[[輪廻]]・[[転生]]により[[生]]とは隔て難いものであるが、これらは死生観を説いたものであり、現代の一般的な自殺の理由にはなりえない。一般的には、[[殺生]]は[[十悪]]の一つに数え、[[波羅夷罪]](はらいざい)を犯すものであるとして、[[五戒]]の1つであるため、自殺もそれに抵触するとして禁じられている。ただし、病気などで死期が近い人が、病に苦しみ自らの存在が僧団の他の[[比丘]]([[僧侶]])に大きな迷惑をかけると自覚して、その結果、自発的に[[断食]]などにより死へ向う行為は自殺ではないとされる(『善見律』11など)。また[[仏]]や[[菩薩]]などが他者のために自らの身体を捨てる行為は、捨身(しゃしん)といい、これは最高の[[布施]]であるとして自殺とは捉えない。 |
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社会要因については、デュルケームが、『自殺論』の中でさらに4つの要因に類型化している。 |
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{{main|エミール・デュルケーム}} |
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したがって、かつての日本で行われた、焼身往生や[[補陀落渡海]]など、宗教的な理由から自らの命を絶つ場合や[[入定]]ミイラ(即身仏)や行人塚のように人々の幸福のために自ら命を絶つ場合もあったが、この場合は自殺と見られることはなかった。 |
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男女平等を徹底した旧ソ連圏を見ると、男女の役割を無視し、性差を否定した結果、又は女性の社会進出が自殺率の上昇を招く遠因となっているのではないかとする説もある。 |
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文化的に推奨される場合には、社会的圧力によって自殺が強要される場合もある。[[チェコ]]の[[ヤン・パラフ]]や、[[フランス]]における[[イラン]]人焼身自殺などである。また「抗議の意思を伝える政治的主張のため」とする自殺が行われる場合がある。これは後述の「焼身自殺」の項でも述べる。 |
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デュルケームに続き別の面から重要な考察を行ったのは[[フロイト]]である。彼は長らく人間の[[心理]]を「生の欲動([[リビドー]]または[[エロス]]」で説明しようとしたが、晩年近くになり説明できない破壊衝動を見出し、後にそれを「死の欲動([[デストルドー]]、または[[タナトス]])」と名付けた。彼は生を「生の欲動」と「死の欲動」との闘争、さらには愛憎混じった感情の転移であるなどの思索をしたが、誤りを含んでいるという指摘が強い。しかしながら自殺者の心理剖検に対し一定の貢献があったと[[臨床]]の現場では受け止められていることもある<ref>この臨床例は、熊倉伸宏『死の欲動―臨床人間学ノート』新興医学出版社、2000年 ISBN 4-88002-423-6 などに詳しい。</ref>。 |
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==== イスラム教 ==== |
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[[政治]]的にその混乱と困窮の度合いがあまりにも高い場合([[戦争]]など)では、自殺はあまり見られないとされる。生きること自体にまず最大の関心が向けられているからである。また、経済的に拡大途上にあり、様々なチャンスの多い国でも少ない。自殺が多いのは、元は経済的に豊かであったのが、[[不況]]になり[[失業]]や就職難が深刻になった、あるいは他人の[[幸福]]を目の当たりにしながら、自分だけがそれに手を伸ばすことができないといった絶望的な状況にあるなどの国々である{{要出典}}<!--日本よりも貧富の差が大きい国々の自殺率は日本より高いのだろうか?-->。前者は[[バブル崩壊]]後の日本、後者は[[ハンガリー]]など元東側諸国の国々などが例として挙げられる。 |
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イスラームでは、自殺した者は地獄へ行くとされている。その根拠として最も重要なものとされるのはクルアーンの『婦人章』第29・30節である。ここでは「あなたがた自身を、殺し(たり害し)てはならない」と明確な禁止の啓示が下されており、さらに「もし敵意や悪意でこれをする者あれば、やがてわれは、かれらを業火に投げ込むであろう」と続けて、自殺が地獄へと通じる道であることを示している。自爆テロもこの範囲に入るものである。したがって、イスラームの正当な考え方によれば、自分の死(自殺)と共に罪のない一般人を道連れにすることは許されるものではない。イスラームが許す戦争は、あくまでも防衛のためであり、死ぬことや殺すことが目的ではない。守るべきもの(命、財産、信仰)を防衛する段階で、敵によって殺されたら殉教者になる。敵を殺す目的のために、自分を自分の手で殺すことによって殉教者にはなることはできないのである。 |
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こうした国の[[経済]]、[[社会]]、[[文化]]、[[宗教]]などでの違いは見られているものの、自殺の大きな要因として近年あげられるのは、[[うつ病]]などの[[精神疾患]]との因果関係である。現に、警視庁による発表ではうつ病による自殺が27.6%と最も多い。自殺既遂者の95%は何らかの[[精神疾患]]を患っていて、その大半が治療可能だったという研究結果もある<ref>トーマス・E・エリス, コリー・F・ニューマン(著), 高橋祥友(訳), 自殺予防の認知療法―もう一度生きる力を取り戻してみよう, 日本評論社, 2005, p. 16.</ref>。これらは慢性に経過するものから、強い[[ストレス (生体)|ストレス]]によって急激に発生するものまであり、自殺者や自殺志願者に対応する際、心得なければならない疾患の一つとしてしばしば注目される。 |
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現代の[[イスラム原理主義]]者による[[自爆テロ]]にもそのような主張がなされることがあるが、強要・洗脳・煽動・追込み、そして、最も根本的には「同情を向けるための戦術」という面があり、さらには自殺と同時に[[殺人]]が行われることになるので、犯罪性が強い。多数派のイスラムの教義解釈によれば、敵の戦闘員に対しての自爆はジハードとして[[天国]]に行けるが、民間人に対しての[[自爆テロ]]は自殺として永遠の滅びの刑罰が与えられるとされている。もちろん、イスラム過激派による米国やイスラエルに対する卑劣なテロ行為は厳しく批判されなければならない。しかしながら、現在のイスラーム諸国においては、様々な経済的な困難を抱えながらも国際的にみて極めて自殺率が低い傾向がある。それゆえ、我が国のイスラーム研究者は、イスラーム世界において自殺率が極めて低い社会文化的背景を研究し、我が国における自殺予防活動のために社会教育などを通して応用しうる可能性はあると思われる。 |
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このような精神的危機の背景には、激しい[[競争社会]]や、低い自己評価に起因するさまざまな否定的感情、家庭、職場での生活が困難など複数の要因がある。膨大な数の統計学的・疫学的研究は、文化(宗教・教育)と生活様式(都会暮らしか田舎暮らしか)と家族の状態(独身か既婚か)、社会的状況(失業者や囚人など)が自殺行為に重要な意味を持つことを明らかにしている<ref>「脳と性と能力」カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ(集英社新書)</ref>。 |
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=== 文学・芸術における自殺 === |
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[[ドラッグ]]や[[麻薬]]の広まっている地域では酩酊している状態で正常な判断能力を失っているうちに、ビルの上から飛び降りたり、自動車や列車に飛び込んで自殺をしてしまうこともある(この場合、自殺ではなく、[[事件]]や[[事故]]と取る場合もある)。例えば「[[夜回り先生]]」こと[[水谷修]]が麻薬・薬物を撲滅しようとするきっかけとなったのは、[[横浜市]]で定時制高校の教員を勤めていた頃、当時の生徒が[[シンナー]]で酩酊状態にあった時に[[ダンプカー]]に飛び込み、死亡したことであったという<ref>水谷修「夜回り先生」</ref>。 |
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自殺は、文学における重要なテーマの一つであり、主人公の自殺にいたる心理など、物語の終焉や筋の展開のなかで描かれることが少なくない。日本文学では、[[夏目漱石]]の『[[こヽろ]]』、[[井上靖]]『しろばんば』など。また、多くの著名な[[文学者]]が自殺を決行している([[北村透谷]]、[[川上眉山]]、[[有島武郎]]、[[芥川龍之介]]、[[牧野信一]]、[[太宰治]]、[[田中英光]]、[[原民喜]]、[[久坂葉子]]、[[火野葦平]]、[[三島由紀夫]]、[[川端康成]]、[[田宮虎彦]]、[[佐藤泰志]]、[[江藤淳]]、[[見沢知廉]]など)。 |
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国外の文学においてはドイツの作家[[ゲーテ]]の小説『[[若きウェルテルの悩み]]』が、自殺を主題とした作品として特に有名である。恋人との[[失恋]]に[[絶望]]し自殺した主人公を描き、その影響で模倣自殺する人が相次いだため[[発禁処分]]に処するところも出た事例がある。→[[ウェルテル効果]] |
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=== 自殺に関する法律 === |
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[[日本]]において、自殺自体は未遂を含め罪に問われない{{要出典}}。但し、[[自殺関与・同意殺人罪|自殺を幇助すること]]は処罰の対象となる。歴史的には、キリスト教文化圏において、自殺は大罪であった。 |
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重大な犯罪を起こして[[死刑]]を免れない状況に陥った貴人が公衆の前で処刑されるという屈辱を免じてその名誉を重んじさせる意味で自殺を強要されることがあった。[[律令制]]国家における[[皇族]]や高位者が死刑判決を受けた場合に自宅での自殺をもって代替にするのを許したことや、戦国時代から江戸時代初期にかけての日本における武士階級に対する切腹処分などがこれにあたる。[[賜死]]の形態を取ることも多く、洋の東西を問わず見られる現象であり、[[ルキウス・アンナエウス・セネカ]]などが知られる。諸説あるが、[[荀イク|荀彧]]も主君[[曹操]]に死を強要されたとの説がある。 |
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== 自殺に関する倫理観と社会学的考察 == |
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[[アメリカ合衆国]]で自殺を罪と定めている州は[[アラバマ州]]と[[オクラホマ州]]だけであるが、実際に犯した人を処罰するのは現実的には不可能なことなので罰則はない。いくつかの州では自殺未遂も[[軽犯罪法]]に触れるが実際に罰を受けることは滅多にない。30の州においては自殺ないし自殺未遂はいかなる罪にも問われていない。しかし、全ての州で一致している点があり、自殺を唆したり勧める行為は例外なく重い罪に問われる<ref>E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』59項、1993年</ref>。 |
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なお、自殺を「加害者と被害者が同一人物である殺人」と理解される場合、自殺は「犯罪」であるという法的根拠と成る。 |
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{{出典の明記}} |
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[[オランダ]]においては、[[2000年]]に安楽死が合法化された。ただし、死期が近く、堪え難い肉体的苦痛があり、治療の方法がない等の厳格な要件が付与されている。 |
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=== 自殺に関する倫理観と社会学的考察 === |
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元々「自殺」を否定する倫理観は、「[[既得権]]益を持つ者が[[税金]]などを取るために生まれた[[倫理]]観」と推定されている。実際に、過去の税制などを調査してみると、最初に生まれた税制は「[[労働者]]の家族の人数で、税を納める」方式で生まれている([[人頭税]])。そのため、「どれだけ苦しい[[ストレス (生体)|ストレス]]を受けようとも生きなければならない」という既得権益者には有利な方式で倫理観として流布されたものであると推定できるからである。 |
元々「自殺」を否定する倫理観は、「[[既得権]]益を持つ者が[[税金]]などを取るために生まれた[[倫理]]観」と推定されている。実際に、過去の税制などを調査してみると、最初に生まれた税制は「[[労働者]]の家族の人数で、税を納める」方式で生まれている([[人頭税]])。そのため、「どれだけ苦しい[[ストレス (生体)|ストレス]]を受けようとも生きなければならない」という既得権益者には有利な方式で倫理観として流布されたものであると推定できるからである。 |
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[[うつ病|仮面うつ病]]などにより、本人の意思とは無関係に飛び込んでしまうというパターンも多い。 |
[[うつ病|仮面うつ病]]などにより、本人の意思とは無関係に飛び込んでしまうというパターンも多い。 |
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鉄道への飛び込みは多くの利用客に影響を与えるほか、[[鉄道事業者]]も多大な経済的損失を被る。車両の破損等の直接的被害もあるが、より重大な損失として[[振替輸送]]や遅延による特急料金の払戻し等の間接的被害が遥かに大きい。また、私鉄の場合、本線の主要駅で発生した場合は全線にわたって不通となる場合もある。 |
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このことから、鉄道への飛び込みは社会問題の一つになっている。例えば、[[2005年]][[6月]]の[[山手線]]車両に男性が飛び込んだ時は、45分間にわたって運行が停止し、利用客約11万人に影響があった。<!--[[東日本旅客鉄道|JR東日本]]が受けた被害総額は数億円と推定されている<ref>http://www.dlareme.org/archives/000078.html</ref>。--> |
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被害金額が非常に大きい鉄道会社側であるが、数千万円、時には億単位の損害賠償が行われる事は現代においてはほぼない。これは数千万、数億という損害賠償を支払う能力のある遺族が非常に少ない事、もしも損害賠償を請求しても、相続を放棄すれば遺族には支払い義務がない事、また家族が自殺した遺族に対して多額の損害賠償を求める事による鉄道会社のイメージ悪化を懸念しているといわれる。また、鉄道会社としては運送契約内で、遅延等によって生じた損害は補償しないと定めており、実際に切符の払い戻しが行われる程列車が遅れるのは極めて稀であることから、列車が脱線した等の事態がない限りは実際に生じた損害が数億単位となることは稀である。 |
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以上のように、鉄道会社側として巨額の損害賠償を求める事はほぼ皆無であり、実際の賠償請求額は百万円にも満たない。[http://www.j-cast.com/2008/08/14025166.html?p=2] |
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ホームの安全対策は鉄道会社側も、酔っ払客等が線路に転落することなども含め、転落防止目的で[[ホームドア]]の設置等の対策を取る場合もあるが、既存路線への追加設置は進んでいない(詳しくは[[ホームドア]]の項を参照)。自殺志願者であれば柵のない所に行ったり柵を乗り越えて飛び込むことが予想され、事故で転落する人は止められても、自殺者をホームドアで止めるのは難しい。一方で、[[東京地下鉄南北線|東京メトロ南北線]]や新交通システムなどで見られる全面ガラス張りのホームドアは、軌道への侵入が出来ないため有効的であるが、直線の駅以外では車掌の乗降時の安全確認の業務をさまたげたり、柵と列車の間に挟まれる事故が予想されるなどの難点も多い。この為、心理学者の意見を入れて大きな鏡を設置する、発車ベルを音楽に変える。また、緊急停止ボタンを設置するなど努力も為されるが、効果は不明である。 |
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なお、JRになり駅員のホーム常駐時より無人化されてから自殺者が増加した駅はあるが、国鉄時代とJR時代では社会的背景も違い一概には比較できない。しかし、東京のJR中央線でホームからの飛び込み自殺が相次いだ時は、ホームにガードマンを臨時配置したところ、一時的に自殺者がなくなったという報道がある。また、JRの一部の駅では、防犯その他の目的で警備員を配置する動きもある。 |
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=== 刃物による失血死 === |
=== 刃物による失血死 === |
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自らの体に[[ガソリン]]や[[灯油]]などの燃料をかけ、それに火をつけて行う自殺である。かつては油のしみこんだ蓑に火をつけて殺すなどの拷問的な火刑の一つに採用された方法である。燃えるのは主に気化した燃料である。燃料は体温で気化し、引火後は燃焼で気化し燃焼を続け体を焼く。液体の燃料を体にかけると、厳冬期でも体の体温で気化し引火性のガスが被覆の間に充満し、僅かな火気や静電気に対しても非常に危険な状態になる。灯油などの着火点の低い燃料も体温による気化ガスが発生するので床に流れた灯油とは比較にならない引火性をもつ。ここで点火もしくは引火し着火すれば、一瞬で全身が火だるまになる。燃料がごく少量でも化繊の被覆ならばとけて燃え燃料とともに体を損傷する。肌を濡らすほどの燃料に引火すると、仮に消火に成功しても大きな障害がのこる。燃焼中も自らの皮膚が白く変色し硬化し激痛を感じる。広範囲な[[熱傷]]、[[気道]]熱傷を伴い死にいたることも多いが、即死に至る場合は少なく、死に至るまでの期間も比較的長いことが多く、呼吸不全、全身の火傷による激痛により苦痛は長く激しい。また、救命される例も多いが、急性期には集中治療を要し、その後も何度にもわたる激痛を伴う[[植皮|植皮手術]]を行う必要があり、その治療には長期を要する。回復後も四肢機能の低下や美容的問題などの後遺症を残すことが多い。 |
自らの体に[[ガソリン]]や[[灯油]]などの燃料をかけ、それに火をつけて行う自殺である。かつては油のしみこんだ蓑に火をつけて殺すなどの拷問的な火刑の一つに採用された方法である。燃えるのは主に気化した燃料である。燃料は体温で気化し、引火後は燃焼で気化し燃焼を続け体を焼く。液体の燃料を体にかけると、厳冬期でも体の体温で気化し引火性のガスが被覆の間に充満し、僅かな火気や静電気に対しても非常に危険な状態になる。灯油などの着火点の低い燃料も体温による気化ガスが発生するので床に流れた灯油とは比較にならない引火性をもつ。ここで点火もしくは引火し着火すれば、一瞬で全身が火だるまになる。燃料がごく少量でも化繊の被覆ならばとけて燃え燃料とともに体を損傷する。肌を濡らすほどの燃料に引火すると、仮に消火に成功しても大きな障害がのこる。燃焼中も自らの皮膚が白く変色し硬化し激痛を感じる。広範囲な[[熱傷]]、[[気道]]熱傷を伴い死にいたることも多いが、即死に至る場合は少なく、死に至るまでの期間も比較的長いことが多く、呼吸不全、全身の火傷による激痛により苦痛は長く激しい。また、救命される例も多いが、急性期には集中治療を要し、その後も何度にもわたる激痛を伴う[[植皮|植皮手術]]を行う必要があり、その治療には長期を要する。回復後も四肢機能の低下や美容的問題などの後遺症を残すことが多い。 |
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焼身自殺は、死そのものよりも見る者へ与えるインパクトの強さを狙った、過激な宣伝・抗議手段の1つとして行われる場合もある。例えば、[[大韓民国|韓国]]の[[反日デモ]]において焼身自殺を図った男性や<ref>「反日デモ抗議 大阪の中国総領事館前で焼身自殺図る?」([[エキサイト]]ニュース)</ref>、[[ベトナム戦争]]当時の南ベトナム政権による[[仏教]]徒弾圧に対する抗議のためにビデオカメラの前で焼身自殺した[[ティック・クアン・ドック]](釋廣德)師、彼を範にしてベトナム戦争抗議の焼身自殺を遂げた[[由比忠之進]]、[[アリス・ハーズ]]などが知られている。[[左翼思想]]を持つ[[ロックバンド]]、[[レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン]]の初アルバムには炎に包まれるティック・クアン・ドックの写真が載せられている。<ref>レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの[http://www.ratm.com/new2/sound/minis/ragealbum1.gif アルバム画像]</ref> |
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=== 感電 === |
=== 感電 === |
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=== 銃による自殺 === |
=== 銃による自殺 === |
