さわ餅
さわ餅(さわもち)は、三重県の南勢志摩地方で生産される餅を使った郷土菓子[1]。正方形の餅で小豆餡をくるんだものである[2][3]。志摩市磯部町が発祥の地であるとされる[2][3][4][5][6]が、松阪市でも多くの和菓子店で商品として取り扱っている[6][7]。
由来
[編集]志摩市磯部町上之郷にある伊雑宮では毎年6月24日に御田植祭を催行している[8]。祭りの中で、男達が田で泥だらけになりながら忌竹(いみだけ)を奪い合う「竹取神事」と呼ばれる神事が行われ、志摩地方にはその竹を持ち帰り漁業繁盛の守り神とする風習がある[4][8][9]。この神事とのかかわりの中で天保年間(1830年 - 1844年)頃にさわ餅が生まれたとされており[3][8]、次の2つの説が挙げられている[8]。なお志摩市磯部町恵利原に伝わる恵利原早餅つきも同じ頃に始まったとされる[10]。
一方松阪市には、沢の水で手返しをして作った餅であるから「さわ餅」となったという別の説も伝わっている[2][12]。
製法と生産店舗
[編集]さわ餅の生産・販売を手掛ける和菓子店は志摩市[3][4][14]・伊勢市[12]・松阪市にある[1][6]が、地域による製法の違いはない[7]。ついた餅を薄く延ばし、正方形に形を整え、小豆餡を載せて2つ折りにするというシンプルな製法である[5][7][11]。2つ折りにすると竹に似た長細い形になる[3]。土台となる餅は白餅とよもぎ餅の2種類ある[2][3][6][11][12]。餅に挟む小豆餡は、志摩ではこしあんを使う[3]が、松阪では粒あんを使う[15]。ほんのりと塩味のする甘さ控えめの餅である[3][4][11][12]。
松阪市には多くのさわ餅生産店舗があり[1]、「餅を食べる」と言うとさわ餅を指すほどに広く定着している[6]。特に文政2年(1819年)創業の「伊賀屋」[1][6]と天保元年(1830年)創業の「福徳餅」(本店は西町)が代表的な店舗であった[1]が、伊賀屋は閉店した。福徳餅本舗(湊町)はさわ餅以外にも福徳餅やぜんざい、赤飯なども扱うが[16]、福徳餅本店(西町)ではぜんざいは扱っておらず、さわ餅の他に福徳餅、ごま塩大福、あんころ餅、赤飯などを販売する。
一方、発祥の地とされる志摩市磯部町で生産する店舗は「餅喜商店」と「竹内餅店」の2軒のみである[3][4][14]。この2店舗で使う小豆餡は北海道産の大納言という品種のアズキを原料とし[3]、餅つきは機械を使わず杵で搗く[4][14]。餅喜商店は店頭販売のみである[4]が、竹内餅店では伊勢志摩のスーパーマーケットなどにも卸している[14]。このため、2013年(平成25年)9月8日に日本テレビ系列で放送された『ザ!鉄腕!DASH!!』の企画「0円食堂」では、道の駅伊勢志摩でさわ餅を発見した城島茂が竹内餅店を訪問し、さわ餅の切れ端をゲットした[13][17]。
伊勢市では、へんば餅を生産する「へんばや商店」[12]やマスヤの関連企業「和菓子の万寿や」[18]などがさわ餅の生産も行っている[12][18]。市内の観光地「おかげ横丁」でも取扱店が数軒ある[19]。へんばや商店では、さわ餅にへんば餅と同じ餡を使用する[20]。和菓子の万寿やでは、こしあんを赤福から仕入れていたため、同社の偽装事件が発覚した際に、売れ残りの赤福餅から取った餡(社内で「むきあん」と呼称)をさわ餅に使っていたことが判明した[21]。
文化
[編集]生産店舗のある松阪[22]・伊勢[19][23]・志摩[24]のそれぞれで地域の名物として認識されている[19][22][23][24]。松阪では地元企業のクラギが、毎年敬老の日頃にさわ餅を松阪市社会福祉協議会に寄贈しており、市内の老人ホームなどに配られている[25]。志摩では天の岩戸(恵利原の水穴)での花見茶会[24]や伊勢志摩サイクリングフェスティバル[26]、鳴海製陶の子会社・三重ナルミの特別アウトレットセール[27]などの地域のイベントで名物として振る舞われることがある[24][26]。2015年(平成27年)12月にサークルKサンクスが伊勢志摩サミット応援商品として伊賀地方を除く三重県全域と和歌山県の一部店舗でさわ餅を販売した際には「伊勢のさわ餅」の商品名で販売され、伊勢名物として扱われた[23]。
脚注
[編集]- ^ a b c d e 亀井 2016, p. 187.