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<!-- Vidi [[WP:V]] and [[WP:NOR]][[銃]]が身近にある場合、即座に自殺を決行でき、殺傷力も申し分ないため、よく使用される。--> |
<!-- Vidi [[WP:V]] and [[WP:NOR]][[銃]]が身近にある場合、即座に自殺を決行でき、殺傷力も申し分ないため、よく使用される。--> |
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[[ファイル:Edouard Manet 059.jpg|thumb|300px|[[エドゥアール・マネ]]の絵画『自殺』<br/>拳銃を右手に持っていることから銃自殺を描いたものと思われる]] |
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日本では[[銃]]は[[銃砲刀剣類所持等取締法|銃刀法]]によって厳しく取り締まりが行われているため、銃による自殺は極めて少なく、拳銃自殺にいたってはほとんどが[[警察官]]や[[自衛官]]、[[暴力団]]である。それに対して銃の所持に寛容な国では銃による自殺が多い<ref> [http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec07/ch102/ch102a.html メルクマニュアル家庭版,102章 自殺行動]</ref>。中でもアメリカは自殺手段の半分以上を銃が占める<ref>[http://www.suicide.org/suicide-statistics.html Suicide Statistics米自殺統計]</ref>。銃自体も100ドル程度から手に入り、[[弾丸]]も1 発20セントから買える<ref>http://www.thegunsource.com/store/</ref>。また、自衛の意識が強く、[[狩猟|狩り]]が盛んなため、多くの家庭に銃があり、スーパー等で手軽に弾薬も購入できる。アメリカ以外では、[[カナダ]]<ref>[http://www.statcan.ca/bsolc/english/bsolc?catno=11-008-X20020026349 SuicideDeathsAndAttempts(自殺とその試み)]</ref>、[[オーストラリア]]<ref>[http://www.abs.gov.au/AUSSTATS/abs@.nsf/Lookup/3309.0Main+Features12005?OpenDocument Suicides, Australia, 2005(オーストラリア統計局)]</ref>などの国々も、銃による自殺が多い。 |
日本では[[銃]]は[[銃砲刀剣類所持等取締法|銃刀法]]によって厳しく取り締まりが行われているため、銃による自殺は極めて少なく、拳銃自殺にいたってはほとんどが[[警察官]]や[[自衛官]]、[[暴力団]]である。それに対して銃の所持に寛容な国では銃による自殺が多い<ref> [http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec07/ch102/ch102a.html メルクマニュアル家庭版,102章 自殺行動]</ref>。中でもアメリカは自殺手段の半分以上を銃が占める<ref>[http://www.suicide.org/suicide-statistics.html Suicide Statistics米自殺統計]</ref>。銃自体も100ドル程度から手に入り、[[弾丸]]も1 発20セントから買える<ref>http://www.thegunsource.com/store/</ref>。また、自衛の意識が強く、[[狩猟|狩り]]が盛んなため、多くの家庭に銃があり、スーパー等で手軽に弾薬も購入できる。アメリカ以外では、[[カナダ]]<ref>[http://www.statcan.ca/bsolc/english/bsolc?catno=11-008-X20020026349 SuicideDeathsAndAttempts(自殺とその試み)]</ref>、[[オーストラリア]]<ref>[http://www.abs.gov.au/AUSSTATS/abs@.nsf/Lookup/3309.0Main+Features12005?OpenDocument Suicides, Australia, 2005(オーストラリア統計局)]</ref>などの国々も、銃による自殺が多い。 |
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*[[入定]]([[即身仏]])は食を断つことで意図的に[[栄養失調]]の状態に陥り[[餓死]]することである。死亡そのものを目的としたものではないが現在自殺とみなされ各宗教団体で禁止されている。 |
*[[入定]]([[即身仏]])は食を断つことで意図的に[[栄養失調]]の状態に陥り[[餓死]]することである。死亡そのものを目的としたものではないが現在自殺とみなされ各宗教団体で禁止されている。 |
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*[[クレオパトラ]]の[[コブラ]]による自殺説など動物を利用した自殺の例がある。 |
*[[クレオパトラ]]の[[コブラ]]による自殺説など動物を利用した自殺の例がある。 |
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== 日本における自殺 == |
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=== 歴史 === |
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日本においては、歴史的に自殺がひとつの文化として捉えられている<ref>“自害”に関して、欧米では「日本の女性の自殺文化」という誤解が生じているようである{{疑問点}}。</ref>。 |
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日本の文明が始まる頃から自殺は行われていたとされており、文字が書かれた頃から文献として多数自殺の記録が存在している。日本で最も古い自殺に関する伝承は、『[[古事記]]』の記述による[[ヤマトタケル]]の妃[[弟橘媛|弟橘比売命]](オトタチバナヒメノミコト)の伝承である。 |
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[[切腹]]・[[心中]]・[[特別攻撃隊|特攻]]・[[自爆]]・[[殉死]]など、自殺に准じる行為がそれぞれの時代、様々な状況で扱われている。特に特定条件下での自殺は美談として扱われた。前近代では[[室町幕府]]を開いた[[足利尊氏]]の祖父[[足利家時]]が[[八幡大菩薩]]に三代後の子孫に天下を取らせよと祈願した願文を残して自害したという伝説や、[[織田信長]]の傳役[[平手政秀]]が死をもって信長の行動を諌めたとされる事例などがある。近代においては[[明治天皇]][[崩御]]のおりに殉死した[[乃木希典]]夫妻が世論の称賛を浴びた。宗教的な要因による自殺としては、[[江戸時代]]の[[即身成仏]]などの例がある。 |
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明治以降は日本の自殺率は1936年まで20人前後と緩やかな上昇傾向にあったが、戦争の影響で減少し戦前戦後を通じ最低レベルとなった。国家総動員法(1938年制定)下で自殺どころでなかったと考えられる。 |
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その後、戦後の価値観の大きな転換や社会保障が整備されていなかったこともあり、高度成長が本格化するまでのあいだ(1950年代)日本の自殺率は1958年には10万人あたり25.7人と世界一となり、2008年現在に至るまで過去最高の数値を記録している。[[高度経済成長]]の時期は減少に転じた。1973年の[[オイルショック]]の頃から再び増加したが、1980年代後半からの[[バブル経済]]期には減少した。[[バブル崩壊]]後の1990年代後半に[[スウェーデン]]、[[ドイツ]]より低かった自殺率は急激に上昇した<ref>[http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2774.html 図録▽主要国の自殺率長期推移(1901~)]</ref>。 |
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==== 武士の自害 ==== |
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日本では戦場において本来相手側に武名をなさせないために、[[平安時代|平安]]より[[鎌倉時代|鎌倉]]、[[戦国時代 (日本)|戦国時代]]に至まで、敵に討ち取られるよりは自害することをよしとする風潮があった。『[[平家物語]]』の登場人物の最後は自殺で終わる者が多い。これは、自らの武名が誰かによって落ちること、つまり討ち取られることを恥としたからである。これらは現在でも国語の教科書に掲載され、日本の武家文化の一つとして継承されている。また死罪を自ら行う[[切腹]]は良く知られている。鎌倉以来[[武士]]は江戸時代初期までは主君に切腹を命じられても、従容として死につくのではなく、ある程度の抵抗を示した後に主君側に討ち取られる以外に選択肢がなくなってから自害することが「意気地」とされた。ところが、江戸時代も中期になると、従容として腹を切ることが「潔い」とされるようになる。これは一つには[[家系|家]]の存続が個人の武名以上に重要なものとされてきたためによるが、[[徳川家|徳川]]の文治政治の中で[[連座]]が緩和されたため、単独で責任をとれば家もしくは、家族などは存続を許されたからでもある。なお、女性の場合は切腹ではなく喉を短刀で突く。 |
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==== 江戸町民の心中 ==== |
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江戸時代、大坂や江戸を中心に心中自殺が庶民の間に流行した。これは[[近松門左衛門]]の『[[曾根崎心中]]』を代表とする「[[心中]]もの」の芝居や[[浄瑠璃]]が評判を呼んだ事による影響と考えられている。この世を憂き世として忌避し、[[あの世]]で結ばれるとして男女が自殺に及んだのである。これに対し、幕府は『心中禁止令』を出すとともに、心中死体や心中未遂者を3日間さらし者にした上で、未遂者は被差別階級に落とすという厳罰を実施している<ref>[[樋口清之]]著 『樋口博士のおもしろ雑学日本「意外」史』 三笠書房1989年 P218~219より</ref>しかしこの対応がかえって確実に死ぬことを覚悟させるだけで、心中防止に効果はなかったとされている。 |
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==== 昭和史の戦中における自決、特攻 ==== |
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{{see also|戦陣訓|集団自決}} |
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[[大正デモクラシー]]退潮後の日本では、軍部の影響力が増大し[[軍事国家|軍国]]化した。[[日本軍]]の間では、[[軍人]]は自決によって責任をとることを是とし、またそれは美徳だと考えられており、「生きて虜囚の辱めを受けず」の一文で有名な[[戦陣訓]]に象徴される、[[捕虜]]になることより潔い自決を名誉とする環境が醸成されていた。 |
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1941年に開戦した[[太平洋戦争]]では、[[終戦]]後を除き、組織的[[降伏]]を行わないという特異性を世界に見せつけた。日本軍人達は捕虜になるぐらいなら自決もしくは[[バンザイ突撃|自殺的な攻撃]]で命を断った。また前線の指揮官が無断撤退の責任を取るために自決を選ぶ、もしくは強いられることもあった。自決であれば、軍人[[軍属]]の場合は[[戦死]]扱いになり、不名誉でないとされた。またそれに呼応する様に、これらの思想は一般市民にも浸透しており、所謂名誉の自決をした軍人は[[新聞]]報道や[[ラジオ]]放送、[[ニュース映画]]や[[大本営発表]]を通し市民の目や耳に入り、立派な最期を遂げた尊敬すべき偉人とされ賞賛された。 |
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また、[[陸軍|陸]][[海軍]]を問わず日本軍の航空部隊は、[[操縦士|操縦者]]や機体が被弾し、どうしても帰還が不可能となった場合は「敵機・敵施設・敵地上軍・敵艦に突入し自爆」「背面宙返りで地上や海上に自爆」が常態であった。前者としては、[[真珠湾攻撃]]時に被弾した[[大日本帝国海軍|海軍]]の[[戦闘機]]操縦者([[飯田房太]]海軍[[大尉]])が[[アメリカ軍|米軍]]格納庫に突入しており、後者としては[[ビルマ航空戦]]の[[ベンガル湾]]上空において、[[爆撃機]]迎撃時に被弾し海上に自爆し、戦死後は生前の功績も含め、[[軍神]]として崇められた[[加藤建夫]]陸軍[[少将]](死後昇進)が有名な事例として挙げられる(両人とも被弾後に不時着ないし[[落下傘]]にて脱出する事は可能だった)。<ref>しかし、あくまでこれらは遠隔地や敵地上空に於いてのやむを得ない場合であり、内地での日本本土防空戦時は勿論、外地でも自軍占領地に近い場所での墜落時は、何とか帰還するようにと推奨されていた。未帰還時には僚機の報告を元に捜索隊が派遣されたり、操縦者が原住民とコンタクトを取り、飛行場まで案内を頼むといった事は決して珍しい事ではなかった。</ref> |
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日本の戦線が後退する[[1943年]]以降は、撤退できないで孤立した部隊が自らの戦いを終わらせるため、しばしば「[[バンザイ突撃]]」([[万歳]]と叫びながら突撃することから米兵が名付けた)のような決死的な[[肉弾攻撃]]を実行した。[[神風特別攻撃隊]]や対戦車肉弾攻撃のように作戦そのものが未帰還や[[自爆]]を前提としていたものもあり、これらを米軍は「自殺攻撃(Suicide Attack)」と名付けた。また、激戦地となった[[沖縄県]]や、満洲などの[[外地]]では、軍人のみならず多くの市民が[[集団自決]]に追い込まれており、その数は現在でも不明である。 |
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敗戦時や大戦最末期には、軍の上層部の人間から、この責任を取るため自決を選んだ人間が多く出た。有名な「一死以テ大罪ヲ謝シ奉ル」との遺書を残し[[介錯]]無しで割腹自決した[[陸軍大臣]][[阿南惟幾]]陸軍[[大将]]や、「沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」と打電し拳銃自決した[[大田実]]海軍[[中将]]らが後世に名を残す一方、本来なら責任(自決)を取るべきところ、自決せずに自分だけ生きながらえた[[花谷正]]や[[牟田口廉也]]、[[福留繁]]などが部下や世間からの批判にさらされた。戦陣訓の制定者である[[東條英機]]は自決に失敗し、世論の嘲笑を浴びた。また、[[安達二十三]]陸軍中将や[[今村均]]陸軍大将の様に、戦後連合軍により[[戦犯]]に指定され[[収容所]]にて服役中に自決、自決未遂した者も多い。その他、太平洋戦争開戦時の[[海軍大臣]]だった[[嶋田繁太郎]]は「[[ポツダム宣言]]を忠実に履行せよとの聖旨に沿う為」自決を見合わせている。 |
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{{Main2|個々の人物とその評価についてはリンク先を}} |
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=== 現代日本社会における自殺 === |
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[[1998年]]から自殺者数が3万人以上に増加した。それまで約2~2.5万人程度であった年間の自殺者数は、1998年を境に急増して3万人を超え、それ以降3万人超となっている(1日に換算すると平均およそ85~95人)<ref>[http://www.t-pec.co.jp/mental/2002-08-4.htm 参考資料:警察庁発表 自殺者数の統計]</ref>。自殺者の70%以上が男性だが、これは世界的な傾向と同様である。1998年以降、自殺者数が急増した要因も男性、特に中高年男性の自殺増加によるものであった。[[2003年]]には、年間自殺者数が3万4千人に達し、統計のある[[1897年]]以降で最大となった。自殺率も27.0と過去最大となった。 |
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自殺者数の動向については、過去にも1958年と1983年に一時的に増加する動きがあったが、1998年以降の自殺者数の増加については、過去のものとは動向が違い、経済・社会的な要因が影響している可能性があることが指摘されている<ref>詳細は「平成10年(1998年)以降の自殺死亡急増の概要」([[国立保健医療科学院]])を参照。</ref>。ちなみに、WHOの基準では変死の半分を自殺としてを精査しているが、日本の自殺の基準では変死は自殺者数には含まれていない<ref>詳細は「変死の原因の約半分は自殺」(自殺予防に関する調査結果報告書 104ページ目)を参照。</ref>。 |
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自殺者が多い曜日は[[月曜日]]である。これは[[サザエさん症候群]](ブルーマンデー症候群)の影響があると見られる。逆に少ない曜日は[[土曜日]]で、男女ともに同じ傾向である。また、月別では5月が一番多い<ref>月別については、「平成10年(1998年)以降の自殺死亡急増の概要」(国立保健医療科学院)を参照した。</ref>。 |
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年齢別に見ると、40代から60代前半にかけてが自殺率は最も高い<ref name="nenreibetsu">[http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2760.html 図録▽年齢別自殺率(男子)の長期推移と日米比較]</ref>([[2003年]]度)。40代から50代にかけては、経済的な理由などから生活苦に陥り、それがもとで自殺に追い込まれるケースが多い。そのために[[過労自殺]]を行うのもこの年齢層が多い。しかし60代以上になると経済的な理由よりも健康面での不安が自殺の理由になることが多い。 |
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割合としてはもっとも低い20歳未満の自殺では、他の年齢層と違って[[学校]]での問題が自殺の原因のトップになっているほか、[[思春期]]も重なるために失恋等男女問題も他の年齢層より大きな割合を占めている<ref name="nenreibetsu"/>。とりわけ学校での問題では、複雑化した学校での[[いじめ]]によるもの、親の叱責や暴力、教師による暴力的・精神的・性的な嫌がらせ、過度に自己中心的な親への疲れなど様々な理由がある。 |
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==== 地域差 ==== |
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内閣府の調べによると、[[秋田県]]の自殺率が1990年代半ばから毎年全国ワースト・ワンを記録し、注目を集めた。21世紀に入って秋田県では自殺予防のための様々な取組みが行われ、2003年の自殺者数は3年前に比べて27%減少したとされるが、[[2007年]]まで13年連続の全国一の自殺率であり、人口10万人当たり35.4人で全国平均の22.3人を大きく上回っていた。一方で警察庁のまとめによると秋田県の自殺率は37.2人と内閣府の調べより高かったものの14年ぶりに全国ワースト・ワンから脱出した。かわりにワースト・ワンになったのは39.0人の[[山梨県]]であり、原因として[[青木ヶ原|青木ヶ原樹海]]といった[[自殺の名所]]の存在や自殺対策への取り組みの遅れなどが指摘されている。 |
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一方、長らくワースト・ワンだった秋田県と同じ[[東北地方]]の[[青森県]]、[[岩手県]]、[[山形県]]、[[福島県]]や[[裏日本|日本海側]]の[[新潟県]]、[[富山県]]、[[島根県]]、[[山口県]]などでも自殺率が高い。これらは地域産業が衰えたことによる「経済面」と、病院の数が減少することにより病気になり、病苦によって鬱になるなどの「健康面」の2つが大きな理由に挙げられている<ref>[http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/7340.html 図録▽都道府県の自殺率]</ref>。また地域の保守性のため、規範からはずれた生き方を恥とする人が多いことも大きな要因だろう。たとえば富山県は生活保護率が日本で最も低く<ref>[http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/7347.html 図録▽都道府県別生活保護率]</ref>、新潟県は離婚率が日本で最も低い<ref>[http://www.pref.niigata.lg.jp/fukushihoken/1220551346311.html 新潟県ホームページ内『平成19年人口動態統計(概数)の概況を公表します!』]</ref>。 |
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また、特に日本海側では[[曇り|曇天]]と[[雪|降雪]]が続く[[冬]]に自殺が多発するとも言われる。こうした[[気候]]は生真面目で忍耐強いという<ref>八幡和郎著『図解雑学 性格がわかる!県民性』ナツメ社、2003年 ISBN 4-8163-3639-7 </ref>[[東北地方]]や日本海側の[[県民性]]を形成する要因となったと考えられるが、一方でその気候が人間心理に否定的な影響([[季節性情動障害|季節性感情障害または冬期性うつ病]])を与え、これらの症状が稀にではあっても強く出る人、悩みを抱える人を死へ走らせる要因になっているとも考えられる。<ref>秋田県作成「自殺予防マニュアル」より</ref> |
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==== 自殺の理由 ==== |
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若年層の学生については、イメージとしては[[入学試験]]や[[単位]]認定といった学業、[[就職活動]]や[[資格]]取得などの進路や、ちょうどこの時期に[[思春期]]を迎えるために[[失恋]]などが一般的に言われる。実際には、[[文部科学省]]の「生徒指導上の諸問題の現状について」によれば、2004年度については一番の原因は「厭世」で、以下「父母等の叱責」「精神障害」「進路問題」「学業問題」「恋愛」の順となっている。 |
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また、[[インターネット]]をきっかけとする自殺がある。一つは、インターネット上で知り合った者同士が一緒に自殺をするものである。これは、[[七輪]]と[[練炭]]を用いた[[一酸化炭素中毒]]死であること、初めてあった人物と死を選ぶことの奇異性などから[[マスメディア|マスコミ]]が大きく報道し、全国に知れ渡った。もう一つは、韓国においてすでに非常に深刻な社会問題となっているが、我が国においても韓国と同様に「2ちゃんねる」などインターネット上における卑劣な誹謗中傷等により苦痛を受けて自殺に及ぶ事例がある。これは、山梨県における女子高生の自殺未遂等の例である。 |
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中高年男性については、疾病等健康問題、経済的困難が多い。[[リストラ]]、無理な[[住宅ローン]]返済などが影響しているとの見方が強く、不況になるとリストラが増えることから指標として取り上げられることがある。 |
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他には、職場での人間関係、[[パワーハラスメント]]などによるものや、いわゆる[[サラ金]]からの過酷な債権回収が遠因とされるものも数多くあると考えられている。[[消費者金融]]業者の多くは顧客に貸金相当の生命保険をかけており、「生命を担保に金を貸す」顧客が死んでも貸金を回収できる(これについては、2006年に行われた[[貸金業規制法]]改正議論に関連して[[生命保険]]会社が非難され、生命保険会社各社は「債務者への生命保険は取り扱わない」というコメントを出した)。さらに、陰湿で執拗なストーカー行為を行い続けることにより、ストーカーされた者を精神的に「去勢」させるか死に追い込むまでストーカー行為を行い続ける者がいるため、我が国は早急かつ適切な対策を講じなければならない。 |
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さらに、現在の我が国における大学院においては、大学や研究機関もしくは民間企業などにおいて研究者として採用されるであろう人数よりもはるかに大量の大学院生が在籍していることが深刻な社会問題ととなっている。すなわち、博士課程を修了し博士号を取得しても、博士号取得者としてふさわしい研究職やそれ準じた仕事につくことが困難になっている。それ故に、博士課程の大学院生のうち約8%の者の進路は「不詳」とされており、「不詳」とされた者の全ての者がそうしたとは限らないが、少なからぬ者が就職難を原因として自殺に追い込まれている。 |
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==== 報道の功罪 ==== |
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1903年、一高生[[藤村操]]が「巌頭之感」を書いて投身自殺した時は[[哲学]]的煩悶での自殺として新聞・雑誌などのメディアに大きく取り上げられ、文学者の間では議論も戦わされた。1903年の事件では後追い自殺が相次いた。その後も1986年や1998年など、有名人の自殺及びその後の報道をきっかけとした後追い自殺が発生したケースは多い。 |
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1986年、1994年 - 1996年、2006年の時期は、子供の自殺についての報道が多かった。原因としては「学校におけるいじめ」が取りざたされた。また、これに関連して文部科学省が学校における「いじめの把握」が不十分であることが指摘された。 |
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<!--自殺者数はまだ確定ではない(2006/12/28時点)ため、書き換えさせてもらいました--> |
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いじめ自殺が相次いだ1995年12月には、[[横浜市]]のいじめ110番に自殺をほのめかす電話が殺到し、当時の横浜市長[[高秀秀信]]が緊急会見を開くなど現場は一時騒然となった。そしてそのわずか2ヵ月後には日本各地の新聞社や放送局にいじめ自殺の予告やテストや運動会を取りやめないと死ぬといった自殺予告の手紙が多数送られ、実際に試験日を延期する学校が相次いだ。そして10年後の2006年11月には中高生が文部科学省に自殺予告を送り、マスコミでも大きく取り上げられた。 |
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[[2007年]]前後から、硫化水素による自殺方法を、インターネットで情報を得て、実際に試みる人が多発しており、無関係な人間が巻き添えになる例も出ている。2008年4月に入ってからは一日1人、多い時は2人もこの自殺方法で命を落としておりマスコミでも大きく取り上げられた。 |
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==== 対策 ==== |
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現在の日本において、自殺は犯罪とはされていない。しかし、飛び込み自殺などにより第三者に被害が発生した場合などには、被疑者死亡で送検され、遺族に[[損害賠償]]が発生する可能性がある。また、他人の自殺に関与することは犯罪([[自殺関与・同意殺人罪|自殺関与罪]]、[[自殺幇助罪]])とされる。また、本人から依頼されて人を殺害すること([[同意殺]])は犯罪と扱われる。 |
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[[2005年]]7月、[[参議院]]厚生労働委員会で「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」がなされ、同年9月には第1回「自殺対策関係省庁連絡会議」が開催された。[[2006年]]10月28日には[[自殺対策基本法]]が施行されたが、行政における自殺防止対策は貧弱であり、窮地に立たされた人々に自殺を強いる文化・社会状態への対策が必要となる。 |
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自殺防止対策として、相談室の設置、カウンセラーの増強などの対策が取られているところがある。例えば[[静岡県]]では[[富士市]]をモデルにうつ病の観点から自殺防止に取り組み、大きな成果を挙げた。<ref>[http://www.chunichi.co.jp/article/living/health/CK2009101602000058.html]中日新聞2009年10月16日の記事</ref>。しかし、ほとんどはNPOによる自主活動またはボランティア任せあり、政府・行政側が全面的にバックアップをとっておらず<ref>例えば[[内閣府]][[男女共同参画]]局は女性の健康維持には熱心だが男性の自殺問題は事実上無視しているhttp://www.shisokan.jp/hansei-joseigaku/jisatsu-kakusa/ |
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</ref>、多くの相談室が人材・予算不足で苦境に立たされている<ref>[http://www.sanin-chuo.co.jp/news/modules/news/article.php?storyid=345059006 山陰中央新報]</ref>。また、政治家の認識も薄いとの指摘もある<ref>自殺者が年間3万人を超えた際、時の首相・[[小泉純一郎]]は「悲観することはない。頑張って欲しい」とコメントしたのみであった([[2004年]][[7月23日]])。また、ある政治家は自殺問題よりも[[高速道路]]料金引下げの方が有権者に喜ばれる政策だとも発言した。更に内閣府と厚生労働省のある幹部は男性の自殺対策より男性の育児休暇の取得に全力で取り組むべきだと発言した(中日新聞2010年5月16日記事)</ref>。 |
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=== 自殺に係わる経済的負担 === |
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==== 自殺後における遺族への損害請求 ==== |
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自殺の手法によっては、自殺者の[[財産]](消極財産としての[[債務]]が含まれる)につき[[相続権]]を有する遺族に対し[[損害賠償請求]]がなされる可能性がある。 |
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たとえば、もっとも被害額が大きくなりやすい列車への飛び込み自殺などの場合、列車の遅延、運休による損失及び振替輸送に掛かった運賃などが請求され得る。とくに額が大きくなるのは乗客へのタクシー代の支払いを必要とするケースであり、新幹線に飛び込んだ結果、遺族が1億4,000万円もの賠償を請求されたケースがある。普通電車の場合でも、ラッシュ時の場合は額が大きくなり、800万円を請求されたケースなどがある<ref name="amamiya2002">[[雨宮処凛]](2002)『自殺のコスト』太田出版</ref>。 |
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また観光地での自殺の場合、風評被害及び観光客の減少分の損失などについて請求がなされることがあり、賃貸物件内での自殺の場合、自殺者が遺した物品の処分費、賃貸物件の原状復帰費用及び新規賃貸契約者が現れるまでの期間の賃貸料などといった様々な費用につき自殺者の遺族に対し請求され得る。 |
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==== 自殺未遂による医療費自己負担 ==== |
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日本の[[健康保険]]では、原則として自殺未遂後の治療に生じる[[医療費]]は保険適用されず全額自己負担となる<ref>[[健康保険法]]、第4章第6節第116条による。</ref>。たとえば、飛び降り自殺の未遂の場合に多発性骨折などで入院治療を受けると、最初の2か月だけでも月500万円程度の医療費を負担しなければならない<ref name="amamiya2002" />。 |
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このために、自殺未遂した男が入院中に数百万単位の医療費負担を家族に背負わせ、その母親が心ならずも男を殺害した事件が発生したこともある<ref>[http://mainichi.jp/select/jiken/news/20100423ddm041040118000c.html 自殺未遂の長男殺害、67歳母に猶予判決 東京地裁「同情余地多い」]毎日新聞、2010年4月23日</ref>。 |
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ただし、精神の障害によって自殺行為の結果に対する認識能力のない精神病患者による未遂の場合は、例外的に保険給付される。 |
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=== 自衛官の自殺 === |
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2008年頃から、自衛官の自殺が政治問題化している。<ref>「自衛官の自殺 後絶たず 他省庁公務員の二倍 防衛省、ケアに苦慮」日経新聞2008年4月16日付夕刊</ref> |
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自衛官の自殺のうち特別の事情として「いじめ」の問題がある。 |
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遺族が初めて国家賠償請求を起こした、1999年(平成11年)11月に当時21歳の三等海曹の自殺(護衛艦「さわぎり」事件)についての原因も、上司の二等海曹による「ゲジ(スペードの2、役立たずの意味)」と呼ぶ、「海の上ではだれかいなくなってもわからない」その他の暴言の連続があったと遺族は裁判内で主張している(裁判では、事実は認定されたが、一審ではその意義について自衛官教育での範囲内とされた)。この事件を契機に自衛隊内でのメンタル・ヘルスが研究されるようになったとされるが、自殺者は自衛隊全体で事件後も減っていないうえ、2004年10月に護衛艦「たちかぜ」の当時21歳の一等海士が、いじめを告発する遺書を残して飛び込み自殺をし、事件をきっかけに、恐喝と暴行など「たちかぜ」艦内での刑事犯に発展した隊員への「いじめ」が発覚するなど「いじめ」と自殺の因果関係がクローズアップされる。[http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a168343.htm]。いじめに関しては、(防衛省として現在統計資料の有る)2003(平成15)年度から2006(平成18)年度までに『私的制裁』として92人、『傷害又は暴行脅迫』として291人の者に対して懲戒処分を行っている。 |
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その他、問題となる自殺に、陸上自衛隊の駐屯地内での武器の使用による自殺がある。これは、小銃(ライフル)を連射モードに切り替え、数発(1‐9発程度)を命中させて自殺する者が、実包を装填した銃器を携行して歩哨警備を行う火薬庫の警備時に多発している。2004年(平成16年)度以降、2008年8月まで5件の弾薬庫警備任務中の隊員による小銃を使用した自殺、自殺未遂事件が起きている。 |
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なお、2004年から2006年度は3年連続で、25万人の陸海空自衛官の内自殺と断定された自衛官の数は、毎年100人程度に達している(防衛省調)。2006年度に死亡した隊員は陸海空あわせて224人(陸自156人、海自35人、空自33人)。このうち自殺と認定された者は、97人(陸66人、海20人、空11人)で死亡理由の4割を超える。 |
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== 世界における自殺 == |
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=== 歴史 === |
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自殺の歴史は古く、紀元前の[[壁画]]などにもその絵や記述が残されているほどである。[[中国]]では、[[紀元前1100年]]ごろ[[殷]]王朝最後の[[帝]]である[[帝辛]](紂王)が[[周]]の[[武王 (周)|武王]]に敗れ、焼身自殺したと伝えられている。また、古代ギリシャの詩人[[サッポー]]は[[入水]]により自殺したという説があり、他にも[[エジプト]][[プトレマイオス朝]]最後の女王である[[クレオパトラ7世]]は[[アクティウムの海戦]]に敗北した際に、[[アウグストゥス|オクタウィアヌス]]に屈することを拒み、[[コブラ科|コブラ]]に自分の体を噛ませて自殺したと伝えられている。 |
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手法や原因は異なるが、社会的な凋落や[[絶望|絶望感]]が自殺の動機となりうることは、過去から現在に至るまで同じである。 |
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一方で、自殺は、社会的な制度として行われる事もある。宗教的な理由から[[生け贄]]として自害するなどである。 |
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=== 自殺方法の地域差 === |
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自殺の統計は、国によって分類や調査などに差があるため、単純な比較はできない。 |
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[[銃]]の所持が広く認められている国では、年齢を問わず銃による自殺が多い。例えば[[アメリカ合衆国]]における調査結果<ref>[http://www.imic.or.jp/mmwr/backnum/5322.html 財団法人国際医学情報センター 10~19歳の人々における自殺の方法]</ref>では、10代の小火器([[拳銃]]など)による自殺が全体の49%と、ほぼ半数を占めている。 |
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銃による自殺が多い理由にはその致死率の高さと手軽さが挙げられる。詳しくは[[#銃による自殺]]を参照。 |
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{{要出典範囲|[[中国]]では農薬が簡単に手に入ることから、農薬服毒による自殺が多い。|date=2008年9月}} |
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[[日本]]では、[[インターネット]]内で知り合った男女同士の自殺(いわゆる心中)などに代表されるように、一酸化炭素中毒型自殺などが社会問題となっている<ref>現在では、そこから発展する形での殺人請負や闇の職業安定所事件など、複雑かつ巧妙な犯罪寸前のサイトなどがあり問題を複雑にしている。</ref>。また、[[自殺の名所]]にも記載があるように、自殺者の大部分は三大都市圏に集中しているため、列車飛び込みなどが多い。 |
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=== 宗教によって裁かれる自殺 === |
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{{main|宗教と自殺}} |
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[[ユダヤ教]]、[[キリスト教]]、[[イスラーム]]、すなわち[[アブラハムの宗教]]、ならびに[[儒教]]では、自殺は宗教的に禁止されている。そのため、欧米やイスラーム諸国では自殺は犯罪と考えられ、自殺者には[[葬式]]が行われないなどの社会的な制約が課せられていた。カトリック洗礼を受けていた[[細川ガラシャ]]は武士の妻として自害すべきだったがこれ故出来ず、家臣に胸を槍で突かせた。かつては、教会の墓地に埋葬することも許されなかった。ドイツの哲学者・[[ショーペンハウエル]]は『自殺について』のなかで、キリスト教の聖書の中に自殺を禁止している文言はなく、原理主義的に言えば、自殺を禁じているわけではないため、不当に貶められた自殺者の名誉を回復するべきだと指摘している。 |
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キリスト教で自殺に対する否定的道徳評価が始まったのは、聖書に基づくものではなく4世紀の聖[[アウグスティヌス]]の時代とされる。当時は殉教者が多数にのぼり、信者の死を止めるために何らかの手を打たねばならなくなっていた。また10人に1人死ぬ者を定めるという「デシメーション」と呼ばれる習慣のあったことをアウグスティヌスは問題にした。[[693年]]にはトレド会議において自殺者を破門するという宣言がなされ、のちに聖[[トマス・アクィナス]]が自殺を生と死を司る神の権限を侵す罪であると述べるに至って、すでに広まっていた罪の観念はほぼ動かし難いものになった<ref>E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』誠信書房、1993年、44, 45項</ref>。 |
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しかし、文化によっては自殺に類するものが推奨される場合もある。[[ヒンドゥー教]]には、夫が死ねば妻も焼身自殺するという、寡婦[[殉死]]([[サティー (ヒンドゥー教)|サティー]])の風習があった。[[マヤ文明]]では、一般に[[死]]をつかさどる[[神]]「[[ア・プチ]]」のほかに絞首台の[[女神]]「[[イシュタム]]」がいて、自殺者の[[魂]]を死後の楽園へ導くとされた。 |
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[[仏教]]では自殺を「じせつ」と読む。死は永遠ではなく[[輪廻]]・[[転生]]により[[生]]とは隔て難いものであるが、これらは死生観を説いたものであり、現代の一般的な自殺の理由にはなりえない。一般的には、[[殺生]]は[[十悪]]の一つに数え、[[波羅夷罪]](はらいざい)を犯すものであるとして、[[五戒]]の1つであるため、自殺もそれに抵触するとして禁じられている。ただし、病気などで死期が近い人が、病に苦しみ自らの存在が僧団の他の[[比丘]]([[僧侶]])に大きな迷惑をかけると自覚して、その結果、自発的に[[断食]]などにより死へ向う行為は自殺ではないとされる(『善見律』11など)。また[[仏]]や[[菩薩]]などが他者のために自らの身体を捨てる行為は、捨身(しゃしん)といい、これは最高の[[布施]]であるとして自殺とは捉えない。 |
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したがって、かつての日本で行われた、焼身往生や[[補陀落渡海]]など、宗教的な理由から自らの命を絶つ場合や[[入定]]ミイラ(即身仏)や行人塚のように人々の幸福のために自ら命を絶つ場合もあったが、この場合は自殺と見られることはなかった。 |