- ^ a b c d 亀井 2016, p. 185.
- ^ a b c d e f g h i j k “さわもち”. 伊勢志摩きらり千選. 伊勢志摩きらり千選実行グループ. 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “磯部町の名物『さわ餅』を製造販売!『餅喜商店』”. ゲンキ3ネット (2015年12月27日). 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b “餅喜商店”. 伊勢志摩観光ナビ. 伊勢志摩観光コンベンション機構. 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b c d e f g “絶品!さわ餅”. ヒーリングツアー (2011年4月30日). 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b c 亀井 2016, p. 185, 187.
- ^ a b c d e f 亀井 2016, p. 184.
- ^ 磯部郷土史刊行会 編 1963, p. 92.
- ^ “恵利原早餅搗”. 伊勢志摩きらり千選. 伊勢志摩きらり千選実行グループ. 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b c d “五感で堪能する伊勢志摩”. 伊勢市観光協会. 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b c d e f g h “さわ餅”. 名物 へんば餅. へんばや商店. 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b “9月8日の放送内容 DASH 0円食堂〜三重県〜”. 日本テレビ放送網 (2013年9月8日). 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b c d “伊雑宮の神事にちなんだ『さわ餅』を製造販売『竹内餅店』”. ゲンキ3ネット (2016年1月4日). 2018年3月5日閲覧。
- ^ “「さわ餅」に関連する情報”. 価格.com. 2018年3月5日閲覧。
- ^ “福徳餅”. 松阪市観光協会. 2018年3月5日閲覧。
- ^ “「さわ餅」に関連する情報-2-”. 価格.com. 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b “株式会社和菓子の万寿や”. 2018年3月5日閲覧。
- ^ a b c “新登場!伊勢志摩の伝統の味「横丁さわ餅」”. 伊勢内宮前おかげ横丁. 伊勢福 (2016年7月10日). 2018年3月5日閲覧。
- ^ “小俣・宮川周辺エリア”. 伊勢市. 2018年3月5日閲覧。
- ^ "赤福 不信と失望拡大 消費者「余り物とは」憤り 営業禁止、社長苦い表情 ミートホープと同じレベル 小売店側 厳しい声"朝日新聞2007年10月19日付夕刊、名古屋版社会面9ページ
- ^ a b 由本昌敏「観音小路の職人魂 城のあるまちで 松阪有情」朝日新聞2000年12月2日付朝刊、三重版26ページ
- ^ a b c 「コンビニ大手が応援商品販売へ」朝日新聞2015年12月12日付朝刊、三重版35ページ
- ^ a b c d "「天の岩戸」 名水で茶会 志摩、来月1日"朝日新聞2007年3月28日付朝刊、三重版26ページ
- ^ “敬老の日前にさわ餅を寄贈 クラギから松阪市社協へ”. 伊勢新聞 (2017年9月14日). 2018年3月6日閲覧。
- ^ a b “第2回伊勢志摩サイクリングフェスティバルが開催されました!”. 志摩スポーツコミッション (2015年12月5日). 2018年3月5日閲覧。
- ^ “志摩市のナルミ直営工場で5時間限りのセール 直営店店長も二度見する値段”. 伊勢志摩経済新聞 (2016年11月24日). 2018年3月6日閲覧。
参考文献
[編集]- 亀井千歩子『47都道府県和菓子/郷土菓子百科』丸善出版、2016年1月25日。ISBN 978-4-621-08975-0。
- 磯部郷土史刊行会 編 編『磯部郷土史』磯部郷土史刊行会、1963年5月10日、506p頁。TRCMARC:99208231