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文化的に推奨される場合には、社会的圧力によって自殺が強要される場合もある。[[チェコ]]の[[ヤン・パラフ]]や、[[フランス]]における[[イラン]]人焼身自殺などである。また「抗議の意思を伝える政治的主張のため」とする自殺が行われる場合がある。これは後述の「焼身自殺」の項でも述べる。 |
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現代の[[イスラム原理主義]]者による[[自爆テロ]]にもそのような主張がなされることがあるが、強要・洗脳・煽動・追込み、そして、最も根本的には「同情を向けるための戦術」という面があり、さらには自殺と同時に[[殺人]]が行われることになるので、犯罪性が強い。多数派のイスラムの教義解釈によれば、敵の戦闘員に対しての自爆はジハードとして[[天国]]に行けるが、民間人に対しての[[自爆テロ]]は自殺として永遠の滅びの刑罰が与えられるとされている。もちろん、イスラム過激派による米国やイスラエルに対する卑劣なテロ行為は厳しく批判されなければならない。しかしながら、現在のイスラーム諸国においては、様々な経済的な困難を抱えながらも国際的にみて極めて自殺率が低い傾向がある。それゆえ、我が国のイスラーム研究者は、イスラーム世界において自殺率が極めて低い社会文化的背景を研究し、我が国における自殺予防活動のために社会教育などを通して応用しうる可能性はあると思われる。 |
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=== 世界の自殺者数 === |
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[[ファイル:Suicide rates map-en.svg|thumb|400px|世界の自殺率の分布]] |
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{{main|国の自殺率順リスト}} |
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'''自殺率'''(人口10万人あたりの自殺者数(WHO2009年))を見てみると、主要国[[G8]]諸国、[[経済協力開発機構|OECD]]加盟国、双方とも[[日本]]が1位となっている。なお、国別の自殺率でみると日本は4位で、日本以外の上位7カ国は[[ガイアナ]]を除けばすべて旧[[社会主義国]](旧ソ連)が占めている<ref>Unless otherwise stated all statistics are from WHO: {{cite web |url=http://www.who.int/mental_health/prevention/suicide/country_reports/en/index.html |title=Country reports and charts available |accessdate=2010-06-01 |work=WHO website - Mental health |publisher=World Health Organization |date=2009}}</ref>。 |
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=== 世界の自殺未遂者数 === |
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世界の自殺未遂者については、規模等正確な状況は分かっていない。 |
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[[ニュージーランド]]では、保健省の発表によれば、1983年 - 2003年の間に自殺者数が減少する一方で、自殺未遂者が増加しているという(自殺では男性の割合が多いのに対して、自殺未遂での入院では女性の割合が多い)<ref>[http://nzdaisuki.com/news/news.php?id=2503 NZニュース 自殺者数が減少する一方で自殺未遂件数は増加]</ref>。 |
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日本では、自殺者の10倍以上の自殺未遂者がいると推計されている<ref>[http://www.ncnp.go.jp/ikiru-hp/measures/ketsugi.html 自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議](2005年7月19日 参議院厚生労働委員会)</ref>。[[自殺対策基本法]]も参照のこと。 |
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尚、単独の自殺未遂は現在の日本の刑法では刑罰に科せられることもないが、複数で行った場合は相互に処罰される([[自殺関与・同意殺人罪]])。ガス自殺など他者に危険を及ぼした場合は被害がなくても未遂も処罰され得る。 |
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=== 性差 === |
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ほとんどの国において、男性の方が女性よりも自殺率が高い。また、日本については、自殺者の約7割が男性である<ref>[http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2772.html 図録▽世界各国の男女別自殺率]</ref>。[[大韓民国|韓国]]などでは、20代では男性より女性の方が自殺者数が多いとの報告がある<ref>[http://www.hani.co.kr/arti/specialsection/newspickup_section/372285.html 急増する20代女性の自殺、同世代男性を上回る…なぜ?] - [[ハンギョレ新聞]](韓国語) 2009年8月21日</ref>。 |
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なお、女性より男性のほうが自殺者数が多いのは、女性はたとえ無職でも独身であっても家族や社会の状況に組み込まれて保護されているが、男性は無職だったり独身であったりすると、社会的に孤立を余儀なくされるためと考えられる<ref>「脳と性と能力」カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ(集英社新書)</ref>。また、男性は女性に比べて感情を表に出しづらく、我慢してストレスを溜め込みやすい。メンタルクリニックを受診する患者は女性のほうが多いが、これは女性がメンタルで悩みやすいためとも言えるし、その逆に男性がカウンセリングなどを受けずに我慢してしまうためとも言える<ref>「マンガで分かる診療内科 1」[[ゆうきゆう]]、[[ソウ]]</ref>。 |
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=== 中国における自殺 === |
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中国([[中華人民共和国]]、総人口13億人)における自殺者数は、2003年は年間約25万人強<ref>[http://www.china.ne.jp/2004/09/11/jp20040911_43289.html 中国の自殺者、毎年25万人 死因の第5位に]</ref>、2005年は約29万人(うち女性は約15万人)となっている<ref name="20061128searchina">『自殺する女性15万人、家庭内暴力が原因』2006年11月28日 中国情報局サーチナ</ref>。特に、15 - 34歳の若年層を中心とした年代では、自殺は死因のトップとなっている<ref name="20080910recochina">「2分に1人が自殺、原因トップは「夫の不倫」」『Record China』2008年9月10日付配信</ref>。男女別では、女性の方が多い([[国の自殺率順リスト]]を参照)。自殺の要因については、[[ドメスティックバイオレンス]](女性)<ref name="20061128searchina"/>、夫の[[不倫]](女性)<ref name="20080910recochina"/>、「生活や就職」<ref name="20080910recochina"/>などが挙げられる。 |
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==== 自殺ショーの取り締まり ==== |
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[[中華人民共和国|中国]][[広東省]]広東市は、2008年6月に多発する自殺ショーと呼ばれるパフォーマンスの取り締まり強化を行った。自殺ショーとは、自殺すると見せかけ高層ビルの屋上などで「自殺する」と騒ぎ立て、未払い賃金支払いなどを訴え、見返りとして未払い金の支払いを要求をするというもの。自殺ショーが行われる度に、警察車両や救急車両が出動し、交通渋滞などの原因にもなっていた。そこで[[広東省]]広東市は自殺ショーを迷惑行為と位置づけ、ショーを数回に渡り実施した者に対する罰則を規定した。<ref>[http://www.recordchina.co.jp/group/g20850.html 中国ニュース通信社]</ref> |
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== 文学・芸術における自殺 == |
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自殺は、文学における重要なテーマの一つであり、主人公の自殺にいたる心理など、物語の終焉や筋の展開のなかで描かれることが少なくない。日本文学では、[[夏目漱石]]の『[[こヽろ]]』、[[井上靖]]『しろばんば』など。また、多くの著名な[[文学者]]が自殺を決行している([[北村透谷]]、[[川上眉山]]、[[有島武郎]]、[[芥川龍之介]]、[[牧野信一]]、[[太宰治]]、[[田中英光]]、[[原民喜]]、[[久坂葉子]]、[[火野葦平]]、[[三島由紀夫]]、[[川端康成]]、[[田宮虎彦]]、[[佐藤泰志]]、[[江藤淳]]、[[見沢知廉]]など)。 |
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国外の文学においてはドイツの作家[[ゲーテ]]の小説『[[若きウェルテルの悩み]]』が、自殺を主題とした作品として特に有名である。恋人との[[失恋]]に[[絶望]]し自殺した主人公を描き、その影響で模倣自殺する人が相次いだため[[発禁処分]]に処するところも出た事例がある。→[[ウェルテル効果]] |
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== 脚注 == |
== 脚注 == |
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== 外部リンク == |
== 外部リンク == |
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===自殺関連の白書・統計=== |
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* 警察庁 生活安全局 |
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** 自殺の概要資料{{PDFlink|[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki4/jisatu.pdf 2003年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki5/jisatu.pdf 2004年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki6/20060605.pdf 2005年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki6/20060605.pdf 2006年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki8/20070607.pdf 2007年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki10/h19_zisatsu.pdf 2008年]・[http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki81/210514_H20jisatsunogaiyou.pdf 2009年]・[http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/220513_H21jisatsunogaiyou.pdf 2010年]}} |
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* [http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/suicide04/index.html 厚生労働省 自殺死亡統計の概況] |
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* [http://www.esri.go.jp/jp/archive/hou/hou020/hou018.html 内閣府経済社会総合研究所 自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書] |
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*[http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/index-w.html 自殺対策白書](内閣府政策統括官共生社会政策担当) |
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* [http://www.lifelink.or.jp/hp/whitepaper.html 自殺実態白書2008]([http://www.lifelink.or.jp/hp/ top.html NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク] ) |
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* Honkawa Data Tribute 社会実情データ図録 |
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** [http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2770.html 世界の自殺統計]WHOのデータによる。 |
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** [http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2774.html 主要国の自殺率の長期推移] |
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** [http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2760.html 年齢別自殺率(男子)の長期推移と日米比較] |
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===その他=== |
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* [http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/index.html いきる 自殺予防総合対策センター][[国立精神・神経医療研究センター]]内ホームページ |
* [http://ikiru.ncnp.go.jp/ikiru-hp/index.html いきる 自殺予防総合対策センター][[国立精神・神経医療研究センター]]内ホームページ |
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* [http://www1.odn.ne.jp/~ceq16010/hp/top.htm 東京自殺防止センター] & [http://www.spc-osaka.org/ 国際ビフレンダーズ•大阪自殺防止センター] |
* [http://www1.odn.ne.jp/~ceq16010/hp/top.htm 東京自殺防止センター] & [http://www.spc-osaka.org/ 国際ビフレンダーズ•大阪自殺防止センター] |
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* [http://kokoro.mhlw.go.jp/ 厚生労働省 「こころの耳」 心の健康確保と自殺や過労死などの予防] |
* [http://kokoro.mhlw.go.jp/ 厚生労働省 「こころの耳」 心の健康確保と自殺や過労死などの予防] |
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* [http://www.jaish.gr.jp/information/jisatu/thp21_27.pdf 自殺の予兆(PDFファイル) - 安全衛生情報センター] |
* [http://www.jaish.gr.jp/information/jisatu/thp21_27.pdf 自殺の予兆(PDFファイル) - 安全衛生情報センター] |
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* 警察庁 生活安全局 |
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** 自殺の概要資料{{PDFlink|[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki4/jisatu.pdf 2003年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki5/jisatu.pdf 2004年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki6/20060605.pdf 2005年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki6/20060605.pdf 2006年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki8/20070607.pdf 2007年]・[http://www.npa.go.jp/toukei/chiiki10/h19_zisatsu.pdf 2008年]・[http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki81/210514_H20jisatsunogaiyou.pdf 2009年]}} |
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* Honkawa Data Tribute 社会実情データ図録 |
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** [http://www.lifelink.or.jp/hp/whitepaper.html 自殺実態白書2008] |
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** [http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2770.html 世界の自殺統計]WHOのデータによる。 |
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** [http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2774.html 主要国の自殺率の長期推移] |
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** [http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2760.html 年齢別自殺率(男子)の長期推移と日米比較] |
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{{SEP|suicide|Suicide}} |
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[[bcl:Paghugot]] |
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[[be:Самагубства]] |
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[[bg:Самоубийство]] |
[[bg:Самоубийство]] |
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[[bs:Samoubistvo]] |
[[bs:Samoubistvo]] |
2010年8月10日 (火) 15:07時点における版
この項目には暴力的または猟奇的な記述・表現が含まれています。 |
自殺(じさつ)とは、自分自身を殺すこと。死に至らなかった場合、自殺未遂(じさつみすい)ということがある。
類義語として以下のものがある。
- 自死、自害、自決、自尽、自裁 - 手法によらない。自死については、自殺行為を反社会的行為だと責めないニュアンスが強い
- 首吊り、飛び降り、飛び込み、割腹、焼身、入水、服毒 - 手法による
- 身投げ、自刃、切腹 - 手法による
- 殉死、心中 - 目的や同伴者の有無による
このうち、2. は単語の後ろに「自殺」を付けることもある。
新聞・テレビ等の報道メディアにおいては自殺が使用される。
概要
平成21年現在、日本の自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)は25.8人で総自殺者数は32845人[1]。2.8%が自殺により死亡しており[2]、癌や心疾患に次いで6番目に多い死因である[2]。同年の交通事故者数(4914人)[3]の6.7倍に上り、その深刻さが伺える。
自殺未遂者は、自殺者の10倍以上いると推計されており[4]、自殺者遺族は日本に300万人ほどいると推定される[5]。
諸外国に比べても極めて自殺率が高く、世界で4位、アメリカ合衆国の自殺率の2倍である(2002年)[6]。以下特に断りがなければ日本の自殺状況についてである。
1998年以降2010年現在にいたるまで、自殺率は戦後3度目にして最大のピークの最中であり[7]、ピーク以前と比べ、自殺者が20%~50%増加している[8]。 各種統計や自殺者の遺書などから、今回のピークの原因は不況によるものと推測されており、不況の影響を受けやすい中高年男性でピーク後の自殺率が特に急増している[7]。(一方女性の自殺率はピーク前とあまり変わらない[7]。)
動機に関しては、平成21年の場合、遺書などにより動機が特定できるものは自殺者の74.4%で[1]、自殺の原因は「健康問題」(15867人)、「経済・生活問題」(8377人)が多い(一人3つまで計上)[1]。
自殺率は男女差が激しく、自殺者の70%以上が男性である。男性の方が自殺しやすい主要因として、失業を含む勤務問題が挙げられ、働く性としての男性に過度の負担がかかっている事が分かる。他にも失業時や離婚時に男性の方が孤立しやすい事、男性の方が女性より自身の問題を他人に相談しにくい事なども指摘されている。
また職業や地域によっても自殺率は変わり、男性の場合、農林漁業作業者、サービス職業従事者[9]が自殺率が高く、産業別では、男女ともに「第1次産業」の自殺率が高い[9]。また生活保護受給者の自殺率も全体の自殺率より高い[10]。
地域別に見た場合、特に男性では地域ごとに1.6~1.7 倍の差がある[7]。いわゆる工場地帯で自殺率が高く下請けの不安定な労働環境の影響が指摘される[11]。また東北地方や日本海側が自殺率が高く、その原因として、他にも地域産業が衰えたことによる「経済面」や高齢化による「健康面」が指摘されている[12]。なお、よく指摘される冬期性うつ病については、影響がほどんどない[13]。
自殺手段・自殺場所としては、男女とも縊死(=首吊り)・自宅が多く、平成15年の場合、男女それぞれ66.4%、58.9%の自殺者縊死を選び[14]、男女合計17511人、54.3%の自殺者が自宅を選んでいる[15]。
対策面では、2006年に自殺対策基本法が施行されたが、ほとんどはNPOによる自主活動またはボランティア任せあり、多くの自殺相談室が人材・予算不足で苦境に立たされている[16]。
しかし一方、自殺者72%が自殺前に精神科などなんらかの相談機関に相談に行っており、「いのちの電話」が設置されている地域では自殺率が有意に下がっている[7]為、相談所の拡充が待たれる。
また自殺者の46.2%が事前に何らかのサインを出していた(と遺族は考えている)が、自殺以前にサインに気づいたのは20%にとどまった[5]。自殺者遺族の4人に1人が自分も死にたいと考えており[5]、自殺者のみならずその遺族への対策も待たれる。
自殺者中の数は少ないものの、線路への飛込みや、集団自殺など、周囲に影響を与える自殺方法を取るものもおり、社会問題化している。 日本では自殺報道はセンセーショナルになりがちだが、こうした報道は新しい自殺方法を広めてしまったり、後追い自殺を呼び起こしたりするなどの問題を含み、WHOは適切な報道方法を勧告している。
自殺に関する統計
日本における統計
自殺者数・自殺率
平成21年現在、日本の自殺率(人口10万人あたりの自殺者数)は25.8人で総自殺者数は32845人[1]である。これは同年の交通事故者数(4914人)[3]の6.7倍に上り、その深刻さが伺える。
これは諸外国に比べて極めて大きい値で、日本の自殺率はアメリカ合衆国のそれ2倍に相当する(2002年)[6]。 自殺率は主要国G8諸国、OECD加盟国、双方とも日本が自殺率1位となっている。なお、国別の自殺率でみると日本は4位で、日本以外の上位7カ国はガイアナを除けばすべて旧社会主義国(旧ソ連)が占めている[17]。、特に男性中高年層では、自殺率の水準は世界でもトップレベルである[18] 。
日本において自殺は主要な死因の一つであり、平成18年度の場合、悪性新生物(癌の事。30.4%)、心疾患(16.0%)、脳血管疾患(11.8%)、肺炎(9.9%)、不慮の事故(3.5%)に次ぐ6位で、2.8%が自殺により死亡している[2]。
特に20台から30台にかけては死因のトップで、平成15年の場合、死亡者のうち15.8%(20台前半)、20.9%(20台後半)、22.8%(30台前半)、25.0(30台後半)が自殺している[19]。
過去の自殺者数の推移
戦後は戦前に比べ、自殺率の変動が激しく、男性の場合、高度経済成長期(15人(10万人当たり、以下同様))やバブル期(20人)は下がった一方、1953~1959年のピーク(31.5人)、昭和1983~1986年のピーク(28.9人)、1998年以降2010年現在まで続くピーク(2004年は38.0人)の3回のピークを迎えている[7]。
女性の場合は男性と類似した曲線をたどるものの、1953~1959年のピークを除けばさほど大きな変化は見られず[7]、この事から男性の自殺率の増減が日本人全体の自殺率の増減の主な影響である事が分かる。
1953~1959年のピークは、青年層の復員兵の自殺が多かったとされる[7]が、それに対し残り2つのピークは、中高年の男性の自殺の増加が自殺率を押し上げている[7]。
1998年~2010年現在の自殺者数の増加原因と傾向
1998年以降2010年現在まで続くピークは戦後最大のもので、それまで約2~2.5万人程度であった年間の自殺者数が3万人以上に急増した[8]。
遺書から調べた自殺原因では、1998年以降、ピーク前と比べて「経済・生活問題」が急増しており[7]、景気の悪化が自殺に影響した事が分かる。
統計的にも、失業要因が、「安定して有意に男性自殺率を増加させる方向に作用しかつ寄与度も大き」く[20]、したがって、「98年以降の30歳代後半から60歳代前半の男性自殺率の急増に最も影響力があった要因は、(中略)雇用・経済環境の悪化である可能性が高い」[20]事が年齢階層別データ分析、都道府県別年齢階層別データ分析の双方において確認できる[20]。
女性の自殺率はピーク前とあまり変わらず、男性の自殺率の影響が顕著である[7]。 男性は高年齢層で自殺しやすく、高齢化は男性の自殺率増加の原因を2割程度説明する[7]。 年齢別で見ると、40~60台の増加が顕著で、特に60台ではピーク前の3割増になっている[7]。
近年の動向
2010年8月6日、全国の自殺者数は、昨年より55人多い2838人(2%増)で、昨年8月以降11ヶ月ぶりに前年同月の自殺者数を上回ったことが警察庁のまとめで分かった。自殺者の内訳は男性1968人、女性が870人。[21]
自殺者数 | 自殺率 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
総数 | 男性 | 女性 | 総数 | 男性 | 女性 | |
平成15年 | 34,427 | 24,963 | 9,464 | 27.0 | 40.1 | 14.5 |
平成16年 | 32,325 | 23,272 | 9,053 | 25.3 | 37.4 | 13.8 |
平成17年 | 32,552 | 23,540 | 9,012 | 25.5 | 37.8 | 13.8 |
平成18年 | 32,155 | 22,813 | 9,342 | 25.2 | 36.6 | 14.3 |
平成19年 | 33,093 | 23,478 | 9,615 | 25.9 | 37.7 | 14.7 |
平成20年 | 32,249 | 22,831 | 9,418 | 25.3 | 36.7 | 14.4 |
平成21年 | 32,845 | 23,472 | 9,373 | 25.8 | 37.8 | 14.3 |
性別による差
自殺率は性別に関する差が激しく、自殺者の70%以上が男性(例えば平成21年は71.5%[1])である。つまり、男性は女性より2.5倍自殺しやすい。こうした状況であるにも関わらず、男女共同参画予算には「生涯を通じた女性の健康支援」があるのみで、男性の自殺問題の予算はなく[22]、事実上無視されている。
男性の方が自殺しやすい原因として、失業を含む勤務問題が挙げられる。 実際、遺書などから自殺原因を調べた場合、20台~60台では「勤務問題」、「経済・生活問題」を挙げる者の数が男女で実に10倍近くの開きがあり[1]、働く性としての男性に過度の負担がかかっている事が分かる。(他の要因では男女の違いは2倍以内である[1]。)
また前述のように、98年以降の不況で男性自殺率が急増しており、(しかも女性自殺率はさほど増えておらず)、男性自殺率が急増した主要因が雇用・経済環境の悪化であると目される事も以上の推測を裏付ける。
失業時や離婚時に男性の方に負荷が集中しやすい事を指摘するものもおり、失業や離婚をした場合、女性であれば家族や社会の状況に組み込まれて保護されるのに対し、男性は社会的に孤立を余儀なくされる事が挙げるものもいる[23]。
統計的に見ても配偶者と離別したもの同士の自殺率の男女比や失業者同士の自殺率の男女比の場合はそれぞれ6.04倍(平成12年)[24]、11.4倍(平成21年)[1]に跳ね上がる為、離別や失業が自殺に男女差がある大きな原因である事が伺え、上述の見解を裏付ける。 これは未婚したもの同士・既婚したもの同士・死別したもの同士のいずれの自殺率の男女比も大きな差はなく、それぞれ2.85倍、2.772倍、3.32倍(平成12年)[24]であるのと対照的である。
ただし、未婚・離婚・死別の全てを含めても、男性自殺者の55.5%に過ぎず[25]、(女性の場合は60.1%[25])、離婚問題は失業問題と違い、男女2.5倍の自殺率の差を説明しきれない。
一方ジェンダー論の立場からは男性がその性役割に束縛されて感情を表に出せない事が女性よりも自殺率が高い原因だとするものもある。実際、自殺対策に関する意識調査では、悩みやストレスを抱えたとき助けを求める事を「恥ずかしい」もしくは「どちらかというと恥ずかしい」と答えた人の割合は女性(11.5%)よりも男性(19.7%)のほうが高い[26]。
ただし前述のように性役割がより厳格だった1950年の方が2009年現在よりも10%近く自殺者中の男性の数が少なかった事から、少なくとも支配的要因ではない事が分かる。
他のほとんどの国でも男性の方が自殺しやすい[27]。男女比が特に極端な旧共産圏諸国[27]を除けば、日本における自殺の男女比は平均的なものである[27]。
自殺の傾向
自殺手段でみた場合、男性は縊死(66.4%)、ガス(13.3%)、飛び降り(7.1%)、薬物(3.3%)、溺死(2.3%)、飛び込み(2.1%)、その他(5.8%)の順で多く、女性は 縊死(58.9%)、飛び降り(12.8%)、薬物(6.7%)、溺死(6.7%)、ガス(4.8%)、飛び込み(3.6%)、その他(6.5%)の順である(いずれも平成15年のデータ[14])。
自殺の場所は「自宅」(17511人、54.3%)、「乗物」(3334人、10.3%)、「高層ビル」(1656人、5.1%)、「海(湖)・河川」(1649人、5.1%)、「山」(1387人、4.3%)、の順である[15]。 男女別では男女とも「自宅」がトップであるが、2位以降は差があり、男性では「乗物」が2位だが女性では乗り物の順位は高くなく[15]、車を使う男性とそうでない女性の間で自殺方法に差がある事が伺える。逆に女性では「高層ビル」が2位だが男性では高層ビルの順位は高くない[15]。
自殺者305名の遺族に調査した調査によれば、自殺者の30%に自殺未遂歴があり、60%にはなく、10%は不明である[28]。特に女性の場合は自殺者の45%に未遂歴がある[28]。 同調査によれば72%が自殺前になんらかの相談機関に相談に行っており[29]、相談機関の58%が精神科、25%がその他医療機関であった[28]。そして相談に行っていた202人中62%が自殺直前の一ヶ月いないまで相談に行っていた[28]。
離婚や失業は自殺と大きな相関があり、特に男性の場合、35歳から54歳の年齢階層では、配偶者と離別した無職男性の自殺率は有配偶・有職男性の自殺率の20倍にものぼる[10]。離婚に関わらず職業別で見た場合も、無職男性の自殺率は非常に高く、「35歳から54歳の年齢階層では有職者の約5倍になっている」[10]。
就業者の中では、男性の場合「農林漁業作業者」(10万人中54.2人)、「サービス職業従事者」(10万人中51.1人)で男性全体の自殺率(10万人中42.3人)を上回っている(平成12年の場合)[9]、産業別では、男女ともに「第1次産業」の自殺率が高い[9]。また生活保護受給者の自殺率も全体の自殺率より高い[10]。
自殺率でなく自殺者数で見た場合、職業別では平成21年の場合、「無職者」(18722人、57.0%)、「被雇用者・勤め人」(9159人、27.9% )、「自営業・家族従事者」(3202人、9.7% )、「学生・生徒等」( 945人、2.9% ) の順である[1]。ただし無職者は主婦や年金生活者を含んだ数字で、内訳は「年金・雇用保険等生活者」(6028人)、「失業者」(2341人)、「主婦」(2294人)、「浮浪者」(64人)、「利子・配当・家賃等生活者」(58人)、「その他の無職者」(7937人)である[1]。
年齢別では中高年の自殺者数が多く、平成21年の場合、「50歳代」(6491人、19.8%)、「60歳代」 (5958人、18.1% )、「40歳代」(5261人、16.0% )、「30歳代」(4794人、14.6% )の順である。[1]、
月別では3月が最も多く、3〜6月が年間の自殺者数を引き上げている[10]。近年では特に1998年と2003年にこの傾向が顕著であるが、前者は大手銀行や証券会社が破綻した時期であり、後者は失業率のピークであり、同時にヤミ金取立てによる自殺が増加した時期である[7]。
曜日別で見た場合、男性は月曜が最も多く(10万人当たり80.7人)[30]、曜日が進む毎に減っていき、土日が最も少なくなる(それぞれ10万人当たり53.5人、55.3人)[30]これはサザエさん症候群(ブルーマンデー症候群)の影響があると見られる。一方女性の場合、このような明確な差は無い[30]。
また「いのちの電話」が設置されている地域では、そうでない地域と比べ、男女とも自殺率が有意に下がっている[7]。
自殺に至る原因と経過
平成21年の場合、自殺者の74.4%が遺書などにより動機が特定できるものの、 残りの25.6%に対しては動機が不明である[1]。
動機が特定できたものの中では、平成21年の場合、自殺の原因は「健康問題」(15867人)、「経済・生活問題」(8377人)、「家庭問題」(4117人)、「勤務問題」(2528人)の順である。(遺書等から明らかに推定できる原因を各人3つまで計上)[1]。「健康問題」はほぼ全ての年代でトップの理由である[1]が、唯一50歳台のみ「経済・生活問題」が一位で「健康問題」よりも若干多く[1]、リストラ等の影響がうかがえる。
前述のように1998年以降は「経済・生活問題」が急増しており、不況が自殺率に影響している事がわかる。
一方文部科学省によれば若年層の学生については、2004年度の場合、「厭世」、「父母等の叱責」「精神障害」、「進路問題」、「学業問題」、「恋愛」の順となっており[31]、未成年でも「健康問題」がトップである前述の資料とは大きく異なる。
自殺に至る経過は有職者・失業者で異なり、有職者は配置転換や転職がきっかけになるのが多いのに対し[10]、失業者は「失業→生活苦→多重債務→うつ→自殺」という経路を辿る事が多い[10]。 なお、雇用保険受給中の失業者の場合、離職日からの日にちには特に傾向はない[10]。
うつ病は自殺と強い関係に有り、自殺者305名の遺族に調査した結果、119名がうつ→自殺という経過を辿っていた[28]。ただしうつ病は自殺の根本要因ではなく、同調査は他の根本要因がうつを引き起こしている事を明らかにしている。同調査を元にした危険複合度の分析によれば、主な根本要因として「事業不振」、「職場環境の変化」、「過労」があり、それが「身体疾患」、「職場の人間関係」、「失業」、「負債」といった問題を引き起こし、そこから「家族の付和」、「生活苦」、「うつ病」を引き起こして自殺にいたる[28]。
実際失業問題は自殺との関係が深く、有効求人倍率と自殺率には強い負相関が存在し[6]、従業員5人未満の零細企業の倒産件数は自殺率と強い正の相関がある[6]。 男性については所得の変動、負債、失業といった要因が自殺率に関係する[7]。一方女性の場合は失業と自殺の関係がみられない[7]。
しかし、各国毎のジニ係数と自殺率には相関がみられず[7]、これは所得格差が自殺率と相関が少ない事を意味する。 ただしジニ係数は自殺未遂率とは有意な相関がある[7]。
年齢 |
~19歳 |
20~29歳 |
30~39歳 |
40~49歳 |
50~59歳 |
60~69歳 |
70~79歳 |
80歳~ |
不詳 |
合計 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
合計 | 563 | 3,534 | 5,189 | 5,755 | 7,027 | 6,093 | 3,581 | 2,238 | 7 | 33,987 |
男性合計 | 323 | 2,376 | 3,706 | 4,374 | 5,605 | 4,421 | 2,178 | 1,176 | 6 | 24,165 |
女性合計 | 240 | 1,158 | 1,483 | 1,381 | 1,422 | 1,672 | 1,403 | 1,062 | 1 | 9,822 |
家庭問題 | 84 | 335 | 627 | 736 | 723 | 728 | 511 | 373 | 4,117 | |
健康問題 | 173 | 1,413 | 2,175 | 2,195 | 2,652 | 3,157 | 2,487 | 1,614 | 1 | 15,867 |
経済・生活問題 | 19 | 528 | 1,165 | 1,848 | 2,725 | 1,702 | 337 | 50 | 3 | 8,377 |
勤務問題 | 23 | 471 | 622 | 615 | 575 | 199 | 20 | 3 | 2,528 | |
男女問題 | 54 | 387 | 356 | 168 | 97 | 37 | 16 | 6 | 1,121 | |
学校問題 | 155 | 202 | 5 | 1 | 1 | 364 | ||||
その他 | 55 | 198 | 239 | 192 | 255 | 270 | 209 | 192 | 3 | 1,613 |
地域差
特に男性では自殺率が地域ごとに「1.6~1.7 倍の差があり、決して無視し得る差でない」[7]。 警察の全管轄1387個(当時)に対して自殺率を調べた調査[11]によると、上位50の管轄の相当数が工場地域ないしそれに隣接する地域であった。 この事から下請け・孫請け・派遣会社における過酷かつ不安定な労働環境が自殺に地域差がある原因と考えられる[11]。
県別に見た場合、東北地方の秋田県、青森県、岩手県、山形県、福島県や日本海側の新潟県、富山県、島根県、山口県などが自殺率が高い。 なお、自殺率でなく自殺人数を見た場合は、人口が多い東京が自殺数最多である[11]。
地域による自殺率は男女で差があり、男性では北東北、南九州、山陰で比較的高い傾向がある[7]のに対し、女性では秋田県を除くと男性ほど明確な地域差はない[7]。この事から男性への負担が地域差の原因であると考えられる。なお、北東北、南九州、山陰で男性の自殺率が高い傾向は1960年代以降ほぼ固定化している[7]。
なお「98年以降の増減は、自殺率の高い地域でより増加する特徴がみられる」[7]。従って自殺率の地域差は98年以降の自殺の急増と何らかの関係がある事を示唆し[7]、不況が自殺の地域差を生んでいる事が分かる。
地域差がある他の原因として、地域産業が衰えたことによる「経済面」と、高齢化による「健康面」の2つが大きな理由に挙げられている[12]。 また地域の保守性のため、規範からはずれた生き方を恥とする人が多いことも要因として考えうる。たとえば富山県は生活保護率が日本で最も低く[32]、新潟県は離婚率が日本で最も低い[33]。
またこれらの地方では冬に曇天と降雪が続く為、季節性感情障害または冬期性うつ病との関係が取り沙汰される[34]が、統計的には日照時間と自殺率には相関が見られず[13] 例えば平成21年の秋田県、富山県における自殺が最多の月はそれぞれ4月、8月である[1]。
また統計分析は、「近所づきあいの頻度が高い地域で自殺率が低い傾向にあったことを不完全ながらも示して」[20]おり、「人的ネットワークを土台とするセーフティーネットの構築が自殺予防に有効である可能性が高い」[20]。
平成21年現在、ワースト・ワンは山梨県(10万人当たり41.9人)[1]で、全国平均の25.8人[1]を大きく上回っている。ただしこれは発見地別の統計の場合[35]で、住居地別の統計では自殺率は平均程度である[35]為、自殺者が県外から青木ヶ原樹海といった自殺の名所に訪れる事がワーストワンである原因である事が伺える。なお、発見地別統計と住居地別統計に極端な差があるのは山梨のみで、他県ではさほど差は無い[35]。
1990年代半ばには秋田県がワースト・ワン(10万人当たり35.4人、内閣府の調べ[要出典]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。)、2007年まで13年連続の全国一の自殺率で世間の注目を集めたが、21世紀に入って秋田県では自殺予防のための様々な取組みが行われ、2003年の自殺者数は3年前に比べて27%減少した[要出典]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。。
遺族
日本には自殺者の遺族に関する統計が無いものの、300万人前後と見積もられる[5]。 遺族305人を対象にした調査では、遺族達の4人に1人が自分も死にたいと考えており[5]、一家の大黒柱を失った事による経済的困窮に悩まされる[5]など、その辛い実態が伺える。 48%が自分のせいだと考えており[5]、10年ちかく経過しても抑うつ感が消えない遺族も多い[5]。 また自殺者が事前に何らかのサインを出していたかという問いには46.2%があったと答えているが、自殺以前にそれに気づいたのは20%にとどまった[5]。 56.4%が周囲からの偏見にさらされた経験が有り[5]、「あなたのせいで死んだ」などの心ない非難を受けている[5]。
自殺未遂
日本では、自殺者の10倍以上の自殺未遂者がいると推計されている[4]。
平成19年の場合、自損行為で救急自動車の出場した件数は71866件であり、搬送人数は5万2,871人であった[36]。
自殺者のうち、以前に自殺未遂経験があるものが男性では13.5%、女性では28.6%である[36]。特にこの割合は20台、30台の女性で多い(それぞれ46.4%、44.5%)[36]。
自殺に関する意識
内閣府の行った意識調査では、自殺したいと思った事がある人は19.1%で無い人は10.2%であった[26]。自殺したいと思った事があるのは男性(16.3%)よりも女性(21.9%)の方が多く[26]、実際の自殺者では男性の方が2.5倍も多いのと対照的である。年齢別では30台(27.8%)、20台(24.6%)が「ある」と答えた割合が高く、後は年を追う毎に少なくなっている[26]。
自殺を考えた際、60.4%は誰にも相談せず、残りは友人(17.6%)や家族(13.9%)などに相談している[26]。
自殺の是非については「生死の判断は最終的に本人にまかせるべき」という問いに「そう思う」もしくは「ややそう思う」と答えた人は35.3%で、「そう思わない」もしくは「ややそう思わない」は41.7%であった(残りは分からない(11.9%)もしくは無回答(11.1%))[26]。 また「自殺せずに生きていれば良いことがある」という問いに「そう思う」もしくは「ややそう思う」と答えた人は79.4%で、「そう思わない」もしくは「ややそう思わない」は6.1%であった[26]。
世界の統計
WHOによると、世界では30秒に1回程度の自殺が起こっており、一日3000人ほどが自殺で死んでいる[6]。 国立精神・神経医療研究センターによれば、自殺によって毎年全世界で約100万人が死亡しており、世界疾病負担(the Global burden of diseases)の1.4%を占める。そして、自殺によって損なわれる経済的損失も数十億ドル規模にのぼる。
自殺の統計は、国によって分類や調査などに差があるため、単純な比較はできない。 例えば、WHOの基準では変死の半分を自殺としてを精査しているが、日本の自殺の基準では変死は自殺者数には含まれていない[37]。
各国の自殺
アメリカにおける自殺
銃の所持が広く認められている国では、年齢を問わず銃による自殺が多い。アメリカ合衆国における調査結果[38]では、10代の小火器(拳銃など)による自殺が全体の49%と、ほぼ半数を占めている。 銃による自殺が多い理由にはその致死率の高さと手軽さが挙げられる。詳しくは#銃による自殺を参照。
中国における自殺
中国(中華人民共和国、総人口13億人)における自殺者数は、2003年は年間約25万人強[39]、2005年は約29万人(うち女性は約15万人)となっている[40]。特に、15 - 34歳の若年層を中心とした年代では、自殺は死因のトップとなっている[41]。
男女別では、女性の方が若干多く(国の自殺率順リストを参照)、日本を含む他のほとんどの国では男性の自殺者の方が格段に多いのと対照的である。自殺の要因については、ドメスティックバイオレンス(女性)[40]、夫の不倫(女性)[41]、「生活や就職」[41]などが挙げられる。
韓国における自殺
韓国でも他のほとんどの国と同様、男性のほうが女性よりも2倍程度自殺しやすいものの男女比は日本よりも若干低く[27]、20代では男性より女性の方が自殺者数が多いとの報告がある[42]
ニュージーランドにおける自殺
ニュージーランドでは、保健省の発表によれば、1983年 - 2003年の間に自殺者数が減少する一方で、自殺未遂者が増加しているという(自殺では男性の割合が多いのに対して、自殺未遂での入院では女性の割合が多い)[43]。
自殺と社会
対策
WHOの自殺予防に関する特別専門家会議によると、自殺の原因は個人や社会に内在する多くの複雑な原因によって引き起こされるが、「自殺は予防できる事を知り、自殺手段の入手が自殺の最大の危険因子で、自殺を決定づける。」としている。
2005年7月、参議院厚生労働委員会で「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」がなされ、同年9月には第1回「自殺対策関係省庁連絡会議」が開催された。2006年10月28日には自殺対策基本法が施行されたが、行政における自殺防止対策は貧弱であり、窮地に立たされた人々に自殺を強いる文化・社会状態への対策が必要となる。
自殺防止対策として、相談室の設置、カウンセラーの増強などの対策が取られているところがある。例えば静岡県では富士市をモデルにうつ病の観点から自殺防止に取り組み、大きな成果を挙げた。[44]。 しかし、ほとんどはNPOによる自主活動またはボランティア任せあり、政府・行政側が全面的にバックアップをとっておらず、多くの相談室が人材・予算不足で苦境に立たされている[16]。
また、政治家の認識も薄いとの指摘もある[45]。 例えば内閣府男女共同参画局は女性の健康維持には熱心だが男性の自殺問題は事実上無視している[46]。
なお、毎年9月10日は「国際自殺防止デー」として、WHOと国際自殺防止協会( IASP=The International Association for Suicide prevention)その他のNGOによって、WHO加盟各国で自殺防止への呼びかけやシンポジウムが行われ、その後1週間を自殺予防週間と定める自治体も多い。
自殺に関する法律
現在の日本において、自殺は犯罪とはされていない。しかし、飛び込み自殺などにより第三者に被害が発生した場合などには、被疑者死亡で送検され、遺族に損害賠償が発生する可能性がある。また、他人の自殺に関与することは犯罪(自殺関与罪、自殺幇助罪)とされる。また、本人から依頼されて人を殺害すること(同意殺)は犯罪と扱われる。
尚、単独の自殺未遂は現在の日本の刑法では刑罰に科せられることもないが、複数で行った場合は相互に処罰される(自殺関与・同意殺人罪)。ガス自殺など他者に危険を及ぼした場合は被害がなくても未遂も処罰され得る。
アメリカ合衆国で自殺を罪と定めている州はアラバマ州とオクラホマ州だけであるが、実際に犯した人を処罰するのは現実的には不可能なことなので罰則はない。いくつかの州では自殺未遂も軽犯罪法に触れるが実際に罰を受けることは滅多にない。30の州においては自殺ないし自殺未遂はいかなる罪にも問われていない。しかし、全ての州で一致している点があり、自殺を唆したり勧める行為は例外なく重い罪に問われる[47]。 なお、自殺を「加害者と被害者が同一人物である殺人」と理解される場合、自殺は「犯罪」であるという法的根拠と成る。
オランダにおいては、2000年に安楽死が合法化された。ただし、死期が近く、堪え難い肉体的苦痛があり、治療の方法がない等の厳格な要件が付与されている。
自殺に係わる経済的負担と保険
自殺の手法によっては、自殺者の財産(消極財産としての債務が含まれる)につき相続権を有する遺族に対し損害賠償請求がなされる可能性がある。その総額は推定によってまちまちだが、例えば鉄道の人身事故の場合、100万円程度とするものから数億に上るとするものまである(詳細は後述の「鉄道への飛び込み自殺」節参照)。
日本の健康保険では、原則として自殺未遂後の治療に生じる医療費は保険適用されず全額自己負担となる[48]。たとえば、飛び降り自殺の未遂の場合に多発性骨折などで入院治療を受けると、最初の2か月だけでも月500万円程度の医療費を負担しなければならない[49]。
このために、自殺未遂した男が入院中に数百万単位の医療費負担を家族に背負わせ、その母親が心ならずも男を殺害した事件が発生したこともある[50]。
ただし、精神の障害によって自殺行為の結果に対する認識能力のない精神病患者による未遂の場合は、例外的に保険給付される。
自殺に関する社会問題
日本では、インターネット内で知り合った男女同士の自殺(いわゆる心中)などに代表されるように、一酸化炭素中毒型自殺などが社会問題となっている[51]。また、自殺の名所にも記載があるように、自殺者の大部分は三大都市圏に集中しているため、列車飛び込みなどが多い。
報道の功罪
自殺報道をきっかけにさらなる自殺を誘発される事があり、例えば古くは1903年、一高生藤村操が「巌頭之感」を書いて投身自殺した時は哲学的煩悶での自殺として新聞・雑誌などのメディアに大きく取り上げられ、文学者の間では議論も戦わされると、後追い自殺が相次いた。その後も1986年や1998年など、有名人の自殺及びその後の報道をきっかけとした後追い自殺が発生したケースは多い(ウェルテル効果)。たとえばX JapanのHideが自殺した月はその周辺の月に比べ、二倍程度自殺率が高い[7]。
また2000年頃の練炭騒動や2007年前後の硫化水素騒動のように報道番組が新たな自殺方法をセンセーショナルに取り上げる事で、その自殺方法が喧伝されてしまう場合もある。
自殺報道にはこうした負の影響がある為、WHOは2000年「自殺を予防する自殺事例報道のあり方」において「写真や遺書を公表しない事」、「自殺の詳しい内容や方法を報道しない事」、「自殺に代わる手段(alternative)を強調する事」、「ヘルプラインや各地域の支援機関を紹介する事」などを勧告しているが、日本では守られているとは言いがたい。
一方海外では、報道方法を変える事により、自殺数を減らす事に成功している。 1984年から1987年にかけて、オーストリアのウィーンでは、ジャーナリストが報道方法を変えたことで、地下鉄での自殺や類似の自殺が80%以上減少した。また、自殺率を減らす効果があった[52]。
フィンランドでは、自殺の報道方法変更を含む諸対策により、自殺率の減少を達成している[53][54]。
鉄道への飛び込み自殺
鉄道への飛び込み(報道などでは自殺でない可能性を考慮し「人身事故」と呼ぶ)は多くの利用客に影響を与える為、社会問題化している。例えばJR大阪環状線で人身事故があった際には「計48本が運休し、67本が最大88分遅れ、約6万人に影響が出た」[55]。
鉄道会社が要求する損害賠償額は公表されてない場合もある(JR東日本、東武鉄道)[56]為一概には分からないが、例えば京浜急行電鉄の場合、車両は「そんなに大きく壊れる訳では」ない為、損害額は1件あたり200万円程度 で、「基本的に損害賠償は求めていく」方針であるにもかかわらず「実際の請求額は、高くても100万円」いかない程度である(京浜急行電鉄、広報宣伝担当)[56]。
ただし被害総額は資料によりまちまちで、普通電車の場合でも、ラッシュ時の場合は額が大きくなり、800万円を請求されたケースがあるとするものもある[49]。被害総額が億の単位にのぼるとする推定もあり、周辺10駅から駅員を動員し、乗客1万人に影響があった場合、車両や線路の修繕費(1億400万円)、振替輸送の費用(4000人が平均500円)、1駅あたりの人件費(一人5万円)で計1億650万円の費用がかかるとする推定がある[57]。なお前述の京浜急行では小額とされていた車両や線路の修繕費、この資料の額から引くと金額がほぼ一致する事から、この種の修繕費の如何によって金額が大きく左右される事が分かる。
鉄道会社側も、自殺防止・転落防止の為にホームドアの設置等の対策を取る場合もあるが、ホームドアが逆に安全確認業務をさまたげになったり、柵と列車の間に挟まれる事故が予想される事などもあり、既存路線への追加設置は進んでいない。
この為、心理学者の意見を入れて大きな鏡を設置する、発車ベルを音楽に変える。また、緊急停止ボタンを設置するなど努力も為されるが、効果は不明である。東京のJR中央線でホームからの飛び込み自殺が相次いだ時は、ホームにガードマンを臨時配置したところ、一時的に自殺者がなくなったという報道がある[要出典]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。。
いじめと自殺
1986年、1994年 - 1996年、2006年の時期は、子供の自殺についての報道が多かった。原因としては「学校におけるいじめ」が取りざたされた。また、これに関連して文部科学省が学校における「いじめの把握」が不十分であることが指摘された。
いじめ自殺が相次いだ1995年12月には、横浜市のいじめ110番に自殺をほのめかす電話が殺到し、当時の横浜市長高秀秀信が緊急会見を開くなど現場は一時騒然となった。そしてそのわずか2ヵ月後には日本各地の新聞社や放送局にいじめ自殺の予告やテストや運動会を取りやめないと死ぬといった自殺予告の手紙が多数送られ、実際に試験日を延期する学校が相次いだ。そして10年後の2006年11月には中高生が文部科学省に自殺予告を送り、マスコミでも大きく取り上げられた。
硫化水素
2007年前後から、硫化水素による自殺方法を、インターネットで情報を得て、実際に試みる人が多発しており、無関係な人間が巻き添えになる例も出ている。2008年4月に入ってからは一日1人、多い時は2人もこの自殺方法で命を落としておりマスコミでも大きく取り上げられた。
自衛官の自殺
2008年頃から、自衛官の自殺が政治問題化している。[58]
自衛官の自殺のうち特別の事情として「いじめ」の問題がある。 遺族が初めて国家賠償請求を起こした、1999年(平成11年)11月に当時21歳の三等海曹の自殺(護衛艦「さわぎり」事件)についての原因も、上司の二等海曹による「ゲジ(スペードの2、役立たずの意味)」と呼ぶ、「海の上ではだれかいなくなってもわからない」その他の暴言の連続があったと遺族は裁判内で主張している(裁判では、事実は認定されたが、一審ではその意義について自衛官教育での範囲内とされた)。この事件を契機に自衛隊内でのメンタル・ヘルスが研究されるようになったとされるが、自殺者は自衛隊全体で事件後も減っていないうえ、2004年10月に護衛艦「たちかぜ」の当時21歳の一等海士が、いじめを告発する遺書を残して飛び込み自殺をし、事件をきっかけに、恐喝と暴行など「たちかぜ」艦内での刑事犯に発展した隊員への「いじめ」が発覚するなど「いじめ」と自殺の因果関係がクローズアップされる。[4]。いじめに関しては、(防衛省として現在統計資料の有る)2003(平成15)年度から2006(平成18)年度までに『私的制裁』として92人、『傷害又は暴行脅迫』として291人の者に対して懲戒処分を行っている。
その他、問題となる自殺に、陸上自衛隊の駐屯地内での武器の使用による自殺がある。これは、小銃(ライフル)を連射モードに切り替え、数発(1‐9発程度)を命中させて自殺する者が、実包を装填した銃器を携行して歩哨警備を行う火薬庫の警備時に多発している。2004年(平成16年)度以降、2008年8月まで5件の弾薬庫警備任務中の隊員による小銃を使用した自殺、自殺未遂事件が起きている。
なお、2004年から2006年度は3年連続で、25万人の陸海空自衛官の内自殺と断定された自衛官の数は、毎年100人程度に達している(防衛省調)。2006年度に死亡した隊員は陸海空あわせて224人(陸自156人、海自35人、空自33人)。このうち自殺と認定された者は、97人(陸66人、海20人、空11人)で死亡理由の4割を超える。
自殺ショーの取り締まり(中国)
中国広東省広東市は、2008年6月に多発する自殺ショーと呼ばれるパフォーマンスの取り締まり強化を行った。自殺ショーとは、自殺すると見せかけ高層ビルの屋上などで「自殺する」と騒ぎ立て、未払い賃金支払いなどを訴え、見返りとして未払い金の支払いを要求をするというもの。自殺ショーが行われる度に、警察車両や救急車両が出動し、交通渋滞などの原因にもなっていた。そこで広東省広東市は自殺ショーを迷惑行為と位置づけ、ショーを数回に渡り実施した者に対する罰則を規定した。[59]
特徴的な自殺
前述のように自殺方法としては縊死や飛び降り等が多いが、件数は少ないながらも、その方法により、世間を賑わすものもある。
群発自殺は、複数人の自殺が、近接した時間・場所において実行される現象の事で、メディアによる報道がきっかけとなって起こることが多い。 群発自殺には以下の二種類の類型がある。
- 集団自殺は、複数の自殺志願者が、お互いに合意の上で同時に自殺することをいう。インターネット上の自殺サイトを媒介として実行されることが多い。
- →詳細は「集団自殺」を参照
- 連鎖自殺は、有名人の自殺や、一般人の凄惨な自殺を報じるニュースが、模倣者を発生させる現象のことをいう(ウェルテル効果とも)。前述のように、報道の仕方を変える事で群発自殺を減らす事ができる。
- →詳細は「ウェルテル効果」を参照
その他の類型として以下のものがある。
- 拡大自殺(Suicide by cop)
- 自身で直接自殺するのではなく、犯罪を犯して死刑になる事で司法の手を借りて自殺する事。
- →詳細は「拡大自殺」を参照
- 宗教的な自殺
また過激な宣伝・抗議手段の1つとして自殺が行われる場合もあり、見る者へ与えるインパクトの強さを狙った焼身自殺が選ばれる事も多い。 例えば、韓国の反日デモにおいて焼身自殺を図った男性や[61]、ベトナム戦争当時の南ベトナム政権による仏教徒弾圧に対する抗議のためにビデオカメラの前で焼身自殺したティック・クアン・ドック(釋廣德)師、彼を範にしてベトナム戦争抗議の焼身自殺を遂げた由比忠之進、アリス・ハーズなどが知られている。左翼思想を持つロックバンド、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの初アルバムには炎に包まれるティック・クアン・ドックの写真が載せられている。[62]
ドラッグや麻薬の広まっている地域では酩酊している状態で正常な判断能力を失っているうちに、ビルの上から飛び降りたり、自動車や列車に飛び込んで自殺をしてしまうこともある(この場合、自殺ではなく、事件や事故と取る場合もある)。例えば「夜回り先生」こと水谷修が麻薬・薬物を撲滅しようとするきっかけとなったのは、横浜市で定時制高校の教員を勤めていた頃、当時の生徒がシンナーで酩酊状態にあった時にダンプカーに飛び込み、死亡したことであったという[63]。
関連概念との比較
殺人
警察の捜査で自殺と断定された事件が事故または殺人事件ではないかと疑われる例は以前から存在しており、徳島自衛官変死事件のように遺族とのトラブルや訴訟となった例もある。また、逆に自殺であるにもかかわらず、警察や遺族によって事故とされている場合も存在するのではないかと言われる。突発的な自殺願望によって、遺書も書かずに電車や車に飛び込み自殺したと疑われる場合である。
なお、日本国内の自殺を取り扱った統計である「自殺の概要」(警察庁)では、解剖による鑑定後、自殺と判定された案件において、実際に遺書が残されている件は、半数以下である。
安楽死・尊厳死
末期のがんや病気などで多大な苦痛を伴い死が目前と差し迫っている患者は、アメリカ、オランダ、スイスなどの国々では薬物投与などにより苦痛を伴なわずに死を選択する事が出来る安楽死が法律で認められている。
尊厳死は無用な延命治療を拒み、患者の尊厳が損なわれるのを避けるという理念であり、1994年には日本学術会議は、尊厳死容認のために、
- 医学的にみて、患者が回復不能の状態に陥っていること。
- 意思能力のある状態で、患者が尊厳死の希望を明らかにしているか、患者の意思を確認できない場合、近親者など信頼しうる人の証言に基づくこと。
- 延命医療中止は、担当医が行うこと。
以上の3つを条件としてあげている。
病院内の自殺
米国の独立系・非営利組織の医療施設評価認証機構である「ジョイント・コミッション」の医療事故報告制度の中では、病院内での重大な医療事故の最多のものは、自殺であるという。
日本医療機能評価機構による調査では、調査の3年間に29%の一般病院(精神科病床なし)で自殺が起こっている。その自殺者の入院理由となる疾患は、35%が悪性腫瘍(ガン)である。
自傷行為
自傷行為はしばしば自殺未遂とされることが多いが、実際には自殺目的ではなく切ること自体の感覚を目的とする場合が少なからずある。 しかし、自傷者の多くには実際に自殺願望があるうえ、自傷による事故死と自殺は非常に見分けづらいので、現実には自傷による事故死も自殺に含めてしまうことが多いと思われる。 他にも、自分の健康を無視したような行動を行う人もいるが、やはり意図していないのでそれ自体は別のものである。
自傷段階の人の場合、現世への希望をまだ諦めきっていないため、なんらか事態の改善に繋がる助けを求めている傾向があるとされる。自殺ではコミュニケーションを求める行為はほとんど見られず、またそのような心の余裕も無いことが多い[64]。
以下、参考にWalsh (2005) による自傷行為と自殺未遂の判定表を挙げる。ただし双方は死への意図のあるなしではなく強弱の同一線上にある例も多いため、一種の指標として柔軟に用いるのが望ましい。
番号 | 項目 | 自傷行為 | 自殺企図 |
---|---|---|---|
1 | 行為そのもので期待されるもの | どうにもならない感情の救済(緊張、怒り、空虚感、生気のなさ)。 | 痛みから逃れること。意識を永久に終わらせること。 |
2 | 身体的ダメージレベル、および潜在的に行為が死に至る確率 | 身体的にはあまり強くないことが多い。致死率はあまり高くない方法を好む。 | 深刻な身体ダメージを及ぼすことが多い。致死率が非常に高い方法を好む。 |
3 | 慢性的、反復的であるかどうか | 非常に反復的である。 | 反復的なことは少ない。 |
4 | 今までにどの程度の種類の行為を行ってきたか | 2つ以上の種類の方法を繰り返し行う。 | 主に1つの方法を選ぶことが多い。 |
5 | 心理的な痛みの種類 | 不快感、居心地の悪さが間欠的に襲ってくる。 | 堪えられない感情が永続的に続く。 |
6 | 決意の強さ | もともと自殺するつもりは強くないのでそれほど強くはない。他の選択肢を考えることもできる。一時的な解決を図ろうとして行ってしまうことが多い。 | 決意が並外れて強い。自殺することが唯一の救いとしか思えない。視野が狭い。 |
7 | 絶望、無力な感じがどの程度あるか | 前向きに考えられる瞬間と、自分をコントロールする感覚を少しは保っている。 | 絶望、無力感が中心で、一瞬であってもその感情を外すことができない。 |
8 | 実行することで不快な感情は減少したか | 短期的には回復する。間違った考え方も感情も行為そのものによっておさまる。「意識の変化」を起こす。 | まったく回復しない。むしろ自殺がうまくいかなかったことによってさらに救いがもてなくなる。即時の治療介入が必要。 |
9 | 中心となる問題は何であるか | 疎外感。特に社会の中での自らのボディ・イメージ(アイデンティティにもつながる)が築けていないこと。 | うつ。逃れられない、堪えられない痛みに対する激しい怒り。 |
いずれの場合でも状況を一見しただけで安易に自殺であると断定するのは拙速であることがあり、特に有名人の自殺に関しては多くこの問題が取り上げられる。
自殺の歴史
世界の歴史
自殺の歴史は古く、紀元前の壁画などにもその絵や記述が残されているほどである。中国では、紀元前1100年ごろ殷王朝最後の帝である帝辛(紂王)が周の武王に敗れ、焼身自殺したと伝えられている。また、古代ギリシャの詩人サッポーは入水により自殺したという説があり、他にもエジプトプトレマイオス朝最後の女王であるクレオパトラ7世はアクティウムの海戦に敗北した際に、オクタウィアヌスに屈することを拒み、コブラに自分の体を噛ませて自殺したと伝えられている。 手法や原因は異なるが、社会的な凋落や絶望感が自殺の動機となりうることは、過去から現在に至るまで同じである。
一方で、自殺は、社会的な制度として行われる事もある。宗教的な理由から生け贄として自害するなどである。
重大な犯罪を起こして死刑を免れない状況に陥った貴人が公衆の前で処刑されるという屈辱を免じてその名誉を重んじさせる意味で自殺を強要されることがあった。律令制国家における皇族や高位者が死刑判決を受けた場合に自宅での自殺をもって代替にするのを許したことや、戦国時代から江戸時代初期にかけての日本における武士階級に対する切腹処分などがこれにあたる。賜死の形態を取ることも多く、洋の東西を問わず見られる現象であり、ルキウス・アンナエウス・セネカなどが知られる。諸説あるが、荀彧も主君曹操に死を強要されたとの説がある。
日本における歴史
日本においては、歴史的に自殺がひとつの文化として捉えられている[65]。
日本の文明が始まる頃から自殺は行われていたとされており、文字が書かれた頃から文献として多数自殺の記録が存在している。日本で最も古い自殺に関する伝承は、『古事記』の記述によるヤマトタケルの妃弟橘比売命(オトタチバナヒメノミコト)の伝承である。
切腹・心中・特攻・自爆・殉死など、自殺に准じる行為がそれぞれの時代、様々な状況で扱われている。特に特定条件下での自殺は美談として扱われた。前近代では室町幕府を開いた足利尊氏の祖父足利家時が八幡大菩薩に三代後の子孫に天下を取らせよと祈願した願文を残して自害したという伝説や、織田信長の傳役平手政秀が死をもって信長の行動を諌めたとされる事例などがある。近代においては明治天皇崩御のおりに殉死した乃木希典夫妻が世論の称賛を浴びた。宗教的な要因による自殺としては、江戸時代の即身成仏などの例がある。
明治以降は日本の自殺率は1936年まで20人前後と緩やかな上昇傾向にあったが、戦争の影響で減少し戦前戦後を通じ最低レベルとなった。国家総動員法(1938年制定)下で自殺どころでなかったと考えられる。
その後、戦後の価値観の大きな転換や社会保障が整備されていなかったこともあり、高度成長が本格化するまでのあいだ(1950年代)日本の自殺率は1958年には10万人あたり25.7人と世界一となり、2008年現在に至るまで過去最高の数値を記録している。高度経済成長の時期は減少に転じた。1973年のオイルショックの頃から再び増加したが、1980年代後半からのバブル経済期には減少した。バブル崩壊後の1990年代後半にスウェーデン、ドイツより低かった自殺率は急激に上昇した[66]。
武士の自害
日本では戦場において本来相手側に武名をなさせないために、平安より鎌倉、戦国時代に至まで、敵に討ち取られるよりは自害することをよしとする風潮があった。『平家物語』の登場人物の最後は自殺で終わる者が多い。これは、自らの武名が誰かによって落ちること、つまり討ち取られることを恥としたからである。これらは現在でも国語の教科書に掲載され、日本の武家文化の一つとして継承されている。また死罪を自ら行う切腹は良く知られている。鎌倉以来武士は江戸時代初期までは主君に切腹を命じられても、従容として死につくのではなく、ある程度の抵抗を示した後に主君側に討ち取られる以外に選択肢がなくなってから自害することが「意気地」とされた。ところが、江戸時代も中期になると、従容として腹を切ることが「潔い」とされるようになる。これは一つには家の存続が個人の武名以上に重要なものとされてきたためによるが、徳川の文治政治の中で連座が緩和されたため、単独で責任をとれば家もしくは、家族などは存続を許されたからでもある。なお、女性の場合は切腹ではなく喉を短刀で突く。
江戸町民の心中
江戸時代、大坂や江戸を中心に心中自殺が庶民の間に流行した。これは近松門左衛門の『曾根崎心中』を代表とする「心中もの」の芝居や浄瑠璃が評判を呼んだ事による影響と考えられている。この世を憂き世として忌避し、あの世で結ばれるとして男女が自殺に及んだのである。これに対し、幕府は『心中禁止令』を出すとともに、心中死体や心中未遂者を3日間さらし者にした上で、未遂者は被差別階級に落とすという厳罰を実施している[67]しかしこの対応がかえって確実に死ぬことを覚悟させるだけで、心中防止に効果はなかったとされている。
昭和史の戦中における自決、特攻
大正デモクラシー退潮後の日本では、軍部の影響力が増大し軍国化した。日本軍の間では、軍人は自決によって責任をとることを是とし、またそれは美徳だと考えられており、「生きて虜囚の辱めを受けず」の一文で有名な戦陣訓に象徴される、捕虜になることより潔い自決を名誉とする環境が醸成されていた。
1941年に開戦した太平洋戦争では、終戦後を除き、組織的降伏を行わないという特異性を世界に見せつけた。日本軍人達は捕虜になるぐらいなら自決もしくは自殺的な攻撃で命を断った。また前線の指揮官が無断撤退の責任を取るために自決を選ぶ、もしくは強いられることもあった。自決であれば、軍人軍属の場合は戦死扱いになり、不名誉でないとされた。またそれに呼応する様に、これらの思想は一般市民にも浸透しており、所謂名誉の自決をした軍人は新聞報道やラジオ放送、ニュース映画や大本営発表を通し市民の目や耳に入り、立派な最期を遂げた尊敬すべき偉人とされ賞賛された。
また、陸海軍を問わず日本軍の航空部隊は、操縦者や機体が被弾し、どうしても帰還が不可能となった場合は「敵機・敵施設・敵地上軍・敵艦に突入し自爆」「背面宙返りで地上や海上に自爆」が常態であった。前者としては、真珠湾攻撃時に被弾した海軍の戦闘機操縦者(飯田房太海軍大尉)が米軍格納庫に突入しており、後者としてはビルマ航空戦のベンガル湾上空において、爆撃機迎撃時に被弾し海上に自爆し、戦死後は生前の功績も含め、軍神として崇められた加藤建夫陸軍少将(死後昇進)が有名な事例として挙げられる(両人とも被弾後に不時着ないし落下傘にて脱出する事は可能だった)。[68]
日本の戦線が後退する1943年以降は、撤退できないで孤立した部隊が自らの戦いを終わらせるため、しばしば「バンザイ突撃」(万歳と叫びながら突撃することから米兵が名付けた)のような決死的な肉弾攻撃を実行した。神風特別攻撃隊や対戦車肉弾攻撃のように作戦そのものが未帰還や自爆を前提としていたものもあり、これらを米軍は「自殺攻撃(Suicide Attack)」と名付けた。また、激戦地となった沖縄県や、満洲などの外地では、軍人のみならず多くの市民が集団自決に追い込まれており、その数は現在でも不明である。
敗戦時や大戦最末期には、軍の上層部の人間から、この責任を取るため自決を選んだ人間が多く出た。有名な「一死以テ大罪ヲ謝シ奉ル」との遺書を残し介錯無しで割腹自決した陸軍大臣阿南惟幾陸軍大将や、「沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」と打電し拳銃自決した大田実海軍中将らが後世に名を残す一方、本来なら責任(自決)を取るべきところ、自決せずに自分だけ生きながらえた花谷正や牟田口廉也、福留繁などが部下や世間からの批判にさらされた。戦陣訓の制定者である東條英機は自決に失敗し、世論の嘲笑を浴びた。また、安達二十三陸軍中将や今村均陸軍大将の様に、戦後連合軍により戦犯に指定され収容所にて服役中に自決、自決未遂した者も多い。その他、太平洋戦争開戦時の海軍大臣だった嶋田繁太郎は「ポツダム宣言を忠実に履行せよとの聖旨に沿う為」自決を見合わせている。
「自殺」という語の歴史
「自殺(英語ではsuicide)」という言葉自体の歴史は比較的浅い。『オックスフォード英語辞典』によると1651年、ウォーター・チャールトンの「自殺によって逃れることの出来ない災難から自己を救うことは罪ではない」という文が初出とされるが、他にも1662年、1635年という説もあり、いずれにしても17世紀からが定説とされる。それ以前には自己を殺す、死を手にする、自分自身を自由にする、などの表現があったが一言でまとまってはいない。このようなブレの起こっていた説明として米国自殺学会のエドウィン・S・シュナイドマン(en:Edwin Shneidman)は「魂と来世という思想を捨て去ることが出来たとき、その時初めて、人間にとって自殺が可能になった」観念の変化が反映していると指摘する[69]。来世や魂の不死といったことを信じたとき、死は単なる終わりではなく別の形で「生き続ける」という存在の形態を移したものに過ぎなくなるからである。近現代へ至る死生観の変化には、科学技術の発展により宗教的思考が説得力を持たなくなったことが背景にある。このように自殺の問題は「死」をどう捉えるかという事と不可分の関係にあり、文化や時代によって様々な様相を呈する。
自殺研究の歴史
自殺に関する文献は古来より数多く認められるが、19世紀中葉より西欧で当時増大をみせていた自殺に対して統計学的手法が適用されるに至り、ようやく自殺の社会的要因をめぐる研究がみられるようになった。なかでも1879年にイタリアのモルセッリが著した『自殺』では、1)ゲルマン型(変種としてドイツ人、スカンディナヴィア人、アングロサクソン人、フラマン人を含む)、2)ケルト-ローマ型(ベルギー人、フランス人、イタリア人、スペイン人)、3)スラヴ型、4)ウラル-アルタイ型(ハンガリー人、フィンランド人、ロシアの若干の地方)といった人種的類型が設定されながらも、性別や年齢、職業、信仰、居住特性、経済状況等の要因が自殺に影響していることが認められている。
とはいえ、エミール・デュルケームの研究が現れるまでは、自殺を身体的、精神的病理の現れとする見方が支配的であった。これに対してデュルケームは、1897年の『自殺論』において、モルセッリやワーグナーの研究成果を参照しながらも、精神病理や人種・遺伝、気候、模倣によっては自殺の現象が完全には説明できないことを統計的に明らかにし、「それぞれの社会は、ある一定数の自殺をひきおこす傾向をそなえている」として、社会ないし集団の条件と結びついて生じる自殺傾向を社会学の研究対象として位置づけた。つまり、一定範囲内の自殺の発生は「正常な」社会現象だというのである。
こうしてデュルケムは、近代社会における(社会的紐帯の弱化による)「自己本位的自殺」、(欲望の際限なき拡大がもたらす苦痛による)「アノミー的自殺」の2タイプを定式化するとともに、伝統的社会における「集団本位的自殺」、極限状況における「宿命的自殺」を析出し、計4類型を設定した。今日でも、たとえば、ソ連崩壊後の東欧における自殺率上昇の要因として、このデュルケムの発想が引き合いに出されることがある。
デュルケームに続き別の面から重要な考察を行ったのはフロイトである。彼は長らく人間の心理を「生の欲動(リビドーまたはエロス)」で説明しようとしたが、晩年近くになり説明できない破壊衝動を見出し、後にそれを「死の欲動(デストルドー、またはタナトス)」と名付けた。彼は生を「生の欲動」と「死の欲動」との闘争、さらには愛憎混じった感情の転移であるなどの思索をしたが、誤りを含んでいるという指摘が強い。しかしながら自殺者の心理剖検に対し一定の貢献があったと臨床の現場では受け止められていることもある[70]。
自殺と文化
宗教と自殺
概要
キリスト教など教義によって自殺が禁じられている宗教においては、自殺は殉教等とは看做されない。イスラームやキリスト教徒の死者が自殺した者の場合、教会での葬儀すら行われない場合もある。
ユダヤ教、キリスト教、イスラーム、すなわちアブラハムの宗教、ならびに儒教では、自殺は宗教的に禁止されている。そのため、欧米やイスラーム諸国では自殺は犯罪と考えられ、自殺者には葬式が行われないなどの社会的な制約が課せられていた。カトリック洗礼を受けていた細川ガラシャは武士の妻として自害すべきだったがこれ故出来ず、家臣に胸を槍で突かせた。かつては、教会の墓地に埋葬することも許されなかった。ドイツの哲学者・ショーペンハウエルは『自殺について』のなかで、キリスト教の聖書の中に自殺を禁止している文言はなく、原理主義的に言えば、自殺を禁じているわけではないため、不当に貶められた自殺者の名誉を回復するべきだと指摘している。
文化によっては自殺に類するものが推奨される場合もある。ヒンドゥー教には、夫が死ねば妻も焼身自殺するという、寡婦殉死(サティー)の風習があった。マヤ文明では、一般に死をつかさどる神「ア・プチ」のほかに絞首台の女神「イシュタム」がいて、自殺者の魂を死後の楽園へ導くとされた。
キリスト教
キリスト教で自殺に対する否定的道徳評価が始まったのは、聖書に基づくものではなく4世紀の聖アウグスティヌスの時代とされる。当時は殉教者が多数にのぼり、信者の死を止めるために何らかの手を打たねばならなくなっていた。また10人に1人死ぬ者を定めるという「デシメーション」と呼ばれる習慣のあったことをアウグスティヌスは問題にした。693年にはトレド会議において自殺者を破門するという宣言がなされ、のちに聖トマス・アクィナスが自殺を生と死を司る神の権限を侵す罪であると述べるに至って、すでに広まっていた罪の観念はほぼ動かし難いものになった[71]。
仏教
仏教では自殺を「じせつ」と読む。死は永遠ではなく輪廻・転生により生とは隔て難いものであるが、これらは死生観を説いたものであり、現代の一般的な自殺の理由にはなりえない。一般的には、殺生は十悪の一つに数え、波羅夷罪(はらいざい)を犯すものであるとして、五戒の1つであるため、自殺もそれに抵触するとして禁じられている。ただし、病気などで死期が近い人が、病に苦しみ自らの存在が僧団の他の比丘(僧侶)に大きな迷惑をかけると自覚して、その結果、自発的に断食などにより死へ向う行為は自殺ではないとされる(『善見律』11など)。また仏や菩薩などが他者のために自らの身体を捨てる行為は、捨身(しゃしん)といい、これは最高の布施であるとして自殺とは捉えない。
したがって、かつての日本で行われた、焼身往生や補陀落渡海など、宗教的な理由から自らの命を絶つ場合や入定ミイラ(即身仏)や行人塚のように人々の幸福のために自ら命を絶つ場合もあったが、この場合は自殺と見られることはなかった。
文化的に推奨される場合には、社会的圧力によって自殺が強要される場合もある。チェコのヤン・パラフや、フランスにおけるイラン人焼身自殺などである。また「抗議の意思を伝える政治的主張のため」とする自殺が行われる場合がある。これは後述の「焼身自殺」の項でも述べる。
イスラム教
イスラームでは、自殺した者は地獄へ行くとされている。その根拠として最も重要なものとされるのはクルアーンの『婦人章』第29・30節である。ここでは「あなたがた自身を、殺し(たり害し)てはならない」と明確な禁止の啓示が下されており、さらに「もし敵意や悪意でこれをする者あれば、やがてわれは、かれらを業火に投げ込むであろう」と続けて、自殺が地獄へと通じる道であることを示している。自爆テロもこの範囲に入るものである。したがって、イスラームの正当な考え方によれば、自分の死(自殺)と共に罪のない一般人を道連れにすることは許されるものではない。イスラームが許す戦争は、あくまでも防衛のためであり、死ぬことや殺すことが目的ではない。守るべきもの(命、財産、信仰)を防衛する段階で、敵によって殺されたら殉教者になる。敵を殺す目的のために、自分を自分の手で殺すことによって殉教者にはなることはできないのである。
現代のイスラム原理主義者による自爆テロにもそのような主張がなされることがあるが、強要・洗脳・煽動・追込み、そして、最も根本的には「同情を向けるための戦術」という面があり、さらには自殺と同時に殺人が行われることになるので、犯罪性が強い。多数派のイスラムの教義解釈によれば、敵の戦闘員に対しての自爆はジハードとして天国に行けるが、民間人に対しての自爆テロは自殺として永遠の滅びの刑罰が与えられるとされている。もちろん、イスラム過激派による米国やイスラエルに対する卑劣なテロ行為は厳しく批判されなければならない。しかしながら、現在のイスラーム諸国においては、様々な経済的な困難を抱えながらも国際的にみて極めて自殺率が低い傾向がある。それゆえ、我が国のイスラーム研究者は、イスラーム世界において自殺率が極めて低い社会文化的背景を研究し、我が国における自殺予防活動のために社会教育などを通して応用しうる可能性はあると思われる。
文学・芸術における自殺
自殺は、文学における重要なテーマの一つであり、主人公の自殺にいたる心理など、物語の終焉や筋の展開のなかで描かれることが少なくない。日本文学では、夏目漱石の『こヽろ』、井上靖『しろばんば』など。また、多くの著名な文学者が自殺を決行している(北村透谷、川上眉山、有島武郎、芥川龍之介、牧野信一、太宰治、田中英光、原民喜、久坂葉子、火野葦平、三島由紀夫、川端康成、田宮虎彦、佐藤泰志、江藤淳、見沢知廉など)。
国外の文学においてはドイツの作家ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』が、自殺を主題とした作品として特に有名である。恋人との失恋に絶望し自殺した主人公を描き、その影響で模倣自殺する人が相次いだため発禁処分に処するところも出た事例がある。→ウェルテル効果
自殺に関する倫理観と社会学的考察
元々「自殺」を否定する倫理観は、「既得権益を持つ者が税金などを取るために生まれた倫理観」と推定されている。実際に、過去の税制などを調査してみると、最初に生まれた税制は「労働者の家族の人数で、税を納める」方式で生まれている(人頭税)。そのため、「どれだけ苦しいストレスを受けようとも生きなければならない」という既得権益者には有利な方式で倫理観として流布されたものであると推定できるからである。
このため後述にもあるように、「資本主義国」よりも「社会主義国」の方が自殺者が多いという結果が生まれている。「中央集権型」の国家体制において、国民の人権を含む全ての物事より「国家指導部」が優先されるため、また言論その他の自由が乏しくストレスが発散しづらいこともあって、厳しいストレスが生じていると推定されている。日本と韓国は資本主義の国だが人口10万人あたりに占める自殺者数の数は上位に位置している。 日本などの場合には、資本主義国家陣営ではあるが、「中央集権型」の「会社組織」の倫理観によるため、会社員の場合には多くのストレスが存在していると推定されている。個人関係よりも組織的なストレスによって人口あたりの自殺率が高いと推定されている。しかしその説明では社会構造の根っこは資本主義を原理としていないことになる。
現在の日本では、「自殺をすることは良くないこと」という考えが一般的な倫理観となっており、そこから「自殺志願者をすべて救おう」とする動きが一般的な理念となっている。しかし、自殺志願者達は既に他人の求めに耳を傾けることができるほどの余裕を持ち合わせていない場合がほとんどである。したがって、自殺防止を呼びかける人々の「生きていれば必ずよいことがある」、「死ぬ気になれば何でもできる」、「残された家族が悲しみ続けるから家族のために生き続けてほしい」などの励ましは多くの自殺志願者にとって気休めになるどころか、かえって当事者を追い詰めがちになるという意見がある[72](鬱病において近年知られてきた「励ますのは逆効果」というのとほぼ同様)。
その一方で、「自殺をすることは良くないこと」との倫理観に基づき、自殺者あるいは自殺志願者を「良くないことをした、あるいはしようとしている人間」として批判するケースも見られる(一般的な例としては「世の中には生きたいと思っても生きられない人間が数えきれない程いるのに、そうではない人間が何故自ら死を選ぶのか」の類が挙げられる)[73]。ただし、このような批判者であっても、敗戦の際の軍人の自決をはじめとして状況によっては自殺者を批判せず、かえって自決しなかった者に対して「責任がありながらのうのうと生きながらえた」という批判の目を向けることがえてして見られる(第二次世界大戦の日本では富永恭次と牟田口廉也など)
自殺の手法
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首吊り
日本において自殺する手法として、男女を問わずもっとも多いのが、首をロープなど紐状のものによって吊り、縊死することによる自殺である[74]。
首吊りで窒息死することはあまりなく、頚部が斜めに自身の体重により圧迫され、大動脈(頸動脈、脊椎動脈)の流れが妨げられて脳に血液が回らなくなり、脳が酸欠(急性貧血)を起こして失神し、死亡することがほとんどである。また、首の骨が折れることもある。首に紐を掛けた直後から脳への血流は悪くなり意識が遠のき、約10秒で意識を失う。意識を失ってから心停止するまでには数分かかるが、意識を失っているので苦痛は少ないといわれている。又、多くの国で死刑の方法として採用されている絞首刑は首に縄をかけるという点では同じであるが、窒息させることではなく頸骨を落下の衝撃で折ることにより死刑囚に死をもたらすことを目的にしている。死刑囚の左耳の下にロープの結び目を置き、体重より割り出した落下距離に基づく長さのロープにより、1400ジュール程度の力が頸骨に加わると確実に折れて死亡するといわれている。
死後、括約筋の弛緩により吊り下げられた体内から重力により地面に体液(糞尿)が流出する。死体は眼球が飛び出し、唾液や糞尿が垂れ流れ、男性は陰茎が勃起した状態で発見される。日本では死刑執行時に医師がこれらの項目を確認する。
未遂の場合、脳が酸欠を起こした時点で脳細胞の破壊が始まっているために、植物状態や認知症、体の麻痺などといった重い後遺症を残してしまう可能性が高い[75]。また、首を吊る際の衝撃で頸椎骨折や延髄損傷などで即死(または即失神)する場合がある。自殺ではないが、日本などで行われる絞首刑「落床式首吊り死刑台」に多く見られ、救出後仮に命をとりとめても、重大な障害が残る。また軽度であっても脊髄液の漏出から激しい頭痛などの後遺症に長く苦しむ。
首を吊る場合、梁や樹木の枝など高いところにロープをかけ、椅子などに足をかけて首を吊る描写が漫画やドラマでは多いが、実際にはそのような首吊り自殺を行う人ばかりではない。樹木のない都心部で、かつ梁のない建築をしている家では、縛ったタオルを階段の手すりやドアノブに輪のようにかけ、もたれかかるように首を吊ることもある。要は大静脈が圧迫されればいいので、必ずしも全体重をかける必要がない。
又、日本における死刑の執行においては、刑務官が階下で揺れ動く死刑囚の体を押さえ、医師が聴診器で心臓の停止を待つ。死亡が確認されるのは十数分後だが、蘇生しないよう、さらに五分間吊るしておく決まりである。
ガス
ガスの有毒成分による中毒死と、無酸素または低酸素のガスを吸入する事で酸欠による意識不明、そのまま吸入し続けることで心肺停止で死亡する窒息死の2種に大別できる。
有毒ガスの場合、屋内の部屋で行うと発見者や救助者、同居人、さらに集合住宅の場合は配管のためのパイプスペースなどから、重いガスは階下の人を、軽いガスは階上の人を、さらに爆発性のものならば近隣の者さえ巻き添えにする極めて危険な方法であり、自分だけでなく無関係の者への殺人の危険性すらある方法である。
練炭を使った練炭自殺と排ガスを車の中に導き込む自殺はどちらも一酸化炭素中毒を利用した自殺方法である。一酸化炭素はヘモグロビンと結合すると酸素の分圧が高くてもヘモグロビンより離脱せず、このため赤血球の酸素運搬能力が低下し(この段階で激しい頭痛に見舞われる)、脳が酸欠を起こして失神し、そのまま死に至る。これらは、酸素とにた構造をもつ気体で起こりうる。一酸化炭素は一定濃度を超せば一瞬で意識を失わせ、15分程度で人を死に至らせる危険なガスであり、それこそ一息吸うだけで意識を失う、したがって救出の場合は先に換気が重要である(演習自衛官集団ガス中毒事件)。ただ、気密性を保つ事や、濃度を直ちに濃くすることは難しいために死に至るまで時間がかかる場合がある[76]。
ただし、一酸化炭素中毒を起こした人の肌はピンク色をしているため、ただ寝ているだけと思われて、自殺と気付かれにくい[77]。
かつては、家庭用ガスとして一酸化炭素を多く含む石炭ガスが使われていたので、ガス管をくわえたり部屋にガスを充満させて自殺をした人もいた(川端康成等)。産業用は別にして、現在の家庭用ガスは9割以上が毒性の無いプロパンガスか、一酸化炭素を除去した都市ガス13A(メタン70wt%~80 wt%. )になっているので、この方法で中毒を起こすことはない。もちろん毒性のないガスでも窒息死することはあるが、そのためには気密性の高い空間が必要であり、ガス漏れ等の事故で中にいた人が窒息死することはあっても、自殺の手段としては手間の掛かる方法のため、使われることは少ない。家庭用ガスで自殺を図り引火、爆発事故を起こし、ガス漏出等罪で有罪判決を受けた例もある[78]。
その他のガス自殺についてはシンナーなど揮発性の高い薬品を容器に入れ、容器と一緒に布団をかぶり窒息死した例(完全自殺マニュアル)、ヘリウムガスを使用した安楽死(Final Exit)、塩素系の洗剤など家庭用品を混ぜた際に発生する塩素ガスや硫化水素等の有毒ガスを吸って中毒死する方法などがある。
尚、有毒ガスによる自殺は周辺住民や救助者にも被害を及ぼす可能性がある。
これらの自殺方法は、首吊りと同じく、長時間の酸欠によって脳細胞が破壊されるために、未遂時、有毒ガスの場合は呼吸器、皮膚等も含め、植物状態や認知症、体の麻痺や感覚異常などの重篤な後遺症を残す可能性が高い[79]。[80]
飛び降り
ビルや崖、滝などの上から飛び降りることにより、自由落下によって重力で自らの体を加速させ、地面などに激突する衝撃で肉体を破壊し、自殺を試みる方法。投身自殺とも言われる。
大量服薬・服毒
精神疾患などの治療を受けている人が、処方された薬を大量服薬して自殺を図ることがある。その際、大量のアルコール飲料を併用していることもある。家族や友人が薬を服用しており(特に三環系抗うつ薬など)、かつ自殺願望やうつ症状を持っていたり、リストカットなどの自傷行為を頻繁に行ったりするような状況の場合、注意が必要である。大量服薬をした場合、服用後の経過時間が比較的短い場合は、胃洗浄を行うのが一般的であるが、服薬量や経過時間、意識状態などによっては胃洗浄を行わないこともある。発見・処置が早ければ後遺症が残らないことも多いが、気道閉塞を伴っていた場合などは死に至ることもある。その他、誤嚥性肺炎、低体温症、肝障害、腎障害、長時間筋を圧迫することによる挫滅症候群などの合併症が生じることもある。
農薬や洗剤などの化学物質、毒物を飲むことで自殺を試みる場合もある。飲んだ物質により死亡する可能性は様々であり、対処法、後遺症も違う。一般に吐かせることが有効だと言われるが、飲んだものが石油系製品や強酸・強アルカリ性の物質の場合、吐かせるのは禁忌である。強酸・強アルカリ性の物質を飲んだ場合は、飲んだ時点で食道や胃の細胞が破壊されていることが多く、消化器官に後遺症が残る場合がある。有名な毒物としては青酸カリがあり、近衛文麿、橋田邦彦、山崎晃嗣等が用いた。
入水
入水は海や川などに身を投げ、窒息死を試みる自殺方法。水中で水が気管に入ると咳こみ、それがさらに大量の水を肺の中にいれ、肺によるガス交換を妨げ、血液中の酸素を低下させることで脳への酸素を断つことにより死亡に至る。したがって肺の中を水で満たされると水死する。
古くからある方法の1つである。古代ギリシアの女性詩人サッポーも失恋の末に海へ入水したという説がある。
息を止めるようなことはせず、冷たい水の中に入ることで体温を奪われることにより自殺することもあるが、それは「低温」の項で後述する。
未遂に終わった場合、心停止15分以内に処置ができなければ他の酸欠による自殺と同様、生き残ってもアダムス・ストークス症候群により脳や神経に重い障害が残る可能性が高い。
冬の川や湖など水温の極端に低いところで入水した場合、低体温症により死亡するまでの時間が延びて、他の人に救助される可能性も高くなる。条件がよければ数時間の仮死状態の後殆ど脳にダメージを受けることなく蘇生することもある。ただこのような場合は寒さにより、入水した直後ショック死をすることもあり、一概に言えるものではない。
また、滝の上のような高い場所から飛び降り、入水する事で自殺しようとする場合もあり、栃木県日光市の華厳の滝で藤村操が滝つぼへ飛び込み、自殺した、という事件で、華厳の滝が「自殺の名所」として有名になった事がある。
艦船が沈没する際に艦長船長が船と運命をともにするという事がある(船員法の「船長の最後退船の義務」が拡大解釈されたもの)。氷山と衝突したタイタニック号の例が有名。かつてイギリス海軍やその伝統を受け継いだ旧日本帝国海軍でも広く行われた[81]。
文豪・太宰治が愛人と玉川上水にて自殺を遂げた方法としても有名である。
低温
低温によって体温が奪われ、凍死による自殺を試みる方法。原理は雪山で遭難した人が、寒さにより凍死するのと同じである。
始めた直後の低温による苦痛は避けられないが、それ以降は頭がぼーっとして感覚がなくなり、寒さは感じず眠くなってくるという。そしてその場で眠りに入り、寒さで凍死する。これは、一命を取り留めた遭難者の証言からも裏付けられている事実である。
入水も低温自殺の手段となる。冬の夜に公園の噴水に膝を曲げて入り、朝になって死体で発見された例もある。このときは噴水の水深がごく浅かったことや、窒息死した際に出る体の特徴がなかった代わりに遭難して死亡した人の特徴によく似ていたことから、低温が原因で死に至ったと結論付けられた。
飛び込み
車や鉄道などへの飛び込みによって自殺を行う飛び込み自殺は、死体の肉片や血液が周囲に飛び散るために周囲へ与える影響や印象も大きく、自殺後の死体は悲惨なものとなる(高速で走行する新幹線の場合は更に凄惨で、瞬時に跡形も無く粉砕される。臓器や肉片が衝突場所から2〜5kmにわたって散乱する)[82]。未遂に終わった場合でも、試みた時点で四肢が切断されていたり、切断されなくとも大怪我を負っていることがほとんどなので、残りの人生を寝たきりの状態や車椅子などに頼って生きなければならないことが多い。また踏切から飛び込むことも多く、この場合は、列車が近付いていればいるほど、防ぐのが難しくなる。通勤・通学途中や帰宅途中の駅で飛び込み自殺に及ぶことが多く、割合が高いのは、男性のサラリーマン[82]である。
仮面うつ病などにより、本人の意思とは無関係に飛び込んでしまうというパターンも多い。
刃物による失血死
刃物による失血死を試みるケースも少なくない。これはリストカット等の自傷行為を行っている人が少なくないことに由来する。失血死を試みる人、自傷による失血死をした人には実際に自傷行為経験者が多い。
静脈を切断した場合は、切ってから死に至るまでの時間が長いので、その間に誰かに見つかって未遂に終わることが多い。また、自殺する際の苦痛も大きい。ただし、心臓や動脈を切った場合は、出血性ショックにより死亡する可能性がある。なお、後述するが、死ぬのが目的ではなく自傷行為そのものが目的であったとしても、出血がひどくて失血死をしてしまう場合もある。
切ったのが静脈の場合、発見・対処が早ければ後遺症が残ることは稀である。切ったのが動脈の場合は、一刻も早く止血する必要がある。健康な成人の場合、体内から半分の血液が失われると死亡すると言われている[83]。ただし失った血液量にかかわらず、傷口が深い場合は神経が破損している場合や、そうでなくても切った傷跡が何年も残る。解剖学に通じてない者の場合、頚動脈を切ろうとして頚静脈を切ってしまう例があることが上記渡辺淳一『自殺のすすめ』に記載されている。
発見した場合は、腕を切っているのならば、脇をベルトやネクタイなどで止血する。腹などの場合は圧迫して止血し、止血した時間を救急に知らせる。なお自殺にかかわらず事故・事件の場合も含め、頭部や腹部に刃物などが刺さっている場合に無理に抜くと、かえって傷口を広げる場合も多く、刃物が傷口の「栓」の役割も兼ねている場合は抜く事で失血死する可能性が高まるので抜かない。発見した場合は一刻も早く救急に連絡し、体温低下によって体力が消耗するのを防ぐために毛布などをかけて体温を保つ。無理に揺り動かすのは傷口が広がる可能性があるために良くない。針と糸で動脈などの傷口を縫合できれば生存率は上がる。
特徴的な自刃自殺として武士がその名誉を守るために行っていた切腹があげられる。
焼身自殺
自らの体にガソリンや灯油などの燃料をかけ、それに火をつけて行う自殺である。かつては油のしみこんだ蓑に火をつけて殺すなどの拷問的な火刑の一つに採用された方法である。燃えるのは主に気化した燃料である。燃料は体温で気化し、引火後は燃焼で気化し燃焼を続け体を焼く。液体の燃料を体にかけると、厳冬期でも体の体温で気化し引火性のガスが被覆の間に充満し、僅かな火気や静電気に対しても非常に危険な状態になる。灯油などの着火点の低い燃料も体温による気化ガスが発生するので床に流れた灯油とは比較にならない引火性をもつ。ここで点火もしくは引火し着火すれば、一瞬で全身が火だるまになる。燃料がごく少量でも化繊の被覆ならばとけて燃え燃料とともに体を損傷する。肌を濡らすほどの燃料に引火すると、仮に消火に成功しても大きな障害がのこる。燃焼中も自らの皮膚が白く変色し硬化し激痛を感じる。広範囲な熱傷、気道熱傷を伴い死にいたることも多いが、即死に至る場合は少なく、死に至るまでの期間も比較的長いことが多く、呼吸不全、全身の火傷による激痛により苦痛は長く激しい。また、救命される例も多いが、急性期には集中治療を要し、その後も何度にもわたる激痛を伴う植皮手術を行う必要があり、その治療には長期を要する。回復後も四肢機能の低下や美容的問題などの後遺症を残すことが多い。
感電
自分の身体を感電させることによって自殺する方法。完全自殺マニュアルによれば1995年の日本の統計では感電自殺者の95%が男性という極端に性差の激しい手段として紹介されている。手段としては湯船に水をいれ自身も入った後に感電物を入れる、電源コードの銅線を剥きだしにして体に貼り付けて電源を入れるなどがある。いずれの場合も発見者、救助者の感電の危険性がある。
銃による自殺
日本では銃は銃刀法によって厳しく取り締まりが行われているため、銃による自殺は極めて少なく、拳銃自殺にいたってはほとんどが警察官や自衛官、暴力団である。それに対して銃の所持に寛容な国では銃による自殺が多い[84]。中でもアメリカは自殺手段の半分以上を銃が占める[85]。銃自体も100ドル程度から手に入り、弾丸も1 発20セントから買える[86]。また、自衛の意識が強く、狩りが盛んなため、多くの家庭に銃があり、スーパー等で手軽に弾薬も購入できる。アメリカ以外では、カナダ[87]、オーストラリア[88]などの国々も、銃による自殺が多い。
銃で頭を撃ちぬいても脳幹の機能を破壊できないと死亡に至らない。映画等でよく描写される拳銃自殺にこめかみに銃口を当てて引き金を引くという方法があるが、発射の反動や引き金の固さ(大型リボルバー等は撃鉄をあげても引き金はかたく、射撃も両手で行う)によって銃口が動き弾道が逸れ失明しても生存する場合がある[89]。このため、1974年、生放送中に自殺したクリスティーン・チュバックは自殺前に取材した保安官からアドバイスを受け、こめかみより後の右耳の裏から脳幹を撃ち抜いた。
より確実な方法として脳幹を狙える口に銃口をくわえて発射する方法を取る場合が古くからある。1978年に自殺した田宮二郎や、1987年会見中に自殺したバド・ドワイヤー、1993年に、クリントンアメリカ大統領次席法律顧問のヴィンセント・フォスターや、1945年8月15日古賀秀正近衛第一師団参謀が割腹した時、とどめに口中を撃っている。2007年6月に島根県出雲市の出雲署内で、25歳の女性巡査長が拳銃で口から頭を撃つ等多数例がある。
専用機器による自殺
アメリカの病理学者、ジャック・ケヴォーキアンが製作した自殺装置によって自殺した人もいる。この自殺装置は3本のボトルとそれぞれの流れを調整するタイマーからできており、ボトルにはそれぞれ生理食塩水、麻酔薬(ペントソール)、塩化カリウム水溶液が入っている。まず点滴のように静脈に針を刺し、食塩水を流す。次に自殺志願者がボタンを押すと、食塩水が麻酔薬に変わり、志願者は眠りに入る。さらに数十秒後、麻酔薬から塩化カリウム水溶液に変わり、死亡するというものである。ただし、これは不治の病気などに悩む人がなるべく苦しまずに死ねるようにと作られた尊厳死のための装置として作られた。尊厳死を認めるか否かは別として、使う本人を死に至らしめると言う点から単純に「自殺装置」と呼ばれる。
その他の手段
- 入定(即身仏)は食を断つことで意図的に栄養失調の状態に陥り餓死することである。死亡そのものを目的としたものではないが現在自殺とみなされ各宗教団体で禁止されている。
- クレオパトラのコブラによる自殺説など動物を利用した自殺の例がある。
脚注
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 警察庁:平成21年中における自殺の概要資料
- ^ a b c 厚生労働省:平成18年 人口動態統計(確定数)の概況</
- ^ a b 警察庁交通局交通企画課「平成21年中の交通事故死者数について」
- ^ a b 自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議(2005年7月19日 参議院厚生労働委員会)
- ^ a b c d e f g h i j k 自殺対策支援センター ライフリンク 「自殺実態白書2008」第四章
- ^ a b c d e 自殺対策支援センター ライフリンク 「自殺実態白書2008」第三章
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 内閣府経済社会総合研究所「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」報告書本文1、p19
- ^ a b 参考資料:警察庁発表 自殺者数の統計
- ^ a b c d 厚生労働省 自殺死亡統計の概況 (9.職業・産業別にみた自殺(平成12年度人口動態職業・産業別統計))
- ^ a b c d e f g h 厚生労働省 自殺・うつ病対策プロジェクトチーム「誰もが安心して生きられる、温かい社会作りを目指して」
- ^ a b c d 自殺対策支援センター ライフリンク 「自殺実態白書2008」第二章
- ^ a b 図録▽都道府県の自殺率
- ^ a b 自殺実態白書 第三章 p10
- ^ a b 厚生労働省 自殺死亡統計の概況 10.平成6年~平成15年の状況 (2)手段別にみた自殺
- ^ a b c d [自殺対策白書 11 場所別の自殺の状況](内閣府政策統括官共生社会政策担当)
- ^ a b 山陰中央新報
- ^ Unless otherwise stated all statistics are from WHO: “Country reports and charts available”. WHO website - Mental health. World Health Organization (2009年). 2010年6月1日閲覧。
- ^ 内閣府経済社会総合研究所「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」報告書本文1、p15
- ^ 厚生労働省 平成15年 人口動態統計月報年計(概数)の概況 死因順位(1~5位)別死亡数・死亡率(人口10万対),性・年齢(5歳階級)別
- ^ a b c d e 内閣府経済社会総合研究所 「自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書」
- ^ 平成22年の月別の自殺者数について
- ^ [1]
- ^ 「脳と性と能力」カトリーヌ・ヴィダル、ドロテ・ブノワ=ブロウエズ(集英社新書)
- ^ a b 厚生労働省 自殺死亡統計の概況 6.配偶関係別にみた自殺
- ^ a b 平成21年版 自殺対策白書 13 同居人・配偶関係別の自殺の状況(内閣府政策統括官共生社会政策担当)
- ^ a b c d e f g 内閣府政策統括官共生社会政策担当自殺対策に関する意識調査
- ^ a b c d 図録▽世界各国の男女別自殺率
- ^ a b c d e f 自殺対策支援センター ライフリンク 「自殺実態白書2008」第一章
- ^ 305人中、相談の有無が不明だった23人を除いたうちの72%
- ^ a b c 厚生労働省 自殺死亡統計の概況 死亡曜日・時間別にみた自殺
- ^ 文部科学省の「生徒指導上の諸問題の現状について」
- ^ 図録▽都道府県別生活保護率
- ^ 新潟県ホームページ内『平成19年人口動態統計(概数)の概況を公表します!』
- ^ 秋田県作成「自殺予防マニュアル」より
- ^ a b c [自殺対策白書 9 都道府県別の自殺の状況](内閣府政策統括官共生社会政策担当)
- ^ a b c [自殺対策白書 9 都道府県別の自殺の状況](内閣府政策統括官共生社会政策担当)
- ^ 詳細は「変死の原因の約半分は自殺」(自殺予防に関する調査結果報告書 104ページ目)を参照。
- ^ 財団法人国際医学情報センター 10~19歳の人々における自殺の方法
- ^ 中国の自殺者、毎年25万人 死因の第5位に
- ^ a b 『自殺する女性15万人、家庭内暴力が原因』2006年11月28日 中国情報局サーチナ
- ^ a b c 「2分に1人が自殺、原因トップは「夫の不倫」」『Record China』2008年9月10日付配信
- ^ 急増する20代女性の自殺、同世代男性を上回る…なぜ? - ハンギョレ新聞(韓国語) 2009年8月21日
- ^ NZニュース 自殺者数が減少する一方で自殺未遂件数は増加
- ^ [2]中日新聞2009年10月16日の記事
- ^ 自殺者が年間3万人を超えた際、時の首相・小泉純一郎は「悲観することはない。頑張って欲しい」とコメントしたのみであった(2004年7月23日)。 また、ある政治家は自殺問題よりも高速道路料金引下げの方が有権者に喜ばれる政策だとも発言した。更に内閣府と厚生労働省のある幹部は男性の自殺対策より男性の育児休暇の取得に全力で取り組むべきだと発言した(中日新聞2010年5月16日記事)
- ^ [3]
- ^ E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』59項、1993年
- ^ 健康保険法、第4章第6節第116条による。
- ^ a b 雨宮処凛(2002)『自殺のコスト』太田出版
- ^ 自殺未遂の長男殺害、67歳母に猶予判決 東京地裁「同情余地多い」毎日新聞、2010年4月23日
- ^ 現在では、そこから発展する形での殺人請負や闇の職業安定所事件など、複雑かつ巧妙な犯罪寸前のサイトなどがあり問題を複雑にしている。
- ^ AFSP: For the Media: Recommendations AFSP(American Foundation for Suicide Prevention)
- ^ 『[日経サイエンス]』(2003年5月号)「特集 自殺は防げる」
- ^ 『学術の動向』(2008年3月号)特集1◆わが国の自殺の現状と対策「海外における自殺対策の取り組みとエビデンスPDF」山田光彦
- ^ 朝日新聞「JR環状線で人身事故、6万人に影響」2010年8月6日閲覧
- ^ a b J-CASTニュース「人身事故という名の「電車飛び込み自殺」 「遺族に1億円請求」は都市伝説か」 2010年8月6日閲覧。
- ^ 「鉄道噂の真相―現役鉄道員が明かす鉄道のタブー」(彩図社)、以下より重引:J-CASTニュース「人身事故という名の「電車飛び込み自殺」 「遺族に1億円請求」は都市伝説か」 2010年8月6日閲覧。
- ^ 「自衛官の自殺 後絶たず 他省庁公務員の二倍 防衛省、ケアに苦慮」日経新聞2008年4月16日付夕刊
- ^ 中国ニュース通信社
- ^ 例えば次を参照。 “ザワヒリ容疑者「殉教作戦800件」ビデオ声明で成果 - YOMIURI ONLINE”. 14 March 2009閲覧。
- ^ 「反日デモ抗議 大阪の中国総領事館前で焼身自殺図る?」(エキサイトニュース)
- ^ レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのアルバム画像
- ^ 水谷修「夜回り先生」
- ^ E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』誠信書房、1993年
- ^ “自害”に関して、欧米では「日本の女性の自殺文化」という誤解が生じているようである[疑問点 ]エラー: タグの貼り付け年月を「date=yyyy年m月」形式で記入してください。間違えて「date=」を「data=」等と記入していないかも確認してください。。
- ^ 図録▽主要国の自殺率長期推移(1901~)
- ^ 樋口清之著 『樋口博士のおもしろ雑学日本「意外」史』 三笠書房1989年 P218~219より
- ^ しかし、あくまでこれらは遠隔地や敵地上空に於いてのやむを得ない場合であり、内地での日本本土防空戦時は勿論、外地でも自軍占領地に近い場所での墜落時は、何とか帰還するようにと推奨されていた。未帰還時には僚機の報告を元に捜索隊が派遣されたり、操縦者が原住民とコンタクトを取り、飛行場まで案内を頼むといった事は決して珍しい事ではなかった。
- ^ E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』白井徳満・白井幸子訳、誠信書房、1993年、12~23項
- ^ この臨床例は、熊倉伸宏『死の欲動―臨床人間学ノート』新興医学出版社、2000年 ISBN 4-88002-423-6 などに詳しい。
- ^ E・S・シュナイドマン『自殺とは何か』誠信書房、1993年、44, 45項
- ^ 「鬱病患者」との接し方、「夜回り先生」などで指摘されていることである。大抵の自殺予備軍と呼ばれる人は、軽い鬱から重度の鬱への移行期にある。
- ^ これらの意見の場合には、宗教的な倫理観に基づくものが多い。しかしながら、「親より先に死ぬな」など、慣習上として存在しているとする指摘もある
- ^ 厚生労働省 統計 手段別にみた自殺
- ^ 鶴見済 完全自殺マニュアル 太田出版 1993年 56-69頁
- ^ 久留米大学医学部サイトなどを参照。
- ^ 過去の炭鉱内などにおける中毒事故などが参照例であると推定されている。また、冬季などにおける一酸化炭素中毒事故などにおいて遺書などが確認されていない例などが根拠にあると推定できる。
- ^ 一例として、大阪地裁昭和58年2月8日判決 判例タイムズ504号190頁
- ^ 上述の久留米大学医学部のサイト内を参照。
- ^ 一酸化炭素#一酸化炭素中毒より
- ^ 月刊丸2007年4月号
- ^ a b 完全自殺マニュアル(ISBN 978-4-87233-126-4)より)
- ^ ラボ・データ研究所/Q&A/005 血液の量は?
- ^ メルクマニュアル家庭版,102章 自殺行動
- ^ Suicide Statistics米自殺統計
- ^ http://www.thegunsource.com/store/
- ^ SuicideDeathsAndAttempts(自殺とその試み)
- ^ Suicides, Australia, 2005(オーストラリア統計局)
- ^ Repassez des Cercueils H. Werner
参考文献
- 文藝春秋/倉嶋 厚 「やまない雨はない―妻の死、うつ病、それから… 」 2004/02/01 ISBN:9784167656966
関連項目
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外部リンク
自殺関連の白書・統計
- 警察庁 生活安全局
- 厚生労働省 自殺死亡統計の概況
- 内閣府経済社会総合研究所 自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書
- 自殺対策白書(内閣府政策統括官共生社会政策担当)
- 自殺実態白書2008(top.html NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク )
- Honkawa Data Tribute 社会実情データ図録
- 世界の自殺統計WHOのデータによる。
- 主要国の自殺率の長期推移
- 年齢別自殺率(男子)の長期推移と日米比較
その他
- いきる 自殺予防総合対策センター国立精神・神経医療研究センター内ホームページ
- 東京自殺防止センター & 国際ビフレンダーズ•大阪自殺防止センター
- 【無料電話相談】いのちの電話連盟
- NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク & ライフリンクDB
- 内閣府 共生社会政策統括官 自殺対策ホームページ
- 厚生労働省 「こころの耳」 心の健康確保と自殺や過労死などの予防
- 自殺の予兆(PDFファイル) - 安全衛生情報センター
- Suicide - スタンフォード哲学百科事典「自殺」の項目。